説明

クロマトグラフ測定方法、並びにそれに用いる不溶性担体および測定装置

【課題】クロマトグラフ測定方法において、測定制度の向上を可能とする。
【解決手段】クロマトグラフ測定方法において、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有する標識物質を用い、検出部Tと検出部Tの周囲とを含む不溶性担体21の検査部位21aに、標識物質に吸光される紫外光Lを照射し、紫外光Lの照射に起因して検査部位21aから生じる光Lfを検出し、標識物質の吸光特性に起因して生じる、この光に関する検査部位の暗部により、被験物質の有無および/または量の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ法を利用したアッセイ用デバイスの測定を行うクロマトグラフ測定方法、並びにそれに用いる不溶性担体および測定装置、特に、被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部の呈色状態を測定して、被験物質の有無および/または量を測定するクロマトグラフ測定方法、並びにそれに用いる不溶性担体および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被験物質を含有する可能性のある試料(検体溶液)を不溶性担体に送液し、免疫学的測定等のアッセイ法を用いて、この被験物質の有無および/または量について簡便かつ迅速に測定するクロマトグラフ測定方法が開発されている。また、これに伴い、上記測定方法に用いられるデバイスも数多く開発されており、体外診断薬や毒物等の測定のための各種デバイスが市販されている。このようなデバイスの一例として、イムノクロマトグラフ法を利用したものが挙げられる。イムノクロマトグラフ法を利用したデバイスを用いた場合には、被験物質の測定を行うにあたり重厚な設備および機器を必要としないため操作が簡便であり、検体溶液を不溶性担体上に滴下した後、早いものであれば約5〜10分間静置するだけで測定結果が得られる。そのため、免疫学的測定等のアッセイ法を用いた測定方法は、簡便かつ迅速な特異性の高い測定方法として、多くの場面、例えば病院における臨床検査あるいは研究室における検定試験等で広く使われている。
【0003】
一方、医院や診療所あるいは在宅医療等の診療現場においては、臨床検査の専門家によらず簡便に測定を行うPOCT(Point of Care Testing)診療向けの測定装置として、イムノクロマトグラフ測定装置(イムノクロマトリーダー)が使用されている。このイムノクロマトグラフ測定装置は、装填されたデバイスのライン状の検出部における試薬の呈色状態を高感度に測定して、目視判定困難な呈色状態においても高感度かつ信頼性の高い測定を行うことを可能とする。
【0004】
例えば特許文献1には、デバイスの試薬の呈色状態を目視により判定した場合における再現性の低下を改善するために、呈色状態をイメージセンサで撮像して、イメージセンサの各画素の明度に対応した階調画像を取得し、この階調画像に基づいて検出部の呈色の程度を算出し、測定結果の判定を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3541232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなイムノクロマトグラフ測定においては、不溶性担体上における標識そのものの発光特性を測定する際に、例えばニトロセルロース等のポリマー膜からなる不溶性担体の自家蛍光がノイズとなってしまい、測定精度が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、クロマトグラフ測定方法において測定制度の向上を可能とするクロマトグラフ測定方法、並びにそれに用いる不溶性担体および測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るクロマトグラフ測定方法は、
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有する不溶性担体に、被験物質を含む可能性のある検体溶液を展開して、検体溶液を検出部に接触せしめ、上記特異的結合性を示す物質を介して検出部に固定された被験物質の有無および/または量の測定を行うクロマトグラフ測定方法において、
検体溶液を検出部に接触せしめるとともに、紫外光の波長帯域に吸光特性を有する標識物質を検出部に接触せしめ、
検出部と検出部の周囲とを含む不溶性担体の検査部位に、上記標識物質に吸光される紫外光を照射し、
この紫外光の照射に起因して検査部位から生じる光を検出し、
標識物質の吸光特性に起因して生じる、検査部位から生じる光に関する検査部位の暗部により被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするものである。
【0009】
本明細書において、「被験物質に対する特異的結合性を示す物質」とは、例えば抗原に対する抗体やタンパク質に対する補因子等、被験物質を特異的に認識し結合する物質を意味する。
【0010】
「被験物質の有無の判定および/またはその量の測定を行う」とは、被験物質の存在の有無を定性的に判定すること、被験物質の存在の量を定量的に測定すること、または被験物質の活性の程度を測定することを意味する。
【0011】
「紫外光の波長帯域に吸光特性を有する」とは、紫外光の波長帯域の少なくとも一部の帯域に吸光特性を有することを意味する。
【0012】
「検体溶液を検出部に接触せしめるとともに」標識物質を検出部に接触せしめとは、不溶性担体における検査部位と検体溶液が滴下される部分との間に乾燥配置された標識物質を、検体溶液の展開の際にこの検体溶液中に溶解せしめて、検体溶液と共に接触せしめるような場合、または検体溶液を検出部に接触せしめた後に別途標識物質を含有する溶液を検査部位に供給するような場合を含む意味である。
【0013】
「標識物質を検出部に接触せしめ」とは、標識物質そのものを検出部(検査部位)に供給し接触せしめること、または金属イオン含有化合物を不溶性担体に供給し、この金属イオンを還元することにより上記標識物質として金属微粒子を生成せしめ、この金属微粒子を検出部(検査部位)に接触せしめることを含む意味である。
【0014】
「検査部位」とは、検出部とこの検出部の周囲とを含むような不溶性担体の所定部分であって、検出部の呈色状態とその周囲の呈色状態とを対比しうる程度に領域を選択された所定部分を意味する。検査部位は、検出部のすべてを含む必要はなく、検出部の一部を含むように選択されてもよい。また、検査部位は、検出部とその周囲とが連続した1つの領域となるように選択される必要はなく、少なくとも一部の検出部を含むような第1の領域と、この第1の領域とは連続しない領域であって検出部の周囲を含む第2の領域とからなるように選択されてもよい。
【0015】
「検査部位から生じる光」とは、検査部位における紫外光の反射光および散乱光、並びに、検査部位からの自家蛍光および不溶性担体の蛍光化処理によって付加された蛍光物質からの蛍光を含む意味である。
【0016】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定方法において、検査部位から生じる光として、紫外光に励起されて検査部位から生じる蛍光を検出することができる。
