説明

クロック制御回路

【課題】 クロック信号に起因するEMIを低減する際、ハザードやスパイクを回避するための回路設計が面倒になることがある。
【解決手段】 クロック制御回路10において、遅延回路群100は、入力クロック信号INを段階的に遅延せしめる第1〜第63遅延回路201〜263、および入力クロック信号IN自体を出力する仮の第0の遅延回路を含む。選択回路30は、第0から第63の遅延回路それぞれの出力信号DLY0〜DLY63のいずれかを選択する。制御回路40は、選択回路30によって選択された出力信号の立ち下がりや立ち上がりを契機とし、選択回路30によって異なる信号が選択されるよう制御する。これにより、入力クロック信号INに対し段階的に遅延されたクロック信号を順に出力することができ、入力クロック信号INと周期が異なる信号を出力できる。出力される信号の周波数が変化するため、スペクトルを拡散でき、EMIを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はクロック制御回路に関し、特にクロック信号を制御することで出力信号の周波数を制御するクロック制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDA(Personal Digital Assistance)などの小型情報端末においては、その内部で使用される半導体装置を駆動し、あるいは無線通信に必要な高周波信号を生成するために、クロック制御回路が用いられている。このクロック制御回路の出力クロック信号の周波数は、近年の小型情報端末の高速化に伴い、ますます高くなっている。その結果、クロック制御回路から輻射される電磁波が、周辺回路や他の電子機器の誤動作を誘発したり、無線通信などに影響を及ぼしてしまうという問題が生じている。
【0003】
このような問題はEMI(Electro Magnetic Interference)として知られ、このEMIを低減する手法として、クロック制御回路から得られるクロック信号を周波数変調することによってスペクトルを拡散させ、不要輻射を低減する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、複数段の遅延回路から順次出力される最短遅延時間の出力クロック信号とそれ以外の遅延時間の出力クロック信号とを交互に選択することで、複数の種類の周波数の最終出力クロック信号を生成させ、スペクトルを拡散させる技術が開示されている。
【特許文献1】国際公開00/45246号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、特許文献1によれば、出力クロック信号のスペクトルを拡散させることによって不要輻射の低減を行い、上述のEMIを低減できるが、最短遅延時間の出力クロック信号とそれ以外の遅延時間の出力クロック信号とを交互に選択しているため、現在選択している段の遅延回路からの出力信号と次回選択される遅延回路からの出力信号との位相差は一定でなく、切り替え時に発生するハザードやスパイクを回避するための回路設計が面倒になることがある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回路設計が容易なEMIを低減できるクロック制御回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、クロック制御回路に関する。このクロック制御回路は、クロック信号の伝達経路に直列に間挿され、クロック信号を段階的に遅延せしめる第1から第nの遅延回路と、クロック信号自体を第0の遅延回路の出力信号と仮称するとき、第0から第nの遅延回路それぞれの内の所定の出力信号を入力し、それら複数の出力信号のいずれかを選択して出力する選択回路と、選択回路における選択動作を制御する制御回路と、を備え、制御回路は、選択回路によって選択され出力された信号の内の所定の変化点を契機とし、選択回路によって出力している信号とは異なる信号が選択されるよう制御する。
【0007】
この態様によれば、クロック制御回路は、選択回路から出力された信号の変化点を契機に、次の異なる信号を選択し出力するため、前回選択した出力信号を異なる出力信号に切り替えて出力できる。このとき、前回選択した出力信号と今回選択する出力信号間には時間差が存在するため、出力される信号の周期は増減し、周波数が変化する。これにより、出力される信号のスペクトルを拡散させることで不要輻射の低減を行い、EMIを低減できる。また、この態様によれば、PLL(Phase Locked Loop)回路などを用いずに周波数を変化させることができ、比較的簡素な構成でEMIを低減できるため、ICのコストアップを抑制できるとともに機器の部品点数を削減できる。
