説明

クロマトグラフィーによるフォンビルブラント(FvW)因子濃縮物の調製のためのプロセス及びそれにより得られ得るFvW濃縮物

【課題】動物起源のリガンドを有するクロマトグラフィー支持体を使用せずにフォンビルブラント因子(FvW)濃縮物を調製するプロセスの開発。
【解決手段】弱塩基型ビニルポリマー支持体(支持体)を用いるアニオン交換クロマトグラフィーによる分離であって、以下の工程よりなる。a)予め決定された流速で、緩衝液を用いて平衡化された支持体に、FvWを含有するフラクションをロードする、b)保持されていない蛋白質及び混入物が除去されるまで、a)の流速より高い流速で酸性緩衝液を用いてこの支持体を洗浄する、c)a)の緩衝液と流速を用いて支持体をフラッシング及び平衡化する、d)c)のイオン強度を増加させることによってFvWを溶出する。このプロセスの実施により得られる、治療使用のためのFvW濃縮物の第VIII因子:C/FvW:RCoの比率は、0.06%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーによるフォンビルブラント因子(FvW)濃縮物の調製のためのプロセス及びそれにより得られ得るFvWの濃縮物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォンビルブラント因子は、約200kDaと約20 000kDaとの間、及びそれより大きい分子量を有するマルチメトリック(multimetric)血液タンパク質である。血小板及び内皮細胞により合成される、このタンパク質は、FvWが血管の裂け目上に広がり、止血の第一フェーズ、すなわち、「血小板性血栓」(血栓)の形成を行うように血小板の付着を提供するゲリファイングプラグとしての役割を果たす限り、出血への対抗において鍵となる役割を果たす。不溶性フィブリン塊を形成することによる出血の抑止を強固にすることが意図される、凝固現象は、この血栓周辺で生じる。血液循環において、FvWは、それが結合して種々のサイズの複合体となる第VIII因子の安定化及び輸送も確保し、このようにして、この第VIII因子は、プロテアーゼに対する分離された第VIII因子の感受性に起因するタンパク質分解による迅速な分解から保護される。
【0003】
FvWの先天性欠損またはFvWの特性を改変する、遺伝的変異は、初期の止血及び血液凝固のトラブルによって示されるビルブラント病を引き起こす。
【0004】
従って、複数回及び繰り返しの注射に適する、FvWを豊富に含む非常に高純度のヒト血漿誘導体の利用可能性は、この疾患の処置において最も重要である。実際、ヒト血漿の分画によって得られる不十分な純度のFvWのサンプルは、所望されない免疫反応を誘導し得る種々の混入物(残留タンパク質)を含む。さらに、第VIII因子を伴うフォンビルブラント因子の投与は、処置される患者における血栓症または凝固能亢進の危険をもたらし得る(Makrisら、Thromb. Haemost. 88, 2002, pp. 377-378, Manucci P.M., Thromb. Haemost. 88, 2002, pp. 378-379)。
【0005】
FvW濃縮物の調製のための種々のプロセスは、典型的に、所望されないタンパク質(フィブリノーゲン、フィブロネクチン等)の大部分を除去することが意図される血漿フラクションの沈降及び/または高い比活性を示しかつマルチメトリック形態の完全性を保存することを可能にする非常に高純度の濃縮物、特に高分子量のもの(治癒プロセスにおいて最も生物学的に重要なものである)を得ることを目的とするクロマトグラフィー(イオン交換、アフィニティ、イムノアフィニティ、サイズ排除等)の複合工程である。
【0006】
例として、FvWの精製をもたらす、複数工程のアニオン交換クロマトグラフィーを実施する血漿の寒冷沈降フラクションのタンパク質の分離を開示する欧州特許第0 359 593号が参照され得る。
【0007】
欧州特許第0 503 991号は、血漿の寒冷沈降フラクションの精製前工程及び3つの連続するクロマトグラフィー工程を含み、3番目のものがアガロース上に固定化されたゼラチンカラムでのアフィニティクロマトグラフィーである、工業規模のFvW濃縮物を調製するためのプロセスを開示する。このようにして得られるFvW濃縮物は、タンパク質1mg当りリストセチン補因子活性単位で表される100UI RCo/mgより高い比活性及び最初の血漿におけるものに匹敵する高分子量マルチマーの含有量を示す。
