説明

クロロプレン系重合体及びその製造法

【課題】 クロロプレン系重合体の抜本的な物性改良又はクロロプレンベースの新規材料を創出するために、分子量分布が狭いクロロプレン系重合体を得る。
【解決手段】 ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.5未満であるクロロプレン系重合体、並びに例えば、下記式(3)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物の存在下、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体、をラジカル重合するクロロプレン系重合体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量分布が制御された、従来にはないクロロプレン系重合体及びその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホース、ベルト等の自動車部品、接着剤など広い用途で使用されているクロロプレン系重合体は、伝統的なラジカル乳化重合によって工業生産されている。該重合法では、重合体の一次構造制御に限界があり、例えば、分子量分布Mw/Mn、即ち重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比を1.5未満に制御することは困難であった。また、クロロプレン単量体はラジカル反応性が極めて高く、他種単量体との共重合性に乏しいため、共重合による物性改良には大きな制限があった。
【0003】
分子量分布及びブロック共重合など、重合体の一次構造を制御する一般的な方法はリビングアニオン及びリビングカチオン重合法であるが、クロロプレンゴムの製造においては、リビングアニオン及びリビングカチオン重合法では塩素引き抜きによる金属触媒失活の問題があるため、これらの金属触媒を用いない重合法であるラジカル重合法がクロロプレンゴムの製造における一般的な方法となっている。
【0004】
従来のラジカル重合では、重合体の一次構造を精密に制御することは困難だったが、重合体の一次構造制御が可能なラジカル重合法として、リビングラジカル重合が注目されている。例えば、ジチオカーバメート化合物の存在下、紫外光を照射して制御重合するイニファーター重合法(非特許文献1)、安定ニトロキシルラジカルを利用した安定フリーラジカル重合法(非特許文献2)、ジチオエステル化合物を利用した可逆的付加開裂移動重合法(特許文献1、非特許文献3)などが知られている。
【0005】
しかしながら、これらは、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルなどのオレフィン系単量体のリビングラジカル重合に関するものであり、ジエン系単量体又はクロロプレンのリビングラジカル重合に関する報告例は極めて少ない。特許文献2及び3には、光イニファータ重合法を利用したクロロプレンブロック共重合体の製造法が開示されているが、分子量分布は2.0を超えており通常のラジカル重合と同程度に広いものである。また、紫外線を用いた重合法であるため、大規模生産には不利な面がある。特許文献4には、安定ニトロキシルラジカルを利用したクロロプレンブロック共重合体の製造法が開示されているが、分子量分布は2.0を超えており、分子量が十分制御されているとはいえない。また、クロロプレンの沸点よりも遥かに高い温度で重合する必要があるという欠点もある。また、特許文献5において、特定のジチオカルバミン酸エステルを用いた可逆的付加開裂移動重合法により、狭分子量分布を有するクロロプレン重合体の製造が可能な旨記載されているが、分子量分布は1.5以上であり、ジチオカルボン酸エステルの作用に関する記載もない。
【0006】
【特許文献1】WO98/01478
【特許文献2】特開平2−300217
【特許文献3】特開平3−212414
【特許文献4】特開2002−348340
【特許文献5】特開2004−115517
【非特許文献1】Makromol.Chem.Rapid.Commun.,3,127頁,1982年
【非特許文献2】Macromolecules,26,2987頁,1993年
【非特許文献3】Macromolecules,36,2256頁,2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、クロロプレン系重合体の抜本的な物性改良又はクロロプレンベースの新規材料を創出するために、分子量分布が制御されたクロロプレン系重合体、及びクロロプレン系重合体の一次構造を制御できる簡便な方法が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の化合物の存在下、クロロプレン単量体等をラジカル重合すると、重合がリビング的に進行し、従来の方法では得られなかった分子量分布が制御されたクロロプレン系重合体が得られ、従来の課題を解決することを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.5未満であることを特徴とするクロロプレン系重合体、並びに下記一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物の存在下、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体、をラジカル重合することを特徴とする当該クロロプレン系重合体の製造法である。
【0010】
【化1】

