説明

グラビア塗布方法及び装置

【課題】グラビア塗布装置においてブレードの振動によって発生する段ムラを解消することができ、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造する方法。
【解決手段】グラビアロール16のロール面16Aにブレード22の先端を接触させて該ロール面16Aに過剰に付着させた塗布液を掻き落とすことにより連続走行する帯状の支持体18への塗布量を計量するグラビア塗布において、ブレード22はブレードホルダー21を介してブレード支持装置に支持されると共に、ブレードホルダー21は上下のブロックでブレード22の基端部を挟み込んだ状態でブレードホルダー幅方向の複数箇所をボルトで締結することでブレード22を保持する構造であり、グラビアロール16とブレード22との接触力をF(kgf)とし、ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、次式F≦0.1×n×Tの関係を満足するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明はグラビア塗布方法及び装置に係り、特に、グラビアロールのロール面にブレード(ドクターブレードともいう)の先端を接触させて該ロール面に過剰に付着させた塗布液を掻き落とす際に、ブレードが振動することによる段ムラの塗布欠陥が発生するのを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グラビア塗布においては、グラビアロールの回転により、塗布液貯留槽からロール面に過剰に掻き上げた塗布液を、ブレードホルダーに保持されたブレードで掻き落とすことにより支持体へ塗布する塗布液量の計量を行う。一般に使用されているブレードホルダーは、上下のブロックでブレードを挟み込む構造となっており、ブレードホルダーの締結力を確保するためにブレードの幅方向に沿って何本かのボルトで締結している。また、ブレードとブロックとの間に、押さえ板を介在することもある。
【0003】
しかし、塗布液処方や塗布条件によっては、ブレードとグラビアロールとの接触によってブレードに振動(びびり)が起こり、支持体に塗布された塗布面上に段ムラの塗布欠陥が発生するという問題がある。この段ムラは支持体の走行方向に、塗布液が厚く塗り付けられた厚膜部分と薄く塗り付けられた薄膜部分とが交互に発生する塗布欠陥である。
【0004】
この対策として、特許文献1では、経時的に生じるブレードの振動(びびり)に対して、ブレードを接触させる加圧力を積極的に変動させることにより振動を解消する方法が提案されている。別の対策として、ブレードの摩擦係数を小さくして振動を抑制するために、ブレードの材質にポリエステル、ポリエチレン等のプラスチックを用いたり、金属製のブレード表面に樹脂、或いはニッケル等の軟質性の金属をコーティングしたコーティングブレードを用いることもある。
【特許文献1】特開2003−205591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにブレードの加圧力を変動させると、グラビアロールのロール面から掻き落とす塗布液の掻き落とし量が変動し易い。そして、この掻き落とし量の変動が面状品質の厳しい商品、特に反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい商品では問題になる。
【0006】
一方、コーティングブレードは、ブレードの幅方向にわたりコーティングが均一になるように製作することが難しい。また、使用する際に削れの進行が速く、ブレード交換頻度の増加や削れカスによる点状の塗布欠陥が問題となり、根本的な解決にはならない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ブレードの振動によって発生する段ムラの塗布故障を解消することができ、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造することができるので、反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品に好適なグラビア塗布方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は前記目的を達成するために、連続走行する帯状の支持体に塗布液を塗布する方法であって、グラビアロールのロール面にブレードの先端を接触させて該ロール面に過剰に付着させた塗布液を掻き落とすことにより前記支持体への塗布量を計量するグラビア塗布方法において、前記ブレードはブレードホルダーを介してブレード支持装置に支持されると共に、前記ブレードホルダーは上下のブロックで前記ブレードの基端部を挟み込んだ状態でブレードホルダー幅方向の複数箇所をボルトで締結することでブレードを保持する構造であり、前記グラビアロールと前記ブレードとの接触力をF(kgf)とし、前記ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、次式F≦0.1×n×Tの関係を満足することを特徴とするグラビア塗布方法を提供する。