【0008】
欧州特許出願第0 934 748号は、アニオン交換及びカチオン交換クロマトグラフィーの組み合わせを含む、FvWを調製するためのプロセスを記載する。得られたFvWフラクションは、タンパク質1mg当りFvW抗原単位で表される100IU FvW:Ag/mgより高い比活性を示すが、なお著しい割合の第VIII因子を含有する。
【0009】
米国特許第6 579 723号は、免疫吸着剤が抗FvW抗体であるイムノアフィニティクロマトグラフィーによる高度に精製されたFvWを調製するためのプロセスを記載する。ヘパリン上でのアフィニティクロマトグラフィーによる精製のさらなる工程も提供される。しかし、イムノアフィニティによる精製の欠点は、免疫反応を引き起こし得る残留抗体が存在し得ることである。
【0010】
欧州特許第0 383 234号は、アニオン交換剤に第VIII因子を固定化するための炭水化物を含む酸性溶液(5.5〜6.5のpH)を含む、アニオン交換クロマトグラフィーによる低温殺菌FvW濃縮物の調製を教示する。支持体の洗浄による、保持されていないFvW、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンのジョイントリカバリーは、精製されたFvW濃縮物を単離するためのさらなる沈降工程を必要とする。
【0011】
上記のプロセスの欠点は、これらが、収率及び工業規模の実施の扱いにくさに関連する問題を引き起こす、複数の連続する工程、特にクロマトグラフ工程を必要とすることにある。これらのプロセスは、場合に応じて、海綿状脳症の原因となる病原性プリオン、または考慮される動物種の他のウイルスのベクターとして作用し得る、動物起源の(例えば、ゼラチン、ヘパリンまたはコラーゲンに基づく)リガンドを有するクロマトグラフィー支持体を使用し得る。これらの困難性は、このプロセス中にウイルス不活化処理、そして必要な場合、殺ウイルス剤の除去のためのさらなる工程を含む必要性に起因してなお増幅される。その上、これらのプロセスにより得られるFvW濃縮物は、第VIII因子を含み、このことは患者の血栓症の危険性という欠点を示す。さらに、アフィニティ支持体のクリーニングまたは洗浄及びこれらのサニテーションは、リガンドの脆弱さに起因して困難であり、このことは、強力な殺菌特性を有するクリーニング溶液(次亜塩素酸ナトリウム、ソーダ、水酸化カリウム等)の使用を回避させる。最後に、アフィニティ支持体は、むしろ短い寿命を有し、そしてこれらの頻繁な交換は、相対的に費用がかかり、これは、処理された製品の原価上の負担になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高純度のFvWフラクションの継続的に増大する必要性を考慮し、本出願人は、非常に単純な手段により実施され得、動物起源のリガンドを有するクロマトグラフィー支持体を使用することを必要とせずに、高収率をもたらし、そして高比活性を付与されかつ第VIII因子を有さない標準化された高純度FvW濃縮物をもたらす、FvWの調製のための新規プロセスを開発することを試みた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この効果のために、本発明は、フォンビルブラント因子を含む生物学的フラクションから非常に高純度のフォンビルブラント因子濃縮物を調製するためのプロセスであって、それが弱塩基型のビニルポリマー支持体を用いるアニオン交換クロマトグラフィーによる分離を含み、この分離が以下の工程:
a)フォンビルブラント因子の保持を可能にする予め決定された流速で、適切な緩衝液で予め平衡化したフォンビルブラント因子を含むフラクションをクロマトグラフィー支持体にロードする工程;
b)タンパク質及び保持されない混入物が除去されるまで、工程a)の流速より高い流速で、酸性緩衝液を用いてこの支持体を洗浄する工程;
c)工程a)の流速を用いて該緩衝液で該クロマトグラフィー支持体をフラッシング及び平衡化する工程;及び
