説明

クロストリジウム毒素のためのFRETプロテアーゼアッセイ

【課題】全ての血清型のボツリヌス毒素および破傷風毒素を含むいずれのクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性をアッセイするのにも有用な、クロストリジウム毒素基質を提供する。
【解決手段】ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、ここで該切断部位はドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で共鳴エネルギー転移が見られる、クロストリジウム毒素基質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
(発明の分野)
本発明は、一般的には蛍光共鳴エネルギー転移およびプロテアーゼアッセイ、例えばボツリヌス毒素および破傷風毒素のようなクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性のアッセイに関し、より具体的には、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性をアッセイするための分子間でクエンチングされた基質および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景技術)
破傷風、およびまれではあるが致死的な疾患となる可能性のなるボツリヌス中毒症の神経麻痺症候群は、クロストリジウム属の細菌によって産生される神経毒素により引き起こされる。これらのクロストリジウム神経毒素は、神経細胞に対し非常に強くまた特異的な毒であり、ボツリヌス毒素のヒト致死量はマイクログラムのオーダーである。従って、飲食物に存在するボツリヌス毒素が微量であっても公衆衛生を害し、それは厳しい試験を通して回避されなければならない。
【0003】
しかしながら、それらの潜在的に有害な作用にも関わらず、低用量に制御されたボツリヌス神経毒素は治療薬として使用され成功を収めている。これらの毒素は、様々な局所または分節的失調、斜視、およびコリン作動性神経終末活性の可逆的抑制が望まれる他の症状の治療管理に使用されている。ヒトにおけるボツリヌス神経毒素の確立された治療的使用には、例えば、眼瞼痙攣、半側顔面痙攣、喉頭発生障害、局所多汗症、流涎、口顎ジストニア、頚部ジストニア、斜頚、斜視、肢ジストニア、職業性痙攣およ筋波動症が含まれる(Rossetto et al, Toxicon 39:27-41 (2001))。例えば、少量のBoNT/Aの痙攣組織への筋肉内注射は、脳障害、脊髄障害、脳卒中、多発性硬化症および脳性麻痺による痙縮の処置に効果的に用いられる。クロストリジウム毒素のさらなる可能性ある臨床学的使用は、今でも調査されている。
【0004】
食料品中の少量のボツリヌス毒素に関する潜在的危険性および的確な医薬製剤を調製する必要性がある場合、現在食品および医薬品業界の両方においてボツリヌス神経毒素についてのアッセイが用いられている。食品業界では、新しい食品包装方法の有効性を確認し、食品の安全性を保証するために、ボツリヌス神経毒素に対するアッセイが要求される。ボツリヌス毒素の臨床上の用途は増加しており、医薬品調製および品質管理のためのボツリヌス神経毒素活性に対する的確なアッセイが必要とされる。両業界において、現在マウス致死性試験がボツリヌス毒素活性をアッセイするのに使用されている。残念なことに、このアッセイにはいくつかの欠点がある:多数の実験動物が必要とされることによる費用;特異性の欠如;および大きな動物集団を使用しない場合に不正確なアッセイとなる可能性。
【0005】
従って、クロストリジウム毒素活性をアッセイするための新規な材料および方法が必要とされる。本発明は、この要求を満たし、その上関連する利点を提供する。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、全ての血清型のボツリヌス毒素および破傷風毒素を含むいずれのクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性をアッセイするのにも有用な、クロストリジウム毒素基質を提供する。本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られる。このようなクロストリジウム毒素基質は、例えばボツリヌス毒素認識配列を含むことができる。ある態様においては、本発明のクロストリジウム毒素基質には、B血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)認識配列でない、ボツリヌス毒素認識配列を含む。
【0007】
本発明はまた、(a)ドナー・フルオロフォア、(b)ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および、(c)切断部位を含むBoNT/AまたはBoNT/E認識配列を含むA/E血清型ボツリヌス(BoNT/A/E)基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/A/E基質を提供する。そのようなA/E血清型ボツリヌス基質はまた、BoNT/AおよびBoNT/E毒素の両方によって切断されやすい場合もある。
【0008】
本発明はさらに、例えば、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むA血清型ボツリヌス毒素(BoNT/A)認識配列を含むBoNT/A基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/A基質を提供する。本発明のBoNT/A基質は、例えばSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってGln−Argを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。これら、および本明細書に記載される他のアミノ酸配列において、配列はN末端からC末端への方向で記載されていると理解される。本発明のBoNT/A基質はまた、例えばヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってGln197−Arg198を含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。ある態様においては、本発明のBoNT/A基質は、アミノ酸配列Glu−Ala−Asn−Gln−Arg−Ala−Thr−Lys (配列番号:1)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/A基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基187−203、またはその模擬ペプチドを含む。本発明のBoNT/A基質においては様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが有用であり、それにはフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。
【0009】
本発明によってさらに提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むB血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)認識配列を含むBoNT/B基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/B基質である。本発明のBoNT/B基質は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。例えば、本発明のBoNT/B基質は、ヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基でGln76−Phe77、を含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。ある態様においては、本発明のBoNT/B基質は、アミノ酸配列Gly−Ala−Ser−Gln−Phe−Glu−Thr−Ser (配列番号:3)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/B基質は、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基55−94、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基60−94、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基60−88、またはこれら配列の一つの模擬ペプチドを含む。本発明のBoNT/B基質においては様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが有用であることが理解される;そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせには、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明はまた、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むC1血清型ボツリヌス毒素(BoNT/C1)認識配列を含むBoNT/C1基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/C1基質を提供する。本発明のBoNT/C1基質は、例えばsyntaxinの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。例えば、本発明のBoNT/C1基質は、ヒトsyntaxinの少なくとも6つの連続する残基であってGln253−Phe254を含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。ある態様においては、本発明のBoNT/C1基質は、アミノ酸配列Asp-Thr-Lys-Lys-Ala-Val-Lys-Tyr (配列番号:5)またはその模擬ペプチドを含む。
【0011】
本発明のBoNT/C1基質はまた、例えばSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。そのようなBoNT/C1基質は、例えばヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg198−Ala199を含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。典型的BoNT/C1基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基93−202、またはその模擬ペプチドを含む。本発明の全てのクロストリジウム基質と同様に、様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせがBoNT/C1基質に有用であり、例えばフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれる。
【0012】
本発明はさらに、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むD血清型ボツリヌス毒素(BoNT/D)認識配列含むBoNT/D基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/D基質を提供する。本発明のBoNT/D基質は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Leuを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。ある態様においては、BoNT/D基質は、ヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってLys59−Leu60を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/D基質は、アミノ酸配列Arg-Asp-Gln-Lys-Leu-Ser-Glu-Leu (配列番号:6)またはその模擬ペプチドを含む。さらなる態様においては、本発明のBoNT/D基質は、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116、またはその模擬ペプチドを含む。本発明のBoNT/D基質においては様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが有用であることが理解される;そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターペアには、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明はさらに、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むE血清型ボツリヌス毒素(BoNT/E)認識配列を含むBoNT/E基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/E基質を提供する。BoNT/E基質は、例えばSANP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg−Ileを含むもの、またはその模擬ペプチドを含む。そのようなBoNT/E基質は、例えばヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg180−Ile181を含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。ある態様においては、本発明のBoNT/E基質は、アミノ酸配列Gln-Ile-Asp-Arg-Ile-Met-Glu-Lys (配列番号:8)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/E基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基156−186、またはその模擬ペプチドを含む。本発明のBoNT/E基質においては様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが有用である。これらのドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせには、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明によりさらに提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むF血清型ボツリヌス毒素(BoNT/F)認識配列を含むBoNT/F基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/F基質である。このようなBoNT/F基質は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Lysを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。ある態様において、BoNT/F基質は、ヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGLn58−Lys59を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/F基質は、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116、またはその模擬ペプチドを含む。さらなる態様においては、BoNT/F基質は、アミノ酸配列Glu-Arg-Asp-Gln-Lys-Leu-Ser-Glu (配列番号:9)またはその模擬ペプチドを含む。蛍光共鳴エネルギー転移の業界における当業者は、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7を含む様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/F基質において有用であり、同時にこれらに限定されないことを理解している。
【0015】
本発明また、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むG血清型ボツリヌス毒素(BoNT/G)認識配列を含むBoNT/G基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/G基質を提供する。BoNT/G基質は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってAla−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。そのようなBoNT/G基質は、例えばヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってAla83−Ala84を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む。ある態様においては、本発明のBoNT/G基質は、アミノ酸配列Glu-Thr-Ser-Ala-Ala-Lys-Leu-Lys (配列番号:10)またはその模擬ペプチドを含む。他のクロストリジウム毒素基質に関して前述されるように、様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/G基質において有用である。そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせには、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれる。
【0016】
本発明によってまた提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含む破傷風毒素(TeNT)認識配列を含むTeNT基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるTeNT基質である。本発明のTeNT基質は、例えばVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。例えば、そのようなTeNT基質は、例えばヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む。ある態様においては、本発明のTeNT基質は、アミノ酸配列Gly-Ala-Ser-Gln-Phe-Glu-Thr-Ser (配列番号:11)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、TeNT基質は、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基33−94、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116またはこれら配列の一つの模擬ペプチドを含む。様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のTeNT基質において有用であり、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、それらに限定されない。
【0017】
具体的態様において本発明は、少なくとも1ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性により切断されるBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質を提供する。他の態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも10ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性により切断される。更なる態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも20ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性により切断される。なお更なる態様においては、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも50、100または150ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性により切断される。
【0018】
蛍光および非蛍光アクセプターを含む、様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが本発明のクロストリジウム毒素基質において有用である。本発明において有用なドナー・フルオロフォアは、フルオレセイン、Alexa Fluor(登録商標)、DABCYLおよびBODIPYを含むが、これらに限定されない。本発明において有用なアクセプターは、テトラメチルローダミン、EDANSおよびQSY(登録商標)7含むが、これらに限定されない。本発明のクロストリジウム毒素において有用な典型的ドナー・フルオロフォア−アクセプターペアは、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、Alexa Fluor(登録商標)488−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、フルオレセイン−QSY(登録商標)7およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、それらに限定されない。
【0019】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、様々な長さのペプチドまたは模擬ペプチドを包み、そこで、ドナー・フルオロフォアとアクセプターは異なる長さの残基によって隔てられている。具体的態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は最大20残基、最大40残基、最大50残基、または最大100残基を有するペプチドまたは模擬ペプチドである。他の態様においては、ドナー・フルオロフォアとアクセプターは最大6残基、最大8残基、最大10残基または最大15残基によって隔てられている。
【0020】
本発明によってさらに提供されるのは、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性の測定方法である。本方法は、(a)クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含むクロストリジウム毒素基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるクロストリジウム毒素基質により試料を処置し、(b)ドナー・フルオロフォアを励起し、そして(c)対照基質と対比して処置済基質の共鳴エネルギー転移を測定する段階を含み、ここで、対照基質と比較した場合の処置済基質の共鳴エネルギー転移における相違がクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。本発明の方法は蛍光または非蛍光アクセプターによって実行可能である。
【0021】
本発明の方法は、いずれのクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性をアッセイするのにも使用できる。ある態様においては、本発明の方法はBoNT/Aプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/A基質に依存する。本発明の方法において有用なBoNT/A基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/A基質であってもよく、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がGln−Argを含むBoNT/A基質である。別の態様において、本発明の方法はBoNT/Bプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/B基質に依存する。本発明の方法において有用なBoNT/B基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/B基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がGln−Pheを含むBoNT/B基質である。本発明の方法はまた、BoNT/C1プロテアーゼ活性を測定するためBoNT/C1基質を利用可能である。本発明の方法において有用なBoNT/C1基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/C1基質であってもよく、例えば、syntaxinの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がLys−Alaを含む、または、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がArg−Alaを含む、BoNT/C1基質である。
【0022】
別の態様において、本発明の方法はBoNT/Dプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/D基質に依存する。本発明の方法において有用なBoNT/D基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/D基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がLys−Leuを含むBoNT/D基質である。さらなる態様において、本発明の方法はBoNT/Eプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/E基質に依存する。本発明の方法において有用なBoNT/E基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/E基質であってもよく、例えば、SANP−25の少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がArg−Ileを含むBoNT/E基質である。さらなる態様において、本発明の方法はBoNT/Fプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/F基質に依存する。本発明の方法において有用なBoNT/F基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/F基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がGln−Lysを含むBoNT/F基質である。
【0023】
本発明の方法はまた、BoNT/Gプロテアーゼ活性を測定するためBoNT/G基質を利用可能である。本発明の方法において有用なBoNT/G基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/G基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がAla−Alaを含むBoNT/G基質である。本発明の方法はまた、TeNTプロテアーゼ活性を測定するのに有用であり、この場合、TeNT基質に依存する。本明細書に開示されるいずれのTeNT基質も本発明の方法に有用であり、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基を含み、該6つの連続するアミノ酸残基がGln−Pheを含むTeNT基質である。
【0024】
活性あるクロストリジウム毒素、またはその軽鎖または断片を含む可能性のある様々な試料が、本発明の方法において有用である。そのような試料は、未精製細胞溶解物、単離クロストリジウム毒素、単離クロストリジウム毒素軽鎖、製剤化クロストリジウム毒素製品、例えばBOTOX(登録商標)、および生、調理済、特に調理済または加工済食物または飲物を含む飲食物を含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の方法において、共鳴エネルギー転移は様々な方法によって測定可能である。ある態様では、共鳴エネルギー転移を測定する段階は処置済基質のドナー蛍光強度を検出することを含み、ここで、対照基質と比較して増加した処置済基質のドナー蛍光強度は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。別の態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、処置済基質のアクセプター蛍光強度を検出することを含み、ここで、対照基質と比較して減少した処置済基質のアクセプター蛍光強度は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。さらなる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、処置済基質のアクセプター発光極大およびドナー・フルオロフォア発光極大を検出することを含み、ここで、アクセプター発光極大付近からドナー・フルオロフォア発光極大付近への発光極大におけるシフトは、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。さらなる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、アクセプター発光極大付近の蛍光振幅の、ドナー発光極大付近の蛍光振幅に対する比率を検出することを含み、ここで、対照試料と比較して減少した処置済試料の比率は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。なお更なる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、ドナー・フルオロフォアの励起状態寿命を検出することによって実行され、ここで、対照基質と比較して増加した処置済基質のドナー・フルオロフォアの励起状態寿命は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。
【0026】
以下にさらに論じるように、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した様々な条件が本発明の方法において有用である。ある態様では、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、アッセイが線形となるよう選択される。別の態様においては、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、クロストリジウム毒素基質の少なくとも90%が切断されるように選択される。更なる態様においては、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、最大5%、最大10%、最大15%、最大20%、または最大25%のクロストリジウム毒素基質が切断されるように選択される。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、クロストリジウム毒素の有無を測定するのに、または全ての血清型のボツリヌス毒素および破傷風毒素を含むいずれかのクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性を測定するのに有用な、クロストリジウム毒素基質を提供する。本発明のクロストリジウム毒素基質は、一つには、切断産物を非切断産物から分離する必要がなく、かつ動物に対する毒性に依存しない迅速かつ単純な均一スクリーニングアッセイに利用可能であるため価値がある。さらに、本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、高度精製二本鎖毒素または単離クロストリジウム毒素軽鎖と同様に、未精製で大量の試料およびを解析するのに使用できる。
【0028】
以下に述べるように、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、光子の発光なく励起がドナー・フルオロフォアからアクセプターに転移される、二つの分子の電子励起状態間の距離依存性相互作用である。エネルギー転移の過程は、ドナー・フルオロフォアの蛍光強度および励起状態寿命の減少(クエンチング)を結果としてもたらし、アクセプターがフルオロフォアの場合はアクセプターの発光強度を増加することができる。本発明のクロストリジウム毒素基質の切断後、共鳴エネルギー転移は減少し、例えば増加したドナー蛍光発光、減少したアクセプター蛍光発光、またはアクセプター発光極大付近からドナー発光極大付近への発光極大におけるシフトによって検出できる。必要であれば、試料中のクロストリジウム毒素の量は、FRETの度合いの相違の関数として適当な基準を用いて計算することができる。
【0029】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、ここで、該切断部位はドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られる。本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えばボツリヌス毒素認識配列を含むことができる。ある態様においては、本発明のクロストリジウム毒素基質には、B血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)認識配列でない、ボツリヌス毒素認識配列を含む。
【0030】
ある態様において、本発明は、少なくとも1ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性で切断される、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質を提供する。他の態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも10ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性で切断される。さらなる態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも20ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性で切断される。なお更なる態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、少なくとも50、100または150ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性で切断される。このような活性は標準的速度条件の下測定される。
【0031】
蛍光および非蛍光アクセプターを含む、様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが本発明のクロストリジウム毒素基質において有用である。本発明において有用なドナー・フルオロフォアは、フルオレセイン、Alexa Fluor(登録商標)488、DABCYLおよびBODIPYを含むが、これらに限定されない。本発明において有用なアクセプターは、テトラメチルローダミン、EDANS、およびQSY(登録商標)7を含むが、これらに限定されない。本発明のクロストリジウム毒素において有用な典型的ドナー・フルオロフォア−アクセプターペアは、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、Alexa Fluor(登録商標)488−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、フルオレセイン−QSY(登録商標)7およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7を含むが、それらに限定されない。
【0032】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、様々な長さのタンパク質、ペプチド、および模擬ペプチドを含み、ここで、ドナー・フルオロフォアとアクセプターは異なる数の残基によって隔てられている。具体的態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、最大20残基、最大40残基、最大50残基、最大100残基、最大150残基、最大200残基、最大250残基、最大300残基、最大350残基または最大400残基を有する。他の態様においては、ドナー・フルオロフォアとアクセプターは、最大6残基、最大8残基、最大10残基、最大12残基、最大15残基、最大20残基、最大25残基、最大30残基、最大35残基または最大40残基によって隔てられている。
【0033】
破傷風およびボツリヌス神経毒素はクロストリジウム属によって産生され、破傷風およびボツリヌス中毒症の神経麻痺症候群を引き起こす。破傷風神経毒素が主にCNSシナプスに作用する一方、ボツリヌス神経毒素は末梢性に作用する。クロストリジウム神経毒素は近似した細胞中毒機序を共用し、神経伝達物質の放出を抑制する。ジスルフィド結合した二つのポリペプチド鎖より構成されるこれらの毒素において、大きい方のサブユニットは、神経特異的結合および小さい方のサブユニットの細胞質内へのトランスロケーションに関与する。神経細胞内におけるトランスロケーションおよび還元の後、小さい方の鎖が、神経細胞細胞質におけるニューロエキソサイトーシスに関与するタンパク質成分に特異的なペプチダーゼ活性を示す。クロストリジウム毒素の標的であるSNAREタンパク質は、様々な非神経細胞タイプにおけるエキソサイトーシスに共通している;神経細胞と同様にこれらの細胞において、軽鎖ペプチダーゼ活性がエキソサイトーシスを阻害する。
【0034】
破傷風およびボツリヌス神経毒素B、D、F、およびGは、VAMP(synaptobrevin)を特異的に認識するが、これは神経毒素によって異なる結合の所で切断されるシナプス小胞膜内在性タンパク質である。ボツリヌスAおよびE神経毒素は、シナプス前膜のタンパク質であるSNAP−25を、そのタンパク質のカルボキシ末端部分における二つの相異なる部位で特異的に認識および切断する。ボツリヌス神経毒素Cは、SNAP−25に加えて、神経細胞膜タンパク質であるsyntaxinを切断する。三つのクロストリジウム神経毒素標的タンパク質は酵母からヒトまで保存されているが、切断部位および毒素感受性は必ずしも保存されていない(以下参照;Humeau et al., Biochimie 82:427 446 (2000); Niemann et al., Trends in Cell Biol. 4:179 185 (1994); および Pellizzari et al., Phil. Trans. R. Soc. London 354:259-268 (1999))も参照)。
【0035】
天然の破傷風およびボツリヌス神経毒素は、リーダー配列のない150kDaの不活性ポリペプチド鎖として産生される。これらの毒素は、露出したプロテアーゼ感受性ループのところで細菌または組織プロテイナーゼによって切断され、活性二本鎖毒素を生成し得る。天然のクロストリジウム毒素は、重鎖(H、100kDa)および軽鎖(L、50kDa)を架橋する鎖間ジスルフィド結合を一つ含む;このような架橋は、細胞外に加えられた毒素の神経毒性にとって重要である(Montecucco and Schiavo, Quarterly Rev. Biophysics 28:423-472 (1995)。
【0036】
図1に示すように、クロストリジウム毒素は三つの別個の50kDaドメインに折り畳まれているようであり、各ドメインは別個の機能的役割を有する。図2に描かれるように、クロストリジウム毒素の細胞中毒機序は4つの異なる段階より成る:(1)結合、(2)内在化、(3)膜トランスロケーション、および(4)酵素的標的修飾。重鎖のカルボキシ末端部分(H)は神経特異的結合において機能し、一方H鎖のアミノ末端部分(H)は、膜トランスロケーションにおいて機能する。L鎖は、細胞内触媒活性に関与する(Montecucco and Schiavo, 前述, 1995)。
【0037】
8種類のヒトクロストリジウム神経毒素のアミノ酸配列は、対応する遺伝子に由来している(Neimann, ”Molecular Biology of Clostridial Neurotoxins” in Sourcebook of Bacterial Protein Toxins Alouf and Freer (Eds.) pp. 303-348 London: Academic Press 1991)。L鎖およびH鎖は、それぞれおよそ439および843残基より構成される。相同性あるセグメントが、ほとんどまたは全く類似しない領域によって隔てられている。L鎖の最も良く保存された領域は、アミノ末端部分(100残基)および中心領域(TeNTの残基216−244に相当)、および鎖間ジスルフィド結合を形成している二つのシステインである。この216−244の領域は、亜鉛−エンドペプチダーゼに特徴的なHis-Glu-X-X-His結合モチーフを含む。
【0038】
重鎖は軽鎖ほどよくは保存されておらず、Hのカルボキシ末端部分(TeNTの残基1140−1315に相当)が最も変化に富んでいる。このことは、Hドメインが神経終末への結合に関与していること、および異なる神経毒素は異なる受容体に結合しているようであるという事実と一致する。多くの血清型特異的抗体が重鎖決定基を認識することは驚くべきことではない。
【0039】
クロストリジウム毒素のヌクレオチドおよびアミノ酸配列の比較により、それらが共通の先祖遺伝子に由来することがわかる。これら遺伝子の拡散は、クロストリジウム神経毒素遺伝子が移動性の遺伝子エレメント上に位置することよって促進されている可能性がある。以下にさらに述べるように、7種類のボツリヌス毒素の配列変異体が当業界で知られている。例えば図5から図7、および Humeau et al., 前述, 2000 参照。
【0040】
前述のように、クロストリジウム神経毒素の本来の標的は、VAMP、SNAP−25、およびsyntaxinを含む。VAMPはシナプス小胞膜に結合しており、一方SNAP−25およびsyntaxinは標的膜に結合している(図3参照)。BoNT/AおよびBoNT/EはSNAP−25をカルボキシ末端領域において切断してそれぞれ9または26アミノ酸残基を放出し、BoNT/C1もまたSNAP−25をカルボキシ末端付近で切断する。ボツリヌス血清型BoNT/B、BoNT/D、BoNT/FおよびBoNT/G、および破傷風毒素は、VAMPの保存された中心部分に作用し、VAMPのアミノ末端部分を細胞質中へ放出する。BoNT/C1は、syntaxinを細胞膜内側膜表面付近の単一の部位で切断する。従ってBoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/F、BoNT/G、およびTeNTの作用により、VAMPおよびsyntaxinの細胞質内ドメインの大部分が放出されるが、一方BoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/Eのタンパク分解によっては、SNAP−25の小さな部分しか放出されない (Montecucco and Schiavo, 前述, 1995)。
【0041】
膜貫通セグメントを欠く約206残基のタンパク質であるSNAP−25は、神経細胞膜の細胞質内表面に結合している(図3、Hodel et al., Int. J. Biochemistry and Cell Biology 30:1069-1073 (1998)も参照)。Drosophilaから哺乳類まで高度に保存されたホモログに加えて、SNAP−25関連タンパク質はまた酵母からも単離されている。SNAP−25は発生中の軸索伸長に必要であり、また成熟神経系における神経終末可塑性にとって必要な可能性がある。ヒトにおいては、発生中に二つのアイソフォームが相異なるかたちで発現する;アイソフォームaは、胎児段階の初期に構成的に発現し、一方アイソフォームbは出生時に現れ成年期に主に発現する。SNAP−23のようなSNAP−25アナログもまた、神経系外部、例えば膵臓細胞に発現している。
【0042】
VAMPは約120残基のタンパク質であり、正確な長さは種およびアイソタイプに依存する。図3に示すように、VAMPは短いカルボキシ末端セグメントを小胞内腔内に含むが、一方でその分子のほとんどは細胞質に露出している。プロリンリッチアミノ末端30残基は種およびアイソフォーム間で相違するが、VAMPの中心部分(残基30−96)は高度に保存されており、荷電および親水性残基に富み、かつ高度に保存された既知の切断部位を含む。VAMPは、シナプトフィジンとともにシナプス小胞膜上に結合している。
【0043】
ヒト、ラット、ウシ、Torpedo、Drosophila、酵母、イカおよびAplysiaホモログを含む、様々なVAMPの種ホモログが当業界において知られている。さらに、VAMP−1、VAMP−2およびセルブレビンを含む、多数のVAMPアイソフォームが同定されており、かつ非神経細胞において非感受性型が同定されている。VAMP−1およびVAMP−2の分布は相異なる細胞タイプにおいて様々であるが、VAMPはすべての脊椎動物組織において存在するようである。チキンおよびラットVAMP−1は、TeNTまたはBoNT/Bによって切断される。これらのVAMP−1ホモログは、TeNTまたはBoNT/B切断部位において、ヒトまたはマウスVAMP−1ではグルタミンが存在する場所にバリンを有する。置換はBoNT/D、/F、または/Gには影響せず、それらはVAMP−1およびVAMP−2を同様の率で切断する。
【0044】
Syntaxinは神経細胞膜の細胞膜内側表面上に位置し、カルボキシ末端セグメントを介して膜に固定されており、そのタンパク質のほとんどが細胞質に露出している。Syntaxinは、シナプス前膜の活性領域にカルシウムチャンネルと共に局在する。さらに、syntaxinはSSV膜タンパク質であるシナプトタグミンと相互作用し、細胞膜と小胞の間に機能的架橋を形成する。様々なsyntaxinアイソフォームが同定されている。幾分長さの異なる二つのアイソフォーム(285残基および288残基)が神経細胞において同定されており(アイソフォーム1Aおよび1B)、アイソフォーム2、3、4、および5は他の組織に存在する。これらアイソフォームはBoNT/C1に対する感受性が様々であり、syntaxin 1A、1B、2および3アイソフォームが本毒素によって切断される。
【0045】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、ここで、該切断部位はドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られる。従ってクロストリジウム毒素基質は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下、少なくとも一つのクロストリジウム毒素によって切断されやすい、ポリペプチド、ペプチドまたは模擬ペプチドである。
【0046】
本明細書で用いる場合、「ドナー・フルオロフォア」なる用語は、ある波長の光が照射されたときに、異なる波長の光(蛍光とも称する)を放出する分子を意味する。フルオロフォアなる用語は、当業界において「蛍光色素(フルオロクローム)」なる用語と同義語である。
【0047】
「アクセプター」なる用語は、本明細書で用いる場合、ドナー・フルオロフォアからその励起の際にエネルギーを吸収することができる分子を意味し、非蛍光分子およびフルオロフォアを包含する用語である。本発明のクロストリジウム毒素基質において有用なアクセプターは、ドナー・フルオロフォアオの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有する。通常本発明において有用なアクセプターはまた、ドナー・フルオロフォアの励起に適した波長における吸収がどちらかといえば低い。
【0048】
本発明のクロストリジウム毒素基質において、アクセプターは、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有する。「重複する」なる用語は、本明細書でアクセプターの吸収スペクトルとドナー・フルオロフォアの発光スペクトルに関して用いる場合、部分的または完全に共有された吸収スペクトルと発光スペクトルを意味する。従って、そのような重複スペクトルにおいては、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルの範囲の高い方の端は、アクセプターの吸収スペクトルの範囲の低い方の端よりも高い。
【0049】
本明細書で用いる場合、「クロストリジウム毒素認識配列」なる用語は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に敵した条件下、クロストリジウム毒素によって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、その切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。
【0050】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォアと、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプターの間に「介在」する切断部位を含む。つまり切断部位は、その部位における切断によってフルオロフォアを含む第一の分子とアクセプターを含む第二の分子を生じるように、フルオロフォアとアクセプターの間に位置する。クロストリジウム毒素認識配列の全てまたは一部のみが、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在することができることが理解される。
【0051】
本発明はさらに、クロストリジウム毒素基質「合成体」を提供する。そのようなクロストリジウム毒素基質合成体は、(a)アフィニティーカップルの第一のパートナーと連結した、ドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第一のメンバー、および、(b)切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、認識配列はドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第二のメンバーおよびアフィニティーカップルの第二のパートナーと連結し、切断部位はドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第二のメンバーとアフィニティーカップルの第二のパートナーの間に介在し、ここで(a)および(b)は、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第一と第二のメンバーの間で見られるように、安定的に結合している。つまり、本発明のクロストリジウム毒素基質合成体は、要するに、二つの部分がアフィニティーカップルを介して安定的に結合した二連のクロストリジウム毒素基質である。他のクロストリジウム毒素基質と同様に、共鳴エネルギー転移は基質合成体の切断後に変化する。クロストリジウム毒素基質合成体において、および、アフィニティーカップルを含まなくてもよいクロストリジウム毒素基質非合成体において、本明細書に記載の、および、当業界において周知の、クロストリジウム毒素認識配列および切断部位が有用であり得ることは理解される。
【0052】
「ドナー・フルオロフォア−アクセプターペア」なる用語は、本明細書で用いられる場合、ドナー・フルオロフォアおよびドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプターを意味する。本ペアの第一のメンバーがドナー・フルオロフォアである場合、本ペアの第二のメンバーはアクセプターであろう。該ペアの第一のメンバーがアクセプターである場合、該ペアの第二のメンバーはドナー・フルオロフォアであろう。
【0053】
ある態様において、ドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第一のメンバーはドナー・フルオロフォアであり、第二のメンバーはアクセプターである。別の態様において、ドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの第一のメンバーはアクセプターであり、第二のメンバーはドナー・フルオロフォアである。本明細書に記載されるドナー・フルオロフォアおよびアクセプターを含む、様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが本発明のクロストリジウム毒素基質合成体に有用である。ある態様において、ドナー・フルオロフォアはランタニドである。本発明の基質合成体において有用なランタニド・ドナー・フルオロフォアは、テルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム、およびサマリウムである。
【0054】
「アフィニティーカップル」なる用語は、本明細書で用いる場合、安定的非共有結合的会合を形成することができる二つの分子を意味する。本発明の基質合成体に有用なアフィニティーカップルは、ストレプトアビジン-ビオチン; S ペプチド-S タンパク質; ヒスチジンタグ−ニッケルキレート; 抗体−抗原、例えば、FLAGおよび抗FLAG抗体; および受容体−リガンドである。
【0055】
ある態様において、アフィニティーカップルはストレプトアビジン−ビオチンである。更なる態様においては、アフィニティーカップルの第一のパートナーはストレプトアビジンであり、第二のパートナーはビオチンである。別の態様において、アフィニティーカップルの第一のパートナーはビオチンであり、第二のパートナーはストレプトアビジンである。なお更なる態様において、アフィニティーカップルはストレプトアビジン−ビオチンであり、ドナー・フルオロフォアはテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム、およびサマリウムである。
【0056】
クロストリジウム毒素は、特異的かつ別個の切断部位を切断する。BoNT/AはGln−Arg結合を切断する;BoNT/BおよびTeNTはGln−Phe結合を切断する;BoNT/C1はLys−AlaまたはArg−Ala結合を切断する;BoNT/DはLys−Leu結合を切断する;BoNT/EはArg−Ile結合を切断する;BoNT/FはGln−Lys結合を切断する;およびBoNT/GはAla−Ala結合を切断する(表1参照)。
切断容易な結合はP−P’と表すことができ、PまたはP’部位、または両方を、天然の残基に代えて別のアミノ酸または模擬アミノ酸に置換できることが理解される。例えば、BoNT/A基質は、P位置(Gln)がアラニン、2−アミノ酪酸またはアスパラギン残基に改変され、調製されている;これらの基質は、P−Arg結合においてBoNT/Aによって加水分解される(Schmidt and Bostian, J. Protein Chem. 16:19-26 (1997))。しかしながら、置換は、切断容易な結合、例えばBoNT/Aの切断容易な結合のP位置に導入することができるが、検出可能なタンパク分解にとってP’残基の保存が通常重要であることは理解される(Vaidyanathan et al., J. Neurochem. 72:327-337 (1999)。従って、ある態様において本発明は、クロストリジウム毒素によって切断される標的タンパク質の天然の残基と比較してP’残基が改変または置換されていない、クロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において本発明は、クロストリジウム毒素によって切断される標的タンパク質の天然の残基と比較してPが改変または置換されている、クロストリジウム毒素基質を提供する;そのような基質はPおよびP’残基の間のペプチド結合切断に対する感受性を保持している。
【0057】
【表1】