【0017】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定方法において、不溶性担体として、紫外光に励起されて蛍光を発するように蛍光化処理が施されたものを用いることが好ましい。この場合、蛍光化処理は、照射された紫外光に対して陰となる検査部位の部分に、紫外光に励起され蛍光を発する蛍光層を形成するものとすることができる。
【0018】
本明細書において、「蛍光化処理」とは、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光機構を不溶性担体に設けることを意味する。
【0019】
「照射された紫外光に対して陰となる検査部位の部分」とは、不溶性担体の立体的形状に起因して、紫外光が不溶性担体中を透過しおよび散乱することなく照射される部分以外の検査部位の部分(不溶性担体の内部を含む)を意味する。例えば、板状の不溶性担体の一方の面に紫外光が照射された場合には、当該陰となる部分として他方の面が挙げられ、円柱状の不溶性担体のある方向から側面に紫外光が照射された場合には、当該陰となる部分として反対側の側面が挙げられる。
【0020】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ測定方法において、蛍光を透過せしめかつ紫外光を遮断するフィルタを通して、蛍光を検出することが好ましく、標識物質として銀微粒子を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に係るクロマトグラフ用不溶性担体は、
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有する不溶性担体であって、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光機構が設けられたものであることを特徴とするものである。
【0022】
さらに、本発明に係るクロマトグラフ用不溶性担体において、蛍光機構は、検出部とこの検出部の周囲とを含む不溶性担体の検査部位の部分であって、照射された紫外光に対して陰となる部分に形成された、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光層であることが好ましい。
【0023】
本発明に係るクロマトグラフ用不溶性担体において、検体溶液を滴下する滴下部と、この滴下部と検査部位との間に乾燥配置された標識物質とを備えたものであることが好ましい。
【0024】
本発明の係るクロマトグラフ測定装置は、
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有し、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光機構が検出部とこの検出部の周囲とを含む検査部位に設けられた不溶性担体と、
検査部位に、紫外光の波長帯域に吸光特性を有する標識物質を接触せしめる標識接触手段と、
標識物質に吸光される紫外光を出射する光源を備え、検査部位に紫外光を照射する照射手段と、
光検出器を備え、上記紫外光に励起されて検査部位から生じる蛍光を光検出器によって検出する検出手段と、
標識物質の吸光特性に起因して生じる、検出手段に検出された蛍光に関する検査部位の暗部により、被験物質の有無および/または量の測定を行う測定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0025】
本発明に係るクロマトグラフ測定装置において、蛍光機構は、照射された紫外光に対して陰となる検査部位の部分に形成された、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光の波長帯域に吸光特性を有する標識物質を検出部に接触せしめ、その後検査部位に上記標識物質に吸光される紫外光を照射し、この紫外光の照射に起因して検査部位から生じる光を検出し、上記吸光特性に起因して生じる、この光に関する検査部位の暗部により、被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするものである。この結果、クロマトグラフ測定方法において、紫外光が吸光標識に吸収されるため測定精度の向上が可能となる。
【0027】
また、本発明に係るクロマトグラフ用不溶性担体およびクロマトグラフ測定装置は、不溶性担体に、紫外光に励起され蛍光を発する蛍光機構が設けられているから、クロマトグラフ測定方法において検出対象を蛍光とした場合に、蛍光をより効率的に生じせしめることができ、さらなる測定精度の向上を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法を行うための測定装置の一例を示す概略図である。
【図2A】クロマトグラフ測定方法に用いるクロマトグラフデバイスの外観を示す概略上面図である。
【図2B】クロマトグラフ測定方法に用いるクロマトグラフデバイスの外観を示す概略底面図である。
【図2C】図2AのI−I線における概略切断部端面図である。
【図3】第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法に用いる不溶性担体の概略断面図である。
【図4】第2の実施形態のクロマトグラフ測定方法に用いる不溶性担体の概略断面図である。
【図5】第3の実施形態のクロマトグラフ測定方法を行うための測定装置を示す概略斜視図である。
【図6】図5のII−II線におけるクロマトグラフ測定装置の内部を示す概略切断部端面図である。
【図7A】実施例で得られた階調画像を示す図である。
【図7B】比較例で得られた階調画像を示す図である。
【図8A】実施例で得られた階調画像中の検査部位(領域X)について、不溶性担体の長さ方向に垂直な方向の画素値を平均化し、この平均値を不溶性担体の長さ方向に1次元的に配列した明度のグラフを示す図である。
【図8B】比較例で得られた階調画像中の検査部位(領域Y)について、不溶性担体の長さ方向に垂直な方向の画素値を平均化し、この平均値を不溶性担体の長さ方向に1次元的に配列した明度のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0030】
<クロマトグラフ測定方法の第1の実施形態>
第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法について説明する。なお、本実施形態においては、被験物質を抗原、この被験物質に対する特異的結合性を示す物質を抗体として、紫外光を吸光する標識物質(吸光標識)を用いたサンドイッチ法によって抗原の有無および/または量を測定する場合を例として説明する。
【0031】
本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、図1に示すような、不溶性担体21を備えたクロマトグラフデバイス20を含むクロマトグラフ測定装置1を用いて実施される。
【0032】
