説明

クロスベータ構造体でのタンパク質の凝集の標的化誘導

本発明はタンパク質凝集の分野に属する。本発明は、標的タンパク質の機能を妨害するための方法を開示するものであり、標的タンパク質に対する特異性を有し該標的タンパク質との接触に際して凝集を誘導する、凝集誘導物質と称される非天然で使用者により設計される分子を使用するものである。本発明はまた、そのような凝集誘導物質分子、ならびに治療および診断用途におけるその使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質凝集の分野に属する。本発明は、標的タンパク質の機能を妨害するための方法を開示するものであり、標的タンパク質に対する特異性を有し該標的タンパク質との接触に際して凝集を誘導する、凝集誘導物質と称される非天然で使用者により設計される分子を使用するものである。本発明はまた、そのような凝集誘導物質分子、ならびに治療および診断用途におけるその使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質凝集はバイオテクノロジーおよび医学の両方の科学における中心的話題となっている。それはタンパク質製造において重大な障害となり、組換え技術により得られる関連ポリペプチドの種類の範囲を狭め、それは貯蔵寿命を縮め、ポリペプチド薬の免疫原性を増強することがあり、それは、アルツハイマー病、海綿状脳症、II型糖尿病およびパーキンソン病を含む益々多数の非常に重要なヒト疾患に関連づけられている。この10年の間に、データが蓄積され始めており、これは、ポリペプチドの組成および一次構造がその凝集傾向の大部分を決定すること、ならびに小さな変化が溶解度に甚大な影響を及ぼしうることを示唆している。タンパク質内のベータ凝集配列を予測しうる極めて多数のアルゴリズムにより証明されているとおり、タンパク質の配列から該タンパク質の凝集傾向を予測しうることは非常に重要である。これらのアルゴリズムは、特異的配列標的化治療剤による望ましくないタンパク質析出事象の制御において、またはバイテクノロジー的に関心のあるタンパク質の、より可溶性の変異体の発見において有用である。ポリペプチドの全ての領域がその凝集傾向の決定において同等に重要なわけではないと一般に考えられている。これに関連して、非常に短い特異的アミノ酸伸長がアミロイド線維形成の促進因子または抑制因子として作用しうることが最近証明された。機能性プロテオミクスの分野においては、発見を加速化し、機能性ゲノミクスにおける補足的方法によりもたらされる可能性を最大にするために、革新的な技術を開発することが必要とされている。特定の細胞外または細胞内タンパク質の生物学的機能を、それを翻訳するmRNAを標的化する代わりに又はそれをコードする遺伝子を操作する代わりに、直接的に標的化しうる順応性に富んだ技術を得ることができれば望ましいであろう。本発明において、本発明者らは、凝集に基づいて特異的タンパク質を標的化するための技術を開発することを追求した。これまでのところ、タンパク質凝集は主として、疾患を引き起こす望ましくない現象として研究されており、クロスベータ媒介性凝集は、最も頻繁に生じ生物学的に関連のある凝集メカニズムであることが広く受け入れられている。クロスベータ凝集は、典型的には少なくとも3つの連続的アミノ酸を含む同一鎖に凝集物中の各分子が寄与する分子間ベータシートの形成により凝集が核化されることを示すために用いられる用語である。特許出願WO03102187(Scegen,Pty Ltd)は、分子を膜トランスロケーション配列と融合させて、生じたキメラ分子をより高分子量の凝集物へと自己集合させることにより、該分子の活性を増強するための方法を開示している。US20050026165(Arete Associates)は、プリオンのような不溶性タンパク質のベータシートコンホメーションと相互作用しうるコンホメーションペプチドの、プリオン病の診断手段としての使用を開示している。特許出願WO2007010110は多環式化合物の使用によるタンパク質凝集の誘導を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/102187号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0026165号
【特許文献3】国際公開第2007/010110号
【発明の概要】
【0004】
発明の摘要
本発明は、特異的標的タンパク質の、制御された且つ誘導可能なタンパク質凝集のための技術に関する。本発明はまた、標的タンパク質に対するアフィニティを有する結合領域に連結された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む新規に設計された分子(本明細書においては凝集誘導物質と称される)を提供する。好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子は、標的タンパク質と結合(または相互作用)しうる領域に融合された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む。選択された標的タンパク質と特異的に設計された凝集誘導物質分子とが接触すると、該標的と該凝集誘導物質との間で特異的な共凝集(co−aggregation)が生じて、該標的タンパク質の生物学的機能のダウンレギュレーションまたは機能的ノックアウトが生じる。このタンパク質ノックダウンは、該凝集誘導物質分子の存在により誘導される凝集物の存在を条件とする。もう1つの利点は、該凝集誘導物質分子内のベータ凝集領域の数を変化させることにより該タンパク質妨害の強度が実験的に制御されうることである。本発明は、特定の細胞外または細胞内タンパク質の生物学的機能をダウンレギュレーションするための効率的な研究手段を提供するだけでなく、重要な治療用途、農業用途および診断用途をも有する。
【0005】
発明の目的および詳細な説明
本発明において、本発明者らは、タンパク質に結合しうる領域と少なくとも1つのベータ凝集配列とを含む天然に存在しない分子の使用により該タンパク質の生物学的機能をダウンレギュレーションするための方法を開発した。標的タンパク質との接触に際して、天然に存在しない分子と該標的タンパク質との間で共凝集が生じる。該凝集は該標的をその可溶性環境から引き離し、該可溶性標的タンパク質の機能的ノックダウンを引き起こす。「凝集」に関しては、凝集は無定形または原線維状(アミロイドまたはクロスベータ線維状は同意義の用語である)の凝集を意味しうると理解される。実際には、ベータ凝集領域の種類が標的タンパク質の無定形または原線維状凝集の誘導を決定する。
【0006】
したがって、1つの実施形態においては、本発明は、タンパク質に結合しうる領域と少なくとも1つのベータ凝集配列とを含む天然に存在しない分子に該タンパク質を接触させることを含む、タンパク質の生物学的機能をダウンレギュレーションするための方法を提供する。「標的タンパク質に結合しうる」なる表現は、「標的タンパク質と相互作用しうる」こと、あるいは更に言い換えると、「標的タンパク質に対するアフィニティを有する」ことを意味する。該アフィニティは、マイクロモルのアフィニティからピコモルのアフィニティの範囲内、好ましくは、ナノモルからピコモルのアフィニティの範囲内であると理解される。したがって、標的タンパク質に対する凝集誘導物質(または標的タンパク質に結合しうるその結合ドメイン)のアフィニティは少なくとも10mol−1(例えば、少なくとも10、10、10、10、10、1010、1011または1012 mol−1)である。そのような天然に存在しない分子は、2つの要素(すなわち、結合領域および少なくとも1つのベータ凝集配列)の融合体を含むキメラ分子であると理解され、それらの2つの要素はお互いに対するアフィニティを有さず、および/またはそれらの要素はお互いに結合しない。アフィニティを有さないは、アフィニティが10mol−1以上より低いことを意味する。好ましい実施形態においては、該要素は、ダウンレギュレーションさせたい(あるいは同等の表現においては、凝集させたい)標的タンパク質とは異なる。もう1つの好ましい実施形態においては、該結合領域は標的タンパク質の機能をモジュレーションしうる。さらにもう1つの好ましい実施形態においては、該結合領域は標的タンパク質の機能をモジュレーションせず、このことは、該結合領域(結合のみの場合)が、生物学的機能を妨害することなく標的タンパク質に結合するに過ぎないことを意味する。好ましい実施形態においては、標的タンパク質は融合タンパク質、例えばヒスチジン融合体、ストレプトアビジン融合体、GFP融合体などである。
【0007】
「結合領域」または「結合ドメイン」なる語は、典型的には、標的タンパク質と相互作用する分子を意味する。ある場合には、結合ドメインは化合物(例えば、少なくとも1つの標的タンパク質に対するアフィニティを有する小さな化合物)であり、ある他の場合には、結合ドメインはポリペプチドであり、ある他の場合には、結合ドメインはタンパク質ドメインである。タンパク質結合ドメインは、そのタンパク質鎖の残部から独立してフォールディングすることが多い自己安定化性の全タンパク質構造の要素である。結合ドメインの長さは約25アミノ酸から500アミノ酸またはそれ以上まで様々である。多数の結合ドメインは幾つかのフォールドに分類され、認識可能で特定可能な三次元(3−D)構造である。いくつかのフォールドは多数の異なるタンパク質において共通であり、特別の名称を有する。非限定的な例としては、ロスマンフォールド、TIMバレル、アルマジロリピート、ロイシンジッパー、カドヘリンドメイン、デスエフェクタードメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、src相同2ドメイン、BRCA1のBRCTドメイン、Gタンパク質結合ドメイン、Eps 15相同(EH)ドメイン、およびp53のタンパク質結合ドメインが挙げられる。抗体は、超可変ループ領域(いわゆる、相補性決定領域(CDR))を介して特異的に媒介される特異的結合タンパク質の天然原型である。一般に、抗体様スカフォールドは特異的結合体として良く働くことが見出されているが、CDR様ループを提示する強固なスカフォールドの枠組(paradigm)に厳密に結合することは必須ではないことが明らかになっている。抗体のほかに、多数の他の天然タンパク質がドメイン間の特異的な高アフィニティ相互作用を媒介する。免疫グロブリンの代替物は新規結合(認識)分子の設計のための魅力的な出発点となっている。本発明において用いるスカフォールドなる語は、特異的標的タンパク質への結合をもたらす改変されたアミノ酸または配列挿入を含有しうるタンパク質フレームワークを意味する。スカフォールドの操作およびライブラリーの設計は互いに相互依存した過程である。特異的結合体を得るためには、スカフォールドの組合せライブラリーを作製する必要がある。これは通常、縮重コドンまたはトリヌクレオチドを使用することにより適当なアミノ酸位置においてコドンをランダム化することによりDNAレベルで行われる。多種多様な起源および特徴を有する多種多様な非免疫グロブリンスカフォールドが組合せライブラリー提示のために現在使用されている。それらの幾つかはサイズにおいて抗体のscFvに匹敵するが(約30kDa)、それらの大多数はそれより遥かに小さい。反復タンパク質に基づくモジュラースカフォールドは反復単位の数に応じて様々なサイズを有する。非限定的な具体例の一覧には、ヒト第10フィブロネクチンIII型ドメインに基づく結合体、リポカリンに基づく結合体、SH3ドメインに基づく結合体、ノッチン(knottin)ファミリーのメンバーに基づく結合体、CTLA−4に基づく結合体、T細胞受容体、ネオカルジノスタチン、炭水化物結合モジュール4−2、テンダミスタット(tendamistat)、クニツ(kunitz)ドメインインヒビター、PDZドメイン、Src相同ドメイン(SH2)、サソリ毒素、昆虫デフェンシンA、植物ホメオドメインフィンガータンパク質、細菌酵素TEM−1ベータ−ラクタマーゼ、スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)プロテインAのIg結合ドメイン、大腸菌(E.coli)コリシンE7免疫タンパク質、大腸菌(E.coli)シトクロムb562、アンキリンリピートドメインが含まれる。また、与えられた標的タンパク質に対する特異性を有する化合物、環状および直鎖状ペプチド結合体、ペプチドアプタマー、多価アビマー(avimer)タンパク質または小モジュラー免疫医薬、受容体または補助受容体に対する特異性を有するリガンド、ツーハイブリッド分析において特定されるタンパク質結合パートナー、ビオチン−アビジン高アフィニティ相互作用の特異性に基づく結合ドメイン、シクロフィリン−FK506結合タンパク質の特異性に基づく結合ドメインも、結合ドメインとして含まれる。また、特異的炭水化物構造に対するアフィニティを有するレクチンも含まれる。
【0008】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、タンパク質の生物学的機能をダウンレギュレーションするための方法であって、部分Aおよび部分B[ここで、i)部分Aは、該タンパク質に結合しうる結合領域であり、ii)部分Bは少なくとも1つのベータ凝集領域を含む]を含む天然に存在しない分子(またはキメラ分子)に該タンパク質を接触させることを含む方法を提供する。特定の実施形態においては、前記の少なくとも1つのベータ凝集領域は少なくとも3つの連続的アミノ酸よりなる。特定の実施形態においては、該ベータ凝集領域は標的タンパク質に由来する。もう1つの特定の実施形態においては、該ベータ凝集領域は標的タンパク質とは異なる(すなわち、それは、異なるタンパク質に由来する)。さらにもう1つの実施形態においては、該ベータ凝集領域は人工ポリペプチド配列(すなわち、既存タンパク質配列に由来するものではない、すなわち、天然に存在しない)である。もう1つの特定の実施形態においては、部分Aと部分Bとの間にリンカーが存在する。特定のタイプのベータ凝集領域として、アミロイド領域が挙げられる。