【0009】
発明者は、ブレードの振動を低減させるための検討を行った結果、ブレードホルダーの上下のブロックがブレードの基端部を挟み込んだ状態でボルトで締めつけた際にブレードホルダー全体でブレードを保持するトータルの保持力を、ブレード先端とグラビアロールとが接触する際にブレード幅方向全体に生じるトータルの接触力よりも十分に大きくすることが必要であり、グラビアロールとブレードとの接触力をF(kgf)とし、ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、次式F≦0.1×n×Tの関係を満足する場合に、ブレードの振動を顕著に低減できることが分かった。
【0010】
本発明の請求項1によれば、次式のF≦0.1×n×Tの関係を満足するブレードホルダーを使用してブレードを保持して支持体に塗布液を塗布するようにしたので、グラビアロールに先端を接触させて使用するブレードの振動を顕著に低減することができる。これにより、ブレードの振動によって発生する段ムラの塗布故障を解消することができる。従って、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造することができるので、反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品に好適なグラビア塗布を提供することができる。
【0011】
また、本発明における上記式を利用することにより、ブレードに振動を発生させないようにブレードホルダーでブレードを保持するには何本のボルトを使用すればよいかを知ることができるので、過剰にボルトの本数を増やす必要がない。これにより、ブレードホルダーで使用するボルト本数を減らすことができるので、部品点数の削減にも寄与する。
【0012】
また、上記式は、ブレード幅方向全体に生じるトータルの接触力と、ブレードホルダー全体でブレードを保持するトータルの保持力とをパラメータとしているので、ブレード幅の大小、ブレード材質、あるいはグラビアの回転数等の塗布条件が異なっても上記式で対応できる。ブレードとグラビアロールとの接触力の測定は、例えば、タクタイルセンサー(新田工業製)等を使用できると共に、ボルトの締め付けトルクは一般的なトルクセンサーを使用できる。
【0013】
請求項2は請求項1において、前記塗布液の粘度が15mPas以下であることを特徴とする。
【0014】
塗布液の粘度が低いほどグラビアロールに接触するブレード先端での潤滑性が小さくなるので、ブレードに振動が発生しやすい。従って、粘度が15mPas以下と低粘度の塗布液を支持体に塗布する場合において本発明の効果が一層発揮される。粘度が10mPas以下の塗布液において本発明の効果が特に発揮される。
【0015】
請求項3は請求項1又は2において、前記支持体に塗布される塗布液のウエット膜厚が15μm以下であることを特徴とする。
【0016】
支持体に塗布される塗布液のウエット膜厚が薄いほどグラビアロールに接触するブレード先端での潤滑性が小さくなるので、ブレードに振動が発生しやすい。従って、支持体に塗布される塗布液のウエット膜厚が15μm以下の薄膜塗布において本発明の効果が一層発揮される。ウエット膜厚が10μm以下の薄膜塗布において本発明の効果が特に発揮される。
【0017】
請求項4の発明は前記目的を達成するために、請求項1〜請求項3の何れか1のグラビア塗布方法による塗布工程を経て製造されることを特徴とする光学機能フィルムの製造方法を提供する。
【0018】
本発明は、光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品を製造する際に特に有効だからである。
【0019】
請求項5の発明は前記目的を達成するために、請求項4の光学機能フィルムが反射防止フィルムであることを特徴する反射防止フィルムの製造方法を提供する。
【0020】
請求項5は本発明の効果を有効に発揮することのできる光学機能フィルムの一つとして反射防止フィルムに製造に適用するものである。