【0058】
SNAP−25、VAMPおよびsyntaxinは、αヘリカル構造をとると予想される領域内に位置する短いモチーフを共有する。このモチーフは、本神経毒素に感受性のある動物に発現するSNAP−25、VAMPおよびsyntaxinアイソフォーム中に存在する。それに対し、これらの神経毒素に対して抵抗性のあるDrosophilaおよび酵母ホモログ、およびエキソサイトーシスに関与しないsyntaxinアイソフォームは、これらVAMPおよびsyntaxinタンパク質のαヘリカルモチーフ領域中に配列変動を含む。
【0059】
αヘリカルモチーフの複数の反復が、クロストリジウム毒素による切断に感受性のあるタンパク質に存在する:SNAP−25において4つのコピーが天然に存在する;VAMPにおいて二つのコピーが天然に存在する;およびsyntaxinにおいて二つのコピーが天然に存在する(図4A参照)。さらに、αヘリカルモチーフの特異的配列に相当するペプチドは、in vitro およびin vivoにおいて神経毒性活性を阻害することができ、このようなペプチドは異なる神経毒素を交差阻害することができる。さらに、このようなペプチドに対して作られた抗体は、この三つの標的タンパク質の間で交差反応でき、このことは、このαヘリカルモチーフが細胞表面上に露出し、三つの標的タンパク質各々において良く似た構造をとっていることを意味している。これらの知見と一致して、SNAP−25特異的、VAMP特異的およびsyntaxin特異的神経毒素は、同じ結合部位に対し競合することによって互いに交差阻害する。これらの結果は、クロストリジウム毒素認識配列が、要すれば、αヘリカルモチーフを少なくとも一つ含むことができることを意味する。以下の詳説するが、BoNT/Aに対する16merおよび17mer基質によって証明されるように、αヘリカルモチーフはクロストリジウム毒素による切断に必ずしも必要ではないことは認識される。
【0060】
SNAP−25、VAMP、およびsyntaxinには複数のαヘリカルモチーフが見られるが、ある態様において本発明は、クロストリジウム毒素認識配列が単一のαヘリカルモチーフを含むクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において本発明は、クロストリジウム毒素認識配列が二つまたはそれ以上のαヘリカルモチーフを含むクロストリジウム毒素基質を提供する。BoNT/AまたはBONT/E認識配列は、例えばS4αヘリカルモチーフを単独で、または一つまたはそれ以上の更なるαヘリカルモチーフと組み合わせて含むことができる;BoNT/B、BONT/G、およびTeNT認識配列は、例えばV2αヘリカルモチーフを単独で、または一つまたはそれ以上のαヘリカルモチーフと組み合わせて含むことができる;BoNT/C1認識配列は、例えばS4αヘリカルモチーフを単独で、または一つまたはそれ以上のαヘリカルモチーフと組み合わせて、またはX2αヘリカルモチーフを単独で、または一つまたはそれ以上のαヘリカルモチーフと組み合わせて含むことができる;BoNT/DまたはBoNT/F認識配列は、例えばV1αヘリカルモチーフを単独で、または一つまたはそれ以上のαヘリカルモチーフと組み合わせて含むことができる(図4A参照)。
【0061】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、同じまたは相異なるクロストリジウム毒素に対する一つまたは複数のクロストリジウム毒素切断部位を含むことができる。ある態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、単一の切断部位を含む。他の態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、同じクロストリジウム毒素に対する複数の切断部位を有する。これらの切断部位は、同じまたは相異なるクロストリジウム毒素認識配列を伴ってもよい。更なる態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、同じクロストリジウム毒素に対する複数の切断部位であって同じドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在するものを有する。本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、同じクロストリジウム毒素に対する2個またはそれ以上、3個またはそれ以上、5個またはそれ以上、10個またはそれ以上の切断部位であって同じまたは異なるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの間に介在するものを含むことができる。本発明のクロストリジウム基質はまた、例えば、同じクロストリジウム毒素に対する2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の切断部位であって、同じまたは異なるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの間に介在するものを有することができる。
【0062】
複数の切断部位を含む本発明のクロストリジウム毒素基質は、相異なるクロストリジウム毒素に対する切断部位および認識配列を含むことができる。ある態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、異なるクロストリジウム毒素に対する複数の切断部位であってすべて同じドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの間に介在するものを含む。本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、異なるクロストリジウム毒素に対する2個もしくはそれ以上、3個もしくはそれ以上、5個もしくはそれ以上、または10個もしくはそれ以上の切断部位であって、すべて同じドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの間に介在するものを含むことができる。本発明のクロストリジウム毒素基質はまた、例えば、2個もしくはそれ以上、3個もしくはそれ以上、5個もしくはそれ以上、または10個もしくはそれ以上の切断部位であって、少なくとも二つのドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの間に介在するものを含むことができる。具体的態様において、本発明のクロストリジウム基質はまた、異なるクロストリジウム毒素に対する2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の切断部位であって、その切断部位が同じまたは異なるドナー・フルオロフォアとアクセプターペアの間に介在するものを有することができる。複数の切断部位を有する本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、以下のクロストリジウム毒素のいずれかの組み合わせに対する、2、3、4、5、6、7または8個の切断部位の組み合わせをどれでも有することができる:BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GおよびTeNT。
【0063】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、SNAP−25、VAMP、またはsyntaxinと比較して、または外来のフルオロフォアを含まない近似のペプチドまたは模擬ペプチドと比較して、減少または増強された率で切断され得ると理解される。BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質のような本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、クロストリジウム毒素基質およびSNAP−25、VAMP、またはsyntaxinが各々濃度1.0mMで存在する場合に、基質以外は同一の条件下で、ヒトSNAP−25、VAMP、またはsyntaxinの初期加水分解率の少なくとも5%である初期加水分解率で切断され得る。
【0064】
従って、本発明のBoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/E基質は、例えば、本発明の基質およびヒトSNAP−25が各々濃度1.0mMで存在する場合に、それ以外は同一の条件下で、BoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/EによるヒトSNAP−25の初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率で切断され得る。他の態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/E基質は、例えば、本発明の基質およびヒトSNAP−25が各々濃度50mMで存在する場合に、それ以外は同一の条件下で、ヒトSNAP−25のBoNT/A、BoNT/C1またはBoNT/Eによる初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率を有する。
【0065】
同様に、本発明のBoNT/B、BoNT/D、BoNT/FまたはBoNT/G基質は、例えば、本発明の基質およびヒトVAMP−2が各々濃度1.0mMで存在する場合に、それ以外は同一の条件下で、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/FまたはBoNT/GによるヒトVAMP−2の初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率で切断され得る。他の態様において、本発明のBoNT/B、BoNT/D、BoNT/FまたはBoNT/G基質は、本発明の基質およびヒトVAMP−2が各々濃度50mMで存在する場合に、それ以外は同一の条件下で、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/FまたはBoNT/GによるヒトVAMP−2の初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率で切断される。
【0066】
本発明はまた、BoNT/C1基質およびヒトsyntaxinが各々濃度1mMで存在する場合に、それ以外は同一の条件下、BoNT/C1によるヒトsyntaxinの初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率で切断される、本発明のBoNT/C1基質を提供する。他の態様において、本発明は、BoNT/C1基質およびヒトsyntaxinが各々濃度50mMで存在する場合に、基質以外は同一の条件下、BoNT/C1によるヒトsyntaxinの初期加水分解率の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、250%、または300%である初期加水分解率で切断される、BoNT/C1基質を提供する。
【0067】
「ターンオーバー数」またはkcatは、毒素基質複合体の崩壊速度である。本発明のクロストリジウム毒素基質は、同じクロストリジウム毒素によって同じ条件下で切断された場合に、ヒトSNAP−25、ヒトVAMP−2またはヒトsyntaxin標的タンパク質のkcatと比較して減少または増強されたkcatで切断され得る。BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質のような本発明のクロストリジウム毒素基質は、例えば、約0.001から約4000秒−1のkcatで切断され得る。ある態様において、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質のような本発明のクロストリジウム毒素基質は、約1から約4000秒−1のkcatで切断される。他の態様において、本発明のBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質は、5秒−1、10秒−1、25秒−1、50秒−1、100秒−1、250秒−1、500秒−1または1000秒−1未満のkcatを有する。BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/GまたはTeNT基質のような本発明のクロストリジウム毒素基質はまた、例えば、1から1000秒−1;1から500秒−1;1から250秒−1;1から100秒−1;1から50秒−1;10から1000秒−1;10から500秒−1;10から250秒−1;10から100秒−1;10から50秒−1;25から1000秒−1;25から500秒−1;25から250秒−1;25から100秒−1;25から50秒−1;50から1000秒−1;50から500秒−1;50から250秒−1;50から100秒−1;100から1000秒−1;100から500秒−1;または100から250秒−1の範囲のkcatを有することができる。ターンオーバー数、kcatは、標準的速度条件のもと過剰量の基質の存在下でアッセイすることを当業者は理解している
【0068】
具体的態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質はペプチドまたは模擬ペプチドである。本明細書で用いる場合、「模擬ペプチド」なる用語は、それが構造的に基づいているペプチド基質と同じクロストリジウム毒素によって切断されるペプチド様分子を意味するのに広く使用される。そのような模擬ペプチドは、化学修飾ペプチド、非天然アミノ酸を含有するペプチド様分子、およびペプトイド(N置換グリシンのオリゴマー集合より生じるペプチド様分子)を含み、その模擬ペプチドのもととなるペプチド基質と同じクロストリジウム毒素によって切断される(例えば、Goodman and Ro, Peptidomimetics for Drug Design, in ”Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery” Vol. 1 (ed. M.E. Wolff; John Wiley & Sons 1995)、803-861ページ参照)。
【0069】
例えば、拘束(constrained)アミノ酸、ペプチド二次構造を模した非ペプチド構成要素、またはアミド結合イソスターを含有するペプチド様分子を含む、様々な模擬ペプチドが当業界において知られている。拘束(constrained)非天然アミノ酸を含有する模擬ペプチドは、例えば、αメチル化アミノ酸、α,α−ジアルキルグリシンまたはアミノシクロアルカンカルボン酸;Nα−Cα環化アミノ酸; Nαメチル化アミノ酸;β−またはγ−アミノシクロアルカンカルボン酸;α,β−不飽和アミノ酸; β,β−ジメチルまたはβ−メチルアミノ酸;β-置換-2,3-メタノアミノ酸;N−CδまたはCα−Cδ環化アミノ酸; または置換プロリンまたは別の模擬アミノ酸を含むことができる。さらに、ペプチド二次構造を模する模擬ペプチドは、例えば、非ペプチド模擬β-ターン、模擬γ-ターン、模擬βシート構造、または模擬へリカル構造を含むことができ、それら各々は、当業界にて良く知られている。模擬ペプチドはまた、例えば、レトロ-インバーソ(retro-inverso)改変のようなアミド結合イソスター;還元アミド結合;メチレンチオエーテルまたはメチレンスルホキシド結合; メチレンエーテル結合; エチレン結合; チオアミド結合; トランス-オレフィンまたはフルオロオレフィン結合; 1,5-二置換テトラゾール環; ケトメチレンまたはフルオロケトメチレン結合または別のアミドイソスターを含む、ペプチド様分子であってよい。当業者は、これらおよび他の模擬ペプチドが、本明細書で使用される「模擬ペプチド」なる用語の意味に包含されることを理解している。
【0070】
本発明は、例えば、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むA血清型ボツリヌス毒素(BoNT/A)認識配列を含むBoNT/A基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/A基質を提供する。本発明のBoNT/A基質は、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってGln−Argを含むもの、またはその模擬ペプチドを含み得る。このようなBoNT/A基質はまた、例えばヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってGln197−Arg198を含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。ある態様においては、本発明のBoNT/A基質は、アミノ酸配列Glu−Ala−Asn−Gln−Arg−Ala−Thr−Lys (配列番号:1)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様においては、本発明のBoNT/A基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基187−203、またはその模擬ペプチドを含む。本発明のBoNT/A基質においては様々なドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが有用であり、それにはフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。本発明のBoNT/A基質において有用なさらなるドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、本明細書中以下にさらに記載される。
【0071】
本明細書で用いられる場合、「A血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/A認識配列」と同義語であり、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下、BoNT/Aによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、その切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Aによって切断される切断容易な結合は、例えば、Gln−Alaである。
【0072】
様々なBoNT/A認識配列が当業界においてよく知られている。BoNT/A認識配列は、例えば、ヒトSNAP−25の残基134−206または残基137−206を有することができる(Ekong et al., 前述, 1997; U.S. Patent No. 5,962,637)。BoNT/A認識配列はまた、配列Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号: 27)またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基190−202に相当); Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys (配列番号: 28) またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基187−201に相当); Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号: 29) またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基187−202に相当); Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met Leu (配列番号: 30) またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基187−203に相当); Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met (配列番号: 31) またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基186−202に相当); またはAsp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu (配列番号: 32) またはその模擬ペプチド(ヒトSNAP−25の残基186−203に相当)を含むことができるが、これらに限定されない。例えば、Schmidt and Bostian, J. Protein Chem. 14:703 708 (1995); Schmidt and Bostian, 前述, 1997; Schmidt et al., FEBS Letters 435:61-64 (1998); and Schmidt and Bostian, U.S. Patent No. 5,965,699)参照。要すれば、近似するBoNT/A認識配列は、別のBoNT/A感受性SNAP−25アイソフォームまたはマウス、ラット、ゴールドフィッシュまたはゼブラフィッシュSNAP−25のようなホモログの対応する(相同性ある)セグメントから調製することができ、または、本明細書に開示される、または当業界において(例えばU.S. Patent No. 5,965,699に)記載される、いずれかのペプチドであってよい。
【0073】
BoNT/A認識配列は、A血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/A感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよい。表2に描かれるように、BoNT/Aによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびラットSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25AおよびSNAP−25Bを包含する。従って、本発明のBoNT/A基質に有用なBoNT/A認識配列は、例えば、ヒトSNAP−25、マウスSNAP−25、ラットSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25Aまたは25B、またはBoNT/Aによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、BoNT/Aによって切断される本来のSNAP−25アミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されていないことがわかり(表2および図5参照)、このことは、天然BoNT/A感受性SNAP−25配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/A基質において許容されることを意味している。
【0074】
【表2−1】

