説明

クロマキー生成回路およびクロマキー生成方法

【課題】 抜く色と反対側の位相の色を抜くことが可能なクロマキー生成回路の提供。
【解決手段】 従来のゼロリミット回路8に代えて本発明ではオフセット回路11を用いる。このオフセット回路11によりレベル比較後の信号fに所定のオフセットを付与し、信号fの負の領域を正の領域へシフトして信号gを得る。そして、クリップ回路12にて信号fの負の領域に属していた部分の一部を含めてクリップして信号hを得る。その信号hをゲイン調節回路13でゲイン調節することにより、抜く色と反対側の位相の色の一部を抜くことが可能なクロマキー信号Jが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマキー生成回路およびクロマキー生成方法に関し、特にプロダクションスイッチャのクロマキー生成回路およびクロマキー生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーテレビジョン放送等では、ブルー等の特定色を背景(たとえば、ブルーバック)として人物等の映像を配置し、その特定色の部分のみを他の映像(たとえば、火星の風景)と差し替えることにより、あたかも人物等が他の場所(たとえば、火星)に存在しているかのように見せかけるクロマキーによる映像(画像)合成が行われる場合がある。
【0003】
この特定色を生成する回路がクロマキー生成回路であり、プロダクション(制作)スイッチャに組み込まれる。
【0004】
図5は従来のクロマキー生成回路の一例の構成図である。同図を参照すると、従来のクロマキー生成回路の一例は、乗算器1〜4と、加算器5〜6と、レベル比較回路7と、ゼロリミット回路8と、クリップ(CLIP)回路8と、ゲイン(GAIN)調節回路10とを含んで構成される。
【0005】
映像信号から分離された色差信号IおよびQは、乗算器1および2にて、それぞれ制御信号#1および#2と乗算され、信号I1およびQ1が生成される。
【0006】
映像信号から分離された色差信号IおよびQは、乗算器3および4にて、それぞれ制御信号#3および#4と乗算され、信号I2およびQ2が生成される。
【0007】
制御信号#1〜#4は色位相データであり、色差信号IあるいはQと乗算することにより、抜く(キャンセルする)色位相の範囲や色位相調整が設定される。
【0008】
次に、信号I1およびQ1は加算器5にて加算され、信号dが生成される。また、信号I2およびQ2は加算器6にて加算され、信号eが生成される。
【0009】
次に、信号dと信号eのレベルがレベル比較回路7にて比較され、レベルの小さい方が選択され、信号kが生成される。
【0010】
次に、ゼロリミット回路8にて、信号kのレベルが“0”以下(すなわち、レベルが負の領域)の時は、“0”に(クリップ)した(ゼロリミット)信号mが生成される。
【0011】
次に、信号mはクリップ(CLIP)回路8にてクリップされ、信号nが生成される。
【0012】
最後に、信号nはゲイン(GAIN)調節回路10にて所定のゲインに調節され、クロマキー信号として信号pが生成される。
【0013】
図6は従来のクロマキー生成回路の一例の入力信号位相の波形図である。同図において、クロマキー信号(信号p)の中心色位相(ブルーバックの場合はブルー)の、後述するカラー平面座標上の位相をθとすると、同図(A)に示すように、入力カラー信号位相に対して信号dがsin(θ−α)を描き、信号eがsin(θ+α)を描くように制御信号#1〜#4が設定される。ただし、同図に示す“Cy”はシアン、“B”はブルー、“Mg”はマジェンタの色位相をそれぞれ示す。
【0014】
レベル比較回路7にて、信号dおよび信号eが比較され、レベルの低い方が選択されると、同図(B)に示すように、信号kが得られる。
【0015】
また、ゼロリミット回路8にて、信号kの“0”レベル以下がクリップされると、同図(C)に示すように、信号m が得られる。
【0016】
そして、クリップ(CLIP)回路8にて、信号m がクリップされて信号nが生成され、さらに信号nがゲイン(GAIN)調節回路10にてゲイン(GAIN)調節されると、同図(D)に示すように、信号pが得られる。
【0017】
一方、この種の従来のクロマキー生成回路の一例として、クロマキー信号とキャンセルキー信号とを個別に調節することが可能なクロマキー回路が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。このクロマキー回路ではクロマキー信号の生成に際しゼロリミット回路が用いられている。