(式中、Zは、アリール基、置換アリール基又は置換アリル基を表すが、窒素原子を介して一般式(1)の−C−S−R基に結合していない。Rは、下記一般式(2)で表される基であり、一般式(2)中、R、Rは、各々水素、アルキル基又は置換アルキル基を表し、Rは、フェニル基、置換フェニル基、置換アルケニル基、シアノ基又はアルキルエステル基を表す。)
【0011】
【化2】

以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のクロロプレン系重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.5未満である。分子量分布(Mw/Mn)が1.5以上では、クロロプレン系重合体の抜本的な物性改良又はクロロプレンベースの新規材料を創出するために必要な分子量制御が十分できていない。
【0013】
本発明におけるクロロプレン系重合体とは、クロロプレン単量体の単独重合体、クロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体の共重合体をいう。
【0014】
本発明のクロロプレン系重合体の製造法の特徴は、下記一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物の存在下、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体、をラジカル重合することにある。
【0015】
【化3】

(式中、Zは、アリール基、置換アリール基又は置換アリル基を表すが、窒素原子を介して一般式(1)の−C−S−R基に結合していない。Rは、下記一般式(2)で表される基であり、一般式(2)中、R、Rは、各々水素、アルキル基又は置換アルキル基を表し、Rは、フェニル基、置換フェニル基、置換アルケニル基、シアノ基又はアルキルエステル基を表す。)
【0016】
【化4】