【0075】
【表2−2】

【0076】
本発明のクロストリジウム毒素基質、例えばBoNT/A基質は、対応するクロストリジウム毒素によって切断される天然配列と比較して、一つまたは複数の改変を有することができる。例えば、ヒトSNAP−25の残基187−203に相当する17merと比較して、BoNT/A基質におけるAsp193のAsnとの置換により、タンパク分解の相対率が0.23になる;Glu194のGlnとの置換により、相対率は2.08になる;Ala195の2−アミノ酪酸との置換により、相対率が0.38となる;そしてGln197のAsn、2−アミノ酪酸、またはAlaとの置換により、相対率がそれぞれ0.66、0.25、または0.19となる(表3参照)。その上、Ala199と2−アミノ酪酸との置換により、相対率は0.79となる;Thr200のSerまたは2−アミノ酪酸との置換により、相対率はそれぞれ0.26または1.20となる;Lys201のAlaとの置換により、相対率は0.12になる;そしてMet202のAlaまたはノルロイシンとの置換により、相対率はそれぞれ0.38または1.20になる。Schmidt and Bostian, 前述, 1997参照。これらの結果は、本発明のクロストリジウム毒素基質において、天然の毒素感受性配列と比較して様々な残基が置換可能であることを意味している。BoNT/Aの場合、これらの結果は、Glu194、Ala195、Gln197、Ala199、Thr200およびMet202、Leu203、Gly204、Ser205、およびGly206を含む(ただしこれらに限定されない)残基およびGln−Argの切断容易な結合からもっと離れている残基が、置換可能であること、または、本発明のBoNT/A基質を生産するためドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合できることを意味している。このようなBoNT/A基質は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下、BoNT/Aのよって、その切断容易な結合において検出可能にタンパク分解される。つまり、本発明のBoNT/A基質は、要すれば、天然SNAP−25配列に対する一つまたはいくつかのアミノ酸置換、付加、欠失を含むことができる。
【0077】
【表3】

【0078】
標準的命名において、クロストリジウム毒素切断部位周辺の配列は、P−P−P−P−P−P’−P’−P’−P’−P’で示され、P−P’が切断容易な結合である。ある態様において、本発明は、P、P、P、P、PまたはP>5の位置の残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されており、P’、P’、P’、P’、P’またはP>5’の位置の残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されている、BoNT/A基質または他のクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において、本発明は、P、P、P、またはP>5における残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されており、P’、P’、P’またはP>5’の位置の残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されているBoNT/A基質または他のクロストリジウム毒素基質を提供する。ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターに結合した残基のアミノ酸側鎖は、その他の点では天然の標的タンパク質の対応する位置に存在する残基と同一であってよく、または、例えば異なる側鎖を含んでもよいことがさらに理解される。本発明によってさらに提供されるのは、P、P、またはP>5の位置の残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されており、P’、P’、P’またはP>5’の位置の残基がドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと結合したアミノ酸と置換されているBoNT/A基質または他のクロストリジウム毒素基質である。同様に、ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターに結合した残基のアミノ酸側鎖は、その他の点では天然の標的タンパク質の対応する位置に存在する残基と同一であってよく、または、例えば異なる側鎖を含んでもよい。
【0079】
本発明のBoNT/A基質はまた、要すれば、カルボキシ末端アミドを含むことができる。従って、本発明のBoNT/A基質は、例えば、最大20、30、40、50残基を有し、かつカルボキシ末端アミドを含むペプチドであってよい。
【0080】
本発明によってさらに提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むB血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)認識配列を含むBoNT/B基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/B基質である。本発明のBoNT/B基質は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。例えば、本発明のBoNT/B基質は、ヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、BoNT/B基質は、Gly−Ala−Ser−Gln−Phe−Glu−Thr−Ser (配列番号:3)またはその模擬ペプチドを含む。他の態様においては、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基55−94; ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基60−94; またはヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基60−88、またはこれら配列のうち一つの模擬ペプチドを含む。様々なドナー・フルオロフォアとアクセプターが本発明のBoNT/B基質において有用であることは理解される;そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせには、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。本発明のBoNT/B基質に有用な様々なさらなるドナー・フルオロフォアとアクセプターが当業界において知られており、以下にさらに記載される。
【0081】
本明細書で用いる場合、「B血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/B認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/Bによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、その切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Bによって切断される切断容易な結合は、例えば、Gln−Pheである。
【0082】
様々なBoNT/B認識配列が当業界においてよく知られており、あるいは平凡な方法によって規定できる。そのようなBoNT/B認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはヒトVAMP−2のようなVAMPタンパク質の親水性コアのいくつかまたは全てに相当する配列を含むことができる。BoNT/B認識配列は、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基33−94、残基45−94、残基55−94、残基60−94、残基65−94、残基60−88または残基65−88、またはヒトVAMP−1(配列番号96)の残基60−94を含み得るが、これらに限定されない(例えば Shone ら、Eur. J. Biochem. 217: 965-971 (1993) および 米国特許番号5,962,637参照)。要すれば、別のBoNT/B感受性VAMPアイソフォームまたはヒトVAMP−1またはラットもしくはチキンVAMP−2のようなホモログの対応する(相同性ある)セグメントから、近似するBoNT/B認識配列を調製できる。
【0083】
つまり、BoNT/B認識配列は、B血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/B感受性タンパク質のそのようなセグメントに実質的に近似してもよい。表4に描かれるように、BoNT/Bによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびウシVAMP−1およびVAMP−2、ラットVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−2、TorpedoVAMP−1、ウニVAMP、Aplysia VAMP、イカVAMP、C.elegans VAMP、Drosophila n−syb、およびヒルVAMPを含む。つまり、本発明のBoNT/B基質に有用なBoNT/B認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはVAMP−2、マウスVAMP−1またはVAMP−2、ウシVAMP−1またはVAMP−2、ラットVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−2、TorpedoVAMP−1、ウニVAMP、AplysiaVAMP、イカVAMP、C.elegansVAMP、Drosophila n−syb、ヒルVAMP、またはBoNT/Bによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、表4に示すように、BoNT/Bによって切断される本来のVAMPアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されていないことがわかり(図6も参照)、このことは、天然VAMP配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/B基質において許容されることを意味している。
【0084】
【表4−1】

【0085】
【表4−2】

【0086】
【表4−3】

【0087】
本発明はまた、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むC1血清型ボツリヌス毒素(BoNT/C1)認識配列を含むBoNT/C1基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/C1基質を提供する。本発明のBoNT/C1基質は、例えば、syntaxinの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。例えば、本発明のBoNT/C1基質は、ヒトsyntaxinの少なくとも6つの連続する残基であってLys253−Ala254を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、BoNT/C1基質は、Asp-Thr-Lys-Lys-Ala-Val-Lys-Tyr (配列番号:5)またはその模擬ペプチドを含む。
【0088】
本発明のBoNT/C1基質はまた、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。そのようなBoNT/C1基質は、例えば、ヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg198−Ala199を含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。典型的BoNT/C1基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基93−202またはその模擬ペプチドを含む。本発明のすべてのクロストリジウム毒素基質と同様に、様々なドナー・フルオロフォアとアクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/C1基質において有用であり、それにはフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。本発明のBoNT/C1基質に有用なさらなるドナー・フルオロフォアとアクセプターが本明細書中以下に記載される。
【0089】
本明細書で用いる場合、「C1血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/C1認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/C1によって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/C1によって切断される切断容易な結合は、例えば、Lys−AlaまたはArg−Alaである。
【0090】
BoNT/C1認識配列は、C1血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/C1感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよい。表5に示されるように、BoNT/C1による切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、ラット、マウス、およびウシsyntaxin 1Aまたは1B、ラットsyntaxin2および3、ウニsyntaxin、Aplysia syntaxin 1、イカsyntaxin、Drosophila Dsynt1、およびヒルsyntaxin 1を含む。つまり、本発明のBoNT/C1基質に有用なBoNT/C1認識配列は、例えば、ヒト、ラット、マウス、またはウシsyntaxin 1Aまたは1B、ラットsyntaxin2、ラットsyntaxin3、ウニsyntaxin、Aplysia syntaxin 1、イカsyntaxin、Drosophila Dsynt1、およびヒルsyntaxin 1、またはBoNT/C1による切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、BoNT/C1によって切断される本来のsyntaxinアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されていないことがわかり(表5および図7も参照)、このことは、天然BoNT/C1感受性syntaxin配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/C1基質において許容されることを意味している。
【0091】
【表5】