より具体的には、本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、抗原に対する特異的結合性を示す抗体が固定されたライン状の検出部Tを有する不溶性担体21に、上記抗原を含む可能性のある検体溶液を滴下し、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有しかつ不溶性担体21に乾燥配置された吸光標識を検体溶液中に溶解しながら、不溶性担体21に検体溶液を展開して、検体溶液を検出部Tに接触せしめるとともに、吸光標識を検出部Tに接触せしめて、検出部Tに抗体−抗原−吸光標識のサンドイッチ構造を形成せしめ、検出部Tとこの検出部Tの周囲とを含む不溶性担体21の検査部位21aの一方の面に、吸光標識に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lに励起されて検査部位21aから生じる不溶性担体21の自家蛍光Lfを、他方の面側からフィルタ16を通して検出し、吸光標識の吸光特性に起因して検出部Tと上記周囲との間に生じる上記自家蛍光Lfのコントラストを測定し、このコントラストにより抗原の有無および/または量の測定を行うものである。
【0033】
図1に示す測定装置1は、具体的には、不溶性担体21を備えたクロマトグラフデバイス20と、デバイスを設置する透明な設置台18と、設置されたデバイス20中の不溶性担体21の検査部位21aに紫外光Lを照射する光源10と、検査部位21aから生じる蛍光Lfを透過せしめかつ照射された紫外光Lを遮断するフィルタ16と、上記デバイス20に関して光源10がある側とは反対側に配置された光検出器12と、標識物質の吸光特性に起因して検出部Tとその周囲との間に生じる蛍光Lfのコントラストを測定し、このコントラストにより被験物質の有無および/または量の測定を行う測定手段14とを備えるものである。
【0034】
(クロマトグラフデバイス)
クロマトグラフデバイス20は、例えば不溶性担体21とこの不溶性担体21を収容するデバイス筐体22とからなるものである。図2Aおよび図2Bはそれぞれデバイスの外観を示す概略上面図および概略底面図、図2Cは図2AのI−I線における概略断面図である。
【0035】
クロマトグラフデバイス20のデバイス筐体22は、図2A、図2Bおよび図2Cに示すように、検体溶液等の試料を不溶性担体21に滴下するための注入口23と、デバイス筺体中の不溶性担体21の検査部位21aに紫外光Lを照射可能となるように開口された照射窓24aと、デバイス筺体外部から検査部位21aを観察可能となるように開口された観察窓24bとを備えており、デバイス筐体22の表面には情報表示部25が設けられている。
【0036】
不溶性担体21は、図3に示すように、検体溶液等の試料を展開する方向(矢印A方向)に向かって、試料を滴下する部分である試料添加パッド81、抗原に対する特異的結合性を示す吸光標識が固定された標識物質保持パッド82、抗原に対する特異的結合性を示す抗体が固定されたライン状の検出部T(テストライン)を有するクロマトグラフ担体83、送液された試料を吸収する吸収パッド84、およびこれら全体を支持する透明シート85を有している。本実施形態の検査部位21aには、1つのテストラインTを設けているが、テストラインTの数はこれに限定されず、2つ以上でもよい。テストラインTを複数にし、それぞれ異なる抗原を固定するようにすれば、検体溶液に複数の抗原が含まれる場合に、効率よく一度に複数の抗原の有無および/または量を測定することが可能となる。不溶性担体21の材料は、多孔性であることが好ましく、例えば、ニトロセルロース膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく挙げられる。ただし、本実施形態においては、検査部位21aから生じる自家蛍光Lfのコントラストを測定するため、少なくともテストラインTを形成するクロマトグラフ担体83は、自家蛍光を発する材料から選択される。なお、検出部の形状はライン状に限られるものではなく、不溶性担体自体の形状も図3に示すような板状に限られるものではない。
【0037】
クロマトグラフ担体83には、所望により測定の終了時を判断するためのコントロールラインが作製される。抗体は、抗体をクロマトグラフ担体83の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させてもよいし、抗体をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子をクロマトグラフ担体83の一部にトラップさせて固定化させてもよい。
【0038】
標識物質保持パッド82は、前述の吸光標識を含む懸濁液を調製し、その懸濁液を適当なパッド(例えば、グラスファイバーパッド)に塗布した後、それを乾燥することにより調製したものである。これにより、不溶性担体21に検体溶液が注入された場合、吸光標識が抗原と共に展開されながら当該抗原に結合して、検査部位21aまで流される。
【0039】
試料添加パッド81は試料(検体溶液等)を点着する部分であって、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねる部分である。なお、測定の際、検体溶液中の抗原が試料添加部の材料に非特異的に吸着し、測定の精度を低下させることを防止するため、試料添加パッド81は予め非特異的吸着防止処理されて用いられることもある。
【0040】
吸収パッド84は、添加された試料がクロマト移動により物理的に吸収されると共に、クロマトグラフ担体83のテストラインTに不溶化されない未反応物質等を吸収除去する部位である。添加された試料のクロマト先端部が吸収パッド84に届いてからのクロマトの速度は、吸収パッド84の吸収材の材質、大きさなどにより異なるので、その選定により抗原の測定に合った速度を設定することができる。
【0041】
情報表示部25は、手書きまたはシール添付等により検査に関する情報が表示されている。検査に関する情報とは例えば、被験物質を採取した患者に関する情報(氏名、年齢および性別等)および検査に使用される試料・試薬に関する情報(検査対象となる被験物質、洗浄液、増幅溶液等の名称、および使用する不溶性担体21や施した蛍光化処理の種類等)等が挙げられる。
【0042】
(照射手段)
本実施形態の光源10は、本発明の吸光標識に吸光される紫外光Lを出射する照射手段を構成するものであり、UVランプや半導体レーザ(LD)等を用いることができる。光源10は、吸光標識に合わせて紫外光Lの波長を変えることができる可変型のものが好ましい。紫外光Lの波長は、特に限定されないが、吸光標識の吸光特性、不溶性担体21が自家蛍光Lfを励起されること等の観点から決定され、その中心波長が100〜400nmであることが好ましい。特に吸光標識として後述する銀微粒子を用いる場合には、銀微粒子の吸光度を考慮し、中心波長は300〜400nmが好ましい。紫外光Lの波長は、例えば波長制御手段が別途設けられて、例えば予め設定された値に従って決定され、指定された吸光標識情報に基づいて決定され、または実際の測定時にまずキャリブレーションを行い、最適値を算出してから決定される。紫外光Lの波長分布のピークは必ずしも1つである必要はなく2つ以上でもよい。
【0043】
また、紫外光には殺菌効果があるため、検体溶液等がクロマトグラフデバイス20に余分に付着したものを殺菌して使用者の安全を確保できる効果も期待できる。殺菌には260nmが一番効果的であるとされている。したがって、吸光標識に吸収される波長と殺菌効果を有する260nmの2つのピークを有する紫外光Lを用いてもよい。紫外光Lは、上記デバイス筐体22の照射窓24aから、不溶性担体21のテストラインTを含む所定の領域であって少なくとも後述する検査部位21aよりも広い領域に照射される。また、レンズ、ミラーおよびフィルタ等の光学系を光源10と組み合わせて用いることもできる。
