説明

グリセリン脱水用触媒の再生方法

【課題】グリセリン脱水用触媒表面に堆積した炭素状物質を除去する触媒の再生方法の提供。
【解決手段】グリセリン脱水用触媒の表面における炭素状物質に酸化剤を接触させて炭素状物質を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に炭素状物質が付着したグリセリン脱水用触媒の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリセリンの分子内脱水反応を経て生成するアリルアルコール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、1−ヒドロキシアセトン、アクロレイン等のグリセリン誘導体は、様々な化合物原料に使用される。例えばアクロレインは、1,3-プロパンジオール、メチオニン、アクリル酸、3−メチルチオプロピオンアルデヒド等のアクロレイン誘導体の原料として使用される。そして、グリセリン誘導体を収率良く得るためには、グリセリンの脱水反応を促進させる触媒(以下、「グリセリン脱水用触媒」という)が用いられる。
【0003】
ところで、グリセリン脱水用触媒以外の触媒では、その使用時間の経過と共に活性が低下することが知られている。この活性低下の原因としては、触媒の機能発揮時に併発する様々な反応で生じた炭素状物質が触媒表面に堆積することや、触媒活性成分が飛散することが挙げられ、そのような原因により低下した触媒の活性を回復させるための種々の方法が公知となっている。
【0004】
例えば特許文献1には、アルカノールアミンの脱水反応に使用される触媒の表面に析出した炭素状物質を燃焼除去することが開示され、また、特許文献2には、一般式R−OH(式中、Rはアルキル基またはヒドロキシルアルキル基を表す)を触媒と共存させて、炭素状物質を低い温度条件で燃焼除去することが開示されている。また、特許文献3にも炭素状物質を燃焼除去する方法が開示されており、この方法では、触媒の寿命、強度、および性能を維持するために、触媒の耐熱温度以下で炭素状物質が除去される。
【0005】
その他特許文献4には、含リン触媒を使用するアルカノールアミンの分子内脱水によりアジリジン化合物が得られ、このときにリン元素が飛散して低下した触媒活性を回復するため、揮発性リン化合物を触媒に接触させることが開示されている。
【特許文献1】特開平1−157952号公報
【特許文献2】特開平3−207454号公報
【特許文献3】特開2001−96173号公報
【特許文献4】特開平2−290255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、触媒活性を回復する方法が各特許文献に開示されているものの、これらの特許文献には、グリセリン脱水用触媒を再生するための具体的な方法が開示されていないばかりか、グリセリン脱水用触媒表面に炭素状物質が堆積するのか否かも明らかにされていない。ところが、グリセリン脱水用触媒の表面にも炭素状物質が堆積する問題がある。更には、短時間の脱水反応でも炭素状物質が堆積する問題が在り、これらの問題がグリセリン誘導体を効率良く得るための障害となる。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、グリセリン脱水用触媒表面に堆積した炭素状物質を除去する触媒の再生方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、グリセリン脱水用触媒の表面における炭素状物質に酸化剤を接触させて前記炭素状物質を除去するグリセリン脱水用触媒の再生方法である。ここで本発明における「酸化剤」とは、炭素状物質を二酸化炭素、一酸化炭素、その他の炭素含有化合物に酸化分解するものをいう。
【0009】
前記酸化剤は、ガス状の酸化剤であることが好ましく、この場合、前記グリセリン脱水用触媒を該触媒調製における最終の加熱処理温度以上に加熱して、前記炭素状物質を除去することが好適である。前記「最終の加熱」とは、触媒をグリセリン脱水反応に使用する直前の加熱であって、焼成や触媒の還元活性化のための加熱等の触媒活性に影響を及ぼすような加熱をいい、触媒活性にほとんど影響を与えることがない加熱(例えば、単に水分等を乾燥除去するための加熱)は除かれる。
