説明

クロロアルカンの脱塩化水素方法

【課題】高転化率、高選択率、高効率で簡易かつ低コストなクロロアルカンの脱塩化水素方法を提供すること。
【解決手段】上記クロロアルカンの脱塩化水素方法は、一般式CCl(iは2〜4の整数であり、jおよびkは、それぞれ独立に、1〜2i+1の整数であり、ただし、j+kは2i+2である。)で表される化合物を、結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩、好ましくはαAlPO・(100−α)Ln(PO (2)(式(2)において、Lnは希土類イオンであり、xはy/3(ただし、yは希土類イオンの原子価である。)であり、αは80〜100の数である。)
で表される組成を有する結晶性リン酸塩と非酸化性雰囲気下で接触させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロアルカンの脱塩化水素方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロアルケンは、農薬、医薬品、フロン代替材料等の各種製品を製造するための原料ないし中間体として重要である。例えば1,1,2,3−テトラクロロプロペンは、除草剤として有用なトリクロロアリルジイソプロピルチオカルバメートを製造する際の重要な中間体である。
クロロアルケンの代表的な製造方法としては、オレフィンまたはクロロオレフィンに四塩化炭素を付加してクロロアルカンとした後、該クロロアルカンを脱塩化水素する方法が公知である。
この脱塩化水素の方法としては、該クロロアルカンを層間移動触媒の存在下にアルカリ水溶液中で処理する方法が知られている。例えば特許文献1には、1,1,1,3−テトラクロロプロパンを、第4級アンモニウム塩または第4級ホスホニウム塩の存在下に水酸化ナトリウム水溶液中、40〜80℃の温度で処理して脱塩化水素し、得られた反応混合物から水相を分離することによりトリクロロプロペンを得る方法が記載されている。ここで分離された水相は廃棄されることになる。しかしながら特許文献1に記載された方法によると、廃棄される水相中に溶解している有機塩素化合物の処理に多大の労力およびコストを要するほか、アルカリ源として消費される水酸化ナトリウムおよび層間移動触媒のコストが多大であり、重要な資源として再利用が望まれる塩化水素が水酸化ナトリウムの塩として消費されてしまうとの難点がある。さらに、アルカリの使用により、特許文献1の方法により得られるクロロアルケンには通常の飽和溶解度以上の水が存在することとなり、該クロロアルケンまたはこれをさらなる反応に供した目的物から水を精製分離する工程が必要になるとの問題があり、改善が望まれている。
【0003】
一方、クロロアルカンの脱塩化水素反応は、触媒の存在下にクロロアルカンを熱処理することによっても行うことができる。
例えば特許文献2には、ゼオライト触媒の存在下にクロロアルカンを200〜400℃に加熱する脱塩化水素方法が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の方法は、目的物の選択率が低く、触媒寿命が短いため、実用に供しうるものではない。
また、特許文献3には、活性炭触媒の存在下にクロロアルカンを250〜550℃に加熱する脱塩化水素方法が記載されている。特許文献3に記載の方法は、初期活性および選択性に優れる方法ではあるが、触媒寿命が短いうえに触媒の再生が不可能であるとの問題がある。さらに活性炭触媒を用いて1,2−ジクロロエタンの脱塩化水を行う場合、反応転化率を高くすると触媒のコーキングが起こって触媒活性が極めて急激に低下するため、反応転化率を低く抑制する必要があり、生産性に劣ることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2−47969号公報
【特許文献2】特開昭58−167526号公報
【特許文献3】特開2009−154054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高転化率、高選択率、高効率で簡易かつ低コストのクロロアルカンの脱塩化水素方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本発明の上記課題は、
下記一般式(1)
Cl (1)
(式(1)において、iは2〜4の整数であり、jおよびkは、それぞれ独立に、1〜2i+1の整数であり、ただし、j+kは2i+2である。)