d)工程c)の緩衝液のイオン強度を増加させることによってフォンビルブラント因子を溶出させる工程、
を含むことを特徴とするプロセスに関する。
【0014】
このようにして、本出願人は、非常に単純なプロセスに起因して、向上された品質、高比活性を有し、そして実質的に第VIII因子を有さないFvW濃縮物を得ること可能であることを見出した。より正確には、本出願人は、ビニルポリマー型のクロマトグラフィーアニオン交換性支持体の賢明な選択、及びこの支持体の洗浄の特定の物理化学的条件(酸性pH、増加した流速)が、唯一の工程での、この支持体上に保持されたFvWの、FvWを含む生物学的フラクション中に存在するタンパク質の残り(特に第VIII因子)及び他の混入物からの分離を可能にしたことを実証することができた。
【0015】
有利には、クロマトグラフィーによる分離は、弱塩基型のアニオン交換基(例えば、DEAE)がグラフト(graft)された、マトリクスがビニルポリマー型のものであり、より好ましくはオリゴエチレングリコールの、グリシジル−メタクリレートの、及びペンタエリスリトールメタクリレートのコポリマーを示す、合成支持体、樹脂またはゲル上で実施される。そのようなビニルポリマーマトリクスは、Fractogel(登録商標)−TSKとして知られており、そして本発明の範囲内にあり、アニオン交換剤支持体は、詳細には、2つの粒度M(中間グレード)及びS(超微細グレード)で入手可能なDEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650であり、これらの使用に対して多数の研究が実施されている。クロマトグラフィー支持体は、通常、所望の用途(分析用または調製用カラム)に適する寸法を有するクロマトグラフィーカラムとして存在する。
【0016】
従って、本出願人は、クロマトグラフィーの間、酸性条件下で沈降する傾向のあるいくつかのタンパク質(例えば、フィブロネクチン及びフィブリノーゲン)の蓄積を防ぐことを可能にし、従って欧州特許第0 383 234号に記載されるように大量の糖を添加することを必要とせずに、支持体の目詰まりを防ぐプロセスを実施するために、この支持体の大きいポアサイズ及び剛性特性を利用した。この効果のために、これらのタンパク質が蓄積しないことは、特に、洗浄フェーズの間、流速を増加させることによって、また、これらの分子量(>300kDa)に関しては、酸性緩衝液のpH条件に達するまでの重要な緩和時間にも起因して、そしてインサイチュでポリマーまたは凝集物を形成させ得るこれらの遭遇の可能性を制限する、出発サンプルにおけるこれらの低含有量にも起因して、可能となっている。
【0017】
本発明の範囲において、フォンビルブラント因子を含有する生物学的フラクションは、ヒト血漿もしくはヒト血漿の寒冷沈降フラクション、またはなおFvWを含有する寒冷沈降した血漿の上清のいずれかであり、または必要に応じて水酸化アルミニウムへの吸着のような前精製処理(ここで、FvWは、第VIII因子と複合体形成する)に供される、古典的分画プロセスを用いて得られ(Cohnら、J. Am. Chem. Soc., 68, 459, 1946,及びKistlerら、Vox. Sang., 7, 1962, 414-424)、または公知の技術に従い細胞培養物の上清から単離された組換え複合体第VIII因子/FvWを豊富に含むフラクションまたは、最後に、米国特許第6 518 482号に記載されるような、トランスジェニック哺乳動物の乳汁において得られる第VIII因子/FvW複合体由来である。特に好ましくは、出発フラクションは、欧州特許第0 359 593号及び同第0 503 991号に記載されるような、DEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650型のアニオン交換剤を用いるクロマトグラフィーによる、血漿の寒冷沈降フラクションの前精製工程によって得られるFvWのフラクションである。この前工程は、目的のタンパク質(例えば、第VIII因子、フィブリノーゲン及びフィブロネクチン)の主要部分を回収する利点をもたらす。
【0018】