【0010】
また、本発明は、グリセリンとグリセリン脱水用触媒の気相接触反応によりグリセリンを脱水する第一グリセリン脱水工程と、前記グリセリン脱水用触媒の再生方法により前記グリセリン脱水用触媒を再生する触媒再生工程と、グリセリンと前記触媒再生工程後のグリセリン脱水用触媒の気相接触反応によりグリセリンを脱水する第二グリセリン脱水工程とを有するグリセリン誘導体の製造方法である。ここで「グリセリン誘導体」とは、グリセリンの分子内脱水反応を経て生成する化合物をいい、アリルアルコール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、1−ヒドロキシアセトン、およびアクロレインを例示することができる。
【0011】
また、本発明は、前記グリセリン誘導体の製造方法を使用する工程を有するアクロレイン誘導体の製造方法である。当該アクロレイン誘導体としては、例えば、アクロレインを原料にして従来から製造されているポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸、アクリル酸、1,3−プロパンジオール、アリルアルコール、メチオニンを挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の本発明に係るグリセリン脱水用触媒の再生方法によれば、炭素状物質が効率よく除去されるので、グリセリン脱水用触媒の活性を効率よく回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る触媒の再生方法を実施形態に基づき説明する。
本発明の実施形態に係る触媒の再生方法は、触媒表面における炭素状物質にガス状の酸化剤を接触させて、この炭素状物質を触媒表面から酸化分解除去する方法である。炭素状物質を酸化分解除去した後には、必要に応じて、触媒活性成分の補充処理が行われる。
【0014】
本実施形態の再生方法は、グリセリンとグリセリン脱水用触媒の気相接触反応によりグリセリンを脱水する第一グリセリン脱水工程と、この脱水工程と同様の第二グリセリン脱水工程との間の触媒再生工程に使用される方法である。
【0015】
本実施形態で再生対象となる触媒は、例えば、当該触媒の調製過程の最終段階において焼成処理されたグリセリン脱水用触媒である。そして、この触媒の表面には、グリセリンとの気相接触反応過程で生じた炭素状物質が表面に堆積している。
【0016】
上記触媒としては、結晶性メタロシリケート;カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイトなどの天然または合成粘土化合物;硫酸、リン酸またはリン酸塩(リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、リン酸マンガン、リン酸ジルコニウム等)をアルミナやシリカ等に担持させた触媒;活性アルミナ、TiO2、ZrO2、SnO2、V25、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、TiO2−WO3、TiO2−ZrO2などの無機酸化物または無機複合酸化物;MgSO4、Al2(SO4)3、K2SO4、AlPO4、Zr(SO4)2等の金属の硫酸塩、リン酸塩などの固体酸性物質;を挙げることができる。炭素状物質を酸化分解除去する本実施形態の再生方法は、結晶性メタロシリケートの再生に好適であり、MFI型結晶性アルミノシリケート(H−ZSM5)の再生に最適である。
【0017】
また上記触媒は、触媒成形体であっても良く、その成形体形状は、球状、シリンダー型、リング型等、限定されるものではない。
【0018】