【0008】
制御回路は、第0から第nの遅延回路のうち現在選択している段に近接する段の遅延回路を次回選択すべき遅延回路として制御してもよい。制御回路はアップ動作およびダウン動作が可能なカウンタを備え、カウンタは変化点の到来ごとにアップ動作を実行して遅延が大きくなる方向で遅延回路を選択していき、第nの遅延回路が選択されたときダウン動作に切り替え、変化点の到来ごとにダウン動作を実行して遅延が小さくなる方向で遅延回路を選択していき、第0の遅延回路が選択されたとき再びアップ動作に切り替え、以降同様に第0から第nの遅延回路間でアップ動作とダウン動作を繰り返し実行してもよい。第1から第nの遅延回路はそれぞれ2段のインバータ回路を備えてもよい。
【0009】
選択回路により選択され出力される出力信号のクロック信号に対する遅延時間と、次に選択回路により選択され出力される出力信号のクロック信号に対する遅延時間との差を順次加算することで得られる合計遅延時間が、クロック信号の周期の半分に相当する時間と略等しくなるように、遅延回路の段数が決められてもよい。選択回路により選択され出力される出力信号と、次に選択回路により選択され出力される出力信号とに基づいて生成される信号をクロック制御回路の出力クロック信号とし、選択回路は、出力クロック信号の周波数に起因するノイズのレベルの最大値が、クロック信号の周波数に起因するノイズのレベルの最大値よりも5dB以上低下するよう、複数の出力信号のうちいずれかの出力信号を選択して出力してもよい。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡素な構成でEMIを低減できるため、ICのコストアップを抑制できるとともに機器の部品点数を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1
図1は、本実施の形態に係るクロック制御回路10の構成を示す。このクロック制御回路10は、各種の電子機器のクロック発生部にEMI対策として用いれられる。クロック制御回路10は、入力端子12、遅延回路群100、選択回路30、制御回路40および出力端子14を備える。入力端子12には一定周波数の入力クロック信号INが入力され、出力端子14からは入力クロック信号INの周波数が変化された出力クロック信号OUTが出力される。入力クロック信号INの伝達経路である入力端子12および出力端子14間には、遅延回路群100および選択回路30が直列に間挿される。入力端子12からの入力クロック信号INは、複数の遅延回路を有する遅延回路群100に入力される。
【0013】
遅延回路群100は、入力クロック信号INを段階的に遅延させる合計63段の第1〜第63遅延回路201〜263を含む。さらに、遅延回路素子として実在はしないが、入力クロック信号IN自体を出力する回路を「第0遅延回路」と仮称し、遅延回路群100に含めることとする。すなわち、遅延回路群100は、第1〜第63遅延回路201〜263と第0遅延回路の合計64段の遅延回路を含む。遅延回路群100において、適宜、第0遅延回路を「第0段の遅延回路」、第1遅延回路201を「第1段の遅延回路」と称し、以下同様に、第63遅延回路263を「第63段の遅延回路」と称する。
【0014】
詳細は後述するが、遅延回路の段数は、後述の選択回路30により選択され出力される出力信号の入力クロック信号INに対する遅延時間と、次に選択回路30により選択され出力される出力信号の入力クロック信号INに対する遅延時間との差を順次加算することで得られる合計遅延時間が、入力クロック信号INの周期の半分に相当する時間と略等しくなるように、あらかじめ回路設計時に決められる。「合計遅延時間が周期の半分に相当する時間と略等しくなる」とは、合計遅延時間が周期の半分に相当する時間と同一、あるいは近い値になることをいう。「近い値になる」とは、例えば、合計遅延時間と周期の半分に相当する時間との時間差が、合計遅延時間の15%以下に収まるときの状態を指してもよい。
【0015】