平衡緩衝液(工程a)またはc))は、塩化ナトリウムを、好ましくは0.11Mの濃度で含み、そして6.9〜7.1のpHで、クエン酸三ナトリウム、塩化カルシウム、グリシン及びリシン(各成分の濃度は、好ましくは、夫々0.01M、0.001M、0.12M、及び0.016Mである)をさらに含み得る。他の生物学的に適合性の化合物(ただし、これらは、FvWの不可逆的変性を引き起こさない)を含む、塩化ナトリウム系の任意の他の緩衝液も使用され得る。
【0019】
FvWを含むフラクションを、クロマトグラフィー支持体にアプライした後、酸性緩衝液のパーコレーションにより洗浄を実施する(工程b))。酸性緩衝液は、有利には、3.9〜5.2のpHで、10〜30mMの間の範囲の濃度で、酢酸、クエン酸またはリン酸のアルカリまたはアルカリ土類塩を含み、そして好ましくは、約pH4.35の、20mM酢酸ナトリウム緩衝液である。この洗浄工程は、出発生物学的フラクション中に存在する、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、第VIII因子等のようなタンパク質、及び支持体上に保持されないまたは弱く保持される混入物がろ液中へと通過することを可能にする。この工程は、工程a)において用いられる流速を増加させることによって実施される。このようにして、糖(その後除去することが必要となる)の添加を必要とすることなく、沈降する傾向のあるタンパク質及び混入物の蓄積を回避することができる。この洗浄工程の流速は、クロマトグラフィー支持体の物理化学的特性が過剰な値の流速により変化しないことを確保する所望される効果を得るように賢明に選択される。好ましくは、洗浄の流速値は、平衡工程a)より約1.5〜2倍高い値に対応する。洗浄の期間は、280nmの波長でのろ液の光学密度(OD)の測定によって決定される。実際、ベースライン値に対応するOD値は、上述の化合物が支持体から有効に除去され、そしてクロマトグラフィーカラムから出ていることの良好な指標である。
【0020】
ベースラインに戻った後、流速を、工程a)の流速の値まで減少させ、そしてFvWの溶出(工程d))を、イオン強度を増加させた工程a)の緩衝液を用いることによって実施する。このイオン強度の増加は、有利には、塩化ナトリウムの添加によって実施され、この塩化ナトリウムの最終濃度は0.15〜0.17Mに調整される。わずかに疎水性の性質の本発明のビニルポリマーマトリクスを有するクロマトグラフィー支持体の本発明に従う使用は、不純物及び/または付随するタンパク質(例えば、フィブロネクチン)からのFvWの分離を可能にする。驚くべきことに、このプロセスにより得られるFvWは、第VIII因子を含まない。
【0021】
本発明のプロセスは、約4000リットルの容量の血漿に適応させることができる。
【0022】
このプロセスは、精製されるFvWを含有するフラクションのウイルス不活化処理の工程を少なくとも1つ含み得る。従って、このフラクションは、クロマトグラフィー工程(最後の1つは、このデコンタミネーション(decontamination)工程の残留生成物を効率的に排除することができる)の前に、不活化剤(例えば、Tween(登録商標)−TNBP)の存在下での溶媒−界面活性剤による古典的ウイルス不活化処置に供され得る。
【0023】
特に、FvWのフラクションは、一旦回収された後、治療品質の生成物を得ることが意図される種々の処理に供され得る。従って、工程d)の後、このプロセスは、古典的滅菌ろ過、引き続くウイルス排除ろ過(例えば、35nmのフィルターでのナノフィルトレーション)からなる1つ以上のさらなる工程を含み得る。次いで、さらなる薬学的に許容される安定化剤(例えば、アルブミン)を事前に添加した後、FvWのフラクションは、FvWの乾熱処理を変性の危険性を伴うことなく使用することを可能にする適切な賦形剤を組み込むためのダイアフィルトレーション、限外ろ過による濃縮、バイアル中でのコンディショニング及び凍結乾燥に供され得る。最後に、凍結乾燥物は、先の2つのウイルス不活化及び/または排除工程の少なくとも1つを用いて不活化及び/または排除されていない非エンベロープウイルスを不活化するために、古典的条件(80℃、72時間)における凍結乾燥物の乾熱処理による最終的ウイルス不活化工程に供される。次いで、乾熱処理された凍結乾燥物は、臨床使用に適する水性媒体を用いて、好ましくは、10mlの直接静脈注射することができる注射用精製水(PPI)中で再構成される。