再生に使用するガス状の酸化剤は、炭素状物質の酸化分解のために該炭素状物質に酸素元素を供給することが可能な気体分子であり、例えば、酸素(空気中の酸素も酸化剤に該当する)、オゾン、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素を挙げることができる。この酸化剤を使用する場合、一種以上の酸化剤が含まれているガスであれば良く、例えば、空気と酸素との混合ガス、一酸化窒素と酸素との混合ガスを使用しても良く、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、および水蒸気等の不活性ガスから任意に選択した一種以上のガスと酸化剤との混合ガスを使用しても良い。
【0019】
触媒表面の炭素状物質に酸化剤を接触させる場合、第一グリセリン脱水工程で使用された反応器内から取り出した触媒を酸化剤ガスに曝しても良いが、本実施形態では、簡便に触媒を再生するため、触媒が充填された固定床反応器内にガス状酸化剤を流通させる。
【0020】
炭素状物質の酸化分解除去のために触媒を加熱する温度は、高温であるほど触媒再生時間を短縮でき、触媒調製の際の焼成温度以上であることが好適である。ただし、その加熱におけるピーク温度は、触媒調製の際の焼成温度よりも200℃高い温度以下であると良く、好ましくは焼成温度よりも100℃高い温度以下である。なお、炭素状物質の酸化分解除去のために触媒を加熱する温度は、触媒雰囲気温度、炭素状物質の酸化分解熱、および触媒自身の発熱(触媒が酸化または還元されることによる熱)に依存する。
【0021】
上記の焼成温度以上で炭素状物質を酸化分解除去することが好適な理由は、次の通りである。焼成温度以上の温度に触媒が加熱されると、シンタリングによる触媒表面積の低下や相転移による触媒の結晶構造変化等の触媒における物理的構造および化学的性質が変わることになって、触媒活性の低下が懸念される。しかし、焼成温度以下で加熱された触媒は、加熱される時間が長時間であっても、触媒表面に炭素状物質が多く残存するため、触媒活性を調製直後の触媒と同等にまで回復させることができない場合が多い。この触媒活性を回復させることができない問題は、炭素状物質が多量に蓄積した触媒では、特に生じやすい。一方で、触媒を焼成温度以上に加熱した場合、その加熱の時間が短時間であっても、触媒における炭素状物質の残存量を大幅に削除できるだけではなく、懸念していた触媒活性の低下がないことを確認している。炭素状物質を大幅に除去するための触媒調製温度以上の加熱は、特に、結晶性メタロシリケート等の細孔内に入り込んだ炭素状物質を大幅に除去するために必要である。
【0022】
また、炭素状物質を酸化分解除去するための温度に好ましい上限があるのは、あまりに高い温度で触媒が加熱されると、懸念していた触媒の活性低下が生じることがあるためである。
【0023】
触媒を再生するための加熱温度を制御するには、該触媒を加熱するための加熱器の設定温度、酸化剤濃度、および風量等を調整すると良い。この場合、加熱器の設定温度および/または酸化剤の濃度が高いほど、触媒を加熱する温度が高くなる。そして、触媒加熱温度を連続的に測定しつつ、加熱器の設定温度および/または酸化剤の濃度を調整して触媒加熱温度を制御することも可能である。また、その他、特開平5−192590号公報に開示されている触媒加熱温度の制御方法がある。
【0024】
固定床反応器内の温度変化を、図をもって説明すると次の通りである。図1は、炭素状物質を触媒表面から酸化分解除去するときの触媒の温度変化を説明するための概略温度グラフであり、縦軸が触媒層温度、横軸が触媒再生時間および固定床反応器内における触媒層長、矢印が固定床反応器内におけるガス流通方向を表している。図示の通り、固定床反応器内における最高の触媒加熱温度(ピーク温度)は、時間の経過と共に固定床反応器の入口から出口(ガス流通方向)に向かって移動する。すなわち、炭素状物質の酸化分解除去当初では、固定床反応器入口付近における炭素状物質の酸化分解のために酸化剤の大部分が消費され、この消費位置は、再生時間の経過と共に出口側に移動するのである。なお、図1に示すように固定床反応器内のピーク温度位置を当該反応器のガス流通方向に向けて連続的に移動させ、触媒を当該触媒調製における焼成温度以上に一時的に加熱することは、本実施形態の好ましい態様である。
【0025】