【0009】
もう1つの実施形態においては、天然に存在しない分子(またはキメラ分子)の部分Bは少なくとも2つのベータ凝集領域を含む。
【0010】
「天然に存在しない分子」または「キメラ分子」または「キメラ融合分子」なる語は、そのような分子が人工的に製造されることを意味する。例えば、分子がポリペプチド(すなわち、部分AおよびBの両方がペプチドである)である場合、そのようなポリペプチドの部分Bをインシリコで設計し、あるいは天然のタンパク質(すなわち、ベータ凝集領域)から単離し、タンパク質に結合しうる領域である部分Aに部分Bを融合(またはカップリング(連結、結合))させる。この場合、AおよびBは互いに対するアフィニティを有さない(すなわち、互いに結合しない、あるいは換言すれば、互いに相互作用しない)と理解される。さらに別の言い方をすれば、結合領域に融合されるベータ凝集領域(または配列)は、部分AおよびBの天然に存在する融合体とは少なくとも1つの天然アミノ酸だけ異なる。典型的には、そのようなキメラ分子は、非組換えゲノム内の遺伝子によりコードされるタンパク質内の連続的ポリペプチドとしては存在しない。
【0011】
凝集誘導物質分子は、反復配列を導入し部分AおよびBの順序を変化させることによりモジュラー様態で設計されうることが明らかなはずである。以下の組合せの非限定的な一覧が挙げられる:A−B−構造を有する凝集誘導物質、B−A−構造を有する凝集誘導物質、A−B−A−構造を有する凝集誘導物質、B−A−B−構造を有する凝集誘導物質、A’−B−A’’−構造を有する凝集誘導物質、およびB’−A−B’’−構造を有する凝集誘導物質[ここで、場合によっては、A、A’、A’’およびB、B’B’’の間にリンカー(スペーサー)が存在しうる]。A、A’およびA’’は、異なる又は類似した部分である(例えば、異なるペプチド配列または異なる化学的部分)。B、B’およびB’’は、異なる又は類似した自己会合配列である(例えば、Bは、標的タンパク質に由来するベータ凝集配列であり、B’は合成ベータ凝集配列である)。
【0012】
「タンパク質の機能をダウンレギュレーションする」なる表現は、タンパク質の正常な生物学的活性を減少(この場合、抑制、下方調節、低下および阻害は同等の用語である)させること、または凝集(すなわち、凝集誘導物質と標的タンパク質との間の共凝集)の誘導により該タンパク質をその正常な生物学的環境から引き離す(例えば、小胞体の常在物であるタンパク質がその機能のダウンレギュレーションにより存在しない)ことを意味する。したがって、本発明の方法を適用することにより、本発明の非天然分子とタンパク質を接触させることにより、該タンパク質の凝集を介して該タンパク質の機能が阻害される。該非天然分子は本明細書中では「凝集誘導物質」または「凝集誘導物質分子」と称される。凝集は、通常は可溶性であるタンパク質がその正常な生物学的環境中で該凝集誘導物質との直接的接触または結合により不溶性タンパク質または凝集タンパク質へと変化することを意味する。「タンパク質の機能をダウンレギュレーションする」なる表現は、「タンパク質の機能をノックダウンする」または「タンパク質の機能を負に妨害する」なる表現と互換的に用いられうる。タンパク質の機能のダウンレギュレーションは、タンパク質が細胞内に可溶性形態で、もはや存在しないこと、またはタンパク質がその正常な生物学的環境(例えば、(亜)細胞または細胞外局在化)中に可溶性形態で、もはや存在しないことをも意味しうる。また、それは、凝集したタンパク質が細胞の天然排除メカニズムにより分解され、可溶性または不溶性形態として、もはや検出可能でないことをも意味しうる。また、それは、膜貫通受容体タンパク質が、該膜貫通タンパク質の凝集誘導物質誘導性凝集により(例えば、該増殖因子受容体に通常結合するリガンドと少なくとも1つのベータ凝集ドメインとの融合体の形成により)、その通常のリガンドに、もはや結合し得ないことをも意味しうる。したがって、タンパク質の機能のダウンレギュレーションは、例えばミトコンドリアの常在物であるタンパク質が、誘導タンパク質凝集の方法により、そこに、もはや存在しないことをも意味しうる。特定の実施形態においては、「タンパク質の機能のダウンレギュレーション」または「タンパク質の機能の負の妨害」または「タンパク質の機能のノックダウン」は、該タンパク質の正常(100%)な機能と比較して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または更には100%の機能喪失である。正常な生物学的環境(局在化)におけるタンパク質の機能またはタンパク質の存在の欠損は当技術分野で公知の方法により簡便に決定されうる。例えば、関心のある標的タンパク質に応じて、該機能は、酵素活性の減少を測定することにより決定されうる。正常な生物学的局在化におけるタンパク質の存在の減少は、例えば、複合体の形成の欠如、亜細胞(細胞下)区画内の標的タンパク質の存在の欠如、可溶性形態の標的タンパク質の存在、凝集(この場合、不溶性は同意義の用語である)形態の標的タンパク質の存在により測定されうる。あるいは、標的タンパク質のダウンレギュレーションの効果は細胞アッセイ(例えば、成長の減少または増加、浸潤の減少または増加、タンパク質分解活性の減少または増加)により測定されうる。
【0013】
特定の実施形態においては、タンパク質のそのような正常な生物活性(または正常な機能または正常な局在化)が細胞内または細胞外で妨害されうる。「細胞内」は、生物または宿主の細胞の内部(例えば、細胞質、ミトコンドリア、リソソーム、液胞、核、葉緑体、小胞体(ER)、細胞膜、ミトコンドリア膜、葉緑体膜など)におけるタンパク質の局在化を意味する。「細胞外」は、細胞の細胞外媒体におけるタンパク質の局在化だけでなく、膜固着タンパク質、膜貫通タンパク質などのような、細胞外媒体と接触するタンパク質をも意味する。細胞外タンパク質の非限定的な例としては、分泌タンパク質(例えば、血液または血漿中に存在するプロテアーゼ、抗体およびサイトカイン)または細胞外マトリックス中に存在するタンパク質(例えば、マトリックス金属タンパク質および膜貫通タンパク質(例えば、増殖因子受容体))が挙げられる。
【0014】
本発明の方法で標的化されうる細胞または宿主には、原核生物細胞および真核生物細胞が含まれる。非限定的な例としては、ウイルス、細菌、酵母、真菌、原生動物、植物および哺乳動物(ヒトを含む)が挙げられる。
【0015】
タンパク質の生物学的機能のダウンレギュレーションの方法は、1、2、3、4、5個またはより一層多数のタンパク質の生物学的機能を同時に妨害するために用いられうることが明らかなはずである。特に、部分Aは少なくとも1つの結合領域を含むため、部分Aは、例えば、異なるタンパク質にそれぞれが特異的である異なる結合領域を含みうる。少なくとも1つの標的タンパク質の生物学的機能を妨害するために使用する凝集誘導物質は天然には存在せず、化学合成または組換えタンパク質発現または後者の組合せにより製造されうる。
【0016】
したがって、凝集誘導物質分子は少なくとも1つのベータ凝集領域を含む(したがって、部分Bは少なくとも1つのベータ凝集領域を含む)。「ベータ凝集領域」は、本発明においては、同一配列または非常に密接に関連した配列と強固な分子集合体を形成する傾向が高い、アミノ酸の連続配列と定義される。「ベータ凝集領域」は「自己会合領域」とも称されうる。また、「強固な分子集合体を形成する傾向が高い」なる表現は「高いアフィニティを有する」ことと解釈されうる。アフィニティは、通常、解離の値(Kd−値)に変換される。ベータ凝集領域間のKd−値は、典型的には、マイクロモルとナノモルとの間の範囲にあるが、ナノモル未満またはマイクロモル超であることも可能である。ベータ凝集領域の具体例としては、分子間ベータシート領域、アルファ−らせん要素、アミロイド領域、ヘアピンループ、膜貫通配列およびシグナル配列が挙げられる。特定の実施形態においては、少なくとも1つのベータ凝集領域が部分Bに存在する。もう1つの特定の実施形態においては、少なくとも2つのベータ凝集領域が部分Bに存在する。もう1つの特定の実施形態においては、3、4、5、6個またはそれ以上のベータ凝集領域が部分Bに存在する。該ベータ凝集領域はリンカー領域(例えば、約2〜約4アミノ酸のスペーサー)により相互連結されうる。標的タンパク質は、本発明においては、その機能を妨害したいタンパク質として定義される。したがって、凝集誘導物質を少なくとも1つのタンパク質に特異的にするために、部分Aにおける少なくとも1つの結合領域は該標的タンパク質に結合しうるものであるべきである。ベータ凝集領域の長さは少なくとも3個の連続的アミノ酸よりなることが好ましい。好ましい実施形態においては、該領域は約3〜約30アミノ酸よりなる。もう1つの好ましい実施形態においては、該領域は約3〜約25アミノ酸よりなる。特に好ましい実施形態においては、該領域は約5〜約20アミノ酸よりなる。
【0017】
該凝集誘導物質分子の部分Bに存在するベータ凝集領域は、場合によっては、該ベータ凝集領域間でスペーサー(またはリンカー)で連結されうる。例えば、使用されうるベータ凝集領域は、宿主内に通常は存在しないタンパク質のベータ凝集領域に由来するものでありうる(したがって、部分B内の幾つかのベータ凝集領域は無関係な生物から得られうる)。ベータ凝集領域の性質は誘導凝集による標的タンパク質の抑制のレベル(すなわち、抑制の強度)を決定する。凝集誘導物質分子においては2以上のベータ凝集領域が使用可能であり、合成ベータ凝集領域も使用可能である。特定の実施形態においては、そのようなベータ凝集領域は、既存タンパク質に由来せず従って天然に存在しない合成配列よりなる。そのような合成自己会合領域はLopez de la Paz M.ら(2002)PNAS 99,25,p.16053,表1(これを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0018】
該凝集誘導物質分子においては、部分Bおよび部分Aは、場合によっては、リンカー領域(スペーサーは同意義の用語である)により連結(またはカップリング)されうる。該リンカー領域は、例えば、化学合成により作製された非天然リンカー(例えば、柔軟なリンカー、例えば、ヒドロキシ置換アルカン鎖、デキストラン、ポリエチレングリコール、あるいは該リンカーはアミノ酸ホモログよりなることも可能である)であることが可能であり、あるいは該リンカーは天然アミノ酸、例えばポリ(トレオニン)またはポリ(セリン)を含みうる。該リンカーがアミノ酸を含む場合、好ましくは、該リンカー領域の長さは約3〜約15アミノ酸、より好ましくは約5〜約10アミノ酸である。しばしば、柔軟なリンカーが選択されうるが、堅いリンカーも機能すると予想される。柔軟なリンカー配列は天然から入手可能であり、大抵は、そのような領域は、例えばsrcチロシンキナーゼのSH2およびSH3ドメイン間のリンカーまたはBRCA1のBRCTドメイン間のリンカーのように、天然に存在するタンパク質におけるドメインを連結している。
【0019】
「接触」なる語は、凝集誘導物質と標的タンパク質とが相互作用する過程を意味する。1つの形態においては、標的タンパク質を含むサンプルに凝集誘導物質を加える(例えば、凝集誘導物質は溶液中に特定の濃度で存在する)。もう1つの形態においては、凝集誘導物質分子を、標的タンパク質を含む生物の体内に注入する。接触はまた、例えば、標的タンパク質を含む細胞(例えば、単離された細胞、例えば細胞培養内の細胞、単細胞微生物、または多細胞生物内の単一の細胞もしくは複数の細胞)の形質転換の方法により行われうる。形質転換は、一般に公知のトランスフェクションまたは形質転換方法により[例えば、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルス法、カチオニックリポソームの使用(例えば、Feigner,P.L.ら(1987),Proc.Natl.Acad.Sci USA 84,7413を参照されたい)、商業的に入手可能なカチオニック脂質製剤、例えばTfx50(Promega)またはLipofectamin2000(Life Technologies)、粒子射入などを含む遺伝子導入技術により]、凝集誘導物質分子が宿主(例えば、細胞)内に導入されることを意味する。凝集誘導物質分子は組換えベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスベクター)によりコードされることが可能であり、宿主内で合成されうる。もう1つの実施形態においては、凝集誘導物質分子は担体媒介性運搬、例えばリポソーム担体またはナノ粒子により、あるいは注入により、細胞内に導入されうる。さらにもう1つの実施形態においては、凝集誘導物質分子は、細胞透過(または細胞トランスロケーション)を媒介する配列を介して細胞に進入しうる。後者の場合、凝集誘導物質分子は更に、細胞透過配列の組換え的または合成的結合により修飾される。したがって、凝集誘導物質分子(例えば、ポリペプチドとして)は更に、原核生物または真核生物細胞内への融合体または化学的連結タンパク質の形質導入を促進する配列に融合または化学的に連結されうる。タンパク質形質導入を促進する配列は当業者に公知であり、タンパク質形質導入ドメインを包含するが、これに限定されるものではない。好ましくは、該配列は、HIV TATタンパク質、ポリアルギニン配列、ペネトラチンおよびpep−1を含む群から選ばれる。さらに他の一般に用いられる細胞透過性ペプチド(天然ペプチドおよび人工ペプチドの両方)がJoliot A.およびProchiantz A.(2004)Nature Cell Biol.6(3)189−193に開示されている。