【0024】
従って、限外ろ過工程後の、このプロセスの実施は、少なくとも90 IU RCo/mgタンパク質の比活性(S.A.)を示す、高度に精製された治療品質のFvW濃縮物をもたらす。さらに、第VIII因子:C/FvW:RCoを表す比率のRは、0.06%未満である。この結果は、FvW濃縮物が第VIII因子を含まないか、またはこれを有意な量含まないことを示している。
【0025】
本発明のプロセスのトータルの精製度は、血漿の生物学的フラクションを用いる場合、10 000より高い。
【0026】
得られたFvWの最終生成物(すなわち、PPI水を用いて再構成された加熱FvWの凍結乾燥物)は、血漿のものに匹敵する、European PharmacopoeiaのMethod 0275を参照して測定される、マルチマーの含有量(70%の含有量)を示す。TNBP及びTween(登録商標)の残りの含有量も、European Pharmacopoeiaにより示される値に従う。
【0027】
(限外ろ過後の)FvW濃縮物の安定性は、室温で24時間の期間観察された:タンパク質分解はまったく検出されなかった。さらに、FvWの最終凍結乾燥生成物は、30℃で約2年間、及び40℃で6ヶ月の貯蔵期間の間安定であった。それは、ネイティブの血漿中に存在するFvWのものと同様の第VIII因子結合能を示す。
【0028】
本発明はまた、フォンビルブラント因子を含む生物学的フラクションから上記のプロセスによって得ることができる治療使用のためのフォンビルブラント因子濃縮物(ここで、第VIII因子:C/FvW:RCoの比率は、0.06%未満である)に関する。
【0029】
以下の実施例は、本発明を実施する方法を例示するが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1
1)FvW含有フラクションの獲得
7〜7.1のpHを有する、ヘパリンナトリウムの水溶液中に(2U/mlで)懸濁した、ヒト血漿の寒冷沈降物を用いる。
【0031】
この寒冷沈降物の懸濁液を、(例えば、欧州特許第359 593号に記載されるような)主な混入物を除去するために水酸化アルミニウム上での前精製に供する。次いで、この前精製した上清を回収し、そしてTween(登録商標)−TNBPの存在下での溶媒−界面活性剤による古典的ウイルス不活化処理に供する。
【0032】
次いで、前精製した寒冷沈降物の溶液を、クエン酸三ナトリウム0.01M、塩化カルシウム0.001M、塩化ナトリウム0.11M、グリシン0.12M及びリシン0.016Mを含み、pH7.01に調整した緩衝液で予め平衡化した25cmの長さ及び1cmの直径のDEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650(M)クロマトグラフィーカラムに注入する(移動相の線速度は100cm/時間に設定する)。FvW、第VIII因子及びフィブロネクチンは、クロマトグラフィー支持体上に保持される。支持体上に弱く保持されるかまたは保持されないタンパク質(主にフィブリノーゲン及びIgG)は、(そしてTween(登録商標)及びTNBPも)、引き続く同じ緩衝液を用いる数回の洗浄によって、ろ液中に取り出される。
【0033】
280nmで測定されたODがベースライン値まで落ちたら、緩衝液の塩化ナトリウム濃度を0.15Mまで増加させる。FvWは、これらの条件において溶出される。このようにして得られた溶出物は、FvW及びフィブロネクチンを豊富に含み、そしてTween(登録商標)及びTNBP、ならびに残留第VIII因子もなお含有している。
【0034】
2)クロマトグラフィー分離
既に溶出したFvWを豊富に含むフラクション(本発明の出発FvWフラクションのバッチを形成する)を、387mosmolkg−1の浸透圧を有する1)のものと同じ緩衝液で予め平衡化した25cmの長さ及び1cmの直径のDEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650(M)クロマトグラフィーカラムに充填し、線速度を100cm/時間に設定する。12.9 IUのFvW/ml及び6.6 IUの第VIII因子/ml(すなわち、51.1%の比率R(R=FVIII:C/FvW:RCo)を含有する140mlのこのフラクションを注入する。