炭素状物質を酸化分解除去する本実施形態に係る方法では、触媒の種類によっては、炭素状物質の酸化分解過程で触媒活性成分が飛散する場合がある。このような場合には、必要とする触媒活性に応じて、触媒活性成分の補充処理が行われる。当該補充処理を行うことが好ましい触媒としては、リン酸担持触媒が例示される。シリカやアルミナ等の担体にリン酸が担持されたリン酸担持触媒は、グリセリンの脱水反応過程や炭素状物質の酸化分解除去過程で飛散した触媒活性成分(リン)が補充されると、活性が回復する。
【0026】
触媒活性成分の補充処理を行うためには、触媒調製の際における活性成分を担持させる方法を再実行すると良い。この方法としては、例えば、(1)含浸等の方法により、反応管から抜き出した触媒に所定量の触媒活性成分を補充する方法、(2)特開平2−290255号公報に開示されている方法等により、反応管に充填されている状態の触媒に揮発性化合物(リン酸エステル等のリン元素を含有する化合物)を接触させる処理により、触媒活性成分を補充する方法、が挙げられる。
【0027】
以上に説明した再生方法により、触媒の再生が行われる。当該再生の間にグリセリンの脱水反応を中断させないためには、複数の固定床反応器を並列配置して、ある固定床反応器内の触媒再生の間には他の固定床反応器をグリセリン脱水反応に使用すると良い。複数の固定床反応器を使用する場合、グリセリンの脱水反応によりアクロレインを製造する時間(反応時間)と触媒表面上に蓄積した炭素状物質を除去して触媒を再生する時間(再生時間)に応じた数の反応器が必要である。例えば、再生時間が反応時間よりも短ければ、グリセリン脱水反応に使用されている反応器1基と触媒再生に使用される反応器1基が必要であり、再生時間が反応時間の2倍以下であれば、グリセリン脱水反応に使用されている反応器1基と触媒再生に使用される反応器2基があれば足りる。触媒再生に使用される反応器の数を減らせば経済的にグリセリンの脱水反応を行えることになり、反応器数を減らすためには、炭素状物質を酸化分解除去するための温度を触媒調製の際の焼成温度以上に設定して再生時間を短時間にすることが好ましいといえる。
【0028】
本実施形態の再生方法は以上の通りであるが、上記実施形態に係る再生方法以外の再生方法も本発明に含まれる。例えば、上記実施形態の再生対象触媒は当該触媒の調製における最終の加熱が焼成であるが、貴金属を担持している触媒を再生対象とする場合には、この触媒を還元して活性化するための加熱が触媒調製における最終の加熱となることがある。また、上記実施形態ではガス状の酸化剤が使用されるが、この酸化剤に変えて過酸化水素水、有機過酸化物、硝酸、亜硝酸等が溶解した液状の酸化剤を使用しても良い。
【0029】
次に、本実施形態に係る再生方法を使用する前の触媒を使用する第一グリセリン脱水工程と、その再生方法後の触媒を使用する第二グリセリン脱水工程について説明する。両グリセリン脱水工程では、グリセリン誘導体であるアクロレインを気相接触反応により得るために、固定床反応器に反応ガスを流通させる。なお、本実施形態では、第一グリセリン脱水工程および第二グリセリン脱水工程の条件および手順は、同じである。
【0030】
固定床反応器に流通させる反応ガスは、グリセリンのみで構成されているガスであっても良く、反応ガス中のグリセリン濃度を調整するためにグリセリン脱水反応において希釈ガスを含んでいても良い。希釈ガスとしては、水蒸気、窒素ガス、および空気を例示することができ、これらのガスを単独使用しても良いし、二種以上の混合ガスとして使用しても良い。反応ガスにおけるグリセリン濃度は、0.1〜100モル%、好ましくは1モル%以上、更に好ましくは10モル%以上である。また、反応ガスの流量は、単位触媒容積あたりの反応ガス流量(GHSV)で表すと100〜10000hr-1であると良く、好ましくは5000hr-1以下、更に好ましくは3000hr-1以下である。また、反応ガスの圧力は、グリセリンが凝縮しない範囲の圧力であれば特に限定されず、通常、1kPa〜1MPaであると良く、好ましくは0.5MPa以下である。
【0031】
