説明

グリコシル化に関連する物質および方法

グリコシル化する手法を説明するが、より具体的には、酵素分解に対して耐性があり、それによってその生物学的特性またはそれらに組み込まれている治療用部分の特性の1つもしくは複数を調節するグリコシル化構造体を製造する手法、特に、3-フルオロシアル酸化合物などのフッ素を含む活性化された炭水化物基質を糖アクセプターと反応させて糖アクセプターとシアル酸化合物の1つまたは複数の共有結合性抱合体を作製する手法を説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシル化に関連する物質および方法、特に、酵素分解に対して耐性があり、それによってその生物学的特性またはそれらに組み込まれている治療用部分の特性の1つもしくは複数を調節するグリコシル化構造体の製造に関する。より具体的には、本発明は、3-フルオロシアル酸化合物などのフッ素を含む活性化された炭水化物基質を糖アクセプターと反応させて糖アクセプターとシアル酸化合物の1つまたは複数の共有結合性抱合体を生成させることを含む。
【背景技術】
【0002】
大部分の天然由来ポリペプチドは、主ポリペプチド鎖のアミノ酸残基のいくつかでポリペプチドと共有結合的に結合した炭水化物部分を含む。これらのポリペプチドは当技術分野では一般にグリコペプチドまたは糖タンパク質と称される。ポリペプチドが細胞または個体などの生物学的系の中に存在する場合、所与の任意のポリペプチド上のグリコシル化パターンの性質が、プロテアーゼ耐性、細胞内輸送、分泌、組織ターゲッティング、生物学的半減期および抗原性を含むその特性に影響を及ぼす可能性があることも公知である。
【0003】
ポリペプチドのグリコシル化は、ポリペプチドの構造および機能を変える自然な形態の翻訳後修飾である。実際は、グリコシル化は、異なるタイプのグリコシル化ポリペプチドの部位特異的修飾をもたらす酵素過程によって導入される。N結合グリコシル化において、グリカンはアスパラギン側鎖のアミド窒素と結合しており、O結合グリコシル化において、グリカンは、セリンおよびトレオニン側鎖のヒドロキシ酸素と結合している。グリコシル化の他の形態は、セリンのヒドロキシ酸素と結合しているグリコサミノグリカン、その中でグリカンがセラミドと結合している糖脂質、タンパク質ともまた脂質とも結合していないヒアルロナン、およびタンパク質を脂質とグリカン結合を介して結合しているGPIアンカーを含む。
【0004】
グリコシル化は、当技術分野において、真核細胞においてポリペプチドに加えられることが多いが、治療用ポリペプチドの組換え発現のためにしばしば使用される原核細胞宿主において発現されるポリペプチドにはほとんど加えられないという一般的問題が存在する。原核細胞宿主において産生されるポリペプチドにおけるこのグリコシル化の欠如は、ポリペプチドが異質であると認識される結果となり得る、すなわち、これはそれがその天然型とは異なる特性を有することを意味する。これをポリペプチドの特性を調節するために用いようとして、天然のグリコシル化が存在しない部位でポリペプチドにグリコシル化を行うべく操作するのが困難であるという問題もある。
【0005】
したがって、例えば、ポリペプチドの発現が、ポリペプチドの天然グリコシル化パターンに対して変化(例えば、細菌宿主における発現)を引き起こす可能性がある状況、または、特にそのポリペプチドが治療用タンパク質であるポリペプチドの特徴の1つまたは複数を改善するのを期待してポリペプチドのグリコシル化パターンを改変することが望ましい状況において、ポリペプチドのグリコシル化パターンを導入するまたは改変する試みが当技術分野においてなされてきた。例えば、米国特許第7226903号に記載されているインターフェロンβの修飾を参照されたい。
【0006】
ポリペプチドと結合しているグリカン分子は、ある範囲の直鎖状および分岐状構造および様々な長さのグリカン鎖を有しており、ポリペプチド上に存在する特定のグリカン分子はポリペプチドの特徴に影響を及ぼす。多くのタイプのグリカン分子は末端シアル酸を含む。生理学的pHで負電荷を有するこれらの9炭素糖は、特定の細胞-細胞間、病原体-細胞間または薬物-細胞間の情報交換に著しく影響を及ぼす可能性のあるリガンド-受容体間の相互作用に関係していることが知られている。末端シアル酸残基を含むグリカン鎖の1つの特定の特徴は、そうした末端シアル酸残基が、それでグリコシル化された治療用ポリペプチドの半減期を増大させるということである。このことは、末端シアル酸残基をもたないグリカンを含むポリペプチドは、肝臓により循環から急速に除去され、それによって治療用ポリペプチドの半減期が減少するという観察から分かっている。
【0007】
フッ素置換された糖は、CstIIなどの酵素を結晶化させるのに用いる非加工性(non processible)基質として使用されている(Chiuら、Nat.Struct.Mol.Biol.(2004)11、163〜170頁)。この関連で、フッ素含有サッカリドは、グリコシルトランスフェラーゼがフッ素含有炭水化物のグリコシド結合に対して作用する酵素プロセシングに対して耐性があることが知られている。
【0008】
2,3-ジフルオロシアル酸誘導体は合成されており、寄生虫クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)(Wattsら、J.Am.Chem.Soc.(2003)125、7532〜7533頁)およびランゲルトリパノソーマ(Trypanosoma rangeli.)(Wattsら、Can.J.Chem.(2004)82、1581〜1588頁)からのシアリダーゼの不活性化剤として使用されている。この最初の研究は、これらのシアリダーゼが共有結合性シアロシル-酵素中間体の関与を介して作用するという発見をもたらし、この誘導体などの化合物がトリパノソーマシアリダーゼの時間依存性の共有結合性不活性化剤として作用することを確立した。
【0009】
次に、天然N-アセチル基ではなく、C-5にヒドロキシル基を有する2,3-ジフルオロノイラミン酸誘導体もT.ランゲルシアリダーゼの共有結合性不活性化剤として作用するが、元の阻害剤に対して非常に異なる動的挙動(kinactおよびkreact)を示すことも分かっている(Wattsら、J.Biol.Chem.(2006)281、4149〜4155頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7226903号
【特許文献2】WO2003/025133
【特許文献3】WO2004/083807
【特許文献4】欧州特許第0184187A号
【特許文献5】英国特許第2,188,638A号
【特許文献6】欧州特許第0239400A号
【特許文献7】欧州特許第0120694A号
【特許文献8】欧州特許第0125023A号
【特許文献9】PCT/US92/09965
【特許文献10】WO94/13804
【特許文献11】英国特許第A-0823309.0号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Chiuら、Nat.Struct.Mol.Biol.(2004)11、163〜170頁
【非特許文献2】Wattsら、J.Am.Chem.Soc.(2003)125、7532〜7533頁
【非特許文献3】Wattsら、Can.J.Chem.(2004)82、1581〜1588頁
【非特許文献4】Wattsら、J.Biol.Chem.(2006)281、4149〜4155頁
【非特許文献5】Harshalら、J.Am.Chem.Soc.(2007)129、10630〜10631頁
【非特許文献6】Sunら、Eur.J.Org.Chem(2000)、2643〜2653頁
【非特許文献7】Bergeら、J.Pharm.Sci.、66、1〜19頁(1977)
【非特許文献8】「Protective Groups in Organic Synthesis」(T.Green and P.Wuts、Wiley、1999年)
【非特許文献9】Aharoniら、Nature Methods、2003年、3、609〜614頁
【非特許文献10】Ward, E.S.ら、Nature 341、544〜546頁(1989)
【非特許文献11】Birdら、Science、242;423〜426頁、1988年
【非特許文献12】Hustonら、PNAS USA、85:5879〜5883頁、1988年
【非特許文献13】Holligerら、P.N.A.S.USA、90:6444〜6448頁、1993年
【非特許文献14】Reiterら、Nature Biotech、14:1239〜1245頁、1996年
【非特許文献15】Huら、Cancer Res.、56:3055〜3061頁、1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
まとめると、特にその生物学的特性を改変するためのポリペプチドのグリコシル化の改変は依然として挑戦的な課題であり、従来技術において満足される形で対処されていない課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は概ね、3-フルオロシアル酸化合物などのフルオロシアル酸化合物を、抱合体または抱合体を取り込んだ治療用部分の生物学的特性の1つまたは複数を調節する、糖アクセプターとの抱合体を形成するのに使用できるという認識に基づいている。したがって、これらの方法を用いて得られる改変されたグリコシル化構造体を、ポリペプチドなどの治療用部分に導入するまたはその一部となるようにすることができる。したがって、一態様では、本発明は、活性化された3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプター基と反応させるための方法であって、その3-フルオロシアル酸化合物が従来技術で慣用的に用いられるようにCMP基と結合してはいない方法に関する。この方法は、例えばシアリルトランスフェラーゼ、トランス-シアリダーゼを使用して酵素的に実施するか、または糖化学の分野での合成的手法を用いて実施することができる。
【0014】
シアリルトランスフェラーゼは、天然基質、または酵素用に改変された天然基質である供与体(すなわち、CMP-シアル酸またはその誘導体)を用いて、シアル酸誘導体をアクセプター糖に転移させる(transfer)のに使用されている。反転シアリルトランスフェラーゼPmST1は3-フルオロ-CMPシアル酸をガラクトシルアクセプターに転移させることは分かっているが、この反応は、2つの酵素をワンポット法で用いて天然供与体糖の3-フルオロ類似体をインサイチュで生成させている(Harshalら、J.Am.Chem.Soc.(2007)129、10630〜10631頁。しかし、非天然の活性化3-フルオロシアル酸は、シアリルトランスフェラーゼを用いて糖アクセプターに転移させたことはまったくなく、これまで、3-フルオロシアル酸の特性をポリペプチドのグリコシル化構造体の中に取り込むことが提案されたことはなかった。
【0015】
したがって、第1の態様では、本発明は、糖アクセプターと3-フルオロシアル酸化合物との共有結合性抱合体を形成させることを含む方法であって、その方法が糖アクセプターと3-フルオロシアル酸化合物を接触させるステップを含み、その接触させるステップが前記3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターと反応させて共有結合させるのに適した条件下で実施され、その3-フルオロシアル酸化合物がシトシンモノリン酸(CMP)基を含まない方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、その方法は、糖アクセプター、3-フルオロシアル酸化合物および3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターへ転移させることができる酵素を接触させるステップを含み、その接触させるステップを、3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターに転移させて共有結合させるのに適した条件下で実施する。その酵素は、シアリルトランスフェラーゼまたはトランス-シアリダーゼを含むことができる。代替的にまたは追加的に、3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターと共有結合させるステップを合成化学反応で実施する。
【0017】
一般に、3-フルオロシアル酸化合物との共有結合性抱合体の形成は、糖アクセプターまたは糖アクセプターを含む治療用部分の生物学的特性、例えば酵素加水分解に対する耐性(例えば、エキソ-シアリダーゼまたはノイラミニダーゼによる)、生物学的安定性または薬物速度論的特性などの生物学的特性を調節する。
【0018】
好ましくは、その方法をインビトロでの無細胞法で実施する。その転移反応が酵素によるものである場合、それは3-フルオロシアル酸化合物とアクセプター炭水化物基の間のアノマー結合での反転を伴って行うことができる。従来技術のCMPをベースにした方法と異なって、本発明の方法は1つの酵素を用いて実施することができる。本発明は、シアリルトランスフェラーゼに対して非常に安定であることが示されているCMP3-フルオロシアル酸化合物の公知の例がほとんどなく、したがってフルオロシアル酸抱合体を合成するために使用するのに実際的でない従来技術において存在する問題を克服する助けともなる。
【0019】
いくつかの実施形態では、その方法は、例えば、その中で発現されているまたはそれまでに合成的に作製されている仕方で、ポリペプチド上にすでに存在するグリコシル化構造体を改変するステップを含むことができる。1つの典型的な状況では、これは、当初ポリペプチド上に存在するグリコシル化構造体から1つまたは複数の末端グリコシル基を取り外してアクセプター基を形成させる、かつ/またはグリコシル化構造体の末端グリコシル基を1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基で置き換える追加のステップを含むことができる。末端グリコシル基を取り外すステップを、例えばシアリダーゼを用いて酵素的に実施することが好都合である。あるいは、既存のグリコシル化構造体を、さらなる切断または変更にかける、例えば2つ以上の末端グリコシル基を取り外して、本発明にしたがって使用できる糖アクセプターを提供することができる。
【0020】
さらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、複数の3-フルオロシアル酸基をポリペプチドのアクセプター基に転移させるステップを含むことができる。これは、コアのグリコシル化構造体が分解するのをさらに保護するために実施することができる。例としては、2つ、3つまたはそれ以上の3-フルオロシアル酸基は、連続した3-フルオロシアル酸基を結合させる方法を繰り返すか、または3-フルオロシアル酸基のオリゴマーをアクセプターと共有結合させることによって、アクセプター基と共有結合させることができる。いくつかの実施形態では、3-フルオロシアル酸基は、ポリペプチド上に存在するグリコシル化構造体の末端グリコシル残基と抱合されていてよい。
【0021】
好ましくは、本出願で開示する方法は、一般式(I):
【0022】
【化1】

