説明

クロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法及び塗装金属板

【課題】 塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板を提供すること。
【解決手段】
表面に化成処理が施されていてもよい金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料(A)による乾燥膜厚1〜10μmのプライマー硬化塗膜を形成し、プライマー硬化塗膜の少なくとも片面上に、特定の上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、乾燥膜厚5〜30μmの上塗り硬化塗膜を形成することを特徴とするクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法及び塗装金属板に関し、さらに詳しくは、クロムフリー塗装金属板においても平面部の耐食性のみならず、加工部や端面部の耐食性が良好なクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法及び塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルコーティングなどによって塗装されたプレコート鋼板などのプレコート金属板は、建築物の屋根、壁、シャッター、ガレージなどの建築資材、各種家電製品、配電盤、冷凍ショーケース、鋼製家具及び厨房器具などの住宅関連商品として幅広く使用されている。
【0003】
プレコート金属板からこれらの住宅関連商品を製造するには、通常、プレコート鋼板を切断しプレス成型し接合される。したがって、これらの住宅関連商品 には、切断面である金属露出部やプレス加工によるワレ発生部が存在することが多い。上記金属露出部やワレ発生部は、他の部分に比べて耐食性が低下しやすいので耐食性の向上のため、プレコート鋼板のプライマー塗膜中にクロム系の防錆顔料を含ませることが一般的に行われてきた。
【0004】
しかしながら、クロム系の防錆顔料は、防錆性に優れた6価クロムを含有していたり生成したりし、この6価クロムは人体への健康面、環境保護の観点から使用が制限されてきている。これまで、非クロム系の防錆顔料としては、燐酸亜鉛、トリポリ燐酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛など数多くのものが市場に出ており、非クロム系顔料を組合せたプライマーとして、種々のものが提案されている。
一方、従来から酸成分としてヘキサヒドロフタル酸を少なくとも50モル%以上含有し、さらにネオペンチルアルコールを使用したポリエステルを使用した塗料によって、例えばコイル塗装によって塗装して、優れた耐久性の塗装金属板を得る発明が開示されている(特許文献1)。
【0005】
しかし、特許文献1による塗装金属板には、プライマー塗膜がない複層塗膜で、クロムフリーとした塗膜である場合には、塗装金属板の加工部や端面部における耐食性、特にばくろ耐食性は不十分であった。
【0006】
他に、金属板に、プライマー塗膜と色相塗膜を設け、この色相塗膜上に、ヘキサヒドロ無水フタル酸とネオペンチルグリコールを含有するポリエステル樹脂を含むクリヤ塗膜を設けた複層塗膜からなる塗装金属板が開示されている(特許文献2)。
しかし、特許文献2による塗装金属板には、プライマー塗膜をクロムフリーとした場合には、単にヘキサヒドロ無水フタル酸とネオペンチルグリコールを含有するポリエステル樹脂を用いただけでは、塗装金属板の加工部や端面部における耐食性やばくろ耐食性においては不十分であった。
【0007】
【特許文献1】特開平5−239196号公報
【特許文献2】特開2007−55137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明が解決しようとする課題は、塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性、耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法を見出し、上記諸性能に優れる塗装金属板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、表面に化成処理が施されていてもよい金属板上の片面又は両面上に、クロム系防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料(A)による乾燥膜厚1〜10μmのプライマー硬化塗膜を形成し、プライマー硬化塗膜の少なくとも片面上に、特定の上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、乾燥膜厚5〜30μmの上塗り硬化塗膜を形成することを特徴とするクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法によって、塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板を得るに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
1.表面に化成処理が施されていてもよい金属板上の片面又は両面上に、クロム系防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料(A)による乾燥膜厚1〜10μmのプライマー硬化塗膜を形成し、プライマー硬化塗膜の少なくとも片面上に、下記特徴の上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、乾燥膜厚5〜30μmの上塗り硬化塗膜を形成することを特徴とするクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法である。
上塗り塗料(B):
多塩基酸成分(b1)と多価アルコール成分(b2)を構成成分とする水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)であって、i)多塩基酸成分(b1)の質量合計を基準にして、
ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸
から選ばれる多塩基酸の合計割合が90〜100質量%で、かつ(ii)多価アルコール成分(b2)の質量合計を基準にして、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水添ビスフェノールAから選ばれる多価アルコールの合計割合が50〜100質量%である多価アルコール成分であって、該多塩基酸成分(b1)と該多価アルコール成分(b2)とを反応して得られた水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、ブロック化脂肪族ポリイソシアネート及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物を含む架橋剤(B2)、並びに該樹脂(B1)と該架橋剤(B2)の固形分合計100質量部に対して、顔料成分(B3)を5〜120質量部含有する上塗塗料
2.多価アルコール成分(b2)が、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAから選ばれる少なくとも1種を含有し、
かつトリメチロールプロパンとグリセリンから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法、
3.架橋剤(B2)が、ヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物である1又は2項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
4.クロムフリープライマー塗料(A)が、炭素数4〜36の脂肪族多塩基酸(a11)、ガラス転移温度−20〜50℃のアクリル樹脂(a12)及びガラス転移温度−20〜50℃のポリエステル樹脂(a13)のうちの少なくとも1種の軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)、架橋剤(A2)及びクロムフリー防錆成分(A3)を含有するクロムフリープライマー塗料である1〜3項のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
5.クロムフリー防錆成分(A3)が、五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物(1)、リン酸金属塩(2)及び金属珪酸塩及びシリカ微粒子のうち少なくとも1種の珪素含有化合物(3)を含有することを特徴とする1〜4項のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
6.1〜5項のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法によって得られた塗装金属、に関する。
【発明の効果】
【0011】
クロム系防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料を塗装してなる塗膜上に、特定の上塗塗料(B)を塗装して得られた上塗塗膜を塗装してなる複層塗膜は、塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板を提供できる。
【0012】
なお、特定のポリエステル樹脂(B1)と特定の架橋剤(B2)との組合せによる上塗塗料(B)は、加工性と塗膜硬度のバランスが優れており、かつ光照射等による樹脂劣化や酸性雨などによる加水分解を抑制できる為、具体的には、屋外バクロによる塗膜のワレ、変退色や光沢の劣化を防止できる。このようなからプレコート鋼板用の上塗塗料として好適である。
【0013】
さらに、クロムフリープライマー塗料(A)に、軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)、硬化剤(A2)及びクロムフリー防錆成分(A3)を含有するクロムフリープライマー塗料(A)を用いた塗膜を下層とすることによって、いっそう塗膜に加工性を付与することができる。さらに、平面部の耐食性のみならず、塗装金属板における加工部や端面部において耐食性に優れた複層塗膜が形成できる。クロムフリーにて前記諸性能に優れた塗装金属板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、表面に化成処理が施されていてもよい金属板上の片面又は両面上に、クロムフリープライマー塗料(A)による乾燥膜厚1〜10μmのプライマー硬化塗膜を形成し、プライマー硬化塗膜の少なくとも片面上に、特定の上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、乾燥膜厚5〜30μmの上塗り硬化塗膜を形成することを特徴とするクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法及びクロムフリー塗装金属板である。以下、詳細に説明する。
【0015】
[金属被塗物]
被塗物である金属板は、鉄、アルミニウム合金、真鍮、銅板、ステンレス鋼板、ブリキ板、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Feなどの)めっき鋼板、アルミニウムメッキ鋼板などの金属板;これらの金属板表面に燐酸塩処理、クロメート処理などの化成処理を施した表面処理金属板等が挙げられる。上記の金属板の他に、片面又は両面の最外層に金属板を有する「金属板/接着剤層/樹脂層/接着剤層/金属板」の層構成を有する金属樹脂複合板を用いることができる。
また、樹脂等の非金属物質の表面を蒸着等によって金属層で被覆した金属樹脂複合板も被塗物として用いることができ、さらに樹脂を溶融して前記金属樹脂複合板で挟むことによって「金属板/樹脂層/金属板」としたものも被塗物として用いることができる。
【0016】
なお、軽量性と耐久性の観点から、片面又は両面の最外層に金属板を有する「金属板/接着剤層/樹脂層/接着剤層/金属板」の層構成を有する金属樹脂複合板を用いることが好ましく、さらに金属板としては、アルミニウムが加工性、耐食性の面からより好ましい。
【0017】
[クロムフリープライマー塗料(A)]
上記の金属被塗物上に、必要に応じて、クロム系防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料(A)の塗膜が形成される。クロムフリープライマー塗料(A)には、ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系などのプライマー塗料を挙げることができる。この中でも、加工性、耐食性及びばくろ耐食性向上の面から、軟質有機成分(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)を反応させてなる、軟質有機成分で変性したビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)(以下、「変性樹脂(A1)」と略称することがある。)を用いたクロムフリープライマー塗料(A)が好ましい。
【0018】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1):
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)の製造における軟質有機成分(a1)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂と反応する官能基を有し、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)を可塑化できる有機成分であり、炭素数4〜36の脂肪族多塩基酸(a11)、ガラス転移温度が−20〜50℃のアクリル樹脂(a12)及びガラス転移温度が−20〜50℃のポリエステル樹脂(a13)のうち少なくとも1種である。
【0019】
上記炭素数4〜36の脂肪族多塩基酸(a11)は、脂環式多塩基酸も包含する、炭素数4〜36、好ましくは8〜36の飽和又は不飽和の脂肪族多塩基酸であって、例えば、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロテレフタル酸、1−テトラヒドロフタル酸、2−テトラヒドロフタル酸、3−テトラヒドロフタル酸、4−テトラヒドロフタル酸、3−テトラヒドロイソフタル酸、4−テトラヒドロイソフタル酸、1−テトラヒドロテレフタル酸、2−テトラヒドロテレフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環式ジカルボン酸及びその無水物;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデカンジカルボン酸、スベリン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ブラシリン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその無水物;ヘキサヒドロトリメリット酸等の3価以上の脂肪族多塩基酸;これらの酸のメチルエステル、エチルエステル等のごとき低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0020】
変性樹脂(A1)の製造に、軟質有機成分として用いることができるアクリル樹脂(a12)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する反応性基を有するアクリル樹脂(a12)が挙げられる。該アクリル樹脂(a12)には、ウレタン変性アクリル樹脂などの変性アクリル樹脂も包含される。該反応性基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などを挙げることができ、アクリル樹脂としては、なかでもカルボキシル基を有するアクリル樹脂が好適に用いられる。