反応ガスを流通させてグリセリンの脱水反応を生じさせるときの温度は、200〜500℃であると良く、好ましくは250〜450℃、更に好ましくは300〜400℃である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
次の触媒調製例1〜4に従って、後記実施例および比較例で使用したグリセリン脱水用触媒を調製した。
【0034】
(触媒調製例1)
14gのNaOHと4.7gのNaAlO2を蒸留水150gに溶解し、更に、100.2gの40質量%水酸化テトラ-n-プロピルアンモニウム水溶液を蒸留水に添加した。そして、この溶液に蒸留水を加えて、全量が300mlの含浸液を調製した。300gの乾燥した球状SiO2(富士シリシア化学社製「キャリアクトQ−50」、粒径1.7〜3.7mm、平均細孔径50nm)に調製した含浸液を含浸させ、次に、100℃の湯浴上で蒸発乾固させた後、80℃、窒素気流下で5時間乾燥して、触媒前駆体を調製した。そして、280gの蒸留水を注水した容積10Lの耐圧容器の中空部に、網目状バスケットを使用して上記触媒前駆体を配置し、耐圧容器の上部開口部を蓋で閉じた後、触媒前駆体を180℃で8時間加熱して結晶化させた。この結晶化物を60℃の1mol/L硝酸アンモニウム水溶液5Lに1時間浸漬する作業を複数回繰り返した後、結晶化物を水洗し、次に空気流通下120℃で6時間乾燥した。そして、空気流通下500℃で3.5時間焼成してSi/Al比が100である球状のH−ZSM5を得た。これを破砕後、篩い分けて得られた0.7〜1.4mmのものをグリセリン脱水用触媒とした。
【0035】
(触媒調製例2)
触媒調製例1の焼成温度を550℃に変更すると共に、焼成後のH−ZSM5を破砕しなかったこと以外は触媒調製例1と同様にして、グリセリン脱水用触媒を調製した。
【0036】
(触媒調製例3)
市販の粉末状活性アルミナ(メルク社製「ALUMINIUMOXIDE90 ACTIVE ACIDIC(0.063-0.200MM)(ACTIVITY STAGE I)」、製造番号101078)空気雰囲気下、500℃、2時間の条件で焼成した。得られた焼成物には焼結性が無く、これを内径が3cm、高さが5mmである塩化ビニル製の筒に充填し、加圧して成形体を得た。この成形体を破砕し、これを0.7〜1.4mmの粉体に篩い分けてグリセリン脱水用触媒である活性アルミナを調製した。
【0037】
(触媒調製例4)
酸化ジルコニウム(サンゴバン株式会社製XZ16075)を破砕後に篩い分けて、0.7〜1.4mmの酸化ジルコニウム破砕物を調製した。また、メタタングステン酸アンモニウム濃厚水溶液(日本無機化学工業製)14gとイオン交換水35gとの混合液を調製した。この混合液を、磁性皿に入れた酸化ジルコニウム破砕物50gに滴下、良く混合し、次に、90℃で蒸発乾固させた後、空気を流通させている乾燥機内で120℃、8時間の条件で乾燥した。この後、空気雰囲気下、900℃、3時間の条件で焼成してグリセリン脱水用触媒であるWO3/ZrO2を調製した。
【0038】
次に、後記実施例1〜6の通り、上記触媒調製例1〜4で調製したグリセリン脱水用触媒を使用する第一グリセリン脱水工程でアクロレインを製造した後、触媒再生工程で第一グリセリン脱水工程後の触媒を再生し、次に、再生した触媒を使用する第二グリセリン脱水工程でアクロレインを製造した。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、触媒調製例1のH−ZSM5を使用した。実施例1における第一グリセリン脱水工程、触媒再生工程、および第二グリセリン脱水工程の詳細は、次の通りである。
【0040】
(第一グリセリン脱水工程)
15mlのH−ZSM5を反応管(内径10mm、長さ500mm)に充填して固定床反応器を準備し、この反応器を360℃の溶融塩浴に浸漬した。その後、反応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた後、反応ガス(グリセリン:27vol%、水:34vol%、窒素:39vol%)をSV値640hr−1で12時間流通させて、H−ZSM5との接触気相反応により、グリセリンの分子内脱水反応を生じさせた。なお、グリセリン脱水工程後の応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた後、反応器を溶融塩浴から取り出し室温まで冷却した。反応器が十分に冷却した後、反応器内のH−ZSM5を取り出して、目視確認したところ、H−ZSM5の表面は、炭素状物質の堆積により黒変していた。
