説明

グラビア塗布方法

【課題】塗工液を多層塗布する方法において、第1の塗布工程で塗工液が塗布された層が設けられた連続して走行するウェブに、塗工後に気泡が両端部より進入することなく上層である薄膜を均一塗布する技術を提供する。
【解決手段】ウェブ上に塗工液を多層塗布する方法において、支持体上に第1の塗布工程で塗工液が塗布されたウェブに、グラビアロールを用いてその上層を塗布する方法であって、該上層をグラビアロールにより塗布する際、グラビアロールがウェブに接触すると同時、もしくは直後に、ウェブの幅方向の両端に、塗工液とウェブが接触する面とは反対側の面より設置された押さえロールを押し当てることを特徴とする塗工液のグラビア塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア塗布方法に関し、更に詳しくは、連続して走行する支持体(以下「ウェブ」と称す)に、塗工後に気泡が両端部より進入することなく薄膜を均一塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、写真用フィルム・印画紙等の写真感光材料や写真製版材料、磁気記録材料、熱現像感光材料、感圧記録材料等の記録材料、易接着性、易滑性、ガス遮断性、防湿性、制電性、インク受容性等の機能を付与する材料等の様に塗布膜に望まれる機能が多機能化により益々複雑となっていて多層化してきている。
【0003】
上記材料を製造するための方法としては、従来より連続走行しているウェブ上に塗布液を塗布・乾燥する方法が、各種提案されており、例えばこれらの各種塗布方式については、Edward Cohen、Edgar Gutoff著「Modern Coating and Drying Technology」に述べられている。
【0004】
ウェブ上に塗布膜を複数形成する方法としては、例えば透明磁性層と帯電防止層との重層塗布方法において、例えば特開昭51−119204号、同昭523−51908号、同昭53−16604号公報等に開示されているように、支持体上に1層づつ塗布液を塗布・乾燥することにより重層を形成するウェットオンドライ重層塗布技術が知られている。また特公昭53−36364号、特公昭50−7481号、特開昭50−133008号公報等には、重層構成感光性印刷版に関して、ホイラーコート、ロールコート、グラビアコート、ビードコート方式等を用いて下層を塗布乾燥後、上層を塗布し乾燥することにより多層構成の感光性印刷版を作製することが開示されており、特開2004−333813号公報には支持体上に有機銀粒子、感光性ハロゲン化銀粒子、還元剤を含有する感光層を有する熱現像記録媒体の最外層を逐次重層塗布によって塗設することが開示されている。また特開2004−123247号公報には、ロールコート、グラビアコート、スライドビートコート方式等を利用する、搬送されたウェブに塗布液を逐次塗布する多層逐次塗布装置も知られている。
【0005】
連続走行しているウェブ上に塗布液を塗布・乾燥する方法としては、種々の方法が知られており、その選択は一般的には塗布液の粘度及び塗布膜の厚み等により決定される。一般に塗布液の粘度が1〜40mPa・secであり、塗布膜厚(ウェット状態)が10μm以下である場合、グラビア塗布方式は好適である。
【0006】
グラビア塗布方法は、グラビアロールの表面に凹凸の加工が施されていて、グラビアパターンが非常に細かく、塗液の調整とロールの凹凸加工によって、全面をローラー塗布したような、全面均一な表面仕上げを得ることが出来る塗布方法である。
【0007】
グラビア塗布は、液パンの塗工液中に下部が浸ったグラビアロールを回転させて塗工液を液パンから掻き上げることにより前記グラビアロールのロール面に形成された凹凸部内に所望の塗布量よりも過剰量の塗工液を保持する。そして、凹凸部に保持された過剰量の塗工液を掻き揚げる途中でドクターブレードで過剰の塗工液をグラビアロールから掻き落とすことにより、塗布量を調整し塗工液を連続走行するウェブに転写する。
【0008】
グラビア塗布における塗布量は、グラビアロールの加工、塗工液の粘度、塗布速度とグラビアロールの回転速度との周速差、及びウェブの表面物性などによって決まるので、機械運転操作技術をあまり要さず、薄い塗膜を得たい場合には便利な方法であり、各分野で使用されている。
【0009】