【0092】
様々な天然SNAP−25タンパク質もまたBoNT/C1による切断に感受性があり、それには、ヒト、マウス、およびラットSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25Aおよび25B、およびDrosophilaおよひヒルSNAP−25が含まれる。従って、本発明のBoNT/C1基質に有用なBoNT/C1認識配列は、例えば、ヒト、マウス、またはラットSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25Aまたは25B、TorpedoSNAP−25、ゼブラフィッシュSNAP−25、Drosophila、ヒルSNAP−25またはBoNT/C1による切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。天然syntaxin配列の変異体に関して前述されているように、BoNT/C1によって切断される本来のSNAP−25アミノ酸配列と比較すると、顕著な配列変動性があることがわかり(表2および図5も参照)、このことは、天然SNAP−25配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/C1基質において許容されることを意味している。
【0093】
本発明はさらに、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むD血清型ボツリヌス毒素(BoNT/D)認識配列を含むBoNT/D基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/D基質を提供する。本発明のBoNT/D基質は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Leuを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、本発明のBoNT/D基質は、ヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってLys59−Leu60を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。別の態様において、本発明のBoNT/D基質は、Arg-Asp-Gln-Lys-Leu-Ser-Glu-Leu (配列番号:6)またはその模擬ペプチドを含む。さらなる態様において、本発明のBoNT/D基質は、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116またはその模擬ペプチドを含む。様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/D基質において有用であることは理解される;そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターペアは、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7を含むが、これらに限定されない。本発明のBoNT/D基質に有用なさらなる典型的ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが本明細書中以下に示される。
【0094】
「D血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/D認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/Dによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Dによって切断される切断容易な結合は、例えば、Lys−Leuである。
【0095】
様々なBoNT/D認識配列が当業界でよく知られており、あるいは平凡な方法で規定できる。BoNT/D認識配列は、例えばラットVAMP−2(配列番号:7、Yamasaki ら、J. Biol. Chem. 269:12764 12772 (1994))の残基27−116、残基37−116、残基1−86、残基1−76または残基1−69を含むことができる。従って、BoNT/D認識配列は、例えばラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−69または残基37−69を含むことができる。要すれば、別のBoNT/D感受性VAMPアイソフォームまたはヒトVAMP−1またはヒトVAMP−2のようなホモログの、対応する(相同性ある)セグメントから、近似のBoNT/D認識配列を調製できる。
【0096】
BoNT/D認識配列は、D血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/D感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよい。表5に示されるように、BoNT/Dによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびウシVAMP−1およびVAMP−2、ラットVAMP−1およびVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1およびVAMP−2、Torpedo VAMP−1、Aplysia VAMP、イカVAMP、Drosophila sybおよびn−sybおよびヒルVAMPを含む。つまり、本発明のBoNT/D基質に有用なBoNT/D認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはVAMP−2、マウスVAMP−1またはVAMP−2、ウシVAMP−1またはVAMP−2、ラットVAMP−1またはVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1またはVAMP−2、Torpedo VAMP−1、AplysiaVAMP、イカVAMP、Drosophila sybまたはn−syb、ヒルVAMP、またはBoNT/Dによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、上記表5に示されるように、BoNT/Dによって切断される本来のVAMPアミノ酸配列の比較により、顕著な配列変動性が明らかとなり(図6も参照)、このことは、天然BoNT/D感受性VAMP配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/D基質において許容されることを意味している。
【0097】
本発明はさらに、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むE血清型ボツリヌス毒素(BoNT/E)認識配列を含むBoNT/E基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/E基質を提供する。本発明のBoNT/E基質は、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg−Ileを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。そのようなBoNT/E基質は、例えば、ヒトSNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg180−Ile181を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、BoNT/E基質は、Gln-Ile-Asp-Arg-Ile-Met-Glu-Lys (配列番号:8)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様において、BoNT/E基質は、ヒトSNAP−25(配列番号:2)の残基156−186またはその模擬ペプチドを含む。様々なドナー・フルオロフォアとアクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/E基質において有用である。これらドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせは、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7、および以下にさらに記載される更なるドナー・フルオロフォアおよびアクセプターを含むが、これらに限定されない。
【0098】
本明細書で使用される場合、「E血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/E認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/Eによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Eによって切断される切断容易な結合は、例えば、Arg−Ileである。
【0099】
当業者は、BoNT/E認識配列が、E血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/E感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよいことを認識している。BoNT/Eによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界で知られており、例えば、ヒト、マウスおよびラットSNAP−25、マウスSNAP−23、チキンSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25AおよびSNAP−25B、ゼブラフィッシュSNAP−25、C.elegansSNAP−25およびヒルSNAP−25(表2参照)が含まれる。つまり、本発明のBoNT/E基質に有用なBoNT/E認識配列は、例えば、ヒトSNAP−25、マウスSNAP−25、ラットSNAP−25、マウスSNAP−23、チキンSNAP−25、ゴールドフィッシュSNAP−25AまたはSNAP−25B、C.elegansSNAP−25、ヒルSNAP−25、またはBoNT/Eによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、上記表2および図5に示されるように、BoNT/Eによって切断される本来のSNAP−23およびSNAP−25のアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されていないことがわかり、このことは、天然BoNT/E感受性SNAP−23またはSNAP−25配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/E基質において許容されることを意味している。
【0100】
本発明はまた、(a)ドナー・フルオロフォア、(b)ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および、(c)切断部位を含むA/E血清型ボツリヌス(BoNT/A/E)認識配列を含むBoNT/A/E基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/A/E基質を提供する。本明細書で使用される場合、「A/E血清型ボツリヌス基質」または「BoNT/A/E基質」または「A/E基質」なる用語は、A血清型ボツリヌス毒素またはE血清型ボツリヌス毒素のいずれかによる切断をうけやすい基質を意味する。そのようなA/E血清型ボツリヌス基質はまた、BoNT/AおよびBoNT/E毒素の両方による切断を受けやすい場合もある。本明細書に記載される、または当業界で知られているいずれのBoNT/AまたはBoNT/E認識配列も、本発明のBoNT/A/E基質において有用である。
【0101】
本発明によってさらに提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むF血清型ボツリヌス毒素(BoNT/F)認識配列を含むBoNT/F基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/F基質である。そのようなBoNT/F基質は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Lysを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、BoNT/F基質は、ヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln58−Lys59を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。別の態様において、本発明のBoNT/F基質は、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116、またはその模擬ペプチドを含む。さらなる態様において、BoNT/F基質は、アミノ酸配列Glu-Arg-Asp-Gln-Lys-Leu-Ser-Glu (配列番号:9)またはその模擬ペプチドを含む。蛍光共鳴エネルギー転移の業界における当業者は、様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/F基質において有用であることを理解している。本発明のBoNT/F基質において有用なドナー・フルオロフォア−アクセプターペアの例は、限定はされないが、フルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7、および以下に詳説する更なるドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせを含む。
【0102】
本明細書で用いる場合「F血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/F認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/Fによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Fによって切断される切断容易な結合は、例えば、Gln−Lysである。
【0103】
様々なBoNT/F認識配列が当業界でよく知られており、あるいは平凡な方法で規定できる。BoNT/F認識配列は、例えばラットVAMP−2(配列番号:7、Yamasaki et al., 前述, 1994)の残基27−116、残基37−116、残基1−86、残基1−76または残基1−69を含むことができる。BoNT/F認識配列はまた、例えばラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−69または残基37−69残基を含むことができる。近似のBoNT/F認識配列は、要すれば、別のBoNT/F感受性VAMPアイソフォームまたはヒトVAMP−1またはヒトVAMP−2のようなホモログの、対応する(相同性ある)セグメントから調製できることは理解される。
【0104】
BoNT/F認識配列は、F血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはBoNT/F感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよい。BoNT/Fによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびウシVAMP−1およびVAMP−2、ラットVAMP−1およびVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1およびVAMP−2、Torpedo VAMP−1、Aplysia VAMP、Drosophila sybおよびヒルVAMPを含む(表5参照)。つまり、本発明のBoNT/F基質に有用なBoNT/F認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはVAMP−2、マウスVAMP−1またはVAMP−2、ウシVAMP−1またはVAMP−2、ラットVAMP−1またはVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1またはVAMP−2、Torpedo VAMP−1、Aplysia VAMP、Drosophila syb、ヒルVAMP、またはBoNT/Fによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、上記表5に示されるように、BoNT/Fによって切断される本来のVAMPアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されておらず(図6も参照)、このことは、天然BoNT/F感受性VAMP配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/F基質において許容されることを意味している。
【0105】
本発明はまた、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むG血清型ボツリヌス毒素(BoNT/G)認識配列を含むBoNT/G基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるBoNT/G基質を提供する。BoNT/G基質は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってAla−Alaを含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。そのようなBoNT/G基質は、例えば、ヒトVAMPの少なくとも6つの連続する残基であってAla83−Ala84を含むもの、またはその模擬ペプチドを含むことができる。ある態様において、本発明のBoNT/G基質は、アミノ酸配列Glu-Thr-Ser-Ala-Ala-Lys-Leu-Lys (配列番号:10)またはその模擬ペプチドを含む。他のクロストリジウム毒素基質に関して前述されるように、様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のBoNT/G基質において有用であり、それには、例えばフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7、および本明細書中以下に開示される、または当業界にて周知の、他のドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが含まれる。
【0106】
本明細書で用いる場合「G血清型ボツリヌス毒素認識配列」なる用語は、「BoNT/G認識配列」と同義語であり、適した条件下、BoNT/Gによって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。BoNT/Gによって切断される切断容易な結合は、例えば、Ala−Alaである。
【0107】
BoNT/G認識配列は、G血清型ボツリヌス毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはそのようなBoNT/G感受性セグメントに実質的に近似してもよい。上記表5に示されるように、BoNT/Gによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびウシVAMP−1およびVAMP−2、ラットVAMP−1およびVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1およびVAMP−2、Torpedo VAMP−1、を含む。従って、本発明のBoNT/G基質に有用なBoNT/G認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはVAMP−2、マウスVAMP−1またはVAMP−2、ウシVAMP−1またはVAMP−2、ラットVAMP−1またはVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−1またはVAMP−2、Torpedo VAMP−1、またはBoNT/Gによる切断に感受性のある別の天然タンパク質の、セグメントと一致してよい。さらに、上記表5に示されるように、BoNT/Gによって切断される本来のVAMPアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されておらず(図6も参照)、このことは、天然BoNT/G感受性VAMP配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のBoNT/G基質において許容されることを意味している。
【0108】
本発明によってまた提供されるのは、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含む破傷風毒素(TeNT)認識配列を含むTeNT基質であって、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるTeNT基質である。本発明のTeNT基質は、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。例えば、そのようなTeNT基質は、ヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを有することができる。ある態様において、TeNT基質は、アミノ酸配列Gly-Ala-Ser-Gln-Phe-Glu-Thr-Ser (配列番号:11)またはその模擬ペプチドを含む。別の態様において、TeNT基質は、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基33−94、ヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基25−93、ラットVAMP−2(配列番号:7)の残基27−116、またはこれら配列のうち一つの模擬ペプチドを含む。様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターの組み合わせが本発明のTeNT基質において有用であり、それには、例えばフルオレセイン−テトラメチルローダミン、DABCYL−EDANS、およびAlexa Fluor(登録商標)488−QSY(登録商標)7が含まれるが、これらに限定されない。以下の詳説されるものを含む更なるドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが、本発明のTeNT基質において有用であり得る。
【0109】
「破傷風毒素認識配列」なる用語は、適した条件下、破傷風毒素によって切断容易な結合におけるタンパク分解を検出可能とするのに十分な、切断容易な結合および近接または非近接認識エレメントを意味する。TeNTによって切断される切断容易な結合は、例えば、Gln−Pheであり得る。
【0110】
様々なTeNT認識配列が当業界でよく知られており、あるいは平凡な方法で規定でき、ヒトVAMP−1またはヒトVAMP−2のようなVAMPタンパク質の親水性コアのいくつかまたは全てに相当する配列を含む。TeNT認識配列は、例えばヒトVAMP−2(配列番号:4、Cornille ら、Eur. J. Biochem. 222:173-181 (1994); Foranら、Biochem. 33: 15365-15374 (1994))の残基33−94、ラットVAMP−2(配列番号:7、Yamasaki et al., 前述, 1994)の残基51−93または残基1−89、またはヒトVAMP−1(配列番号96)の残基33−94を含むことができる。TeNT認識配列はまた、例えばヒトVAMP−2(配列番号:4)の残基25−86、残基33−86、または残基51−86を含むことができる。近似のTeNT認識配列は、要すれば、別のTeNT感受性VAMPアイソフォームまたはヒトVAMP−1またはウニまたはAplysia VAMPのようなホモログの、対応する(相同性ある)セグメントから調製できることは理解される。
【0111】
つまり、TeNT認識配列は、破傷風毒素による切断に感受性のあるタンパク質のセグメントに一致してよく、またはTeNT感受性タンパク質のセグメントに実質的に近似してもよい。上記表5に示されるように、TeNTによる切断に感受性のある様々な天然タンパク質が当業界において知られており、例えば、ヒト、マウス、およびウシVAMP−1およびVAMP−2、ラットVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−2、Torpedo VAMP−1、ウニVAMP、Aplysia VAMP、イカVAMP、C.elegans VAMP、Drosophila n−sybおよびヒルVAMPを含む。従って、本発明のTeNT基質に有用なTeNT認識配列は、例えば、ヒトVAMP−1またはVAMP−2、マウスVAMP−1またはVAMP−2、ウシVAMP−1またはVAMP−2、ラットVAMP−2、ラットセルブレビン、チキンVAMP−2、Torpedo VAMP−1、ウニVAMP、Aplysia VAMP、イカVAMP、C.elegans VAMP、Drosophila n−syb、ヒルVAMPまたはTeNTによる切断に感受性のある別の天然タンパク質のセグメントと一致してよい。さらに、TeNTによって切断される本来のVAMPアミノ酸配列を比較すると、そのような配列は完全には保存されていないことがわかり(表5および図6)、このことは、天然TeNT感受性VAMP配列と比較して、様々なアミノ酸置換および改変が本発明のTeNT基質において許容されることを意味している。
【0112】
本発明は、一つには、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、すなわち、エネルギーが分子内長距離双極子カップリング(intramolecular long-range dipole-dipole coupling)を介して励起されたドナー・フルオロフォアからアクセプター(別のフルオロフォアであってもよい)に非放射性に転移される物理学的過程、に依存する。FRETは、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの分子内分離の逆6乗に依存し、また、効果的な転移のため、ドナー・フルオロフォアとアクセプターは近接して、例えば約10Åから約100Åで隔てられている。効果的なエネルギー転移は、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターのスペクトル特性およびそれらの相対配向に依存する。10から100Åを越える効果的な転移のため、ドナー・フルオロフォアの量子収率は一般的に少なくとも0.1であり、アクセプターの吸収係数は一般的に少なくとも1000である(Clegg, Current Opinion in Biotech. 6:103 110 (1995); およびSelvin, Nature Structural Biol. 7:730-734 (2000))参照)。
【0113】
本発明のクロストリジウム毒素基質において、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、ドナー・フルオロフォアが励起された場合にドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが共鳴エネルギー転移を示すよう選択される。ドナー・フルオロフォア/アクセプターペアを選択するにあたり考慮すべき因子の一つは、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間のFRETの効率である。ある態様において本発明は、最適な条件下、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間のFRETの効率が少なくとも10%であるクロストリジウム毒素基質を提供する。別の態様において本発明は、最適な条件下、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間のFRETの効率が少なくとも20%であるクロストリジウム毒素基質を提供する。なお更なる態様において本発明は、最適な条件下、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間のFRETの効率が少なくとも30%、40%、50%、60%、70%または80%である、クロストリジウム毒素基質を提供する。
【0114】
当業界において周知のように、FRETの効率は、Foerster方程式によって示されるように、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの分離距離および配向、およびドナー・フルオロフォアの蛍光量子収率並びにアクセプターとのエネルギー的重複に依存する。特に、FRETの効率(E)は、以下のように測定できる:
E = 1 − FDA/F = 1/(1 + (R/R
(式中、FDAおよびFは、それぞれ、アクセプターの存在または非存在下のドナー・フルオロフォアの蛍光強度であり、Rはドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の距離である。
【0115】
Foerster半径(R)は、共鳴エネルギー転移が50%有効、すなわち、励起ドナー・フルオロフォアの50%がFRETによって不活性化される距離である。Foerster半径(R)の大きさは、ドナー・フルオロフォアの量子収率;アクセプターの消光係数;および、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルの間の重複に依存する。
= [8.8×1023・κ・n−4・QY・J(λ)]1/6
(式中、
κ=双極子配向因子(dipole orientation factor)(レンジ0から4;κ=2/3、ランダムに配向したドナーおよびアクセプターについて)、
QY=アクセプター非存在下におけるドナーの蛍光量子収率、
n=屈折率、
J(λ)=スペクトル重複積分(spectral overlap integral)
=∫ε(λ)・F(λ)・λdλ cm−1
(式中、ε=アクセプターの励起係数、
FD=全積分強度のフラクションとしてのドナー蛍光発光強度である)、
である(Foerster, Ann. Physik 2:55 75 (1948))。
【0116】
様々なドナー・フルオロフォア/アクセプターペアについての典型的Foerster半径値を、以下の表6に示す(Wu and Brand, Analytical Biochem. 218:1-13 (1994)(引用により本明細書に含まれる)も参照)。Foerster半径の総合的一覧もまた、当業界にて知られている(例えば、 Berlman, Energy Transfer Parameters of Aromatic Compounds Academic Press, New York 1973 参照)。さらに、Foerster半径(Ro)の構成因子は環境に依存し、観察される実際の値は一覧の値とは異なることがあることを当業者は認識している。
【0117】
様々な組み合わせにおける多くのドナー・フルオロフォアおよびアクセプターが、いずれも本発明のクロストリジウム毒素基質において有用であり得る。ドナー・フルオロフォアは、一般的に、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルとの間に実質的スペクトル重複が存在するように選択される。さらに、ドナー・フルオロフォアは、例えば、Helium−Cadmium442nmまたはアルゴン488nmのようなレーザー周波数に近い励起極大を有し、それ故レーザー光はドナー・フルオロフォアを励起する効果的手段として機能する。ある態様において、アクセプター部分の発光スペクトルの波長極大は、ドナー・フルオロフォアの励起スペクトルの波長極大より少なくとも10nm大きい。さらなる態様において、アクセプターは、可視スペクトルの赤部分に発光スペクトルを有するフルオロフォアである。さらなる態様において、アクセプターはスペクトルの赤外領域に発光スペクトルを有するフルオロフォアである。様々なドナー・フルオロフォア−アクセプターペア、およびそれらのFoerster半径が、本明細書中表6および7に与えられている。Haugland, Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 6th Edition, Molecular Probes, Inc., Eugene, Oregon, 1996(引用により本明細書に含まれる)も参照。
【0118】
【表6−1】