【0023】
[式中、Y1は-O-、-S-または-NR-から選択され、Rは独立に、H、C1〜7アルキル、C3〜10ヘテロシクリルまたはC5〜20アリールから選択され;
R1は良好な脱離基であるが、ただし、それはシトシンモノリン酸(CMP)基ではなく;
X1は-CO2Rであり、Rは上記定義通りであり;
R2はH、ハライドまたはOHから選択され;
R3およびR4はそれぞれ独立に、H、-OR、-NR2または-Z1(CH2)mZ2から選択され、Rは上記定義通りであり、Z1は-O-、-NR-、-CR2-および-S-から選択され、mは0〜5であり、Z2は-OR、-NR2または-CNから選択され;ただし、R3とR4はどちらもHではなく;
R5はHであり;
R6はC1〜7アルキル;C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アミノアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;
R7は式:
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、Y2はN、O、SおよびCHから選択され;Z3はH、ヒドロキシル、ハライド、C1〜7アルキル、C1〜7アミノアルキル、C1〜7ヒドロキシアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;R9およびR10は独立にH、ヒドロキシル、C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アルキル、C5〜20アリール、C(O)Z4から選択され、Z4はC1〜7アルキルまたはC5〜20アリールから選択され、ただし、Y2がOまたはSである場合、R10は存在しない)
の基であるか、
またはR4はヒドロキシル以外であり、R7は追加的にC1〜7ヒドロキシアルキルであってよく;
R8は水素である]
で表される3-フルオロシアル酸化合物または式(I)の2つ以上の分子のオリゴマー;
およびその異性体、塩、溶媒和物または化学的に保護された形態を用いる。
【0026】
他の態様では、本発明は、グリコシル化構造体を含む治療用部分の抱合体であって、そのグリコシル化構造体が1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基と共有結合しており、その3-フルオロシアル酸基がグリコシル化構造体の末端グリコシル基を形成している抱合体を提供する。一般に、その治療用部分はポリペプチドであり、そのグリコシル化構造体は、グリコシル化部位においてポリペプチドと、かつ/または任意選択でリンカー基を介してアミノ酸残基の1つと結合している。リンカー基の使用は以下でさらに論じる。
【0027】
他の態様では、本発明は、そのグリコシル化構造体が1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基を含み、その3-フルオロシアル酸基が1つまたは複数のグリコシル化構造体の末端グリコシル基と共有結合しているグリコシル化構造体を提供する。以下で説明するように、そのグリコシル化構造体は一般に、少なくとも1つの3-フルオロシアル酸基と、3-フルオロシアル酸基であっても異なるタイプのサッカリド単位であってもよい2つの他のサッカリド単位とを含む。
【0028】
他の態様では、本発明は、1つまたは複数の末端3-フルオロシアル酸基を含むグリコシル化構造体であって、その構造が:
【0029】
【化3】

【0030】
[式中、Y1は-O-、-S-または-NR-から選択され、Rは独立に、H、C1〜7アルキル、C3〜10ヘテロシクリルまたはC5〜20アリールから選択され;
X1は-CO2Rであり、Rは上記定義通りであり;
X2はグリコシル化構造体の残りの部分を表し、少なくとも2つのサッカリド単位を含み;
R2はH、ハライドまたはOHから選択され;
R3およびR4はそれぞれ独立にH、-OR、-NR2または-Z1(CH2)mZ2から選択され、Rは上記定義通りであり、Z1は-O-、-NR-、-CR2-および-S-から選択され、mは0〜5であり、Z2は-OR、-NR2または-CNから選択され;ただし、R3とR4は両方がHであることはできず;
R5はHであり;
R6はC1〜7アルキル;C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アミノアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;
R7は式:
【0031】
【化4】