本発明の製造法では、上記一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物を使用するものである。これは、上記一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物は低反応性のクロロプレンラジカルに対して反応性の高い炭素−硫黄二重結合を有するものであり、当該ジチオカルボン酸エステル化合物を使用しないと、クロロプレン系重合体の分子量を十分制御することができない。
【0017】
ここに、Zとしては、共鳴によって隣接する炭素−イオウ二重結合の共役性を高め、かつ該イオウ原子の電子密度を低下させるために、アリール基、置換アリール又は置換アリル基である。アリール基は、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等があげられ、置換アリール基は、例えば、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,6−ジクロロフェニル基、2−フロロフェニル基、4−フロロフェニル基、4−シアノフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,3,4,5,6−ペンタフロロフェニル基等があげられ、置換アリル基は、例えば、2−クロロプロペニル基、1−クロロプロペニル基、2−フロロプロペニル基、1−フロロプロペニル基等があげられる。これらのうち、原料コストと重合制御性への影響を考慮すると、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−フロロフェニル基、4−シアノフェニル基、4−メトキシフェニル基、2,3,4,5,6−ペンタフロロフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−クロロプロペニル基、1−クロロプロペニル基が好ましい。
【0018】
しかし、Zは、窒素原子を介して一般式(1)の−C−S−R基に結合していない。窒素原子を介して結合していると、隣接する炭素−硫黄二重結合の電子密度が増加し、クロロプレンの重合制御性は低下する。
【0019】
一方、Rとしては、安定なRラジカルを与え易いために、上記一般式(2)で表される基であり、例えば、ベンジル基、2−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、2,4−ジクロロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、2−フロロベンジル基、4−フロロベンジル基、4−シアノベンジル基、4−ニトロベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,6−ジフロロベンジル基、2,3,4,5,6−ペンタフロロベンジル基、1−フェニルエチル基、1−(p−クロロフェニル)エチル基、1−(p−フロロフェニル)エチル基、1−(p−シアノフェニル)エチル基、1−(p−ニトロフェニル)エチル基、2−ナフチルメチル基、1−ナフチルメチル基、2−フェニルプロプ−2−イル基、2−(p−クロロフェニル)プロプ−2−イル基、2−シアノプロプ−2−イル基、2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンチ−2−イル基、2−シアノ−4−メチルペンチ−2−イル基、2−シアノブテニ−2−イル基、1−シアノシクロヘキシル基、2−メトキシカルボニルプロプ−2−イル基、3−クロロ−2−ブテニル基、2−クロロ−2−ブテニル基等が挙げられる。これらのうち、原料コスト及び重合制御性への影響を考慮すると、4−クロロベンジル基、2,6−ジクロロベンジル基、4−フロロベンジル基、4−シアノベンジル基、4−メトキシベンジル基、2,6−ジフロロベンジル基、2,3,4,5,6−ペンタフロロベンジル基、1−フェニルエチル基、1−(p−クロロフェニル)エチル基、2−ナフチルメチル基、1−ナフチルメチル基、2−フェニルプロプ−2−イル基、2−(p−クロロフェニル)プロプ−2−イル基、2−シアノプロプ−2−イル基、2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンチ−2−イル基、2−シアノ−4−メチルペンチ−2−イル基、2−シアノブテニ−2−イル基、1−シアノシクロヘキシル基、3−クロロ−2−ブテニル基、2−クロロ−2−ブテニル基が好ましい。
【0020】
本発明で使用する一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物の使用量に特に制限はない。本発明のクロロプレン系重合体の分子量は使用する単量体量に比例し、ジチオカルボン酸エステル化合物量に逆比例するため、目的とする重合体の分子量によってジチオカルボン酸エステル化合物量を適宜調整すれば良い。当該ジチオカルボン酸エステル化合物の量は、おおよそでは、単量体100モルに対して10モル以下が、成型可能な重合体を得るという観点から好ましい。
【0021】
本発明の製造法において、クロロプレン系重合体の製造に必要な原料は、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体である。
【0022】
クロロプレン単量体は、得られる重合体のゴム弾性を維持するため、使用する単量体100モルの内、70〜100モルが好ましい。
【0023】