【0119】
【表6−2】

【0120】
【表6−3】

【0121】
【表6−4】

【0122】
【表6−5】

【0123】
【表6−6】

【0124】
【表6−7】

【0125】
ANAI, 2−アントラセンス(anthracence) N−アセチルイミダゾール;
BPE, B−フィコエリトリン;
CF, カルボキシフルオレセインスクシニミジルエステル;
CPM, 7−ジエチルアミノ−3−(4'−マレイミジルフェニル)−4メチルクマリン;CY5, カルボキシメチルインドシアニン−N−ヒドロキシスクシニミジルエステル;
diI−C18, 1,1'−ジオクタデシル−3−3,3,3',3'−テトラメチル−インドカルボシアニン;
diO−C14, 3,3'−ジテトラデシルオキサカルボシアニン;
DABM, 4−ジメチルアミノフェニルアゾ−フェニル−4'−マレイミド;
DACM, (7−(ジメチルアミノ)クマリン−4−イル)−アセチル;
DANZ, ダンシルアジリジン(dansylaziridine); DDPM, N−(4−ジメチルアミノ−3,5−ジニトロフェニル)マレイミド;
DMAMS, ジメチルアミノ−4−マレイミドスチルベン(maleimidostilbene);
DSMN, N−(2,5'−ジメトキシスチベン(dimethoxystiben)−4−イル)−マレイミド;
DNP, 2,4−ジニトロフェニル;
ε−A, 1,N−エタノアデノシン;
EIA, 5−ヨードアセテトアミド(iodoacetetamido)エオシン;
EITC, エオシン−5−イソチオシアネート;
ENAI, エオシン N−acETYLIMIDAZOLE;
EM, エオシンマレイミド;
ErITC, エリスロシン−5'-イソチオシアネート;
ETSC, エオシン チオセミカラジド(thiosemicarazide);
DNB, 1,5−ジフルロ−2,4'−ジニトロベンゼン;
DPS, 4,4'−ジフルオロ−3,3'−ジニトロフェニルスルフォン;
FITC, フルオレセインチオセミカルバジド;
IAANS, 2−(4'−ヨードアセトアミド)アニリーノ)ナフタレン−6−スルホン酸;
IAEDANS, 5−(2−((ヨードアセチル)アミノ)エチル)アミノ)−ナフタレン−1−スルホン酸;
IAF, 5−ヨードアセトアミドフルオレセイン;
IANBD, N−((2−(ヨードアセトキシ)エチル)−N−メチル)アミノ−7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール;
IPM, 3(4−イソチオシアネートフェニル)7−ジエチル−4−アミノ−4−メチルクマリン;
ISA, 4−(ヨードアセトアミド)サリチル酸;
LRH, リスアミンローダミン(lissaminerhodamine);
LY, ルシファーイエロー;
mBBR, モノブロモビアマン(monobromobiamane);
MNA, (2−メトキシ−1−ナフチル)−メチル;
NAA, 2−ナフトキシアセチル酸;
NBD, 7−ニトロ−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール(benzoxadiazol)−4−イル;
NCP, N−シクロヘキシル−N'−(1−ピレニル)カルボジイミド;
ODR, オクタデシルローダミン;
PM, N−(1−ピレン)−マレイミド;
SRH, スルホローダミン;
TMR, テトラメチルローダミン;
TNP, トリニトロフェニル; および
TR, テキサスレッド。
【0126】
トリプトファンまたはチロシンのような芳香族アミノ酸はまた、本発明のクロストリジウム毒素基質において有用なドナー・フルオロフォアであり得る。トリプトファンまたはチロシンがドナー・フルオロフォアである典型的ドナー・フルオロフォア−アクセプターペア、および適当なFoerster距離は、以下の表7に示される。修飾アミノ酸もまた、本発明のクロストリジウム毒素基質においてドナー・フルオロフォアまたはアクセプターとして有用であり得る。そのような蛍光またはクエンチング修飾アミノ酸は当業界において既知であり、例えば、蛍光アミノ酸であるL−ピレニルアラニン(Pya)および非蛍光アクセプターであるp−ニトロフェニルアラニン(Nop)を含む(例えば、Anne et al., Analytical Biochem. 291:253-261 (2001)に記載)。
【0127】
【表7−1】