【0032】
(式中、Y2はN、O、SおよびCHから選択され;Z3はH、ヒドロキシル、ハライド、C1〜7アルキル、C1〜7アミノアルキル、C1〜7ヒドロキシアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;R9およびR10は独立にH、ヒドロキシル、C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アルキル、C5〜20アリール、C(O)Z4から選択され、Z4はC1〜7アルキルまたはC5〜20アリールから選択され、ただし、Y2がOまたはSである場合、R10は存在しない)
の基であるか、
またはR4はヒドロキシル以外であり、R7は追加的にC1〜7ヒドロキシアルキルであってよく;
R8は水素である]
で表される構造体または式(I)の2つ以上の分子のオリゴマー;
およびその異性体、塩、溶媒和物または化学的に保護された形態である構造体を提供する。
【0033】
この式において、X2基は、グリコシル化構造体またはその部分を形成する2つ以上のサッカリド単位を表す。例えば複数のそうした基がその構造中に含まれる場合、この単位は1つまたは複数の他の3-フルオロシアル酸基であってよく、または任意の天然由来のサッカリド基もしくは改変されたサッカリド基であってよい。以下にさらに詳細に示すように、グリコシル化構造体は、天然由来もしくは合成のグリカンを基にしていてよく、一分岐型(monoantennary)構造、二分岐型構造、三分岐型構造または複合型グリコシル化構造を有することができる。
【0034】
他の態様では、本発明は、医学的処置の方法において使用するための本明細書で開示する抱合体を提供する。
【0035】
他の態様では、本発明は、本明細書で開示する処置方法で使用するための抱合体であって、その処置が治療または診断である抱合体を提供する。
【0036】
他の態様では、本発明は、ポリペプチドの投与に応答する状態の処置のための医薬品の調製における本明細書で開示する抱合体の使用を提供する。
【0037】
他の態様では、本発明は、本明細書で開示する抱合体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態をここで実施例によって説明するが、これらは限定的なものではない。
【0039】
(詳細な説明)
フルオロシアル酸化合物
上記したように、本発明は、フルオロシアル酸化合物、特に3-フルオロシアル酸化合物を使用して、酵素分解に対する高度の耐性などの有用な生物学的特性を有する抱合体を作製する。本発明による有用な好ましい化合物は、一般式I表され、および/またはその様々な組合せと順列で実施例において開示する化合物の置換基を有する。一般に、それらの化合物は、それらが、酵素分解に対するその耐性を改善するための3位のフッ素置換基、および化合物の2位にCMP以外の良好な脱離基、式Iの場合軸上の2位のR1置換基の存在を含むので、従来技術において開示されているものと異なる。本発明で使用するのに適した3-フルオロシアル酸グリコシドは、Sunら、Eur.J.Org.Chem(2000)、2643〜2653頁に例示されているように化学的に生成させることができる。
【0040】
「脱離基」という用語はよく知られており、当技術分野で通常使用される。これは、化学反応において分子から追い出すことができる原子または官能基を指す。本明細書で用いる「脱離基」という用語は、求核置換反応において不安定性である基を指す。具体的な官能基の不安定性/脱離能力はその共役酸のpKaに依存し、一般的に言えば、この値が低ければ低いほど脱離基として良好である。脱離基は、負電荷を支持し安定化させることができる、すなわち、この基はアニオンとして脱離させることができることが好ましい。そうした多くの脱離基は当技術分野で公知であり、それらには、これらに限定されないが、ハライド(F-、Cl-、Br-、I-)、ヒドロキシド(HO-)、アルコキシド(RO-、ここでRは以下で定義するエーテル置換基である)、カルボキシレート(RC(O)O-、ここでRは以下で定義するアシルオキシ置換基;例えばAcO-である)、アジド(N3-)、チオシアネート(SCN-)、ニトロ(NO2-)、アミン(NH2-)が含まれる。当業者は、有機化学における通常の慣行にしたがって適切で良好な脱離基を選択することができよう。
【0041】
良好な脱離基の好ましい例には、メタンスルホネート、4-トルエンスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、トリフルオロメチルトルエンスルホネート、イミダゾールスルホネートまたはハライド(すなわち、F、Cl、Br、I)が含まれる。
【0042】
本明細書で開示する化合物中に存在していてよい他の置換基には以下のものが含まれる。
【0043】
C1〜7アルキル:本明細書で用いる「C1〜7アルキル」という用語は、脂肪族化合物もしくは脂環式化合物またはその組合せであってよく、飽和、部分的に不飽和または完全に不飽和であってよい、1〜7個の炭素原子を有するC1〜7炭化水素化合物から、水素原子を取り除くことによって得られる一価部分に関する。
【0044】
飽和の直鎖状C1〜7アルキル基の例には、これらに限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルおよびn-ペンチル(アミル)が含まれる。飽和の分岐状C1〜7アルキル基の例には、これらに限定されないがイソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルおよびネオペンチルが含まれる。
【0045】
飽和した脂環式C1〜7アルキル基(「C3〜7シクロアルキル」基とも称される)の例には、これらに限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなどの基、ならびに、置換された基(例えば、そうした基を含む基)、例えばメチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、ジメチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロプロピルメチルおよびシクロヘキシルメチルが含まれる。
【0046】
1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する不飽和C1〜7アルキル基(「C2〜7アルケニル」基とも称される)の例には、これらに限定されないが、エテニル(ビニル、-CH=CH2)、2-プロペニル(アリル、-CH-CH=CH2)、イソプロペニル(-C(CH3)=CH2)、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルが含まれる。
【0047】
1つまたは複数の炭素-炭素三重結合を有する不飽和C1〜7アルキル基(「C2〜7アルキニル」基とも称される)の例には、これらに限定されないが、エチニル(ethynyl)(エチニル(ethinyl))および2-プロピニル(プロパルギル)が含まれる。
【0048】
1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する不飽和脂環式(炭素環式)C1〜7アルキル基(「C3〜7シクロアルケニル」基とも称される)の例には、これらに限定されないが、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニルおよびシクロヘキセニルなどの置換されていない基、ならびに置換された基(例えば、そうした基を含む基)、例えばシクロプロペニルメチルおよびシクロヘキセニルメチルが含まれる。
【0049】
C3〜10ヘテロシクリル:本明細書で用いる「C3〜10ヘテロシクリル」という用語は、
C3〜10複素環化合物の環原子から水素原子を取り除くことによって得られる一価部分であって、前記化合物が、1個の環または2個以上の環(例えば、スピロ型、縮合型、橋かけ型)を有し、3〜10個の環原子を有し、その1〜10個の原子が環ヘテロ原子であり、前記環の少なくとも1個が複素環である一価部分に関する。好ましくは、各環は3〜7個の環原子を有し、そのうちの1〜4個は環ヘテロ原子である。環ヘテロ原子は好ましくは、O、N、SおよびPからなる群から選択され得る。「C3〜10」は、炭素原子かまたはヘテロ原子である環原子を表す。同様に、「C3〜10ヘテロシクリル」という用語は、3〜10個の環原子の等価の部分に関する等々と理解されよう。
【0050】
C5〜20アリール:本明細書で用いる「C5〜20アリール」という用語は、C5〜20芳香族化合物の芳香環原子から水素原子を取り除くことによって得られる一価部分であって、前記化合物が、1個の環または2個以上の環(例えば、縮合型)を有し、5〜20個の環原子を有し、前記環の少なくとも1個が芳香環である一価部分に関する。好ましくは、各環は5〜7個の環原子を有する。環原子は「カルボアリール基」のようにすべて炭素原子であってよく、その場合、この基を「C5〜20カルボアリール」基と称することが好都合であり得る。
【0051】
上記のアルキル、ヘテロシクリルおよびアリール基は、単独であっても別の置換基の一部であっても、それら自体および以下に挙げられ定義されるさらなる置換基から選択される1つまたは複数の基でそれ自体任意選択で置換されていてよい。
【0052】
ハロ:-F、-Cl、-Brおよび-I。
【0053】
ヒドロキシ:-OH。
【0054】
エーテル:-OR、ここでRはエーテル置換基、例えばC1〜7アルキル基(以下に論じるがC1〜7アルコキシ基とも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルオキシ基とも称される)またはC5〜20アリール基(C5〜20アリールオキシ基とも称される)、好ましくはC1〜7アルキル基である。
【0055】
C1〜7アルコキシ:-OR、ここでRはC1〜7アルキル基である。C1〜7アルコキシ基の例には、これらに限定されないが、-OCH3(メトキシ)、-OCH2CH3(エトキシ)および-OC(CH3)3(tert-ブトキシ)が含まれる。
【0056】
オキソ(ケト、-オン):=O。置換基としてオキソ基(=O)を有する環状化合物および/または基の例には、これらに限定されないが、炭素環、例えばシクロペンタノンおよびシクロヘキサノン;複素環、例えばピロン、ピロリドン、ピラゾロン、ピラゾリノン、ピペリドン、ピペリジンジオン、ピペラジンジオンおよびイミダゾリドン;これらに限定されないが、無水マレイン酸および無水コハク酸を含む環状無水物;環状カーボネート、例えばプロピレンカーボネート;これらに限定されないが、スクシンイミドおよびマレイミドを含むイミド;これらに限定されないが、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトンおよびε-カプロラクトンを含むラクトン(環状エステル、環中に-O-C(=O)-);ならびに、これらに限定されないが、β-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム(2-ピロリドン)、δ-バレロラクタムおよびε-カプロラクタムを含むラクタム(環状アミド、環中に-NH-C(=O)-)が含まれる。
【0057】
イミノ(イミン):=NR、ここでRは、イミノ置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である。
【0058】
エステル基の例には、これらに限定されないが、=NH、=NMe、=NEtおよび=NPhが含まれる。
【0059】
ホルミル(カルバルデヒド、カルボキシアルデヒド):-C(=O)H。
【0060】
アシル(ケト):-C(=O)R、ここでRは、アシル置換基、例えばC1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアシルまたはC1〜7アルカノイルとも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基(C3〜20ヘテロシクリルアシルとも称される)またはC5〜20アリール基(C5〜20アリールアシルとも称される)、好ましくはC1〜7アルキル基である。アシル基の例には、これらに限定されないが、-C(=O)CH3(アセチル)、-C(=O)CH2CH3(プロピオニル)、-C(=O)C(CH3)3(ブチリル)および-C(=O)Ph(ベンゾイル、フェノン)が含まれる。
【0061】
カルボキシ(カルボン酸):-COOH。
【0062】
エステル(カルボキシレート、カルボン酸エステル、オキシカルボニル):-C(=O)OR、ここでRは、エステル置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。エステル基の例には、これらに限定されないが、-C(=O)OCH3、-C(=O)OCH2CH3、-C(=O)OC(CH3)3および-C(=O)OPhが含まれる。
【0063】
アシルオキシ(可逆エステル):-OC(=O)R、ここでRは、アシルオキシ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。アシルオキシ基の例には、これらに限定されないが、-OC(=O)CH3(アセトキシ)、-OC(=O)CH2CH3、-OC(=O)C(CH3)3、-OC(=O)Phおよび-OC(=O)CH2Phが含まれる。
【0064】
アミド(カルバモイル、カルバミル、アミノカルボニル、カルボキサミド):-C(=O)NR1R2、ここでR1およびR2は独立に、アミノ基について定義されているようなアミノ置換基である。アミド基の例には、これらに限定されないが、-C(=O)NH2、-C(=O)NHCH3、-C(=O)N(CH3)2、-C(=O)NHCH2CH3および-C(=O)N(CH2CH3)2、ならびに、例えばピペリジノカルボニル、モルホリノカルボニル、チオモルホリノカルボニルおよびピペラジノカルボニルにおけるようなR1およびR2が、それらが結合している窒素原子と一緒に複素環構造を形成しているアミド基が含まれる。
【0065】
アシルアミド(アシルアミノ):-NR1(C=O)R2、ここでR1はアミド置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基であり、R2はアシル置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である。アシルアミド基の例には、これらに限定されないが、-NHC(=O)CH3、-NHC(=O)CH2CH3および-NHC(=O)Phが含まれる。R1とR2は、例えばスクシンイミジル、マレイミジルおよびフタルイミジルにおけるように、一緒に環状構造を形成することができる。
【0066】
アシルウレイド:-N(R1)C(O)NR2C(O)R3、ここでR1およびR2は独立にウレイド置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは水素またはC1〜7アルキル基である。R3は、アシル基について定義されるようなアシル基である。アシルウレイド基の例には、これらに限定されないが、-NHCONHC(O)H、-NHCONMeC(O)H、-NHCONEtC(O)H、-NHCONMeC(O)Me、-NHCONEtC(O)Et、-NMeCONHC(O)Et、-NMeCONHC(O)Me、-NMeCONHC(O)Et、-NMeCONMeC(O)Me、-NMeCONEtC(O)Etおよび-NMeCONHC(O)Phが含まれる。
【0067】
カルバメート:-NR1-C(O)-OR2、ここでR1はアミノ基について定義されるようなアミノ置換基であり、R2はエステル基について定義されるようなエステル基である。カルバメート基の例には、これらに限定されないが、-NH-C(O)-O-Me、-NMe-C(O)-O-Me、-NH-C(O)-O-Et、-NMe-C(O)-O-t-ブチルおよび-NH-C(O)-O-Phが含まれる。
【0068】
チオアミド(チオカルバミル):-C(=S)NR1R2、ここでR1およびR2は独立にアミノ基について定義されるようなアミノ置換基である。アミド基の例には、これらに限定されないが、-C(=S)NH2、-C(=S)NHCH3、-C(=S)N(CH3)2および-C(=S)NHCH2CH3が含まれる。
【0069】
テトラゾリル:4個の窒素原子と1個の炭素原子を有する5員芳香環。
【0070】
【化5】