第1〜第63遅延回路201〜263は、それぞれ2段のインバータ回路を備える。例えば、第1遅延回路201は、入力端子12および出力端子14間に直列に間挿された第1前段インバータ301aおよび第1後段インバータ301bを備える。以下、同様に、第2遅延回路202は第2前段インバータ302aおよび第2後段インバータ302bを、第63遅延回路263は第63前段インバータ363aおよび第63後段インバータ363bを備える。これにより、入力クロック信号INのデューティ比を保持できる。本実施の形態では、各遅延回路は2段のインバータ回路を備えるものとしたが、別の例として、遅延回路の構成は所定の遅延時間が得られるものであれば、どのような構成であっても構わない。遅延回路群100の第1〜第63遅延回路201〜263にて遅延されたそれぞれの出力信号DLY1〜DLY63、および第0の遅延回路にて出力された出力信号DLY0は、選択回路30に入力される。
【0016】
選択回路30は、後述の制御回路40からの信号に基づいて、遅延回路群100から出力された出力信号DLY0〜63のいずれかを選択して出力する。選択回路30と制御回路40間は、6本の第0〜第5信号線L0〜L5で接続されている。それら信号線のそれぞれには、制御回路40から2進数で「1」または「0」の信号が送出される。これにより、2進数で「000000」〜「111111」の64通りの異なる信号を送出できる。ここで、第0の信号線L0に送出する信号は6ビット中の最下位ビットに対応し、第5の信号線L5に送出する信号は最上位ビットに対応する。
【0017】
本実施の形態では、制御回路40からの信号が2進数で「000000」、すなわち10進数で「0」であれば、選択回路30は出力信号DLY0を選択して出力し、制御回路40からの信号が2進数で「111111」、すなわち10進数で「63」であれば、選択回路30は出力信号DLY63を選択して出力する。
【0018】
制御回路40は、選択回路30によって選択され出力された信号の変化点を契機とし、選択回路30によって異なる信号が選択されるよう制御する。選択回路30による、現在出力している信号から当該信号と異なる信号への切り替えは、ハザードやスパイクが発生しないよう、第0〜第63遅延回路それぞれからの出力信号がすべてLレベルである時間内に行われる。詳細は後述するが、その時間はあらかじめ回路設計の段階で決められる。また、制御回路40は、出力クロック信号OUTの立ち下がりのタイミング毎に、遅延が大きくなる方向で遅延回路を選択していくか、あるいは遅延が小さくなる方向で遅延回路を選択していく。別の例として、制御回路40は、出力クロック信号OUTの立ち上がりのタイミング毎に遅延回路を選択してもよい。
【0019】
制御回路40は、アップ動作およびダウン動作が可能なカウンタ42と、カウンタ42をダウン動作からアップ動作に切り替えるアンドゲート44と、カウンタ42をダウン動作からアップ動作に切り替えるNORゲート46とを備える。ここで、制御回路40から選択回路30に出力される信号、すなわち2進数で「000000」〜「111111」の信号は、アンドゲート44およびNORゲート46にも入力される。ここで、アンドゲート44は、入力される信号がすべてHレベルであるとき、Hレベルの制御信号Aをカウンタ42に送出する。同様に、NORゲート46は、入力される信号がすべてLレベルであるとき、Hレベルの制御信号Bをカウンタ42に送出する。
【0020】
選択回路30からの出力クロック信号OUTの立ち下がりに応じてカウンタ値が増加し、そのカウンタ値が10進数で「63」になったとき、アンドゲート44は、Hレベルの制御信号Aを送出し、カウンタ42をアップ動作からダウン動作に切り替える。同様に、NORゲート46は、カウンタ値が10進数で「0」になったとき、NORゲート46は、Hレベルの制御信号Bを送出し、カウンタ42をダウン動作からアップ動作に切り替える。カウンタ42は、制御信号Aおよび制御信号BがともにLレベルである間は、前回行ったアップ動作あるいはダウン動作をそのまま継続して行う。制御回路40内にて、カウンタ42のアップ動作およびダウン動作が繰り返し行われることで、選択回路30は第0から第63の遅延回路間で、遅延が大きくなる方向での遅延回路の選択動作、および遅延が小さくなる方向での遅延回路の選択動作を繰り返し行うことができる。
【0021】
図2は、選択回路30の構成を示す。選択回路30は、デコーダ32および組み合わせ回路34を備える。デコーダ32は、第0〜第5信号線L0〜L5から出力される6ビットの信号を64本にデコードし、組み合わせ回路34に送出する。組み合わせ回路34は、デコーダ32から送出された64本の出力をもとに、遅延回路群100から送出された出力信号DLY0〜63のうち、いずれかの出力信号を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。例えば、組み合わせ回路34は、制御回路40からデコーダ32を介して10進数で「30」が指示されれば、出力信号DLY30を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。