【0035】
次いで、このカラムを、pH4.35及び80mosmolkg−1に調整した酢酸ナトリウム20mM酸性緩衝液を用いて、150cm/時間の線速度で洗浄する。これらの条件において、ウイルス不活化剤だけでなくフィブロネクチン及び、特に、FvWとなお複合体を形成していた第VIII因子の残留物の非常に高い比率での排除が、カラム中へのこれらのタンパク質の沈降が観察されることなく確保される。ODがベースライン値まで落ちたら、線速度を100cm/時間まで戻し、そしてカラムを、NaCl 0.11Mを含有する上記と同じ緩衝液を用いてフラッシング及び平衡化する。
【0036】
FvWを含有するフラクションを、6.95のpH及び492mosmolkg−1に調整した、平衡緩衝液のNaCl濃度を0.17Mまで増加させることによって溶出させる。
【0037】
溶出したFvWフラクションを、FvW濃縮物が少なくとも90 IU RCo/mgタンパク質の比活性(S.A.)を示すような様式で、0.22μmのフィルターでの滅菌ろ過、35nmのフィルターでのナノフィルトレーション、フランス国特許出願第03 08403号において本出願人により記載されているようなアルギニン、少なくとも1つの疎水性アミノ酸及びクエン酸三ナトリウムを含有する溶液に対するダイアフィルトレーション、及び公知の技術に従う限外ろ過からなる古典的処理に供する。
【0038】
10g/lのアルブミンをこのようにして得られたFvW濃縮物に添加し、次いで濃縮物を−40℃で48時間凍結乾燥させる。凍結乾燥に続いて、80℃72時間での凍結乾燥物の乾熱処理によるウイルス不活化の加熱処理を行う。
【0039】
比活性、種々のタンパク質混入物の(特に第VIII因子の)残留含有量によって、得られたFvW濃縮物の品質について本発明のプロセスのパフォーマンスを比較するために、欧州特許第0 503 991号中に記載されているプロセス(プロセスAと示す)を用いることによって得られるFvW濃縮物を用いることによって比較を実施した。
【0040】
この特許に従うプロセスの実施は:
−1)に記載される第一のクロマトグラフィー分離から得られるFvWフラクションのバッチを、1)に記載されるような条件で実施される(同じ緩衝液、同じ線速度)DEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650(M)を含有する25cmの長さ及び1cmの直径の第二のクロマトグラフィーカラムに通す工程;
−ろ液の除去及び平衡緩衝液を用いたカラムのフラッシング工程;
−平衡緩衝液のNaCl濃度を0.17Mまで増加させることによるFvWの溶出工程;
−FvW溶出物をカラム上でのさらなる精製工程に供する工程(ここで、クロマトグラフィー支持体は、残留フィブロネクチンを除去することが意図された、平衡緩衝液で平衡化されたアガロースタイプに固定化されたゼラチンのものである)、
からなる上記工程を含む。
【0041】
この最後のクロマトグラフィー工程の溶出物を、その後、滅菌ろ過、ウイルス排除ろ過、ダイアフィルトレーション、限外ろ過、アルブミンの添加、凍結乾燥及び乾熱処理からなる同じ処理に供する。
【0042】
表1中に、本発明及びAに従うプロセスの種々の段階(すなわち、全てのクロマトグラフィー、限外ろ過、凍結乾燥、乾熱処理(80℃、72時間)、及び10mlの注射用精製水(PPI)を用いる再構成の後)での、IU RCo/mgタンパク質により表されるFvWフラクションの調製物の収率の結果をまとめる。出発FvWフラクションの凍結乾燥物を、限外ろ過及び乾熱処理、引き続く10mlのPPI水での再構成による同じ処理に供する。
【0043】
これらの収率を、以下の比率で表す:
【0044】
【数1】

【0045】
FvW濃縮物に対して測定されたS.A.(IU RCo/mg)及び残留フィブロネクチンの対応する含有量(TFR)も示す。
【0046】
示した値は、6アッセイの平均値である。
【0047】
表1
【0048】
【表1】

【0049】
両方のプロセスは、同等であり、そして両方の場合において十分な収率及び高いS.A.を有するFvW濃縮物をもたらす。
【0050】