【0021】
請求項6の発明は前記目的を達成するために、連続走行する帯状の支持体に塗布液を塗布する装置であって、グラビアロールのロール面にブレードの先端を接触させて該ロール面に過剰に付着させた塗布液を掻き落とすことにより前記支持体への塗布量を計量するグラビア塗布装置において、前記ブレードを保持するブレードホルダーと、前記ブレードを前記ブレードホルダーを介して支持するブレード支持装置と、を備え、前記ブレードホルダーは、上下のブロックで前記ブレードの基端部を挟み込んだ状態でブレードホルダー幅方向の複数箇所をボルトで締結することでブレードを保持する構造であると共に、前記グラビアロールと前記ブレードとの接触力をF(kgf)とし、前記ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、F≦0.1×n×Tの関係を満足するように設計されていることを特徴とするグラビア塗布装置を提供する。
【0022】
請求項6によれば、ブレードを保持するブレードホルダーを、F≦0.1×n×Tの関係を満足するように設計したので、グラビアロールに先端を接触させて使用するブレードの振動を顕著に低減することができる。これにより、ブレードの振動によって発生する段ムラの塗布故障を解消することができる。従って、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造することができるので、反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品に好適なグラビア塗布を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のグラビア塗布方法及び装置によれば、グラビアロールに接触するブレードの振動によって発生する段ムラの塗布故障を解消することができ、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造することができる。従って、本発明は、反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品の製造に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下添付図面に従って本発明に係るグラビア塗布方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0025】
図1は本発明に係るグラビア塗布装置の全体構成の一実施の形態を説明する概念図である。
【0026】
図1は、バックアップローラを使用しないキスリバース方式のグラビア塗布装置の一例を示す概念図である。図1に示すように、グラビア塗布装置10は、主として、塗布液12が溜まった塗布液貯留槽14にロール下部が浸ったグラビアロール16と、グラビアロール16によって塗布液が塗布されるように、支持体18の走行経路を形成するパスローラ20、20と、グラビアロール16のロール面16Aに先端を接触させて該ロール面16Aに過剰に付着させた塗布液12を掻き落とすことにより支持体18への塗布量を計量するブレード22と、ブレード22を保持するブレードホルダー21とによって構成される。
【0027】
グラビアロール16は、そのロール面16Aに、塗布液貯留槽14内の塗布液12を付着保持する凸凹の彫刻加工(例えば斜線版)が施されており、グラビアロール16が回転することにより塗布液貯留槽14内の塗布液12をグラビアロール16を介して連続走行する支持体18に転写塗布する。グラビアロール16の直径は30mm〜300mmの範囲のもの使用することが好ましく、50mm以下のものをマイクログラビアロールと言う。また、グラビアロール16の幅は200mm〜2000mmのものを好ましく使用することができる。
【0028】
ブレード22は、ブレードホルダー21を介してブレード支持装置24に支持され、ブレード幅L1(図2参照)はグラビアロール幅L2と略同等に形成される。ブレード22の材質は磨耗の観点から金属製(SK材)を好ましく使用することができる。また、ブレード22の接触角度θ(図3参照)は、一般的に30度±10度が好適である。ここで、接触角度θとは水平線23に対するブレード22の上向き角度である。
【0029】