【0022】
組み合わせ回路34は、合計64個の第0〜第63アンドゲートS0〜S63、およびそれらアンドゲートの出力をオアするオアゲート38を備える。第0〜第63アンドゲートS0〜S63の入力端子の一端には、それぞれ出力信号DLY0〜DLY63が入力される。第0〜第63アンドゲートS0〜S63の入力端子の他端には、それぞれデコーダ32から出力される64本のそれぞれに対応した信号が入力される。例えば、制御回路40から10進数で「30」が指定されたとき、デコーダ32から第30アンドゲートS30に送出される信号だけがHレベルになり、その結果、出力信号DLY30だけがオアゲート38を介してそのまま出力クロック信号OUTとして出力される。
【0023】
図3は、入力クロック信号INのタイミングチャートと、それに対応する第0〜第63段の遅延回路から出力される出力信号DLY0〜DLY63、および出力クロック信号OUTの時間的推移の一例を表すグラフを示す。また、カウンタ値の時間的推移もこのグラフにて示す。ここで、入力端子12に入力される入力クロック信号INの一周期を15.0nsとし、各遅延回路で遅延される遅延時間を0.1nsとする。すなわち、第1遅延回路201からの出力信号DLY1は、入力クロック信号INの立ち上がりよりも0.1nsだけ遅れて立ち上がる。同様に、出力信号DLY2は、入力クロック信号INに対して0.2nsだけ遅延されている。なお、図3では、選択回路30で生じる遅延時間を無視しているとともに、入力クロック信号INの一周期の時間に対して、各出力信号DLY0〜DLY63の遅延量を誇張して描いている。
【0024】
選択回路30により選択され出力される出力信号の入力クロック信号INに対する遅延時間と、次に選択回路30により選択され出力される出力信号の入力クロック信号INに対する遅延時間との差は、0.1nsである。また、入力クロック信号INの一周期の半分に相当する時間は、7.5nsである。例えば、遅延回路を75段設けたとき、上述の合計遅延時間は7.5nsとなり、理論上、入力クロック信号INの一周期の半分に相当する時間に等しくなる。このとき、最短遅延時間の出力信号と最長遅延時間の出力信号の位相は180度ずれる。なお、本実施の形態では64段の遅延回路を設けており、入力クロック信号INの一周期の半分に相当する時間に略等しい。
【0025】
図3に示す出力クロック信号OUTは、出力信号DLY0〜DLY63の中から、入力クロック信号INに対して遅延が大きくなる方向で選択することで得られる波形の一例を示している。出力クロック信号OUTとして出力信号DLY0が選択されているとき、制御回路40は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングで、不図示の10進数でのカウンタ値「0」を一つ増加させて「1」にする。カウンタ値が10進数で「1」になったとき、選択回路30は、次に出力信号DLY1を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。
【0026】
ここで、選択回路30は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングから本図では7.5nsの間に、出力信号DLY0を出力信号DLY1に切り替える。この間であれば、第0〜第63遅延回路それぞれからの出力信号がすべてLレベルであるため、信号切り替え時の出力クロック信号OUTへのハザードやスパイクの発生を回避することができる。さらに、出力信号DLY1を出力信号DLY2に切り替えるときは、出力信号DLY1が立ち下がるタイミングから7.4nsの間に行う。減少幅は0.1nsで一定であり予測可能であるため、あらかじめ上述の時間内に切り替えるような回路設計をすることは容易である。図3に示す出力クロック信号OUTは、DLY0→DLY1→DLY2→〜→DLY63の順に選択することで得られる。このとき、出力クロック信号OUTの一周期は15.1nsとなる。
【0027】
