説明

クロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤及びそれを用いたクロロプレンモノマーの貯蔵方法、クロロプレンラテックスの製造方法並びにクロロプレンゴムの製造方法

【課題】 モノマー貯蔵において、優れたモノマー重合禁止効果を有し、かつ着色しない、またそのモノマーを用いて乳化重合する際に重合速度が変動しない、さらにはクロロプレンゴムの乾燥工程で禁止剤が揮発しないクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤を提供する。
【解決手段】 170℃60分間での加熱減量が1.0%以下であるヒンダードフェノールからなり、かつ、クロロプレンモノマーに添加して得られたモノマー液を30日後に分光光度計を用いて測定波長400nmで測定した吸光度が0.1以下であるクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤及びそれを用いたクロロプレンモノマーの貯蔵方法、クロロプレンラテックスの製造方法並びにクロロプレンゴムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤と、当該重合禁止剤を用いたクロロプレンモノマーの貯蔵方法と、クロロプレンラテックスの製造方法と、クロロプレンゴムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンラテックスやクロロプレンゴムはクロロプレンモノマーを乳化重合することにより製造されるのであるが、一般に、その際に使用されるクロロプレンモノマーの製造は連続反応プロセスであるのに対して、クロロプレンポリマーの製造はバッチ反応プロセスである。そのため、モノマーとポリマーの生産のバランスを取り最適化させるためには、クロロプレンモノマーは数日間貯蔵することが必要とされている。
【0003】
しかし、クロロプレンモノマーの貯蔵の際には、ポリマーが生成し易い問題が生ずるため、フェノチアジン、p−tert−ブチルカテコール等のモノマー貯蔵用の重合禁止剤が使用されていた。
【0004】
このモノマー貯蔵用の重合禁止剤は、重合反応性に富むモノマーに添加されることが多い。そのため、重合禁止剤を添加したまま重合を行うと、重合が開始しない又は重合速度が鈍化する現象を引き起こすので、重合禁止剤を除去することが必要とされていた。その一方で、重合禁止剤を除去したモノマーを用いた乳化重合においては、初期乳化中の重合触媒の添加しない時期に自己重合を開始することが問題となっている。
【0005】
そのため、重合直前に重合禁止剤を除去することも行われているが(特許文献1)、重合禁止剤を直前に除去すると、乳化重合においては、重合触媒を添加する前に重合を開始することがある。
【0006】
そのため、除去する必要のないクロロプレンモノマー用重合禁止剤が必要とされ、従来のクロロプレンモノマー用重合禁止剤としては、例えば、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩又はその誘導体(特許文献2)、N−ニトロソアルキレンアミン又はその誘導体(特許文献3)、N−ニトロソフェノチアジンとその誘導体(特許文献4)、p−tert−ブチルカテコール、及びフェノチアジン(非特許文献1)が使用されてきた。
【0007】
しかし、これらの重合禁止剤では、モノマー貯蔵中にモノマーが着色する、あるいはそのモノマーを用いて乳化重合する際に重合速度が鈍化する、さらにはクロロプレンゴムの乾燥工程で禁止剤が揮発し作業環境が悪くなる問題がある。
【0008】
特に、近年、環境負荷物質の低減についての取り組み強化へのニーズは社会全体に広がっており、揮発性有機化合物に関する排出抑制に向けた取り組みが活発になっている。自動車内や建築物内の揮発性化合物質低減を目的としてポリマー中に残存する揮発性の重合禁止剤を含む様々な目的で使用されている酸化防止剤を変更する動きがある。
【0009】
【特許文献1】特公昭35−13846号公報
【特許文献2】英国特許第870600号公報
【特許文献3】特公昭47−07531号公報
【特許文献4】特公昭47−17770号公報
【非特許文献1】高分子 VOL.19,No218 p400(1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上から、モノマー貯蔵において、優れたモノマー重合禁止効果を有し、かつ着色しない、またそのモノマーを用いて乳化重合する際に重合速度が変動しない、さらには低揮発性のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の重合禁止剤を添加することにより、優れたモノマー重合禁止効果を有し、かつ着色しない、またそのモノマーを用いて乳化重合する際に重合速度が変動しない、さらにはクロロプレンゴムの乾燥工程で禁止剤が揮発しないことを見出して本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、170℃60分間での加熱減量が1.0%以下であるヒンダードフェノールからなり、かつ、クロロプレンモノマーに添加して得られたモノマー液を30日後に分光光度計を用いて測定波長400nmで測定した吸光度が0.1以下であるクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤及びそれを用いたクロロプレンモノマーの貯蔵方法、クロロプレンラテックスの製造方法並びにクロロプレンゴムの製造方法である。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤(以下、重合禁止剤と略する)は、170℃60分間での加熱減量が1.0%以下であるヒンダードフェノールからなることが必要である。170℃60分間での加熱減量が1.0%を超えると、クロロプレン乾燥工程でその一部が揮発し、作業環境に悪影響を及ぼしたり最悪の場合は火災の一因子となるおそれがある。作業関係に悪影響を及ぼさない又は火災を誘発しないためには、170℃60分間での加熱減量が0.0%〜1.0%であることが好ましく、0.0%〜0.5%であることがさらに好ましい。また、ヒンダードフェノールでないとクロロプレンモノマーが着色することが多く、ラテックス又はゴムの色調が悪化する。
