説明

クロマイトバルク材の製造方法

【課題】機械的特性を測定できる程度の大きさで密度が高いクロマイト単体試料を製造できる技術を確立する。クロマイト純度の高い単体試料を製造できる方法を確立する。
【解決手段】パラフィンと、150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末との混合粉末を成型する工程と、得られた成型体を焼結する工程を含み、前記パラフィンの含有量を混合粉末全体に対して1〜5質量%とし、前記成型は196〜392MPaの圧力で行い、前記焼結は1100〜1500℃で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr含有鋼が酸化したときにサブスケールとして形成されるクロマイト(FeCr24)相の様々な物性を把握するための測定用試料として用いたり、各種素材として用いることができるクロマイトバルク材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製品の製造プロセスにおいては、鋼材の表面に酸化皮膜(スケール)が形成され、製品の品質や性能を劣化させたり、生産歩留まりを低下させる原因となっている。例えば、加熱炉で形成された厚い1次スケールの除去が不完全で、一部が残ったまま圧延に供されると、スケールの破壊や押し込みが生じ、鋼材にスケール疵が発生することがある。また、2次スケールに起因してメカニカルデスケーリング(MD)性が不良となったり、メッキ性が不良になることがある。このようにスケールは、鋼材の表面性状に大きく影響を与えている。そこでスケールに起因する問題を解決するには、圧延プロセス中におけるスケール形成挙動やスケール破壊・変形挙動など動的な挙動を把握する必要がある。特に、圧延プロセス過程におけるスケールの破壊・変形挙動を把握するには、高温状態におけるスケールの物性(例えば、物理的特性や機械的特性など)を調べる必要がある。
【0003】
ところで上記スケールは、通常、Fe系酸化物[例えば、FeO(ウスタイト),Fe34(マグネタイト),Fe23(ヘマタイト)など]で構成されているが、鋼材がCr含有鋼の場合は、サブスケールとしてFeCr24(クロマイト)が形成される。Cr含有鋼の表面に形成されるサブスケールは、普通鋼に形成される通常のスケールと比べて酸洗によって除去され難いため、脱スケールに時間がかかることが知られている。そこでCr含有鋼の表面に形成されるサブスケールの物性を把握すれば、脱スケール時間を短縮でき、生産性を向上できると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
高温状態におけるスケールの物性を把握するには、Fe系酸化物やサブスケールの単体試料を作製し、高温状態における硬度やヤング率(弾性定数)、線膨張率などの物性を測定すればよいと考えられる。
【0005】
ところがCr含有鋼の表面にサブスケールとして形成されるクロマイトは、Fe系酸化物が外層スケールとして形成されるときに副次的に形成される内層スケールであるため、単体試料の作製は極めて困難である。Feは、圧延プロセス過程で酸化されると、FeO,Fe34,Fe23などの比較的安定なFe系酸化物を形成するが、これらのFe系酸化物が形成されるときの平衡酸素圧は、温度によって異なり、通常、FeO,Fe34,Fe23の順で高くなっている。そのため酸素ポテンシャル(酸素分圧)の高い鋼材表面には、Fe23が形成され、表面から地鉄に向かってFe23,Fe34,FeOの順に層状のスケールが形成される。これらのスケールのうち最も深い位置に形成されるFeO層より内側の地鉄領域では、酸素ポテンシャル(酸素分圧)はFeOが形成されるときの平衡酸素圧よりも更に低くなる。しかしFeO層より内側の地鉄領域にCrが存在していると、Crは酸化され、近傍のFeOと反応して複合化合物、即ち、FeCr24(クロマイト)を形成する。このクロマイトが層状になったものが、サブスケールと呼ばれている。
【0006】
このように、クロマイトは、外層スケールとしてFe系酸化物が形成されるときに、内層スケールとして副次的に形成されるスケール(サブスケール)であり、外層スケールと地鉄との界面に形成されるスケールであるため、クロマイト単体試料の作製は極めて困難である。その一方で、クロマイトは、内層スケールとして形成されるため、外層スケール(Fe系酸化物)を含めたスケール全体の物性に影響を与えると考えられ、高温状態におけるスケール全体の物性(例えば、物理的特性や機械的特性など)を把握するには、クロマイトの物性(例えば、物理的特性や機械的特性など)を把握することが極めて重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】武田実佳子 他、「スケール微細構造と密着性に及ぼすCrおよび加熱条件の影響」、神戸製鋼技報、2006年12、p.22〜25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、機械的特性を測定できる程度の大きさで密度が高いクロマイト単体試料を製造できる技術を確立することにある。