【0020】
特定の実施形態においては、凝集誘導物質はアミノ酸より実質的になる。「ポリペプチド」は、単量体がアミノ酸でありアミド結合により互いに連結された重合体を意味し、ペプチドとも称される。該アミノ酸がアルファ−アミノ酸である場合、L−光学異性体またはD−光学異性体が使用されうる。また、非天然アミノ酸、例えばベータ−アラニン、フェニルグリシンおよびホモアルギニンも含まれる。遺伝子によりコードされていない一般に見られるアミノ酸も本発明において使用されうる。凝集誘導物質において使用されるアミノ酸の全部または一部がD−またはL−異性体でありうる。また、他のペプチド模倣体も本発明において有用である。Sillerud LOおよびLarson RS(2005)Curr Protein Pept Sci.6(2):151−69からの、タンパク質−タンパク質相互作用に対するアンタゴニストとしてのペプチド模倣体の開発および使用の概説について特に言及し、それを本明細書に組み入れることとする。さらに、回転特性(特にグリシンの場合)を安定化させるために、該ペプチド配列にD−アミノ酸を付加することが可能である。もう1つのアプローチにおいては、ペプチドにおける構造モチーフおよび回転特性を模倣し、同時に、タンパク質分解に対する安定性を付与し、例えばコンホメーション安定性および溶解性のような他の特性を増強するために、アルファ、ベータ、ガンマまたはデルタ回転模倣体、例えばアルファ、ベータ、ガンマまたはデルタジペプチドを使用することが可能である。
【0021】
標的タンパク質からのベータ凝集領域の単離
ベータ凝集配列は疎水性であることが多いが、常にそうであるわけではない。例えば、酵母プリオンのベータ凝集(または自己会合)領域は相当に極性である。実際には、ポリペプチドまたはタンパク質に由来するアミノ酸領域のクロスベータ凝集は、(1)それが高い疎水性を有する、(2)それが良好なβシート傾向を有する、(3)それが低い実効電荷を有する、および(4)それが溶媒に露出された場合に開始しうる。したがって、ベータ凝集タンパク質領域(「セグメント」は「領域」と同意義の用語である)は大抵は、折り畳まれた(フォールディングした)状態で埋もれており、溶媒に露出されない。後者の点は、多数の球状タンパク質においては凝集がリフォールディング中に生じる、あるいは変性した若しくは部分的に折り畳まれた状態が有意に(すなわち、高濃度で)存在する条件下で生じる、あるいは不安定化条件もしくは突然変異の結果として生じるという実験的知見により証明されている。
【0022】
これらの知見に基づいて、タンパク質内のベータ凝集領域(「β凝集伸長またはセグメント」は同意義の用語である)を予測しうるコンピューターアルゴリズムが開発された。1つのそのようなアルゴリズムであるTANGOは、前記の3つの物理化学的パラメーターに注目するが種々の構造コンホメーション(ベータターン、アルファらせん、ベータシート凝集物および折り畳まれた状態)間の競合にも注目する統計力学アルゴリズムに基づく[Fernandez−Escamilla,AMら(2004)Nat.Biotechnol.22,1302−1306、特に、1305および1306ページの方法の部(これを参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)、そしてまた、TANGOアルゴリズムの校正および試験に用いた方法およびデータセットの更なる詳細に関しては、同じ文献のSupplementary Notes 1 and 2]。したがって、標的タンパク質内に存在するベータ凝集領域はTANGOのようなコンピューターアルゴリズムにより入手可能である。ベータ凝集領域、特にアミロイド領域を決定するもう1つのアルゴリズムは、Zibaee Sら(2007)Protein Sc.16(5):906−18に記載されているSALSAである。タンパク質内のアミロイド構造領域を決定しうる更にもう1つのアルゴリズムは、Trovato Aら(2006)PLoS Comput Biol 2(12):e170に記載されているPASTAである。さらにもう1つのアルゴリズムはAggrescan(Conchillo−Sole Oら(2007)BMC Bioinformatics 8:65)である。後者のアルゴリズムはタンパク質内の凝集し易いセグメント(すなわち、ベータ凝集領域)をも予測する。
【0023】
ベータ凝集領域は、しばしば、標的タンパク質のコアの内部に埋もれていて10、標的タンパク質の安定性に対応するエネルギー障壁により、分子間会合から該ペプチドを有効に遮断している11。その正常環境(例えば、細胞質、細胞外マトリックス)においては、標的タンパク質は、その機能性単量体形態を維持するよう該タンパク質を補助する分子シャペロンからの援助を受ける12。TANGOはhttp://tango.embl.de/におけるワールド・ワイド・ウェブでアクセス可能である。ジグレゲーター(zyggregator)アルゴリズムはもう1つの例である(Pawar APら(2005)J.Mol.Biol.350,379−392)。これらのアルゴリズムは、与えられたアミノ酸配列の凝集傾向スコアを、類似した長さの一群の配列から計算された平均傾向と比較することにより、凝集し易い配列を特定する。
【0024】
本発明は、タンパク質凝集の特異的誘導のために使用する凝集誘導物質分子の製造のために、これらのベータ凝集領域を使用する。凝集誘導物質分子のB部分は少なくとも1つの凝集領域を含む。タンパク質妨害の強度(タンパク質妨害の強度は、例えば、標的タンパク質または該タンパク質を含む細胞を特定の凝集誘導物質分子と接触させた場合の、該標的タンパク質の生物学的機能の低下率である)は、凝集誘導物質分子のB部分における2個以上の凝集領域の取り込みにより制御可能である。実際、低いTANGOスコア(典型的には5%〜約20%)を有する凝集領域は、凝集誘導物質のB部分において、2、3、4個またはそれ以上に、凝集領域が反復されうる。もう1つの実施形態としては、低いTANGOスコアを有する1、2または3または4個またはそれ以上の異なる凝集領域が凝集誘導物質のB部分内に含まれうる。もう1つの実施形態においては、標的タンパク質のダウンレギュレーションを増強するために、1、2、3、4個またはそれ以上の合成凝集領域がB部分内に組込まれうる。
【0025】
したがって、もう1つの実施形態においては、本発明は、標的タンパク質を凝集させうる天然に存在しない分子を提供する。特定の実施形態においては、そのような天然に存在しない分子は、事実上、タンパク質性である。タンパク質性は、該分子がL−アミノ酸またはD−アミノ酸またはL−およびD−アミノ酸の混合物または天然アミノ酸とペプチド模倣体との組合せを含むことを意味する。さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、水溶性になりうるタンパク質ドメインから単離された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む天然に存在しない分子を提供し、ここで、該ベータ凝集領域は、該ベータ凝集領域の凝集を妨げる部分に融合されている。さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、標的タンパク質に結合しうる領域に融合された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む天然に存在しない分子を提供する。
【0026】
特定の実施形態においては、標的タンパク質と相互作用しうる結合領域に融合された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む凝集誘導物質分子はポリペプチドである。もう1つの特定の実施形態においては、本発明は、そのような凝集誘導物質分子をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを提供する。もう1つの特定の実施形態においては、本発明の凝集誘導物質分子は医薬として使用される。
【0027】
凝集誘導物質分子の治療用途
タンパク質は、多数の酵素反応から、シグナルの伝達、そして構造の付与に及ぶ、広範な生物活性をもたらす。タンパク質の構造、存在量または活性における変化は多数の疾患の根本原因である。多数の薬物は1つ又は限られた数のタンパク質への特異的な妨害(干渉)を介して作用する。本発明は、標的タンパク質と相互作用しうる結合領域を利用することにより、選択された標的タンパク質を特異的に妨害する新規クラスの化合物を開発するための方法を提供する。これらの新規化合物は凝集誘導物質と称される。したがって、さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、少なくとも1つのベータ凝集領域を含む天然に存在しない分子の、医薬としての使用を提供し、ここで、該ベータ凝集領域は、標的タンパク質と相互作用しうる領域に融合している。該結合領域は該凝集誘導物質分子の自己凝集を妨げる。該凝集誘導物質分子は、少なくとも1つの標的タンパク質(例えば、発癌性タンパク質)の異常発現を伴う疾患(例えば、癌)を治療するために、および/またはそのような疾患の治療のための医薬の製造において使用されうる。「異常発現」なる語は、例えば、癌の場合には発癌性タンパク質の(過剰)発現を意味し、それはドミナントネガティブタンパク質の発現、特定のタンパク質または特定のタンパク質のスプライス変異体の望ましくない局在化、特定のタンパク質の特定のスプライス変異体の望ましくない発現、突然変異タンパク質の、より高い活性、あるいは特定のタンパク質の、より高い活性をも含む。
【0028】
特定の実施形態においては、「異常発現」は、翻訳後修飾タンパク質の望ましくない存在、または非翻訳後修飾タンパク質の望ましくない存在を意味する。翻訳後修飾は修飾アミノ酸の物理化学的性質を改変し、したがって、それらは、最強の凝集傾向を有する形態を特異的に標的化するために利用されうる与えられたポリペプチドセグメントの凝集傾向を改変する可能性を有する。したがって、翻訳後修飾がベータ凝集領域の凝集傾向を有意に軽減する場合には、妨害は未修飾タンパク質において最も効率的である。これとは対照的に、ベータ凝集領域の凝集傾向を増強する翻訳後修飾の場合には、妨害は修飾タンパク質において最も効率的である。疎水性のみに基づけば、リン酸化およびグリコシル化のような修飾は凝集傾向を軽減し、一方、脂質結合は凝集傾向を増強するであろう。
【0029】
本発明の凝集誘導物質分子が向けられる標的タンパク質は病的状態に関連づけられうる。例えば、該タンパク質は、病原体関連タンパク質、例えばウイルスタンパク質、腫瘍関連抗原または自己免疫疾患関連タンパク質でありうる。1つの態様においては、本発明は、望ましくない細胞増殖(例えば、悪性または非悪性細胞増殖)のリスクを有する又はそのような望ましくない細胞増殖に罹患している対象を治療する方法に関する。該方法は、凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質)(ここで、該凝集誘導物質分子は、望ましくない細胞増殖を促進したタンパク質の機能および/または存在を妨害(抑制)しうる)を準備し、該凝集誘導物質を対象(好ましくは、ヒト対象)に投与し、それにより該対象を治療することを含む。
【0030】
好ましい実施形態においては、該タンパク質は、増殖因子または増殖因子受容体、キナーゼ(例えば、プロテインキナーゼ、セリンまたはトレオニンキナーゼ)、アダプタータンパク質、Gタンパク質共役受容体スーパーファミリーからのタンパク質、または転写因子である。