【0021】
該カルボキシル基を有するアクリル樹脂は、カルボキシル基を有する重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを既知の方法、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法により共重合して得られるものであり、なかでも溶液重合法によることが重合の制御のし易さから好適である。上記その他の重合性不飽和モノマーは(メタ)アクリル酸エステルを含有するものである。変性樹脂(A)を構成する共重合モノマー成分合計に基いて、(メタ)アクリル酸エステルの使用量が30〜98質量%の範囲にあることが好適である。上記カルボキシル基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0022】
上記その他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有重合性不飽和モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのシクロアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリ レート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのジ(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルロリン、N−ビニル−2−ピロリドン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシラン、塩化ビニル、プロピレン、エチレン、C4〜C20のα−オレフイン等を挙げることができる。これらは、1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタアクリレート」を意味する。
【0023】
アクリル樹脂(a12)の数平均分子量は、ビスフェノール型エポキシ樹脂との相溶性や反応性等の観点から、溶液重合により合成されるものである場合、2,000〜40,000、特に3,000〜30,000の範囲内が好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0024】
アクリル樹脂(a12)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)との反応性、付着性の観点から、酸価が、3〜50mgKOH/g、特に5〜40mgKOH/gであるのが好ましい。また、アクリル樹脂(a12)の水酸基価は、塗膜の硬化性、耐水性の点から10〜300mgKOH/g、特に30〜250mgKOH/gが好ましい。さらに、アクリル樹脂(a12)のガラス転移温度(Tg)は、得られる塗膜の加工性、硬度のバランスの面から−20℃〜50℃、好ましくは−20℃〜40℃の範囲内にあることが好適である。本明細書において、樹脂のガラス転移温度(Tg)は、走査型示差熱分析(DSC)によるものである。
【0025】
ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)の製造に軟質有機成分(a1)として用いることができるポリエステル樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する反応性基を有するポリエステル樹脂(a13)が挙げられる。該ポリエステル樹脂(a13)には、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性ポリエステル樹脂のいずれも包含し、シリコン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂など変性されたポリエステル樹脂であってもよい。該反応性基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などを挙げることができ、ポリエステル樹脂としては、なかでもカルボキシル基を有するポリエステル樹脂が好適に用いられる。
【0026】
上記ポリエステル樹脂(a13)のうち、オイルフリーポリエステル樹脂は、直接エステル化法、エステル交換法、開環重合法などの公知の方法を用いて製造することができる。直接エステル化法の具体例としては、主に多塩基酸と多価アルコールとを重縮合する方法が挙げられる。
【0027】
多塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などから選ばれた1種以上の二塩基酸;無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが用いられ、酸成分として、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−tertブチル安息香酸などの一塩基酸も用いることができる。また、多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することもできる。
【0028】
ポリエステル樹脂(a13)の製造は、上記多塩基酸と多価アルコールとを水酸基に対して酸基が過剰となる配合比にて公知の方法で行なうことができるし、また、水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基に無水トリメリット酸や無水フタル酸などの多塩基酸を後付加反応させることによって行うこともできる。
【0029】
また、オイルフリーポリエステル樹脂は、多塩基酸の低級アルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換による縮重合によっても製造することができる。さらに、オイルフリーポリエステル樹脂は、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン類の開環重合によっても製造することができる。
【0030】
また、ポリエステル樹脂(a13)のうち、油変性ポリエステル樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂に油脂肪酸を反応したものであって、油脂肪酸としては例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸などがあげられ、ポリエステル樹脂と油脂肪酸との反応も公知の方法で行うことができ、その油長は、通常30%以下が好ましい。
【0031】
ポリエステル樹脂(a13)の数平均分子量は、ビスフェノール型エポキシ樹脂との相溶性や反応性等の観点から、1,000〜30,000、特に2,000〜20,000の範囲内にあることが好適である。ポリエステル樹脂の酸価は、ビスフェノール型エポキシ樹脂との反応性、付着性の観点から、3〜100mgKOH/g、特に5〜70mgKOH/gであるのが好ましい。また、ポリエステル樹脂(a13)のガラス転移温度(Tg)は、得られる塗膜の加工性、塗膜硬度の両立面から−20℃〜50℃、好ましくは−20℃〜40℃の範囲内にあることが好適である。
【0032】
軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)の製造に用いられるビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)は、1分子中にエポキシ基を1個以上、好ましくは2個以上有するビスフェノール型エポキシ樹脂であり、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に高分子量まで縮合させてなる樹脂、エピクロルヒドリンとビスフェノールとを、必要に応じてアルカリ触媒などの触媒の存在下に縮合させて低分子量のエポキシ樹脂とし、この低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールとを重付加反応させることにより得られた樹脂のいずれであってもよい。
【0033】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)は、通常、数平均分子量が350〜5,000、好ましくは400〜4,000であり、エポキシ基含有量が0.5〜15.4ミリモル/g、好ましくは0.8〜10ミリモル/gが好適である。
【0034】
上記ビスフェノールとしては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン[ビスフェノールB]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2−ヒドロキシ−1,3−オキシ−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンなどを挙げることができ、なかでもビスフェノールA、ビスフェノールFが好適に使用される。上記ビスフェノール類は、1種で又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0035】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン製の、jER828、jER812、jER815、jER820、jER834、jER1001、jER1004、jER1007、jER1009、jER1010、jER4004P、jER4007P、jER4210;旭チバ社製の、アラルダイトAER6099;及び三井化学(株)製の、エポミックR−309などを挙げることができる。
【0036】
軟質有機成分(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とを反応させて変性樹脂(A)を製造する方法は、特に限定されるものではない。軟質有機成分(a1)として、例えば、2種類のものが使用されるとき、2種類の軟質有機成分(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とを同時に一括で反応させる方法、軟質有機成分(a1)1種とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)とを反応させた後、残りの軟質有機成分を反応させる方法などを挙げることができる。
【0037】
上記反応は、例えば、これら各成分を溶解できる溶媒中において、必要に応じて反応触媒の存在下で、通常、100〜150℃にて1〜5時間反応させることによって好適に行うことができる。
【0038】
上記反応触媒としては、例えば、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド、トリフェニルベンジルフォスフォニウムクロライド等の4級塩触媒;トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類等を挙げることができる。
上記反応において、軟質有機成分(a1)の反応性基がカルボキシル基である場合には、(ビスフェノール型エポキシ樹脂中のエポキシ基)/(軟質有機成分中のカルボキシル基)の当量比が、10/1〜1/1、好ましくは5/1〜2/1の範囲内にあることが好適である。
【0039】
アクリル樹脂(a12)が、変性樹脂(A1)の合成反応において、カルボキシル基以外のエポキシ基と反応する反応性基を有する場合、各反応性基の割合は、上記式において、「軟質有機成分中のカルボキシル基」を「カルボキシル基以外のエポキシ基と反応する反応性基」に置換した式の範囲内にあることが好適である。
【0040】
変性樹脂(A1)を製造する際の軟質有機成分(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)の配合割合は、これら両者の合計100質量部を基準として下記の範囲内である。軟質有機成分(a1):5〜50質量部、好ましくは10〜40質量部、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a2):50〜95質量部、好ましくは60〜90質量部。
【0041】
さらに、変性樹脂(A1)は、軟質有機成分(a1)及びビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)を反応させた後、エポキシ基が残存する場合、エポキシ基を封鎖するため、安息香酸、サリチル酸或いは2級アミン化合物などの封鎖剤を反応させたものであってもよい。また、場合によっては、封鎖剤を、軟質有機成分(a1)とビスフェノール型エポキシ樹脂(a2)の反応時に反応させることもできる。変性樹脂(A1)は、軟質成分を構造中に有することで、架橋塗膜の応力緩和能力の発現に寄与し、加工性、耐食性向上に寄与するものと考えられる。
【0042】
架橋剤(A2):
架橋剤(A2)は、前記変性樹脂(A1)と反応し、硬化塗膜を形成するものであり、加熱などにより変性樹脂(A1)と反応して硬化させることができるものであれば特に制限なく使用することができるが、なかでもアミノ樹脂、フェノール樹脂及びブロック化されていてもよいポリイソシアネート化合物が好適である。これらの架橋剤は、1種で又は2種以上組合せて使用することができる。上記アミノ樹脂は、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグラナミン、ステログタナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるアミノ樹脂が挙げられ、この中でも加工性の面からメラミン樹脂が好ましい。
【0043】
メラミン樹脂は、メチロール化メラミンのメチロール基の一部又は全部を炭素数1〜8の1価アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等で、エーテル化した部分エーテル化又はフルエーテル化メラミン樹脂があげられる。
【0044】
これらは、メチロール基がすべてエーテル化されているか、又は部分的にエーテル化され、メチロール基やイミノ基が残存しているものも使用できる。メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等のアルキルエーテル化メラミンを挙げることができ、1種のみ、又は必要に応じて2種以上を併用してもよい。なかでもメチロール基の少なくとも一部をアルキルエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂が好適である。
【0045】
このようなメラミン樹脂の市販品としては、例えばサイメル202、サイメル232、サイメル235、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル272、サイメル285、サイメル301、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル701、サイメル703、サイメル1141(以上、日本サイテックインダストリーズ社製)、ユーバン20SE60(三井化学社製、商品名、平均重合度3を越える)等が市販されている。
【0046】
上記架橋剤(A2)として使用できるフェノール樹脂は、変性樹脂(A)と架橋反応するものであり、フェノール成分とホルムアルデヒド類とを反応触媒の存在下で加熱して縮合反応させてメチロール基を導入して得られるメチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部または全てをアルコールでアルキルエーテル化してなるレゾール型フェノール樹脂が挙げられる。
【0047】
レゾール型フェノール樹脂の製造においては、出発原料である上記フェノール成分として、2官能性フェノール化合物、3官能性フェノール化合物、4官能性以上のフェノール化合物などを使用することができる。
【0048】