また、本発明の他の目的は、クロマイト純度の高い単体試料を製造できる方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係るクロマイトバルク材の製造方法とは、パラフィンと、150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末との混合粉末を成型する工程と、得られた成型体を焼結する工程を含み、前記パラフィンの含有量は混合粉末全体に対して1〜5質量%であり、前記成型は196〜392MPaの圧力で行い、前記焼結は1100〜1500℃で行うところに要旨を有する。前記焼結は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クロム鉄鉱(FeCr24)粉末の成型体を焼結してクロマイトバルク材(単体試料)を製造するにあたり、クロム鉄鉱粉末にパラフィンを混合すると共に、成型時の圧力条件と焼結時の温度条件を適切に制御しているため、機械的特性を測定できる程度の大きさで、しかも密度が高いクロマイトバルク材を製造できる。また、成型体を焼結するときの雰囲気を更に制御すれば、得られるバルク材のクロマイト純度を一段と高めることができる。
【0011】
本発明で得られたクロマイトバルク材を用いれば、クロマイト相の機械的特性(例えば、硬度やヤング率、線膨張率など)を測定することができるため、高温状態におけるサブスケールの物性を把握するのに役立つ。また、本発明で得られたクロマイトバルク材は、各種素材として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、表1のNo.2に示したバルク材のXRDチャート図である。
【図2】図2は、表1のNo.14に示したバルク材のXRDチャート図である。
【図3】図3は、各バルク材の硬度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、機械的特性を測定できる程度の大きさで密度が高いクロマイト単体試料を製造できる方法を確立するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、原料としてパラフィンとクロム鉄鉱粉末との混合粉末を用い、これを適切な圧力条件で成型し、次いで適切な条件で焼結すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち、Cr含有鋼を加熱すれば、表面にクロマイトを含むスケールを形成させることができるが、この方法を踏襲しただけでは、バルク材としてのクロマイトを作製することができないため、機械的特性(例えば、クロマイトのヤング率や線膨張率など)を測定できない。また、クロマイト(FeCr24)は、FeOとCr23が反応して形成される複合酸化物であるが、Cr含有鋼を加熱してFeCr24を形成させても、室温に冷却する途中で、FeCr24がFeOとCr23の2相に分離することがある。例えば、FeCr24を形成させた後、室温までの冷却速度を大きくしてFeCr24の凍結準安定相を作製しようとしても、冷却途中でその一部が2相分離を起こすことがある。また、クロマイト自体は、粉末の形態で市販されているが、機械的特性を測定できる程度の大きさのクロマイト単体試料は市販されておらず、各種素材として利用されることもない。
【0015】
そこで本発明者らは、粉末冶金技術に着目し、クロマイトの単体試料を製造する方法について検討した。その結果、
(1)パラフィンと、150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末との混合粉末を成型する工程と、
(2)得られた成型体を焼結する工程を含み、
前記パラフィンの含有量は混合粉末全体に対して1〜5質量%の範囲に調整し、
前記成型は196〜392MPaの圧力で行い、
前記焼結は1100〜1500℃で行えば、機械的特性を測定できる程度の大きさで密度が高いクロマイトバルク材(単体試料)を製造できることが明らかとなった。以下、各工程について順を追って詳細に説明する。
【0016】
[(1)成型する工程]