図2はブレード22を保持したブレードホルダー21を上から見た上面図であり、図3は側面断面図である。これらの図に示すように、ブレードホルダー21は、上下のブロック21A,21Bで上下の押さえ板21C,21Dを介してブレード22の基端部を挟み込む構造となっており、挟み込んだ状態で上下のブロック21A,21Bがその幅方向(ブレード幅方向でもある)に沿って複数のボルト25,25…により締め付けられる。即ち、上下のブロック21A,21Bの幅方向に沿ってボルト孔29が貫通されており、このボルト孔29にボルト25を貫通させてナット27に螺合し、この状態でボルト25を締め付ける。ボルト25の配列は、図2に示すように、ブロック21A,21Bの幅方向(即ちブレードホルダー21の幅方向)に沿って等間隔を置いて一直線上に配列されることが好ましいが、この配列方法に限定するものではなく、例えばブレードホルダー21の幅方向に沿って千鳥状に配列する場合でもよい。要は、ブレード22の基端部を挟み込むブレードホルダー21のブロック面に対してボルト25が存在する密度が均等になる配列が好ましい。これにより、ブレードホルダー21全体にブレード22を保持するボルト25の締結力が均等に発生する。また、これらのボルト25は、ブレードホルダー幅方向での締結力を均一とするため、全本数同一のトルクで締め付けを行っている。しかし、ブレードホルダー21の上下ブロック21A,21Bの合わせ面同士の間には、押さえ板21C,21Dとブレード22とを介在させて押さえ付けるための隙間があり、この隙間はボルト25による締結力が十分でないと、ブレード22が動くガタの原因となり、ブレード22の振動を増幅することになる。
【0030】
かかる構造のブレードホルダー21は、グラビアロール16とブレード22との接触力をF(kgf)とし、ボルト25の本数をn(本)とし、各ボルト25の締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、次式 F≦0.1×n×Tの関係を満足するように設計される。ブレードホルダー21の幅が狭くなれば、それだけ上記式を満足するためのボルト25の本数は少なくなるが、ボルト25が1本ではブレード22がブレードホルダー21に対して回動するので、ボルト本数は少なくとも2本以上であることが必要である。
【0031】
設計する際に必要なグラビアロール16とブレード22との接触力の測定は、例えばタクタイルセンサー(新田工業製)を好適に使用することができる。また、ボルト25の締め付けトルクは一般的なトルクセンサーを使用することができる。タクタイルセンサーは、10cm四方のシートに圧力感知センサーを挟み込んだものであり、グラビアロール16とブレード22との間にブレード幅方向に沿って挟み込むことで接触圧を測定することができる。従って、接触圧はブレード幅方向全体に生じるトータルの接触圧として測定される。また、ボルト25を締め付けるトルク(T)にボルト25の本数(n)を掛けたn×Tは、ブレードホルダー21でブレード22を保持するトータルの保持力として把握することができる。従って、上記式は、ブレード幅方向全体に生じるトータルの接触力と、ブレードホルダー21でブレード22を保持するトータルの保持力とをパラメータとしているので、ブレード幅の大小、ブレード材質、あるいはグラビアロール16の回転数等の塗布条件が異なっても対応できるという利便性がある。
【0032】
図4及び図5は、ブレード22をブレードホルダー21を介して支持するブレード支持装置24の一例である。
【0033】
これらの図に示すように、ブレード支持装置24は、昇降装置26の上に旋回装置28が搭載され、旋回装置28の上にブレード22をグラビアロール16に対して進退させる進退調整装置30が搭載され、この進退調整装置30にブレードホルダー21が固定される。
【0034】
ブレードホルダー21は、ブレード22をグラビアロール16側に向けて横板32上に固定されると共に、横板32の下面に直交して設けられた縦板33が進退調整装置30の差動筒ブロック36上面に形成されたスライド溝38にスライド自在に嵌め込まれる。このスライド溝38にガイドされて横板32がスライドすることにより、横板32に保持されたブレードホルダー21がグラビアロール16に対して進退する。尚、ブレードホルダー21の横板32への固定は、溶接でもボルト結合等でもよく、ブレードホルダー21を確実に固定できるものであればよい。
【0035】
進退調整装置30は、図5に示すように、差動ネジ機構で構成される。即ち、上記した差動筒ブロック36は、旋回装置28の旋回台40上に載置固定される。この差動筒ブロック36の内壁面に刻設された雌ネジに第1の差動ネジ42が螺合されると共に、第1の差動ネジ42の基端側が旋回台40に支持されたナット部材44に螺合され、基端部に微調整ダイヤル46が取り付けられる。第1の差動ネジ42は円筒状に形成されており、円筒状の内側面に刻設された雌ネジに第2の差動ネジ48に形成された雄ネジが螺合すると共に、第1の差動ネジ42と第2の差動ネジ48とは逆ネジが切られている。また、差動筒ブロック36から外部に突出された第2の差動ネジ48の先端部(グラビアロール側)と、前記横板32の下側に設けられた連結板50とが連結されると共に、連結板50と差動筒ブロック36との間にスプリング52が介在される。