上記フェノール化合物として、例えば、2官能性フェノール化合物としては、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノールなどを挙げることができ、3官能性フェノール化合物としては、石炭酸、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノールなどが挙げられ、4官能性フェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどを挙げることができる。中でも耐スクラッチ性の向上のためには3官能性以上のフェノール化合物、特に石炭酸及び/又はm−クレゾールを用いることが好ましい。これらのフェノール化合物は1種で、又は2種以上混合して使用することができる。
【0049】
フェノール樹脂の製造に用いられるホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド又はトリオキサンなどが挙げられ、1種で又は2種以上混合して使用することができる。
【0050】
メチロール化フェノール樹脂のメチロール基の一部をアルキルエーテル化するのに用いられるアルコールとしては、炭素原子数1〜8個、好ましくは1〜4個の1価アルコールを好適に使用することができる。 好適な1価アルコールとしてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノールなどを挙げることができる。
【0051】
フェノール樹脂は、変性樹脂(A1)との反応性などの点からベンゼン核1核当りアルコキシメチル基を平均して0.5個以上、好ましくは0.6〜3.0個有するものが適している。
【0052】
上記硬化剤として使用できるブロック化されていてもよいポリイソシアネート化合物におけるブロック化されていないポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネートもしくはトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの如き脂肪族ジイソシアネート類;水素添加キシリレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネートの如き環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートもしくは4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードMDIの如き芳香族ジイソシアネート類の如き有機ジイソシアネートそれ自体、またはこれらの各有機ジイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等との付加物、あるいは上記した如き各有機ジイソシアネート同志の環化重合体、更にはイソシアネート・ビウレット体等が挙げられる。
【0053】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロック化剤によってブロック化したものである。上記ブロック化剤としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノールなどのフェノール系;ε−カプロラクタム;δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどラクタム系;メタノール、エタノール、n−,i−又はt−ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコールなどのアルコール系;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系などのブロック化剤を好適に使用することができる。上記ポリイソシアネート化合物と上記ブロック化剤とを混合することによって容易に上記ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロックすることができる。
【0054】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)と上記架橋剤(A2)との配合割合は、(A1)及び(A2)成分の合計固形分100質量部に基づいて、ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)が55〜95質量部、さらには60〜95質量部であって、架橋剤(A2)が5〜45質量部、さらには5〜40質量部の範囲内であることが硬化性、加工性、耐食性などの点から好適である。
【0055】
なおクロムフリープライマー塗料(A)の硬化性を上げるため、必要に応じて硬化触媒を配合することができる。架橋剤(A2)がアミノ樹脂、特に低分子量の、メチルエーテル化またはメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂を含有する場合には、硬化触媒としてスルホン酸化合物又はスルホン酸化合物のアミン中和物が好適に用いられる。スルホン酸化合物の代表例としては、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などを挙げることができる。
【0056】
スルホン酸化合物のアミン中和物におけるアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。これらのうち、塗料の安定性、反応促進効果、得られる塗膜の物性などの点から、p−トルエンスルホン酸のアミン中和物及び/又はドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物が好適である。
【0057】
架橋剤(A2)がフェノ ール樹脂である場合、硬化触媒として、上記スルホン酸化合物又はスルホン酸化合物のアミン中和物が好適に用いられる。
【0058】
架橋剤(A2)がブロック化ポリイソシアネート化合物である場合には、硬化剤であるブロック化ポリイソシアネート化合物のブロック剤の解離を促進する硬化触媒が好適であり、好適な硬化触媒として、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、2−エチルヘキサン酸鉛などの有機金属触媒などを挙げることができる。架橋剤(A2)が2種以上の架橋剤を組合せる場合には、各架橋剤に有効な硬化触媒を組合せて使用することができる。
【0059】
クロムフリー系防錆成分(A3):
クロムフリープライマー塗料(A)には、人体への健康面、環境保護の観点から、クロムフリー系防錆成分(A3)を用いる。クロムフリー系防錆成分(A3)には、例えば、燐酸亜鉛、トリポリ燐酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛珪酸カルシウム、五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム、メタバナジン酸アンモニウム、バナジン酸リン、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、第2リン酸マグネシウム、酸化マンガンと酸化バナジウムとの焼成物、リン酸カルシウムと酸化バナジウムとの焼成物、吸油量が30〜200ml/100g、細孔容積が0.05〜1.2ml/gであるシリカ微粒子、等を挙げることができる。これらの防錆成分(A3)は1種で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0060】
クロムフリープライマー塗料(A)のクロムフリー系防錆成分(A3)は、なかでも下記のバナジウム化合物(1)、リン酸系金属塩(2)及び珪素含有化合物(3)の組合わせを好適に用いることができる。
【0061】
バナジウム化合物(1)
バナジウム化合物(1)は、五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物である。五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムは、5価バナジウムイオンの水への溶出性に優れており、バナジウム化合物(1)から放出される5価バナジウムイオンが、素材金属と反応したり、他の防錆顔料混合物からのイオンと反応することにより耐食性向上に効果的に働く。
【0062】
リン酸系金属塩(2)
リン酸系金属塩(2)は、リン酸金属塩、リン酸水素金属塩及びトリポリリン酸金属塩のうちの少なくとも1種である。リン酸系金属塩の金属は、特に制限されるものではなく、好適な金属として、Ca、Zn、Al又はMgを挙げることができ、なかでもCaが特に好適である。
【0063】
上記リン酸系金属塩としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素アルミニウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、トリポリリン酸ニ水素アルミニウムなどを挙げることができる。これらのうち、リン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムが耐食性の面から特に好適である。リン酸系金属塩(2)から放出されるリン酸イオン、Ca、Zn、Al又はMgなどの金属イオンが耐食性の向上に効果的に働く。
【0064】
珪素含有化合物(3)
珪素含有化合物(3)は、金属珪酸塩及びシリカ微粒子のうちの少なくとも1種である。金属珪酸塩は、二酸化珪素と金属酸化物とからなる塩であり、オルト珪酸塩、ポリ珪酸塩などのいずれであってもよい。珪酸塩としては、例えば、珪酸亜鉛、珪酸アルミニウム、オルト珪酸アルミニウム、水酸化珪酸アルミニウム、珪酸アルミニウムカルシウム、珪酸アルミニウムナトリウム、珪酸アルミニウムベリリウム、珪酸ナトリウム、オルト珪酸カルシウム、メタ珪酸カルシウム、珪酸カルシウムナトリウム、珪酸ジルコニウム、オルト珪酸マグネシウム、メタ珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウムカルシウム、珪酸マンガン、珪酸バリウム、カンラン石、ザクロ石、トルトバイタイト、イキョク鉱、ベニトアイト、ネプチュナイト、リョクチュウ石、トウキ石、ケイカイ石、バラキ石、トウセン石、ゾノトラ石、タルク、ギョガン石、アルミノ珪酸塩、ホウ珪酸塩、ベリロ珪酸塩、チョウ石、フッ石などを挙げることができる。金属珪酸塩としては、なかでもオルト珪酸カルシウム、メタ珪酸カルシウムが好適である。
【0065】
シリカ微粒子としては、シリカ微粒子である限り特に制限なく使用でき、例えば、表面が無処理のシリカ微粉末、表面が有機物で処理されたシリカ微粉末、カルシウムイオン交換シリカ微粒子、有機溶剤分散性コロイダルシリカなどを挙げることができる。
【0066】
表面が無処理又は有機物で処理されたシリカ微粒子としては、平均粒子径0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmを有するシリカ微粉末、有機溶剤分散性コロイダルシリカが挙げられる。シリカ微粉末としては、吸油量が30〜350ml/100g、好ましくは30〜150ml/100gの範囲内にあるものを好適に使用することができ、市販品として、サイリシア710、サイリシア740、サイリシア550、アエロジルR972(以上、いずれも富士シリシア化学(株)製)、ミズカシルP−73(水澤化学工業(株)製)、ガシル200DF(クロスフィールド社製)などを挙げることができる。
【0067】
カルシウムイオン交換シリカは、微細な多孔質のシリカ担体にイオン交換によってカルシウムイオンが導入されたシリカ微粒子である。カルシウムイオン交換シリカの市販品としては、SHIELDEX(シールデックス、登録商標)C303、同AC−3、 同AC−5(以上、いずれもW.R.Grace & Co.社製)などを挙げることができる。
【0068】
カルシウムイオン交換シリカから放出されるカルシウムイオンは、電気化学的作用、種々の塩生成作用にかかわり、耐食性の向上に効果的に働く。また、塗膜中に固定化されるシリカは、腐食雰囲気下での塗膜の剥離抑制などに効果的に働く。有機溶剤分散性コロイダルシリカは、オルガノシリカゾルとも呼称され、アルコール類、グリコール類、エーテル類などの有機溶剤中に、粒子径が約5〜120nm程度のシリカ微粒子が安定に分散されたものであって、市販品としては、オスカル(OSCAL)シリーズ(触媒化成(株)製)、オルガノゾル(日産化学(株)製)などを挙げることができる。これらのうち、なかでもカルシウムイオン交換シリカ微粒子が好適である。各金属珪酸塩及び各シリカ微粒子は、1種で又は2種以上を組合せて珪素含有化合物(3)として使用することができる。
【0069】
なおクロムフリープライマー塗料(A)において、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)及び架橋剤(A2)の合計固形分100質量部に対して、クロムフリー防錆成分(A3)の量が10〜150質量部、好ましくは15〜90質量部であることが耐食性の観点から好ましく、なかでもクロムフリー防錆成分(A3)として、上記バナジウム化合物(1)、珪素含有化合物(2)及びリン酸系金属塩(3)が下記範囲内にあることが、耐食性を向上の面から好適である。
【0070】
バナジウム化合物(1):3〜50質量部、好ましくは5〜30質量部、
リン酸系金属塩(2):3〜50質量部、好ましくは5〜30質量部、
珪素含有化合物(3):3〜50質量部、好ましくは5〜30質量部、
本発明塗料組成物においては、防錆顔料混合物として、これら(1)、(2)及び(3)を所定量組合せることによって、相乗的に耐食性、特にばくろ耐食性を向上させることができるものである。
【0071】
クロムフリープライマー塗料(A)には、前記ビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)、架橋剤(A2)、クロムフリー防錆成分(A3)及び必要に応じて配合される硬化触媒以外に、付着付与剤、塗料分野で使用できる着色顔料、体質顔料、有機溶剤、沈降防止剤、消泡剤、塗面調整剤などの添加剤等を必要に応じて配合することができる。
【0072】
上記付着付与剤としては、2級または3級のアミノ基を有するエポキシ樹脂、2級または3級のアミノ基を有するアクリル樹脂を挙げることができる。また、架橋剤(A2)の項で説明したレゾール型フェノール樹脂も付着付与剤としての働きを有する。
【0073】
上記2級または3級アミノ基を有するエポキシ樹脂とは、エポキシ樹脂骨格と2級または3級アミノ基とを有する樹脂であり、エポキシ樹脂骨格としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂骨格、ノボラックエポキシ樹脂骨格などを挙げることができる。
【0074】
2級または3級アミノ基を有するエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂やウレタン変性エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂中のグリシジル基などのエポキシ基に、アミン化合物を付加して2級または3級アミノ基を導入することにより得ることができる。エポキシ樹脂としては、アミン化合物との反応性の面から、通常、エポキシ当量200〜1,000であることが好適であり、なかでもビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂が好ましい。
【0075】
ビスフェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、通常、エポキシ当量400〜1000程度のビスフェノール型エポキシ樹脂と1級又は2級のアミン化合物とを反応させることによって、樹脂骨格中や末端に2級或いは3級アミノ基を有するエポキシ樹脂を得る事ができる。ノボラックエポキシ樹脂を用いる場合は、通常、エポキシ当量200〜500程度のノボラックエポキシ樹脂を用いるが、1級アミン化合物と反応させると製造上ゲル化し易いという理由から、高いアミン濃度の2級または3級アミノ基を有するノボラック型エポキシ樹脂を得る場合には、通常、N−メチルエタノールアミンやジエタノールアミンのような2級アミン化合物とノボラックエポキシ樹脂とを反応させることが好ましい。