【0018】
【特許文献1】特開平11−275600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記従来のクロマキー生成回路の一例(図5参照)では、ゼロリミット回路8にて信号kの負の領域をカットしている。この信号kの負の領域は抜く色の位相とは反対の色に相当する。従来のクロマキー生成回路の一例(図5参照)では、ゼロリミット回路8によりゼロリミットをかけてからゲイン調節を行っているため、抜く色と反対側の位相の色を抜くことができない。
【0020】
したがって、抜く色と反対側の位相の色の一部を抜きたいという要求に対し、上記従来のクロマキー生成回路の一例(図5参照)では応えることができないという課題がある。
【0021】
ここで、従来のクロマキー生成回路の一例の作用について説明しておく。図4はクロマキー信号の位相と抜く色との関係の一例を示すカラー平面座標である。同図(A)は従来例を示し、同図(B)は後述する本発明を示している。
【0022】
同図(A)を参照すると、座標の中心を貫く斜めの軸はクロマキー信号p の中心色位相(ブルーバックの場合はブルー)θを示している。同図(A)に示すように、従来のクロマキー生成回路の一例では位相(θ−α)から(θ+α)までの斜線で示される色相の範囲が抜く色となる。
【0023】
図7は従来のクロマキー信号の位相と抜く色との関係の一例を示すカラー平面座標である。同図(A)は図4(A)と同様の状態を示している。なお、同図では位相Sの背景(第1象限および第2ならびに第4象限の一部の斜線部分)に、位相R(第3象限)の物体(たとえば、人物)がある画像を示している。従来のクロマキー生成回路では、同図に示すように抜く色の色相範囲(斜線部分)を位相θの回転方向に調整することが可能である。
【0024】
したがって、同図(B)に示すようにαの値を大きくすることにより、抜く色の色相範囲(斜線部分)を広げることが可能となる。
【0025】
また、同図(C)に示すように抜く色の色相範囲(斜線部分)を中心色位相θの軸の正方向へ平行移動させることも可能である。
【0026】
一方、同図(A)〜(C)の第3象限上かつ座標の中心付近の位相Tの色(すなわち、抜く色と反対側の位相の色)を、従来のクロマキー生成回路では抜くことができない。
【0027】
そのため、クロマキーで位相Sの背景色を抜いた際に位相Tの色を抜くことができず、位相Rの物体の周囲に位相Tの色が残ってしまうという課題がある。
【0028】
そこで本発明の目的は、抜く色と反対側の位相の色を抜くことが可能なクロマキー生成回路およびクロマキー生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記課題を解決するために、本発明によるクロマキー生成回路は、映像信号から分離した色差信号IおよびQにそれぞれ第1および第2の制御信号を乗算する第1の乗算手段と、前記色差信号IおよびQにそれぞれ第3および第4の制御信号を乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段の乗算結果同士を加算する第1の加算手段と、前記第2の乗算手段の乗算結果同士を加算する第2の加算手段と、前記第1および第2の加算手段の加算結果同士を比較し比較結果に応じた信号を生成する比較手段とを含むクロマキー生成回路であって、前記比較手段の出力信号に所定のオフセットを付与するオフセット付与手段を含むことを特徴とする。
【0030】
また、本発明によるクロマキー生成方法は、映像信号から分離した色差信号IおよびQにそれぞれ第1および第2の制御信号を乗算する第1の乗算ステップと、前記色差信号IおよびQにそれぞれ第3および第4の制御信号を乗算する第2の乗算ステップと、前記第1の乗算ステップの乗算結果同士を加算する第1の加算ステップと、前記第2の乗算ステップの乗算結果同士を加算する第2の加算ステップと、前記第1および第2の加算ステップの加算結果同士を比較し比較結果に応じた信号を生成する比較ステップとを含むクロマキー生成方法であって、前記比較ステップの出力信号に所定のオフセットを付与するオフセット付与ステップを含むことを特徴とする。
【0031】