【0041】
なお、上記反応ガスの流通の間、任意の時間が経過したときに、固定床反応器から流出するガス(反応生成ガス)を水中に吸収回収した。回収した反応生成ガス中のアクロレインおよびグリセリンの定量分析を、ガスクロマトグラフィー(検出器:FID)を用いた内部標準法により行った。
【0042】
(触媒再生工程)
上記第一グリセリン脱水工程後の触媒を再び反応器に戻し、これを360℃の溶融塩浴に浸漬し、この反応器内に窒素を62ml/min.の流量で30分間流通させた。その後、固定床反応器内に酸化剤である酸素を含有する空気を62ml/min.の流量で18時間流通させて炭素状物質を酸化分解除去し、H−ZSM5を再生した。なお、固定床反応器内の触媒層に挿入されている温度計は、H−ZSM5を再生するための空気流通の間に368℃のピーク温度を示した。なお、触媒再生工程後のH−ZSM5を目視確認したところ、その表面は残存する炭素状物質のため灰色であった。
【0043】
(第二グリセリン脱水工程)
上記第一グリセリン脱水工程と同様にしてグリセリンの分子内脱水反応を生じさせた。また、反応生成ガス中のアクロレインおよびグリセリンの定量分析も第一グリセリン脱水工程と同様にして行った。
【0044】
(実施例2)
(第一グリセリン脱水工程)
反応管へのH−ZSM5充填量を10mlとし、反応ガスのSV値を950hr−1とした。これら以外は実施例1と同様にした。なお、第一グリセリン脱水工程後のH−ZSM5を目視確認したところ、その表面は炭素状物質の堆積により黒変していた。
【0045】
(触媒再生工程)
第一グリセリン脱水工程を経た固定床反応器からH−ZSM5を取り出し、このH−ZSM5を磁製皿に薄く均一に広げ、焼成炉内に設置した。その後、焼成炉内に0.5L/min.の流量で空気を流通させると共に、600℃まで1時間で焼成炉内温度を昇温させた後、当該炉内温度を10分間保持することにより、炭素状物質を酸化分解除去してH−ZSM5を再生した。再生後に焼成炉内から取り出して急冷させたH−ZSM5の表面色は、白色であり、炭素状物質の残存を目視確認することができなかった。
【0046】
(第二グリセリン脱水工程)
本実施例2の第一グリセリン脱水工程と同様にして、グリセリンの脱水反応を実施した。
【0047】
(実施例3)
実施例3では、触媒調製例2のH−ZSM5を使用した。第一グリセリン脱水工程、触媒再生工程、および第二グリセリン脱水工程の詳細は、次の通りである。
(第一グリセリン脱水工程)
一方の端部に蒸発器として層長0.5mの不活性無機酸化物(サンゴバン株式会社製α−アルミナ、商品名「デンストン」)が充填されている反応管(内径28mm、長さ4.2m)に、触媒調製例2のH−ZSM5を層長2.9mで充填して固定床反応器とした。この反応器を360℃の溶融塩浴に浸漬し、当該反応器内に窒素を7.5L/min.の流量で1時間流通させた。その後、80質量%グリセリン水溶液と窒素ガスを固定床反応器内に蒸発器側から供給して、固定床反応器内に反応ガス(グリセリン:27vol%、水:34vol%、窒素:39vol%)をSV値640hr−1で12時間流通させることにより、グリセリンの分子内脱水反応を生じさせた。なお、実施例1と同様に、本実施例における第一グリセリン脱水工程においてもアクロレインおよびグリセリンの定量分析を行った。
【0048】
(触媒再生工程)