図4は、入力クロック信号INのタイミングチャートと、それに対応する第0〜第63段の遅延回路から出力される出力信号DLY0〜DLY63、および出力クロック信号OUTの時間的推移の一例を表すグラフを示す。また、カウンタ値の時間的推移もこのグラフにて示す。図4に示す出力クロック信号OUTは、出力信号DLY0〜DLY63の中から、入力クロック信号INに対して遅延が小さくなる方向で選択することで得られる波形の一例を示している。出力クロック信号OUTとして出力信号DLY63が選択されているとき、制御回路40は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングで、10進数でのカウンタ値「63」を一つ減少させて「62」にする。カウンタ値が10進数で「62」に変化したとき、選択回路30は、次に出力信号DLY62を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。すなわち、図4に示す出力クロック信号OUTは、DLY63→DLY62→DLY61→〜→DLY0の順に選択することで得られるものである。このとき、出力クロック信号OUTの一周期は14.9nsとなる。
【0028】
本実施の形態によれば、現在選択している段の一つ前段や一つ後段の遅延回路からの出力信号を次の周期での出力信号として出力することができる。例えば、制御回路40により第32段の遅延回路が選択されたとき、次回選択すべき遅延回路は、その一つ後段に位置する第33段の遅延回路、あるいは一つ前段に位置する第31段の遅延回路になる。
【0029】
なお、遅延回路をランダムに選択するという従来の方法では、現在選択している段の遅延回路からの出力信号と次回選択される遅延回路からの出力信号との位相差は一定でなくなり、出力信号どうしの相関関係が不明確になる。相関関係が不明確であれば、現在選択されている出力信号の立ち上がるタイミングと次回選択される出力信号の立ち上がるタイミングの時間差をあらかじめ予測できず、切り替え時に発生する既知のハザードやスパイクを回避するための回路設計が必要になる。また、一度そのような回路設計がなされた後、遅延回路の新たな追加による設計変更を行う場合、新たな時間差が生じることがあり、再度、ハザードやスパイクを回避するよう回路設計全体を見直す必要に迫られる。
【0030】
本実施の形態に係るクロック制御回路10は、現在選択している段の一つ前段や一つ後段の遅延回路を次回選択すべき遅延回路とするため、前後の出力信号の位相差は一定であり、以上の問題が回避できる。
【0031】
図5は、入力クロック信号INおよび出力クロック信号OUTに起因するEMIノイズのスペクトルの一例を模式的に示す。横軸は周波数を、縦軸は電磁波強度で表現されるEMIノイズレベルを示す。図中点線E1は、入力クロック信号INに起因するEMIノイズのスペクトルで、図中実線E2は、本実施の形態に係るクロック制御回路10により出力される出力クロック信号OUTに起因するEMIノイズのスペクトルを示す。入力クロック信号INの一周期は15.0nsで一定であったのに対し、出力クロック信号OUTの一周期は、15.1nsと14.9nsの2種類に変化される。従って、クロック周波数は66.23MHzおよび67.11MHzの2種類に変化する。この出力クロック信号OUTを用いれば、EMIノイズのピークは、66.23MHz〜67.11MHzの範囲の2つのピークに分散され、ピークノイズレベルは理論上、1/2に低減される。
【0032】
これにより、出力クロック信号OUTのスペクトルを拡散させることで不要輻射の低減を行い、EMIを低減できる。本実施の形態のクロック制御回路10を各種の電子機器のクロック発生部にEMI対策として用いれば、機器全体としてのEMIの低減効果が得られる。さらに、本実施の形態によれば、PLL(Phase Locked Loop)回路などを用いずに複数の周波数を生成することができるため、比較的簡素な構成でEMIを低減できる。これにより、ICのコストアップを抑制できるとともに機器の部品点数を削減できる。
【0033】
実施の形態2
実施の形態1では、選択回路30により、一段ずつ順番に遅延回路が選択されていたが、実施の形態2では、その選択動作に加え、選択回路30により、一段跳びに遅延回路が選択される。一段跳びに選択されるとは、例えば、第2段の遅延回路が選択された後、次に第4段の遅延回路が選択されることをいう。図6は、本実施の形態に係る選択回路30の構成を示す。図2と同等の構成には同じ符号を与え適宜説明を略す。実施の形態2に係るクロック制御回路10の選択回路30には、図2に示す選択回路30に、新たにビットシフト回路36が設けられる。ビットシフト回路36と制御回路40間は、第0〜第5信号線L0〜L5で接続され、ビットシフト回路36とデコーダ32間は、第0〜第5代替信号線AL0〜AL5で接続される。
【0034】