本発明では、原料として、パラフィンとクロム鉄鉱粉末の混合粉末を用いることが重要である。即ち、本発明者らが検討したところ、クロム鉄鉱粉末のみを用いて成型して得られた成型体を焼結しようとしても、バルク材は形成できなかった。これに対し、クロム鉄鉱粉末に、パラフィンを混ぜた混合粉末を用いて成型して得られた成型体は、焼結でき、バルク材を形成できた。パラフィンがクロム鉄鉱粉末同士を結合するバインダーとして作用したと考えられる。このパラフィンは、焼結時に揮発してバルク材には残らないため、クロマイト純度を低下させることもない。
【0017】
クロム鉄鉱粉末は、例えば、和光純薬工業から入手できる。なお、市販されているクロム鉄鉱は粉末の形態であるため、ヤング率や線膨張率などの機械的特性を測定することはできない。
【0018】
本発明では、上記クロム鉄鉱粉末として、150メッシュの篩を通過する粉末を用いる。150メッシュの篩を通過しない粉末(即ち、篩の上に残る粉末)を用いると、粉末自体が大きいため、成型したときに粉末間の空隙が大きくなり、成型体の密度が小さくなる。そのため高密度のバルク材を製造できない。従って本発明では、クロム鉄鉱粉末として150メッシュの篩を通過する粉末を用いる。
【0019】
150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末は、市販されているクロム鉄鉱粉末を150メッシュの篩を用いて分級し、篩を通過する粉末を回収することで得られる。また、分級前に、必要に応じて、例えば、乳鉢、ボールミル、ジェットミル、オートミルなどを用いて粉砕してもよい。
【0020】
上記パラフィンは、上記混合粉末全体に対して1〜5質量%含有する必要がある。パラフィンの含有量が少な過ぎると、バインダー効果が発揮されず、バルク材を形成できない。一方、パラフィンの含有量が多過ぎると、焼結時にパラフィンがバルク材から抜け切れず、バルク材内にポアを形成し、バルク材の密度が小さくなり、機械的特性を測定できない。
【0021】
本発明において、パラフィンとは、炭素原子の数が16〜40程度の間に分布するアルカン(鎖式飽和炭化水素)を指す。
【0022】
150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末と、パラフィンは、例えば、乳鉢を用いて均一に混合すればよい。
【0023】
本発明では、パラフィンと、150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末との混合粉末を成型して成型体を得るが、成型圧力は196〜392MPa(2.0〜4.0tonf/cm2)とする。成型圧力が196MPa(2.0tonf/cm2)を下回ると、圧力不足となり、成型体を形成できない。従って成型圧力は196MPa(2.0tonf/cm2)以上とする。しかし成型圧力が392MPa(4.0tonf/cm2)を超えると、成型体に残留する応力が大きくなり、後の焼結工程においてバルク材にクラックが発生してバルク材が得られない。従って成型圧力は392MPa(4.0tonf/cm2)以下とする。
【0024】
成型する際に用いる型の種類は特に限定されず、金型を用いてもよいし、ゴム製の型を用いてもよい。ゴム製の型を用いる場合は、CIP成型を行ってもよい。例えば、円柱状の成型体を作製する場合は、ネオプレンゴム製のチューブを所望の長さに切断し、これにクロム鉄鉱粉末をできるだけ均一かつ高密度に充填し、チューブの両端をネオプレンゴム製の栓で止めてシールする。この試料を静水圧196〜392MPa(2.0〜4.0tonf/cm2)でCIP成型すれば、円柱状の成型体を作製できる。なお、成型体の形状は特に限定されるものではなく、各種試験片の形状であってもよいし、板状やブロック状であってもよい。
【0025】
[(2)焼結する工程]
上記成型体の焼結は、1100〜1500℃で行う。焼結温度が1100℃未満では、焼結不充分となり、バルク材の密度を高めることができず、機械的特性を測定できない。従って焼結は1100℃以上で行い、好ましくは1200℃以上で行う。しかし焼結温度が1500℃を超えると、クロマイトが溶融してしまい、バルク材を形成できない。従って焼結は1500℃以下で行い、好ましくは1400℃以下で行う。
【0026】
焼結するに当っては、焼結温度に到達するまでの昇温速度を、例えば、100〜1200℃/時間とすればよい。
【0027】
焼結時間は、焼結温度に影響を受けるため一律に規定できず、機械的特性を測定できる程度の密度となるように焼結温度を考慮しつつ焼結すればよい。焼結時間は、例えば、10〜120分とすればよい。焼結時間が短過ぎると焼結不足となる傾向があり、焼結時間が長過ぎると経済的に無駄である。焼結時間のより好ましい下限は15分であり、より好ましい上限は90分である。なお、焼結後、室温まで冷却するに当っては、焼結炉内で放冷すればよい。
【0028】