本実施例の第一グリセリン脱水工程を経た固定床反応器を380℃の溶融塩浴に1時間浸漬し、この間、窒素を7.5L/min.の流量で流通させた。次に、2L/min.の流量で酸化剤含有ガス(酸化剤:酸素2容量%、残部:窒素)を固定床反応器内に流通させた。この間、固定床反応器内の触媒層に挿入されている温度計により触媒層の温度を確認したところ、380℃からの小さな温度上昇が認められ、その温度上昇は酸化剤含有ガスの流出方向に向けて移動した。次に酸化剤濃度を高めたガス(酸化剤:酸素5容量%、残部:窒素)を2L/min.の流量で固定床反応器内に流通させた後、更に酸化剤濃度を高めたガス(酸化剤:酸素8容量%、残部:窒素)を、炭素状物質の酸化分解に伴う発熱が収まるまでの約32時間流通させた。酸素濃度が8容量%のガスを流通させたとき、触媒層のピーク温度は510℃であり、そのピーク温度位置は、ガスの流出方向に向けて移動した。
【0049】
(第二グリセリン脱水工程)
本実施例の第一グリセリン脱水工程と同様にして、グリセリンの分子内反応を実施した。
【0050】
(実施例4)
第一グリセリン脱水工程および第二グリセリン脱水工程は、実施例3と同様の工程とした。本実施例の触媒再生工程は、次の通りである。
【0051】
(触媒再生工程)
固定床反応器内に酸素濃度5容量%の酸化剤含有ガスを流通させるまでは、実施例3のグリセリン再生工程と同様に行った。その後、酸素濃度を更に高めたガス(酸化剤:酸素10容量%、残部:窒素)を、炭素状物質の酸化分解に伴う発熱が収まるまでの約24時間流通させた。酸素濃度が10容量%のガスを流通させたとき、触媒層のピーク温度は613℃であり、そのピーク温度位置は、ガスの流出方向に向けて移動した。なお、触媒層の一定位置において、触媒調製の際の焼成温度である550℃を超える温度を超えていた時間は、10〜20分の間であったことが確認されている。以上の操作により炭素状物質の酸化分解除去を行った。
【0052】
(実施例5)
触媒調製例3の活性アルミナを使用し、反応ガス流通時間を24時間とした以外は、実施例1の第一グリセリン脱水工程と同様の工程を本実施例の第一グリセリン脱水工程とした。また、実施例1の触媒再生工程と同様の工程を本実施例の触媒再生工程とした。そして、反応ガス流通時間を12時間とした以外は本実施例の第一グリセリン脱水工程と同様の工程を本実施例の第二グリセリン脱水工程とした。なお、上記本実施例の触媒再生工程における触媒のピーク温度は、372℃であった。
【0053】
(実施例6)
触媒調製例4のWO3/ZrO2を使用した以外は、実施例1の第一グリセリン脱水工程と同様の工程を本実施例の第一グリセリン脱水工程とした。また、実施例1の触媒再生工程と同様の工程を本実施例の触媒再生工程とした。そして、本実施例の第一グリセリン脱水工程と同様の工程を本実施例の第二グリセリン脱水工程とした。なお、上記本実施例の触媒再生工程における触媒のピーク温度は、367℃であった。
【0054】
比較例1を実施例1および2の比較として行った。この比較例1の詳細は、以下の通りである。
【0055】
(比較例1)
第一グリセリン脱水工程のみを比較例1とし、反応ガス流通時間を18時間とした以外は、実施例1の第一グリセリン脱水工程と同様の工程を本実施例の第一グリセリン脱水工程とした。
【0056】
以上の実施例1〜6および比較例1においてガスクロマトグラフィーで定量分析したアクロレインデータおよびグリセリンデータに基づくアクロレイン収率を表1に示す。また、同データに基づくグリセリンの転化率を表2に示す。
【0057】
なお、表1におけるアクロレイン収率は、(固定床反応器内から流出したアクロレインのモル数)/(固定床反応器内に流入させたグリセリンのモル数)×100、により算出した値である。また、表2におけるグリセリン転化率は、[(固定床反応器内に流入させたグリセリンのモル数)−(固定床反応器内から流出したグリセリンのモル数)]/(固定床反応器内に流入させたグリセリンのモル数)×100、により算出した値である。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1のアクロレイン収率および表2のグリセリン転化率を確認すると、再生処理後のアクロレイン収率等が回復していたことを確認することができる。なお、実施例5において、触媒再生後(25時間後)のアクロレイン収率が触媒再生前(24時間後)よりも低下した結果となっているが、1時間後と同程度の収率であることから、実施例5においても触媒が再生されていたといえる。