【0128】
【表7−2】

【0129】
上記観点から、様々なドナー・フルオロフォア/アクセプターペアが本発明のクロストリジウム毒素基質において有用であることが理解される。本発明において有用なドナー・フルオロフォア−アクセプターペアは、例えば、ROX(6−カルボキシ-X-ローダミン;Applied Biosystems Division of Perkin Elmer Corporation; Foster City, CA);TAMRA(N,N,N’,N−テトラメチル−6−カルボキシ−ローダミン;Applied Biosystems);ローダミン;テキサスレッドまたはエオシンであり得る。本発明において有用なドナー・フルオロフォア−アクセプターペアはまた、例えば、ドナーフルオロフォアカスケードブルー(アクセプターとしてフルオレセイン);ドナー・フルオロフォアBODIPY(登録商標)530/550 (4,4−ジフルオロ−5,7−ジフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン(indacene)、アクセプターとしてのBODIPY(登録商標)542/563(4,4−ジフルオロ−5−p−メトキシフェニル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン)との組み合わせ);またはBODIPY(登録商標)542/563(4,4−ジフルオロ−5−p−メトキシフェニル−4−ボラ-3a,4a−ジアザ−S−インダセン、アクセプターとしてのBODIPY(登録商標)564/570(4,4−ジフルオロ−5−スチリル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン)との組み合わせ)。BODIPY(登録商標)の名前の後の数字は、該分子の励起極大および発光極大を反映する;BODIPY(登録商標)化合物は、Molecular Probes (Eugene Oregon)から市販されている。
【0130】
ある態様において、ドナー・フルオロフォアはフルオレセインである。さらなる態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォアとしてフルオレセインを、アクセプターとしてテトラメチルローダミンを含む。そのような基質は、480nmから505nmの範囲で、例えば、488nmまたは492nmで励起でき、発光は520nm(λemフルオレセイン)、585nm(λemテトラメチルローダミン)、またはその両方で検出できる。クロストリジウム毒素切断部位における基質の切断前は、テトラメチルローダミン発光強度は、フルオレセインのものよりも大きい。基質切断の結果、テトラメチルローダミンに対するフルオレセインの強度の比率が変化する。一般的に切断により、フルオレセインが主に発光するフルオロフォアとなる。フルオレセインおよびテトラメチルローダミンを含むタンパク質およびペプチドを調製する方法は、当業界において周知である(例えば、 Matsumoto et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 10:1857 1861 (2000)参照)。
【0131】
本発明の基質において有用なドナー・フルオロフォアはまた、例えば、EDANS (λAb340nM, λEm490nm)であり、それはDABCYLのようなアクセプターと組み合わせることができる。DABCYLおよびEDANSを本発明のクロストリジウム毒素基質と組み合わせた場合、切断前の基質においてエネルギーがEDANSドナー・フルオロフォアからDABCYLアクセプターへ転移し、その結果EDANS発光蛍光がクエンチングされる。毒素切断部位の切断後、切断されたEDANS製品の蛍光は増加し、例えば遊離ドナー・フルオロフォアレベルまで回復し得る。切断前の基質における効率的な蛍光クエンチングは、EDANS発光スペクトルおよびDABCYL吸収スペクトルの好ましいエネルギー的重複、およびEDANSドナー・フルオロフォアの比較的長い励起状態寿命の結果として生じる(Wang et al., Tetrahedron Lett. 31:6493-6496 (1991); Holskin et al., Anal. Biochem. 226:148-155 (1995); および Wang et al., Anal. Biochem. 210:351-359 (1993))。
【0132】
ダンシル(DNSまたは5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホニル)もまた、本発明の基質においてドナー・フルオロフォアまたはアクセプターとして有用であり得る。ある態様において、本発明のクロストリジウム毒素基質は、ダンシルをドナー・フルオロフォアとして含む;ダンシル・ドナーは、例えば、ダンシル・ドナー・フルオロフォアと近接する場合にクエンチャーとして働く、Phe(pNO2)のようなニトロフェニル残基アクセプターと組み合わせることができる。例えばニトロフェニル残基と組み合わせた、ダンシル・ドナー・フルオロフォアを含有する基質は、例えばFlorentinら、Anal. Biochem. 141:62-69 (1984) または Goudreauら、Anal. Biochem. 219:87-95 (1994)に記載されるように調製できる。別の態様において、クロストリジウム毒素基質は、アクセプターとしてダンシルを含む。ダンシル・アクセプターは、例えばTrp(λex290nm, λem360nm)のようなドナー・フルオロフォアと組み合わせた場合、クエンチャーとして機能しうる。Trpおよびダンシルを含む基質において、Trp蛍光は、ダンシル基へのエネルギー転移によって60%クエンチングでき、このクエンチングは、毒素切断部位における毒素プロテアーゼ活性の存在下、顕著に減少または消失し得る(例えば、Geoghegan et al., FEBS Letters 262:119-122 (1990)参照)。
【0133】
十分分離した発光極大を有するドナー−アクセプターペアが、本発明の基質および方法において有用であり得ることは理解される;十分分離した発光極大により、ドナー発光の混入のなく、変化したアクセプター発光の検出が可能になる。ドナー・フルオロフォアもしくはアクセプター、またはその両方が、例えば、近赤外(例えば650nmより大)において、発光することができる。そのような近赤外発光ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、Cy5、Cy5.5およびCy7のようなシアニン色素を含む(Selvin, 前述, 2000)。ある態様において、本発明は、Cy3およびCy5をドナー・フルオロフォア−アクセプターペアとして含む、クロストリジウム毒素基質を提供する;Cy3は最大570nmで発光し、Cy5は最大670nmで発光する。そのようなシアニン色素は、例えば Gruber et al., Bioconj. Chem. 11:161-166 (2000) に記載されるように、簡単な合成により調製できる。
【0134】
本発明のクロストリジウム毒素基質において有用なドナー・フルオロフォアはまた、例えば、希土類元素としてもまた知られるラントニド原子であってよい。テルビウム(Tb)、ユーロピウム(Eu)、ジスプロシウム(Dy)およびサマリウム(Sm)のようなランタニドは、鋭く突き立った波長、励起パルスに続くミリ秒の寿命を有し、極性がなく、かつ高量子収率を有する。テルビウムまたはユーロピウムキレートのようなランタニド・ドナー・フルオロフォアは、有機色素アクセプターを含む様々なアクセプターと組み合わせることができる。Euキレート・ドナー・フルオロフォアは、例えば、アロフィコシアニン(APC)と組み合わせることができ、Tbキレート・ドナー・フルオロフォアは、例えば、テトラメチルローダミンと組み合わせることができる。直接励起によるバックグラウンド蛍光は時間的に除かれる;有機アクセプターの寿命は、一般的に、ナノ秒範囲内であり、一方、感光発光はドナー・フルオロフォアの寿命に従い、マイクロ秒からミリ秒のオーダーである(Selvin, 前述, 2000参照)。従って、共鳴エネルギー転移の測定は、励起に続いて非特異的干渉蛍光が退色した後、比較的後の段階で開始できる。ランタニドキレートは当業界にて周知であり、例えばEG&G(登録商標)Wallac (Turku, Finland)から市販されている。
【0135】
本発明において有用なドナー・フルオロフォアはまた、周知のフルオロフォア(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル (Mca)であってよく、それはクエンチャーである2,4−ジニトロフェニル(Dnp)のようなアクセプターと組み合わせることができる。例えば、Kakiuchiら、J. Virol. Methods 80:77-84 (1999)参照。本発明のクロストリジウム毒素基質においてMcaがDnpのような適切なクエンチャーと組み合わされると、クロストリジウム毒素切断部位における切断後、増加したMca(λEm393nm)からのドナー発光蛍光が検出され、それは毒素プロテアーゼ活性を示す。
【0136】
本発明のクロストリジウム毒素基質において有用なドナー・フルオロフォアはまた、例えば、2−アミノベンゾイル(Abz)基であり、要すれば、2,4−ジニトロフェニル(Dnp)のようなクエンチャーと組み合わせることができる。切断前のクロストリジウム毒素基質において、Dnp基は、共鳴エネルギー転移によってAbz基の蛍光をクエンチングする;基質のタンパク分解的切断はクエンチングを解放し、その結果放出されたAbzフラグメントの濃度に比例して蛍光が増加する。例えば、Abzをアミノ末端に含み、かつリジンのようなDnp誘導体化残基を含むクロストリジウム毒素基質は、例えば Le Bonniec et al., Biochemistry 35:7114-7122 (1996)に記載される平凡な方法によって調製可能である。
【0137】
本発明のクロストリジウム毒素基質において有用なドナー・フルオロフォアはまた、Molecular Probes (Eugene, OR)から市販されるAlexa Fluor(登録商標)色素であり得る。本発明において有用なAlexa Fluor(登録商標)色素は、例えば、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)430、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)532、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、Alexa Fluor(登録商標)660およびAlexa Fluor(登録商標)680である。
【0138】
本発明において有用なドナー・フルオロフォアまたはアクセプターはまた、遺伝的にコードされた色素、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、またはdsRed(BD Biosciences Clontech; Palo Alto, CA)のような赤色蛍光タンパク質であってよい。そのような遺伝的コード・ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、例えばSelvin, 前述, 2000 および Mahajan et al., Chemistry and Biology 6:401-409 (1999)に記載されているように、当業界にて周知である。例えば、CFPは433nmに励起極大を、476nmに発光極大を有し、アクセプターとしてのYFP(527nmに発光極大)と組み合わせて、ドナー・フルオロフォアとして使用できる。要すれば、BFPは、アクセプターとしてのGFPと組み合わせてドナー・フルオロフォアとして使用でき、または、CFPは、アクセプターとしてのYFPと組み合わせてドナー・フルオロフォアとして使用できる。Aequorea関連蛍光タンパク質を含む、更なる遺伝的コード・ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、例えば米国特許番号5,981,200に記載されるように、当業界にて周知である。GFP、BFP、CFP、またはYFPのような遺伝的コード色素は、互いにFRETペアを形成することができ、あるいは他の適したドナー・フルオロフォアまたはアクセプターと組み合わせることができる。ある態様において本発明は、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターの両方が遺伝的にコードされているクロストリジウム毒素基質を提供する。所望の毒素認識配列は、選択したドナー・フルオロフォア/アクセプターペアの間に切断部位があり、かつ基質を例えば細菌中で発現させ精製するように設計できる。
【0139】
別の態様において本発明は、少なくともミリ秒の長い蛍光寿命を有するフルオロフォアであるアクセプターを含む、クロストリジウム毒素基質を提供する。不純物の蛍光寿命は一般にナノ秒単位なので、そのようなアクセプターは蛍光発光の時間分解測定を可能にし、シグナル対ノイズ比率を増強できる。時間分解蛍光に有用なドナー・フルオロフォア/アクセプターペアは、例えば、105kDaのフィコビリプロテイン(phycobiliprotein)・アクセプター・フルオロフォアであるアロフィコシアニンと組み合わせた、Euトリスビピリジン(trisbipyridine)クリプテート(TBP−EU3+, λEx 337 nm)のようなユーロピウムクリプテート・ドナー・フルオロフォアである(Sittampalam et al., Curr. Opin. Chem. Biol. 1:384-391 (1997))。Euトリスビピリジンクリプテートは、光を取り込み、それをケージ化EU3+へと導く二つのビピリジル基を有する;このドナー・フルオロフォアは、長い蛍光寿命を有し、アロフィコシアニンに近接したときに非放射性にエネルギーをそのアクセプターに転移し、ドナー・フルオロフォア−アクセプター距離9.5nmで50%より大きい転移効率を示す。TBP−EU3+およびアロフィコシアニンの両者およびそれらの分光学的特性は、生物学的培地中で非常に安定であり、アロフィコシアニンはドナーの長い寿命に従い発光し(λEm=665nm)、時間分解検出を可能にする(Kolb et al., J. Biomol. Screening 1:203-210 (1996))。そのようなドナー・フルオロフォア−アクセプターペアを含む基質の調製方法は、例えば、Kolb et al., 前述, 1996、および、Sittampalam et al., 前述, 1997に記載されるように、当業界にて周知である。
【0140】
さらなる態様において本発明は、しばしば「真のクエンチャー」として示される、非蛍光アクセプターに依存する。非蛍光アクセプターは、例えば、直接的(非感光)アクセプター励起の結果生じるバックグラウンド蛍光を除去するのに有用であり得る。様々な非蛍光アクセプターが当業界にて知られており、例えば、DABCYLおよびQSY(登録商標)7色素が含まれる(Molecular Probes, 前述, 1996参照)。
【0141】
本発明のクロストリジウム毒素基質は、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターの間に位置するクロストリジウム毒素基質切断部位を含む。ある態様において、ドナー・フルオロフォアは該切断部位のアミノ末端に位置し、一方アクセプターは該切断部位のカルボキシ末端に位置する。別の態様においては、ドナー・フルオロフォアは該切断部位のカルボキシ末端に位置し、一方アクセプターは該切断部位のアミノ末端に位置する。
【0142】
当業者は、本発明のクロストリジウム毒素基質においてドナー・フルオロフォアおよびアクセプターを選択し、そして位置づけるのにはいくつか考慮する点があることを理解している。ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは一般に、クロストリジウム毒素に対する基質結合または該毒素によるタンパク分解への障害を最小限にするように位置づけられる。従ってドナー・フルオロフォアおよびアクセプターを、例えば、(基質)結合に重要である、結合または非結合相互作用の崩壊を最小限にするように、かつ立体障害を最小限にするように、選択し位置づけることができる。さらに、アクセプターおよびドナー・フルオロフォアの間の空間距離は、一般に、ドナー・フルオロフォアからアクセプターへの効率的エネルギー転移を達成するよう限定される。
【0143】
前述のように、ドナー・フルオロフォアからアクセプターへのエネルギー転移の効率は
、一つには、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプター分子の空間分離に依存する。ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の距離が増加するにつれて、アクセプターへのエネルギー転移が小さくなり、それゆえ、切断前であっても、ドナー・フルオロフォアシグナルが増加する。基質切断後のドナー・フルオロフォアの蛍光収量の全体的増加は、基質におけるドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の分離距離、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターの間のスペクトル重複、およびアッセイに使用される基質の濃度を含む、多くの因子に依存する。基質濃度が増加すると、ドナーの分子間クエンチングがタンパク分解切断後であっても一因子になりうることを当業者は理解している。この減少は「内部フィルター効果」と表される(以下参照)。
【0144】
Foerster距離、即ち50%エネルギー転移のためのドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の分離は、優れた感受性を与えるドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の空間分離を意味する。ペプチド基質について、近接する残基は、最も広がった構造において約3.6Åの距離によって隔てられている。例えば、フルオレセイン/テトラメチルローダミンペアについて計算したFoerster距離は55Åであり、それは最も広がった構造におけるフルオレセインとテトラメチルローダミンの間の約15残基の空間分離を意味する。溶液中のペプチドおよび模擬ペプチドは完全に広がった構造を有することはまれなので、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、一残基につき3.6Åを用いて行った計算に基づいて期待されるよりもより広く隔てられているが、依然としてFoerster距離内に留まっている場合がある。
【0145】
Foerster理論は、ドナー・フルオロフォアとアクセプターの間の非常に弱い相互作用に基づく;一方のフルオロフォアの、吸収のような分光学的性質は、他方の存在下で変化を受けるべきではなく、該理論が有効な最短距離範囲を規定する。多くのドナー・フルオロフォア−アクセプターペアにとって、ドナー・フルオロフォアとアクセプターが約10Åから100Åの距離によって隔てられている場合に、Foerster理論は有効である。しかしながら、特定のドナー・フルオロフォア−アクセプターペアにとっては、Foerster理論は、サブピコ秒技術によって測定されるように10Å以下で有効である(Kaschke and Ernsting, Ultrafast Phenomenon in Spectroscopy (Klose and Wilhelmi (Eds.)) Springer-Verlag, Berlin 1990。
【0146】
従って、ある態様において本発明は、ドナー・フルオロフォアが最大100Åの距離でアクセプターから隔てられているクロストリジウム毒素基質を提供する。他の態様において、本発明は、ドナー・フルオロフォアが最大90Å、80Å、70Å、60Å、50Å、40Å、30Åまたは20Åの距離でアクセプターから隔てられている、クロストリジウム毒素基質を提供する。さらなる態様において、本発明は、ドナー・フルオロフォアが10Åから100Å、10Åから80Å、10Åから60Å、10Åから40Å、10Åから20Å、20Åから100Å、20Åから80Å、20Åから60Å、20Åから40Å、40Åから100Å、40Åから80Åまたは40Åから60Åの距離でアクセプターから隔てられている、クロストリジウム毒素基質を提供する。
【0147】
当業者は、本発明のクロストリジウム毒素基質を、FRETの効率およびプロテアーゼ活性の検出能力を最適化するように設計できることを理解している。当業者は、要すれば、高量子収率を有するドナー・フルオロフォアを選択することができ、また要すれば、Foerster距離を最大化するため、高消光係数を有するアクセプターを選択することができることを理解している。当業者はさらに、アクセプターの直接励起により生じる蛍光は、共鳴エネルギー転移の結果生じる蛍光と区別するのが難しい場合があることを理解している。従って、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、アクセプターを直接励起しない波長においてドナーを励起できるように、それらの励起スペクトルの重複が比較的小さいものを選択することができる。さらに、本発明のクロストリジウム毒素基質は、二つの発光が容易に区別できるように、ドナー・フルオロフォアおよびアクセプターの発光スペクトルが比較的小さくしか重複しないように設計できることが認識されている。要すれば、高蛍光量子収率を有するアクセプターを選択することができる;アクセプター蛍光発光をクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性の唯一の指標として、または発光比率の一部分として検出するならば、そのようなアクセプターが好ましい(以下参照)。
【0148】
ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者は、ボツリヌスまたは破傷風毒素ホロ酵素の活性部位キャビティー内に位置することが可能であることは理解される。当業者は、要すれば、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者が、毒素と結合した場合に毒素ホロ酵素の活性部位キャビティーから排除されるように、クロストリジウム毒素基質を設計できることを理解している。従って、ある態様において、本発明は、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者が、毒素と結合した場合にクロストリジウム毒素ホロ酵素の活性部位キャビティーから排除される、ボツリヌス毒素基質または破傷風毒素基質を提供する。本発明は、例えば、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者が、毒素と結合した場合に毒素ホロ酵素の活性部位キャビティーから排除される、BONT/A、BONT/B、BONT/C1、BONT/D、BONT/E、BONT/FまたはBONT/G基質を提供する。ある態様において、本発明は、ヒトSNAP−25の少なくとも6つの残基であってGln197−Arg198を含むものを含有するBoNT/A基質であって、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者が、BoNT/Aホロ酵素の活性部位キャビティー内に存在し得る残基Arg191からMet202の間に位置しないものを提供する。他の態様において、本発明は、VAMP−2の少なくとも6つの残基であってGln76−Phe77を含むものを含有するBoNT/B基質であって、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、またはその両者が、BoNT/Bホロ酵素の活性部位キャビティー内に存在する残基Leu70からAla81の間に位置しないもの提供する。
【0149】
VAMP基質およびBoNT/B軽鎖(LC/B)複合体において、水素結合アクセプターまたはドナーを含有する側鎖を有するVAMP残基のほとんど全てが、LC/Bと水素結合していた。従って本発明のクロストリジウム毒素基質は、要すれば、例えばSer、Thr、Tyr、Asp、Glu、AsnまたはGln残基による水素結合の可能性が、該クロストリジウム毒素基質において、その毒素による切断に感受性のある本来のタンパク質と比較して減少しないように調製できることは理解できる。つまり、具体的態様において本発明は、水素結合の可能性が、対応するボツリヌスまたは破傷風毒素による切断に感受性のある本来のタンパク質と比較してそのクロストリジウム毒素基質において減少していない、クロストリジウム毒素基質を提供する。
【0150】
ドナー・フルオロフォア、アクセプター、およびクロストリジウム毒素基質認識配列に加えて、本発明のクロストリジウム毒素基質は、要すれば、1つまたはそれ以上の更なる構成要素を含むことができることは理解される。例として、GGGGS(配列番号:84)のような柔軟性あるスペーサー配列が本発明のクロストリジウム毒素基質に含まれ得る。基質はさらにまた、以下のうち1つまたはそれ以上(但しこれらに限定されない)を含むことができる:アフィニティータグ、例えば、HIS6、ビオチン、または、FLAG、ヘマグルチニン(HA)、c−mycまたはAU1のようなエピトープ;イムノグロブリンヒンジ領域;N−ヒドロキシスクシニミドリンカー;ヘアピンターンペプチドまたは模擬ペプチド;または、親水性配列、もしくはクロストリジウム毒素基質の溶解性または安定性を促進する他の構成要素または配列。
【0151】
タンパク質、ペプチド、および模擬ペプチドをドナー・フルオロフォアまたはアクセプターを含むように修飾する方法は、当業界にて周知である(Fairclough and Cantor, Methods Enzymol. 48:347-379 (1978); Glaser et al., Chemical Modification of Proteins Elsevier Biochemical Press, Amsterdam (1975); Haugland, Excited States of Biopolymers (Steiner Ed.) pp. 29-58, Plenum Press, New York (1983); Means and Feeney, Bioconjugate Chem. 1:2-12 (1990); Matthews et al., Methods Enzymol. 208:468-496 (1991); Lundblad, Chemical Reagents for Protein Modification 2nd Ed., CRC Press, Boca Ratan, Florida (1991); Haugland, 前述, 1996)。ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターを、例えばクロストリジウム毒素認識配列を含むペプチドまたは模擬ペプチドにつなぐのに、様々な基が使用できる。本発明のクロストリジウム毒素基質を生産するため、ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターをペプチドまたは模擬ペプチドの所望の位置とつなぐのに、例えばチオール基を使用することができる。ハロアセチルおよびマレイミド標識試薬もまた、本発明の基質の調製においてドナー・フルオロフォアまたはアクセプターをつなぐのに使用できる(例えば Wu and Brand, 前述, 1994参照)。
【0152】
GFPおよびアロフィコシアニン(APC)のようなタンパク質を含むドナー・フルオロフォアおよびアクセプターは、様々な手段によってクロストリジウム毒素認識配列に連結することができる。ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターは、クロス−リンカー部分を介する化学的手段によって連結できる。クロス−リンカーは当業界にて周知であり、例えばBMHおよびSPDPのような、ホモ−またはヘテロ−二機能クロス−リンカーを含む。ドナー・フルオロフォアまたはアクセプターがタンパク質である場合、タンパク質のアミノ−またはカルボキシ−末端に特異的に分子を連結するため、周知の化学的方法を用いることができる。例えば、Protein Engineering− A Practical Approach, Rees et al. (Eds) Oxford University Press, 1992の、”Chemical Approaches to Protein Engineering”参照。
【0153】
当業者は、ドナー・フルオロフォアのみを含む基質が混入すると、高蛍光バックグラウンドが生じうることを理解している。そのようなバックグラウンドは、例えば、クロストリジウム毒素基質の調製において、ドナー・フルオロフォアに対して比較的過剰のアクセプターを使用することにより減少させる、または防ぐことができる。
【0154】
本発明はまた、試料中のクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を測定するためのキットを提供する。キットは、本発明のクロストリジウム毒素基質をバイアルまたは他の容器中に含む。一般的にキットはまた、使用のための説明書も含む。ある態様において、本発明のキットはさらに、陽性対照として、キットに含まれるクロストリジウム毒素基質を切断できる既知量のボツリヌスまたは破傷風毒素を含む。別の態様において、キットは、本発明のクロストリジウム毒素基質を含み、さらに陽性対照として切断産物の一方または両方を含む。具体的態様において、キットは、本発明のクロストリジウム毒素基質、および、陽性対照として、ドナー・フルオロフォアを含む対応する切断産物を含む。本発明のキットは、任意で、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した緩衝液を伴う容器も含むことができる。本明細書中以下にさらに記載されるように、本発明の方法はクロストリジウム毒素基質を組み合わせて行うことができる。従って、ある態様において本発明は、本発明のクロストリジウム毒素基質を少なくとも二つ含む、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を測定するためのキットを提供する。