【0076】
アミノ基を有するアクリル樹脂としては、例えば、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ基を有するアクリルモノマーを共重合したアクリル樹脂と、1級又は2級アミン化合物を反応させることによって得ることができる。また、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートやN,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートのような3級アミノ基を有するアクリレート又はメタクリレートモノマーを共重合したアクリル樹脂であってもよい。
【0077】
付着付与剤のうち、耐スクラッチ性等で必要とされる塗膜の強靭性の観点からはエポキシ樹脂系が好適であり、耐水性や耐薬品性などの観点からはアクリル樹脂系が好適であり、必要に応じて2種以上の付着付与樹脂を併用することもできる。
【0078】
上記着色顔料としては、例えばシアニンブルー、シアニングリーン、アゾ系やキナクリドン系などの有機赤顔料などの有機着色顔料;チタン白、チタンエロー、ベンガラ、カーボンブラック、各種焼成顔料などの無機着色顔料を挙げることができ、なかでもチタン白を好適に使用することができる。上記体質顔料としては、例えばタルク、クレー、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
【0079】
クロムフリープライマー塗料(A)に配合できる前記有機溶剤は、必要に応じて配合されるものであり、軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)及び架橋剤(A2)を溶解ないし分散できるものが使用でき、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0080】
クロムフリープライマー塗料(A)による塗膜形成は、通常、金属板上に、クロムフリープライマー塗料(A)をロールコーターなどにより乾燥膜厚が1〜10μm、好ましくは2〜8μmとなるように塗装し、素材到達最高温度(PMT)160〜250℃で15〜180秒の範囲内、特にPMT180〜230℃で20〜120秒、焼付け乾燥することにより硬化塗膜を形成する。
【0081】
[上塗り塗料(B)]
本発明のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法は、前記クロムフリープライマー塗料(A)による硬化塗膜の少なくとも片面上に、上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、上塗り硬化塗膜を形成することを特徴としている。
上記、上塗り塗料(B)は、特定の水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、ブロックされた脂肪族イソシアネート化合物を含む架橋剤(B2)、並びに該樹脂(B1)と該架橋剤(B2)の固形分合計100質量部に対して、顔料成分(B3)を5〜120質量部含有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0082】
水酸基含有ポリエステル樹脂(B1):
本発明に使用する水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)は、多塩基酸成分(b1)と多価アルコール成分(b2)を構成成分として、(i)多塩基酸成分(b1)の質量合計を基準にして、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸から選ばれる少なくとも1種の多塩基酸の割合が90〜100質量%、好ましくは92〜100質量%、さらに95〜100質量%含有する。
【0083】
かつ(ii)多価アルコール成分(b2)の質量合計を基準にして、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水添ビスフェノールAから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールが50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは85〜100質量%を含有することを特徴とする。これらの特定の多塩基酸成分(b1)と多価アルコール成分(b2)とを反応することによって、特に、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れた塗膜を得ることができる。
【0084】
なお、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸以外の多塩基酸成分(b1)は、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ヘット酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、及びこれらの無水物などの1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する化合物が挙げられる。
【0085】
一方、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水添ビスフェノールA以外の多価アルコール成分(b2)は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルなどのグリコール類、これらのグリコール類にε−カプロラクトンなどのラクトン類を付加したポリラクトンジオール、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのポリエステルジオール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどが挙げられる。
【0086】
ここで、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水添ビスフェノールAから選ばれる少なくとも1種の多価アルコール成分(b2)を必須成分として、さらにその他の多価アルコール成分を用いる場合は、トリメチロールプロパン及び/又はグリセリンであることが、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れる塗膜を得る為にも好ましい。
【0087】
なお水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)の数平均分子量(注1)は、1,000〜35,000、好ましくは2,000〜25,000、水酸基価5〜80mgKOH/g、好ましくは10〜70mgKOH/gが好適である。さらに、ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(注2)5℃〜50℃好ましくは10℃〜40℃が好適である。上記範囲であることによって、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れる塗膜を得ることができる。
【0088】
(注1)数平均分子量:前記、クロムフリープライマー塗料(A)に関する記載と同様に、ゲル透過クロマトグラフィ(GPC)によって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0089】
(注2)ガラス転移温度:前記、クロムフリープライマー塗料(A)に関する記載と同様に、示差走査型熱分析(DSC)によって求めた。
【0090】
ブロック化脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物を含む架橋剤(B2):
本発明の上塗り塗料(B)は、ブロック化脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物を含む架橋剤(B2)(以下、「架橋剤(B2)と略することがある」であることが特徴である。なおブロック化ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物である。
ここで、脂肪族ポリイソシアネート化合物は、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。脂環族ポリイソシアネート化合物は、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネートなどが挙げられる。この中でも、架橋剤(B2)として、ヘキサメチレンイソシアネート(HDI)のブロック化物を用いることが、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性の面から好ましい。
【0091】
前記、ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものであり、そして付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常100〜200℃)に加熱した際、ブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが望ましい。
ブロックされた脂肪族イソシアネート化合物で使用されるブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;等が挙げられる。
【0092】
架橋剤(B2)におけるブロックされた脂肪族イソシアネート化合物の割合は、架橋剤(B2)の樹脂固形分を基準にして、50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%であることが、特定の水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)との組合せにおいて、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れた塗膜を得る為にも好ましい。さらに、架橋剤(B2)には、従来から公知のブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂及び尿素樹脂等を併用できる。
従来から公知のブロック化ポリイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ポリイソシアネートに、前記ブロック剤によってブロックしたブロック化ポリイソシアネート化合物を用いることができる。
【0093】
芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4'−および/または4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4'’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−およびp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートなどが挙げられる。
【0094】
また併用できるメラミン樹脂としては、メチロール化メラミンのメチロール基の一部又は全部を炭素数1〜8の1価アルコール、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等で、エーテル化した部分エーテル化又はフルエーテル化メラミン樹脂があげられる。
これらは、メチロール基がすべてエーテル化されているか、又は部分的にエーテル化され、メチロール基やイミノ基が残存しているものも使用できる。
メチルエーテル化メラミン、エチルエーテル化メラミン、ブチルエーテル化メラミン等のアルキルエーテル化メラミンを挙げることができ、1種のみ、又は必要に応じて2種以上を併用してもよい。なかでもメチロール基の少なくとも一部をアルキルエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂が好適である。
【0095】
このようなメラミン樹脂の市販品としては、例えばサイメル202、サイメル232、サイメル235、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル272、サイメル285、サイメル301、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル701、サイメル703、サイメル1141(以上、日本サイテックインダストリーズ社製)、ユーバン20SE60(三井化学社製、商品名、平均重合度3を越える)等が市販されている。この中でも親水基(例えば、イミノ基)が残存しないメラミン樹脂が耐食性向上に好ましく、例えば、メチルエーテル化メラミン樹脂の併用が耐食性の向上のためによい。
【0096】
ここで、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)と架橋剤(B2)の配合割合としては、両成分の固形分合計100質量部を基準にして、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)65〜95質量部、好ましくは70〜90質量部、架橋剤(B2)5〜35質量部、好ましくは10〜30質量部である。
【0097】
また、架橋剤(B2)におけるブロック化脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物の割合は、架橋剤(B2)の固形分を基準にして、50〜100質量%、好ましくは70〜100質量%であることが、塗料安定性、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性の点から好適である。
本発明の塗膜形成方法に用いる上塗り塗料(B)は、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、架橋剤(B2)に加えて、顔料成分(B3)を含有する。
【0098】
上記顔料成分(B3)は、塗料分野で通常使用されている、例えば、チタン白、亜鉛華などの白色顔料;シアニンブルー、インダスレンブルーなどの青色顔料;シアニングリーン、緑青などの緑色顔料;アゾ系やキナクリドン系などの有機赤色顔料、ベンガラなどの赤色顔料;ベンツイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系及びキノフタロン系などの有機黄色顔料、チタンイエロー、黄鉛などの黄色顔料;カーボンブラック、黒鉛、松煙などの黒色顔料;等の着色顔料。アルミニウウム粉、銅粉、ニッケル粉、酸化チタン被覆マイカ粉、酸化鉄被覆マイカ粉及び光輝性グラファイト;などの光輝性顔料。クレー、タルク、バリタ、炭酸カルシウム、シリカ;等の体質顔料、が挙げられる。
顔料成分(B3)の配合量は、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)と架橋剤(B2)の固形分合計100質量部に対して、耐候性、加工性及び耐食性の面から5〜120質量部、好ましくは10〜100質量部、さらに好ましくは20〜80質量部の範囲で使用される。
【0099】
上塗り塗料(B)には、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、架橋剤(B2)、顔料成分(B3)のほかに、必要に応じて、硬化触媒、消泡剤、表面調整剤、有機樹脂微粒子、溶媒、紫外線吸収剤及び光安定化剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0100】