【0014】
また、本発明の重合禁止剤をクロロプレンモノマーに添加して得られたモノマー液について30日後に分光光度計を用いて測定波長400nmで測定した吸光度が0.1以下であることが必要である。当該モノマー液の吸光度が0.1を超えると、ラテックスやゴムにした際に着色しやすい問題が生ずるものである。当該モノマー液の吸光度が0.1を超えるために本発明の効果を奏しないヒンダードフェノールは、例えば、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が該当する。なお、ラテックスやゴムにした際に全く着色しないためには、モノマー液の吸光度が0.0〜0.05であることが好ましく、0.0がさらに好ましい。ここで使用される分光光度計は、吸光度が測定できる機器であれば、特に限定するものではなく、例えば、分光光度計日立製作所製U−1000型、U−1800型等があげられる。
【0015】
本発明の重合禁止剤で用いられるヒンダードフェノールとしては、例えば、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ−スピロ[5・5]ウンデカン、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、1,1,3トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等があげられる。これらのうち、モノマー重合禁止効果、モノマーへの溶解性を考慮すると、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ−スピロ[5・5]ウンデカン、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピンが特に好ましい。
【0016】
本発明の重合禁止剤で用いられるヒンダードフェノールは、低揮発性のために分子量が500以上であることが好ましく、さらなる低揮発性のためには、分子量が600以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明のクロロプレンモノマーの貯蔵方法は、本発明の重合禁止剤を含有させたクロロプレンモノマーを貯蔵するものである。
【0018】
ここに、クロロプレンモノマーとは、2−クロロ−1,3−ブタジエンである。
【0019】
クロロプレンモノマーに含有させる本発明の重合禁止剤の添加量は、実用性を考慮すると、仕込み全モノマー100重量部に対して0.01〜0.4重量部が好ましく、0.01〜0.1重量部がさらに好ましい。重合禁止剤の種類により添加量の最適量の範囲は異なるが、乳化重合時の重合速度への影響を考慮するとモノマー貯蔵に必要な量であることが好ましい。
【0020】
クロロプレンモノマーを貯蔵する期間は、特に限定するものではないが、一般的に1〜30日間である。
【0021】
次に、クロロプレンラテックス(クロロプレンゴム)の製造方法について説明する。
【0022】
クロロプレンラテックス(クロロプレンゴム)は、クロロプレンモノマー単独、又はクロロプレンモノマー及びこれと共重合可能なコモノマー、を乳化重合することにより製造される。
【0023】
ここに、クロロプレンモノマーとは、2−クロロ−1,3−ブタジエンである。そして、クロロプレンモノマーは、本発明の重合禁止剤を含有しているものである。
【0024】
また、クロロプレンモノマーと共重合可能なコモノマーとは、2−クロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な単量体であれば特に限定するものではなく、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン等のモノビニル化合物、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物、硫黄等が挙げられ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、クロロプレンモノマーとの共重合性が高いために、1−クロロ−1,3−ブタジエン、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンが特に好ましい。クロロプレンモノマーと、クロロプレンモノマーと共重合可能なコモノマーとの割合は、特に限定するものではないが、クロロプレンゴムの一般的な物性を損なわないために、当該コモノマーが50重量%以下であることが好ましい。
【0025】
乳化重合に用いられる乳化剤としては、ラテックスが乳化し重合速度が制御できるものであれば特に限定するものではなく、例えば、アビエチン酸アルカリ金属塩、不均化アビエチン酸アルカリ金属塩、アルキル硫酸アルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アルカリ金属塩、高級脂肪酸アルカリ金属塩、ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、高級脂肪酸スルホン化物のアルカリ金属塩等のアニオン系、またはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系いずれの界面活性剤も使用可能である。乳化剤の添加量はその種類により最適範囲は異なるが、乳化重合を安定に実施できる範囲として、仕込み全モノマー100重量部に対して0.1〜10重量部が特に好ましい。