【0071】
アミノ:-NR1R2、R1およびR2は独立に、アミノ置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基(C1〜7アルキルアミノまたはジ-C1〜7アルキルアミノとも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはHもしくはC1〜7アルキル基である、または、「環状」アミノ基の場合、R1とR2はそれらが結合している窒素原子と一緒に4〜8個の環原子を有する複素環を形成している。アミノ基の例には、これらに限定されないが、-NH2、-NHCH3、-NHC(CH3)2、-N(CH3)2、-N(CH2CH3)2および-NHPhが含まれる。環状アミノ基の例には、これらに限定されないが、アジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペリジノ、ピペラジノ、モルホリノおよびチオモルホリノが含まれる。
【0072】
イミノ:=NR、ここでRは、イミノ置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはHまたはC1〜7アルキル基である。
【0073】
アミジン:-C(=NR)NR2、ここで各Rは、アミジン置換基、例えば水素、C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはHまたはC1〜7アルキル基である。アミジン基の例は-C(=NH)NH2である。
【0074】
カルバゾイル(ヒドラジノカルボニル):-C(O)-NN-R1、ここでR1はアミノ基について定義されるようなアミノ置換基である。アジノ基の例には、これらに限定されないが、-C(O)-NN-H、-C(O)-NN-Me、-C(O)-NN-Et、-C(O)-NN-Phおよび-C(O)-NN-CH2-Phが含まれる。
【0075】
ニトロ:-NO2
ニトロソ:-NO。
アジド:-N3
シアノ(ニトリル、カルボニトリル):-CN。
イソシアノ:-NC。
シアナト:-OCN。
イソシアナト:-NCO。
チオシアノ(チオシアナト):-SCN。
イソチオシアノ(イソチオシアナト):-NCS。
チオ:(スルフヒドリル、チオール、メルカプト):-SH。
【0076】
チオエーテル(スルフィド):-SR、ここでRは、チオエーテル置換基、例えばC1〜7アルキル基(C1〜7アルキルチオ基とも称される)、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。C1〜7アルキルチオ基の例には、これらに限定されないが、-SCH3および-SCH2CH3が含まれる。
【0077】
ジスルフィド:-SS-R、ここでRは、ジスルフィド置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基(本明細書ではC1〜7アルキルジスルフィドとも称される)である。C1〜7アルキルジスルフィド基の例には、これらに限定されないが、-SSCH3および-SSCH2CH3が含まれる。
【0078】
スルホン(スルホニル):-S(=O)2R、ここでRは、スルホン置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。スルホン基の例には、これらに限定されないが、-S(=O)2CH3(メタンスルホニル、メシル)、-S(=O)2CF3(トリフリル)、-S(=O)2CH2CH3、-S(=O)2C4F9(ノナフリル)、-S(=O)2CH2CF3(トレシル)、-S(=O)2Ph(フェニルスルホニル)、4-メチルフェニルスルホニル(トシル)、4-ブロモフェニルスルホニル(ブロシル)および4-ニトロフェニル(ノシル)が含まれる。
【0079】
スルフィン(スルフィニル、スルホキシド):-S(=O)R、ここでRは、スルフィン置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。
【0080】
スルフィン基の例には、これらに限定されないが、-S(=O)CH3および-S(=O)CH2CH3が含まれる。
【0081】
スルホニルオキシ:-OS(=O)2R、ここでRは、スルホニルオキシ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。スルホニルオキシ基の例には、これらに限定されないが、-OS(=O)2CH3および-OS(=O)2CH2CH3が含まれる。
【0082】
スルフィニルオキシ:-OS(=O)R、ここでRは、スルフィニルオキシ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。スルフィニルオキシ基の例には、これらに限定されないが、-OS(=O)CH3および-OS(=O)CH2CH3が含まれる。
【0083】
スルファミノ:-NR1S(=O)2OH、ここでR1は、アミノ基について定義されるようなアミノ置換基である。スルファミノ基の例には、これらに限定されないが、-NHS(=O)2OHおよび-N(CH3)S(=O)2OHが含まれる。
【0084】
スルフィンアミノ:-NR1S(=O)R、ここでR1は、アミノ基について定義されるようなアミノ置換基であり、Rはスルフィンアミノ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。スルフィンアミノ基の例には、これらに限定されないが、-NHS(=O)CH3および-N(CH3)S(=O)C6H5が含まれる。
【0085】
スルファミル:-S(=O)NR1R2、ここでR1およびR2は独立に、アミノ基について定義されるようなアミノ置換基である。スルファミル基の例には、これらに限定されないが、-S(=O)NH2、-S(=O)NH(CH3)、-S(=O)N(CH3)2、-S(=O)NH(CH2CH3)、-S(=O)N(CH2CH3)2および-S(=O)NHPhが含まれる。
【0086】
スルホンアミノ:-NR1S(=O)2R、ここでR1は、アミノ基について定義されるようなアミノ置換基であり、Rはスルホンアミノ置換基、例えばC1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくはC1〜7アルキル基である。スルホンアミノ基の例には、これらに限定されないが、-NHS(=O)2CH3および-N(CH3)S(=O)2C6H5が含まれる。
【0087】
ホスホラミダイト:-OP(OR1)-NR22、ここでR1およびR2は、ホスホラミダイト置換基、例えば-H、(任意選択で置換された)C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは-H、C1〜7アルキル基またはC5〜20アリール基である。ホスホラミダイト基の例には、これらに限定されないが、-OP(OCH2CH3)-N(CH3)2、-OP(OCH2CH3)-N(i-Pr)2および-OP(OCH2CH2CN)-N(i-Pr)2が含まれる。
【0088】
ホスホラミデート:-OP(=O)(OR1)-NR22、ここでR1およびR2はホスホラミデート置換基、例えば-H、(任意選択で置換された)C1〜7アルキル基、C3〜20ヘテロシクリル基またはC5〜20アリール基、好ましくは-H、C1〜7アルキル基またはC5〜20アリール基である。ホスホラミデート基の例には、これらに限定されないが、-OP(=O)(OCH2CH3)-N(CH3)2、-OP(=O)(OCH2CH3)-N(i-Pr)2および-OP(=O)(OCH2CH2CN)-N(i-Pr)2が含まれる。
【0089】
多くの場合、置換基はそれ自体置換されていてよい。例えば、C1〜7アルコキシ基は、例えばC1〜7アルキル(C1〜7アルキル-C1〜7アルコキシ基とも称される)、例えばシクロヘキシルメトキシ、C3〜20ヘテロシクリル基(C5〜20アリール-C1〜7アルコキシ基とも称される)、例えばフタルイミドエトキシまたはC5〜20アリール基(C5〜20アリール-C1〜7アルコキシ基とも称される)、例えばベンジルオキシで置換されていてよい。
【0090】
C1〜12アルキレン:本明細書で用いる「C1〜12アルキレン」という用語は、飽和、部分的に不飽和または完全に不飽和であってよい1〜12個の炭素原子(別段の指定のない限り)を有する脂肪族直鎖状炭化水素化合物の2個の水素原子を、同一炭素原子から両方または2つの異なる炭素原子のそれぞれから1個ずつ取り除くことによって得られる二座部分に関する。したがって「アルキレン」という用語は、以下で論じる下位部類のアルケニレン、アルキニレン等を含む。
【0091】
飽和C1〜12アルキレン基の例には、これらに限定されないが、-(CH2)n-(nは1〜12の整数である)、例えば-CH2-(メチレン)、-CH2CH2-(エチレン)、-CH2CH2CH2-(プロピレン)、-CH2CH2CH2CH2-(ブチレン)および-CH2CH2CH2CH2CH2-(ペンチレン)が含まれる。
【0092】
部分的に不飽和のC1〜12アルキレン基の例には、これらに限定されないが、-CH=CH-(ビニレン)、-CH=CH-CH2-、-CH2-CH=CH2-、-CH=CH-CH2-CH2-、-CH=CH-CH2-CH2-CH2-、-CH=CH-CH=CH-および-CH=CH-CH=CH-CH2-が含まれる。
【0093】
アルキレン基は、これらに限定されないが上記したようなものを含む1つまたは複数の置換基で任意選択で置換されていてよい。C1〜12アルキレン鎖は、例えば酸素、窒素(これは例えばC1〜7アルキルで置換されていてよい)またはイオウなどの1個または複数の二価のヘテロ原子基で介在されていてよい。
【0094】
特定の標記または定義(例えば、R)が、1つまたは複数の化合物の中の2つ以上の置換基に適用されている場合、その置換基のそれぞれでの出現は他のそれから独立であり、それは、その標記を有する他の任意の置換基と同じであっても異なっていてもよい。
【0095】
他の形態を含む:これらの置換基の周知のイオン、塩、溶媒和物および保護された形態は上記したものに包含される。例えば、カルボン酸(-COOH)への参照は、そのアニオン(カルボキシレート)形態(-COO-)、塩または溶媒和物ならびに慣用的に保護された形態も含む。同様に、アミノ基への参照は、アミノ基のプロトン化形態(-N+HR1R2)、塩または溶媒和物、例えばアミノ基の塩酸塩ならびに慣用的に保護された形態を含む。同様に、ヒドロキシル基への参照は、ヒドロキシル基のそのアニオン形態(-O-)、塩または溶媒和物ならびに慣用的に保護された形態も含む。
【0096】
異性体、塩、溶媒和物、保護形態およびプロドラッグ:特定の化合物は、1つまたは複数の特定の幾何学的、光学的、鏡像異性、ジアステレオマー、エピマー、立体異性、互変異性、立体配座またはアノマーの形態で存在することができ、それらには、これらに限定されないが、シス型およびトランス型;E型およびZ型;c型、t型およびr型;エンド型およびエキソ型;R型、S型およびメソ型;D型およびL型;d型およびl型;(+)型および(-)型;ケト型、エノール型およびエノレート型;シン(syn)型およびアンチ(anti)型;シンクリナル型およびアンチクリナル型;α型およびβ型;アキシアル型およびエクアトリアル型;ボート型、チェア型、ツイスト型、エンベロープ型およびハーフチェア型;ならびにその組合せが含まれる。これらを以下集合的に、「異性体」(または「異性形態(isomeric form)」)と称する。
【0097】
以下で論じる互変異性形態の場合を除いて、具体的には、構造的(または構成的)異性体(すなわち、空間における単なる原子の位置によるのではなく、原子間の結合が異なる異性体)は、本明細書で用いる「異性体」という用語から除外されることに留意されたい。例えば、メトキシ基、-OCH3への参照は、その構造的異性体、ヒドロキシメチル基、-CH2OHへの参照と解釈されるべきではない。同様に、オルト-クロロフェニルへの参照は、その構造的異性体、メタ-クロロフェニルへの参照と解釈されるべきではない。しかし、構造の部類または一般式への参照は、その部類または式の範囲内にある構造的な異性形態を含み(例えば、C1〜7アルキルはn-プロピルおよびイソプロピルを含み;ブチルはn-、イソ、sec-およびtert-ブチルを含み;メトキシフェニルはオルト-、メタ-およびパラ-メトキシフェニルを含む)、具体的に言及または指定されている場合を除いて、本明細書での化合物の可能なすべての立体配座および立体配置は一般式(e)に包含されるものとする。
【0098】
上記の除外は、例えば以下の互変異性ペア:ケト/エノール型(以下に例示)、イミン/エナミン型、アミド/イミノアルコール型、アミジン/アミジン型、ニトロソ/オキシム型、チオケトン/エンチオール型、N-ニトロソ/ヒドロキシアゾ型およびニトロ/aci-ニトロ型のような互変異性形態、例えばケト型、エノール型およびエノレート型には関係しないものとする。
【0099】
【化6】