好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はPDGF−ベータタンパク質の生物学的機能を妨害し、したがって、望ましくないPDGF−ベータ発現により特徴づけられる障害(例えば、精巣および肺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質はErb−Bタンパク質の機能および/または存在を抑制(ノックダウン)し、したがって、望ましくないErb−B発現により特徴づけられる障害(例えば、乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質はSrcタンパク質の機能を抑制し[または機能を「妨害」し(これは同意義の表現である)](またはSrcタンパク質の存在を妨害し)、したがって、望ましくないSrc発現により特徴づけられる障害(例えば、結腸癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質はCRKタンパク質の機能および/または存在を抑制し、したがって、望ましくないCRK発現により特徴づけられる障害(例えば、結腸および肺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質はGRB2タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないGRB2発現により特徴づけられる障害(例えば、扁平上皮癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はRAS遺伝子の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないRAS発現により特徴づけられる障害(例えば、膵臓、結腸および肺癌ならびに慢性白血病)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はMEKKタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないMEKK発現により特徴づけられる障害(例えば、扁平上皮癌、メラノーマまたは白血病)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はJNKタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないJNK発現により特徴づけられる障害(例えば、膵臓または乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はRAFタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないRAP発現により特徴づけられる障害(例えば、肺癌または白血病)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はErkl/2タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないErkl/2発現により特徴づけられる障害(例えば、肺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はPCNA(p21)タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないPCNA発現により特徴づけられる障害(例えば、肺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はMYBタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないMYB発現により特徴づけられる障害(例えば、結腸癌または慢性骨髄性白血病)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はc−MYCタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないc−MYC発現により特徴づけられる障害(例えば、バーキットリンパ腫または神経芽腫)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はJUNタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないJUN発現により特徴づけられる障害(例えば、卵巣、前立腺または乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はFOSタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないFOS発現により特徴づけられる障害(例えば、皮膚または前立腺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はBCL−2タンパク質の機能および/または存在を抑制し、したがって、望ましくないBCL−2発現により特徴づけられる障害(例えば、肺もしくは前立腺癌または非ホジキンリンパ腫)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はサイクリンDタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないサイクリンD発現により特徴づけられる障害(例えば、食道および結腸癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はVEGFタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないVEGF発現により特徴づけられる障害(例えば、食道、結腸癌または病的血管新生)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はEGFRタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないEGFR発現により特徴づけられる障害(例えば、乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はサイクリンAタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないサイクリンA発現により特徴づけられる障害(例えば、肺および子宮頸癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はサイクリンEタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないサイクリンE発現により特徴づけられる障害(例えば、肺および乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はWNT−1タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないWNT−1発現により特徴づけられる障害(例えば、基底細胞癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はベータ−カテニンタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないベータ−カテニン発現により特徴づけられる障害(例えば、腺癌または肝細胞癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はc−METタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないc−MET発現により特徴づけられる障害(例えば、肝細胞癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はプロテインキナーゼC(PKC)タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないPKC発現により特徴づけられる障害(例えば、乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はNFカッパ−Bタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないNFカッパ−B発現により特徴づけられる障害(例えば、乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はSTAT3タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないSTAT3発現により特徴づけられる障害(例えば、前立腺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はスルビビン(survivin)タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないスルビビン発現により特徴づけられる障害(例えば、子宮頸または前立腺癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はHer2/Neuタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないHer2/Neu発現により特徴づけられる障害(例えば、乳癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はトポイソメラーゼIタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないトポイソメラーゼI発現により特徴づけられる障害(例えば、卵巣および結腸癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はトポイソメラーゼIIアルファタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないトポイソメラーゼII発現により特徴づけられる障害(例えば、卵巣および結腸癌)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの態様においては、本発明は、血管新生抑制により治療的利益が得られうる疾患もしくは障害(例えば、癌)のリスクを有する又は該疾患もしくは障害に罹患している対象(例えば、ヒト)を治療する方法を提供する。該方法は、血管新生を引き起こすタンパク質を抑制(またはその機能を妨害)しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象に投与し、それにより該対象を治療することを含む。好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はアルファv−インテグリンタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないアルファv−インテグリンにより特徴づけられる障害(例えば、脳腫瘍または上皮由来の腫瘍)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はFlt−1受容体タンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないFlt−1受容体により特徴づけられる障害(例えば、癌および慢性関節リウマチ)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はチューブリンタンパク質の機能および/または存在を妨害し、したがって、望ましくないチューブリンにより特徴づけられる障害(例えば、癌および網膜血管新生)または該障害のリスクを有する対象を治療するために使用されうる。
【0031】
もう1つの態様においては、本発明は、ウイルスに感染した対象、あるいはウイルス感染に関連した障害もしくは疾患のリスクを有する又は該障害もしくは疾患に罹患している対象を治療する方法を提供する。該方法は、ウイルス機能(例えば、侵入または成長)を媒介する細胞タンパク質またはウイルスタンパク質に相同であり該タンパク質をサイレンシング(抑制)しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象(好ましくは、ヒト対象)に投与し、それにより該対象を治療することを含む。したがって、本発明は、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、呼吸器性シンシチウムウイルス(RSV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ライノウイルス、西ナイルウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、麻疹ウイルス(MV)またはポリオウイルスを含むウイルスに感染した患者を治療する医薬の製造のために、凝集誘導物質を使用する方法を提供する。
【0032】
もう1つの態様においては、本発明は、病原体(例えば、細菌、アメーバ、寄生虫または真菌病原体)に感染した対象を治療する方法に関する。該方法は、該病原体に由来する病原性タンパク質の機能を妨害しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象(好ましくは、ヒト対象)に投与し、それにより該対象を治療することを含む。該病原体由来の標的タンパク質は、成長(増殖)、細胞壁合成、タンパク質合成、転写、エネルギー代謝(例えば、クレブスサイクル)または毒素産生に関与するものでありうる。したがって、本発明は、例えばプラスモジウム・ファシパルム(Plasmodium falciparum)、マイコバクテリウム・ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・レプレ(Mycobacterium leprae)、スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)またはマイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)に感染した患者を治療する方法を提供する。
【0033】