で表される化合物を、結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩と非酸化性雰囲気下で接触させることを特徴とする、クロロアルカンの脱塩化水素方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クロロアルカンの脱塩化水素反応を、気相において、簡易かつ低コストで高転化率、高選択率、高効率に行うことができる。本発明の方法により得られるアルケンまたはクロロアルケンは純度が高く水を含んでいないので、簡単な精製方法によって高純度の製品とすることができ、超高純度が要求される農薬、医薬品等の各種製品の原料ないし中間体として好適に使用することができる。また、本発明の方法の副生物として得られる塩化水素は、容易に回収して他の用途に供することができるから、本発明は資源の有効利用にも資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例および比較例で用いた固定床流通反応装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法は、上記一般式(1)で表される化合物を、結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩と非酸化性雰囲気下で接触させることを特徴とする方法である。
以下、本発明について詳細に説明する。
<上記一般式(1)で表される化合物>
本発明において原料として使用される上記一般式(1)で表される化合物としては、式(1)におけるiが2である化合物として、例えば1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等を;
iが3である化合物として、例えば1,2−ジクロロプロパン、1,1,2−トリクロロプロパン、1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサクロロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタクロロプロパン等を;
iが4である化合物として、例えば1,2−ジクロロブタン、1,1,2−トリクロロブタン、1,1,1,2−トリクロロブタン、1,1,1,2,3−テトラクロロブタン等を、それぞれ挙げることができる。上記一般式(1)で表される化合物としては、得られる反応生成物の工業上の重要性から、式(1)におけるiが2または3である化合物が好ましく、特に好ましくは1,2−ジクロロエタンまたは1,1,1,3−テトラクロロプロパン、1,1,1,2−テトラクロロプロパンである。
【0010】
<結晶性リン酸塩>
本発明において用いられる結晶性リン酸塩は、結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩である。本発明においてかかる結晶性リン酸塩は、クロロアルカンの脱塩化水素反応の触媒として働く。
前記結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩は、結晶性リン酸アルミニウムのみからなるものであっても触媒効果を十分に発揮することができるが、希土類の結晶性リン酸塩を複合体として含有することが、より向上された触媒作用を有する結晶性リン酸塩を容易に調製しうることとなる点で好ましい。この場合、該結晶性リン酸塩中において、アルミニウムイオンと希土類イオンの合計数に対してアルミニウムイオンの占める割合は、80モル%以上であることが好ましい。かかる組成を有する結晶性リン酸塩は、下記一般式(2)によって表すことができる。
αAlPO・(100−α)Ln(PO (2)
(式(2)において、Lnは希土類イオンであり、xはy/3(ただし、yは希土類イオンの原子価である。)であり、αは80〜100の数である。)
上記一般式(2)におけるLnは、希土類イオンである。希土類イオンは、すべて一般に3価の原子価をとりやすく、例外的にEu、YbおよびSmにおいては3価のほかに2価の原子価をとることができ、Ce、TbおよびPrにおいては3価のほかに4価の原子価をとることができる。本発明で使用される結晶性リン酸塩としては、上記一般式(2)におけるLnがこれらのうちのいずれであってもよいが、希土類の3価のイオンであることが好ましく、CeまたはLaの3価イオンであることが好ましく、特にCeの3価イオンであることが好ましい。
上記一般式(2)におけるαは、80〜100の数であるが、80〜95であることが好ましく、特に85〜95であることが好ましい。
【0011】
