説明

クロマトグラフ装置

【課題】ヘッドスペース分析のために加熱されて高温となった試料容器に作業者が触れてしまうことを極力防止する。
【解決手段】バイアル搬送装置10は、バイアルトレイ20及びオーブン30間であってこれらよりも下方に位置し、搬送用格納部12と冷却用格納部13を有する搬送用アーム14、バイアルトレイ20とオーブン30に対してバイアル21を出し入れするバイアル上下動機構15を備えている。駆動モータ16により搬送用アーム14は回転駆動され、これにより送用格納部12及び冷却用格納部13並びに上下動機構15はバイアルトレイ20或いはオーブン30側に移動される。オーブン30内の高温のバイアル21は冷却用格納部13に格納された後、冷却時間Tが経過するまで保持され、冷却時間Tの経過後、搬送用アーム14によって冷却用格納部13がバイアルトレイ20の下部に移動され、上下動機構15によりバイアルトレイ20に戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマトグラフ装置に関し、特に、試料容器内に収容された液体試料や固体試料から揮発した試料ガスをヘッドスペース分析法により採取してガスクロマトグラフ装置等へ導入するための、多数の試料容器を、試料容器トレイと加熱装置との間を搬送する試料容器搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドスペース分析法は、試料容器(バイアル)内に収容された液体試料又は固体試料を一定温度に一定時間加熱することにより試料中の所定の成分を揮発させ、この揮発成分を含むガスを容器内の上部空間(ヘッドスペース)から一定量採取してガスクロマトグラフ装置等に導入して分析を行うものである。ヘッドスペース分析法では、容器内から揮発成分を含むガス(試料ガス)を採取する前に、バイアルを恒温槽(オーブン)に収容してバイアル内の試料を加熱する前処理を行う(特許文献1参照)。
バイアルの加熱温度が高いほど様々な揮発成分を効率よく抽出することができることから、近年、バイアルの加熱温度が高温化する傾向にある。ところが、バイアルの加熱温度を高くすると、分析終了後、バイアルは高温のまま容器保持部に戻される。作業者は、容器保持部は、分析中も自由にバイアルを出し入れできるようになっているため、作業者が高温のバイアルに誤って触れるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-5913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ヘッドスペース分析のために加熱されて高温となった試料容器に作業者が触れてしまうことを極力防止したクロマトグラフ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフ装置は、複数の試料容器を保持する試料容器トレイと、前記試料容器を収容して加熱する加熱装置と、前記試料容器トレイから前記加熱装置まで前記試料容器を搬送する容器搬送装置とを備えたものであって、
前記容器搬送装置が、前記試料容器を格納する加熱容器格納部と、前記加熱装置から前記加熱容器格納部に前記試料容器を移動させる第1容器移動部と、前記加熱容器格納部を前記加熱装置近傍から前記試料容器トレイ近傍まで搬送する加熱容器搬送部と、前記加熱容器格納部から前記試料容器トレイに前記試料容器を移動させる第2容器移動部と、前記第1容器移動部、前記加熱容器搬送部、及び、前記第2容器移動部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記加熱容器格納部に格納された前記試料容器が、常温になった後に前記加熱容器格納部から前記試料容器トレイに移動されるように前記第1容器移動部、前記加熱容器搬送部、前記第2容器移動部を制御することを特徴とする。
特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、加熱装置から加熱容器格納部に移動された試料容器は、冷却されて常温になるまで加熱容器格納部に格納された状態で維持され、試料容器トレイに移動されることがないため、作業者が誤って高温の試料容器に触れてしまうことを防止できる。また、容器搬送装置の加熱容器格納部に格納した状態で高温の試料容器を常温まで冷却するようにしたので、その他の試料容器内の試料の分析の邪魔になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例に係るクロマトグラフ装置の搬送装置、バイアルトレイ、オーブンの位置関係を示す斜視図。
【図2】オーブンと搬送装置とを示す斜視図。
【図3】搬送装置の全体構成を示す斜視図。
【図4】搬送装置の電気的構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るクロマトグラフ装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態に係るバイアル搬送装置は、ガスクロマトグラフ装置に試料を導入する前処理として、液体試料や固体試料が収容されたバイアル(試料容器)を加熱するために、バイアルトレイに保持されているバイアルを加熱装置であるオーブンに搬送する装置である。図1はバイアル搬送装置10の他にバイアルトレイ20、オーブン30を示している。バイアル搬送装置10、バイアルトレイ20、オーブン30はクロマトグラフ装置の一部を構成し、クロマトグラフ装置の筐体内に収容されている。
【0009】