上塗り塗料(B)に配合する有機樹脂微粒子は、塗膜形成時の焼付けによって完全には溶融しない、該樹脂微粒子中に着色顔料を含有しないものである。樹脂種としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン、及びナイロン11やナイロン12などのポリアミドなどを挙げることができる。
具体的には、テクポリマー MBX−12(積水化成品工業社製、平均粒子径12μm、アクリル系樹脂)、テクポリマー MBX−15(積水化成品工業社製、平均粒子径15μm、アクリル系樹脂)、テクポリマー MBX−20(積水化成品工業社製、平均粒子径20μm、アクリル系樹脂)、テクポリマー MB30X−20(積水化成品工業社製、平均粒子径20μm、アクリル系樹脂)、テクポリマー BM30X−20(積水化成品工業社製、平均粒子径20μm、アクリル系樹脂)、Diasphere MPB−X10(KOLON社製、商品名、平均粒径10μm、アクリル系樹脂)が挙げられる。
【0101】
上塗り塗料(B)における有機樹脂微粒子の配合量は、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、架橋剤(B2)の固形分合計100質量部に対して、1〜40質量部、好ましくは2〜15質量部であることが、塗料安定性や加工性などの点から適当である。
【0102】
上塗り塗料(B)に配合される溶媒は、塗装性の改善などのため必要に応じて配合されるものであり、上記皮膜形成性樹脂成分を溶解ないし分散できるものが使用でき、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤、水などを挙げることができ、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0103】
上記硬化触媒は、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、架橋剤(B2)との硬化反応を促進するため必要に応じて配合されるものであり、架橋剤(B2)の種類に応じて適宜選択して使用することができる。
【0104】
架橋剤(B2)にメラミン樹脂を併用する場合には、特に低分子量の、メチルエーテル化またはメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂である場合には、硬化触媒として、酸触媒、例えばスルホン酸化合物又はスルホン酸化合物のアミン中和物が好適に用いられる。スルホン酸化合物の代表例としては、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸などを挙げることができる。スルホン酸化合物のアミン中和物におけるアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。これらのうち、塗料の安定性、反応促進効果、得られる塗膜の物性などの点から、p−トルエンスルホン酸のアミン中和物及び/又はドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物が好ましい。 ブロックされた脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物を含む架橋剤(B2)には、ブロック剤の解離を促進する硬化触媒を好適に使用することができ、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2−エチルヘキサノエート)、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサンなどの有機金属触媒などが挙げられる。 この中でも、テトラ−n−ブチル−1,3−ジアセキトシジスタノキサンが、硬化性と耐食性の面から好ましい。
【0105】
なお硬化触媒は、水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)と架橋剤(B2)の固形分合計量100質量部に対して、0.1〜5.0質量部、好ましくは0.2〜1.5質量部が、塗料安定性と塗膜硬度向上の面から適している。
【0106】
また、上塗り塗料(B)には、耐候性を向上させるため必要に応じて、紫外線吸収剤及び光安定剤のいずれか一方、もしくは両方を塗料組成物に添加することができる。
かかる紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系、トリアジン系、アニリド系、ベンゾフェノン系、シュウ酸アニリド系、シアノアクリレート系が挙げられ、市販品としては「チヌビン1130」、「チヌビン400」(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、「CYASORBUV−1164L」(日本サイテックインダストリーズ社製)、「SANDUVOR3206」(クラリアント社製)が例示できる。光安定化剤としてはヒンダードアミン系が好適であり、市販品としては「チヌビン123」、「チヌビン144」(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、「サノールLS−292」(三共ライフテック社製)が例示できる。
【0107】
上塗塗料(B)の塗装は、クロムフリープライマー塗料(A)の硬化塗膜上に、上塗り塗料(B)を、カーテン塗装法やロール塗装法などにより硬化膜厚が5〜30μm、好ましくは10〜20μmとなるように塗装し、素材到達最高温度(PMT)160〜250℃で15〜180秒の範囲内、特に素材到達最高温度(PMT)180〜230℃で20〜120秒の範囲内の条件で、焼付け乾燥することにより乾燥塗膜を形成する。前記の工程によって、クロムフリープライマー塗料(A)の塗膜上に、上塗り塗料(B)の塗膜を形成した複層塗膜が得られる。
【0108】
なお、上塗り塗料(B)の単独膜のヤング率は、20,000kgf/cm以上、好ましくは22,000〜30,000kgf/cm、伸び率4%以上、好ましくは5%以上の従来にない塗膜物性が得られ、塗膜性能の向上に寄与しているものと考えられる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものとする。
【0110】
[クロムフリープライマー塗料(A)の製造例]
合成例1 アクリル樹脂AC1溶液の製造(アクリル樹脂(a12))
攪拌機、コンデンサー、温度計、チッ素導入管及び滴下装置を備えたフラスコにスワゾール1000(丸善石油化学(株)製、高沸点芳香族石油系溶剤)65.0部を投入し、攪拌しながら反応容器内の温度を110℃まで上げ、110℃の温度に保持しながら下記に示すモノマーなどの原料の混合物を3時間かけて滴下した。
【0111】
スチレン 18.4部
メタクリル酸メチル 31.2部
アクリル酸n−ブチル 37.5部
アクリル酸2−ヒドロキシエチル 11.0部
アクリル酸 1.9部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 1.7部
滴下終了後に、更に2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.5部を添加し、同温度にて更に2時間反応させた後にシクロヘキサノン35.0部を加え、固形分50%の軟質アクリル樹脂AC1溶液を得た。アクリル樹脂AC1は、酸価15mgKOH/g、水酸基価53mgKOH/g、ガラス転移温度5℃、数平均分子量約10,000であった。
【0112】
合成例2 ポリエステル樹脂PE1溶液(ポリエステル樹脂(a13))
攪拌装置、加熱装置、温度計、分離装置及び留出液貯蔵槽を備えた反応装置に下記の原料混合物を入れ、加熱を開始した。
【0113】
ネオペンチルグリコール 729部
ヘキサヒドロ無水フタル酸 704部
加熱開始後、攪拌可能になったら、攪拌を開始し、縮合水を抜きながら240℃まで昇温した後、同温度で保持し反応を続けた。1.5時間程度経過し水の流出が止まったところで、反応を促進するためキシレン40部を投入し脱水縮合を続け、酸価51mgKOH/gになるまで反応を行った。次いで冷却し、シクロヘキサノン417部を添加して希釈を行い、固形分70%のポリエステル樹脂PE1溶液を得た。得られたポリエステル樹脂PE2は、ガラス転移温度30℃、数平均分子量2,200を有していた。
【0114】
合成例3 変性ビスフェノール型エポキシ樹脂ME1溶液の製造
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えたフラスコに、シクロヘキサノン43部、jER1004(注3)70部(固形分)を配合し、温度130℃に加熱し、エポキシ樹脂を溶解したことを確認した後、ダイマー酸15.0部、合成例1で得た50%軟質アクリル樹脂AC1溶液30部(固形分量で15部)及び臭化テトラエチルアンモニウム0.5部を加え、温度130℃に保持し3〜4時間反応させた。樹脂酸価が1mgKOH/g以下であることを確認し、混合溶剤1[シクロヘキサノン/スワゾール1000(丸善石油化学(株)製、高沸点芳香族石油系溶剤)=1/2(質量比)]を加え、固形分40%の樹脂溶液ME1を得た。
【0115】
(注3)jER1004:ジャパンエポキシレジン社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量約925。
【0116】
合成例4 変性ビスフェノール型エポキシ樹脂ME2溶液の製造
攪拌機、コンデンサー、温度計を備えたフラスコに、シクロヘキサノン60部、jER4004P(注4)70部(固形分)を配合し、温度130℃に加熱し、エポキシ樹脂を溶解した。エポキシ樹脂が完全に溶解したことを確認した後、ダイマー酸15.0部、合成例2で得た固形分70%のポリエステル樹脂PE1溶液21.4部(固形分量で15部)及び臭化テトラエチルアンモニウム0.5部を加え、温度130℃に保持し3〜4時間反応させた。樹脂酸価が1mgKOH/g以下であることを確認し、混合溶剤1[シクロヘキサノン/スワゾール1000(丸善石油化学(株)製、高沸点芳香族石油系溶剤)=1/2(質量比)]を加え、固形分40%の樹脂溶液ME2を得た。
【0117】
(注4)jER4004P:ジャパンエポキシレジン社製、商品名、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量約880。
【0118】
合成例5 アクリル樹脂AC2溶液の製造
攪拌機、温度計及び冷却器が取り付けてある反応容器中にプロピレングリコールモノメチルエーテル100部を投入し、攪拌しながら反応容器内の温度を80℃まで上げた。80℃の温度に保持しながら下記に示すモノマーなどの原料の混合物を3時間かけて滴下し、さらに同温度で3時間保持し熟成し、固形分35%のアクリル樹脂AC2溶液を得た。
アクリル樹脂AC2は、酸価0mgKOH/g、水酸基価120mgKOH/g、ガラス転移温度11℃、数平均分子量約10,000であった。
【0119】
2−ヒドロキシエチルアクリレート 15.0部
2−ヒドロキシエチルメタアクリレート 11.0部
スチレン 20.0部
メチルメタクリレート 27.0部
n−ブチルアクリレート 27.2部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 1.5部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 85.7部。
【0120】
合成例6 ポリエステル樹脂PE2溶液の合成
撹拌機、温度計、還流冷却器等の備わった反応槽に、下記の原料混合物を入れ、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させ、生成した水を精留塔を通して留去した。230℃で1時間保持後、キシロールを添加し230℃でキシロールを還流させながら脱水してエステル化反応を行った。
【0121】
エチレングリコール 55.8部
ネオペンチルグリコール 10.5部
イソフタル酸 157.7部
酸価約0mgKOH/gになった時点で140℃まで冷却し2時間保持し、冷却後、スワゾール1500(丸善石油化学(株)製、高沸点芳香族石油系溶剤)を加えて固形分35%のポリエステル樹脂PE2溶液を得た。得られた樹脂は、数平均分子量3,800、ガラス転移温度45℃、水酸基価30mgKOH/gであった。
【0122】
合成例7 レゾール型フェノール樹脂D溶液の製造
反応容器に、p−クレゾール100部、37%ホルムアルデヒド水溶液178部及び水酸化ナトリウム1部を配合し、60℃で時間反応させた後、減圧下、50℃で1時間脱水した。
次いで、n−ブタノール100部とリン酸3部を加え、110〜120℃で2時間反応を行った。反応終了後、得られた溶液を濾過して生成したリン酸ナトリウムを濾別し、固形分50質量%のレゾール型フェノール樹脂D溶液を得た。得られた樹脂は、数平均分子量880で、ベンゼン核1核当たり平均メチロール基数が0.4個及び平均アルコキシメチル基数が1.0個であった。
【0123】
合成例8 アミノ基含有エポキシ樹脂D溶液の製造
攪拌機、加温・温度制御装置を具備した反応容器に、酢酸メトキシブチル溶剤65重量部、jER1002(注5)35部、2−アミノエタノール1.09部を仕込み、窒素雰囲気下にて90℃に加温し攪拌しながら2時間反応を行った。次いで、ジエタノールアミン1.89部を添加し、更に90℃にて1時間反応を行った後、酢酸メトキシブチル溶剤にて希釈し、固形分35%のアミノ基含有エポキシ樹脂D溶液を得た。
【0124】
(注5)jER1002:ジャパンエポキシレジン社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名、エポキシ当量650。
【0125】
製造例A 裏面用塗料の製造
jER1009F(注6)80部を混合溶剤2[シクロヘキサノン/エチレングリコールモノブチルエーテル/スワゾール1500(丸善石油化学(株)製、高沸点芳香族炭化水素系溶剤)=3/1/1(質量比)]120部に溶解したエポキシ樹脂溶液200部に、チタン白40部、バリタ40部及び混合溶剤2[スワゾール1500/シクロヘキサノン=1/1(質量比)]の適当量を混合し、ツブ(顔料粗粒子の粒子径)が20μm以下となるまで顔料分散を行った。
次いで、この分散物にスミジュールBL−3175(注7)26.7部(固形分量で20部)、フォーメートTK−1(注8)2部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤2を加えて粘度約80秒(フォードカップ#4/25℃)に調整して裏面用塗料を得た。
【0126】
(注6)jER1009F:ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量約2,000。
【0127】
クロムフリープライマー塗料Aの製造例
製造例1(実施例相当)
合成例3で得た軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂ME1溶液80部(固形分)に、五酸化バナジウム20部、リン酸カルシウム20部、メタ珪酸カルシウム20部、チタン白20部、バリタ20部及び混合溶剤3[スワゾール1500/シクロヘキサノン=1/1(質量比)]の適当量を混合し、ツブ(顔料粗粒子の粒子径)が20μm以下となるまで顔料分散を行った。
次いで、この分散物にスミジュールBL−3175(注7)20部(固形分)、合成例7で得たレゾール型フェノール樹脂Dを5部(固形分)、合成例8で得たアミノ基含有エポキシ樹脂Dを25部(固形分)、フォーメートTK−1(注8)2部を加えて均一に混合し、さらに上記混合溶剤3を加えて粘度約80秒(フォードカップ#4/25℃)に調整して、プライマー塗料No.1を得た。
【0128】
製造例2〜12(実施例相当)
製造例1において、表1に示すとおりとする以外は製造例1と同様に行い、プライマー塗料No.2〜No.7を得た。
【0129】
比較製造例1
製造例1において、表1に示すとおりとする以外は製造例1と同様に行い、プライマー塗料No.8を得た。
【0130】
【表1】