【0026】
重合に用いられる重合開始剤としては、安定に重合開始できるものであれば特に限定するものではなく、公知のフリーラジカル生成物質を用いることができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化物、過酸化水素、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等が挙げられる。これらは単独又は硫酸第一鉄、ハイドロサルファイトナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、有機アミン等の還元性物質を併用したレドックス系で使用することができる。
【0027】
重合の際には、必要に応じて他の添加剤を使用することができる。他の添加剤としては、例えば、分子量調節剤、重合調整剤、分散剤等が挙げられる。分子量調節剤は分子量を所定の範囲内に調整するために用いられ、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、キサントゲンスルフィド類、ヨウ化ベンジル、ヨードホルム等が挙げられる。重合調整剤はラテックスの重合時の乳化を安定化するために用いられ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。分散剤は中和時のラテックス安定性を保持するために用いられ、例えば、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等が挙げられる。
【0028】
乳化重合の温度は重合速度が制御できる範囲であれば特に限定するものではないが、ラテックスの凝集又はクロロプレンの沸点が低い(59.4℃)ために0〜60℃の温度が好ましく、重合熱の効率的な除去のために5〜50℃の温度がさらに好ましい。重合時の発熱が大きく温度の制御が困難な場合は、乳化剤水溶液に単量体混合物を少量ずつ分割又は連続で添加しながら重合することもできる。
【0029】
重合に用いる重合停止剤としては、重合が完全に停止できるものであれば特に限定するものではなく、例えば、フェノチアジン、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ハイドロキノン、4−メトキシハイドロキノン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン等のラジカル禁止剤が挙げられ、単独又は2種以上で使用される。
【0030】
重合停止転化率は所定の範囲に分子量調節ができれば特に限定するものではないが、中和、凍結凝固、水洗して乾燥可能であるラテックスの固形分とするため、50〜95%が好ましい。
【0031】
ラテックス中の未反応モノマーはサイクロンを用いた水蒸気蒸留法により除去し、回収する。水蒸気蒸留法は液混合物に直接水蒸気を吹き込むことによって、揮発性成分をその沸点より低い温度で流出させる蒸留法である。クロロプレンモノマーは重合しやすいので、処理速度を上げるため減圧にて蒸留を行なうのが好ましい。水蒸気蒸留によって、揮発性成分の未反応モノマーはモノマー製造工程へもどされ再使用される。それ以外の成分は、冷却され一時貯蔵される。クロロプレンラテックスの場合はここで製造を終える。
【0032】
さらにクロロプレンゴムとする場合は、次にラテックスに添加する希酢酸により中和、凍結凝固によりポリマーを単離し、水洗、熱風乾燥を経てクロロプレンゴムを得る。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、優れたモノマー重合禁止効果を有し、かつ着色しない、またそのモノマーを用いて乳化重合する際に重合速度が変動しない、さらにはクロロプレンゴムの乾燥工程で禁止剤が揮発しないことが明らかである。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例によって具体的に示すが、本発明はこれらの実施例により限定されることはない。
【0035】
<重合禁止剤の揮発性評価方法>
アルミ箔に重合禁止剤を5g秤量し、170℃60分間ギアオーブン中で放置した。その後、室温に20分放置後、加熱減量を求めた。加熱減量は以下の(1)式で算出した。加熱減量が、1.0%以下であれば低揮発性であると判断した。
【0036】
加熱減量(%)
=100×(5−170℃60分間ギアオーブン放置後の重量)/5 (1)
<重合禁止剤の禁止効果評価方法>
225mlマヨネーズ瓶に重合禁止剤を添加していないクロロプレンモノマー100gを入れ、重合禁止剤を添加し、15℃の暗室に放置した。1日後ポリマーの生成量を測定した。ポリマー生成量の測定方法を次に示す。アルミ箔に15℃1日放置したクロロプレン液を2g秤量し、170℃10分間ギアオーブンで乾燥した。ポリマー生成量は以下の(2)式で算出した。重合禁止剤を変量し、ポリマー生成量が2.0%となる量を算出した。この量をモノマー貯蔵に必要な禁止剤量とした。
【0037】
ポリマー生成量(%)
=100×(170℃10分間ギアオーブン放置後の重量)/2 (2)
15℃1日放置後ポリマー生成量が2.0%でモノマー禁止剤効果良好と判断した根拠を以下に示す。
【0038】