ビットシフト回路36は、不図示のCPUなどの外部から与えられるSEL信号をもとに、制御回路40から送出された信号に含まれる6ビットを一つずつ上位のビット位置にシフトするか否かの信号をデコーダ32に送出する。このSEL信号は、HレベルかLレベルかのいずれかに設定され、そのレベルに従って、一つずつ順番に遅延回路を選択していくか、一つ跳びで遅延回路を選択していくかを切り替える。SEL信号は通常、実験などによりあらかじめどちらかのレベルに設定され運用されるが、運用中にCPUなどの外部からの指示により、その設定が変えられてもよい。このとき、選択回路30からの出力クロック信号OUTの立ち下がりに同期して設定を切り替えるようにする。
【0035】
SEL信号がLレベルであるとき、すなわち、一段ずつの遅延回路の選択を外部から指示されたとき、ビットシフト回路36は、第1入力端子aに入力される信号をそのまま、第0〜第5代替信号線AL0〜AL5に出力する。一方、SEL信号がHレベルであるとき、すなわち、一段跳びの遅延回路の選択を外部から指示されたとき、第2入力端子bに入力される信号を、第0〜第5代替信号線AL0〜AL5に出力する。このとき、第0〜第5信号線L0〜L5により入力されたビットは、それぞれ、一つ上位のビット位置にシフトされる。このとき、最上位ビットにあたる信号は破棄され、最下位ビットにあたる信号は2進数で「0」になる。これにより、一段跳びで遅延回路を選択していくことが可能になる。
【0036】
図7は、入力クロック信号INのタイミングチャートと、それに対応する第0〜第63段の遅延回路から出力される出力信号DLY0〜DLY63、および出力クロック信号OUTの時間的推移の一例を表すグラフを示す。また、カウンタ値の時間的推移もこのグラフにて示す。図7に示す出力クロック信号OUTは、出力信号DLY0〜DLY63の中から、入力クロック信号INに対して遅延が大きくなる方向で選択することで得られる波形の一例を示している。
【0037】
まず、図7に示す出力クロック信号OUTが得られるときのクロック制御回路10の動作を説明する前に、SEL信号がHレベルに設定され、その設定が維持されるとき、すなわち継続して一段跳びで遅延回路を選択していくときのクロック制御回路10の動作を説明する。出力クロック信号OUTとして出力信号DLY0が選択されているとき、SEL信号がHレベルであるため、制御回路40は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングで、不図示の10進数のカウンタ値「0」を二つ増加させて「2」にする。10進数のカウンタ値が「2」に変化したとき、選択回路30は、次に出力信号DLY2を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。以降、同様の動作を繰り返すことで、クロック制御回路10は、DLY0→DLY2→DLY4→DLY6→DLY8→〜→DLY62の順に選択されることで得られる出力クロック信号OUTを出力する。一方、SEL信号がLレベルに設定され、その設定が維持されるとき、すなわち継続して一段ずつ遅延回路を選択していくときのクロック制御回路10の動作は、実施の形態1で示した通りである。
【0038】
図7は、運用途中、SEL信号のレベルが途中切り替えられる場合の出力クロック信号OUTの様子を示す。出力クロック信号OUTとして出力信号DLY0が選択され、SEL信号がHレベルに設定されているとき、制御回路40は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングで、不図示の10進数のカウンタ値「0」を二つ増加させて「2」にする。10進数のカウンタ値が「2」に変化したとき、選択回路30は、次に出力信号DLY2を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。SEL信号がLレベルに切り替えられるまで、以降、同様の動作が繰り返し行われる。
【0039】
ここで、出力クロック信号OUTとして出力信号DLY30が選択されているときに、SEL信号がLレベルに切り替えられるとする。このとき、出力信号DLY30が立ち下がるタイミングと同期して、SEL信号がLレベルに切り替えられる。SEL信号がLレベルであるため、制御回路40は、出力信号DLY0が立ち下がるタイミングで、不図示の10進数の現在のカウンタ値「30」を一つ増加させて「31」にする。10進数のカウンタ値が「31」に変化したとき、選択回路30は、次に出力信号DLY31を選択し、出力クロック信号OUTとして出力する。以降、Lレベルの設定がそのまま維持され、同様の動作が繰り返し行われるものとする。これにより、クロック制御回路10は、DLY0→DLY2→〜→DLY30→DLY31→DLY32→〜→DLY63の順に選択されることで得られる出力クロック信号OUTを出力できる。