本発明において用いられる結晶性リン酸塩は、結晶性を有するものである。この結晶性はX線回折によって確認することができる。即ち、本発明において用いられる結晶性リン酸塩は、X線回折において2θ=20.5°、21.6°および23.2°にシャープなピークを示す。また、結晶性リン酸塩が希土類の結晶性リン酸塩を含有する場合には、X線回折において上記のピークに加えて希土類の結晶性リン酸塩に由来するピークを示すこととなり、例えば希土類元素がCeの場合には、2θ=26.9°、28.8°および31.1°のピークがそれぞれ独立して観察される。このことより、結晶性リン酸塩が希土類の結晶性リン酸塩を含有するものである場合、該結晶性リン酸塩は、AlPOの部分とLn(POの部分とが、別々の結晶として混在しているものと推察される。
本発明において用いられる結晶性リン酸について、窒素を吸着質としてBET(Brunauer−Emmett−Teller)法によって測定した比表面積は、10〜400m/gであることが好ましく、20〜400m/gであることがより好ましい。触媒のこのような範囲の比表面積を有する結晶性リン酸塩を用いることにより、より高い触媒活性を得ることができ、好ましい。
【0012】
かかる結晶性リン酸塩を調製する方法には特に制限はないが、例えば硝酸アルミニウムおよび所望により希土類の硝酸塩、ならびにリン酸を含有する水溶液を準備し、これに適当なアルカリ、例えばアンモニア水、を滴下して水溶液のpHを4〜9程度として生成した沈殿を回収して十分に洗浄したうえ、好ましくは乾燥した後に焼成する方法によることができる。上記水溶液におけるリン酸の含量としては、該水溶液中のアルミニウム原子および希土類原子に対して、反応当量を加えることが好ましい。
上記水溶液において、水以外の成分の合計重量が水溶液の全重量に占める割合は、5〜40重量%程度とすることが好ましい。前記乾燥は、例えば80〜150℃、好ましくは100〜130℃の温度において、例えば1〜48時間、好ましくは4〜24時間、熱処理する方法によることができる。乾燥の際の周囲雰囲気は空気中でよい。乾燥後に得られた乾燥体は、粉砕して、分級または成型した後に焼成に供することが好ましい。焼成の条件は、例えば500〜1,500℃、好ましくは600〜1,400℃、より好ましくは700〜1,200℃の温度において、例えば1〜50時間、好ましくは2〜24時間とすることができる。焼成の際の周囲雰囲気は、空気中とすることが好ましい。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法に供される結晶性リン酸塩の形状は、いかなる形状であってもよく、例えば粉末状、板状、円柱状、筒状、網状、塊状等の任意の形状であることができる。
【0013】
<クロロアルカンの脱塩化水素方法>
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法は、上記一般式(1)で表される化合物を、上記の如き結晶性リン酸塩と非酸化性雰囲気下で接触させることを特徴とするものである。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法は、気相で行うことが好ましい。この気相反応は、固定床流通方式、流動床流通方式、固定床バッチ方式、流動床バッチ方式のいずれによっても行うことができるが、本発明の方法は反応速度に優れ、短い反応時間で高い反応転化率を達成することができるので、固定床流通方式または流動床流通方式によることが、反応の効率性の面から好ましいが、固定床バッチ方式または流動床バッチ方式を採用することも妨げられない。以下、固定床流通方式または流動床流通方式を採用する場合を想定して本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法の好ましい実施態様についてより詳細に説明するが、下記事項をそのままあるいは当業者に自明の変更を加えたうえで固定床バッチ方式または流動床バッチ方式に応用し得ることはもちろんである。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法において、反応器に供給される供給ガスとしては、上記一般式(1)で表される化合物のみを用いてもよく、あるいは上記一般式(1)で表される化合物とともに希釈ガスを使用してもよい。
【0014】