15℃1日放置後ポリマー生成量が2.0%のモノマー禁止剤効果を確認したところ、クロロプレンモノマー貯蔵時においては、−10℃で30日ポリマー生成は確認されずクロロプレンモノマーは安定であった。また、乳化重合においては、重合反応を鈍化させないことを確認した。ポリマー生成量が3%以上の禁止剤量にすると、モノマーの反応性が上がるためモノマー貯蔵時においては、−10℃で30日以内にポリマー生成が確認された。またポリマー生成量1%以下の禁止剤量にすると、モノマーの反応性が下がるため、乳化重合においては、重合反応を鈍化させた。
【0039】
<重合禁止剤を添加したモノマー液の着色性評価方法>
225mlマヨネーズ瓶に重合禁止剤を添加していないクロロプレンモノマー100gを入れた。次に、15℃1日放置後ポリマー生成量から求めたモノマー貯蔵に必要な重合禁止剤を添加し、クロロプレンモノマーを−10℃で貯蔵した。30日後モノマー液が着色しているかを目視し、さらに、分光光度計で吸光度を測定した。分光光度計は日立製作所製U−1800型を使用した。50mmガラスセルを用いて、重合禁止剤を添加していないモノマーを基準サンプルとして吸光度0.0とし、各種重合禁止剤を添加したモノマーの吸光度を測定波長400nmで測定した。
【0040】
実施例1
スミライザ−GA80(商品名,住友化学製):3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ−スピロ[5・5]ウンデカン(ヒンダードフェノール)について、前述した揮発性評価方法に基づいて、重合禁止剤の揮発性を評価した。その結果、加熱減量は0.0%となり低揮発性であった。次に、前述した禁止効果評価方法に基づいて、上記の重合禁止剤の禁止効果を評価した。その結果、モノマー貯蔵に必要な禁止剤量は0.045重量部であった。また、前述した着色性評価方法に基づいて、上記の重合禁止剤のモノマー液の着色性評価を行なったところ、目視では着色は見られず、吸光度は0.0であった。表1にその結果を示す。
【0041】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.045重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0042】
7日経過後、表2の重合処方A(2−クロロ−1,3−ブタジエンには0.045重量部の重合禁止剤が含有している)に従い、10Lの撹拌機つきオートクレーブに仕込み十分に窒素置換し乳化させた。重合器内が40℃一定となるようにジャケット温度を制御しながら0.15%過硫酸カリウム水溶液を1時間あたり0.25重量部の一定速度で滴下し重合を3.5時間行った。重合鈍化は見られなかった。重合転化率が70%になった時点でフェノチアジン0.01重量部を添加し重合を停止させた。次に残存する未反応のモノマーを減圧水蒸気蒸留法により除去し、クロロプレンラテックスを得た。その結果、ラテックスには着色はなかった。
【0043】
次に、ラテックスに添加する希酢酸により中和、凍結凝固によりポリマーを単離し、水洗、熱風乾燥を経てクロロプレンゴムを得た。その結果、ゴムには着色はなかった。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

実施例2〜4
スミライザーGP(商品名,住友化学製):6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1.3.2]ジオキサホスフェピン(実施例2:ヒンダードフェノール)、イルガノックス245(商品名,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製):エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](実施例3:ヒンダードフェノール)、ヨシノックス930(商品名,API製):1,1,3トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(実施例4:ヒンダードフェノール)について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は1.0%以下となり低揮発性であった。モノマー貯蔵に必要な禁止剤量は、実用性のある範囲であった。目視では着色は見られず、吸光度は0.0であった。表1にその結果を示す。
【0046】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の各々の重合禁止剤をモノマー貯蔵に必要な禁止剤量(表1に記載)を添加し、各々7日間貯蔵した。
【0047】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなく、ラテックス及びゴムには着色はなかった。
【0048】
実施例5
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に実施例1で使用したスミライザ−GA80(商品名,住友化学製):3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ−スピロ[5・5]ウンデカン(ヒンダードフェノール)0.045重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0049】
7日経過後、表2の重合処方B(2−クロロ−1,3−ブタジエンには0.045重量部の重合禁止剤が含有している)に従い、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなく、ラテックス及びゴムには着色はなかった。
【0050】
実施例6