【0100】
1つまたは複数の同位体置換を含む化合物は明確に「異性体」という用語に含まれることに留意されたい。例えば、Hは1H、2H(D)および3H(T)を含む任意の同位体形態であってよく;Cは12C、13C、および14Cを含む任意の同位体形態であってよく;Oは16Oおよび18Oを含む任意の同位体形態であってよい等々である。
【0101】
別段の指定のない限り、特定の化合物への参照は、その(全体的または部分的)ラセミ混合物および他の混合物を含むそうしたすべての異性形態を含む。そうした異性形態の調製(例えば、不斉合成)および分離(例えば、分別結晶およびクロマトグラフによる手段)のための方法は当技術分野で公知であるか、あるいは、公知の仕方で、本明細書で教示する方法または公知の方法を適合させることによって容易に得られる。
【0102】
別段の指定のない限り、特定の化合物への参照は、例えば以下で論じるようなそのイオン、塩、溶媒和物および保護形態も含む。
【0103】
活性化合物の対応する塩、例えば薬学的に許容される塩を調製する、精製するかつ/または取り扱うことが好都合であるまたは望ましい場合がある。薬学的に許容される塩の例はBergeら、J.Pharm.Sci.、66、1〜19頁(1977)に論じられている。
【0104】
例えば、化合物がアニオン性であるかまたはアニオン性であり得る官能基(例えば、-COOHは-COO-であってよい)を有する場合、塩は適切なカチオンを用いて形成させることができる。適切な無機カチオンの例には、これらに限定されないが、Na+およびK+などのアルカリ金属イオン、Ca2+およびMg2+などのアルカリ土類カチオンならびにAl3+などの他のカチオンが含まれる。適切な有機カチオンの例には、これらに限定されないが、アンモニウムイオン(すなわち、NH4+)および置換アンモニウムイオン(例えば、NH3R+、NH2R2+/NHR3+、NR4+)が含まれる。いくつかの適切な置換アンモニウムイオンの例は、エチルアミン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ベンジルアミン、フェニルベンジルアミン、コリン、メグルミンおよびトロメタミンならびにリシンおよびアルギニンなどのアミノ酸から誘導されるものである。一般的な四級アンモニウムイオンの例はN(CH3)4+である。
【0105】
化合物がカチオン性であるかまたはカチオン性であり得る官能基(例えば、-NH2は-NH3+であってよい)を有する場合、塩は適切なアニオンを用いて形成させることができる。適切な無機アニオンの例には、これらに限定されないが、以下の無機酸:塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸および亜リン酸から誘導されるものが含まれる。適切な有機アニオンの例には、これらに限定されないが、以下の有機酸:酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、乳酸、リンゴ酸、パモン酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、安息香酸、桂皮酸、ピルビン酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、フェニルスルホン基、トルエンスルホン基、メタンスルホン基、エタンスルホン基、エタンジスルホン基、シュウ酸、パントテン酸、イセチオン酸、吉草酸、ラクトビオン酸およびグルコン酸から誘導されるものが含まれる。適切なポリマー性アニオンの例には、これらに限定されないが、以下のポリマー酸:タンニン酸、カルボキシメチルセルロースから誘導されるものが含まれる。
【0106】
活性化合物の対応する溶媒和物を調製する、精製するかつ/または取り扱うことが好都合であるまたは望ましいことがある。「溶媒和物」という用語は本明細書では、溶質(例えば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒の錯体を指す慣用的な意味で用いられる。溶媒が水である場合、その溶媒和物は、好都合には、水和物、例えば一水和物、二水和物、三水和物等を指すことができる。
【0107】
化学的に保護された形態で活性化合物を調製する、精製するかつ/または取り扱うことが好都合であるまたは望ましいことがある。本明細書で用いる「化学的に保護された形態」という用語は、1つまたは複数の反応性官能基が望ましくない化学反応から保護されている、すなわち、保護されているかまたは保護する基(マスキングされるもしくはマスキングする基またはブロックされるもしくはブロックする基としても知られる)の形態である化合物に関する。反応性官能基を保護することによって、他の保護されていない反応性官能基を含む反応を、保護された基に影響を及ぼすことなく実施することができる。その保護基は通常、次のステップで、その分子の残りの部分に実質的に影響を及ぼすことなく取り外され得る。例えば、「Protective Groups in Organic Synthesis」(T.Green and P.Wuts、Wiley、1999年)を参照されたい。
【0108】
例えば、ヒドロキシ基は、例えば:t-ブチルエーテル;ベンジル、ベンズヒドリル(ジフェニルメチル)もしくはトリチル(トリフェニルメチル)エーテル;トリメチルシリルもしくはt-ブチルジメチルシリルエーテル;またはアセチルエステル(-OC(=O)CH3、-OAc)のように、エーテル(-OR)またはエステル(-OC(=O)R)として保護することができる。
【0109】
例えば、アルデヒドまたはケトン基はそれぞれアセタールまたはケタールとして保護することができる。ここで、カルボニル基(>C=O)は、例えば第一アルコールとの反応によってジエーテル(>C(OR)2)に転換される。アルデヒドまたはケトン基は、酸の存在下で大過剰の水を用いた加水分解によって容易に再生される。
【0110】
例えば、アミン基は、例えば:メチルアミド(-NHCO-CH3);ベンジルオキシアミド(-NHCO-OCH2C6H5、-NH-Cbz);t-ブトキシアミド(-NHCO-OC(CH3)3、-NH-Boc);2-ビフェニル-2-プロポキシアミド(-NHCO-OC(CH3)2C6H4C6H5、-NH-Bpoc)、9-フルオレニルメトキシアミド(-NH-Fmoc)、6-ニトロベラトリルオキシアミド(-NH-Nvoc)、2-トリメチルシリルエチルオキシアミド(-NH-Teoc)、2,2,2-トリクロロエチルオキシアミド(-NH-Troc)、アリルオキシアミド(-NH-Alloc)、2(-フェニルスルホニル)エチルオキシアミド(-NH-Psec)のような;または適切な場合N-オキシド(>NOS)のようなアミドまたはウレタンとして保護することができる。
【0111】
例えば、カルボン酸基は、例えば:C1〜7アルキルエステル(例えば、メチルエステル;t-ブチルエステル);C1〜7ハロアルキルエステル(例えば、C1〜7トリハロアルキルエステル);トリC1〜7アルキルシリル-C1〜7アルキルエステル;もしくはC5〜20アリール-C1〜7アルキルエステル(例えば、ベンジルエステル;ニトロベンジルエステル)のような;またはアミド、例えばメチルアミドのようなエステルとして保護することができる。
【0112】
活性化合物をプロドラッグの形態で調製する、精製するかつ/または取り扱うことが好都合であるまたは望ましいことがある。本明細書で用いる「プロドラッグ」という用語は、代謝されると(例えば、インビボで)、所望の活性化合物をもたらす化合物に関する。一般に、プロドラッグは、不活性であるかまたは活性化合物より活性が低いが、有利な取り扱い、投与または代謝特性を提供することができる。
【0113】
例えば、いくつかのプロドラッグは活性化合物のエステル(例えば、生理学的に許容される代謝的に不安定なエステル)である。代謝の際、エステル基(-C(=O)OR)は切断されて活性薬物を生成する。そうしたエステルは、適切な場合、親化合物中に存在する他の任意の反応基を予め保護して、例えば親化合物中のカルボン酸基(-C(=O)OH)のいずれかをエステル化することによって形成させ、必要なら続いて脱保護することができる。そうした代謝的に不安定なエステルの例には、RがC1〜7アルキル(例えば、-Me、-Et);C1〜7アミノアルキル(例えば、アミノエチル;2-(N,N-ジエチルアミノ)エチル;2-(4-モルホリノ)エチル);およびアシルオキシ-C1〜7アルキル(例えば、アシルオキシメチル;アシルオキシエチル)であるもの;例えば、ピバロイルオキシメチル;アセトキシメチル;1-アセトキシエチル;1-(1-メトキシ-1-メチル)エチル-カルボニルオキシエチル;1-(ベンゾイルオキシ)エチル;イソプロポキシ-カルボニルオキシメチル;1-イソプロポキシ-カルボニルオキシエチル;シクロヘキシル-カルボニルオキシメチル;1-シクロヘキシル-カルボニルオキシエチル;シクロヘキシルオキシ-カルボニルオキシメチル;1-シクロヘキシルオキシ-カルボニルオキシエチル;(4-テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル;1-(4-テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル;(4-テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル;および1-(4-テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)が含まれる。
【0114】
また、いくつかのプロドラッグは、酵素的に活性化されて活性化合物、またはさらなる化学反応によって活性化合物を生成する化合物をもたらす。例えば、プロドラッグは糖誘導体もしくは他のグリコシド抱合体であっても、またはアミノ酸エステル誘導体であってもよい。
【0115】
グリコシルトランスフェラーゼの製造
活性化されたフルオロシアル酸化合物の転移を最適化するために、本明細書で開示する方法にしたがって使用するグリコシルトランスフェラーゼの特性を特定するかつ/または最適化することが望ましいことがある。本明細書の実施例は、エス・フルギペルダ(S.frugiperda)からのα-2,3-(O)-シアリルトランスフェラーゼを、糖アクセプターと本発明のフルオロシアル酸化合物との抱合体を形成させるのに使用できることを示している。しかし、この反応の効率を改善するために、例えば、改善された結合定数(Km)および触媒回転率(rate of catalytic turnover)(kcat)および/または基質特異性などの酵素の1つまたは複数の特性が改善されるように候補酵素を開発することができる。グリコシルトランスフェラーゼの開発は、Aharoniら、Nature Methods、2003年、3、609〜614頁に例示されているような定向進化法などの手法を用いることを含むことができる。
【0116】
グリコシル化
本発明を用いて、規定された部位でグリコシル化を制御することができるということは、グリコシル化構造体を操作するための有用な手段を表している。これは、次に活性化されたフルオロシアル酸化合物と反応する、グリコシル化構造体の糖アクセプター部分を作製することによって実施することができる。グリコシル化構造体は一般にサッカリドであり、一分岐型構造体、二分岐型構造体、三分岐型構造体または複合型グリコシル化構造体を含むことができる。ここで開示した化学合成法(chemistry)は、天然由来もしくは合成のモノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリドを用いることができ、それを用いてN結合またはO結合グリコシル化構造体を改変することができる。
【0117】
本発明の方法は、グリコシル化構造体の合成または治療用ポリペプチドなどの治療用部分中へのその導入の一部として実施される1つまたは複数の他のステップを含むことができる。これらのステップは、グリコシル化構造体を含む治療用部分においてまたは治療用部分との結合の前のグリコシル化構造体において実施することができる。これらのステップは、例えばシアリダーゼを用いた酵素反応で、グリコシル化構造体から末端グリコシル基を取り外して糖アクセプター基を形成させることを含む。抱合反応を実施するときグリコシル化構造体が治療用部分と結合していない実施形態では、その方法は、抱合体を治療用部分と連結させる追加のステップを含むことができる。これらの方法は、ポリペプチド中の部位にグリコシル化構造体を導入する初期ステップを含むこともできる。
【0118】
代替的にまたは追加的に、本発明の方法を、複数の3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターへ転移させるために用いることができる。これは、複数の3-フルオロシアル酸化合物を含むオリゴマーを転移させることによって、または抱合反応を繰り返すことによって実施することができる。
【0119】
代替的にまたは追加的にグリコシル化構造体は、リンカー基および/または1つもしくは複数のポリ(アルキレングリコール)分子などの他の部分を含むことができる。1つの好ましい例では、そのポリペプチドは概略式:
ポリペプチド-AA-L1-Gly
(式中、
AAは、ポリペプチドの末端または内部アミノ酸残基であり;
L1は、アミノ酸AAと共有結合している任意選択のリンカー基であり;
Glyは、任意選択でグリコシル化構造体の部分である糖アクセプター基を表す)
で表される。
【0120】
多くの場合、治療用部分はポリペプチドであるが、本発明は一般に、その中にグリコシル化を含むかまたはグリコシル化を導入するのが望ましい任意のタイプの治療用部分に適用することができる。ポリペプチドは、例えばその免疫原性および半減期などの薬理学的特性を制御するための治療用タンパク質および抗体ならびにそのフラグメントを含む。現在、タンパク質が確実にグリコシル化されるように、しばしば哺乳類の細胞系が製造用に使用されるので、組換えタンパク質治療薬の製造は高価であり時間を要する。発現が一般により効率的である細菌性細胞系で産生した後、本明細書で開示する方法を用いてポリペプチドにグリコシル化を加え、それによって、グリコシル化を保持しながらタンパク質産生の速度および/または経済性の向上を助けることができる。あるいは、発現産生物をグリコシル化する細胞系において発現したポリペプチドのために、本発明を、改変するまたはグリコシル化を加えるのに用いることができる。
【0121】
好ましい実施形態では、使用する炭水化物は、通常N結合またはO結合糖タンパク質において示される天然由来の分岐状オリゴサッカリドの化学修飾された誘導体またはその分解生成物を含むことができる。本発明で使用できる炭水化物基は、当技術分野で周知であり、それは、真核生物のタンパク質のN結合およびO結合グリコシル化において見られる炭水化物基ならびに合成炭水化物基を含む。例えば、WO2003/025133およびWO2004/083807に開示されている炭水化物基ならびにそれらを製造し特定する方法を参照されたい。
【0122】
N結合グリカンは、シークオン中のアスパラギンのR基窒素(N)と結合していることが分かっている。そのシークオンはAsn-X-SerまたはAsn-X-Thr配列である。ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸であり、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フルクトース、マンノース、フコースおよび他のモノサッカリドを含むことができる。
【0123】
真核生物において、N結合グリカンは、細胞質および小胞体中でアセンブリされたコアの14の糖単位から誘導される。まず、2つのN-アセチルグルコサミン残基が、小胞体膜の外側にあるドリコールリン酸、脂質と結合する。次いで5つのマンノース残基がこの構造に付加される。この時点で、部分的に完了したコアのグリカンは小胞体膜を横切ってフリップし(flipped across)、ここで網状管腔(reticular lumen)内に位置するようになる。次いで、さらなる4つのマンノース残基の付加を伴って、アセンブリは小胞体内で続行される。最後に、3つのグルコース残基がこの構造に付加される。完全なアセンブリに続いて、グリカンは、網状管腔内で、グリコシルトランスフェラーゼ オリゴサッカリルトランスフェラーゼによって一緒になって新生ペプチド鎖へ転移する。したがって、N結合グリカンのこのコア構造は14の残基(3つのグルコース、9つのマンノースおよび2つのN-アセチルグルコサミン)からなる。
【0124】
真核生物では、O結合グリカンは、ゴルジ体中のペプチド鎖のセリンまたはトレオニン残基上で一度に1つの糖にアセンブリされる。N結合グリカンの場合と異なり、まだ今のところ、知られているコンセンサス配列は存在しない。しかし、セリンまたはトレオニンに対して-1かまたは+3でのプロリン残基の配置はO結合グリコシル化に好都合である。
【0125】
O結合グリカンの合成で結合される最初のモノサッカリドはN-アセチル-ガラクトサミンである。この後、いくつかの異なる経路が可能である。ガラクトースの付加によってコア1構造が形成される。コア1構造のN-アセチル-ガラクトサミンへのN-アセチル-グルコサミンの付加によってコア2構造が形成される。元のN-アセチル-ガラクトサミンへの単一N-アセチル-グルコサミンの付加によってコア3構造が形成される。コア3構造への第2のN-アセチル-グルコサミンの付加によってコア4構造が形成される。他のコア構造は可能ではあるが、あまり一般的ではない。O結合グリカンにおける共通の構造上のテーマは、様々なコア構造へのポリラクトサミン単位の付加である。これらは、ガラクトースおよびN-アセチル-グルコサミン単位の反復付加によって形成される。O結合グリカン上のポリラクトサミン鎖はしばしば、シアル酸残基(ノイラミン酸と類似している)の付加によってキャップされる。フコース残基が、最後から2番目の残基の隣にも付加された場合、シアリル-ルイス-X(SLex))構造が形成される。
【0126】
グリコシル化構造体の例には、以下のO結合およびN結合構造:
【0127】
【化7】

【0128】
(式中、Xは本明細書で論じるようなリンカーであり、Yは水素またはタンパク質もしくはポリペプチドである)
が含まれる。
【0129】
【化8】

【0130】
(式中、Xはグリカン基または本明細書で論じるようなリンカーであり、Yは水素またはタンパク質もしくはポリペプチドである)
【0131】
ポリペプチド
本発明の方法は一般に、グリコシル化を改変する、特にシアル酸基をポリペプチドなどの治療用部分に付加することができる反応をもとにした応用範囲に適用することができる。本明細書で用いるポリペプチドには、モノマーがアミノ酸であり、アミド結合を介して一緒に結合しているポリマーが含まれる。ポリペプチドを形成するアミノ酸には、β-アラニン、フェニルグリシンおよびホモアルギニンなどの非天然アミノ酸または核酸コード化されていないアミノ酸が含まれ、かつ/または反応基、グリコシル化部位、ポリマー、治療用部分、生体分子などを含むように改変されたアミノ酸も本発明で用いることができる。本発明で使用するアミノ酸はすべて、D型であってもL型であってもよい。天然由来のL-異性体の使用が一般に好ましい。本発明で使用できるポリペプチドは、最初にグリコシル化されたポリペプチドであってもグリコシル化されていないポリペプチドであってもよく、これは、それらを発現する系によって不完全にグリコシル化されているポリペプチドを含む。
【0132】
説明する方法は、単一のアミノ酸およびペプチドから最大で100kDaまたはそれを超える分子量を有するポリペプチドおよびタンパク質にいたる任意のサイズまたはタイプのポリペプチドに適用することができる。したがって、便宜上、その方法を本明細書では一般に、「ポリペプチド」と称して説明するが、これは、当技術分野でペプチドと称されることがある、より短い配列のアミノ酸(例えば、2、3、4、5または10アミノ酸長から30、40または50アミノ酸長まで)を含むと解釈されるべきである。この用語はまた、タンパク質ならびに多ドメインタンパク質と通常称される二次、三次または四次構造を有するポリペプチドを含むとも解釈されるべきである。
【0133】
本明細書で開示する方法および試薬は、例えば、安定性、生物学的半減期もしくは水溶性などのその薬理学的特性またはポリペプチドの免疫学的特徴を改変するために、治療用ポリペプチドを官能化するのに特に有用である。
【0134】
本発明にしたがって改変することができるポリペプチドの適切な部類の例には、エリスロポエチン(EPO)、インターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、リンホカイン、サイトカイン、インスリン、モノクローナル抗体およびフラグメント、組換え抗体およびフラグメント、血液凝固因子、コロニー刺激因子(CSF)、成長ホルモン、プラスミノゲン活性化因子、ウイルス誘導ペプチド、生殖ホルモンならびに治療用酵素が含まれる。使用できるポリペプチドの具体的な例には、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、ヒト成長ホルモン(hGH)、DNase、インスリン、グルカゴン、VEGF、VEGF受容体、TNF、TNF受容体、血小板由来増殖因子(PDGF)、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、エリスロポエチン(EPO)、エンフルビルチド、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、IL-1、IL-2、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、IL-24、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、インターフェロンαまたはインターフェロンγが含まれる。
【0135】
本発明では、抗体であるポリペプチドの参照は、天然由来の免疫グロブリンまたは部分的もしくは完全に合成された免疫グロブリンを含む。この用語は、抗原結合ドメインを含む任意のポリペプチドまたはタンパク質にも及ぶ。抗原結合ドメインを含む抗体フラグメントには、Fab、scFv、Fv、dAb、Fd各フラグメント、二重特異性抗体、三重特異性抗体またはナノ抗体が含まれる。モノクローナルおよび他の抗体を取り、組換えDNA技術の手法を用いて元の抗体の特異性を保持する他の抗体またはキメラ分子を産生させることができる。そうした手法は、抗体の免疫グロブリンの可変領域または相補性決定領域(CDR)を、異なる免疫グロブリンの定常部または定常部+フレームワーク領域にコード化するDNAを導入することを含むことができる。例えば、欧州特許第0184187A号、英国特許第2,188,638A号または欧州特許第0239400A号を参照されたい。抗体はいくつかの仕方で改変することができ、この用語は、必要な特異性を備えた抗体抗原-結合ドメインを有する特定の任意の結合メンバーまたは物質を包含すると解釈されるべきである。したがって、この用語は、天然由来であるかまたは完全にもしくは部分的に合成された、免疫グロブリン結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含む抗体フラグメントおよび誘導体を包含する。したがって、他のポリペプチドと融合した免疫グロブリン結合ドメインまたは同等物を含むキメラ分子が含まれる。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、欧州特許第0120694A号および同第0125023A号に記載されている。
【0136】
全抗体のフラグメントは、抗原を結合させる機能を行うことができることが分かっている。結合フラグメントの例は、(i)VL、VH、CLおよびCH1各ドメインからなるFabフラグメント;(ii)VHおよびCH1各ドメインからなるFdフラグメント;(iii)単一抗体のVLおよびVH各ドメインからなるFvフラグメント;(iv)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward, E.S.ら、Nature 341、544〜546頁(1989));(v)単離されたCDR領域;(vi)F(ab’)2フラグメント、2つの結合したFabフラグメントを含む二価フラグメント、(vii)一本鎖Fv分子(scFv)、ここで、VHドメインおよびVLドメインは、2つのドメインが会合して抗原結合部位を形成できるようにするペプチドリンカーによって結合されている(Birdら、Science、242;423〜426頁、1988年;Hustonら、PNAS USA、85:5879〜5883頁、1988年);(viii)二重特異性一本鎖Fvダイマー(PCT/US92/09965)および(ix)「二重特異性抗体」、遺伝子融合によって構築された多価または多重特異性フラグメント(WO94/13804;Holligerら、P.N.A.S.USA、90:6444〜6448頁、1993年)である。Fv、scFvまたは二重特異性抗体分子は、VHドメインとVLドメインを連結するジスルフィド架橋を組み込むことによって安定化させることができる(Reiterら、Nature Biotech、14:1239〜1245頁、1996年)。CH3ドメインと結合したscFvを含むミニ抗体も作製することができる(Huら、Cancer Res.、56:3055〜3061頁、1996年)。
【0137】
ペグ化
ポリペプチドのグリコシル化を改変するのに用いられる本発明を代替するかまたはそれに加えて、本明細書で開示する方法を、所与のポリペプチドをペグ化する手順の一部として用いることができる。ペグ化は、その薬理学的特性を改変するのに有用な他の部分を含むように、治療用タンパク質を操作するために用いることもできる1つのアプローチである。1つの好ましい例は、ポリペプチド治療薬の半減期または他の薬理学的特性を増進させるのに使用できる、ポリ(アルキレングリコール)分子、特にポリエチレングリコール(PEG)分子へのポリペプチドの抱合である。本発明の方法は、チオール基がタンパク質中のどこにあるかに応じて選択的な仕方で、関係するタンパク質をペグ化する機会を提供する。ポリ(アルキレングリコール)分子は、当技術分野でポリ(アルキレンオキシド)分子と互換的に称される。これらはポリエーテルである。ポリ(アルキレングリコール)分子は、直鎖状、分岐状、くし型または星型構造を有することができ、一般に著しく水溶性である。
【0138】
本発明によれば、グリコシル化構造体は、1つもしくは複数のポリ(アルキレン)グリコール基を含むかまたはそれらと結合していてよい。これらの基は、治療用部分とグリコシル化構造体との間のリンカーとして働くことができる。
【0139】
さらに、塩基性ポリ(アルキレングリコール)構造体は、ポリ(アルキレングリコール)分子のポリペプチドなどの他の種との反応を容易にするためのヒドロキシ、アミン、カルボン酸、アルキルハライドまたはチオール基などの1つもしくは複数の反応性官能基を備えることができる。好ましいポリ(アルキレングリコール)分子は、1つまたは複数のヒドロキシル位で、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基などの化学基で置換されたものを含む。本発明で使用するための最も好ましいポリ(アルキレングリコール)分子はポリエチレングリコール(「PEG」)分子であるが、当業者は、本明細書で開示する手法を、ポリプロピレングリコールまたはポリエチレン-ポリプロピレングリコールコポリマーなどの他のポリ(アルキレングリコール)分子と一緒に用いることができる。PEGを含むポリ(アルキレングリコール)分子は一般に約400Da〜約80kDa、より好ましくは約1kDa〜約60kDa、より好ましくは約5kDa〜約50kDaの分子量、例えば10kDa、20kDa、30kDaまたは40kDaの分子量を有する。本発明にしたがって使用できるポリ(アルキレングリコール)分子は当技術分野で周知であり、例えばSigmaAldrichなどの市場の供給源から一般に入手することができる。
【0140】
ペグ化は、ペプチド、タンパク質および抗体などの治療用ポリペプチドの特性を改変するための公知の戦略である。一般にポリペプチドへのPEG分子の結合を用いると、その構造、静電気的または疎水的な特性を変更させ、薬物溶解度の増大、投薬頻度の減少、循環半減期の調節(特にその増大)、薬物安定性の増大およびタンパク質分解に対する耐性の増大などのその生物学的および薬理学的特性の改善をもたらす。ペグ化は、ポリペプチドを1つまたは複数のPEGポリマー分子と接合させて治療用ポリペプチドの分子量を増大させることによって作用する。本発明の方法は、ポリペプチド中へのPEG分子の導入部位を、チオール基の存在によって規定するという利点を有する。
【0141】
リンカーおよびその使用
本発明のいくつかの実施形態では、ポリペプチドのグリコシル化を、リンカー基を介したポリペプチドの末端または内部アミノ酸残基と結びつけることができる。本発明の好ましい一態様では、このリンカー基は、天然に存在するまたはポリペプチド中に導入されている1つもしくは複数のチオール基、例えば1つもしくは複数のシステイン残基のチオール基と反応させるためのビニル置換基を有する窒素含有複素環芳香環を含むことができる。これらのリンカー基は、ポリ(アルキレングリコール)分子またはグリカン基などのポリペプチドの特性を変えることができるカップリングパートナーと追加的に結合できる位置を有する。この種のリンカーの例、およびグリコシル化を導入することが望ましいポリペプチド中のアミノ酸とそれらをカップリングさせるための方法は、英国特許第A-0823309.0号に記載されている。これをその全体として参照により明確に本明細書に組み込む。
【実施例】
【0142】
以下の実施例を、本発明を実行する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために示すが、これらは本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0143】
実験
活性化された3-フルオロシアル酸供与体の合成
【0144】
【化9】

【0145】
ヘミアセタール(173mg)を5mlのCH2Cl2に溶解し、N2ガス雰囲気下で保持した。この溶液に、ピリジン(164.8μl、6当量)および塩化メシル(79.2μl、3当量)を加えた。反応物を室温(R.T.)で5時間攪拌した。反応物を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(10%EtOAc/石油エーテル→10%MeOH/EtOAc)で精製して白色生成物を得た(152mg、76%収率)。1H NMR、400MHz(CDCl3):5.66(br.s、1H)、5.47(dd、1H、J=1.6および4.7Hz)、5.40〜5.21(m、2H)、4.92(dd、1H、H-3、J=2.3、48.9Hz)、4.66(dd、1H、J=2.3および12.5Hz)、4.49〜4.43(m、2H)、4.17(dd、1H、J=6.7および12.5Hz)、3.91(s、3H)、3.18(s、3H)、2.15(s、3H)、2.10(s、3H)、2.07(s、3H)、2.02(s、3H)、1.90(s、3H)。19F NMR、400MHz(CDCl3):-206.00(dd、J=28.8および48.9Hz)。ESI-MS:分子イオンC21H30FN2O15Sの予想値=587.1320。結果M+Na+=610.1235。
【0146】
【化10】

【0147】
完全に保護したメシルシアル酸(72mg、0.123mmol)をTHF(4ml)に溶解した。これに1M NaOH(7.5当量、0.92ml)を加えた。反応物を30秒間超音波処理し、4℃で終夜攪拌した。反応物をアンバーライトIR120+で中和し、ろ過し、真空下で容積を減少させた。残った溶液を凍結乾燥して脱保護されたメシラートを白色粉末(30mg)として得た。これをさらに精製することなく用いた。ESI-MS:分子イオンC12H20FNO11Sの予想値=405.0741。結果M-H+=404.0683。
【0148】
【化11】

【0149】
メシル-シアル酸(3mg、7.4μmol)を、1mM塩化マンガン、10mM pNPラクトース、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液[pH=6.0、5%(v/v)Triton-Xおよび0.5%(w/v)ウシ血清アルブミンを含む]、5mMシトシン、5mMシチジンおよび20μLのα-2,3-(O)-シアリルトランスフェラーゼ(ラット組換え、エス・フルギペルダ、0.8mg/ml)を含む溶液に加えた。反応物を37℃で18時間インキュベートし、次いで質量分析により分析した。分子イオンC29H41F1N2O21の予想値=772.2186。結果M-H+=771.2123。
【0150】
【化12】

【0151】
ジフルオロ-シアル酸(3mg、9.1μmol)を、10mM pNP-ラクトース、30mM塩化ナトリウム20mMトリス-HCl緩衝液[pH=7.6]および40μLのT.クルーズ(T.cruzi)トランス-シアリダーゼ(1.0mg/ml)を含む溶液に加えた。反応物を37℃で18時間インキュベートし、次いで質量分析により分析して3-フルオロシアリルラクトース生成物の生成を確認した。分子イオンC29H41F1N2O21の予想値=772.2186。結果M-H+=771.2117。
【0152】
明確にし理解を得るために、上記の本発明をかなり詳細に説明してきたが、本開示を読めば、形態および詳細に様々な変更を加えることができることは当業者に明らかであろう。例えば、上記で説明した手法および装置はすべて様々な組合せで用いることができる。本出願で引用したすべての出版物、特許、特許出願および/または他の文献を、すべての目的のためにそれぞれ個別の出版物、特許、特許出願および/または他の文献が個別的に参照により組み込んで示されるのと同程度に、すべての目的のためにその全体を参照により本明細書に組み込む。
[参考文献]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖アクセプターと3-フルオロシアル酸化合物との共有結合性抱合体を形成させることを含む方法であって、前記方法が糖アクセプターと3-フルオロシアル酸化合物を接触させるステップを含み、前記接触させるステップが前記3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターと反応させて共有結合させるのに適した条件下で実施され、前記3-フルオロシアル酸化合物がシトシンモノリン酸(CMP)基を含まない方法。
【請求項2】
糖アクセプター、3-フルオロシアル酸化合物、および前記3-フルオロシアル酸化合物を前記糖アクセプターへ転移させることができる酵素を接触させるステップを含む方法であって、前記接触させるステップを、3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターに転移させて共有結合させるのに適した条件下で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターと共有結合させるステップを、合成化学反応により実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記3-フルオロシアル酸化合物との共有結合性抱合体の生成が、糖アクセプターまたは糖アクセプターを含む治療用部分の生物学的特性を調節する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的特性が、酵素加水分解に対する耐性、生物学的安定性または薬物速度論的特性である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
インビトロでの無細胞法である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記3-フルオロシアル酸化合物が一般式(I):
【化1】

[式中、Y1は-O-、-S-または-NR-から選択され、Rは独立に、H、C1〜7アルキル、C3〜10ヘテロシクリルまたはC5〜20アリールから選択され;
R1は良好な脱離基であるが、ただし、それはシトシンモノリン酸(CMP)基ではなく;
X1は-CO2Rであり、Rは上記定義通りであり;
R2はH、ハライドまたはOHから選択され;
R3およびR4はそれぞれ独立に、H、-OR、-NR2または-Z1(CH2)mZ2から選択され、Rは上記定義通りであり、Z1は-O-、-NR-、-CR2-および-S-から選択され、mは0〜5であり、Z2は-OR、-NR2または-CNから選択され;ただし、R3とR4は両方がHであることはできず;
R5はHであり;
R6はC1〜7アルキル;C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アミノアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;
R7は式:
【化2】

(式中、Y2はN、O、SおよびCHから選択され;Z3はH、ヒドロキシル、ハライド、C1〜7アルキル、C1〜7アミノアルキル、C1〜7ヒドロキシアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;R9およびR10は独立にH、ヒドロキシル、C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アルキル、C5〜20アリール、C(O)Z4から選択され、Z4はC1〜7アルキルまたはC5〜20アリールから選択され、ただし、Y2がOまたはSである場合、R10は存在しない)
の基であるか、
またはR4はヒドロキシル以外であり、R7は追加的にC1〜7ヒドロキシアルキルであってよく;
R8は水素である]
で表される化合物または式(I)の2つ以上の分子のオリゴマー;
およびその異性体、塩、溶媒和物または化学的に保護された形態である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
R1が、メタンスルホネート、4-トルエンスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、トリフルオロメチルトルエンスルホネート、イミダゾールスルホネートまたはハライド(F、Cl、Br、I)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記転移反応が、3-フルオロシアル酸化合物と糖アクセプターの間のアノマー結合での反転を伴う酵素によるものである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記糖アクセプターがグリコシル化構造体の一部である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記グリコシル化構造体が、一分岐型構造体、二分岐型構造体、三分岐型構造体または複合型グリコシル化構造体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記グリコシル化構造体が、天然由来もしくは合成のモノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリドを含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記グリコシル化構造体が、N結合またはO結合サッカリド基を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
グリコシル化構造体から末端グリコシル基を取り外して糖アクセプター基を生成させるステップをさらに含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記末端グリコシル基を取り外すステップを、シアリダーゼを用いて酵素的に実施する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
複数の3-フルオロシアル酸化合物を糖アクセプターに転移させるステップを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の3-フルオロシアル酸化合物を、オリゴマーとして、または抱合反応を繰り返すことによって転移させる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記糖アクセプターが、ポリペプチドなどの治療用部分上に存在するかまたはポリペプチドなどの治療用部分との結合のために存在する、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抱合体を治療用部分と結合させるステップをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
複数の3-フルオロシアル酸基を、ポリペプチド上に存在するグリコシル化構造体の1つまたは複数の末端グリコシル残基へ転移させるステップを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記3-フルオロシアル酸基を転移させるための酵素がシアリルトランスフェラーゼである、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
3-フルオロシアル酸基を転移させるための酵素がトランス-シアリダーゼである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記酵素が、転移反応の速度を改善するかつ/または供与体3-フルオロシアル酸分子の結合を改善するために遺伝子操作されているシアリルトランスフェラーゼまたはトランス-シアリダーゼである、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
グリコシル化構造体をポリペプチドの部位に導入する初期ステップを含む、請求項10から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記グリコシル化構造体がポリ(アルキレングリコール)分子を含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリペプチドが次の概略式:
ポリペプチド-AA-L1-Gly
(式中、
AAは、ポリペプチドの末端または内部アミノ酸残基であり;
L1は、アミノ酸AAと共有結合している任意選択のリンカー基であり;
Glyは、任意選択でグリコシル化構造体の部分である糖アクセプター基を表す)
で表される、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記抱合反応が、ポリペプチドの安定性、生物学的半減期、クリアランス特性、水溶性および/または免疫学的特徴を改変する、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
シアリダーゼによる加水分解に対するポリペプチドのグリコシル化の耐性を改善するためである、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリペプチドが、エリスロポエチン、インターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、リンホカイン、サイトカイン、インスリン、モノクローナル抗体もしくはそのフラグメント、組換え抗体もしくはそのフラグメント、血液凝固因子、コロニー刺激因子、成長ホルモン、プラスミノゲン活性化因子、ウイルス誘導ペプチド、生殖ホルモンまたは治療用酵素である、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか一項に記載の方法によって得られる抱合体。
【請求項31】
グリコシル化構造体を含む治療用部分の抱合体であって、前記グリコシル化構造体が1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基と共有結合しており、前記3-フルオロシアル酸基がグリコシル化構造体の末端グリコシル基を形成している抱合体。
【請求項32】
前記治療用部分がポリペプチドであり、前記グリコシル化構造体が、グリコシル化部位においてかつ/または前記ポリペプチドのアミノ酸残基を介し、任意選択でリンカー基を介して前記ポリペプチドと結合している、請求項31に記載の抱合体。
【請求項33】
前記グリコシル化構造体が1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基を含み、前記3-フルオロシアル酸基がグリコシル化構造体の1つまたは複数の末端グリコシル基と共有結合しているグリコシル化構造体。
【請求項34】
少なくとも1つの3-フルオロシアル酸基と、さらに2つのサッカリド単位を含む、請求項33に記載のグリコシル化構造体。
【請求項35】
1つまたは複数の末端3-フルオロシアル酸基を含むグリコシル化構造体であって、前記構造体が次式:
【化3】

[式中、Y1は-O-、-S-または-NR-から選択され、Rは独立に、H、C1〜7アルキル、C3〜10ヘテロシクリルまたはC5〜20アリールから選択され;
X1は-CO2Rであり、Rは上記定義通りであり;
X2はグリコシル化構造体の残りの部分を表し、少なくとも2つのサッカリド単位を含み;
R2はH、ハライドまたはOHから選択され;
R3およびR4はそれぞれ独立にH、-OR、-NR2または-Z1(CH2)mZ2から選択され、Rは上記定義通りであり、Z1は-O-、-NR-、-CR2-および-S-から選択され、mは0〜5であり、Z2は-OR、-NR2または-CNから選択され;ただし、R3とR4は両方がHであることはできず;
R5はHであり;
R6はC1〜7アルキル;C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アミノアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;
R7は式:
【化4】

(式中、Y2はN、O、SおよびCHから選択され;Z3はH、ヒドロキシル、ハライド、C1〜7アルキル、C1〜7アミノアルキル、C1〜7ヒドロキシアルキルまたはC1〜7チオアルキルから選択され;R9およびR10は独立にH、ヒドロキシル、C1〜7ヒドロキシアルキル、C1〜7アルキル、C5〜20アリール、C(O)Z4から選択され、Z4はC1〜7アルキルまたはC5〜20アリールから選択され、ただし、Y2がOまたはSである場合、R10は存在しない)
の基であるか、
またはR4はヒドロキシル以外であり、R7は追加的にC1〜7ヒドロキシアルキルであってよく;
R8は水素である]
で表される構造体または式(I)の2つ以上の分子のオリゴマー;
およびその異性体、塩、溶媒和物または化学的に保護された形態。
【請求項36】
前記グリコシル化構造体が、一分岐型構造体、二分岐型構造体、三分岐型構造体または複合型グリコシル化構造体を含む、請求項35に記載のグリコシル化構造体。
【請求項37】
前記グリコシル化構造体が天然由来もしくは合成のモノサッカリド、オリゴサッカリドまたはポリサッカリドを含む、請求項35または36に記載のグリコシル化構造体。
【請求項38】
前記グリコシル化構造体がN結合またはO結合サッカリド基を含む、請求項35から37のいずれか一項に記載のグリコシル化構造体。
【請求項39】
前記グリコシル化構造体が1つまたは複数の3-フルオロシアル酸基と共有結合しており、前記3-フルオロシアル酸基がグリコシル化構造体の末端グリコシル基を形成している、請求項33から38のいずれか一項に記載のグリコシル化構造体と治療用部分の抱合体。
【請求項40】
医学的処置方法において使用するための、請求項31、32または39のいずれか一項に記載の抱合体。
【請求項41】
前記処置が治療または診断である、請求項40に記載の処置方法において使用するための抱合体。
【請求項42】
前記治療用部分の投与に応答する状態の処置のための医薬品の調製における、請求項31、32または39のいずれか一項に記載の抱合体の使用。
【請求項43】
請求項31、32または39のいずれか一項に記載の抱合体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。

【公表番号】特表2012−530119(P2012−530119A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515554(P2012−515554)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001188
【国際公開番号】WO2010/146362
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(511148444)ザ・ユニヴァーシティ・オブ・バース (2)
【Fターム(参考)】