表2は、本発明に従って(生成物I)、そしてAに従って(生成物II)得られる、乾熱処理し、そして10mlのPPI水で再構成したFvW凍結乾燥物中の残留タンパク質及び化学混入物の割合を評価するための種々のアッセイの結果を示す。示される値は、6アッセイの平均値を表す。
【0051】
表2
【0052】
【表2】

【0053】
プロセスAに従い得られる濃縮物と本発明に従い得られるものとの間には、比率R(FVIII:C/FvW:RCo)に関して非常に大きな差が存在する。実際、本発明に従い得られる濃縮物は、測定可能なFVIII:Cをほぼ含有しない。
【0054】
表3は、同じバッチの出発FvWフラクションから得られ、2つの同じFvWのフラクションに分けられ、これらのうちの一方が本発明のプロセスに供され、そして他方のフラクションがAに従うプロセスに供されたものの、収率、比活性及び残留フィブロネクチンの含有量を示す。これらの収率は、表1の結果について記載される条件に従い、これらのプロセスの種々の段階で測定される。得られた値は、6アッセイの平均値である。
【0055】
表3
【0056】
【表3】

【0057】
表3における結果は、本発明のプロセスに従い得られるFvWの最終生成物の品質が、Aに従うプロセスにより得られるものと少なくとも等しいこと、及びこれらの収率が同等であることを明確に示している。
【0058】
表4は、本発明のプロセスに従い(生成物III)、及びプロセスAに従い(生成物IV)得られる、凍結乾燥及び乾熱処理され、そして10mlのPPI水で再構成されたFvWフラクション中に存在する種々のタンパク質の含有量を示す。示される値は、3アッセイの平均値である。
【0059】
表4
【0060】
【表4】

【0061】
表4における結果は、本発明のFvWフラクションが、プロセスAを用いることによって達成されるものより非常に低いFVIII及び免疫グロブリンMの含有量を示すことを示す。他方、それは、より多い量のインター−α−トリプシンインヒビター(ITI)を含有するが、しかし、それは、測定可能な含有量のFVIIIのパラメータとは異なり、FvW濃縮物の治療特性に有害ではない。
【0062】
実施例2
実施例1、1)に記載される処理に供された寒冷沈降物から得られる、FvWを含有する種々のフラクションが使用される。これらのFvWフラクションを、これらが約30%〜約120%にわたる種々の量の初期の比率R(FVIII:C/FvW:RCo)を含有するような様式で調整する。
【0063】
これらのフラクションを、その後、本発明に従う、及びプロセスAに従うクロマトグラフィー分離に供し、そして実施例1、2)において記載される条件に従う、乾熱処理し、PPI水で再構成した凍結乾燥物をもたらす種々の処理に供する。
【0064】
収率の結果を表5に示す。
【0065】
表5
【0066】
【表5】

【0067】
従って、本発明のプロセスの実施は、FVIIIのほぼ完全な排除を導き、一方で増加した生成収率をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォンビルブラント因子を含有する生物学的フラクションから、非常に高純度のフォンビルブラント因子濃縮物を調製するためのプロセスであって、それが弱塩基型のビニルポリマー支持体を用いるアニオン交換クロマトグラフィーによる分離を含み、該分離が以下の工程:
a)フォンビルブラント因子の保持を可能にする、予め決定された流速で、適切な緩衝液で予め平衡化させたクロマトグラフィー支持体に、フォンビルブラント因子を含有するフラクションをロードする工程;
b)該タンパク質及び保持されていない混入物が除去されるまで、工程a)の流速より高い流速で、酸性緩衝液を用いて、該支持体を洗浄する工程;
c)工程a)の流速を用いて該緩衝液で該クロマトグラフィー支持体をフラッシング及び平衡化する工程;及び
d)工程c)の緩衝液のイオン強度を増加させることによるフォンビルブラント因子を溶出する工程、
を含むことにより特徴付けられる、プロセス。
【請求項2】