【0036】
このように構成された進退調整装置30は、微調整ダイヤル46を1回転すると、第1の差動ネジ42がグラビアロール16に接近する方向に1.5mm前進すると共に、第2の差動ネジ48がグラビアロール16から離れる方向に1.4mm後退する。結局、微調整ダイヤル46を1回転することにより、ブレード22は、第1及び第2の差動ネジ42、48、連結板50、横板32、及びブレードホルダー21を介して0.1mmだけグラビアロール16に対して進退する。微調整ダイヤル46の面には、360°を100等分に分割した目盛りが刻まれており、微調整ダイヤル46を1目盛り回転すると、ブレード22はグラビアロール16に対して1μm進退する。このブレード22の進退移動において、連結板50と差動筒ブロック36との間に設けられたスプリング52の付勢力により、第1及び第2の差動ネジ42、48のバックラッシュが防止される。これにより、ブレード22をグラビアロール16に対して極めて微量単位の移動量で且つ精度の良い進退移動を行うことができる。この進退調整装置30によりブレード22のグラビアロール16に対する接触圧が設定される。
【0037】
旋回装置28は、図4のように、ブレード22の先端部を図示しないエアシリンダにより縦方向に旋回させるもので、旋回台40の下面両側に設けられた対向する一対のブラケット53、53に、旋回シャフト54の両端が固着されると共に、ブラケット53、53同士の間に配置された昇降装置26の昇降台56の軸孔に、旋回シャフト54が軸支される。また、旋回シャフト54の一方端には、旋回量を目盛った目盛りと、旋回シャフト54の旋回ストッパー機能とを備えた旋回ダイヤル58が取り付けられる。この旋回装置28により、ブレード22の上記した接触角度θが設定される。尚、この旋回装置28を旋回させるエアシリンダの圧力により、ブレード22のグラビアロール16に対する接触圧を設定してもよい。
【0038】
昇降装置26は、送りネジ機構で構成され、送りネジの上端に昇降台56が支持される。この昇降装置26によりグラビアロール16に対するブレード22の高さ位置が位置決めがなされる。
【0039】
上記の如く構成されたグラビア塗布装置10を用いたグラビア塗布方法によれば、次式F≦0.1×n×Tの関係を満足するブレードホルダー21を使用して支持体18に塗布液12を塗布するようにしたので、グラビアロール16に先端を接触させて使用するブレード22の振動を顕著に低減することができる。これにより、ブレード22の振動によって発生する段ムラの塗布故障を解消することができる。従って、塗布膜厚の均一な塗布製品を製造することができるので、反射防止フィルム等の光学機能フィルムのように膜厚偏差の許容値が極めて小さい塗布製品に好適なグラビア塗布を提供することができる。
【0040】
本発明の塗布方法は、塗布液12の種類や塗布条件は限定されないが、塗布液12の粘度が15mPas以下、更には10mPas以下で、支持体18に塗布される塗布液12のウエット膜厚が15μm以下、更には10μm以下の低粘度・低塗布量で塗布を行う場合に特に有効である。これは、塗布液12が低粘度なほど、また低塗布量なほどグラビアロール16に接触するブレード先端での潤滑性が小さくなるので、ブレード22に振動が発生しやすいため、本発明の効果が一層発揮されるからである。
【0041】
また、本発明における上記式を利用することにより、ブレード22に振動を発生させないようにブレードホルダー21でブレード22を保持するには何本のボルト25を使用すればよいかを知ることができるので、過剰にボルト25の本数を増やす必要がない。これにより、ブレードホルダー21で使用するボルト25の本数を適正にすることができるので、部品点数の削減にも寄与する。
【0042】
尚、本発明の実施の形態では、グラビア塗布装置10として、バックアップローラを使用しないキスリバース方式の例で説明したが、図6に示すようにバックアップローラ60を備えた方式のグラビア塗布装置10’でもよい。また、本発明の実施の形態では、グラビアロール16の回転方向と支持体18の走行方向が逆向きなリバース方式で説明したが、グラビアロール16の回転方向と支持体18の走行方向が同じ場合にも本発明を適用できる。
【実施例】