ウェブ上に第1の塗布工程で層が塗設された後、その上層にグラビア塗布方式により塗設する塗布物としては、例えば特開2000−284485号公報(特許文献1)には、支持体上に少なくともハロゲン化銀乳剤層を塗布乾燥した後、該ハロゲン化銀乳剤層上に物理現像核層を塗布する平版印刷版の製造方法において、前記物理現像核層がグラビア塗布方式により塗布されることが記載される。また特開2005−254769号公報(特許文献2)には、インク吸収性、白紙光沢性が優れ、印字部のブロンジングを抑制することを目的に、支持体上に多孔質層からなるインク受容層をスライドビート塗布装置で塗布、乾燥し、その上層に熱可塑性粒子からなる層をグラビア塗布装置により逐次塗布することが記載される。
【0010】
上述したような塗布方式で第1の塗布工程で層を塗布する場合、特にスライドビードコート、カーテンコート方式等の塗布方式においては、塗布液の幅を規制するために、両端にガイド板が一般に用いられる。このガイド板は塗布液の流量や粘度等によって形状や厚みを最適化したものであるが、塗布液がガイド板に接して流れる周囲と、それ以外の部分とでは流速が異なり塗布膜厚の不均一が生じる。更に塗布液が接触した両端部分では特に顕著に厚塗りとなる。この厚塗りの除去に対して、上層を塗布しない場合は吸引や或いは物理的にスクレーパー等で掻き取り、乾燥工程における負荷の軽減を行い未乾燥を防ぐ方法が一般的であり、最終的には裁断工程で除去される。
【0011】
しかしながら、第1の塗布工程で層を塗布した後、上層をグラビアロールで塗布する場合、前述のように物理的な厚塗り除去を行いその上に上層を塗布すると、厚塗りを除去することによって乱された塗布面の上に上層を塗布することになり、塗布面が乱されることはもちろんであるが、乱された膜がグラビアロールによって削れ、その付着物がグラビアロールの彫刻の中に入り込みロールの性能を低下させる問題や、逆にグラビアロールが摩滅し同様に性能が低下する恐れがあった。また厚塗りを除去することなく上層を塗布した場合、第1工程の両端厚塗り部の側近部と、該グラビアロールとの間に空隙が生じることにより微小な気泡が発生する。その気泡がグラビアロールの彫刻内に入り込み、筋故障や粒状痕といった欠陥が塗布面に転写されるという問題を有するものであった。従って、第1の塗布工程で塗布した層の厚塗り部を除去することなく上層が均一に塗布できる方法が望まれていた。
【特許文献1】特開2000−284485号公報
【特許文献2】特開2005−254769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、グラビア塗布方法に関し、更に詳しくは、第1の塗布工程で塗工液が塗布された連続して走行するウェブに、塗工後に気泡が両端部より進入することなく上層である薄膜を均一塗布する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は以下の発明によって達成された。
(1)ウェブ上に塗工液を多層塗布する方法において、支持体上に第1の塗布工程で塗工液が塗布されたウェブに、グラビアロールを用いてその上層を塗布する方法であって、該上層をグラビアロールにより塗布する際、グラビアロールがウェブに接触すると同時、もしくは直後に、ウェブの幅方向の両端に、塗工液とウェブが接触する面とは反対側の面より設置された押さえロールを押し当てることを特徴とする塗工液のグラビア塗布方法。
(2)前記押さえロールの幅が10〜100mmの範囲で選択される(1)に記載のグラビア塗布方法。
(3)塗工液の粘度が1〜40mPa・secで、塗速が5m/min以上である
(1)または(2)に記載のグラビア塗布方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、第1の塗布工程で塗工液が塗布された連続して走行するウェブに、塗工後に気泡が両端部より進入することなく上層である薄膜を均一塗布することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付の図面に従って本発明に係るグラビア塗布方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0016】
図1は本発明にかかる上層の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。図示しない第一の塗布工程で、スライドビード塗布装置等の塗布幅をガイド板により規制した塗布装置で塗工液が塗布されたウェブ1は、ノズルから風を吹き付けることによって乾燥され、第二の塗布工程に搬送されてくる。図1の第二の塗布工程内には、塗工液を塗布するためのグラビアロール2とウェブ1を搬送するためのサポートローラー3、4が配置されており、塗布を始める時にウェブ1にグラビアロール2を押し当てて塗布を行う。グラビアロール2はウェブ1の搬送方向とは逆方向に回転することで、塗布液供給パン5に準備された塗工液6を、グラビアロール2に彫刻された斜線を通じて所望塗布量よりも過剰に掻き上げる。過剰塗布液はドクターブレード7によって所望塗布量に掻き落とされ、連続走行するウェブ1とグラビアロール2とが接する接触点Aに供給され、接触点Aの直後にウェブ1の反対側の面より押さえロール8によりウェブ1を押し当てることにより上層を均一に塗布する。