【0131】
(注7)スミジュールBL−3175:住化バイエルウレタン、商品名、ブロック化ヘキサメチレンジイソシアネート。
【0132】
(注8)フォーメートTK−1:三井化学ポリウレタン社製、商品名、有機錫系ブロック剤解離触媒、固形分約10%。
【0133】
(注9)jER1007:ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量約1,800。
【0134】
(注10)Caイオン交換シリカ:W.R.Grace & Co.社製のSHIELDEX(シールデックス、登録商標)C303。
【0135】
[上塗り塗料(B)の製造例]
合成例9 水酸基含有ポリエステル樹脂No.1の合成例
温度計、サーモスタット、攪拌装置、還流冷却器および水分離器を備えた反応容器に、
下記の「単量体混合物」を仕込み、160℃から230℃まで3時間かけて昇温させた後、縮合水を水分離器により留去させながら230℃で1時間保持後、キシレンを還流させながら脱水しエステル化反応を行った。
ヘキサヒドロ無水フタル酸 146.3部
ネオペンチルグリコール 105.0部
酸価が約0になった時点で140℃まで冷却し2時間保持し、冷却後、シクロヘキサノンで固形分を調整して、固形分55%の水酸基含有ポリエステル樹脂No.1を得た。
得られた水酸基含有ポリエステル樹脂No.1の水酸基価は24.0mgKOH/g、ガラス転移温度22.0℃、数平均分子量2,300であった。
【0136】
合成例10〜19 水酸基含有ポリエステル樹脂溶液No.2〜No.11の合成例(実施例相当)
表2及び表3の単量体混合物の配合内容とする以外は、合成例9と同様にして、ポリエステル樹脂溶液No.2〜No.11を得た。
【0137】
【表2】