焼結雰囲気は特に限定されず、例えば、不活性ガス雰囲気、酸素含有雰囲気(例えば、大気雰囲気など)、真空雰囲気等いずれであってもよい。
【0029】
不活性ガスとしては、例えば、純Arガスや純N2ガス、純Heガス、或いはこれらのガスを混合したガスなどを用いることができる。コストを削減するには、純Arガスや純N2ガスを用いることが好ましい。
【0030】
真空雰囲気は、圧力を、例えば、0.13Pa(1×10-3Torr)以下とすればよい。
【0031】
但し、酸素含有雰囲気では、クロマイトの一部が酸化され、Cr23やFe23が形成されるため、クロマイト純度が低下する傾向がある。また、真空雰囲気では、雰囲気中の酸素が減少するため、クロマイトの一部が還元され、Feが生成してクロマイト純度が低下する傾向がある。そこで、本発明では、焼結雰囲気を不活性ガス雰囲気にすることが推奨される。不活性ガス雰囲気で焼結することで、酸素含有雰囲気や真空雰囲気で焼結するよりもクロマイトバルク材の純度を高められる。
【0032】
焼結して得られたクロマイトバルク材は、焼結ままの状態で、密度が2g/cm3以上の高密度なものになっている。
【0033】
本発明で得られるクロマイトバルク材を用いれば、例えば、クロマイト相の硬度を測定できる他、ヤング率や線膨張率を測定でき、クロマイト相の機械的特性を調べることができる。クロマイト相の機械的特性を詳細に調べることで、圧延プロセス中におけるスケール破壊・変形挙動などを把握できるようになる。また、クロマイトバルク材は、各種素材として用いることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
下記実験1では成型圧力、下記実験2ではパラフィンの配合量、下記実験3では焼結条件、下記実験4ではバルク材の機械的特性(硬度)について検討した。
【0036】
[実験1]
市販されているFeCr24粉末(和光純薬工業製)を乳鉢で粉砕し、150メッシュの篩を用いて分級した。篩を通過したFeCr24粉末に、バインダーとしてパラフィン(和光純薬工業製)を配合し、混合粉末を得た。パラフィンの配合量は、混合粉末全体の質量に対して2.0質量%とした。混合粉末を円筒状の金型に仕込み、圧力をかけてφ30mm×120mmの成型体を製造した。成型圧力は、147MPa(1.5tonf/cm2)、196MPa(2.0tonf/cm2)、294MPa(3.0tonf/cm2)、392MPa(4.0tonf/cm2)、または441MPa(4.5tonf/cm2)とした。その結果、成型圧力が147MPaの場合は、金型から取り出した時点で成型体が崩壊した。一方、成型圧力が196MPa以上の場合は、金型から取り出した成型体は崩壊せず、安定な成型体を形成できた。
【0037】
次に、金型から取り出した成型体をAr雰囲気中で、1300℃で、1時間加熱して焼結し、バルク材を得た。焼結に当たっては1300℃に昇温する際の昇温速度は600℃/時間で行い、1300℃で1時間焼結した後の冷却は焼結炉内で放冷することによって行った。得られたバルク材を目視で観察した結果、成型圧力を441MPaとして得られたバルク材にはクラックが発生しており、一部、バルク材の崩壊も確認された。一方、成型圧力を196〜392MPaとして得られたバルク材には、クラックの発生は認められず、良好なバルク材が作製できたことを目視で確認した。
【0038】
得られたバルク材の見かけ密度をアルキメデス法によって測定した。その結果、196MPaで成型して得られた成型体を焼結して得られたバルク材の密度は2.56g/cm3、294MPaで成型して得られた成型体を焼結して得られたバルク材の密度は3.47g/cm3、392MPaで成型して得られた成型体を焼結して得られたバルク材の密度は3.92g/cm3、441MPaで成型して得られた成型体を焼結して得られたバルク材の密度は4.08g/cm3であった。
【0039】
[実験2]
上記実験1において、バインダーの配合量を変えた混合粉末を調製し、成型体を製造した。バインダーとして用いたパラフィンの配合量は、混合粉末全体の質量に対して0.5質量%、1.0質量%、2.0質量%、3.0質量%、4.0質量%、5.0質量%、または5.5質量%とした。混合粉末を円筒状の金型に仕込み、成型圧力294MPa(3.0tonf/cm2)で成型してφ30mm×120mmの成型体を製造した。
【0040】
次に、成型体を金型から取り出し、上記実験1と同じ条件で焼結した。その結果、バインダーの配合量が0.5質量%の場合は、バインダー不足のためバルク材が得られなかった。一方、バインダーの配合量が5.5質量%の場合は、焼結時にバインダーを除去できず、バルク材内にポアが形成され、バルク材の密度が低下した。このバルク材の密度は、0.36g/cm3であった。これに対し、バインダーの配合量が1.0〜5.0質量%の場合は、密度が3.11〜4.2g/cm3のバルク材が得られた。