【0017】
本願が意図する多層塗布方法におけるグラビア塗布方式は、連続して走行するウェブ1を介してグラビアロール2と対向する位置に、バックアップロールを設けない塗布装置が望ましい。ウェブ1を介してグラビアロール2と対向する位置にバックアップロールを設けると、グラビアロール2をウェブ1に押し当てる強さによっては、第1の塗布工程で塗工液が塗布された層の表面を傷つける場合があるためである。また第1の塗布工程で塗布された層の塗布面が乱された場合、乱された膜がグラビアロールによって削れ、その付着物がグラビアロールの彫刻の中に入り込みロールの性能を低下させる場合もあるので、その様な観点からも連続して走行するウェブ1を介してグラビアロール2と対向する位置に、バックアップロールを設けない塗布装置が望ましい。
【0018】
図4は第1の塗布工程で塗工液を塗布した後、上層の従来の塗布工程を正面から見た模式図である。第1の塗布工程ではスライドビード塗布装置から噴出される塗工液の幅を規制するために、両端にガイド板を取り付けている。ガイド板は塗工液の流量や粘度等により厚みや形状を最適化したものである。しかしながら、ガイド板に接して流れる部分とその周囲とでは、塗工液の流速が異なり塗布膜圧の不均一による厚塗り部9が生じる。ウェブ1と、第1の塗布工程で作られた厚塗り部9はグラビアロール2に押し当てられる際、グラビアロールに対向する部分で両端部が反りが生じる。この時、第1の塗布工程での厚塗り部分と正常に塗布された部分の境目に空隙10が生じる。
【0019】
図3は上層の従来の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。図3に示す従来の塗布装置のように、第1の塗布工程で塗工液が塗布されたウェブはグラビアロール2とが接する接触点Aにおいて塗工液6が塗布されるが、前述の通り生じた空隙10からグラビアロール2に彫刻された斜線に沿って気泡が混入し、スジ故障をもたらすに至る。
【0020】
図2は本発明にかかる上層の塗布工程を正面から見た模式図である。上記課題を解決するために、本発明では、図2に示すように、ウェブの幅方向の両端部に設けた押さえロール8によってウェブ1の厚塗り部9をウェブの対向するから押し当てながら、グラビアロール2で上層を塗布する。本発明は、押さえロール8を押し当てることによって、境目にできる空隙10の影響を低減させることにより気泡の混入を抑制し、更にはグラビアロールの部分的な摩耗によるロール性能の低下を抑止し、均一な製品を提供するためのものである。
【0021】
図1は、本発明にかかる上層の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。ウェブ1の厚塗り部分の反対側からグラビアロール2がウェブ1に接触すると同時、もしくは直後に押さえロール8を押し当てることによって、図4に示す空隙10の形状が平らになり、塗布故障のない均質な製品提供が可能となるものである。なお、ここで同時、もしくは直後とは、図1に示すグラビアロール2と押さえロール8の垂直軸の幅Lを0mm〜10mmの範囲とすることで、気泡の混入を抑制するものである。
【0022】
また、上記押さえロール8はゴム等の弾性体で形成されたもので、グラビアロール2に押し当てるのに充分な構造のもので有ればよいが、装置の大きさなどを考慮すれば、外周面の直径が10〜100mmの範囲で選択されることが好ましい。ウェブ1に押し当てる圧力は、ロールの摩耗に加え、空隙10の影響を低減しうる程度の圧力を考慮し、0.1〜2.0MPaの範囲が好ましい。また、幅は第1の塗布工程でできるウェブ両端の厚塗り部を押し当てる程度の幅が好ましく、10mm〜100mmより好ましくは10mm〜30mmの範囲とすることが好ましい。
【0023】
更に、本発明はバックアップロールを使用しないことから、バックアップロールが第1の塗布装置によって塗布された塗布層に接触することがなく、厚塗り部以外の表面を傷つけることがなく、またグラビアロール2が磨耗しないので、グラビアロール2の寿命を延ばすことができる。
【0024】
本発明の塗布装置を用いたグラビア方法は、塗工液の粘度が1〜40mPa・secで、塗速が5m/min以上、更には25m/min以上で更に有効である。粘度が50
cpsを超える塗工液では、2層目においてもウェブの両端に形成される厚塗り部が大きくなり、空隙も抑止できなくなる。また、塗布速度が5m/minを下回ると、生産性の点で問題である。