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法において、反応器に供給される供給ガス中における上記一般式(1)で表される化合物の濃度としては、供給ガスの全量に対して、10モル%以上とすることが好ましく、20〜100モル%とすることがより好ましく、さらに50〜100モル%とすることが好ましい。この割合を10モル%未満とすると経済的に不利となる。なお、一般的な気相反応においては、供給ガス中の反応物の濃度を高くしすぎると未反応物が多くなって反応効率に劣ることとなり、あるいは触媒の早期劣化を来たすこととなるが、本発明の方法は反応効率に優れるものであり、触媒としての結晶性リン酸塩の寿命は極めて長いものであるため、供給ガス中の上記一般式(1)で表される化合物の濃度を高くすることができ、例えば希釈ガスを全く用いないことも可能である。
供給ガス中に含まれる希釈ガスとしては、不活性ガスを使用することが好ましく、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等を好ましく使用することができるが、希釈ガスの経済性の観点から特に窒素を用いることが好ましい。本発明の方法は非酸化性雰囲気下で行われるので、希釈ガス中の酸素濃度は1%以下に調整することが好ましい。また、本発明の方法によって得られるアルケンまたはクロロアルケンが水を含んでいると、その除去のために余分の精製工程を考慮する必要がある。これを避けるため、希釈ガス中の水分濃度は1,000ppm以下に調整することが好ましい。
上記一般式(1)で表される化合物と上記の結晶性リン酸塩との接触の際の周囲雰囲気を非酸化性雰囲気とすることは、供給ガスに希釈ガスを用いないか、あるいは希釈ガスとして上記の如き酸素濃度の低い不活性ガスを用いることによって実現することができる。
【0015】
供給ガスは、反応器に供給される前に、適当な温度に予熱しておくことが好ましい。この予熱温度としては、100℃以上とすることが好ましく、200℃以上とすることがより好ましい。また、予熱温度の上限は、次に説明する反応温度をT℃とした場合に、(T+100)℃とすることが好ましく、より好ましくは(T+50)℃である。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法の反応温度としては、200〜500℃とすることが好ましく、200〜400℃とすることがより好ましい。また、滞留時間は、0.5〜10秒とすることが好ましく、0.5〜5秒とすることが好ましい。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法における空間速度(SV値、space velocity)、即ち触媒の単位体積あたりの供給ガス量としては、300〜10,000hr−1とすることが好ましく、700〜10,000hr−1とすることがより好ましい。
かくして得られる反応混合物(反応器からの排出ガス)は、塩化水素および希釈ガス(使用した場合)のほかに、高い転化率および高い選択率で目的物に転化したアルケンまたはクロロアルケンを含むものである。従って、本発明の方法によって得られた反応混合物は、これに含有される塩化水素および希釈ガスを分離すれば、これをそのまま製品として用いることができる。また、所望により、その後に精製を行うこともできる。
また、上記で分離された塩化水素は、これを定法によって精製した後、他用途に再利用することが可能である。このことは、脱塩化水素にアルカリを使用する従来技術に対する有利な点の一例である。
【0016】
<結晶性リン酸塩の寿命およびその再生>
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法において使用される結晶性リン酸塩の寿命は極めて長いものである。本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法を固定床流通方式または流動床流通方式によって行う場合、例えば100時間以上、さらには200時間以上の連続運転を行うことが可能である。本発明における結晶性リン酸塩のかかる長寿命は、ゼオライト触媒を使用する従来技術に対する有利な点の一例である。
本発明のクロロアルカンの脱塩化水素方法において、結晶性リン酸塩の活性が経時的に低くなり、活性が不十分となった場合には、これを再焼成することにより、再生し、再使用することができる。本発明における結晶性リン酸塩の再生可能性は、活性炭触媒を使用する従来技術に対する有利な点の一例である。結晶性リン酸塩を再生するための再焼成の条件としては、表面の炭素が燃焼可能な温度により行うことができ、好ましくは400〜800℃程度、より好ましくは400〜600℃程度で行うことができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