【0155】
本発明はまた、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を検出するのに有用なクロストリジウム毒素標的を提供する。クロストリジウム毒素標的は、ポリペプチド、ペプチドまたは模擬ペプチドであって、ドナー・フルオロフォア、アクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるものを提供する。エネルギーは、例えば、衝突エネルギー転移を介して転移でき、アクセプターが、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有することを必要としない。そのようなクロストリジウム毒素標的は、例えば、ボツリヌス毒素認識配列を含むことができる。本明細書に開示されるクロストリジウム毒素認識配列はいずれも、本発明のクロストリジウム毒素標的において有用であり得る。衝突エネルギー転移が示されるようなドナー・フルオロフォアおよびアクセプターの選択および位置づけは当業界にて周知であり、例えば、Gershkkovich and Kholodovych, J. Biochem. Biophys. Methods 33:135-162 (1996)に記載される。
【0156】
本発明はまた、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を測定する方法を提供する。そのような方法は、一つには、それらが迅速なスクリーニングに受け入れられやすく、かつ非切断基質から切断産物を分離する必要がないため価値がある。さらに、本発明の方法は、未精製試料および高度精製二本鎖毒素に適用可能であり、さらに、以下に詳説されるように、クロストリジウム毒素軽鎖に適用可能である。本発明の方法は、(a)クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下、ドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター、および切断部位を含むクロストリジウム毒素認識配列を含み、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるクロストリジウム毒素基質により試料を処置し、(b)ドナー・フルオロフォアを励起し、そして(c)対照基質と対比して処置済基質の共鳴エネルギー転移を測定する段階を含み、ここで、対照基質と比較した処置済基質の共鳴エネルギー転移における相違がクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。本発明の方法は、フルオロフォアであるアクセプターを用いて、または非蛍光アクセプターを用いて行うことができる。
【0157】
本発明の方法は、いずれのクロストリジウム毒素のプロテアーゼ活性を測定するのにも使用することができる。ある態様において、本発明の方法は、BoNT/Aプロテアーゼ活性を測定するためにBoNT/A基質に依存する。本発明の方法に有用なBoNT/A基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/A基質であってもよく、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってGln−Argを含むものを含有するBoNT/A基質である。別の態様において、本発明の方法は、BoNT/Bプロテアーゼ活性を測定するのにBoNT/B基質に依存する。本発明の方法に有用なBoNT/B基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/B基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むものを含有するBoNT/B基質である。本発明の方法はまた、BoNT/C1プロテアーゼ活性を測定するのにBoNT/C1基質を利用することができる。本発明の方法に有用なBoNT/C1基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/C1基質であってもよく、例えば、syntaxinの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Alaを含むもの、またはArg−Alaを含むものを含有する、BoNT/B基質である。
【0158】
別の態様において、本発明の方法は、BoNT/Dプロテアーゼ活性を測定するためにBoNT/D基質に依存する。本発明の方法に有用なBoNT/D基質は、本明細書に開示されるBoNT/D基質のいずれであってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってLys−Leuを含むものを含有するBoNT/D基質である。さらなる態様において、本発明の方法は、BoNT/Eプロテアーゼ活性を測定するのにBoNT/E基質に依存する。本発明の方法に有用なBoNT/E基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/E基質であってもよく、例えば、SNAP−25の少なくとも6つの連続する残基であってArg−Ileを含むものを含有するBoNT/E基質である。なお更なる態様において、本発明の方法は、BoNT/Fプロテアーゼ活性を測定するのにBoNT/F基質に依存する。本発明の方法に有用なBoNT/F基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/F基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Lysを含むものを含有するBoNT/F基質である。
【0159】
本発明の方法はまた、BoNT/Gプロテアーゼ活性を測定するのにBoNT/G基質を利用することができる。本発明の方法に有用なBoNT/G基質は、本明細書に開示されるいずれのBoNT/G基質であってもよく、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってAla−Alaを含むものを含有するBoNT/G基質である。本発明の方法はまた、TeNTプロテアーゼ活性を測定するのに有用であり、この場合、TeNT基質に依存する。本明細書に開示されるTeNT基質はいずれも本発明の方法に有用であり得るもので、例えば、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むものを含有するTeNT基質である。
【0160】
本発明の方法においては様々な試料が有用である。そのような試料は、未精製細胞溶解物;単離クロストリジウム毒素;単離クロストリジウム毒素軽鎖;製剤化クロストリジウム毒素製品、例えば、BOTOX(登録商標);および、生、調理済、半調理済および加工済食物および飲物を含む飲食物を含むが、これらに限定されない。
【0161】
本発明の方法において、共鳴エネルギー転移は、様々な手段によって測定することができる。ある態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、処置済基質のドナー蛍光強度を検出することを含み、ここで、対照基質と比較して増加した処置済基質のドナー蛍光強度は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。別の態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、処置済基質のアクセプター蛍光強度を検出すること含み、ここで、対照基質と比較して減少した処置済基質のアクセプター蛍光強度は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。さらなる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、アクセプター発光極大およびドナー・フルオロフォア発光極大を検出することを含み、ここで、アクセプター発光極大付近からドナー・フルオロフォア発光極大付近への発光極大におけるシフトは、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。さらなる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、アクセプター発光極大付近の蛍光振幅の、ドナー・フルオロフォア発光極大付近の蛍光振幅に対する比率を検出することを含み、ここで対照試料と比較して減少した処置済試料における比率は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。なおさらなる態様において、共鳴エネルギー転移を測定する段階は、処置済基質のドナー・フルオロフォアの励起状態寿命を検出することによって行われ、ここで、対照基質と比較して増加した処置済基質のドナー・フルオロフォア励起状態寿命は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。
【0162】
以下に詳説するように、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した様々な条件が本発明の方法において有用である。例えば、少なくとも10%の基質が切断されるようにクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を規定することができる。同様に、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%のクロストリジウム毒素基質が切断されるように、または100%のクロストリジウム毒素基質が切断されるように、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を規定することができる。ある態様においては、アッセイが線形となるようクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を選択する。別の態様においては、少なくとも90%のクロストリジウム毒素基質が切断されるようにクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を規定する。さらなる態様においては、最大25%のクロストリジウム毒素基質が切断されるようにクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を規定する。なお更なる態様においては、最大20%、最大15%、最大10%、または最大5%のクロストリジウム毒素基質が切断されるようにクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件を規定する。
【0163】
本明細書で用いる場合、「試料」なる用語は、活性クロストリジウム毒素、または軽鎖あるいはそのタンパク分解活性フラグメントを含む、または含む可能性のある、生物学的物質を意味する。従って、試料なる用語は、精製または半精製クロストリジウム毒素;天然または非天然配列を有する組換え一本鎖または二本鎖毒素;複数のクロストリジウム毒素種またはサブタイプに由来する構造エレメントを含むキメラ毒素;天然または非天然配列を有する組換え毒素軽鎖;バルク毒素;製剤化製品;細胞、または未精製、分画化または半精製細胞溶解物であって、例えば、クロストリジウム毒素またはその軽鎖をコードする組換え核酸を含むように設計されたもの(細菌、バキュロウィルスおよび酵母溶解物を含む);生、調理済、半調理済または加工済食物;飲物;動物飼料;土壌試料;水試料; 池堆積物;ローション;化粧品;および臨床製剤を包含するが、これらに限定されない。さらに、試料なる用語は組織試料を含み、それは哺乳類試料、および霊長類およびヒト試料(これらに限定されない)を含み、また、例えば幼児腸試料のような腸試料および傷から得られた試料を包含することが理解される。従って本発明の方法は、限定はされないが、以下ものに有用であり得ることが理解される:食物または飲物中のクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性のアッセイ;ヒトまたは動物(例えば、クロストリジウム毒素にさらされたもの、または1つまたはそれ以上のクロストリジウム毒素症状を有するもの)由来の試料のアッセイ;クロストリジウム毒素の生産および精製中の活性の追跡、および製剤化クロストリジウム毒素製品(医薬品および化粧品を含む)のアッセイ。
【0164】
本発明の方法は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を有するいずれのタンパク質または分子をアッセイするのにも適しており、例えばクロストリジウム毒素の神経細胞に結合する能力、または膜を越えて取り込まれる、あるいは転位される能力に依存しないことを当業者は理解している。従って、本発明の方法は、クロストリジウム毒素軽鎖単独のタンパク分解活性のアッセイにも適しており、また、一本鎖または二本鎖ヘテロ毒素のアッセイに有用であるが、重鎖の存在は必要としない。さらに、本発明の方法は、本来の、および組換えクロストリジウム毒素(例えば膵臓腺房細胞を標的とするよう設計されたクロストリジウム毒素)を含む、非神経クロストリジウム毒素に適用可能である。
【0165】
本発明の方法において、試料は、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件下クロストリジウム毒素基質を処置される。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した典型的条件は当業界にて周知であり、さらに平凡な方法で決定できる。例えばHallis et al., J. Clin. Microbiol. 34:1934-1938 (1996); Ekong et al., Microbiol. 143:3337-3347 (1997); Shone et al., WO 95/33850; Schmidt and Bostian, 前述, 1995; Schmidt and Bostian, 前述, 1997; Schmidt et al., 前述, 1998; および Schmidt and Bostian, U.S. Patent No. 5,965,699 参照。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、一つには、アッセイされる特異的クロストリジウム毒素タイプまたはサブタイプおよび毒素調製物の純度に依存し得る。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、一般的に、緩衝液、例えばHEPES、Tris、またはリン酸ナトリウムを含み、典型的にはpH5.5から9.5の範囲、例えばpH6.0から9.0、pH6.5から8.5、またはpH7.0から8.0の範囲である。クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件はまた、要すれば、例えば二本鎖毒素をアッセイする場合、ジチオスレイトール、β−メルカプトエタノール、または他の還元剤を含むことができる(Ekong et al., 前述, 1997)。ある態様において、該条件は、0.01mMから50mMの範囲のDTTを含む;他の態様において、該条件は、0.1mMから20mM、1mMから20mM、または5mMから10mMの範囲のDTTを含む。要すれば、クロストリジウム毒素基質添加前に約30分間、単離クロストリジウム毒素または試料を、還元剤、例えば10mMジチオスレイトール(DTT)とプレインキュベートすることができる。
【0166】
クロストリジウム毒素は亜鉛メタロプロテアーゼであり、要すれば、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件の一部として、亜鉛源、例えば塩化亜鉛または酢酸亜鉛を、典型的には1から500μM、例えば5から10μMの範囲で含むことができる。一般的にEDTAのような亜鉛キレーターはクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性をアッセイするための緩衝液から除かれることを、当業者は理解している。
【0167】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件はまた、要すれば、ウシ血清アルブミン(BSA)を含むことができる。BSAが含まれる場合、典型的には0.1mg/mlから10mg/mlの範囲で提供される。ある態様においてBSAは、濃度1mg/mlで含まれる。例えば、Schmidt and Bostian, 前述, 1997 参照。
【0168】
本発明の方法において、クロストリジウム毒素基質の量は様々であり得る。本発明の方法に有用なペプチド基質濃度には、例えば、5μMから3.0mMの範囲の濃度が含まれる。ペプチド基質は、例えば、濃度5μMから500μM、5μMから50μM、50μMから3.0mM、0.5mMから3.0mM、0.5mMから2.0mM、または0.5mMから1.0mMの濃度で供給することができる。クロストリジウム毒素基質の濃度または試料の量は、要すれば、アッセイが線形になるように限定できることを当業者は理解している。より高い基質または毒素濃度においては、分子間エネルギー転移が関与する「内部フィルター効果」のため、アッセイの線形性が失われる。従ってある態様においては、本発明の方法は、分子間クエンチングが起こらないように限定されたクロストリジウム毒素基質濃度に依存する。別の態様において、本発明の方法は、100μM未満のクロストリジウム毒素基質濃度に依存する。さらなる態様において、本発明の方法は、50μM未満または25μM未満のクロストリジウム毒素基質濃度に依存する。要すれば線形アッセイはまた、クロストリジウム毒素基質と、そのクロストリジウム毒素基質のドナー・フルオロフォアおよびアクセプターを欠く、対応する「非標識」基質とを混合することによって行うことができる。適切な希釈は、例えば、クロストリジウム毒素基質の段階的希釈を、対応する非標識基質において調製することによって決定することができる。
【0169】
本発明の方法においてアッセイされる、精製または半精製クロストリジウム毒素の濃度は、一般的に毒素約0.0001から5000ng/ml、例えば毒素約0.001から5000ng/ml、0.01から5000ng/ml、0.1から5000ng/ml、1から5000ng/mlまたは10から5000ng/mlの範囲内であり、それは例えば、精製組換え軽鎖もしくは二本鎖毒素、またはヒト血清アルブミンおよび賦形剤を含む製剤化クロストリジウム毒素製品であってよい。一般的には、本発明の方法に使用される精製毒素の量は、0.1pgから10μgの範囲である。精製、半精製、または未精製試料は、標準曲線に対してクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性をアッセイするのに都合のよい範囲内に希釈できる。同様に、要すれば毒素プロテアーゼ活性についてのアッセイが線形となるように、試料を希釈できることを、当業者は理解している。
【0170】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件にはまた、一般的に、例えば約20℃から約45℃の範囲、例えば25℃から40℃の範囲、または35℃から39℃の範囲の温度が含まれる。アッセイボリュームは、通常約5から約200μlの範囲、例えば約10μlから100μlまたは約0.5μlから100μlの範囲であるが、ナノリットル反応ボリュームもまた本発明の方法に用いることができる。アッセイボリュームはまた、例えば100μlから2.0mlの範囲内、または0.5mlから1.0mlの範囲内であってもよい。
【0171】
アッセイ時間は、当業者によって適宜変更され得るが、一般的に、一つには、クロストリジウム毒素の濃度、純度および活性に依存する。具体的態様において、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%のクロストリジウム毒素基質が切断される。さらなる態様において、プロテアーゼ反応は、5%、10%、15%、20%、25%または50%を超えるクロストリジウム毒素基質が切断される前に停止される。プロテアーゼ反応は、例えば、実施例IのようなHSOの添加、約0.5−1.0ホウ酸ナトリウム(pH9.0から9.5)の添加、または亜鉛キレーターの添加によって停止できる。プロテアーゼ反応はドナー・フルオロフォアの励起またはエネルギー転移の測定の前に終わらせることができることを、当業者は理解している。
【0172】
例として、BoNT/Aプロテアーゼ活性に適した条件は、緩衝液、例えば5mM ジチオスレイトールのような還元剤、25μM 塩化亜鉛のような亜鉛源、および毒素1μg/ml(およそ7nM、Schmidt and Bostian, 前述, 1997)を含有する、30mM HEPES(pH7.3)中での37℃におけるインキュベーションであり得る。0.1mg/mlから10mg/mlの範囲のBSA、例えばBSA 1mg/mlもまた、試料をBoNT/Aまたは他のクロストリジウム毒素基質で処置する場合に含まれ得る (Schmidt and Bostian, 前述, 1997)。要すれば、BoNT/A、特に二本鎖BoNT/Aを、例えば基質の添加前に30分間、ジチオスレイトールとプレインキュベートすることができる。別の例として、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性、例えばBoNT/Aプロテアーゼ活性に適した条件は、50mM HEPES(pH7.4)、1%ウシ胎児血清、10μM ZnCl、および10mM DTTを、10μMの基質とともに含む緩衝液中における、37℃、30分間のインキュベーションであり得る(実施例I参照)。更なる例として、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性、例えばBoNT/B活性に適した条件は、50mM HEPES(pH7.4)、10μM 塩化亜鉛、1%ウシ胎児血清、および10mM DTT中における、37℃、90分間のインキュベーションであり得る (Shone and Roberts, Eur. J. Biochem. 225:263-270 (1994); Hallis et al., 前述, 1996);または、例えば、10mM ジチオスレイトールを含む40mM リン酸ナトリウム、pH7.4(任意で0.2%(v/v)TritonX−100を含む)中における、37℃、2時間のインキュベーションであり得る (Shone et al., 前述, 1993)。破傷風毒素プロテアーゼ活性または他のクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性に適した条件は、例えば、20 mM HEPES(pH 7.2)および100mM NaClにおける、25μMペプチド基質との37℃、2時間のインキュベーションであり得る(Cornille et al., 前述, 1994)。
【0173】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を測定するための本発明の方法において、試料は、第一のドナー・フルオロフォア、ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有する第一のアクセプター、および切断部位を含む第一のクロストリジウム毒素認識配列を含み、該切断部位がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間に介在し、適切な条件下、共鳴エネルギー転移がドナー・フルオロフォアとアクセプターの間で見られるクロストリジウム毒素基質を処置される。要すれば、第二のクロストリジウム毒素基質が含まれてもよい;この第二の基質は、第二のドナー・フルオロフォア、第二のドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有する第二のアクセプター、および、第一のクロストリジウム毒素認識配列を切断する毒素と相違するクロストリジウム毒素によって切断される第二のクロストリジウム毒素認識配列を含む。第二の基質におけるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアは、第一の基質におけるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアと同じでも、または相違してもよい。このように、単一の試料を複数のクロストリジウム毒素の存在についてアッセイすることができる。
【0174】
クロストリジウム毒素、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10種類またはそれ以上のクロストリジウム毒素の、いずれの組み合わせについてもアッセイできることが理解される。例えば、TeNT、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/FおよびBoNT/Gのうち2、3、4、5、6、7または8種類の組み合わせのいずれでもアッセイすることができる。例えば、各々がBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/FまたはBoNT/G認識配列を挟むフルオレセインおよびテトラメチルローダミンを含む7種類の基質を、ボツリヌス毒素プロテアーゼ活性に適した条件下に試料で処置し、その後約488nmの吸収波長でドナー・フルオロフォアを励起し、エネルギー転移を測定することができる。アクセプターであるテトラメチルローダミンの発光極大(585nm)におけるフルオレセインの発光極大(520nm)へのシフトは、少なくとも1種類のボツリヌス毒素のプロテアーゼ活性を示す。そのようなアッセイは、例えば、いずれかのクロストリジウム毒素の存在について食物試料または組織試料をアッセイするのに有用であり、要すれば、その後の、個々のクロストリジウム毒素またはクロストリジウム毒素の特定の組み合わせのための1つまたはそれ以上のアッセイと組み合わせることができる。
【0175】
別の態様においては、2つまたはそれ以上の相異なるクロストリジウム毒素基質であって各々相異なるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアを含有するものを用いて、1つの試料を2つまたはそれ以上の相異なるクロストリジウム毒素についてアッセイする。複数の基質の使用は、例えば米国特許番号6,180,340に記載されるように、アッセイのダイナミック・レンジを拡張するのに有用であり得る。複数のクロストリジウム毒素基質の使用の例として、ドナー・フルオロフォアであるフルオレセインおよびアクセプターであるテトラメチルローダミンおよび介在するBoNT/A認識配列を含む第一のクロストリジウム毒素基質、および、ドナー・フルオロフォアであるEDANSおよびアクセプターであるDABCYLおよび介在するBoNT/B認識配列を含む第二のクロストリジウム毒素基質を用いて、1つの試料をBoNT/AおよびBoNT/Bプロテアーゼ活性についてアッセイすることができる。第一のドナー・フルオロフォアであるフルオレセインを約488nmで励起し、そしてエネルギー転移を測定し、ここで、約520nmにおいて増加した第一のドナーの蛍光強度は、BoNT/Aプロテアーゼ活性を示す。第二のドナー・フルオロフォアであるEDANSは、約340nmの吸収波長で励起され、ここで、増加した第二のドナーの蛍光強度(490nm)は、BoNT/Bプロテアーゼ活性を示す。同様に、1つの試料をアッセイするのに2つまたはそれ以上の相異なるドナー・フルオロフォアを一緒に用いる場合、例えば以下のランタニドの組み合わせ、または全てを、組み合わせることができる:テルビウム、ジスプロシウム、ユーロピウム、およびサマリウム(EG&G(登録商標) Wallac)。これらランタニドは、崩壊時間および波長に基づいてはっきりと区別できるスペクトルを有する。当業者は、第二のドナー・フルオロフォアの励起の前、それと同時、またはその後に第一のドナー・フルオロフォアを励起できること、および、第二の基質のエネルギー転移の測定の前、それと同時、またはその後に第一の基質のエネルギー転移を測定できることを理解している。
【0176】
複数の基質はまた、アッセイのレンジをひろげるために本発明の方法において使用できる。ある態様においては、少なくとも二つのクロストリジウム基質を相異なる希釈で一緒に用いる;それら基質はドナー・フルオロフォア−アクセプターペアを有するので別々に検出可能であるが、同じクロストリジウム毒素に対する認識配列を有する。別の態様においては、本アッセイのレンジをひろげるため、相異なるドナー・フルオロフォア−アクセプターペアを有し、それ以外は同一のクロストリジウム毒素基質を相異なる希釈で一緒に用いる。
【0177】
本発明の方法は、クロストリジウム毒素基質に含まれるドナー・フルオロフォアを励起することに関与する。当業者は、ドナー・フルオロフォアを一般的にドナー・フルオロフォアの最適吸収波長(励起波長)において、またはその付近で励起することを理解している。ドナー・フルオロフォアがフルオレセインである場合、例えば488nmの最適吸収波長で、またはその付近でドナーを励起できる。
【0178】
クロストリジウム毒素基質のタンパク分解、つまりクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性は、様々な手段によって検出することができ、例えば、増加したドナー蛍光強度;減少したアクセプター蛍光強度;アクセプター発光極大付近からドナー・フルオロフォア発光極大付近への、発光極大におけるシフト;減少した、アクセプター発光極大付近の蛍光振幅のドナー・フルオロフォア発光極大付近の蛍光振幅に対する比率;または増加したドナー・フルオロフォア励起状態寿命を検出することによる。適当な蛍光強度または励起状態寿命は、選択した適切な波長または波長範囲にて検出されることは理解される。例えば、ドナー蛍光強度を検出する場合、選択した適切な波長は、ドナー・フルオロフォアの発光極大またはその付近であるか、またはドナー・フルオロフォアの発光極大を包含する、またはその付近の、波長の範囲である。
【0179】