【実施例】
【0025】
ウェブとして坪量170g/m2になるように抄造し、乾燥調湿した幅1000mmを有するポリオレフィン樹脂被覆紙を用い、特開2005−254769号公報に記載の<インク受容層(A−1)>の組成の第1の層を25g/m2になるように塗布幅を規制するガイド板を利用したスライドビード方式で塗布幅を980mmとして塗布した。その後、塗布速度50m/min、塗布量15ml/m2の塗布条件にて、図1で示した本発明のグラビア塗布装置(実施例)と、図3で示した従来の一般的なグラビア塗布装置(比較例1)、図5で示したバックアップロール11を備えた従来のグラビア塗布装置(比較例2)との塗布性能を評価した。第2の層の塗液は特開2005−254769号公報に記載の<インク受容層(A−4)>を用いた。実施例における押さえロール8はゴム製で、その外周面の直径が40mm、幅が30mmのものを用い、1.0MPaの圧力で押し当てた。なお、この時の押さえロール8とグラビアロール2の垂直軸の幅Lは5mmとした。
【0026】
試験は、ウェブに塗布する塗布長を100mとし、塗布末尾の5mをサンプリングしてグラビア塗布層に発生した「泡ハジキ故障」、「塗布面の表面傷」を評価した。評価はいずれも3段階で行い、○は故障が全くなく良好、△は故障は認められるが許容範囲内、×は許容範囲外を示す。
【0027】
試験結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から分かるように、比較例1は「泡ハジキ故障」が多数発生しているが、バックアップロールを備えたグラビア塗布装置を使用する比較例2では「泡ハジキ故障」は全く発生しなかった。
【0030】
比較例2は、第一工程でスライドビード方式によって塗布した層にグラビアロールを押し当てることで、塗布面の表面に傷がつくのに対し、本発明の実施例では傷が全くなく良好である。
【0031】
このことから、支持体上に、第1の塗布工程で塗工液が塗布されたウェブに、グラビアロールを用いて上層を塗布する場合、「泡ハジキ故障」や「塗布面の表面傷」を確実に防止するためには、バックアップロールを用いて全幅を押し当てるのではなく、押さえロールを用いて第一工程で形成された両端厚塗り部を押し当てて塗布することが重要であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかる上層の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。
【図2】本発明にかかる上層の塗布工程を正面から見た図である。
【図3】上層の従来の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。
【図4】上層の従来の塗布工程を正面から見た図である。
【図5】バックアップロールを用いた従来の塗布工程の搬送ラインを示す模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ウェブ
2 グラビアロール
3、4 サポートローラー
5 塗布液供給パン
6 塗工液
7 ドクターブレード
8 押さえロール
9 塗布膜圧の不均一による厚塗り部
10 空隙
11 バックアップロール
A ウェブ1とグラビアロール2とが接する接触点
L 押さえロール8とグラビアロール2の垂直軸の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ上に塗工液を多層塗布する方法において、支持体上に第1の塗布工程で塗工液が塗布されたウェブに、グラビアロールを用いてその上層を塗布する方法であって、該上層をグラビアロールにより塗布する際、グラビアロールがウェブに接触すると同時、もしくは直後に、ウェブの幅方向の両端に、塗工液とウェブが接触する面とは反対側の面より設置された押さえロールを押し当てることを特徴とする塗工液のグラビア塗布方法。
【請求項2】
前記押さえロールの幅が10〜100mmの範囲で選択される請求項1に記載のグラビア塗布方法。
【請求項3】
塗工液の粘度が1〜40mPa・secで、塗速が5m/min以上である請求項1
または2記載のグラビア塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−260558(P2007−260558A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88943(P2006−88943)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】