【0043】
次に、図1に示したキスリバース方式のグラビア塗布装置10を用い、ブレードホルダー21が次式F≦0.1×n×Tを満足する場合(実施例)と満足しない場合(比較例)とで、段ムラの塗布故障にどのように影響するかを試験した。合わせて、塗布液12の粘度と、支持体18に塗布される塗布液12のウエット膜厚を変えたときに段ムラの塗布故障にどのように影響するかを試験した。
【0044】
(実施例1)
支持体18は、厚み100μm、幅1000mmPET(ポリエチレンテレフタレート:東レ株式会社製)を使用し、支持体上に低屈折率層塗布液を塗布した。グラビアロール16は、直径が50mm、幅1000mmのマイクログラビアロール(彫刻:斜線版)を使用した。ブレード22は、金属製(SK製)で厚みが150μm、幅が1000mmと広いものを使用した。
【0045】
ブレードホルダー21は、SUS304の材質で幅が1200mmの上下のブロック21A,21Bで、上下の押さえ板21C,21Dを介してブレード22を挟み込み、ブレードホルダー幅方向に等間隔で一直線上に配列した複数のボルト25により締結した。押さえ板21C,21Dとしては金属製(SK製)で厚みが0.8mmのものを使用した。
【0046】
そして、締結に用いるボルト25の本数を15本、20本、25本と変えた3種類のブレードホルダー21を準備し、ブレード22の接触角度θを30度に設定させた状態でグラビアロール16に接触するようにブレードホルダー21を位置決めして塗布試験を行った。また、グラビアロール16の線数を変えることによって、支持体18に塗布されるウエット膜厚を7μm、13μm、19μmの3条件になるようにした。
【0047】
低屈折率層塗布液は、屈折率が1.42であり、熱架橋性含フッ素ポリマーの6重量%のメチルエチルケトン溶液(JN−7228、JSR株式会社製)93gに、MEK−ST(平均粒径10nm〜20nm、固形分濃度30重量%のSiO2 ゾルのメチルエチルケトン分散物、日産化学株式会社製)8g、メチルエチルケトン94g及びシクロヘキサン6gを添加・攪拌の後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルター(PPE−01)で濾過して調製した。尚、塗布液の粘度は5mPas、13mPas、17mPasに3条件について行った。
【0048】
表1は塗布試験結果を示したものである。また、表1の塗布面における段ムラの評価は目視によって行い、◎は段ムラが観察されないレベル、○は段ムラが少し観察されるが問題ないレベル、△は塗布面の一部に段ムラが発生しているレベル、×は塗布面全体に段状ムラが発生しているレベルである。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から分かるように、ボルト25の本数n、ボルト25の締結トルクT、グラビアロール16とブレード22の接触力Fが次式F≦0.1×n×Tの関係を満足するブレードホルダー21を使用した実施例1から10は、段ムラ故障の評価が全て○又は◎であった。また、実施例1〜4のように、粘度が5mPas、ウエット膜厚が7μmの低粘度・低塗布量の塗布条件においては、実施例3のように、接触力Fに対するブレードホルダーの保持力(0.1×n×T)を十分に大きくすることで、段ムラが観察されない◎の評価になった。
【0051】
これに対し、ボルト25の本数n、締結トルクT、接触力Fが次式F≦0.1×n×Tの関係を満足しないブレードホルダー21を使用した比較例1〜10は、段ムラの評価が×〜○の間であった。比較例5及び6は、F≦0.1×n×Tの関係を満足しないにもかかわらず評価が○であったが、これは比較例5の塗布液の粘度が17mPasと高く、グラビアロール16と接触するブレード先端の潤滑性がよくなり、○の評価になったものと考察される。同様に、比較例6はウエット膜厚が19μmと塗布量が多いために、グラビアロール16と接触するブレード先端の潤滑性がよくなり、○の評価になったものと考察される。
【0052】
(実施例2)
実施例2は、ブレード22の幅が300mmと狭い場合であり、ブレードホルダー21を締結するボルト本数を4本、5本、6本の3条件とした。このブレード22の幅に合わせて、グラビアロール16の幅、支持体18の幅、ブレードホルダー21のブロック21A,21Bの幅及び押さえ板21C,21Dの幅も300mmのものを使用した。塗布液は実施例1と同様である。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果から分かるように、ボルト25の本数n、締結トルクT、接触力Fが次式F≦0.1×n×Tの関係を満足するブレードホルダー21を使用した実施例11〜14は、段ムラ故障の評価が全て○又は◎であった。これに対し、ボルト25の本数n、締結トルクT、接触力Fが式F≦0.1×n×Tの関係を満足しないブレードホルダーを使用した比較例11〜14は、段ムラの評価が×〜△の間であった。