基質の絶対量、励起強度、および励起波長での試料の濁度または他のバックグラウンド吸収は、ドナーおよびアクセプター・フルオロフォアの蛍光強度にほぼ同時に影響する。従って発光強度の比率は、基質の絶対量、励起強度、または濁度もしくは他のバックグラウンド吸収に依存せず、クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性の有用な指標であり得る。同様に、ドナー・フルオロフォアの励起状態寿命は、基質の絶対量、励起強度、または濁度もしくは他のバックグラウンド吸収に依存せず、本発明の方法において有用であり得ることを当業者は理解している。
【0180】
ある態様においてはドナー蛍光強度を検出し、増加したドナー蛍光強度がクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す。このような増加した強度は、例えば、同じ波長における、試料と未接触の同じクロストリジウム毒素基質の蛍光強度に対して、少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、20倍またはそれ以上であり得る。
【0181】
ドナー蛍光強度の検出のため、励起をドナー・フルオロフォア吸収波長に定め、ドナー・フルオロフォアの発光をモニターする。ドナー・フルオロフォアの発光波長は一般的に、アクセプター蛍光の寄与が殆どまたは全く観察されないように選択する。アクセプターが存在するとドナー蛍光をクエンチングする。エネルギー転移効率、Eは、E=1−IDA/Iにより計算され、ここでIDAおよびIは、アクセプターの存在および非存在下におけるドナー強度である。どちらも同じドナー・フルオロフォア濃度にノーマライズされる。要すれば、ドナー・フルオロフォア濃度を必要としない時間分解測定を、E=1−{τDA}/τで行うことができ、ここで{τDA}および{τ}は、アクセプターの存在および非存在下における振幅平均寿命である。
【0182】
ある態様において、発光極大における、アクセプター発光極大付近からドナー・フルオロフォア発光極大付近へのシフトを、共鳴エネルギー転移の測定として検出する。テトラメチルローダミンアクセプターをドナー・フルオロフォアであるフルオレセインと組み合わせる場合、減少した共鳴エネルギー転移、つまりクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性の指標として、主に赤色の発光から主に緑色の発光へのシフトを検出することができる。発光極大において観察されるシフトは、一般に完全なシフトでなく、発光強度の一部分しかドナー・フルオロフォア発光強度付近へシフトしないであろうことは理解される。
【0183】
本発明の方法において、処置済基質の共鳴エネルギー転移は、対照基質と比較して測定する。一般にそのような対照基質は、例えば、試料を処置していないか、または1種類またはそれ以上のクロストリジウム毒素を含む規定の試料を処置した、同じクロストリジウム毒度基質であってよい。様々な対照基質が本発明の方法において有用であり、対照基質は陽性対照基質または陰性対照基質であり得ることを当業者は理解している。対照基質は、例えば、活性クロストリジウム毒素を含有しない近似の試料と接触したか、またはどの試料とも接触していない、近似または同一の基質のような陰性対照である。対照基質はまた、例えば、クロストリジウム毒素基質のクロストリジウム毒素タンパク分解の結果生じた二つの精製切断産物であってもよい。対照基質は、ドナー・フルオロフォア含有切断産物、アクセプター含有切断産物、または両者の組み合わせであり得る。
【0184】
クロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を測定するための本発明の方法は、試料を処置したクロストリジウム毒素基質の共鳴エネルギー転移を、対照基質と対比して測定することを含み、「固定時間」アッセイとして、または連続時間アッセイとして行うことができる。従ってある態様においてFRET測定は、1つまたはそれ以上の時間間隔をおいて繰り返される。蛍光共鳴エネルギー転移は、例えば、2またはそれ以上、5またはそれ以上、10またはそれ以上、または20またはそれ以上異なる間隔で測定できる。蛍光強度およびFRETの他の指標はまた、周知の方法によって連続的に検出することができる (例えば、Wang et al., 前述, 1993; Holskin et al., 前述, 1995; およびKakiuchi et al., 前述, 1999参照)。
【0185】
本発明の方法において、処置済基質の蛍光は、フルオリメーターを用いて測定される。一般に、はじめの波長を有する励起源からの励起放射は励起光系を通過する。励起光系は、基質を励起する励起放射を引き起こす。それに応答して、基質中のフルオロフォアが励起波長と異なる波長の光を放射する。その後集光系がその発光を収集する;スキャン中特定の温度にクロストリジウム毒素基質を維持するため、要すれば、該機器は温度制御装置を含む。要すれば、複数軸並行移動台が、多数の試料を含むマイクロタイタープレートを異なるウェルが露出するよう位置付けるため動かす。複数軸並行移動台、温度制御装置、自動焦点機能、および画像化およびデータ収集に関する電子機器は、適切なデジタルコンピューターにより管理することができる。
【0186】
つまり、本発明の方法は自動化することができ、さらに、例えば96ウェル、384ウェル、または1536ウェルプレートを用いるハイスループットまたはウルトラハイスループットフォーマットに設定できる。一例として、96ウェルプレートアッセイ用に設計されたMolecular Devices FLIPR(登録商標)装置(Molecular Devices; Sunnyvale, CA)を用いて蛍光発光を検出することができる(Schroeder et al., J. Biomol. Screening 1:75-80 (1996))。FLIPRは、水冷488nmアルゴンイオンレーザー(5ワット)またはキセノンアークランプ、および、プレート全体を照らし、画像化するための電化結合素子(CCD)カメラを備えた半共焦点最適系(semiconfocal optimal system)を利用する。FPM−2 96ウェルプレートリーダー(Folley Consulting and Research; Round Lake, Illinois)もまた、本発明の方法において蛍光発光を検出するのに有用であり得る。当業者は、これらおよび適切な分光学的互換性を有する他の自動化系、例えば、ECLIPSEキュベットリーダー(Varian Cary; Walnut Creek, CA)、SPECTRAmax GEMINI XS (Molecular Devices)、および他の系、例えばPerkin Elmerの他の系が、本発明の方法において有用であり得ることを当業者は理解している。
【0187】
以下の実施例は本発明を説明するものであるが、これを限定するものではない。
【実施例】
【0188】
実施例1
蛍光共鳴エネルギー転移を用いたBoNT/A活性の解析
本実施例は、ボツリヌス毒素のタンパク分解活性を解析するためのFRETアッセイの使用について示す。
【0189】
FRET基質 X1-Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Z2-NH2 (配列番号:85)は、Alpha Diagnostics International (San Antonio, TX)により合成された。本基質は、フルオレセイン修飾リジン残基(「X1」)およびカルボキシ末端アミドが続くテトラメチルローダミン修飾リジン残基(「Z2」)に挟まれた、BoNT/Aのための認識配列を含む。A血清型ボツリヌス毒素によるタンパク分解に続いて、切断産物 X1-Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln (配列番号:86)およびArg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Z2-NH2 (配列番号:87)が産生される。
【0190】
更なるFRET基質もまた合成される: X1-Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Gly-Ser-Gly-Z2-NH2 (配列番号:88);X1-Ala-Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Z2-NH2 (配列番号:89); X1-Ala-Asp-Ser-Asn-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met Leu-Gly-Ser-Gly-Z2-NH2 (配列番号:90);X1-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Z2-NH2(配列番号:91);X1-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met Leu-Gly-Ser-Gly-Z2-NH2 (配列番号:92);X1-Met-Glu-Lys-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Gly-Ser-Gly-Z2-NH2(配列番号:93)(おのおの、X1はフルオレセイン修飾リジン残基であり、Z2はテトラメチルローダミン修飾リジン残基である);X3-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Z4-NH2 (配列番号:94)(X3はDABCYL修飾リジン残基であり、Z4はEDANS修飾グルタミン酸残基である);および、X3-Thr-Arg-Ile-Asp-Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met-Leu-Gly-Ser-Gly-Z5-NH2 (配列番号:95)(X3はDABCYL修飾リジン残基であり、Z5はEDANS修飾リジン残基である)。
【0191】
精製BoNT/A軽鎖(LC/A)またはLC/Aを含有する細胞抽出液を、アッセイ緩衝液(0.05M HEPES(pH7.4);1%FBS;10μMZnCl;および10mMDTT)に希釈する。解析の前に、二本鎖BoNT/Aを10mMジチオスレイトール(DTT)と約30分間インキュベートする。反応は、0.1ngから10μgまで、様々な濃度のLC/A、二本鎖毒素、または製剤化BOTOX(登録商標)製品を含む。毒素は以下のようにしてアッセイする:FRET基質を最終濃度10μMで最終ボリューム100μLのアッセイ緩衝液に添加する。反応物を37℃で30分間インキュベートし、その後2M HSO50μLを添加して停止させる。
【0192】
蛍光は、フルオリメーター・マイクロプレートリーダー(Molecular Devices SPECTRAmax GEMINI XS)で、λex=488nM、λEm=520nMおよびλem=585nmにて測定する。λem=585nmにおける少なくとも約5%の減少は、BoNT/Aプロテアーゼ活性を示す。λem=520nmにおける約5%の増加もまた、二本鎖または軽鎖ボツリヌス毒素のBoNT/Aプロテアーゼ活性を示す。
速度解析は以下のように行った。等量のLC/Aまたは二本鎖毒素を含むいくつかの反応を上記の緩衝液中および条件下で開始する。それぞれの反応を2または5分間隔で停止させ、上記のように蛍光を検出する。
これらの結果は、分子内でクエンチングされているFRET基質を用いて、ボツリヌス毒素タンパク分解活性をアッセイできることを示している。
【0193】
前述の全ての学術論文、文献および特許引例は、括弧内のものもそうでないものも、以前に記載されているか否かに関わらず、それら全体が引用により本明細書に含まれる。
本発明は前述の例に関連して示されているが、本発明の精神から離れることなく様々に修飾できることは理解されるべきである。すなわち、本発明は、本特許請求の範囲のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】図1は、クロストリジウム神経毒素の活性化の推定構造および仮定機序の図を示す。毒素は、ループによってつながった三つの50kDaドメインより成る、150kDaの不活性単一ポリペプチド鎖として生産できる。選択的タンパク分解切断が、ジスルフィド結合した二つの鎖:50kDaのL鎖および100kDaのH鎖(HおよびHと示される二つのドメインより構成される)を生成することにより該毒素を活性化する。三つのドメインは別個の働きをする:重鎖のC末ドメイン(H)は、細胞結合において機能し、一方重鎖のN末ドメイン(H)は、エンドソームから細胞質へのトランスロケーションを可能にする。細胞内におけるジスルフィド結合の還元に続き、L鎖の亜鉛−エンドペプチダーゼ活性が発生する。
【図2】図2は、中枢および末梢神経における破傷風およびボツリヌス毒素活性に必要な4つの段階の図を示す。
【図3】図3は、SNAP−25、VAMPおよびsyntaxinの細胞膜における細胞内局在および切断部位を示す。VAMPはシナプス小胞膜に結合し、一方SNAP−25およびsyntaxinは標的細胞膜に結合している。BoNT/Aおよび/EはSANP−25をC末端付近で切断し、9または26残基をそれぞれ放出する。BoNT/B、/D、/F、/GおよびTeNTは、VAMPの中心保存部分(ドット)に作用し、VAMPのアミノ末端部分を細胞質に放出する。BoNT/C1は、カルボシキ末端でSNAP−25を切断し、同様にsyntaxinを細胞質内膜表面近くの単一の部位で切断する。BoNT/B、/C1、/D、/F、/GおよびTeNTの作用により、VAMPまたはsyntaxinの細胞内ドメインの大部分が放出されるが、一方BoNT/A、/C1、または/Eによる選択的タンパク分解よっては、SNAP−25のほんの小さな部分しか放出されない。
【図4A】図4は、VAMP、SNAP−25およびsyntaxinの神経毒素認識モチーフを示す。斜線ボックスは、三つのクロストリジウム毒素の標的に共通するモチーフの存在および部分を示す。
【図4B】図4は、VAMP、SNAP−25およびsyntaxinの神経毒素認識モチーフを示す。認識部位は、疎水性残基(「h」);負の電荷を帯びたAspまたはGlu残基(「−」)および極性残基(「p」);「x」はいずれかのアミノ酸を示す。本モチーフは、VAMP、SNAP−25およびsyntaxinのα‐ヘリカル構造をとると予想される領域に含まれる。
【図4C】図4は、VAMP、SNAP−25およびsyntaxinの神経毒素認識モチーフを示す。α‐ヘリカル構造における本モチーフを上から見た図が示される。負の電荷を帯びた残基が一方の面にならび、一方疎水性残基は第二の面に並ぶ。
【図5】図5は、様々なSNAP−25タンパク質およびそれらのBoNT/E、BoNT/AおよびBoNT/C1切断部位を示す。ヒトSNAP−25(配列番号:2)ジーンバンクアクセション g4507099、関連ヒトSNAP−25配列 g2135800も参照);マウスSNAP−25(配列番号:12、ジーンバンクアクセション G6755588);Drosophila SNAP−25 (配列番号:13、ジーンバンクアクセション g548941); ゴールドフィッシュSANP−25(配列番号:14、ジーンバンクアクセション g2133923);ウニSNAP−25(配列番号:15、ジーンバンクアクセション g2707818)およびチキンSNAP−25(配列番号:16、ジーンバンクアクセション g481202)が描かれている。
【図6】図6は、様々なVAMPタンパク質およびそれらのBoNT/F、BoNT/D、BoNT/B、TeNTおよびBoNT/G切断部位のアライメントを示す。ヒトVAMP−1 (配列番号:96; ジーンバンクアクセション g135093); ヒトVAMP−2 (配列番号: 4; ジーンバンクアクセション g135094); マウスVAMP−2 (配列番号:17; ジーンバンクアクセション g2501081); ウシVAMP (配列番号:15; ジーンバンクアクセション g89782); カエルVAMP (配列番号:19; ジーンバンクアクセション g6094391);およびウニVAMP (配列番号:20; ジーンバンクアクセション g5031415)が描かれている。
【図7】図7は、様々なsyntaxinタンパク質およびそれらのBoNT/C1切断部位のアライメントを示す。ヒトsyntaxin 1A (配列番号:21; ジーンバンクアクセション g15079184), ヒトsyntaxin 1B2 (配列番号:22; ジーンバンクアクセション g15072437), マウスsyntaxin 1A (配列番号:23; ジーンバンクアクセション g15011853), Drosophila syntaxin 1A (配列番号:24; ジーンバンクアクセション g2501095); C. elegans syntaxin A (配列番号:25; ジーンバンクアクセション g7511662) およびウニsyntaxin(配列番号:26; ジーンバンクアクセション g13310402)が描かれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ドナー・フルオロフォア;
(b)該ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター;および
(c)BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列を含むBoNT/B認識配列(ただし、P>5の位置のアミノ酸残基が、該ドナー・フルオロフォアまたは該アクセプターのいずれか一方と結合したアミノ酸で置換され、P>5'の位置のアミノ酸残基が、他方と結合したアミノ酸で置換される);
を含み、適切な条件下、該ドナー・フルオロフォアと該アクセプターの間で共鳴エネルギー転移が見られるB血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)基質。
【請求項2】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項1記載の基質。
【請求項3】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、ヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項2記載の基質。
【請求項4】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、配列番号:3のアミノ酸配列またはその模擬ペプチドを含む、請求項3記載の基質。
【請求項5】
該BoNT/B認識配列が、以下よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2記載の基質:
配列番号:4の残基55−94またはその模擬ペプチド;
配列番号:4の残基60−94またはその模擬ペプチド;および、
配列番号:4の残基60−88またはその模擬ペプチド。
【請求項6】
(a)ドナー・フルオロフォア;
(b)該ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター;および
(c)BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列を含むBoNT/B認識配列(ただし、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が該ドナー・フルオロフォアと該アクセプターの間に介在する);
を含み、
ここで、該ドナー・フルオロフォア、該アクセプター、または該ドナー・フルオロフォアおよび該アクセプターの両方が、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列内に位置せず;そして、適切な条件下、該ドナー・フルオロフォアと該アクセプターの間で共鳴エネルギー転移が見られるB血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)基質。
【請求項7】
該ドナー・フルオロフォアが、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列内に位置しない、請求項6記載の基質。
【請求項8】
該アクセプターが、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列内に位置しない、請求項6記載の基質。
【請求項9】
該ドナー・フルオロフォアおよび該アクセプターが、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列内に位置しない、請求項6記載の基質。
【請求項10】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項6記載の基質。
【請求項11】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、ヒトVAMP−2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項10記載の基質。
【請求項12】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、配列番号:3のアミノ酸配列またはその模擬ペプチドを含む、請求項11記載の基質。
【請求項13】
該BoNT/B認識配列が、以下よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10記載の基質:
配列番号:4の残基55−94またはその模擬ペプチド;
配列番号:4の残基60−94またはその模擬ペプチド;および、
配列番号:4の残基60−88またはその模擬ペプチド。
【請求項14】
(a)ドナー・フルオロフォア;
(b)該ドナー・フルオロフォアの発光スペクトルと重複する吸収スペクトルを有するアクセプター;および
(c)BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列を含むBoNT/B認識配列(ただし、該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が該ドナー・フルオロフォアと該アクセプターの間に介在する);
を含み、
ここで、該ドナー・フルオロフォア、該アクセプター、または該ドナー・フルオロフォアおよび該アクセプターの両方のいずれかが、遺伝的にコードされており;そして、適切な条件下、該ドナー・フルオロフォアと該アクセプターの間で共鳴エネルギー転移が見られるB血清型ボツリヌス毒素(BoNT/B)基質。
【請求項15】
該ドナー・フルオロフォアが、遺伝的にコードされている、請求項14記載の基質。
【請求項16】
該アクセプターが、遺伝的にコードされている、請求項14記載の基質。
【請求項17】
該ドナー・フルオロフォアおよび該アクセプターが遺伝的にコードされている、請求項14記載の基質。
【請求項18】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、VAMPの少なくとも6つの連続する残基であってGln−Pheを含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項14記載の基質。
【請求項19】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、ヒトVAMP2の少なくとも6つの連続する残基であってGln76−Phe77を含むもの、またはその模擬ペプチドを含む、請求項18記載の基質。
【請求項20】
該BoNT/B P5-P4-P3-P2-P1-P1'-P2'-P3'-P4'-P5'切断部位配列が、配列番号:3のアミノ酸配列またはその模擬ペプチドを含む、請求項19記載の基質。
【請求項21】
該BoNT/B認識配列が、以下よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項18記載の基質:
配列番号:4の残基55−94またはその模擬ペプチド;
配列番号:4の残基60−94またはその模擬ペプチド;および、
配列番号:4の残基60−88またはその模擬ペプチド。
【請求項22】
該基質が、少なくとも1ナノモル/分/ミリグラム毒素、少なくとも20ナノモル/分/ミリグラム毒素、少なくとも50ナノモル/分/ミリグラム毒素、少なくとも100ナノモル/分/ミリグラム毒素、または少なくとも150ナノモル/分/ミリグラム毒素の活性で切断され得る、請求項1−21のいずれかに記載の基質。
【請求項23】
最大400残基、最大300残基、最大200残基、最大100残基、最大50残基、最大40残基、または最大20残基を有するペプチドまたは模擬ペプチドである、請求項1−21のいずれかに記載の基質。
【請求項24】
該ドナー・フルオロフォアおよび該アクセプターが、最大40残基、最大30残基、最大20残基、最大15残基、最大10残基、最大8残基、または最大6残基で隔てられている、請求項1−21のいずれかに記載の基質。
【請求項25】
BoNT/Bプロテアーゼ活性を測定する方法であって、
(a)サンプルを、BoNT/Bプロテアーゼ活性に好適な条件下で、請求項1−24のいずれかに記載のBoNT/B基質を含む、BoNT/B基質で処理し;
(b) 該ドナー・フルオロフォアを励起し;そして、
(c)該処置済基質の共鳴エネルギー転移を対照基質と対比して測定する、段階を含み、
該対照基質と比較した場合の該処置済基質の共鳴エネルギー転移における相違がクロストリジウム毒素プロテアーゼ活性を示す方法。
【請求項26】
該試料が未精製細胞溶解物である、請求項25記載の方法。
【請求項27】
該試料が単離BoNT/B、または単離BoNT/B軽鎖である、請求項25記載の方法。
【請求項28】
該試料が製剤化BoNT/B製品である、請求項25記載の方法。
【請求項29】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が該処置済基質のドナー蛍光強度を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質のドナー蛍光強度が増加し、該増加したドナー蛍光強度が、BoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項30】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が該処置済基質のアクセプター蛍光強度を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質のアクセプター蛍光強度が減少し、該減少したアクセプター蛍光強度が、BoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項31】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が、アクセプター発光極大およびドナーフルオロフォア発光極大を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該アクセプター発光極大付近から該ドナー・フルオロフォア発光極大付近への発光極大におけるシフトが生じ、該発光極大のシフトが、BoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項32】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が、アクセプター発光極大付近の蛍光振幅のドナー・フルオロフォア発光極付近の蛍光振幅に対する比率を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質の比率が減少し、該減少した比率が、BoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項33】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が、ドナー発光極大付近の蛍光振幅のアクセプター・フルオロフォア発光極付近の蛍光振幅に対する比率を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質の比率が増加し、該増加した比率が、BoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項34】
該アクセプターがフルオロフォアであり、そして段階(c)が、該処置済基質におけるドナー・フルオロフォアの励起状態寿命を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質におけるドナー・フルオロフォア励起状態寿命が増加し、該増加した励起状態寿命がBoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項35】
該アクセプターがクエンチャーであり、そして段階(c)が、該接触された細胞のドナー蛍光強度を検出することを含み、ここで、基質切断の増加により、該対照基質と比較して該処置済基質におけるドナー蛍光強度が増加し、該増加したドナー蛍光強度がBoNT/B毒素プロテアーゼ活性を示す、請求項25記載の方法。
【請求項36】
さらに、段階(c)を1またはそれ以上の時間間隔をおいて繰り返すことを含む、請求項25記載の方法。
【請求項37】
少なくとも90%の該BoNT/B基質が切断される、請求項25記載の方法。
【請求項38】
最大25%の該BoNT/B基質が切断される、最大15%の該BoNT/B基質が切断される、または最大5%の該BoNT/B基質が切断される、請求項25記載の方法。
【請求項39】
アッセイが線形となるようBoNT/Bプロテアーゼ活性に適した条件が選択される、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−201786(P2008−201786A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62977(P2008−62977)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【分割の表示】特願2004−541415(P2004−541415)の分割
【原出願日】平成14年8月22日(2002.8.22)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】