【0040】
このとき、出力クロック信号OUTの一周期は15.2nsあるいは15.1nsとなる。同様に、遅延が小さくなる方向で遅延回路を選択する場合であれば、出力クロック信号OUTの一周期は14.9nsあるいは14.8nsとなる。
【0041】
図8は、入力クロック信号INおよび出力クロック信号OUTに起因するEMIノイズのスペクトルの一例を模式的に示す。横軸は周波数を、縦軸は電磁波強度で表現されるEMIノイズレベルを示す。図中点線E1は、入力クロック信号INに起因するEMIノイズのスペクトルで、図中実線E2は、本実施の形態に係るクロック制御回路10により出力される出力クロック信号OUTに起因するEMIノイズのスペクトルを示す。
【0042】
入力クロック信号INの一周期は15.0nsで一定であったのに対し、出力クロック信号OUTの一周期は、15.2ns、15.1ns、14.9nsあるいは14.8nsの4種類に変化される。従って、クロック周波数は65.79MHz、66.23MHz、67.11MHz、67.57MHzの4種類に変化する。この出力クロック信号OUTを用いれば、EMIノイズのピークは、65.79MHz〜67.57MHzの範囲の4つのピークに分散され、ピークノイズレベルは理論上、1/4に低減される。
【0043】
これにより、クロック制御回路10が一段跳びの場合を選択できるようになることで、出力クロック信号OUTの周波数の種類を増やすことができる。その結果、出力クロック信号OUTのスペクトルをさらに拡散でき、さらなるEMIの低減効果を得ることができる。本実施の形態のクロック制御回路10を各種の電子機器のクロック発生部にEMI対策として用いれば、機器全体としてのEMIのさらなる低減効果が得られる。
【0044】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を挙げる。
【0045】
実施の形態に係るクロック制御回路10は、一段ずつ順番にあるいは一段跳びに遅延回路を選択していたが、それに限定しない。すなわち、変形例として、現在選択している段に近接する段の遅延回路であればよく、例えば二段跳びや三段跳びに遅延回路を選択してもよい。近接する段であれば、現在選択している段の遅延回路による出力信号と次回選択する段の遅延回路による出力信号との位相差が明確であるため、ハザードやスパイクの発生を回避するような回路設計が容易になる。また、クロック制御回路10が、一段ずつ順番にあるいは一段跳びに遅延回路を選択することに加え、二段跳びや三段跳びに遅延回路を選択することで、出力クロック信号OUTの周波数の種類をさらに増やすことができる。その結果、出力クロック信号OUTのスペクトルをさらに拡散でき、さらなるEMIの低減効果を得ることができる。
【0046】
実施の形態あるいは上述の変形例において、選択回路30は、近接する段の遅延回路の出力信号を次の出力信号として選択しているが、別の変形例として、選択回路30は、出力クロック信号OUTの周波数に起因するEMIノイズのレベルの最大値が、入力クロック信号INの周波数に起因するEMIノイズのレベルの最大値よりも5dB以上低下するよう、複数の出力信号DLY0〜DLY63のうちいずれかの出力信号を選択して出力する。このとき、結果として、上記の5dB以上の低下を実現できるものであればよく、例えば、「一段ずつ順番」、「一段跳び」、「二段跳び」、「三段跳び」の遅延回路の選択方法のうち、どの選択方法をクロック制御回路10に設定するかは問わない。すなわち、順番に一段ずつ遅延回路を選択することで5dB以上の低下が実現できればそれでよく、「一段ずつ順番」および「一段跳び」を組み合わせることで、5dB以上の低下を実現できればそれでよい。設定された遅延回路の選択方法で5dB以上の低下を実現できるかどうかは、あらかじめ実験などにより確認され、その方法で実現できない場合は、別の遅延回路の選択方法が設定される。これにより、一定レベル以上のEMIの低減効果を得ることができる。
【0047】
実施の形態では遅延回路による遅延時間がすべて同一の場合のみを示したが、各遅延回路によって遅延時間が異なっていてもよい。また、遅延回路の段数は入力クロック信号INの周波数やその変動幅に応じて設定すればよい。遅延回路の構成は所定の遅延時間が得られるものであれば、どのような構成でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態1に係るクロック制御回路の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る選択回路の構成を示す図である。