ここで、本発明の作用を述べる。本発明では、ゼロリミット回路8(図5参照)に代えてオフセット回路11(後述する図1参照)を用いる。このオフセット回路11によりレベル比較後の信号fに所定のオフセットを付与し、信号fの負の領域を正の領域へシフトして信号gを得る(同図3(C)参照)。そして、クリップ回路12にて信号fの負の領域に属していた部分の一部を含めてクリップして信号hを得る(同図3(C)参照)。その信号hをゲイン調節回路13でゲイン調節することにより、抜く色と反対側の位相の色の一部を抜くことが可能なクロマキー信号J(同図3(D)参照)が得られる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、上記構成を含むため、抜く色と反対側の位相の色を抜くことが可能なクロマキー生成回路およびクロマキー生成方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係るクロマキー生成回路の最良の形態の構成図である。なお、同図において、図5と同様の構成部分には同一番号を付し、その説明を省略する。
【0034】
図1を参照すると、本発明に係るクロマキー生成回路の最良の形態は、乗算器1〜4と、加算器5〜6と、レベル比較回路7と、オフセット回路11と、クリップ(CLIP)回路12と、ゲイン(GAIN)調節回路13とを含んで構成される。
【0035】
本発明に係るクロマキー生成回路が従来のクロマキー生成回路(図5参照)と異なる点は、従来のクロマキー生成回路におけるゼロリミット回路8の代わりにオフセット回路11を設けた点であり、その他の構成は従来のクロマキー生成回路と同様である。
【0036】
図2は本発明に係るクロマキー生成回路の動作の一例を示すフローチャートである。
【0037】
映像信号から分離された色差信号IおよびQは、乗算器1および2にて、それぞれ制御信号#1および#2と乗算され、信号I1およびQ1が生成される(図2のステップS1)。
【0038】
映像信号から分離された色差信号IおよびQは、乗算器3および4にて、それぞれ制御信号#3および#4と乗算され、信号I2およびQ2が生成される(図2のステップS2)。
【0039】
制御信号#1〜#4は色位相データであり、色差信号IあるいはQと乗算することにより、抜く(キャンセルする)色位相の範囲や色位相調整が設定される。
【0040】
次に、信号I1およびQ1は加算器5にて加算され、信号dが生成される(図2のステップS3)。また、信号I2およびQ2は加算器6にて加算され、信号eが生成される(図2のステップS4)。
【0041】
次に、信号dと信号eのレベルがレベル比較回路7にて比較され、レベルの小さい方が選択され、信号fが生成される(図2のステップS5)。
【0042】
次に、オフセット回路11にて、レベル比較後の信号fに所定のオフセットが付与され、信号fの負の領域を正の領域へシフトして信号gが生成される(図2のステップS6)。
【0043】
次に、信号gはクリップ(CLIP)回路12にてクリップされ、信号hが生成される(図2のステップS7)。
【0044】
最後に、信号hはゲイン(GAIN)調節回路13にて所定のゲインに調節され、クロマキー信号として信号Jが生成される(図2のステップS8)。
【0045】
なお、図2において、ステップS1およびS2の処理順序を逆にしてもよく、また同時に処理してもよい。ステップS3およびS4についても同様である。
【0046】
図3は本発明に係るクロマキー生成回路の一例の入力信号位相の波形図である。同図において、クロマキー信号(信号J)の中心色位相(ブルーバックの場合はブルー)の、カラー平面座標上の位相をθとすると、同図(A)に示すように、入力カラー信号位相に対して信号dがsin(θ−α)を描き、信号eがsin(θ+α)を描くように制御信号#1〜#4が設定される。ただし、同図に示す“Cy”はシアン、“B”はブルー、“Mg”はマジェンタの色位相をそれぞれ示す。
【0047】
レベル比較回路7にて、信号dおよび信号eが比較され、レベルの低い方が選択されると、同図(B)に示すように、信号fが得られる。
【0048】
また、オフセット回路11によりレベル比較後の信号fに所定のオフセットが付与されると、信号fの負の領域が正の領域へシフトされ、信号gが得られる(同図(C)参照)。
【0049】
そして、クリップ(CLIP)回路12にて、信号gがクリップされて信号hが生成され、さらにゲイン(GAIN)調節回路13にて信号hのゲインの絶対値が0〜100%の間に収まるように調節されると、信号jが得られる(同図(D)参照)。