【0044】
(検出手段)
本実施形態の光検出器12およびフィルタ16は、不溶性担体21の検査部位21aから生じる蛍光Lfを検出する本発明の検出手段を構成するものである。蛍光Lfは、蛍光Lfに対して透明な設置台18を通って検出される。光検出器12は、1次元アレイ型でも2次元アレイ型でもよい。1次元アレイ型の光検出器12を用いる場合には、テストラインTに対して直角方向にアレイが配列するように配置する。光検出器12としては、CCD、PD(フォトダイオード)、フォトマルチプライア、c−MOS等を適宜用いることができる。特に検出感度の観点から、冷却CCDを用いることが好ましい。本実施形態では、光検出器12は、検出した蛍光Lfの光強度の情報を画素毎に電気信号に変換し、コントラストを測定する測定手段14にこの電気信号を送信する。また、検出条件に応じて光学フィルタや分光器等の分光手段が用いられる。本実施形態では、検査部位21aから生じる蛍光Lfを透過せしめかつ照射された紫外光Lを遮断するフィルタ16を通して蛍光Lfを検出することにより、ノイズとなる紫外光Lを除去でき、よりコントラストを向上することが可能となる。好しい光源および光検出器として、例えば富士フイルム株式会社製 LAS-3000(商品名)を挙げることができる。
【0045】
(測定手段)
測定手段14は、光検出器12によって送信された電気信号を受信し、この電気信号に基づいて例えば1次元アレイ型の電気信号に対応した蛍光Lfの強度グラフや2次元アレイ型の電気信号に対応した蛍光Lfの階調画像を生成する。その後、測定手段14は、例えば強度グラフまたは階調画像からテストラインTとこのテストラインTの周囲とを含む領域を選択して検査部位21aを抽出し、この検査部位21aから標識物質の吸光特性に起因してテストラインTとその周囲との間に生じる蛍光Lfのコントラストを測定する。検査部位21aの抽出における領域の選択は、測定手段14が自動で行ってもよいし、測定者がユーザインタフェースを介して選択できるようにしてもよい。
【0046】
本発明では、紫外光Lを吸収する吸光標識を用いているため、この吸光標識に紫外光Lが吸収され、吸光標識が固定されているテストラインTでは紫外光Lが不溶性担体21の自家蛍光の励起に寄与しなくなる。この結果、検体溶液中に抗原が存在する場合には、テストラインTから自家蛍光が検出されないため、テストラインTが検査部位21a中に暗線として現れるとともに測定精度が向上する。測定精度の向上は、詳細なメカニズムは不明であるが、紫外光Lを照射した場合に検査部位から生じる光(紫外光の反射光や散乱光、および、メンブレンまたは蛍光化処理により設けられた蛍光機構からの蛍光)が生じる一方で、吸光標識の吸収特性により特に検出部Tにおいて透過する紫外光Lが減少するのに伴い、発生する当該検査部位から生じる光が減少すること、さらに検出対象が蛍光である場合には、検出部Tにおいて紫外光Lが蛍光Lfに変換されたとしても標識物質の存在により散乱や吸収が起こること等が起因していると考えられる。
【0047】
2次元アレイ型の光検出器12で蛍光Lfを検出した場合、この階調画像は1次元アレイ型で検出した階調画像が2次元方向に複数集まったものと考えることができる。よってテストラインTの長さ方向に並ぶ画素同士の平均値をとり1次元の階調画像に変換することにより後の処理を簡素化することもできる。これにより、呈色にむらがあった場合や、テストライン面にゴミや傷があった場合においては、その影響を1次元型の光検出器で検出した場合に比べ軽減することができる。
【0048】
(検体溶液)
測定することのできる検体溶液としては、被験物質(抗原の他、天然物、毒素、ホルモンまたは農薬等の生理活性物質あるいは環境汚染物質等)を含む可能性のあるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料、特には動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、又は喀痰)、排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、粘膜や皮膚、それらを含むと考えられる搾過検体(スワブ)若しくはうがい液、又は動植物それ自体若しくはそれらの乾燥体を後述の希釈液で希釈したもの等を挙げることができる。
【0049】
上記検体溶液はそのままで、あるいは、検体溶液を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、さらには、この抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で用いることができる。
【0050】
(吸光標識)
本発明において標識物質は、紫外光Lの波長帯域に吸収特性を有する物質(吸光標識)である。この吸収特性は、紫外光Lの波長帯域全域に渡ってある必要はなく、紫外光Lの波長帯域の一部において吸光特性があれば足りる。このような吸光標識の材料としては特に制限されるものではないが、紫外光Lに対する高い吸収係数を有することから銀微粒子を含有していることが好ましい。例えば吸光標識が銀微粒子である場合には、銀微粒子のテストラインTへの固定方法は、抗原に対する第2の抗体(上記テストラインTに固定された第1の抗体とはエピトープが異なるものである。)で銀微粒子の表面を修飾し、これにより形成される銀微粒子と第2の抗体との複合体をサンドイッチ法によってテストラインTに固定する方法、もしくは抗原に対する第2の抗体で金属微粒子の表面を修飾し、これにより形成される金属微粒子と第2の抗体との複合体をサンドイッチ法によってテストラインTに固定した後、銀イオン含有化合物を検査部位21aに供給し、この金属微粒子を触媒とした銀イオンの還元反応により、金属微粒子への銀の沈着によって銀微粒子をテストラインTに固定する方法等が挙げられる。上記銀微粒子の固定方法のうち前者は、サンドイッチ法における通常の標識物質として銀微粒子をテストラインTに固定する方法に相当し、後者はテストラインTに固定された金属微粒子を触媒として銀イオンの還元反応を利用したシグナル増幅(銀増感)を行う場合に相当する。後者については、後述するクロマトグラフ測定方法の第3の実施形態において詳細に記載する。
【0051】
例えば、吸光標識が銀微粒子である場合には、その粒径は紫外光Lの吸光係数の観点から適宜設定することができる。
【0052】
(被験物質に対して特異的結合性を示す物質)
本実施形態においては、被験物質に対して特異的結合性を示す物質(特異的結合物質)は、抗原に対する抗体であるが、このような特異的結合物質としてはこれに限られない。つまり、被験物質が特異的結合性を示す対の物質の一方である場合に、特異的結合物質としては他方の物質を選択すればよい。例えば、被験物質がたんぱく質、金属イオンまたは低分子量有機化合物である場合にはこれらに対するアプタマー、被験物質がDNAやRNAなど核酸である場合にはこれらに対して相補的な配列を持つDNAやRNA等の核酸分子、被験物質がアビジンである場合にはビオチン、被験物質が特定のペプチドの場合にはこれに特異的に結合する錯体、等を挙げることができる。また、上記した例では特異的結合物質と被験物質との関係を入れ替えることもでき、例えば被験物質が抗体である場合には当該抗体に対する抗原を、特異的結合物質として用いることもできる。さらに、上記のような被験物質に対して親和性を持つ物質を一部に含有する化合物等を特異的結合物質として用いることもできる。