もう1つの態様においては、本発明は、望ましくない免疫応答により特徴づけられる疾患もしくは障害(例えば、炎症疾患もしくは障害または自己免疫疾患もしくは障害)のリスクを有する又は該疾患もしくは障害に罹患した対象(例えば、ヒト)を治療する方法を提供する。該方法は、望ましくない免疫応答を引き起こすタンパク質の機能および/または存在を抑制(ダウンレギュレーション)しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象に投与し、それにより該対象を治療することを含む。好ましい実施形態においては、該疾患または障害は、虚血または再灌流障害、例えば虚血再灌流、または急性心筋梗塞、不安定狭心症、心肺バイパス、外科的介入(例えば、血管形成術、例えば、経皮経管血管形成術)、移植臓器または組織(例えば、移植心臓または血管組織)に対する応答、あるいは血栓溶解に関連した障害(損傷)である。もう1つの好ましい実施形態においては、該疾患または障害は再狭窄、例えば、外科的介入(例えば、血管形成術、例えば、経皮経管血管形成術)に関連した再狭窄である。もう1つの好ましい実施形態においては、該疾患または障害は炎症性腸疾患、例えばクローン病または潰瘍性大腸炎である。もう1つの好ましい実施形態においては、該疾患または炎症は、感染または損傷に関連した炎症である。もう1つの実施形態においては、該疾患または障害は喘息、ループス、多発性硬化症、糖尿病、例えばII型糖尿病、関節炎、例えば関節リウマチまたは乾癬性関節炎である。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はインテグリンまたはその共リガンド(co−ligand)、例えばVLA4、VCAM、ICAMの機能を妨害する。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はセレクチンまたはその共リガンド、例えばP−セレクチン、E−セレクチン(ELAM)、L−セレクチンまたはP−セレクチン糖タンパク質−(PSGL1)の機能を妨害する。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子は補体系の成分、例えばC3、C5、C3aR、C5aR、C3コンベルターゼ、C5コンベルターゼの機能を妨害する。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はケモカインまたはその受容体、例えばTNF−α、IL−1α、IL−1、IL−2、IL−2R、IL−4、IL−4R、IL−5、IL−6、IL−8、TNFRI、TNFRII、IgE、SCYA11またはCCR3の機能を妨害する。
【0034】
もう1つの態様においては、本発明は、急性疼痛もしくは慢性疼痛のリスクを有する又は急性疼痛もしくは慢性疼痛に罹患した対象(例えば、ヒト)を治療する方法を提供する。該方法は、疼痛の過程を媒介するタンパク質を妨害しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象に投与し、それにより該対象を治療することを含む。もう1つの好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はイオンチャネルの成分の機能を妨害する。もう1つの特に好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子は神経伝達物質受容体またはリガンドの機能を妨害する。
【0035】
もう1つの実施形態においては、本発明は、神経疾患もしくは障害のリスクを有する又は神経疾患もしくは障害に罹患した対象(例えば、ヒト)を治療する方法に関する。該方法は、神経疾患または障害を引き起こすタンパク質を妨害しうる凝集誘導物質分子(例えば、本明細書に記載されている構造を有する凝集誘導物質分子)を準備し、該凝集誘導物質分子を対象に投与し、それにより該対象を治療することを含む。特定の実施形態においては、治療されうる疾患(または障害)には、アルツハイマー病[この場合、該凝集誘導物質分子は、APPのプロセシングをもたらすセクレターゼ、例えば、ガンマーセクレターゼ複合体に関与するタンパク質(例えば、プレセニリンタンパク質1または2、Aph1タンパク質、ニカストリン、BACE1またはBACE2)の機能を妨害する]が含まれる。該凝集誘導物質はAPPのプロセシングを抑制し、不溶性アミロイドベータの形成を妨げる。他の神経変性疾患、例えばハンチントン病、脊髄小脳失調症(例えば、SCA1、SCA2、SCA3(マシャド・ジョセフ病)、SCA7またはSCA8)を予防および/または治療するために、同じ方法が用いられうる。
【0036】
したがって、1つの態様においては、本発明は、少なくとも1つの凝集誘導物質分子を含有させ、更に、該凝集誘導物質分子を医薬上許容される担体と混合することを含む、医薬または医薬組成物の生産または製造方法を提供する。好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子はポリペプチドであり、合成的に又は組換えタンパク質として製造されうる。該組換えタンパク質は、細菌細胞、酵母細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞またはトランスジェニック動物もしくは植物を含む組換え発現系を使用して製造されうる。該組換えタンパク質は、いずれかの通常のタンパク質精製方法により、均一に近い程度にまで精製されることが可能であり、および/または添加物と混合されることが可能である。
【0037】
凝集誘導物質分子を含む医薬組成物の投与は、経口、吸入、経皮または非経口(静脈内、腫瘍内、腹腔内、筋肉内、腔内および皮下を含む)投与によるものでありうる。該活性化合物は単独で投与されることが可能であり、あるいは好ましくは、医薬組成物として製剤化されうる。単位用量は、通常、0.01〜500mg、例えば、0.01〜50mg、0.01〜10mg、または0.05〜2mgの化合物またはその医薬上許容される塩を含有する。単位用量は、合計1日量が通常、0.0001〜10mg/kgの範囲となるよう、通常、1日1回または2回以上、例えば、1日2、3または4回、より通常は、1日1〜3回投与される。例えば、70kgの成人に対する適当な合計1日量は0.01〜700mg、例えば、0.01〜100mg、または0.01〜10mg、またはより通常は、0.05〜10mgである。
【0038】
該化合物またはその医薬上許容される塩は、単位投与組成物、例えば、単位投与経口、非経口、経皮または吸入組成物の形態で投与することが好ましい。そのような組成物は混合により製造され、適切には、経口、吸入、経皮または非経口投与に適合化され、したがって、錠剤、カプセル剤、経口液体製剤、散剤、顆粒剤、ロゼンジ、還元(再構成)可能な散剤、注射可能および注入可能な溶液もしくは懸濁液、または坐剤またはエアロゾル剤の形態でありうる。
【0039】
経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、通常、単位用量で提供され、通常の賦形剤、例えば結合剤、充填剤、希釈剤、打錠剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、香味剤および湿潤剤を含有する。錠剤は、当技術分野におけるよく知られた方法によりコーティングされうる。使用される適当な充填剤には、セルロース、マンニトール、ラクトースおよび他の同様の物質が含まれる。適当な崩壊剤には、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプン誘導体、例えばデンプングリコール酸エステルナトリウムが含まれる。適当な滑沢剤には、例えば、ステアリン酸マグネシウムが含まれる。適当な医薬上許容される湿潤剤には、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。これらの固体経口組成物は、混合、充填、打錠などの通常の方法により製造されうる。多量の充填剤を使用する組成物の全体にわたって活性物質を分配させるために、反復混合操作が用いられうる。そのような操作は、勿論、当技術分野における常套手段である。
【0040】
経口液体製剤は、例えば、水性または油性の懸濁剤、溶液剤(水剤)、乳剤、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であることが可能であり、あるいは使用前に水または他の適当なビヒクルで還元するための乾燥製品として提供されうる。そのような液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルまたは硬化食用脂肪、乳化剤、例えばレシチン、ソルビタンモノオレアートまたはアカシア;非水性ビヒクル(これには食用油が含まれる)、例えばアーモンド油、分別化ヤシ油、油性エステル、例えば、グリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールのエステル;保存剤、例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸、そして所望により、通常の香味剤または着色剤を含有しうる。経口製剤には、通常の徐放製剤、例えば、腸溶コーティングを有する錠剤または顆粒剤も含まれる。
【0041】
好ましくは、吸入用の組成物は、気道への投与用に、嗅剤またはエアロゾル剤または溶液剤(ネブライザー用のもの)として、あるいは吹送法用の微細散剤として、単独で又は不活性担体、例えばラクトースと組合せて提供される。そのような場合、活性化合物の粒子は、適切には、50ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、例えば1〜5ミクロン、例えば2〜5ミクロンの直径を有する。あるいは、30〜500nmの粒径を有するコーティングされたナノ粒子が使用されうる。好ましい吸入用量は0.05〜2mg、例えば0.05〜0.5mg、0.1〜1mg、または0.5〜2mgの範囲である。
【0042】
非経口投与の場合には、本発明の化合物と無菌ビヒクルとを含有する流体単位用量形態を製造する。該活性化合物は、該ビヒクルおよび濃度に応じて、懸濁または溶解されうる。非経口溶液は、通常、該化合物をビヒクルに溶解し、滅菌濾過した後で適当なバイアルまたはアンプル内に充填し密封することにより製造される。有利には、補助剤、例えば局所麻酔薬、保存剤および緩衝剤も該ビヒクルに溶解される。安定性を増強するために、バイアル内への充填後、該組成物を凍結乾燥し、真空下で水を除去することが可能である。非経口懸濁剤は、該化合物を溶解する代わりにビヒクルに懸濁させエチレンオキシドにさらすことにより滅菌した後で無菌ビヒクルに懸濁させること以外は、実質的に同じ方法で製造される。有利には、該活性化合物の均一な分布を促進させるために、界面活性剤または湿潤剤を該組成物中に含有させる。適当な場合には、少量の気管支拡張薬、例えば交感神経興奮性アミン、例えばイソプレナリン、イソエタリン、サルブタモール、フェニレフリンおよびエフェドリン;キサンチン誘導体、例えばテオフィリンおよびアミノフィリン、ならびにコルチコステロイド、例えばプレドニゾロンおよび副腎刺激剤、例えばACTHが含有されうる。
【0043】
慣例のとおり、該組成物には、通常、関係のある医学的治療における使用のための、書面の又は印刷された説明が付属する。
【0044】
好ましい実施形態においては、該凝集誘導物質分子は更に、タンパク質トランスダクションドメインを含む。タンパク質トランスダクションドメイン(PTD)と称される一連の小さなタンパク質ドメインは効率的に且つ輸送体または特異的受容体に無関係に生体膜を通過し、細胞内へのペプチドおよびタンパク質の運搬を促進することが示されている。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)由来のTATタンパク質は、生物学的に活性なタンパク質をインビボで運搬しうる。同様に、アンテナペディア・ホメオドメイン(Antennapedia homeodomain)の第3アルファらせん、および単純ヘルペスウイルス由来のVP22タンパク質は、細胞内への共有結合ペプチドまたはタンパク質の運搬を促進する(Ford KGら(2001)Gene Ther.8,1−4において概説されている)。短い両親媒性ペプチド担体Pep―1に基づくタンパク質運搬は、予め化学的に共有結合させることを要することなく、完全に生物学的に活性な形態で幾つかの細胞系内へ種々のペプチドおよびタンパク質を運搬するのに効率的である(Morris MCら,(2001)Nat.Biotechnol.19,1173−1176)。一次導入細胞から周辺細胞へとVP22キメラタンパク質が広がりうることは遺伝子治療アプローチを改善する(Zender Lら(2002)Cancer Gene Ther.9,489−496)。タンパク質トランスダクションを促進する配列は当業者に公知であり、限定的なものではないがタンパク質トランスダクションドメインを包含する。好ましくは、該配列は、HIV TATタンパク質、ポリアルギニン配列、ペネトラチンおよびpep−1を含む群から選ばれる。さらに他の一般に使用される細胞透過性ペプチド(天然ペプチドおよび人工ペプチドの両方)がJoliot A.およびProchiantz A.(2004)Nature Cell Biol.6(3)189−193に開示されている。
【0045】
医薬組成物の第2の態様は、該凝集誘導物質分子をコードするヌクレオチド配列の使用である。該凝集誘導物質分子をコードする核酸配列を使用する場合、該医薬は、好ましくは、遺伝子治療において該核酸を細胞内に運搬することを意図したものである。多数の運搬方法が当業者によく知られている。好ましくは、該核酸はインビボまたはエクスビボ遺伝子治療用途のために投与される。非ウイルス性ベクター運搬系には、DNAプラスミド、裸核酸、およびリポソームのような運搬ビヒクルと複合体化された核酸が含まれる。ウイルスベクター運搬系には、DNAおよびRNAウイルスが含まれ、これらは細胞への運搬後にエピソームゲノムまたは組込みゲノムを有する。核酸の非ウイルス性運搬の方法には、リポフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティックス(biolistics)、ウイロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、裸DNA、人工ビリオン、およびDNAの因子増強取り込みが含まれる。リポフェクションは、例えば米国特許第5,049,386号、米国特許第4,946,787および米国特許第4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬は商業的に販売されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的受容体認識リポフェクションに適した陽イオン性(カチオン性)および中性脂質には、Flegner、WO 91/17424、WO 91/16024のものが含まれる。運搬は細胞(エクスビボ投与)または標的組織(インビボ投与)へのものでありうる。標的化リポソーム、例えば免疫脂質複合体を含む、脂質:核酸複合体の製造は、当業者によく知られている(例えば、Crystal,1995;Blaeseら,1995;Behr,1994;Remyら,1994;GaoおよびHuang,1995;米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号および第4,946,787号を参照されたい)。