【0138】
【表3】

【0139】
合成例20〜26 水酸基含有ポリエステル樹脂溶液No.12〜No.18の合成例(比較例相当)
表4の単量体混合物の配合内容とする以外は、合成例9と同様にして、水酸基含有ポリエステル樹脂溶液No.12〜No.18を得た。
【0140】
【表4】

【0141】
[上塗り塗料の製造]
製造例8 上塗り塗料No.1の製造(実施例相当)
合成例9で得た水酸基含有ポリエステル樹脂No.1溶液80部(固形分)、CR−93(注16)24部に、三菱カーボンMA−100(注17)0.2部 、トダカラーKN−V(注18)2.6部、No.700-10FG CYBLUE(注19)5.5部 、LIONOL GREEN8930(注20)2.7部及び有機溶剤(スワゾール1500/シクロヘキサノン=40/60の混合溶剤)を適当量混合し、ツブ(顔料粗粒子の粒子径)が10μm以下となるまで顔料分散を行った。
次いでこの分散物にスミジュールBL3175(注7)を20部(固形分)、フォーメートTK−1(注8)0.2部を加えて均一に混合し、有機溶剤(スワゾール1500/シクロヘキサノン=40/60の混合溶剤)を加えて希釈し、粘度80秒(フォードカップ#4、25℃)の上塗り塗料No.1を得た。
【0142】
製造例9〜23 上塗り塗料No.2〜No.16の製造(実施例相当)
表5及び表6の配合内容とする以外は、製造例8と同様にして上塗り塗料No.2〜No.16を得た。
【0143】
【表5】