【0053】
上記抗体としては具体的に、その被験物質によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、その被験物質によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]を用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有する標識物質を検出部Tに接触せしめ、その後検査部位21aに上記標識物質に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lの照射に起因して検査部位21aから生じる光を検出し、上記吸光特性に起因して生じる、この光に関する検査部位の暗部により、被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするものである。この結果、クロマトグラフ測定方法において、紫外光が吸光標識に吸収されるため測定制度の向上が可能となる。
【0055】
さらに、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、低蛍光化処理を施した不溶性担体を必要としないため測定を低コストに行うことが可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光の殺菌効果によって、検体溶液等がクロマトグラフデバイス20に余分に付着したものを殺菌して使用者の安全を確保することが可能となる。
【0057】
<第1の実施形態の設計変更>
上記第1の実施形態では、検査部位から生じる光として蛍光を検出するようにしたが、本発明はこの形態に限られるものではなく、検査部位における紫外光の反射光や散乱光を検出するようにしてもよい。なお、紫外光の反射光や散乱光を検出する場合には、紫外波長域を除去するフィルタは不要である。
【0058】
<クロマトグラフ測定方法の第2の実施形態>
第2の実施形態のクロマトグラフ測定方法について説明する。なお、本実施形態においても、被験物質を抗原、この被験物質に対する特異的結合性を示す物質を抗体として、紫外光を吸光する標識物質(吸光標識)を用いたサンドイッチ法によって抗原の有無および/または量を測定する場合を例として説明する。本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法とほぼ同様の構成であるが、不溶性担体として検査部位に蛍光化処理が施されているものを用いる点で第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法と異なる。したがって、その他の第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0059】
本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、蛍光化処理が施された不溶性担体28(図4)を備えたクロマトグラフデバイス20を含むクロマトグラフ測定装置を用いて実施される。不溶性担体28には、蛍光化処理により、紫外光Lに励起されて蛍光Lfを発する蛍光機構が設けられている。
【0060】
より具体的には、本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、抗原に対する特異的結合性を示す抗体が固定されたライン状の検出部Tを有する不溶性担体28に、上記抗原を含む可能性のある検体溶液を滴下し、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有しかつ不溶性担体28に乾燥配置された吸光標識を検体溶液中に溶解しながら、不溶性担体28に検体溶液を展開して、検体溶液を検出部Tに接触せしめるとともに、吸光標識を検出部Tに接触せしめて、検出部Tに抗体−抗原−吸光標識のサンドイッチ構造を形成せしめ、検出部Tとこの検出部Tの周囲とを含む不溶性担体28の検査部位の一方の面に、吸光標識に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lに励起されて検査部位の他方の面から生じる、不溶性担体28の自家蛍光Lfおよび/または不溶性担体28に設けられた蛍光機構からの蛍光Lfを、フィルタ16を通して検出し、吸光標識の吸光特性に起因して検出部Tと上記周囲との間に生じる上記蛍光Lf(自家蛍光含む)のコントラストを測定し、このコントラストにより抗原の有無および/または量の測定を行うものである。
【0061】
図1に示す測定装置は、クロマトグラフデバイス以外、第1の実施形態の場合と同一のものである。
【0062】
(クロマトグラフデバイス)
本実施形態のクロマトグラフデバイス中の不溶性担体28は、図4に示すように、検体溶液等の試料を滴下する部分である試料添加パッド81、抗原に対する特異的結合性を示す吸光標識が固定された標識物質保持パッド82、抗原に対する特異的結合性を示す抗体が固定されたライン状の検出部T(テストライン)を有するクロマトグラフ担体83、送液された試料を吸収する吸収パッド84、およびこれら全体を支持するとともに紫外光Lに励起されて蛍光Lfを発する蛍光シート86(蛍光層)を有している。この蛍光シート86が本発明の蛍光機構としての役割を担っている。例えば、蛍光シート86は、光源から出射された紫外光Lにより励起される蛍光物質(蛍光色素または蛍光微粒子等)を含有するものである。蛍光シート86に含有させる蛍光物質は、吸光標識と同様の吸光特性(吸収スペクトル)を有するものであれば、特に限定されず適宜選択することができる。さらに蛍光物質は、蛍光Lfと紫外光Lとの分離を容易に可能とするために、大きなストークスシフトを有する物質を用いることが好ましい。例えば、特表2009−510198には、400nmで励起され、かつ約80nm以上のストークスシフトを有する色素化合物が教示されている。
【0063】
蛍光機構は上記のように蛍光層を設ける態様に限定されず、例えば上記クロマトグラフ担体83そのものに上記蛍光物質を添加するような態様でもよい。しかし、試料が泳動するクロマトグラフ担体83に蛍光物質を添加した場合、試料の特性や泳動に影響を与える可能性があることから、本実施形態のように試料が泳動する部分とは個別に蛍光層86を設けることが好ましい。
【0064】
以上のように、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有する標識物質を検出部Tに接触せしめ、その後検査部位に上記標識物質に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lの照射に起因して検査部位から生じる光を検出し、上記吸光特性に起因して生じる、この光に関する検査部位の暗部により被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするものである。この結果、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0065】