クロロプレン単量体と共重合可能な単量体は、ラジカル重合性を有する単量体であれば良く、例えば、クロロプレン重合体の耐結晶性又は極性を高めるために、クロロプレンとの共重合性が高い2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、2−シアノ−1,3−ブタジエンを用いることができる。架橋性、親水性などの官能性を付与する目的で、1−クロロ−1,3−ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、無水マレイン酸等を用いても良い。また、極性、耐候性、硬さ又は粘着性を付与する目的で、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フルオロアルキル、(メタ)アクリロニトリルなどを用いても良い。上記単量体はクロロプレンとのラジカル共重合性が乏しいため、クロロプレン単量体に対する濃度を高く維持し、共重合率を高めるため、クロロプレン単量体を共重合単量体混合物へ逐次又は連続添加しても良い。
【0024】
ラジカル重合とは、ラジカル開始剤、熱又は放射線等によって重合系内にラジカルを発生させ、単量体をラジカル機構で重合する方法であり、一般的には、有機溶剤、水等の媒体に単量体及び連鎖移動剤等の分子量調節剤を溶解、分散又は乳化させ、過酸化物、アゾ化合物等のラジカル開始剤を添加し、単量体の重合性等に応じて、常温以下から100℃程度の温度で数時間から数十時間重合するものである。
【0025】
ラジカル開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどのパーオキサイド化合物、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1’−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等のアゾ化合物を用いることができる。ラジカル開始剤の量は、より狭い分子量分布の重合体が得られる理由から、ジチオカルボン酸エステル化合物の仕込みモル数より少ないほど好ましい。
【0026】
単量体の重合は無溶剤で行っても良いが、温度制御及び重合体回収の観点から、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、塩化メチレンなどの芳香族系溶剤又はハロゲン化炭化水素を用いた溶液重合又は水媒体中での重合が好ましい。水媒体中で行う重合法としては、単量体及び分子量調節剤を適当な乳化剤を用いて水に乳化させ、ラジカル開始剤の添加により乳化剤ミセル内で重合させる乳化重合法、少量の乳化剤又は分散剤を用いて単量体、分子量調節剤及びラジカル開始剤を水中に分散させ、単量体液滴内で重合させるミニエマルジョン重合、懸濁重合が好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明で得られるクロロプレン系重合体の分子量分布は制御されており、従来にはない優れた静的及び動的力学特性が期待できる。更に、本発明で得られるクロロプレン系重合体は、新規ブロック共重合体を合成のための高分子連鎖移動剤としての利用も期待できる。
【実施例】
【0028】
本発明をより具体的に説明するため以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
なお、本発明の重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnは、東ソー(株)製GPC8220により次の条件で測定した(溶離液=テトラヒドロフラン、流速=1.0ml/min、カラム温度=40℃、ピーク検出=UV検出器、充填カラム=TSK−gel(登録商標、以下同じ)G7000Hxl/TSK−gel GMHxl/TSK−gel GMHxl/TSK−gel G3000Hxl、分子量計算=ポリスチレン換算)。
【0030】
また、重合体中の塩素量は、酸素フラスコ燃焼−イオンクロマトグラフ法により以下の条件で測定した。重合体試料20mgを精秤後、フラスコ燃焼法により燃焼、30%過酸化水素水100μlを添加したN/100水酸化ナトリウム水溶液10mlからなる吸収液に吸収させた。該吸収液を純水で50mlにメスアップし、吸収液中の塩化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。イオンクロマトグラフィーの測定条件は、東ソー(株)製イオンクロマトグラフ、カラム=TSKgel IC−Anion−PWXL PEEK、溶離液=1.3mMグルコン酸カリウム、1.3mMホウ砂、30mMホウ酸、10体積%アセトニトリル、0.5体積%グリセリン水溶液、カラム温度=40℃、流速=1.2ml/min、検出器=電気伝導度検出器であった。
【0031】
実施例1
300ml褐色フラスコに下記一般式(3)で表されるジチオカルボン酸エステルの2.21重量%ベンゼン溶液4.91g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)の1.52重量%ベンゼン溶液4.11g、ベンゼン63.07g及び単蒸留したクロロプレン単量体19.91gを仕込んだ後、常法により十分脱気後、窒素雰囲気下、40℃のオイルバスで加熱した。予め極微量の重合停止剤(川口化学製:W−500)を入れたガラス製サンプル瓶に、一定時間毎にシリンジで反応液を抜き出し、重合を停止させ、クロロプレン重合体を得た。その後、未反応クロロプレンとベンゼンを風乾することにより、乾燥重量からクロロプレンの重合転化率を算出した。また、この乾燥サンプルをGPC分析に用いた。
【0032】
重合時間と転化率の結果を図1に、重合転化率と数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnの結果を図2に示す。図2より、分子量が重合転化率に従って直線的に増大しており、重合が所謂リビング的に進行していることが分かる。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比、即ち分子量分布Mw/Mnが1.4と、従来のラジカル重合では得ることができない小さい値であり、分子量分布が制御されていることが明らかである。以上の結果は、クロロプレンの成長ラジカルが、下記一般式(3)のジチオカルボン酸エステルへ可逆的に連鎖移動しながら重合していることを示唆している。
【0033】
【化5】