【0041】
[実験3]
上記実験1において、成型圧力294MPa(3.0tonf/cm2)で成型してφ30mm×120mmの成型体を製造した。
【0042】
次に、成型体を金型から取り出し、下記表1に示す雰囲気中で、下記表1に示す温度で、1時間加熱して焼結し、バルク材を得た。表1において、焼結雰囲気が「Ar」とは、常圧のArガス雰囲気中で焼結を行ったことを意味する。焼結雰囲気が「N2」とは、常圧のN2ガス雰囲気中で焼結を行ったことを意味する。焼結雰囲気が「大気」とは、常圧の大気雰囲気中で焼結を行ったことを意味する。焼結雰囲気が「真空」とは、圧力0.13Pa(1×10-3Torr)以下で焼結を行ったことを意味する。焼結に当たっては、下記表1に示す焼結温度に昇温する際の昇温速度は10℃/分とし、焼結した後の冷却は焼結炉内で放冷することによって行った。
【0043】
得られたバルク材をXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った。各バルク材について、同定結果を下記表1に示す。表1において、「○」は回折ピークが同定できる程度に検出されたことを意味し、「−」は回折ピークが同定できる程度に検出されなかったことを意味する。なお、本実験で用いたバルク材には、FeCr24、Cr23、Feが検出されたが、これら以外の相は検出されなかった。
【0044】
表1に示したNo.2のバルク材のXRDチャートを図1に、No.14のバルク材のXRDチャートを図2に示す。図1から明らかなように、No.2のバルク材ではFeCr24に由来する回折ピークのみが確認された。一方、図2から明らかなように、No.14のバルク材ではFeCr24に由来する回折ピークの他に、Feに由来する回折ピークも認められた。
【0045】
下記表1から次のように考察できる。No.2〜5、8〜11は、不活性雰囲気で焼結した例であり、得られたバルク材からは、FeCr24に由来する回折ピークのみが検出され、純度の高いクロマイト(FeCr24)バルク材が得られた。
【0046】
No.12、13においてもクロマイトバルク材が得られている。しかし大気雰囲気で焼結を行ったため、これらのバルク材からはFeCr24に由来する回折ピーク以外にCr23に由来する回折ピークも検出された。ピーク強度比からクロマイト(FeCr24)の純度は、上記No.2〜5、8〜11のバルク材の純度よりも低いことが分かった。
【0047】
No.14、15においてもクロマイトバルク材が得られている。しかし真空雰囲気で焼結を行ったため、これらのバルク材からはFeCr24に由来する回折ピーク以外にFeに由来する回折ピークも検出された。ピーク強度比からクロマイト(FeCr24)の純度は、上記No.2〜5、8〜11のバルク材の純度よりも低いことが分かった。
【0048】
一方、No.1のバルク材からはFeCr24に由来する回折ピークのみが検出され、クロマイト(FeCr24)バルク材が得られた。しかし焼結温度が低過ぎるため焼結不充分となり、バルク材の密度は0.42g/cm3で、強度が低く、機械的特性測定用試験片に用いることができなかった。
【0049】
No.6、7のバルク材からはFeCr24に由来する回折ピークのみが検出されたが、クロマイト(FeCr24)バルク材が得られた。しかしNo.6のバルク材は、焼結時の温度が高過ぎるため一部が溶融した結果変形を起こしており、機械的特性測定用試験片に用いることができなかった。No.7のバルク材は、焼結時の温度がNo.6よりも一層高いため、バルク材が完全に溶融しており、機械的特性測定用試験片に用いることができなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
[実験4]
上記実験3において、成型圧力294MPa(3.0tonf/cm2)で成型してφ30mm×120mmの成型体を製造した。
【0052】
次に、成型体を金型から取り出し、Ar雰囲気中で、1300℃で、1時間加熱して焼結し、バルク材を得た。焼結に当たっては、1300℃に昇温する際の昇温速度は10℃/分で行い、1300℃で1時間焼結した後の冷却は焼結炉内で放冷することによって行った。得られたバルク材を目視で観察した結果、クラックの発生は認められなかった。
【0053】
得られたバルク材を上記実験3と同じ条件でXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った。その結果、バルク材からはFeCr24に由来する回折ピークのみが検出され、純度の高いクロマイト(FeCr24)バルク材が得られていることが分かった。
【0054】