さらに、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光Lにより励起される蛍光機構が設けられた不溶性担体28を用いているため、この蛍光機構からも蛍光Lfが生じて、より測定精度を向上させることができる。また、不溶性担体28の自家蛍光を生じせしめるという条件に左右されないため、吸光標識の種類や紫外光Lの波長の選択幅が広がりより簡易に測定条件を選択することが可能となる。
【0066】
また、本発明に係るクロマトグラフ用不溶性担体およびクロマトグラフ測定装置は、不溶性担体に、紫外光に励起され蛍光を発する蛍光機構が設けられているから、クロマトグラフ測定方法において検出対象を蛍光とした場合に、蛍光をより効率的に生じせしめることができ、さらなる測定精度の向上を実現することが可能となる。
【0067】
<クロマトグラフ測定方法の第3の実施形態>
第3の実施形態のクロマトグラフ測定方法について説明する。なお、本実施形態においても、被験物質を抗原、この被験物質に対する特異的結合性を示す物質を抗体として、紫外光を吸光する標識物質(吸光標識)を用いたサンドイッチ法によって抗原の有無および/または量を測定する場合を例として説明する。本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、特に紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有する標識物質を供給する標識接触手段を有するクロマトグラフ測定装置2を用いて測定を行う点で第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法と異なる。より具体的には、本実施形態では、抗原に対する第2の抗体で金属微粒子の表面を修飾し、これにより形成される金属微粒子と第2の抗体との複合体をサンドイッチ法によってテストラインTに固定した後、銀イオン含有化合物を検査部位に供給し、この金属微粒子を触媒とした銀イオンの還元反応により、金属微粒子への銀の沈着によって銀微粒子をテストラインTに固定している。したがって、その他の第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0068】
本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、図5および図6に示すようなクロマトグラフ測定装置2を用いて実施される。
【0069】
まず、本実施形態に係るクロマトグラフ測定装置2の構成について説明する。図5は本実施形態に係るクロマトグラフ測定装置2の外観を示す概略斜視図であり、図6はイムノクロマト用デバイス20が装填され、図5におけるII−II線で切断した場合の内部を示す概略図である。
【0070】
図5および図6に示すように、クロマトグラフ測定装置2は、装置筐体70と、装置筐体70の表面に配置された画面表示部71、画面表示部71に表示されたメニューの操作を行うためのメニュー操作部72および電源スイッチ73と、デバイス20を装置内部に装填するためのデバイス装填部74と、さらに装置2の内部を構成する、デバイス20から情報を取得する第1の測定部40および第2の測定部50と、デバイス20内の不溶性担体21に増幅溶液を展開する増幅溶液供給部60と、上記第1の測定部40、第2の測定部50および増幅溶液供給部60を制御する制御部30とを備えている。なお、制御部30が、本発明に係るクロマトグラフ測定装置の測定手段としての機能も有する。
【0071】
(クロマトグラフデバイス)
本実施形態のクロマトグラフデバイス20は、標識物質保持パッド82以外、第1の実施形態で説明したものと同一のものである。つまり、本実施形態のクロマトグラフデバイス20の標識物質保持パッド82は、金属微粒子への銀の沈着によってテストラインTで吸光標識を生成せしめるため、吸光標識ではなく、金属微粒子からなる標識物質を保持している。
【0072】
(測定部)
第1の測定部40は、デバイス20の観察窓24bを通して検査部位21aの呈色状態を測定する本発明に係るクロマトグラフ測定装置の検出手段として機能し、検査部位21aにおける光学的情報を取得するものである。第1の測定部40は、図6に示すように光検出器42と検査部位21aから生じる蛍光Lfを透過せしめかつ照射された紫外光Lを遮断するフィルタ44とを備え、デバイス20が測定装置2に装填された際に、これらがデバイス20の下方に配して観察窓24bに対向するように構成されている。そして、第1の測定部40によって取得された検査部位21aにおける光学的情報に基づいて、検査部位21aの呈色状態として検査部位21aから生じる蛍光Lfが検出される。光検出器42は、例えば複数のフォトダイオードがライン状に配列された構成、或いはエリアセンサといった光学センサを備える構成とされており、受光した光の輝度に応じた出力を生じる。光検出器42の受光範囲は、デバイス20の長手方向に延びた帯状とされている。
【0073】
第2の測定部50は、デバイス20の照射窓24aから検査部位21aに紫外光Lを照射する本発明に係るクロマトグラフ測定装置2の照射手段として機能する。さらに、第2の測定部50は、デバイス20の情報表示部25に照明光(情報表示部25が読み込めれば白色光に限られない。)を照射し、情報表示部25に表示された情報を光検出器52で取得するものでもある。第2の測定部50は、図6に示すように光検出器52と光源54とを備え、デバイス20が測定装置2に装填された際に、これらがデバイス20の上方に配して、クロマトグラフデバイス20の照射窓24aおよび情報表示部25に対向することができるような可動式に構成されている。
【0074】
光源54は、例えばLEDが内蔵されたモジュールであり、照明光および紫外光Lを発するように構成されている。また光源54は、モジュールを複数備える場合には、異なる波長の単色光を発する複数のモジュールを用いることもできる。光源54から照射される光は、デバイス20の長手方向を照明可能とされている。
【0075】
情報を取得する方法は、特に制限されず、情報表示部25をそのまま画像化したりバーコード化された情報から読み取ったりすることができる。特に、情報表示部から取得された、使用する不溶性担体21や施した蛍光化処理の種類の情報は、制御部30が適宜紫外光Lの波長を設定する際に使用される。そして、第2の測定部50によって取得された検査に関する情報と検査結果とが紐付けされて管理される。光検出器52については、上記光検出器42と同様である。
【0076】
(増幅溶液供給部)
増幅溶液供給部60は、銀イオン含有化合物を含む増幅溶液を貯蔵する増幅溶液貯蔵ポット62と、増幅溶液貯蔵ポット62から増幅溶液を注入する増幅溶液注入ノズル62aと、上記増幅溶液に含まれる銀イオンを還元する還元剤を貯蔵する還元剤貯蔵ポット64と、還元剤貯蔵ポット64から還元剤を注入する還元剤注入ノズル64aとを備え、増幅溶液貯蔵ポット62および還元剤貯蔵ポット64のそれぞれに貯蔵された液体を、それぞれの注入ノズル62a・64aを通して、装填されたデバイス20の注入口23に注入することができるように構成されている。本実施形態では、この増幅溶液供給部60が、本発明のクロマトグラフ測定装置における標識接触手段として機能している。液体の注入は、例えば増幅溶液供給部60を駆動装置により駆動させて順に或いは交互にそれぞれの注入ノズルから別個に注入するようにしてもよく、また2つのノズルを先端部で結合させてそれぞれの貯蔵ポットから供給された液体を同時に注入するようにしてもよい。