【0050】
すなわち、図4(B)を参照すれば明らかなように、本発明によるクロマキー生成回路によれば、抜く色の色相範囲(斜線部分)を中心色位相θの軸の負方向へ平行移動させることが可能となるため、抜く色と反対側の位相の色を抜くことが可能となる。
【0051】
そのため、クロマキーで位相Sの背景色を抜いた際に位相Tの色を抜くことが可能となり、これにより位相Rの物体の周囲に位相Tの色が残るのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係るクロマキー生成回路の最良の形態の構成図である。
【図2】本発明に係るクロマキー生成回路の動作の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係るクロマキー生成回路の一例の入力信号位相の波形図である。
【図4】クロマキー信号の位相と抜く色との関係の一例を示すカラー平面座標である。
【図5】従来のクロマキー生成回路の一例の構成図である。
【図6】従来のクロマキー生成回路の一例の入力信号位相の波形図である。
【図7】従来のクロマキー信号の位相と抜く色との関係の一例を示すカラー平面座標である。
【符号の説明】
【0053】
1〜4 乗算器
5〜6 加算器
7 レベル比較回路
11 オフセット回路
12 クリップ(CLIP)回路
13 ゲイン(GAIN)調節回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像信号から分離した色差信号IおよびQにそれぞれ第1および第2の制御信号を乗算する第1の乗算手段と、前記色差信号IおよびQにそれぞれ第3および第4の制御信号を乗算する第2の乗算手段と、前記第1の乗算手段の乗算結果同士を加算する第1の加算手段と、前記第2の乗算手段の乗算結果同士を加算する第2の加算手段と、前記第1および第2の加算手段の加算結果同士を比較し比較結果に応じた信号を生成する比較手段とを含むクロマキー生成回路であって、
前記比較手段の出力信号に所定のオフセットを付与するオフセット付与手段を含むことを特徴とするクロマキー生成回路。
【請求項2】
前記オフセット付与手段は前記比較手段の出力信号の負の領域を正の領域へシフトすることを特徴とする請求項1記載のクロマキー生成回路。
【請求項3】
前記オフセット付与手段の出力信号をクリップするクリップ手段と、前記クリップ手段の出力信号のゲインを調節するゲイン調節手段とを含むことを特徴とする請求項1または2記載のクロマキー生成回路。
【請求項4】
前記比較手段は比較の結果、レベルの小さい方の信号を選択することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のクロマキー生成回路。
【請求項5】
映像信号から分離した色差信号IおよびQにそれぞれ第1および第2の制御信号を乗算する第1の乗算ステップと、前記色差信号IおよびQにそれぞれ第3および第4の制御信号を乗算する第2の乗算ステップと、前記第1の乗算ステップの乗算結果同士を加算する第1の加算ステップと、前記第2の乗算ステップの乗算結果同士を加算する第2の加算ステップと、前記第1および第2の加算ステップの加算結果同士を比較し比較結果に応じた信号を生成する比較ステップとを含むクロマキー生成方法であって、
前記比較ステップの出力信号に所定のオフセットを付与するオフセット付与ステップを含むことを特徴とするクロマキー生成方法。
【請求項6】
前記オフセット付与ステップは前記比較ステップの出力信号の負の領域を正の領域へシフトすることを特徴とする請求項5記載のクロマキー生成方法。
【請求項7】
前記オフセット付与ステップの出力信号をクリップするクリップステップと、前記クリップステップの出力信号のゲインを調節するゲイン調節ステップとを含むことを特徴とする請求項5または6記載のクロマキー生成方法。
【請求項8】
前記比較ステップは比較の結果、レベルの小さい方の信号を選択することを特徴とする請求項5から7いずれかに記載のクロマキー生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−182384(P2008−182384A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13233(P2007−13233)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】