【0046】
核酸の運搬のための、RNAまたはDNAウイルスに基づく系の使用は、体内の特定の細胞へウイルスを標的化しウイルス搭載物を核へ送り届けるための高度に進化した方法を利用する。ウイルスベクターは患者に直接的に投与されることが可能であり(インビボ)、あるいは、それらは、細胞をインビトロで治療するために使用されることが可能であり、修飾された細胞が患者に投与される(エクスビボ)。核酸の運搬のための、ウイルスに基づく通常の系には、とりわけ、遺伝子導入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスおよび単純ヘルペスウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターは、現在、標的細胞および組織における遺伝子導入の最も効率的かつ汎用的な方法である。レトロウイルス、レンチウイルスおよびアデノ随伴ウイルス遺伝子導入法では宿主ゲノム内の組込みが可能であり、しばしば、挿入トランスジーンの長期発現がもたらされる。また、多数の異なる細胞型および標的組織において、高い形質導入(トランスダクション)効率が観察されている。核酸の一過性発現が望ましい場合には、複製欠損型アデノウイルスベクターを含む、アデノウイルスに基づく系が使用されうる。アデノウイルスに基づくベクターは多数の細胞型において非常に高い形質導入効率をもたらすことが可能であり、細胞分裂を要しない。そのようなベクターでは、高い力価および発現レベルが得られている。このベクターは比較的単純な系において多量に製造されうる。組換えアデノ随伴ウイルスベクターを含むアデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターも、例えば、核酸およびペプチドのインビトロ製造ならびにインビボおよびエクスビボ遺伝子治療法において、標的核酸を細胞に形質導入するために使用される(例えば、米国特許第4,797,368号、WO 93/24641、Kotin,1994を参照されたい;組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号、Hermonat & Muzyczka,1984;Samulskiら,1989を含む多数の刊行物に記載されている)。
【0047】
遺伝子治療ベクターは、個々の患者への投与により、典型的には全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、気管内、皮下または頭蓋内注入)または局所適用により、インビボで運搬されうる。特定の実施形態においては、本発明はまた、流体力学的(hydrodynamic)遺伝子治療法の使用を想定する。流体力学的遺伝子治療はUS6627616(Mirus Corporation,Madison)において開示されており、凝集誘導物質をコードする非ウイルス性核酸の血管内運搬を含むものであり、それにより、例えば、該血管内の上昇圧力の適用または血管透過性亢進化合物、例えばパパベリン(papaverine)の共投与により、血管の透過性が亢進される。
【0048】
あるいは、細胞、例えば、個々の患者から外植された細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引物、組織生検物)または万能供血者造血幹細胞にエクスビボでベクターを運搬し、ついで、通常は、該ベクターを取り込んだ細胞の選択の後、該細胞を患者の体内へ再移植することが可能である。診断、研究または遺伝子治療のためのエクスビボ細胞トランスフェクション(例えば、宿主生物の体内へのトランスフェクト化細胞の再注入によるもの)は当業者によく知られている。好ましい実施形態においては、細胞を対象生物から単離し、核酸(遺伝子またはcDNA)でトランスフェクトし、該対象生物(例えば、患者)の体内へ再注入する。エクスビボトランスフェクションに適した種々の細胞型が当業者によく知られている(患者から細胞を単離し培養するための方法の考察には、例えば、Freshneyら,1994およびそれにおいて引用されている参考文献を参照されたい)。
【0049】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明のタンパク質凝集(またはタンパク質妨害)の方法は、タンパク質妨害を媒介しうる細胞または生物におけるタンパク質の機能を決定するために用いられうる。該細胞は原核細胞であることが可能であり、あるいは真核細胞であることが可能であり、あるいは細胞系、例えば植物細胞または動物細胞、例えば哺乳類細胞、例えば胚細胞、多能性幹細胞、腫瘍細胞、例えば奇形癌細胞またはウイルス感染細胞であることが可能である。該生物は、好ましくは真核生物、例えば植物または動物、例えば哺乳動物、特にヒトである。
【0050】
本発明の凝集誘導物質分子が向けられる標的タンパク質は病的状態に関連づけられうる。例えば、該タンパク質は、病原体関連タンパク質、例えばウイルスタンパク質、腫瘍関連抗原または自己免疫疾患関連タンパク質でありうる。該標的タンパク質はまた、組換え細胞または遺伝的に改変された生物において発現される異種遺伝子でありうる。そのようなタンパク質の機能を抑制することにより、農業分野または医学もしくは獣医学分野における貴重な情報および治療的利益が得られうる。特に好ましい実施形態においては、本発明の方法は、少なくとも1つの内因性標的タンパク質の少なくとも部分的に欠損した発現を含む標的タンパク質特異的ノックアウト表現型を示す真核細胞または真核非ヒト生物と共に用いられる。この場合、該細胞または生物を、少なくとも1つの内因性標的タンパク質の機能を抑制しうる少なくとも1つの凝集誘導物質分子と接触させ、あるいは少なくとも1つの内因性タンパク質の機能および/または存在を妨害しうる少なくとも凝集誘導物質分子をコードするベクターと接触させる。本発明は、該凝集誘導物質分子の特異性により、いくつかの異なる内因性タンパク質の標的特異的ノックアウトをも可能にすることに注目すべきである。
【0051】
細胞または非ヒト生物(特にヒト細胞または非ヒト哺乳動物)のタンパク質特異的ノックアウト表現型は、分析方法において、例えば、複雑な生理的過程の機能および/または表現型分析、例えばプロテオームの分析において用いられうる。例えば、選択的スプライシング過程の調節因子であると考えられるヒトタンパク質のノックアウト表現型を培養細胞内で調製することが可能である。これらのタンパク質としては、特に、SRスプライシング因子ファミリーのメンバー、例えばASF/SF2、SC35、SRp20、SRp40またはSRp55が挙げられる。さらに、CD44のように、予め決められた選択的にスプライシングされた遺伝子のmRNAプロファイルに対するSRタンパク質の効果が分析されうる。
【0052】
本明細書に記載されている、タンパク質に基づくノックアウト技術を用いて、内因性標的タンパク質の発現が標的細胞または標的生物において抑制されうる。該内因性タンパク質は、該標的タンパク質または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態をコードする外因性標的核酸(例えば、検出可能なペプチドまたはポリペプチド、例えばアフィニティタグ、特に多重アフィニティタグをコードする他の核酸配列に、場合によっては融合されうる遺伝子またはcDNA)により相補されうる。該標的タンパク質の変異体または突然変異形態は、それが単一または複数のアミノ酸のアミノ酸置換、挿入および/または欠失により内因性タンパク質と異なる点で、内因性標的タンパク質とは異なる。該変異体または突然変異形態は、内因性標的タンパク質と同じ生物活性を有しうる。一方、該変異体または突然変異標的タンパク質は、内因性標的タンパク質の生物活性と異なる生物活性(例えば、部分的に欠失した活性、完全に欠失した活性、増強された活性など)をも有しうる。該相補は、外因性核酸によりコードされるポリペプチド(例えば、該標的タンパク質とアフィニティタグとを含む融合タンパク質)と、標的細胞内の内因性タンパク質をノックアウトするための凝集誘導物質分子とを共発現させることにより達成されうる。この共発現は、外因性核酸によりコードされるポリペプチド(例えば、タグ修飾標的タンパク質)と該凝集誘導物質分子との両方を発現する適当な発現ベクターを使用することにより、あるいは発現ベクターの組合せを用いることにより達成されることが可能であり、あるいは該凝集誘導物質分子は標的細胞の外部から該標的細胞と接触することが可能である。標的細胞内で新たに合成されるタンパク質およびタンパク質複合体は外因性タンパク質(例えば、修飾された融合タンパク質)を含有するであろう。凝集誘導物質分子での外因性タンパク質の抑制を避けるために、外因性タンパク質は、凝集誘導物質分子の設計のために選択される凝集領域において、十分なアミノ酸相違を有していなければならない。あるいは内因性標的タンパク質は他の種からの対応タンパク質により相補されることが可能であり、あるいは内因性標的タンパク質は該標的タンパク質のスプライス形態により相補されることが可能である。内因性タンパク質のノックアウトと、突然変異(例えば、部分的に欠失した)外因性標的を使用することによるレスキューとの組合せは、ノックアウト細胞の使用と比べて優れた点を有する。さらに、この方法は、標的タンパク質の機能性ドメインを特定するために特に適している。
【0053】
もう1つの好ましい実施形態においては、例えば少なくとも2つの細胞または生物の遺伝子発現プロファイルおよび/またはプロテオームおよび/または表現型特性の比較を行う。これらの生物は、(i)標的タンパク質抑制を伴わない対照細胞または対照生物、(ii)標的タンパク質抑制を伴う細胞または生物、および(iii)標的タンパク質抑制および標的タンパク質相補(該標的タンパク質をコードする外因性標的核酸によるもの)を伴う細胞または生物から選択される。
【0054】
本発明の方法は、薬理学的物質を特定および/または特徴づけするための方法、例えば、一群の試験物質から新規薬理学的物質を特定する、および/または公知薬理学的物質の作用および/または副作用のメカニズムを特徴づけするための方法にも適している。したがって、本発明はまた、少なくとも1つの標的タンパク質に作用する薬理学的物質を特定および/または特徴づけするための系であって、(a)該標的タンパク質をコードする少なくとも1つの内因性標的遺伝子を発現しうる真核細胞または真核非ヒト生物、(b)前記の少なくとも1つの内因性標的遺伝子の発現を抑制しうる少なくとも1つの凝集誘導物質分子、および(c)薬理学的特性を特定および/または特徴づけしたい試験物質または一群の試験物質を含む系に関する。さらに、前記の系は、好ましくは、(d)標的タンパク質または該標的タンパク質の変異体もしくは突然変異形態もしくはスプライス形態をコードする少なくとも1つの外因性標的核酸を含む(ここで、該外因性標的タンパク質の機能が、該内因性タンパク質の発現より実質的に低い度合で、該凝集誘導物質分子により抑制されるよう、該外因性標的タンパク質は凝集領域のアミノ酸レベルで該内因性標的タンパク質とは異なっている)。また、本発明は、凝集誘導物質分子を含む細胞および生物をも含む。生物は、例えば、凝集誘導物質分子をコードする遺伝情報を含有するトランスジェニック植物でありうる。そのようなトランスジェニック植物は、好ましい実施形態においては、サイレンシングされた植物(すなわち、該植物の細胞もしくは器官の小集団または全ての細胞および器官に特異的凝集誘導物質が存在することにより特定の標的タンパク質がダウンレギュレーションされている植物)である。凝集誘導物質を含む細胞は、該細胞を特定の凝集誘導物質分子と接触させることにより、または該細胞を特定の凝集誘導物質分子でエレクトロポレーションすることにより製造されうる。特定の実施形態においては、凝集誘導物質分子を含む細胞はトランスフェクション(または形質転換)により作製され、ここで、該凝集誘導物質は組換え発現ベクター、例えばプラスミドまたはウイルスベクターによりコードされる。
【0055】
単離:分離および検出
もう1つの実施形態においては、本発明は、標的タンパク質に結合しうる領域に融合された少なくとも1つのベータ凝集領域を含む天然に存在しない分子にサンプルを接触させ、生じた共凝集した分子−タンパク質複合体を該サンプルから単離することを含む、タンパク質をサンプルから単離するための方法を提供する。換言すれば、本発明は、タンパク質をサンプルから単離するための方法であって、
・部分Aと部分Bとを含む天然に存在しない分子[ここで、i)部分Aは、タンパク質に結合しうる領域であり、ii)部分Bは、少なくとも3つの連続的アミノ酸よりなる少なくとも1つのベータ凝集領域を含み、場合によっては、部分Aと部分Bとの間にリンカーが存在しうる]に該タンパク質を接触させ、
・生じた共凝集した分子−タンパク質複合体を該サンプルから単離することを含む方法を提供する。
【0056】
分離