【0061】
また、実施例2の結果から、焼成温度以上の触媒雰囲気温度で再生されることにより、実施例1の1/18以下の再生時間であったにもかかわらず、アクロレイン収率およびグリセリン転化率が回復していたことを確認することができる。このように触媒雰囲気温度を当該触媒の焼成温度以上とすることで再生時間を短縮できることと同様、触媒再生における触媒の再生温度(再生時ピーク温度)を触媒焼成温度以上にすると、再生時間が短縮されることを実施例3と実施例4とを比較すれば分かる。
【0062】
上記実施例1における第一グリセリン脱水工程後のグリセリン脱水用触媒(試料1)、実施例1における触媒再生工程後のグリセリン脱水用触媒(試料2)、実施例2における触媒再生工程後のグリセリン脱水用触媒(試料3)について、示差熱−熱重量同時分析装置(株式会社島津製作所製「DTG−50H」)を使用して分析を行った。
【0063】
なお、示差熱−熱重量同時分析(DTA−TGA)における条件は、分析試料質量を約15mg、昇温条件を室温から700℃まで10℃/min.の速度で昇温、試料雰囲気を空気(試料加熱炉内に空気を50ml/min.流通)とした。
【0064】
表3に試料1〜3の再生条件等を示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に基づき試料1と試料2の分析結果を比較すると、未再生の試料1の質量変化率よりも再生された試料2の質量変化率の方が低い値を示しているので、試料2が、炭素状物質が除去されたグリセリン脱水用触媒であることを確認することができる。
【0067】
また、表3に基づき試料2と試料3の分析結果を比較すると、試料3の質量変化率は、試料2よりも短い触媒再生時間(試料2の約0.06倍)であることから、試料2よりも大きな値であると予想されるところである。しかし、この予想に反して、試料3の質量変化率は、試料2の質量変化率の0.08倍程度である。つまり、試料3には未除去の炭素状物が極めて少量であったことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】固定床反応器内において炭素状物質を触媒表面から酸化分解除去するときの触媒の温度変化を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脱水用触媒の表面における炭素状物質に酸化剤を接触させて前記炭素状物質を除去することを特徴とするグリセリン脱水用触媒の再生方法。
【請求項2】
前記酸化剤がガス状酸化剤である請求項1に記載のグリセリン脱水用触媒の再生方法。
【請求項3】
前記グリセリン脱水用触媒を該触媒調製における最終の加熱処理温度以上に加熱して、前記炭素状物質を除去する請求項2に記載のグリセリン脱水用触媒の再生方法。
【請求項4】
グリセリンとグリセリン脱水用触媒の気相接触反応によりグリセリンを脱水する第一グリセリン脱水工程と、請求項1〜3のいずれかに記載の再生方法により前記グリセリン脱水用触媒を再生する触媒再生工程と、グリセリンと前記触媒再生工程後のグリセリン脱水用触媒の気相接触反応によりグリセリンを脱水する第二グリセリン脱水工程とを有することを特徴とするグリセリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記グリセリン誘導体がアクロレインである請求項4に記載のグリセリン誘導体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のグリセリン誘導体の製造方法を使用する工程を有するアクロレイン誘導体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−110298(P2008−110298A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294418(P2006−294418)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】