【0144】
【表6】

【0145】
(注11)タケネートB830:三井化学ポリウレタン株式会社製、商品名、トリレンジイソシアネート系ブロック化イソシアネート。
【0146】
(注12)タケネートB870N:三井化学ポリウレタン株式会社製、商品名、イソホロンジイソシアネート系ブロック化イソシアネート。
【0147】
(注13)タケネートB842N:三井化学ポリウレタン株式会社製、商品名、キシリレンジイソシアネート系ブロック化イソシアネート。
【0148】
(注14)サイメル303:日本サイテックインダストリーズ社製、商品名、メチルエーテル化メラミン樹脂。
【0149】
(注15)サイメル701:日本サイテックインダストリーズ社製、商品名、メチロール・イミノ基型メラミン樹脂。
【0150】
(注16)CR−93:石原産業社製、商品名、チタン白。
【0151】
(注17)三菱カーボンMA−100:三菱化学社製、商品名、カーボンブラック。
【0152】
(注18)トダカラーKN−V:戸田工業社製、商品名、酸化鉄ベンガラ。
【0153】
(注19)No.700-10FG CYBLUE :東洋インキ製造社製、商品名、青系有機顔料。
【0154】
(注20)LIONOL GREEN8930:東洋インキ製造社製、商品名、緑系有機顔料。
【0155】
(注21)ネイキュア5225:キング・インダストリーズ社製(アメリカ)、商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和溶液。
【0156】
(注22)チヌビン400:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名、紫外線吸収剤。
【0157】
(注23)サノールLS292:三共ライフテック社製、商品名、光安定剤。
【0158】
比較製造例2〜15 上塗り塗料No.17〜No.30の製造(比較例相当)
表7及び表8の配合内容とする以外は、製造例8と同様にして上塗り塗料No.17〜No.30を得た。
【0159】
【表7】

【0160】
【表8】

【0161】
実施例1 塗装金属板No.1の作成
リン酸亜鉛処理を施した厚さ0.5mm×70mm×150mmの溶融亜鉛メッキ鋼板上に、製造例1で得たプライマー塗料No.1を乾燥膜厚が約5μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が220℃となるように30秒間焼付け、プライマー塗装金属板を得た。
上記のプライマー塗装金属板上に、製造例8で得た上塗塗料No.1をロールコーターにて乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が190℃で60秒間焼き付けて塗装金属板No.1を得た。
【0162】
実施例2〜22 塗装金属板No.2〜No.22の作成
表9及び表10の塗料内容及び加熱硬化条件とする以外は、実施例1と同様の操作にて塗装金属板No.2〜No.22を得た。下記の試験条件に従った試験を行ったので、併せて結果を示す。
【0163】
【表9】

【0164】
【表10】

【0165】
比較例1〜14
表11及び表12の塗料内容及び加熱硬化条件とする以外は、実施例1と同様の操作にて塗装金属板No.23〜No.36を得た。下記の試験条件に従った試験を行ったので、併せて結果を示す。
【0166】
【表11】

【0167】
【表12】

(注24)加工性:20℃の室内において、塗装板の塗膜表面を外側にして折曲げ、その内側に何も挟まずに上記塗装板を万力にて180度折曲する4T折曲げ加工(塗装板の表面側を外側にして折り曲げ、その内側に塗装板と同じ厚さの板を4枚挟み、上記塗装板を万力にて180度折り曲げする加工)を行ったときの折曲げ部の塗膜状態を下記基準にて評価した。
◎は、加工部に、塗膜の異常が全く認められない、
○は、加工部に塗膜のワレの発生及び塗膜の剥がれの両方又は一方がわずかに認められる、
△は、加工部に塗膜のワレの発生及び塗膜の剥がれの両方又は一方がかなり認められる、
×は、加工部に塗膜のワレの発生及び塗膜の剥がれの両方又は一方が著しく認められる。
【0168】
(注25)促進耐候性:
JIS K 5600 7.7に規定の塗膜の長期耐久性 促進耐候性(キセノンランプ法)試験のA法に基き、照射時間が2,000時間となるまで試験を行った塗膜において60度鏡面光沢度で測定した初期光沢に対する光沢保持率(%)を調べた。
◎は、光沢保持率が70%を超える
○は、光沢保持率が50%を超えて、70%以下である
△は、光沢保持率が30%を超えて、50%以下である
×は、光沢保持率が30%未満である。
【0169】
(注26)耐候耐食試験:
5cm×10cmの大きさに切断した試験用塗装板に、JIS K 5600 7.7に規定の塗膜の長期耐久性 促進耐候性(キセノンランプ法)試験のA法に基き、(湿潤18分間−乾燥102分間)の繰り返しサイクル条件で、キセノンウェザメーター500時間連続照射を行った。
次いで、各試験用塗装板の表面側中央部に素地に達する狭角30度、線幅0.5mmのクロスカットをカッターナイフの背中を用いて入れて、JASO M609−91(自動車用材料腐食試験 1991年)に準ずる複合サイクル腐食試験(CCT試験)を、「(35℃で5%食塩水噴霧2時間)−(60℃で乾燥4時間 相対湿度95%)−(50℃で湿潤2時間 相対湿度95%)」を1サイクルとして、150サイクル(合計1200時間)試験を行った。
・平面部(Bランク以上を合格とする)
Aは、フクレなどなく全く異常なし
Bは、微小なフクレ(直径3mm未満)が1〜10点未満でかつ直径3mm以上のフクレ発生なし
Cは、微小なフクレ(直径3mm未満)が10点以上又は直径3mm以上のフクレが1点以上
・エッジ部
塗装板における長辺左右のエッジクリープ幅の平均値を求め、次の基準により評価した。 ◎は、5mm未満、
○は、5mm以上でかつ10mm未満、
△は、10mm以上でかつ20mm未満、
×は、20mm以上。
・クロスカット部
クロスカット部の腐食状態を、0.5mmのカット幅の地金露出部における白錆発生長さ割合、及びカット部の左右のフクレ幅(両側の和)の平均値により、次の基準で評価した。
◎は、地金露出部における白錆発生長さ割合50%未満でかつフクレ幅3mm未満、
○は、地金露出部における白錆発生長さ割合50%以上でかつフクレ幅3mm未満、又は地金露出部における白錆発生長さ割合50%未満でかつフクレ幅3mm以上で5mm未満、
△は、地金露出部における白錆発生長さ割合50%以上でかつフクレ幅5mm以上で10mm未満、
×は、地金露出部における白錆発生長さ割合50%以上でかつフクレ幅10mm以上。
【産業上の利用可能性】
【0170】
塗膜外観、塗膜硬度、加工性、耐候性及び耐食性に優れるクロムフリー塗装金属板を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に化成処理が施されていてもよい金属板上の片面又は両面上に、クロム系防錆成分を含有しないことを特徴とするクロムフリープライマー塗料(A)による乾燥膜厚1〜10μmのプライマー硬化塗膜を形成し、プライマー硬化塗膜の少なくとも片面上に、下記特徴の上塗り塗料(B)を塗装して加熱硬化し、乾燥膜厚5〜30μmの上塗り硬化塗膜を形成することを特徴とするクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
上塗り塗料(B):
多塩基酸成分(b1)と多価アルコール成分(b2)を構成成分とする水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)であって、i)多塩基酸成分(b1)の質量合計を基準にして、
ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸
から選ばれる多塩基酸の合計割合が90〜100質量%で、かつ(ii)多価アルコール成分(b2)の質量合計を基準にして、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水添ビスフェノールAから選ばれる多価アルコールの合計割合が50〜100質量%である多価アルコール成分であって、該多塩基酸成分(b1)と該多価アルコール成分(b2)とを反応して得られた水酸基含有ポリエステル樹脂(B1)、ブロック化脂肪族ポリイソシアネート及び/又はブロック化脂環族ポリイソシアネート化合物を含む架橋剤(B2)、並びに該樹脂(B1)と該架橋剤(B2)の固形分合計100質量部に対して、顔料成分(B3)を5〜120質量部含有する上塗塗料
【請求項2】
多価アルコール成分(b2)が、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAから選ばれる少なくとも1種を含有し、かつトリメチロールプロパンとグリセリンから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
【請求項3】
架橋剤(B2)が、ヘキサメチレンジイソシアネートのブロック化物である請求項1又は2に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
【請求項4】
クロムフリープライマー塗料(A)が、炭素数4〜36の脂肪族多塩基酸(a11)、ガラス転移温度−20〜50℃のアクリル樹脂(a12)及びガラス転移温度−20〜50℃のポリエステル樹脂(a13)のうちの少なくとも1種の軟質有機成分で変性されたビスフェノール型エポキシ樹脂(A1)、架橋剤(A2)及びクロムフリー防錆成分(A3)を含有するクロムフリープライマー塗料である請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
【請求項5】
クロムフリー防錆成分(A3)が、五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム及びメタバナジン酸アンモニウムのうちの少なくとも1種のバナジウム化合物(1)、リン酸金属塩(2)及び金属珪酸塩及びシリカ微粒子のうち少なくとも1種の珪素含有化合物(3)を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロムフリー塗装金属板の塗膜形成方法によって得られた塗装金属板。

【公開番号】特開2010−179228(P2010−179228A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24367(P2009−24367)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】