実施例2
300ml褐色フラスコに下記一般式(4)で表されるジチオカルボン酸エステルの9.80重量%ベンゼン溶液1.12g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の2.14重量%ベンゼン溶液1.61g、ベンゼン76.0g及び単蒸留したクロロプレン単量体18.61gを仕込んだ後、常法により十分脱気後、窒素雰囲気下、40℃のオイルバスで加熱した。234時間後、重合停止剤(川口化学製:W−500)を含む多量のメタノールに内容物を注ぎ、クロロプレン重合体を析出させた。真空乾燥後の重合体重量から重合転化率を求めた結果、49%であった。また、GPC測定の結果、数平均分子量は21,200、重量平均分子量は27,500、Mw/Mnは1.29であった。
【0034】
【化6】

実施例3
実施例2に於いて、一般式(4)で表されるジチオカルボン酸エステルの代わりに、下記一般式(5)で表されるジチオエステル化合物の3.00重量%ベンゼン溶液3.02gを用いた他は、全て実施例2と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は56%であり、数平均分子量は39,500、重量平均分子量は48,600、Mw/Mnは1.23であった。
【0035】
【化7】

実施例4
実施例2に於いて、一般式(4)で表されるジチオカルボン酸エステルの代わりに、下記一般式(6)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.00重量%ベンゼン溶液3.00gを用いた他は、全て実施例2と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は53%であり、数平均分子量は35,300、重量平均分子量は44,100、Mw/Mnは1.25であった。
【0036】
【化8】

実施例5
実施例2に於いて、一般式(4)で表されるジチオカルボン酸エステルの代わりに、下記一般式(7)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.00重量%ベンゼン溶液3.00gを用いた他は、全て実施例2と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は64%であり、数平均分子量は36,000、重量平均分子量は47,200、Mw/Mnは1.31であった。
【0037】
【化9】

実施例6
実施例2に於いて、一般式(3)で表されるジチオカルボン酸エステルの代わりに、下記一般式(8)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.00重量%ベンゼン溶液2.00gを用いた他は、全て実施例2と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は65%であり、数平均分子量は57,800、重量平均分子量は73,400、Mw/Mnは1.27であった。
【0038】
【化10】

実施例7
実施例2に於いて、一般式(3)で表されるジチオカルボン酸エステルの代わりに、下記一般式(9)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.00重量%ベンゼン溶液1.50gを用いた他は、全て実施例2と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は63%であり、数平均分子量は91,700、重量平均分子量は131,200、Mw/Mnは1.27であった。
【0039】
【化11】

実施例8
300ml褐色フラスコに一般式(3)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.0重量%ベンゼン溶液5.00g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の2.0重量%ベンゼン溶液1.6g、ベンゼン78g及び単蒸留したクロロプレン単量体24.17g及びスチレン28.44gを仕込んだ後、常法により十分脱気後、窒素雰囲気下、40℃のオイルバスで加熱した。192時間後、重合停止剤(川口化学製:W−500)を含む多量のメタノールに内容物を注ぎ、クロロプレン系重合体を析出させた。真空乾燥後の重合体重量から重合転化率を求めた結果35%であった。また、重合体の塩素量28重量%から、下記数式(1)及び数式(2)よりクロロプレンとスチレンの重合転化率を計算すると、各々約53%、19%であることが分かった。該重合体の数平均分子量は31,000、重量平均分子量は45,100、Mw/Mnは1.45であった。
【0040】
【数1】

【0041】
【数2】

実施例9
300ml褐色フラスコに一般式(9)で表されるジチオカルボン酸エステルの3.0重量%ベンゼン溶液5.00g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)の2.0重量%ベンゼン溶液1.6g、ベンゼン78g及び単蒸留したクロロプレン単量体25.00g及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン10.00gを仕込んだ後、常法により十分脱気後、窒素雰囲気下、40℃のオイルバスで加熱した。234時間後、重合停止剤(川口化学製:W−500)を含む多量のメタノールに内容物を注ぎ、重合体を析出させた。真空乾燥後の重合体重量から重合転化率を求めた結果81%であった。また、該重合体の塩素量46.1重量%から、下記数式(3)及び数式(4)よりクロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンの重合転化率を計算すると、各々約74%、97%であることが分かった。また、該重合体の数平均分子量は54,400、重量平均分子量は69,500、Mw/Mnは1.35であった。
【0042】
【数3】

【0043】
【数4】

実施例10
実施例9において、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンの代わりに、アクリル酸ブチル25.00gを用いた他は、全て実施例9と同じ方法でクロロプレンを重合した。その結果、234h重合後の転化率は71%、重合体中の塩素含量は28.3重量%であり、下記式数5及び数6よりクロロプレン及びアクリル酸ブチルの転化率を計算すると、各々約100.0%、41.5%であった。該重合体の数平均分子量は64,300、重量平均分子量は86,800、Mw/Mnは1.36であった。
【0044】
【数5】