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に実施例2で使用したスミライザーGP(商品名,住友化学製):6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f](ヒンダードフェノール)0.069重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0051】
7日経過後、実施例5と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなく、ラテックス及びゴムには着色はなかった。
【0052】
比較例1
W−500(川口化学製):2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)[ヒンダードフェノール]について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は30%となり揮発性があった。また、目視では黄色の着色が見られ、吸光度は0.3であった。表3にその結果を示す。
【0053】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.015重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0054】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなかったが、ラテックス及びゴムの着色が見られた。
【0055】
【表3】

比較例2
ノンフレックスCBP(商品名,精工化学製):2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール][ヒンダードフェノール]について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は1.8%となり揮発性があった。また、目視では黄色の着色が見られ、吸光度は0.4であった。表3にその結果を示す。
【0056】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.022重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0057】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなかったが、ラテックス及びゴムの着色が見られた。
【0058】
比較例3
BHT(API製):2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(ヒンダードフェノール)について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は100%となり揮発性があった。また、目視では着色は見られず、吸光度は0.0であった。表3にその結果を示す。
【0059】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.1重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0060】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなく、ラテックス及びゴムには着色はなかったが、ゴムはその乾燥時、BHTが揮発し作業環境が悪くなった。
【0061】
比較例4〜5
イルガノックス1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製):オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](比較例4:ヒンダードフェノール)及びイルガノックス1010(商品名,チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製):ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](比較例5:ヒンダードフェノール)について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は1.0%以下となり低揮発性であった。モノマー貯蔵に必要な禁止剤量は、実用性のある範囲であった。目視では黄色の着色が見られ、吸光度は各々0.3、0.2であった。表3にその結果を示す。
【0062】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の各々の重合禁止剤をモノマー貯蔵に必要な禁止剤量(表3に記載)を添加し、各々7日間貯蔵した。
【0063】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得て、次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、重合鈍化はなく、ラテックス及びゴムの着色が見られた。
【0064】
比較例6
フェノチアジン(精工化学製)について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は26%となり揮発性があった。また、目視では赤色の着色が見られ、吸光度は0.8であった。表3にその結果を示す。
【0065】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.007重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0066】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得たが、重合鈍化し、さらにラテックスの赤色の着色が見られた。次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、ゴムに赤色の着色が見られた。