【0055】
実施例1及び実施例2から分かるように、ブレード22の幅が変わっても、次式F≦0.1×n×Tの関係を適用することができる。これは、ブレード幅方向全体に生じる接触力と、ブレードホルダー全体の保持力とをパラメータとしているので、ブレード幅の大小、ブレード材質、あるいはグラビアの回転数等の塗布条件に関係なく、上記式を適用できるためである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のキスリバース方式のグラビア塗布装置の一例を示す概念図
【図2】ブレードホルダーの説明する上面図
【図3】ブレードホルダーを説明する側面断面図
【図4】ブレード支持装置の全体構成図
【図5】ブレード支持装置の部分拡大図
【図6】本発明のバックアップローラを用いたグラビア塗布装置の一例を示す概念図
【符号の説明】
【0057】
10、10’…グラビア塗布装置、12…塗布液、14…塗布液貯留槽、16…グラビアロール、18…支持体、20…パスローラ、21…ブレードホルダー、21A,21B…ブロック、21C,21D…押さえ板、22…ブレード、24…ブレード支持装置、25…ボルト、26…昇降装置、28…旋回装置、30…進退調整装置、32…横板、33…縦板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する帯状の支持体に塗布液を塗布する方法であって、グラビアロールのロール面にブレードの先端を接触させて該ロール面に過剰に付着させた塗布液を掻き落とすことにより前記支持体への塗布量を計量するグラビア塗布方法において、
前記ブレードはブレードホルダーを介してブレード支持装置に支持されると共に、前記ブレードホルダーは上下のブロックで前記ブレードの基端部を挟み込んだ状態でブレードホルダー幅方向の複数箇所をボルトで締結することでブレードを保持する構造であり、
前記グラビアロールと前記ブレードとの接触力をF(kgf)とし、前記ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、F≦0.1×n×Tの関係を満足することを特徴とするグラビア塗布方法。
【請求項2】
前記塗布液の粘度が15mPas以下であることを特徴とする請求項1のグラビア塗布方法。
【請求項3】
前記支持体に塗布される塗布液のウエット膜厚が15μm以下であることを特徴とする請求項1又は2のグラビア塗布方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1のグラビア塗布方法による塗布工程を経て製造されることを特徴とする光学機能フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項4の光学機能フィルムが反射防止フィルムであることを特徴する反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
連続走行する帯状の支持体に塗布液を塗布する装置であって、グラビアロールのロール面にブレードの先端を接触させて該ロール面に過剰に付着させた塗布液を掻き落とすことにより前記支持体への塗布量を計量するグラビア塗布装置において、
前記ブレードを保持するブレードホルダーと、
前記ブレードを前記ブレードホルダーを介して支持するブレード支持装置と、を備え、 前記ブレードホルダーは、上下のブロックで前記ブレードの基端部を挟み込んだ状態でブレード幅方向の複数箇所をボルトで締結することでブレードを保持する構造であると共に、前記グラビアロールと前記ブレードとの接触力をF(kgf)とし、前記ボルトの本数をn(本)とし、各ボルトの締め付けトルクをT(kgfm)としたときに、F≦0.1×n×Tの関係を満足するように設計されていることを特徴とするグラビア塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−255611(P2006−255611A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77715(P2005−77715)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】