【0045】
【数6】

比較例1
300ml褐色フラスコにn−ドデシルメルカプタンの5.94重量%ベンゼン溶液1.33g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)の1.52重量%ベンゼン溶液4.6g、ベンゼン66.8g及び単蒸留したクロロプレン単量体11.74gを仕込んだ後、常法により十分脱気後、窒素雰囲気下、40℃のオイルバスで加熱した。予め極微量の重合停止剤(川口化学製:W−500)を入れたガラス製サンプル瓶に、一定時間毎にシリンジで反応液を抜き出し、重合を停止させ、クロロプレン重合体を得た。その後、未反応クロロプレンとベンゼンを風乾することにより、乾燥重量からクロロプレンの重合転化率を算出した。また、この乾燥サンプルをGPC分析に用いた。重合時間と転化率の結果を図3に、重合転化率と数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnの結果を図4に示す。図4より、分子量は重合転化率に無関係にほぼ一定であり、分子量分布Mw/Mnも1.8程度と広く、分子量分布が制御されていないことが明らかである。
【0046】
比較例2
300ml褐色フラスコに一般式(10)で表されるジチオカルボン酸エステルの9.49重量%ベンゼン溶液0.80g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)の2.14重量%ベンゼン溶液1.30g、ベンゼン71.18g及び単蒸留したクロロプレン単量体20.95gを仕込んだ他は、全て実施例1と同じ方法で重合を行った。重合時間と転化率の結果を図5に、重合転化率と数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnの結果を図6に示す。図6より、実施例と比較して分子量制御性が悪く、分子量分布Mw/Mnが1.5未満に制御できないことが明らかである。即ち、一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル中のZ基が、隣接する炭素−イオウ結合と共鳴せず、該イオウ原子の電子密度を低下させ難い場合、クロロプレンの分子量制御性が低下すると考えられる。
【0047】
【化12】

比較例3
300ml褐色フラスコに下記一般式(11)で表されるジチオカルバミン酸エステルの5.10重量%ベンゼン溶液1.52g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)の2.14重量%ベンゼン溶液1.30g、ベンゼン70.02g及び単蒸留したクロロプレン単量体20.25gを仕込んだ他は、全て実施例1と同じ方法で重合を行った。重合時間と転化率の結果を図7に、重合転化率と数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnの結果を図8に示す。図8より、実施例と比較して分子量制御性が劣り、分子量分布Mw/Mnが1.5未満に制御できないことが明らかである。即ち、下記一般式(11)で表されるジチオカルバミン酸エステル中の窒素原子が、隣接する炭素−イオウ結合のイオウ原子の電子密度を高めているため、クロロプレンの分子量制御性が低下しているものと考えられる。
【0048】
【化13】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1における重合時間とクロロプレンの重合転化率との関係を示したものである。
【図2】実施例1におけるクロロプレン重合転化率と重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びMw/Mnの関係を示したものである。
【図3】比較例1における重合時間とクロロプレンの重合転化率との関係を示したものである。
【図4】比較例1におけるクロロプレン重合転化率と重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びMw/Mnの関係を示したものである。
【図5】比較例2における重合時間とクロロプレンの重合転化率との関係を示したものである。
【図6】比較例2におけるクロロプレン重合転化率と重合体の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びMw/Mnの関係を示したものである。
【図7】比較例3における重合時間とクロロプレンの重合転化率との関係を示したものである。
【図8】比較例3における重合時間とクロロプレンの重合転化率との関係を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1.5未満であることを特徴とするクロロプレン系重合体。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるジチオカルボン酸エステル化合物の存在下、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体及びこれと共重合可能な単量体、をラジカル重合することを特徴とする請求項1に記載のクロロプレン系重合体の製造法。
【化1】

(式中、Zは、アリール基、置換アリール基又は置換アリル基を表すが、窒素原子を介して一般式(1)の−C−S−R基に結合していない。Rは、下記一般式(2)で表される基であり、一般式(2)中、R、Rは、各々水素、アルキル基又は置換アルキル基を表し、Rは、フェニル基、置換フェニル基、置換アルケニル基、シアノ基又はアルキルエステル基を表す。)
【化2】

【請求項3】
クロロプレン単量体と共重合可能な単量体として、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルからなる群より選択される単量体を用いることを特徴とする請求項2に記載のクロロプレン系重合体の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−143899(P2006−143899A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336521(P2004−336521)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】