次に、得られたバルク材の硬度(ビッカース硬度)を、室温(25℃)、400℃、600℃、800℃、または1000℃で測定した。硬度測定には日本光学製のMQ型高温顕微硬度計を用い、JIS Z 2244に従って測定した。測定結果を図3に■で示す。
【0055】
比較対象として、FeOバルク材、Fe34バルク材、Fe23バルク材、Fe2SiO4バルク材を下記条件で作製し、各バルク材の硬度を上記と同様に測定した。測定結果を図3にFeOは△、Fe34は□、Fe23は◇、Fe2SiO4は●で示す。
【0056】
《FeOバルク材》
市販されている純Fe粉末(神戸製鋼所製「アトメル300NH(商品名)」)とFe34粉末(和光純薬工業製「四三酸化鉄試薬(商品名)」、純度95%以上)とを、Fe粉末:Fe34粉末の質量比が0.8:1となるように仕込み、3時間混合した後、角状金型に入れて圧力をかけて成型し、55mm×55mm×8mmtの成型体を作製した。成型圧力は147MPa(1.5tonf/cm2)とし、CIP成型した。
【0057】
得られた成型体を、Ar雰囲気中で、1100℃で、1時間保持して仮焼結した。仮焼結体を、グラファイト製金型に入れ、圧力50MPaとして加圧しながら、真空雰囲気中(1×10-4Torr台)で、900℃で、1時間保持してプレス成型を行い、バルク材を作製した。得られたバルク材をXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った結果、FeO以外の回折ピークは検出されなかった。
【0058】
《Fe34バルク材》
市販されているFe34粉末(和光純薬工業製「四三酸化鉄試薬(商品名)」、純度95%以上)を角状金型に入れて圧力をかけて成型し、55mm×55mm×8mmtの成型体を作製した。成型圧力は、294MPa(3.0tonf/cm2)とし、CIP成型した。
【0059】
得られた成型体を、Ar雰囲気中で、1100℃で、1時間保持して焼結し、バルク材を作製した。得られたバルク材をXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った結果、Fe34以外の回折ピークは検出されなかった。
【0060】
《Fe23バルク材》
市販されているFe23粉末(和光純薬工業製)を角状金型に入れて圧力をかけて成型し、55mm×55mm×8mmtの成型体を作製した。成型圧力は294MPa(3.0tonf/cm2)とし、CIP成型した。
【0061】
得られた成型体を大気中で、1100℃で、1時間保持して焼結し、バルク材を作製した。得られたバルク材をXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った結果、Fe23以外の回折ピークは検出されなかった。
【0062】
《Fe2SiO4バルク材》
市販されている塊状の天然鉱物である鉄カンラン石(和光純薬工業製「FAYALITE(商品名)」)を乳鉢で粉砕し、150メッシュの篩を用いて分級し、篩を通過した鉄カンラン石粉末を得た。得られた鉄カンラン石粉末を角状金型に入れて圧力をかけて成型し、55mm×55mm×8mmtの成型体を作製した。成型圧力は147MPa(1.5tonf/cm2)とし、CIP成型した。
【0063】
得られた成型体を、真空雰囲気中(1×10-5Torr以下)で、1130℃で、1時間保持して焼結し、バルク材を作製した。得られたバルク材をXRD(X線回折)測定し、バルク材の相同定を行った結果、Fe2SiO4以外の回折ピークは検出されなかった。
【0064】
図3から明らかなように、バルク材の種類によって、硬度に差があることが分かる。従って、スケールは種々の酸化物で構成されているが、酸化物の種類によって硬度(機械的特性)が相違することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンと、150メッシュの篩を通過するクロム鉄鉱粉末との混合粉末を成型する工程と、得られた成型体を焼結する工程を含み、
前記パラフィンの含有量は混合粉末全体に対して1〜5質量%であり、
前記成型は196〜392MPaの圧力で行い、
前記焼結は1100〜1500℃で行うことを特徴とするクロマイトバルク材の製造方法。
【請求項2】
前記焼結は、不活性ガス雰囲気で行う請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−271122(P2010−271122A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122008(P2009−122008)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】