前記クロマトグラフィー分離が、DEAEのアニオン交換基でグラフトされた(grafted)ビニルポリマー型の支持体で実施されることにより特徴付けられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記クロマトグラフィー支持体がDEAE−Fractogel(登録商標)−TSK 650であることにより特徴付けられる、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
工程a)またはc)の前記平衡緩衝液が塩化ナトリウムから構成されることにより特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
塩化ナトリウム濃度が0.11Mであることにより特徴付けられる、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記平衡緩衝液が、6.9〜7.1のpHで、クエン酸三ナトリウム、塩化カルシウム、グリシン及びリシンをさらに含むことにより特徴付けられる、請求項4または5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記平衡緩衝液成分の濃度が、夫々、0.01M、0.001M、0.12M及び0.016Mであることにより特徴付けられる、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記酸性洗浄緩衝液が、10〜30mMの範囲の濃度を有し、かつ3.5〜5.2のpHを有する、酢酸、クエン酸またはリン酸のアルカリまたはアルカリ土類塩から構成されれることにより特徴付けられる、請求項1〜7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酸性洗浄緩衝液が4.35のpHを有する20mM酢酸ナトリウム緩衝液であることにより特徴付けられる、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記洗浄工程b)の流速が、前記平衡工程a)の流速より約1.5〜2倍高い値に対応することにより特徴付けられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記工程d)において、塩化ナトリウムを添加することによって、前記工程c)の緩衝液のイオン強度が増加し、該塩化ナトリウムの最終濃度が0.15〜0.17Mに調整されることにより特徴付けられる、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
溶媒−界面活性剤による生物学的フラクションのウイルス不活化処理の工程を含むことにより特徴付けられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記溶出工程d)の後に、
−滅菌ろ過、
−ウイルス排除ろ過、
−ダイアフィルトレーション、
−濃縮限外ろ過、
−薬学的に許容される安定化剤の添加、
−凍結乾燥、
−乾熱処理によるウイルスの不活化、及び
−臨床使用に適する水性媒体を用いる、該加熱した凍結乾燥物の再構成、
からなる1つ以上のさらなる工程を含むことにより特徴付けられる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
フォンビルブラント因子を含有する生物学的フラクションから、請求項1〜13のいずれか一項に記載のプロセスにより得ることができる治療使用のためのフォンビルブラント因子濃縮物であって、ここで、第VIII因子:C/FvW:RCoの比率が0.06%未満である、フォンビルブラント因子濃縮物。

【公開番号】特開2006−58298(P2006−58298A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−234830(P2005−234830)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(500280870)ラボラトワール、フランセ、デュ、フラクショヌマン、エ、デ、ビオテクノロジ (12)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE FRANCAIS DU FRACTIONNEMENT ET DES BIOTECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】