<結晶性リン酸塩の調製例>
調製例1(AlPOの調製)
61.5gのAl(NO・9HOおよび18.9gの85重量%リン酸水溶液を400mLの純水に溶解した。これをミキサーで攪拌しながら、10重量%アンモニア水を、溶液のpHが4.5になるまで2時間かけて滴下した。析出したAlPOを濾取し、繰り返し水洗を行った。水洗後のAlPOを、120℃に調温した乾燥機中で12時間乾燥した後、1,000℃の電気炉を用いて空気中、5時間の焼成処理を行った。
焼成後のAlPOについてX線回折分析を行ったところ、2θ=20.5°、21.6°および23.2°にシャープなピークが確認され、このAlPOは結晶性であることが分かった。また、このAlPOについて窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積は153m/gであった。
【0018】
調製例2(90AlPO・10CePOの調製)
原料の水溶液として、55.4gのAl(NO・9HO、7.1gのCe(NO・6HOおよび18.9gの85重量%リン酸水溶液を400mLの純水に溶解したものを用い、焼成温度を800℃としたほかは上記調製例1と同様にして90AlPO・10CePOを調製した。
得られた90AlPO・10CePOについてX線回折分析を行ったところ、2θ=20.5°、21.6°および23.2°にシャープなピークが確認され、このものは結晶性であることが分かった。また、CePOの結晶に由来する2θ=26.9°、28.8°および31.1°にシャープなピークも独立して確認された。さらに、この90AlPO・10CePOについて窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積は76m/gであった。
【0019】
<クロロアルカンの脱塩化水素試験>
以下の実施例および比較例では、図1に示した固定床流通反応装置を用いてクロロアクロンの脱塩化水素反応の試験を行った。反応物たるクロロアルカンとしては、1,2−ジクロロエタン(実施例1および2ならびに比較例1〜3)および1,1,1,3−テトラクロロプロパン(実施例3および比較例4)を用いた。
図1の固定床流通反応装置は、内径7.1mm×長さ300mmのステンレス製の管からなる反応器5を有する。この反応器5内の頂部および底部にはガラスビーズおよび石英綿が充填され、中央部に結晶性リン酸塩を充填して反応に供することとなる。反応器5の外側には電気ヒーター4が配置されている。反応器5の上流側には、外部にヒーター2が装着された内径2.2mm×長さ2,000mmのステンレス製の管からなる予熱器3が配置されている。この予熱器3の上流側にはクロロアルカン用の定量ポンプ1および窒素用の流量コントローラー6が配置されている。そして、定量ポンプ1からのクロロアルカンおよび流量コントローラー6からの窒素は供給ガス混合口7で混合されて予熱器3に供給され、クロロアルカンが十分に気化し、供給ガスが予熱された後に、反応器5へ連続的に供給されるように構成されている。反応器5の下流側には反応液トラップ13および徐害トラップ14が配置されている。反応器5から連続的に排出される反応混合物(排出ガス)の一部は0℃に冷却された反応液トラップ13により液として回収され、ここで液化しない部分はさらに徐害トラップ14に送られ、該徐害トラップ14において塩化水素を除去した後に回収した。
回収した液およびガスは、それぞれガスクロマトグラフィーにて分析し、下記数式(i)および(ii)によって脱塩化水素反応の転化率および選択率を算出した。
【0020】
【数1】

【0021】
実施例1
触媒として上記調製例1で調製したAlPOの4gを図1の固定床流通反応装置の反応管5に充填し、窒素流通下、400℃で2時間乾燥処理した後、1,2−ジクロロエタン(EDC)の脱塩化水素試験を行った。
EDCの供給速度は液換算値として0.1mL/分とし、希釈用窒素ガスの供給速度は標準状態(SATP)換算値として80mL/分とした。
予熱器3の温度は200℃に、反応管5の温度は400℃に、それぞれ調整した。EDCおよび窒素からなる供給ガスの供給開始から3時間後、24時間後および168時間後における転化率および選択率を表1に示した。
供給ガスの供給開始200時間後にガスの供給を止め、反応管5から触媒を取り出して、電気炉を用いて、空気中、600℃の温度において6時間保持することにより、触媒の再生処理を行った。
再生処理後のAlPOを再び反応管5に充填し、上記と同様にしてEDCの脱塩化水素試験を再開した。供給ガスの供給再開3時間後における転化率および選択率を表1に示した。