もう1つの実施形態においては、少なくとも1つのタンパク質の単離のための方法は更に、少なくとも1つのタンパク質をサンプルから分離することを含む。サンプルからの少なくとも1つのタンパク質の分離の1つの適用は、非常に豊富に存在しているタンパク質の、サンプルからの除去(または枯渇)である。実際、タンパク質標的の発見および実証における大きな課題は、複雑なタンパク質サンプル(例えば、血漿、尿、脳脊髄液)をどのようにして特異的に分析し微量標的を測定するかである。高存在量のタンパク質は、しばしば、低存在量のタンパク質より6〜10桁高い濃度で濃縮されている。したがって、医学的に重要な微量タンパク質を検出し測定するためには、高存在量のタンパク質を除去する必要がある。アルブミン、IgG、抗トリプシン、IgA、トランスフェリンおよびハプトグロビンがヒト血清中の全タンパク質含量の約90%に相当するため、これらの望ましくない高存在量タンパク質を迅速に除去し、より低い存在量の低分子量タンパク質生物マーカーをアンマスキングするための診断手段が決定的に必要とされている。当技術分野においては、以下の幾つかの方法が既に用いられている:1)高存在量タンパク質標的を捕捉し分離するためのアフィニティ試薬としての免疫グロブリンG(IgG);2)免疫グロブリン卵黄(IgY)は、免疫化されたトリの卵黄から単離されたIgG様抗体である;3)元の混合物中の或るタンパク質を除去するためにタンパク質の混合物を種々の画分へ分離するために予備分画を行う;ならびに4)プロテインAおよびプロテインGは、IgG抗体に対する特異性を有する細菌細胞壁タンパク質であり、したがって、プロテインAおよびGアフィニティ樹脂はIgGの除去をもたらす;ならびに5)IgG−およびIgY−ミクロビーズがタンパク質検出のために使用される。
【0057】
検出
もう1つの特定の実施形態においては、少なくとも1つのタンパク質の単離のための方法は更に、該分子−タンパク質複合体における少なくとも1つのタンパク質の検出を含む。
【0058】
凝集誘導物質分子−標的タンパク質複合体を例えば電気泳動、カラムクロマトグラフィー、遠心分離、濾過、静電的誘引、磁性または常磁性誘引、質量分析などにより分離することにより、検出を行うことが可能である。
【0059】
特定の実施形態においては、凝集誘導物質分子は、ベータ凝集領域に融合された小さな化合物または薬物(例えば、タンパク質標的が未知である活性医学的化合物)よりなる。そのような凝集誘導物質分子は、複合的タンパク質混合物(例えば、細胞ライセート)中の薬物標的を特定(または検出)するために使用されうる。
【0060】
最も広く用いられている生物検出技術は抗体の使用に基づくものである。抗体は、他の分子を、その形状および物理化学的特性に基づいて認識し、それに結合する。抗体は、タンパク質の複合的混合物の存在下の少量の標的タンパク質の検出に非常に適している。本発明は、結合領域が抗体結合要素とは異なる場合、(少なくとも1つの特異的タンパク質に対する特異性およびアフィニティ(認識能)を有する)凝集誘導物質分子が標的タンパク質の特異的捕捉のための(認識要素としての)抗体の使用の代替手段として使用されうることを示す。実際、凝集誘導物質分子は、抗体が典型的に使用される多数の用途において使用されうる。ここでは少数例しか挙げないが、診断、微量分析、司法科学、および病原体の特異的検出における用途が想定される。
【0061】
本発明の検出および分離用途には、与えられた標的タンパク質に対する特異性を有する凝集誘導物質分子を担体に結合させることが可能である。担体は、例えばプラスチックまたはニトロセルロースまたはクロマトグラフィーカラムのような平坦な表面でありうるが、好ましくは、例えばミクロスフェアビーズのようなビーズである。該凝集誘導物質の結合(カップリング)は部分A(特定のタンパク質に対するアフィニティを有する結合領域)または部分B(少なくとも1つのベータ凝集領域)を介してもたらされうる。凝集誘導物質分子に結合させる目的で使用される種々のタイプのビーズおよびミクロスフェアに関する一般的考察はUS6682940(これを参照により明示的に本明細書に組み入れることとする)の9頁および10頁に記載されている。
【0062】
特定の実施形態においては、凝集誘導物質分子は炭水化物タイプの担体、例えばセルロースまたはアガロースに結合される。凝集誘導物質は、例えばグルタルアルデヒドのような架橋剤で該炭水化物担体に共有結合されうる。
【0063】
もう1つの特定の実施形態においては、凝集誘導物質は、例えばセルロース、ガラスまたは合成重合体のような支持体に結合される。共有結合は、部分AまたはBのアミノ酸残基、およびアジド、カルボジイミド、イソシアナートまたは他の化学誘導体を介して行われうる。
【0064】
さらにもう1つの特定の実施形態においては、該支持体は多孔性シラン化ガラスミクロビーズである。凝集誘導物質は、(シッフ反応およびそれに続く水素化ホウ素ナトリウムでの還元により)そのペプチドアミン基を介して、シリカ原子に化学的に連結されたグリシドオキシプロピルシラン基の過ヨウ素酸酸化により形成されたアルデヒド基に共有結合されうる(このカップリングはSportsmanおよびWilson(1980)Anal.Chem.52,2013−2018に記載されている)。
【0065】
特定の実施形態においては、該担体部分は、凝集誘導物質が架橋されるタンパク質性被膜により包まれる(US4478946における担体に関する請求項1〜50および実施例を参照されたい)。
【0066】
もう1つの特定の実施形態においては、該支持体は、例えば蛍光ラテックス粒子のような蛍光ビーズである。特許US4550017、特にその4頁は、蛍光ビーズの製造に使用されうる蛍光化合物を記載している。
【0067】
もう1つの特定の実施形態においては、該ビーズは様々なサイズを有し、蛍光色素をも含有し、あるいは蛍光色素で含浸されうる。該ビーズは種々のサイズおよび色素を有するため、単一の反応において複数のタンパク質が検出され定量されうる。そのようなビーズの顕色(development)のための方法はUS6159748に記載されている。
【0068】
さらにもう1つの特定の実施形態においては、ビーズと凝集誘導物質とのカップリングはポリ(トレオニン)、ポリ(セリン)、デキストランまたはポリ(エチレングリコール)を介したものである。US6399317の実施例6、7、8および9は、このカップリングがどのようにして実施されうるかを例示している。
【0069】
さらにもう1つの特定の実施形態においては、該支持体は磁気ビーズである。磁気ビーズ、磁気ビーズとタンパク質物質(例えば、ポリペプチド凝集誘導物質)とのカップリングおよびそれらの用途は出願US6489092の8頁に記載されている。
【0070】
定義
特に示さない限り、本明細書中で用いられている全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているのと同じ意義を有する。本明細書に記載されているものに類似または同等の任意の方法および材料が本発明の実施または試験において使用されうるが、好ましい方法および材料が記載されている。本発明の目的においては、以下の用語は以下のとおりに定義される。
【0071】
単数形表現は、本明細書においては、文法的対象物の1つ又は2以上(すなわち、少なくとも1つ)を示すものとして用いられている。例えば、「標的タンパク質」は1つの標的タンパク質または2以上の標的タンパク質を意味する。
【0072】
本明細書中で用いる「約」なる語は、基準の数量、レベル、値、寸法、サイズまたは量に対して30%、好ましくは20%、より好ましくは10%変動する数量、レベル、値、寸法、サイズまたは量を意味する。
【0073】
「二官能性架橋試薬」は2つの反応性基を含有する試薬を意味し、したがって、該試薬は、例えば凝集誘導物質分子の部分Aおよび部分Bのような2つの要素を共有結合させる能力を有する。架橋試薬における反応性基は、典型的には、スクシンイミジルエステル、マレイミドおよびハロアセトアミド、例えばヨードアセトアミドを含む官能基のクラスに属する。本明細書の全体において、文脈に矛盾しない限り、「含む」、「含んでなる」および「包含」は、示されている工程もしくは要素または工程もしくは要素の群の包含を意味し、いずれの他の工程もしくは要素または工程もしくは要素の群の除外をも意味するものではないと理解される。
【0074】
「発現ベクター」または「組換えベクター」は、該ベクターによりコードされる凝集誘導物質分子の合成を導きうる任意の自律性遺伝的要素を意味する。そのような発現ベクターは当業者に公知である。
【0075】
「誘導体」は、修飾により、例えば、他の化学的部分との結合または複合体化(例えば、ペジル化(pegylation))により、あるいは当技術分野において理解されているとおりの翻訳後修飾技術により、基本配列から誘導された凝集誘導物質分子を意味する。「誘導体」なる語はその範囲内に、機能的に等価な分子を与える、親配列に施された改変(付加または欠失を含む)をも含む。
【0076】
活性のモジュレーションまたは状態の治療もしくは予防の文脈における「有効量」は、そのようなモジュレーション、治療または予防を要する個体への単一用量または一連の用量の一部としての凝集誘導物質分子の、その効果のモジュレーションまたはその状態の治療もしくは予防に有効な量の投与を意味する。有効量は、治療すべき個体の健康および身体状態、治療すべき個体の分類群、組成物の処方、医学的状態の評価ならびに他の関連要因に応じて様々なものとなろう。該量は、通常の試験により決定されうる比較的広い範囲に含まれると予想される。
【0077】
「単離された」は、物質が、その天然状態において通常付随している成分を実質的または本質的に含有していないことを意味する。例えば、本明細書中で用いる「単離されたポリペプチド」は、天然に存在する状態でそれに隣接している配列から精製されたポリペプチド、例えば、通常隣接している配列から取り出されたベータ凝集配列を意味する。ベータ凝集配列はアミノ酸化学合成により作製され、あるいは組換え製造により作製されうる。
【0078】
本明細書中で用いる「オリゴヌクレオチド」なる語は、ホスホジエステル結合(またはその関連構造変異体もしくは合成類似体)により連結された複数のヌクレオチド単位(デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはその関連構造変異体もしくは合成類似体)から構成される重合体を意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的には、相当短い長さのものであり、一般に、約10〜30ヌクレオチドであるが、該用語は任意の長さの分子を意味しうる。尤も、「ポリヌクレオチド」または「核酸」なる語は、典型的には、大きなオリゴヌクレオチドに関して用いられる。本明細書中で用いる「ポリヌクレオチド」または「核酸」なる語はmRNA、RNA、cRNA、cDNAまたはDNAを示す。該用語は、典型的には、30ヌクレオチド長を超えるオリゴヌクレオチドを意味する。
【0079】
本明細書中で用いる「組換えポリヌクレオチド」なる語は、天然で通常は見出されない形態へと、核酸操作によりインビトロで形成されたポリヌクレオチドを意味する。例えば、組換えポリヌクレオチドは発現ベクターの形態でありうる。一般に、そのような発現ベクターは、ヌクレオチド配列に機能的に連結された転写および翻訳調節核酸を含む。
【0080】
「機能的に連結」は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して、転写および翻訳調節核酸が、該ポリヌクレオチドが転写され該ポリペプチドが翻訳されるよう配置されていることを意味する。
【0081】
「対象」または「個体」または「患者」なる語は本明細書においては互換的に用いられ、治療または予防が望まれる任意の対象、特に脊椎動物対象、より一層詳しくは哺乳動物対象を意味する。本発明の範囲内に含まれる適当な脊椎動物には、限定的なものではないが霊長類、鳥類、魚類、爬虫類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、研究試験用動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、愛玩動物(例えば、ネコ、イヌ)および捕獲された野生動物(例えば、キツネ、シカ、ディンゴ)が含まれる。しかし、前記の用語は、症状が存在することを示唆するものではないと理解される。
【0082】
「医薬上許容される担体」は、患者への局所または全身投与に安全に使用されうる、固体または液体の充填剤、希釈剤または封入物質を意味する。
【0083】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は本明細書においては互換的に用いられ、アミノ酸残基の重合体ならびにその変異体および合成類似体を意味する。したがって、これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が非天然合成アミノ酸(例えば、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体)であるアミノ酸重合体、および天然に存在するアミノ酸重合体に適用される。
【0084】
「組換えポリペプチド」は、組換え技術を用いて、すなわち、組換え又は合成ポリヌクレオチドの発現により製造されたポリペプチドを意味する。キメラポリペプチドまたはその生物学的に活性な部分が組換え製造された場合、それはまた、好ましくは、培地を実質的に含有せず、すなわち、培地は該タンパク質調製物の体積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満に相当する。
【0085】