【0077】
なお、増幅溶液供給部60は上記構成に限定されるものではない。例えば、それぞれの貯蔵ポットに貯蔵する溶液の組み合わせを増幅溶液および洗浄液等の組み合わせにしてもよく、また増幅溶液を貯蔵するポット単独で構成してもよい。さらに、溶液を貯蔵する貯蔵ポットは、必ずしも測定装置2の内部に備える必要はない。例えば、貯蔵ポットを測定装置(筐体70)の外部に設け、注入ノズルのみを操作してデバイス20の注入口23に溶液を注入するように構成してもよい。
【0078】
そして、本実施形態のクロマトグラフ測定方法は、抗原に対する特異的結合性を示す抗体が固定されたライン状の検出部Tを有する不溶性担体21(クロマトグラフデバイス)に、上記抗原を含む可能性のある検体溶液を滴下し、このクロマトグラフデバイス20を前述のクロマトグラフ測定装置2に挿入し、不溶性担体21に乾燥配置された金属微粒子からなる標識物質を検体溶液中に溶解しながら、不溶性担体21に検体溶液を展開して、検体溶液を検出部Tに接触せしめるとともに、上記標識物質を検出部Tに接触せしめて、検出部Tに抗体−抗原−標識物質のサンドイッチ構造を形成せしめ、増幅溶液供給部により不溶性担体21に還元剤(ここで、還元剤は洗浄液としても機能する。)を展開することによりテストラインTを洗浄し(洗浄処理)、不溶性担体21に増幅溶液を展開することにより、銀イオンの還元により形成された銀微粒子を標識物質に沈着させて呈色状態を増幅させ(増幅処理)、検出部Tとこの検出部Tの周囲とを含む不溶性担体21の検査部位21aの一方の面に、標識物質に沈着した銀微粒子に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lに励起されて検査部位21aから生じる、不溶性担体21の自家蛍光Lfを、フィルタ44を通して検出し、銀微粒子の吸光特性に起因して検出部Tと上記周囲との間に生じる上記自家蛍光Lfのコントラストを測定し、このコントラストにより抗原の有無および/または量の測定を行うものである。
【0079】
(標識物質)
標識物質の金属微粒子の材料としては、金属単体、金属硫化物、その他金属合金、または金属を含むポリマー−粒子標識を用いることができる。粒子(又はコロイド)の平均粒径は、1nm〜10μmの範囲が好ましい。ここで、平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により実測された複数の粒子の径(粒子の最長径)の平均値である。より詳細には、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、鉄コロイド、水酸化アルミニウムコロイド、およびこれらの複合コロイドなどが挙げられ、好ましくは、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、およびこれらの複合コロイドであることが望ましい。特に、金コロイドと銀コロイドが好ましい。金コロイドを用いることにより、銀イオン含有化合物を用いた増幅工程を容易に行うことができるようになる。金属コロイドの平均粒径としては、約1〜500nmが好ましく、さらには1〜100nmがより好ましい。
【0080】
(増幅溶液)
増幅溶液は、金属微粒子上で、物理現像により金属銀の析出を起こす銀イオン溶液である。詳細には、写真化学の分野での一般書物(例えば、「改訂写真工学の基礎-銀塩写真編-」(日本写真学会編、コロナ社)、「写真の化学」(笹井明、写真工業出版社)、「最新処方ハンドブック」(菊池真一他、アミコ出版社))に記載されているような、いわゆる現像液を用いることができる。例えば、増幅溶液として銀イオン含有化合物を含む物理現像液を用いれば、銀イオンの還元剤により液中の銀イオンを、現像の核となるような金属コロイド等を中心に還元させることができる。
【0081】
(銀イオン含有化合物)
銀イオン含有化合物としては、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として一般に0.001モル/m〜0.2モル/m、好ましくは0.01モル/m〜0.05モル/m含有されることが好ましい。
【0082】
(銀イオンの還元剤)
銀イオンの還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。
【0083】
無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やエチレンジアミン四酢酸を用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0084】
以上のように、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、紫外光Lの波長帯域に吸光特性を有する標識物質を検出部Tに接触せしめ、その後検査部位21aに上記標識物質に吸光される紫外光Lを照射し、この紫外光Lの照射に起因して検査部位21aから生じる光を検出し、上記吸光特性に起因して生じる、この光に関する検査部位の暗部により被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするものである。この結果、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0085】
さらに、本実施形態に係るクロマトグラフ測定方法は、銀増感による標識物質の吸光特性を増大させることができるため、より測定精度を向上させることができる。
【0086】
<第3の実施形態の設計変更>
第3の実施形態の不溶性担体21は、蛍光化処理が施されていない場合について説明したが、当然第3の実施形態においても蛍光化処理が施された不溶性担体を用いることができる。
【0087】
また、第3の実施形態では、増幅溶液供給部が標識接触手段として機能していたが、本発明の標識接触手段はこのような態様に限られない。例えば、増幅溶液供給部の貯蔵ポットに増幅溶液や還元剤の代わりに通常の標識物質として吸光標識を貯蔵して、標識物質が乾燥配置されていない不溶性担体に供給するようにしてもよい。
【0088】
<実施例>
第1の実施形態のクロマトグラフ測定方法について実際に測定を行った。まず、ニトロセルロースからなる不溶性担体を用意し、インフルエンザウィルスを含有する検体溶液をこの不溶性担体に展開して、乾燥配置された金属コロイドを標識としてテストラインに固定した。その後、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を用いた上記金属コロイドを触媒とする銀増感を行うことにより、銀微粒子をテストラインTに固定した。この銀増感に関する詳細は、特開2008−286590に記載されている。次に、富士フイルム株式会社製 LAS-3000(商品名)を用いて、312nmの紫外光を不溶性担体の一方の面から照射し、320nmより長い波長の光を透過させるフィルタを通して不溶性担体から生じる自家蛍光を検出した。不溶性担体の他方の面からCCDにより蛍光信号を検出し、この蛍光信号に基づいて2次元の階調画像を生成し、この階調画像からテストラインとその周囲とを含む検査部位を抽出し、この検査部位に関して、吸光標識の吸光特性に起因してテストラインと上記周囲との間に生じる上記自家蛍光のコントラストを測定した。