【図3】実施の形態1に係る遅延が大きくなるときのそれぞれの遅延回路から出力される出力信号の時間的推移の一例を表す図である。
【図4】実施の形態1に係る遅延が小さくなるときのそれぞれの遅延回路から出力される出力信号の時間的推移の一例を表す図である。
【図5】実施の形態1に係る入力クロック信号および出力クロック信号に起因するEMIノイズのスペクトルの一例を模式的に示す図である。
【図6】実施の形態2に係る選択回路の構成を示す図である。
【図7】実施の形態2に係る遅延が大きくなるときのそれぞれの遅延回路から出力される出力信号の時間的推移の一例を表す図である。
【図8】実施の形態2に係る入力クロック信号および出力クロック信号に起因するEMIノイズのスペクトルの一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 クロック制御回路、 30 選択回路、 40 制御回路、 42 カウンタ、 201〜263 第1〜第63遅延回路、 301a 第1前段インバータ、 301b 第1後段インバータ、 IN 入力クロック信号、 DLY0〜DLY63 出力信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック信号の伝達経路に直列に間挿され、前記クロック信号を段階的に遅延せしめる第1から第nの遅延回路と、
前記クロック信号自体を第0の遅延回路の出力信号と仮称するとき、前記第0から第nの遅延回路それぞれの内の所定の出力信号を入力し、それら複数の出力信号のいずれかを選択して出力する選択回路と、
前記選択回路における選択動作を制御する制御回路と、
を備え、前記制御回路は、前記選択回路によって選択され出力された信号の内の所定の変化点を契機とし、前記選択回路によって出力している信号とは異なる信号が選択されるよう制御することを特徴とするクロック制御回路。
【請求項2】
請求項1に記載のクロック制御回路において、前記制御回路は、前記第0から第nの遅延回路のうち現在選択している段に近接する段の遅延回路を次回選択すべき遅延回路として制御することを特徴とするクロック制御回路。
【請求項3】
請求項2に記載のクロック制御回路において、
前記制御回路はアップ動作およびダウン動作が可能なカウンタを備え、
前記カウンタは前記変化点の到来ごとにアップ動作を実行して遅延が大きくなる方向で前記遅延回路を選択していき、第nの遅延回路が選択されたときダウン動作に切り替え、前記変化点の到来ごとにダウン動作を実行して遅延が小さくなる方向で前記遅延回路を選択していき、第0の遅延回路が選択されたとき再びアップ動作に切り替え、以降同様に第0から第nの遅延回路間でアップ動作とダウン動作を繰り返し実行することを特徴とするクロック制御回路。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のクロック制御回路において、前記第1から第nの遅延回路はそれぞれ2段のインバータ回路を備えることを特徴とするクロック制御回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のクロック制御回路において、前記選択回路により選択され出力される出力信号の前記クロック信号に対する遅延時間と、次に前記選択回路により選択され出力される出力信号の前記クロック信号に対する遅延時間との差を順次加算することで得られる合計遅延時間が、前記クロック信号の周期の半分に相当する時間と略等しくなるように、前記遅延回路の段数が決められることを特徴とするクロック制御回路。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のクロック制御回路において、前記選択回路により選択され出力される出力信号と、次に前記選択回路により選択され出力される出力信号とに基づいて生成される信号を前記クロック制御回路の出力クロック信号とし、
前記選択回路は、前記出力クロック信号の周波数に起因するノイズのレベルの最大値が、前記クロック信号の周波数に起因するノイズのレベルの最大値よりも5dB以上低下するよう、前記複数の出力信号のうちいずれかの出力信号を選択して出力することを特徴とするクロック制御回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate