説明

グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法

【課題】溶媒を用いない簡単なプロセスで、高転化率下に高い選択率でグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)
1−COOH (1)
(式中、R1は炭素数8〜25のアルキル基を示す。)
で表される脂肪酸とグリセリンとを、酸触媒及び一般式(2)
2−SO3M (2)
(式中、R2は炭素数6〜24のアルキル基又は全アルキル基の炭素数が6〜16のアルキルアリール基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。)
で表され、かつ親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40である界面活性剤の存在下で反応させる、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒を用いない簡単なプロセスで、高転化率下に高い選択率でグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンモノ脂肪酸エステル(以下、「モノグリセリド」ともいう)は、食品添加剤、化粧品等の乳化剤や保湿剤、工業用乳化剤、帯電防止剤、潤滑油の油性剤等として有用で広く用いられている。
このモノグリセリドは、通常グリセリンと脂肪酸から直接エステル化反応により、又はグリセリンと油脂のエステル交換反応により製造されている。これらの反応では、一般に、グリセリン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの混合物が生成し、グリセリンを除いて計算したモノグリセリドの含量は、エステル混合物中約40〜50質量%である。
このため、高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを得る方法としては、直接油脂とグリセリンをアルカリ触媒存在下で反応させ、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステルの混合物を得た後、分子蒸留にてグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを得る方法がとられている。しかし、この方法はグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の生成物の回収と再反応を行うため、設備が大掛かりとなる。
【0003】
これに対し、有機溶剤を用いることで直接高純度グリセリンモノ脂肪酸エステルを得る方法が知られている。
例えば、特許文献1には、アルカリ触媒、脂肪酸又は脂肪酸アルキルエステルにグリセリンを混合して反応させた後、その反応混合物を有機溶剤とアルカリ触媒との存在下にエステル交換反応させるモノグリセリドの製造方法が開示されている。しかしながら、この方法は2段階の工程が必要で生産性に問題がある。
特許文献2には、無触媒で溶媒として乳酸メチルを使用したグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造法が開示されており、特許文献3には、酸触媒、溶媒としてt−ブタノールを使用したグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造法が開示されている。しかしながら、特許文献2及び3の方法は、プロトン性の溶媒を用いているため、グリセリンや脂肪酸と反応し、選択性を低下させるおそれがある。
【0004】
更に、特許文献4には、グリセリンと脂肪酸に対して撹拌羽根の先端周速が3m/s以上、かつパス回数0.1回/hr以上となる混合操作を含むモノグリセリドの製法が開示されている。この方法では、触媒や溶媒を用いることなく、グリセリンと脂肪酸から直接、短時間でモノグリセリド含量55質量%以上の生成物を得ることができる。
特許文献5には、脂肪酸と、ケトン又はアルデヒドと、グリセリン類とを、触媒の存在下で反応させて、α−モノグリセリドケタールを得たのち、該ケタールを脱ケタール化して、α−モノグリセリドを製造する方法が開示されている。この方法では、純度90%以上の高品質のα−モノグリセリドを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−268663号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002−0120159号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1672053号明細書
【特許文献4】特開2003−252829号公報
【特許文献5】特開2001−181271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶媒を用いない簡単なプロセスで、高転化率下に高い選択率でグリセリンモノ脂肪酸エステルを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂肪酸とグリセリンとを、酸触媒、及び親水性−親油性バランス(HLB)がある範囲にある特定の構造を有する界面活性剤の存在下で反応させることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、一般式(1)
1−COOH (1)
(式中、R1は炭素数8〜25のアルキル基を示す。)
で表される脂肪酸とグリセリンとを、酸触媒及び一般式(2)
2−SO3M (2)
(式中、R2は炭素数6〜24のアルキル基又は全アルキル基の炭素数が6〜16のアルキルアリール基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。)
で表され、かつ親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40である界面活性剤の存在下で反応させる、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶媒を用いない簡単なプロセスで、高脂肪酸転化率下に高選択率で、例えば脂肪酸転化率90%以上において、グリセリンモノ脂肪酸エステルを、選択率65%以上で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法は、下記一般式(1)で表される脂肪酸とグリセリンとを、酸触媒及び下記一般式(2)で表され、かつ親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40である界面活性剤の存在下で反応させることを特徴とする。
【0010】
[脂肪酸]
本発明において原料として用いられる脂肪酸は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
1−COOH (1)
一般式(1)において、R1は炭素数8〜25のアルキル基を示す。このアルキル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、好ましくは炭素数11〜21、より好ましくは炭素数13〜17のアルキル基である。
1の具体例としては、各種ノニル基、各種ウンデシル基、各種トリデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘプタデシル基、各種ノナデシル基等の各種アルキル基を挙げることができる。なお、各種アルキル基とは、同一炭素数のアルキル基における各種の異性体をいう。
【0011】
一般式(1)で表される脂肪酸の具体例としては、各種デカン酸、各種ドデカン酸、各種テトラデカン酸、各種ヘキサデカン酸、各種オクタデカン酸、各種イコサン酸等の各種アルカン酸を挙げることができる。なお、各種アルカン酸とは、同一炭素数のアルカン酸における各種の異性体をいう。
これらの脂肪酸の中では、得られるグリセリンモノ脂肪酸エステルの用途及び原料脂肪酸入手の容易さの観点から、直鎖状の脂肪酸が好ましく、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等がより好ましく、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が更に好ましい。
上記の脂肪酸は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
[酸触媒]
本発明の方法においては、触媒として酸触媒が用いられる。この酸触媒は、反応性の観点から、25℃における酸解離指数(pKa)が3以下のものが好ましく、2以下のものがより好ましい。
その具体例としては、硫酸(水溶液中2段目pKa:1.9)、リン酸(pKa:2.2)、パラトルエンスルホン酸(pKa:−2.6)、ベンゼンスルホン酸(pKa:−6.5)、トリフルオロメタンスルホン酸(pKa:−13)及びナフィオン[デュポン社の登録商標、ペルフルオロスルホン酸/PTFE共重合体]分散液(pKa:約−6)等の有機スルホン酸、リンタングステン酸(pKa:1.6)、リンモリブデン酸(pKa:2.4)等のヘテロポリ酸等が挙げられる。これらの中では、硫酸及び有機スルホン酸が好ましく、特に硫酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
上記の酸触媒は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸解離指数(pKa)は、例えば日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数等を利用することができる。
酸触媒の使用量は、反応速度及び副反応抑制の観点から、脂肪酸に対して1〜20モル%が好ましく、2〜17モル%がより好ましく、5〜15モル%が更に好ましい。
【0013】
[界面活性剤]
本発明の方法においては、反応速度を高めて反応時間を短縮すると共に、グリセリンモノ脂肪酸エステルの選択率を向上させるために、前記の酸触媒と共に、界面活性剤が用いられる。
界面活性剤は、一般式(2)で表され、かつ親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40のものである。
2−SO3M (2)
一般式(2)において、R2は、炭素数6〜24のアルキル基又は全アルキル基の炭素数が6〜16のアルキルアリール基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。
2である炭素数6〜24のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。その具体例としては、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種イコシル基、各種ドコシル基等の各種アルキル基を挙げられる。
これらの中では、乳化性や入手の容易さの観点から、炭素数8〜18のアルキル基が好ましく、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基及び各種オクタデシル基がより好ましい。なお、各種アルキル基の意味は、前記で説明したとおりである。
【0014】
また、R2である全アルキル基の炭素数が6〜16のアルキルアリール基は、ベンゼン環やナフタレン環等の芳香環上にアルキル基が一つ以上存在し、かつ該アルキル基の総炭素数が6〜16のアリール基である。その具体例としては、各種オクチルフェニル基、各種ノニルフェニル基、各種デシルフェニル基、各種ドデシルフェニル基、各種テトラデシルフェニル基、各種ヘキサデシルフェニル基等の各種アルキルフェニル基、ジイソプロピルナフチル基やジイソブチルナフチル基等のジアルキルナフチル基等が挙げられる。なお、各種アルキルフェニル基とは、同一炭素数のアルキルフェニル基における各種の異性体をいう。
一方、一般式(2)におけるMのうち、アルカリ金属原子としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられるが、実用性等の観点から、ナトリウムが好適である。
【0015】
本発明で用いる界面活性剤は、前記構造を有すると共に、乳化性等の性能の観点から、親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40であることを要し、好ましくは8〜40、より好ましくは10〜40である。
HLBが6〜40である一般式(2)で表される界面活性剤としては、アルカンスルホン酸又はその塩、アルキルベンゼンスルホン酸又はその塩が好ましく挙げられるが、スルホン酸塩型のものがより好ましい。
アルカンスルホン酸塩の具体例としては、オクタンスルホン酸ナトリウム(HLB:14.2)、デカンスルホン酸ナトリウム(HLB:13.2)、ドデカンスルホン酸ナトリウム(HLB:12.2)、テトラデカンスルホン酸ナトリウム(HLB:11.5)、ヘキサデカンスルホン酸ナトリウム(HLB:10.2)、等が挙げられる。
アルキルベンゼンスルホン酸塩の具体例としては、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム(HLB:11.5)、ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム(HLB:11.0)、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(HLB:10.2)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(HLB:9.3)等が挙げられる。
なお、HLB値は、デービスの式に基づき、「HLB=7+Σ(親水基の基数)−Σ(疎水基の基数)」により、算出した値である[(参考)「界面活性剤」竹内節著、米田出版(1999年)]。
【0016】
一方、アルカンスルホン酸の具体例としては、前記例示のアルカンスルホン酸塩に対応するアルカンスルホン酸が挙げられ、アルキルベンゼンスルホン酸の具体例としては、前記例示のアルキルベンゼンスルホン酸塩に対応するアルキルベンゼンスルホン酸が挙げられる。
界面活性剤として、このような遊離のスルホン酸型のものを用いる場合、このスルホン酸型界面活性は、酸触媒としての機能と界面活性剤としての機能の両方の機能を有することから、酸触媒と界面活性剤の両方の化合物として用いることができ、別途酸触媒、界面活性剤を用いなくてもよいが、必要に応じ、前述した酸触媒や界面活性剤と併用することができる。なお、本発明においては、このような遊離のスルホン酸型のものを用いた場合、酸触媒と界面活性剤の両方を用いたものとして取り扱う。
【0017】
上記の界面活性剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、乳化性及び選択性の観点から、脂肪酸に対して1〜25モル%が好ましく、3〜25モル%がより好ましく、5〜20モル%が更に好ましい。
本発明においては、このような界面活性剤を用いることにより、脂肪酸とグリセリンとが乳化状態で反応し、グリセリンモノ脂肪酸エステルの選択性が向上する。
【0018】
また、原料として用いるグリセリンとしては、特に制限はないが、純度95%以上のものが好ましい。
グリセリンの仕込み量は、反応速度及びモノグリセリドの選択性等の観点から、脂肪酸に対して1〜20モル倍が好ましく、3〜15モル倍がより好ましく、5〜10モル倍が更に好ましい。
反応温度は、反応速度、グリセリンモノ脂肪酸エステルの選択性、副反応抑制等の観点から、40〜160℃が好ましく、50〜140℃がより好ましく、60〜120℃が更に好ましい。
反応は、攪拌下、反応速度向上のために、通常0.01〜0.09MPa程度の減圧下、又は常圧で反応系内に窒素を導入し、生成する水を系外に除去しながら行うことが好ましい。
反応時間としては、脂肪酸転化率が90%以上、好ましくは95%以上になるような時間が望ましい。該反応時間は、反応温度及び酸触媒や界面活性剤の使用量等に左右されるが、通常1〜60分程度、好ましくは1〜30分である。
【0019】
本発明の製造方法によれば、脂肪酸転化率が90%以上、好ましくは95%以上に達し、しかもグリセリンモノ脂肪酸エステルの選択率は、通常65モル%以上となる。また、副生物は通常35モル%未満の割合で生成するが、それは主としてグリセリンジ脂肪酸エステルである。
本発明においては、上記のようにして得られた反応生成物から、余剰のグリセリンを減圧留去したのち、水洗等により酸触媒や界面活性剤を除去することにより、純度約65%以上のグリセリンモノ脂肪酸エステルを得ることができる。
この純度約65%以上のモノグリセリン脂肪酸エステルは、食品添加剤、化粧品等の乳化剤や保湿剤、工業用乳化剤、帯電防止剤、潤滑油の油性剤等として有用である。
【0020】
なお、本発明における選択性向上の理由は解明されているわけではないが、脂肪酸とグリセリンの界面では酸触媒によりグリセリンモノ脂肪酸エステル生成反応が有利に進行する。選択性低下の原因となるオーバーリアクションやエステル交換反応は主に脂肪酸層中で進行するため、特定の界面活性剤を用いて乳化することにより、界面の面積を増大させることで、グリセリンモノ脂肪酸エステル生成反応が促進され、選択性が向上したものと考えられる。また、界面活性剤が遊離のスルホン酸型のものの場合、乳化能も酸触媒としての性能も併せ持つことから、脂肪酸とグリセリンの界面を作り、酸触媒として反応にも関与するものと考えられる。そのため、特に別途酸触媒や界面活性剤を添加する必要はなく、本願発明の酸触媒としても界面活性剤としても共通して取り扱うことができるものと考えられる。
【実施例】
【0021】
実施例1
攪拌装置付きフラスコに、グリセリン(花王株式会社製、局方グリセリン)55.2g(0.6モル)、パルミチン酸(花王株式会社製、商品名:ルナックP−95)7.8g(0.03モル)、触媒としてパラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.58g(0.003モル)及び界面活性剤としてヘキサデカンスルホン酸ナトリウム(HLB:10.2)1.96g(0.006モル)を仕込み、攪拌下100℃にて窒素を系内に流通させながら(窒素流通量:250mL/min)、10分反応を行った。
反応終了後の溶液はトリメチルシリル化した後、ガスクロマトグラフィー[カラム:Ultra−alloyキャピラリーカラム15.0m×250μm(Frontier Laboratories社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:350℃、He流量:4.6mL/min.]にて分析し、生成物を定量した。
その結果、脂肪酸転化率は98%、モノグリセリド選択率は73モル%であった。
製造条件及び結果を表1に示す。
なお、脂肪酸転化率及びモノグリセリド選択率は、以下の式により算出した。
脂肪酸転化率(%)=[残存脂肪酸のモル量/[原料脂肪酸の仕込みモル量]×100
モノグリセリド選択率(モル%)=[生成モノグリセリドのモル量/(生成モノグリセリドのモル量+生成ジグリセリドのモル量+生成トリグリセリドのモル量)]×100
【0022】
実施例2〜7及び比較例1、2
表1に示す製造条件にて、実施例1と同様に反応を行った。その結果を表1に示す。
なお、実施例7において、ドデシルベンゼンスルホン酸は、酸触媒のとしての機能と界面活性剤としての機能を兼ね備えている化合物であるので、酸触媒、界面活性剤共通の化合物として用い、別途酸触媒、界面活性剤は用いなかった。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、実施例1〜7の製造方法によれば、反応時間が10〜20分間の短い時間で、脂肪酸転化率が96%以上に達し、かつ69〜88%の高い選択率でグリセリンモノ脂肪酸エステル(モノグリセリド)が得られることが分かる。
実施例7は、酸触媒機能、界面活性機能の両方を有するドデシルベンゼンスルホン酸を用い、別途酸触媒、界面活性剤を用いていないが、反応時間15分で脂肪酸転化率が96%で、モノグリセリド選択率が88モル%である。
これに対し、比較例1は、実施例1〜6と(グリセリン/パルミチン酸)のモル比、及び酸触媒、及びこれらの添加率が同じであり、界面活性剤を用いていない例であるが、実施例1〜6では反応時間が10〜20分で97〜98%の脂肪酸転化率が得られているのに対し、比較例1では、反応時間180分で98%の転化率であり、この時の選択率は60%しか得られなかった。
また、比較例2は、実施例7と(グリセリン/パルミチン酸)のモル比が同じで、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸を用い、界面活性剤を用いていない例であるが、反応時間180分でも実質的に反応は進行していない。
以上のことから、本発明の酸触媒と界面活性剤を併用して、脂肪酸とグリセリンを反応させる方法は、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法として極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
1−COOH (1)
(式中、R1は炭素数8〜25のアルキル基を示す。)
で表される脂肪酸とグリセリンとを、酸触媒及び一般式(2)
2−SO3M (2)
(式中、R2は炭素数6〜24のアルキル基又は全アルキル基の炭素数が6〜16のアルキルアリール基を示し、Mは水素原子又はアルカリ金属原子を示す。)
で表され、かつ親水性−親油性バランス(HLB)が6〜40である界面活性剤の存在下で反応させる、グリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
界面活性剤の使用量が、脂肪酸に対して1〜25モル%である、請求項1に記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
界面活性剤が、アルカンスルホン酸及びその塩、並びにアルキルベンゼンスルホン酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
酸触媒が、25℃における酸解離定数(pKa)が3以下のものである、請求項1〜3のいずれかに記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
酸触媒が、有機スルホン酸及び硫酸の中から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】
酸触媒の使用量が、脂肪酸に対して1〜20モル%である、請求項1〜5のいずれかに記載のグリセリンモノ脂肪酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2010−280603(P2010−280603A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134716(P2009−134716)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】