【0089】
<比較例>
銀微粒子をテストラインに固定するまでは実施例と同様の手順により行った。その後、富士フイルム株式会社製 LAS-3000を用いて、白色光(自然光)を不溶性担体に照射し、その反射光を検出した。CCDにより反射光信号を検出し、この反射光信号に基づいて2次元の階調画像を生成し、この階調画像からテストラインとその周囲とを含む検査部位を抽出し、この検査委部位に関して、吸光標識の吸光特性に起因してテストラインと上記周囲との間に生じる上記反射光のコントラストを測定した。
【0090】
<測定結果>
図7Aおよび図7Bは、実施例および比較例で得られた階調画像をそれぞれ示す図である。また図8Aおよび図8Bは、実施例および比較例で得られた階調画像中の検査部位(それぞれ領域Xおよび領域Y)について、不溶性担体の長さ方向と垂直な方向の画素値を平均化し、この平均値を不溶性担体の長さ方向に1次元的に配列した明度のグラフをそれぞれ示す図である。
【0091】
図8Aおよび図8Bのグラフから、白色光を照射しその反射光を検出するよりも、不溶性担体に紫外光を照射し、紫外光に励起されて生じる蛍光を検出する方が、階調画像中のテストラインとその周囲とのコントラストが大きくなることが分かった。
【符号の説明】
【0092】
1、2 クロマトグラフ測定装置
10 光源
12 光検出器
14 測定手段
16 フィルタ
18 設置台
20 クロマトグラフデバイス
21、28 不溶性担体
21a 検査部位
22 デバイス筐体
23 注入口
24a 照射窓
24b 観察窓
25 情報表示部
30 制御部
40 測定部
50 測定部
60 増幅溶液供給部
70 装置筐体
81 試料添加パッド
82 標識物質保持パッド
83 クロマトグラフ担体
84 吸収パッド
85 透明シート
86 蛍光機構(蛍光層)
L 紫外光
Lf 蛍光(自家蛍)
T 検出部(テストライン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有する不溶性担体に、前記被験物質を含む可能性のある検体溶液を展開して、該検体溶液を前記検出部に接触せしめ、前記特異的結合性を示す物質を介して前記検出部に固定された前記被験物質の有無および/または量の測定を行うクロマトグラフ測定方法において、
前記検体溶液を前記検出部に接触せしめるとともに、紫外光の波長帯域に吸光特性を有する標識物質を前記検出部に接触せしめ、
前記検出部と該検出部の周囲とを含む前記不溶性担体の検査部位に、前記標識物質に吸光される紫外光を照射し、
該紫外光の照射に起因して前記検査部位から生じる光を検出し、
前記標識物質の前記吸光特性に起因して生じる、前記検査部位から生じる光に関する前記検査部位の暗部により、前記被験物質の有無および/または量の測定を行うことを特徴とするクロマトグラフ測定方法。
【請求項2】
前記検査部位から生じる光として、該紫外光に励起されて前記検査部位から生じる蛍光を検出することを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項3】
前記不溶性担体として、前記紫外光に励起されて蛍光を発するように蛍光化処理が施されたものを用いることを特徴とする請求項2に記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項4】
前記蛍光化処理が、照射された前記紫外光に対して陰となる前記検査部位の部分に、前記紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光層を形成するものであることを特徴とする請求項3に記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項5】
前記蛍光を透過せしめかつ紫外光を遮断するフィルタを通して、前記蛍光を検出することを特徴とする請求項2から4いずれかに記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項6】
前記標識物質として、銀微粒子を用いることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のクロマトグラフ測定方法。
【請求項7】
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有する不溶性担体であって、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光機構が設けられたものであることを特徴とするクロマトグラフ用不溶性担体。
【請求項8】
前記蛍光機構が、前記検出部と該検出部の周囲とを含む前記不溶性担体の検査部位の部分であって、照射された紫外光に対して陰となる部分に形成された、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光層であることを特徴とする請求項7に記載のクロマトグラフ用不溶性担体。
【請求項9】
前記検体溶液を滴下する滴下部と、
該滴下部と前記検査部位との間に乾燥配置された標識物質とを備えたものであることを特徴とする請求項7または8に記載のクロマトグラフ用不溶性担体。
【請求項10】
被験物質に対する特異的結合性を示す物質が固定された検出部を有し、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光機構が前記検出部と該検出部の周囲とを含む検査部位に設けられた不溶性担体と、
前記検査部位に、紫外光の波長帯域に吸光特性を有する標識物質を接触せしめる標識接触手段と、
前記標識物質に吸光される紫外光を出射する光源を備え、前記検査部位に該紫外光を照射する照射手段と、
光検出器を備え、前記紫外光に励起されて前記検査部位から前記紫外光の照射方向と平行な方向に生じる蛍光を該光検出器によって検出する検出手段と、
前記標識物質の前記吸光特性に起因して生じる、該検出手段に検出された蛍光に関する前記検査部位の暗部により、前記被験物質の有無および/または量の測定を行う測定手段とを備えたことを特徴とするクロマトグラフ測定装置。
【請求項11】
前記蛍光機構が、照射された前記紫外光に対して陰となる前記検査部位の部分に形成された、紫外光に励起されて蛍光を発する蛍光層であることを特徴とする請求項9に記載のクロマトグラフ測定装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8A】
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【図8B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2011−214858(P2011−214858A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80567(P2010−80567)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】