【0067】
比較例7
N−ニトロソジフェニルアミン(精工化学製:アミン)について、実施例1と同様にして重合禁止剤の評価を行った。その結果、加熱減量は66%となり揮発性があった。また、目視では赤色の着色が見られ、吸光度は1.2であった。表3にその結果を示す。
【0068】
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に上記の重合禁止剤0.005重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0069】
7日経過後、実施例1と同様にして、クロロプレンラテックスを得たが、重合鈍化とラテックスの赤色の着色が見られた。次に、クロロプレンゴムを得た。その結果、ゴムの赤色の着色が見られた。
【0070】
比較例8
前述した禁止効果評価方法に基づいて、重合禁止剤を添加しないで、禁止効果を評価した。その結果、1日で4%ポリマーが生成した。
【0071】
重合禁止剤を添加していないクロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)を、−10℃で貯蔵したが2日貯蔵時にポリマーが0.3%生成した。
【0072】
−10℃に貯蔵しないクロロプレンモノマーを用いて、表2の重合処方Aに従い、10Lの撹拌機つきオートクレーブに仕込み十分に窒素置換し乳化させたが、乳化中に重合触媒を添加する前に重合を開始してしまった。重合器内が40℃一定となるようにジャケット温度を制御しながら0.15%過硫酸カリウム水溶液を1時間あたり0.25重量部の一定の速度で滴下し重合を2.7時間行った。重合速度が速くなってしまった。重合転化率が70%になった時点でフェノチアジン0.01重量部を添加し重合を停止させた。次に残存する未反応のモノマーを減圧水蒸気蒸留法により除去し、クロロプレンラテックスを得た。その結果、ラテックスには着色はなかったが、重合反応が制御できなかった。
【0073】
次に、ラテックスに添加する希酢酸により中和、凍結凝固によりポリマーを単離し、水洗、熱風乾燥を経てクロロプレンゴムを得た。その結果、ゴムには着色はなかったが、分子量が大きくなってしまい、目的とするゴムができなかった。
【0074】
比較例9
クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)に比較例6で使用したフェノチアジン(精工化学製)0.01重量部を添加し、7日間貯蔵した。
【0075】
7日経過後、クロロプレンモノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)を蒸留してフェノチアジンを除去した後、表2の重合処方Aに従い、10Lの撹拌機つきオートクレーブに仕込み十分に窒素置換し乳化させたが、乳化中に重合触媒を添加する前に重合を開始してしまった。重合器内が40℃一定となるようにジャケット温度を制御しながら0.15%過硫酸カリウム水溶液を1時間あたり0.25重量部の一定の速度で滴下し重合を2.7時間行った。重合速度が速くなってしまった。重合転化率が70%になった時点でフェノチアジン0.01重量部を添加し重合を停止させた。次に残存する未反応のモノマーを減圧水蒸気蒸留法により除去し、クロロプレンラテックスを得た。その結果、ラテックスには着色はなかったが、重合反応が制御できなかった。
【0076】
次に、ラテックスに添加する希酢酸により中和、凍結凝固によりポリマーを単離し、水洗、熱風乾燥を経てクロロプレンゴムを得た。その結果、ゴムには着色はなかったが、分子量が大きくなってしまい、目的とするゴムができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
170℃60分間での加熱減量が1.0%以下であるヒンダードフェノールからなり、かつ、クロロプレンモノマーに添加して得られたモノマー液を30日後に分光光度計を用いて測定波長400nmで測定した吸光度が0.1以下であることを特徴とするクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤。
【請求項2】
ヒンダードフェノールの分子量が500以上であることを特徴とする請求項1記載のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤を含有したクロロプレンモノマーを貯蔵することを特徴とするクロロプレンモノマーの貯蔵方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤を含有したクロロプレンモノマー、又は当該クロロプレンモノマー及びこれと共重合可能なコモノマー、を乳化重合することを特徴とするクロロプレンラテックスの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2記載のクロロプレンモノマー貯蔵用重合禁止剤を含有したクロロプレンモノマー、又は当該クロロプレンモノマー及びこれと共重合可能なコモノマー、を乳化重合してクロロプレンラテックスを得た後、当該クロロプレンラテックスを中和、凍結凝固、乾燥することを特徴とするクロロプレンゴムの製造方法。

【公開番号】特開2006−124568(P2006−124568A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316654(P2004−316654)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】