バイアルトレイ20は、予め使用者がバイアル21を装填しておくもので、円板状の基台22と、その上に間隔をおいて取り付けられた2枚の円板状の保持プレート23,24とから構成されている。2枚の保持プレート23,24は図示しない複数の軸部によって連結されており、駆動モータ25によって回転軸26を中心に回転駆動される。保持プレート23,24には、バイアル21がちょうど収まる大きさの複数の穴27が4列の同心円の円周上に設けられている。
【0010】
基台22には、保持プレート23,24の穴27と対応する複数の凹部28が設けられている。保持プレート23,24は、各穴27に保持されたバイアル21の底部が凹部28内に位置するように所定角度ずつ回転駆動される。本実施例では、各バイアル21の底部は球面状になっており、保持プレート23,24が回転したときに各バイアル21の底部は凹部28から容易に抜け出ることができる。また、基台22の特定の位置にはバイアル昇降用の穴(図示せず)が形成されている。バイアル昇降用の穴は、4列の円周上に位置する凹部28の各列に1個ずつ、計4個が形成されており、通常はシャッター29(図4参照)によって塞がれている。
【0011】
オーブン30は八角筒状の容器31と、容器31の内部に収容されたバイアル保持部32と、オーブン30内を加熱するヒータ33(図4参照)とを備えている。詳しい図示は省略するが、ヒータ33はバイアル保持部32の中央に配置されており、容器31内を例えば300℃まで加熱することができる。
バイアル保持部32は、円板状の基台34と5枚のリング状の保持プレート35から構成されている。5枚の保持プレート35は連結軸36によって平行に且つ等間隔に連結されており、駆動モータ37によって回転されるようになっている。各保持プレート35にはバイアル21がちょうど収まる複数の穴38が上下方向に並んで形成されている。また、基台34には保持プレート35の穴38と対応する複数の凹部が設けられており、そのうちの一つにはバイアル昇降用の穴(図示せず)が形成されている。オーブン30のバイアル昇降用の穴も、バイアルトレイ20と同様、通常はシャッター39(図4参照)によって塞がれている。
尚、容器31の上部開口は、内部の構造を説明するために設けたもので、実際は容器31の上面は全体が閉塞している。
【0012】
バイアル搬送装置10は、バイアルトレイ20及びオーブン30よりも下方に位置しており、搬送用格納部12及び冷却用格納部13を有する搬送用アーム14、バイアルトレイ20及びオーブン30に対してバイアル21を出し入れするバイアル上下動機構15を備えている。搬送用アーム14は駆動モータ16によって回転軸17を中心に回転駆動される。搬送用アーム14の回転により、搬送用格納部12及び冷却用格納部13並びに上下動機構15はバイアルトレイ20側或いはオーブン30側に移動される。
バイアル上下動機構15は、駆動モータ41により回転するV字状の回動部材42及び、この回動部材42によって上下動される昇降部材43とから成る。後述するように、上下動機構15の昇降部材43がバイアルトレイ20やオーブン30の昇降用の穴まで押し上げられると、シャッターが開放する。
【0013】
図4に示すように、駆動モータ16,25,37,41、ヒータ33、シャッター29,39等の動作は、CPUを含んで構成される制御部50によって制御される。操作部52は各種条件を設定するために用いられ、例えばオーブン30内温度、バイアル加熱時間、バイアル冷却時間、分析周期、試料採取量等を設定できる。尚、上下動機構15により昇降用の穴からバイアル21が出し入れされていないときは、バイアルトレイ20及びオーブン30の昇降用の穴はシャッター29,39で塞がれている。
【0014】
次に上記構成において、バイアル搬送装置10がバイアルトレイ20からバイアル21を取得してオーブン30まで搬送し、オーブンで加熱されたバイアルを再びバイアルトレイ20に戻すまでの一連の動作を説明する。
試料液が入れられたバイアル21をバイアルトレイ20に装填した後、オペレータが適当な条件を設定して動作の開始を指示すると、或いは、予め設定されたタイムスケジュールに従って分析の開始が指示されると、制御部50の制御の下、バイアル21の搬送処理が実行される。
【0015】
まず最初に、駆動モータ25が駆動し、これによってバイアルトレイ20の保持プレート23,24が回転され、所望のバイアル21が昇降用の穴の上に移動する。
次に、駆動モータ16が駆動して搬送用アーム14が回転され、搬送用格納部12及び冷却用格納部13並びに上下動機構15がバイアルトレイ20側に移動される。このとき、昇降用の穴の下方には搬送用格納部12が位置する。
続いて、駆動モータ41が駆動して回動部材42が回動し、昇降部材43がバイアルトレイ20の昇降用の穴の下面まで押し上げられる。そして、シャッターが開放され、これと同期して昇降部材43が降下する。この結果、昇降部材43と共にバイアル21が降下して搬送用格納部12に格納される。
【0016】
この後、駆動モータ16が駆動されて搬送用アーム14が回転し、搬送用格納部12及び冷却用格納部13並びに上下動機構15がオーブン30側に移動される。このとき、搬送用格納部12がオーブン30の昇降用の穴の下方に位置する。そして、上下動機構15の駆動モータ41が駆動して昇降部材43が上昇すると共にシャッターが開放され、搬送用格納部12に格納されているバイアル21がオーブン30のバイアル保持部32に保持される。
【0017】