本明細書中で用いる「配列同一性」なる語は、比較の枠の全体にわたってヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸において配列が同一である度合を意味する。したがって、「配列同一性の百分率(%)」は、比較の枠の全体にわたって2つの最適に整列された配列を比較し、同一核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または同一アミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が両配列内に存在する位置の数を決定して、一致(マッチ)した位置の数を得、一致した位置の数を比較枠(すなわち、ウィンドウサイズ)内の位置の総数で割り算し、得られた数に100を掛けて配列同一性の百分率を得ることにより計算される。本発明の目的においては、「配列同一性」は、DNASISコンピュータープログラム(ウィンドウズ(登録商標)用バージョン2.5;Hitachi Software engineering Co.,Ltd.,South San Francisco,Calif.,USAから入手可能)により、該ソフトウェアに付属している参照マニュアルにおいて用いられているとおりの標準的なデフォルトを用いて計算された「マッチ率(%)」を意味すると理解される。「類似性」は、同一である又は保存的置換に相当するアミノ酸の数の百分率(%)を意味する。類似性は、配列比較プログラム、例えばGAP(Deverauxら,1984,Nucleic Acids Research 12,387−395)を使用して決定されうる。このようにして、本明細書に引用されているものと類似した又は実質的に異なる長さの配列が、アライメント内へのギャップ(そのようなギャップは、例えばGAPにより使用されている比較アルゴリズムにより決定される)の挿入により比較されうるであろう。
【0086】
「形質転換」なる語は、外来性または内因性核酸の導入による、生物、例えば細菌、酵母または植物の遺伝子型の改変を意味する。形質転換用のベクターには、プラスミド、レトロウイルスおよび他の動物ウイルス、YAC(酵母人工染色体)、BAC(細菌人工染色体)などが含まれる。「ベクター」は、ポリヌクレオチドが挿入またはクローニングされうるポリヌクレオチド分子、好ましくは、例えばプラスミド、バクテリオファージ、酵母またはウイルスに由来するDNA分子を意味する。ベクターは、好ましくは、1以上のユニーク制限部位を含有し、標的細胞もしくは組織またはその後代細胞もしくは組織を含む一定の宿主細胞における自律的複製の能力を有することが可能であり、あるいは一定の宿主のゲノムに組込み可能であって、クローニングされた配列が再生可能となりうる。したがって、該ベクターは自律的複製性ベクター、すなわち、染色体の複製から独立して複製される染色体外因子として存在するベクター、例えば、直鎖状または閉環状プラスミド、染色体外要素、ミニ染色体または人工染色体でありうる。ベクターは、自己複製を確保するためのいずれかの手段を含有しうる。あるいはベクターは、宿主細胞内に導入されるとゲノム内に組込まれ、それが組込まれた染色体と共に複製されるベクターでありうる。ベクター系は、単一のベクターまたはプラスミド、2以上のベクターまたはプラスミド(これらは、一緒になって、宿主細胞のゲノム内に導入されるべき全DNAを含有する)、あるいはトランスポゾンを含みうる。ベクターの選択は、典型的には、ベクターが導入される宿主細胞との該ベクターの和合性に左右される。好ましい実施形態においては、ベクターは、好ましくは、ウイルスまたはウイルス由来ベクターであり、これは動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞において作用しうるよう機能性である。ベクターは、選択マーカー、例えば、適当な形質転換体の選択のために使用されうる抗生物質耐性遺伝子をも含みうる。そのような耐性遺伝子の具体例は当業者に公知であり、抗生物質カナマイシンおよびG418(Geneticin(登録商標))に対する耐性を付与するnptII遺伝子、ならびに抗生物質ヒグロマイシンBに対する耐性を付与するhph遺伝子を包含する。
【0087】
特に示さない限り、本明細書中で用いられている全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているのと同じ意義を有する。本明細書に記載されているものに類似または同等の任意の方法および材料が本発明の実施または試験において使用されうるが、有用な方法および材料を以下に説明する。材料、方法および具体例(実施例)は例示に過ぎず、限定的なものではないと意図される。本発明の他の特徴および利点は詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】この図は、遠心分離により共凝集物を除去した後の上清中の残存HRP活性の割合(%)を示す(実施例1を参照されたい)。該凝集誘導物質(ビオチン化ペプチド)の存在は該可溶性画分から該酵素を明らかに除去している。
【実施例】
【0089】
1.溶液からの酵素の除去
この実施例においては、結合領域としてのビオチンを、それに連結されるベータ凝集領域に融合させることにより、凝集誘導物質を構築した。ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とストレプトアビジン[細菌ストレプトマイセス・アビジニィ(Streptomyces avidinii)からの60kDaタンパク質ストレプトアビジン]とのN末端融合タンパク質を除去するために、この凝集誘導物質を使用した。HRPは、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)を、370nmにおいて効率的に光を吸収する青色産物に変換する酵素である。ビオチン(結合要素としてのもの)はストレプトアビジンに対する強力なアフィニティを有する(ビオチン−ストレプトアビジン複合体の解離定数(Kd)は〜10−15 mol/Lのオーダーである)。大腸菌(E.coli)由来のベータ−ガラクトシダーゼからベータ凝集アミノ酸配列を特定するために、TANGOアルゴリズムを使用した。このベータ凝集配列を合成し(Jerini Peptide Technologies,Germanyから入手)、ビオチン分子(N末端融合体として)に連結して、以下の配列を有する凝集誘導物質を得た:ビオチン−ALAVVLQ−NH2。該凝集誘導物質での共凝集による溶液からの融合タンパク質HRP−ストレプトアビジンの除去を示すために、該凝集誘導物質を該ストレプトアビジン−HRP融合タンパク質と共にインキュベートした。この実験の目的は、ビオチン−ストレプトアビジン相互作用によりHRP酵素が該凝集誘導性ペプチドと共凝集することにより、可溶性画分におけるHRP活性の低下を引き起こさせることである。この目的のために、ストレプトアビジン−HRPストック溶液(AbD Serotec,製品番号710005)をPBS中で1:20,000希釈し、最終濃度1μMの該凝集誘導物質と共にインキュベートした。該サンプルを、750rpmで攪拌しながら室温で一晩インキュベートした。同じバッファー(PBS+10% DMSO)中の融合タンパク質SA−HRPのみからなる対照サンプルを含めた。また、特異性を示すために、非ビオチン化ベータ凝集配列の対照サンプルも含めた。一晩のインキュベーションの後、10℃での冷却ベンチ上のミクロフュージにおける17,000gで15分間の遠心分離により共凝集物質を該サンプルから除去した。上清のうちの10μLを回収し、96ウェルプレート(Falcon,353072)内の90μLのTMB溶液に加えた。この混合物を室温で1分間インキュベートし、ついで100μLの2M HSOの添加により該比色反応を停止させた。生じた黄色産物の吸光度を、Ultra Microplate Reader(BioTEK,EL808IU)を使用して、OD450nmで測定した。図1は、遠心分離(前記を参照されたい)により凝集物を除去した後の上清中の残存HRP活性(%)を示す。凝集誘導物質(ビオチン化ペプチド)の存在は該可溶性画分から該酵素を明らかに除去している。
【0090】
2.溶液からのモノクローナル抗体の除去
部分Bが3つの合成ベータ凝集領域よりなり、それらのベータ凝集領域を相互連結する2アミノ酸の短いリンカーを含有する(STLIVL−QN−STVIFE−QN−STVIFE)、凝集誘導物質分子を構築した。前記の3つのベータ凝集領域は、強力な凝集傾向を有するヘキサペプチドである。本発明の場合、全てのアミノ酸配列は、アミノ末端部分から始まりカルボキシ末端部分の方向へと読取られるように示されていることに注目されたい(例えば、「STLIVL」は「NH2−STLIVL−COOH」と解釈される)。該ベータ凝集領域の自己凝集を妨げ該ベータ凝集領域を周囲環境[この場合は大腸菌(E.coli)の細胞質ゾル]と直接的に接触させる結合領域(部分A)に該合成妨害分子の部分BをN末端融合させた(図1は該合成凝集誘導物質設計の構造を示す)。該結合領域は、ポリヒスチジンタグにN末端融合されたNusAタンパク質(これは組換えタンパク質製造における可溶化タグとして頻繁に使用される13)である。生じる合成妨害分子(A−B−ヒスチジンタグ構造)を大腸菌(E.coli)における組換え法により製造し、精製した。
【0091】
該凝集誘導物質での共凝集によりモノクローナル抗体を溶液から除去するために、酵素ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に融合された、ポリヒスチジン(6×His)に対する特異性を有するマウスモノクローナル抗体よりなる融合タンパク質を使用した。HRP酵素は該抗体の存在に関する検出系を与える(実施例1を参照されたい)。該抗his mAbを該hisタグ付き凝集誘導物質と共にインキュベートすることにより、該hisタグ付き凝集誘導物質での共凝集により該mAb(抗His−HRP)を溶液から除去することを目的とした。この目的のために、抗His−HRPをPBS中で1:5000希釈し、最終濃度1ng/mLの該凝集誘導物質と共にインキュベートした。該サンプルを、エッペンドルフ・サーモミキサー(Eppendorf Thermomixer)中、室温および37℃の両温度で一晩インキュベートした。同じバッファー中の抗His−HRPのみからなる対照サンプルをも含めた。インキュベーション後、冷却ベンチ上のミクロフュージにおける遠心分離(15分間、10℃、17,000g)により凝集物質を該サンプルから除去した。5×10μlの各上清を96ウェルプレート(Falcon,353072)内に素早く回収した。90μlのTMB溶液を加え、室温で1分間のインキュベーションの後、100μLの2M HSOの添加により該反応を停止させた。生じた黄色産物の吸光度を、Ultra Microplate Reader(BioTEK,EL808IU)を使用して、OD450nmで測定した。10pg/μLの該凝集誘導構築物との室温で一晩のインキュベーションは、該対照(該対照においては凝集誘導物質は存在しなかった)で観察された値の20.5%へのHRP活性の低下を引き起こした。
【0092】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質に結合しうる領域と少なくとも1つのベータ凝集配列とを含むキメラ分子に該タンパク質を接触させることを含んでなる、タンパク質の生物学的機能をダウンレギュレーションするための方法。
【請求項2】
該ベータ凝集配列が少なくとも3つの連続的アミノ酸よりなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ベータ凝集配列と該結合要素との間にリンカーが存在する、請求項1から2に記載の方法。
【請求項4】
該リンカーがポリペプチドである、または非ポリペプチドの性質のものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該分子がポリペプチドであり、細胞または生物内に形質転換されると該細胞または生物において該ポリペプチドを産生する、組換えベクター上に存在するヌクレオチド配列によりコードされる、請求項1から4に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質に結合しうる領域と少なくとも1つのベータ凝集配列とを含んでなるキメラ分子。
【請求項7】
請求項6に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる組換えベクター。
【請求項8】
医薬として使用するための、請求項6および7に記載の分子。
【請求項9】
タンパク質に結合しうる領域と少なくとも1つのベータ凝集配列とを含むキメラ分子にサンプルを接触させ、生じた共凝集した分子−タンパク質複合体を該サンプルから単離することを含んでなる、タンパク質をサンプルから単離するための方法。
【請求項10】
該サンプル中のタンパク質の検出を更に含む、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−528637(P2010−528637A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510763(P2010−510763)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056825
【国際公開番号】WO2008/148751
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509333933)
【出願人】(509333922)フリエ・ウニベルシテイト・ブリユツセル (2)
【Fターム(参考)】