【0022】
実施例2
触媒としてAlPOの代わりに上記調製例2で調製した90AlPO・10CePOの4gを用いたほかは上記実施例1と同様にしてEDCの脱塩化水素試験を行った。結果を表1に示した。
比較例1
市販の活性炭(日本ノリット社製、品名「ROX0.8」)の4gを用いて、実施例1と同様にしてEDCの脱塩化水素試験を行った。供給ガスの供給開始から3時間後、24時間後および168時間後における転化率および選択率を表1に示した。
供給ガスの供給開始200時間後には活性が低下したが、活性炭は可燃性であるため、再生処理を行うことはできなかった。
比較例2
市販のY型ゼオライト(東ソー社製、品名「HSZ−320HOA」)の4gを用いて、実施例1と同様にしてEDCの脱塩化水素試験を行った。供給ガスの供給開始から24時間後の転化率の低下が著しかったため、その時点で試験を中止した。
比較例3
市販のKPO(和光純薬社製)を空気中において800℃で5時間焼成したもの4gを用いて、実施例1と同様にしてEDCの脱塩化水素試験を行った。供給ガスの供給開始から3時間後の転化率が著しく低かったため、その時点で試験を中止した。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例3
触媒として上記調製例2で調製した90AlPO・10CePOの1gを図1の固定床流通反応装置の反応管5に充填して1,1,1,3−テトラクロロプロパン(PTC)の脱塩化水素試験を行った。
PTCの供給速度は液換算値として0.48mL/分とし、希釈用窒素ガスの供給速度は標準状態(SATP)換算値として20mL/分とした。予熱器3および反応管5の温度はそれぞれ300℃に調整した。供給ガスの供給開始から3時間後の転化率は99.7モル%であり、選択率は97.9モル%であった。
比較例4
触媒を使用しなかったほかは上記実施例3と同様にしてPTCの脱塩化水素試験を行った。供給ガスの供給開始から3時間後の転化率は約0モル%であった。
【符号の説明】
【0025】
1:定量ポンプ
2:予熱器用ヒーター
3:予熱器
4:反応器用ヒーター
5:反応器
6:流量コントローラー
7:供給ガス混合口
8:出口サンプリング口
9:入口サンプリング口
10:温度センサー
11:圧力センサー
12:温度センサー
13:反応液トラップ
14:除害トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
Cl (1)
(式(1)において、iは2〜4の整数であり、jおよびkは、それぞれ独立に、1〜2i+1の整数であり、ただし、j+kは2i+2である。)
で表される化合物を、結晶性リン酸アルミニウムを主成分とする結晶性リン酸塩と非酸化性雰囲気下で接触させることを特徴とする、クロロアルカンの脱塩化水素方法。
【請求項2】
上記結晶性リン酸塩が、下記一般式(2)
αAlPO・(100−α)Ln(PO (2)
(式(2)において、Lnは希土類イオンであり、xはy/3(ただし、yは希土類イオンの原子価である。)であり、αは80〜100の数である。)
で表される組成を有する結晶性リン酸塩である、請求項1記載の脱塩化水素方法。
【請求項3】
上記希土類の結晶性リン酸塩におけるLnがCeの3価イオンである、請求項2に記載の脱塩化水素方法。
【請求項4】
結晶性リン酸塩の比表面積が10〜400m/gである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脱塩化水素方法。
【請求項5】
上記式(1)におけるiが2または3である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の脱塩化水素方法。
【請求項6】
上記一般式(1)で表される化合物が1,2−ジクロロエタンまたは1,1,1,3−テトラクロロプロパンである、請求項5に記載の脱塩化水素方法。
【請求項7】
上記結晶性リン酸塩の、上記一般式(1)で表されるクロロアルカンの脱塩化水素触媒としての使用。
【請求項8】
上記結晶性リン酸塩からなる、クロロアルカンの脱塩化水素触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46650(P2011−46650A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196818(P2009−196818)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】