オーブン30のバイアル保持部32に保持されたバイアル21は、ヒータ33によって所定温度まで加熱された後、図示しないサンプリング装置によって上部空間から試料ガスが採取される。採取された試料ガスは、ガスクロマトグラフ装置の試料気化室に注入され、分析される。バイアル21から試料ガスの採取が終わると、駆動モータ16が駆動して搬送用アーム14が回転し、搬送用格納部12及び冷却用格納部13並びに上下動機構15がオーブン30側に移動される。このとき、冷却用格納部13がオーブン30の昇降用の穴の下方に位置する。続いて、上下動機構15によりオーブン30内のバイアル21が下降され、冷却用格納部13に格納される。
【0018】
冷却用格納部13にバイアル21が格納されると、制御部50は格納してからの経過時間tをカウントする。そして、経過時間tが予め設定された冷却時間Tに達すると、搬送用アーム14が駆動して冷却用格納部13がバイアルトレイ20の昇降用の穴の下方に移動され、上下動機構15によりバイアル21をバイアルトレイ20に戻される。冷却時間Tは、オーブン30で加熱されたバイアル21が常温まで冷却されるに十分な時間に設定されている。
【0019】
一方、冷却用格納部13にバイアル21を格納した状態であっても、予め設定されたタイムスケジュールに応じて、バイアル搬送装置10は搬送用格納部12を用いてバイアルトレイ20からオーブン30にバイアル21を搬送する。
【0020】
このように、本実施形態では、オーブン30から冷却用格納部13に移動されたバイアルは、予め設定された冷却時間Tが経過し、冷却されるまでは冷却用格納部13に格納されたまま保持される。従って、作業者が高温のバイアル21に触れることがない。特に、本実施例では、搬送装置10をバイアルトレイ20やオーブン30の下方に配置したため、作業者が高温のバイアル21に触れてしまうことを確実に防止できる。
【0021】
また、オーブン30からのバイアル21の出し入れをオーブン30の下部に設けた穴から行うようにした。このため、オーブン30内の高温の空気が外部に流出することを極力防止でき、バイアル21の出し入れによるオーブン30内の温度の低下を抑えることができる。
更に、本実施形態では、一つの搬送用アーム14に搬送用格納部12と冷却用格納部13を設けたので、高温のバイアル21を冷却している間もバイアルトレイ20からオーブン30にバイアル21を搬送することができる。
【0022】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような変更が可能である。
加熱装置から試料容器トレイまでの試料容器の搬送経路の近傍にファンなどの冷却装置を配置し、この冷却装置の近くに、高温の試料容器が格納された冷却用格納部を待機させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0023】
10…バイアル搬送装置
12…搬送用格納部
13…冷却用格納部(加熱容器格納部)
14…搬送用アーム
15…バイアル上下動機構(第1容器移動部、第2容器移動部)
16,25,37,41…駆動モータ
20…バイアルトレイ
21…バイアル(試料容器)
22…基台
23,24…保持プレート
25…駆動モータ
27…昇降用の穴
30…オーブン
31…容器
32…バイアル保持部
33…ヒータ
50…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料容器を保持する試料容器トレイと、前記試料容器を収容して加熱する加熱装置と、前記試料容器トレイから前記加熱装置まで前記試料容器を搬送する容器搬送装置とを備えたクロマトグラフ装置において、
前記容器搬送装置が、前記試料容器を格納する加熱容器格納部と、前記加熱装置から前記加熱容器格納部に前記試料容器を移動させる第1容器移動部と、前記加熱容器格納部を前記加熱装置近傍から前記試料容器トレイ近傍まで搬送する加熱容器搬送部と、前記加熱容器格納部から前記試料容器トレイに前記試料容器を移動させる第2容器移動部と、前記第1容器移動部、前記加熱容器搬送部、及び、前記第2容器移動部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記加熱容器格納部に格納された前記試料容器が、常温になった後に前記加熱容器格納部から前記試料容器トレイに移動されるように前記第1容器移動部、前記加熱容器搬送部、前記第2容器移動部を制御することを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項2】
前記容器搬送装置は、前記試料容器トレイ及び前記加熱装置よりも下方に配置され、
前記第1容器移動部は、前記加熱装置の下部から前記試料容器を取得して前記容器格納部に移動させ、前記第2容器移動部は、前記試料容器トレイの下部から当該試料容器トレイに前記試料容器を移動させることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ装置。
【請求項3】
前記容器搬送装置が、前記加熱容器格納部に格納された前記試料容器を冷却するための冷却装置を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−145124(P2011−145124A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4786(P2010−4786)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】