説明

グリッパ

【課題】 小型化を図ることが可能なグリッパを提供すること。
【解決手段】 駆動源と、上記駆動源により発生される運動を被把持物を把持する為の開閉運動に変換する変換部材と、を具備し、上記変換部材は座屈部材と変位拡大部材とから構成されているものであり、それによって、変換部材が小型化できると共に大きな変位を出すのに適さない駆動源、例えば、ソレノイド等の使用が可能となり、それによって、グリッパの小型化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、産業用ロボットに搭載されてワーク等を選択的に把持するグリッパに係り、特に、その小型化を図ることができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、産業用ロボットを使いこなす上でワークを把持するグリッパは不可欠な装置である。この種のグリッパにはワークを確実に把持するための十分な把持力が要求されると共にその小型化が要求される。つまり、グリッパが小型・軽量であれば産業用ロボットはより高速・俊敏な動作が可能になるからである。
【0003】
そのため、従来のグリッパとしては小型化が非常に容易なエアーシリンダを用いたエアーグリッパが多く用いられていた。しかしながら、高圧エアーを用いるエアーシリンダ等は、コンプレッサによる高圧エアー製造及びそのエアー機器までの配管ロスにより電動機器の10倍の電気が必要であり、地球温暖化対策のCO削減に反することになってしまう。その為、先進企業では工場におけるエアー配管を撤去することが行われている。
【0004】
そして、グリッパにおいても従来のエアーグリッパに代わるものとして電動グリッパが商品化されてきている。ところが、それらの電動グリッパはその小型化が不十分であった。例えば、優れた電動グリッパとして、特許文献1に開示されているものがある。
【0005】
上記特許文献1に開示されている電動グリッパは、回転モータの回転力をカム及び逆V字部材を用いて直進方向に変換して把持力を発生させるものである。
【0006】
又、別の電動グリッパとして、特許文献2に開示されているものがある。
【0007】
上記特許文献2に開示されている電動グリッパは、回転モータの回転力をカム及びリニアガイドを用いて直進方向に変換して把持力を発生させるものである。
【0008】
さらに、別の電動グリッパとして、特許文献3に開示されているものがある。
【0009】
上記特許文献3に開示されている電動グリッパは、回転モータの回転力をウォームギヤとウォームホイールギヤ等を用いて直進方向に変換して把持力を発生させるものである。
尚、特許文献3は本件特許出願人によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3469249号公報
【特許文献2】特開2005−059118号公報
【特許文献3】特開2006−082141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の構成によると次のような問題があった。すなわち、上記特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示されている電動グリッパは、何れも従来のエアーグリッパに代わるものとして優れた特性を備えるものではあるが、その小型化が不十分であるという問題があった。
【0012】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、小型化を図ることが可能なグリッパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1によるグリッパは、 駆動源と、上記駆動源により発生される運動を被把持物を把持する為の開閉運動に変換する変換部材と、を具備し、上記変換部材は座屈部材と変位拡大部材とから構成されていることを特徴とするものである。
又、請求項2によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材と変位拡大部材とを一体化させて上記変換部材としたことを特徴とするものである。
又、請求項3によるグリッパは、請求項2記載のグリッパにおいて、上記変換部材は上記座屈部材と変位拡大部材の境界部が段付形状となっていることを特徴とするものである。
又、請求項4によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材は略楔形状又は略半円形状の溝によって支持されていることを特徴とするものである。
又、請求項5によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記変換部材は復帰ばね機能を持っていることを特徴とするものである。
又、請求項6によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材に与圧を作用させるようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項7によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記駆動源としてソレノイドを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように本願発明の請求項1によるグリッパによると、 駆動源と、上記駆動源により発生される運動を被把持物を把持する為の開閉運動に変換する変換部材と、を具備し、上記変換部材は座屈部材と変位拡大部材とから構成されているので、変換部材が小型化できると共に、大きな変位を出すのに適さない駆動源、例えば、ソレノイド等の使用が可能となり、それによって、グリッパの小型化を図ることができる。
又、請求項2によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材と変位拡大部材とを一体化させて上記変換部材とした構成になっているので、部品点数を減少させて構成の簡略化を図ることができる。
又、請求項3によるグリッパは、請求項2記載のグリッパにおいて、上記変換部材は上記座屈部材と変位拡大部材の境界部が段付形状となっているので、座屈部材と変位拡大部材とを一体化させても座屈部材の支持が容易にできる。
又、請求項4によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材は略楔形状又は略半円形状の溝によって支持されているので、座屈部材が座屈する際、その端部は滑ることなく円滑に回転することができ、それによって、変位拡部材側の動作も円滑なものとなる。
又、請求項5によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記変換部材は復帰ばね機能を持っているので、別途、復帰のための部材を設置する必要はなく、構成の簡略化と部品点数の減少を図ることができる。
又、請求項6によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記座屈部材に与圧を作用させるようにしたので、座屈の方向を明確にすることができ、より安定した動作を提供することができる。
又、請求項7によるグリッパは、請求項1記載のグリッパにおいて、上記駆動源としてソレノイドを用いるようにしているので、グリッパの小型化を効果的に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、図1(a)はグリッパの構成を示す平面図、図1(b)は図1(a)のb−b断面図、図1(c)は図1(a)のc−c断面図、図1(d)はグリッパの構成要素である支持板と段付弾性板との関係を支持板の下面側からみて示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す図で、図2(a)は変換部材の構成を示す正面図、図2(b)は変換部材の作用を示す側面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示す図で、ソレノイド駆動コイルとソレノイド駆動装置用電源装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を示す図で、直流24Vから直流5Vへの切替時における電圧過渡変動を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態を示す図で、直流24Vから直流5Vへの切替時における電圧過渡変動を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態を示す図で、ばね反力とギャップ量の関係を示す特性図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態を示す図で、図7(a)はグリッパの構成を示す平面図、図7(b)は図7(a)のb−b断面図、図7(c)は図7(a)のc−c断面図、図7(d)はグリッパの構成要素である支持板と段付弾性板との関係を支持板の下面側からみて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1乃至図6を参照して本発明の第1の実施の形態を説明する。まず、ソレノイドハウジング1があり、このソレノイドハウジング1は略中空円筒形状をなしていて、底板1aと、天板1bと、側壁1cとから構成されている。このソレノイドハウジング1内には、駆動源としてのソレノイド3が収容・配置されている。上記ソレノイド3は、コイル5と、このコイル5の内周側に配置された可動部7とから構成されている。上記可動部7の先端部{図1(b)中下端}はテーパ部7aとなっていて、先細の形状になっている。又、上記可動部7のテーパ部7aに対向する上記ソレノイドハウジング1側には着座部9が設置されている。この着座部9にもテーパ部9aが形成されている。上記可動部7のテーパ部7aと受け部9のテーパ部9aとの間にはギャップ11が形成されている。
【0017】
上記可動部7は軸形状をなしていて、上記ソレノイドハウジング1の天板1bの中心に設けられた開口部1dを介して天板1cの上方に突出・配置されている。上記可動部7の上端部には支持板13が設置されている。上記支持板13は、図1(a)に示すように、円板形状をなしている。上記支持板13の左右両側部には一対の窓19、19が夫々形成されており、それを貫通して変位拡大部材27が支持板13上方へ伸びている。図1(a)にて窓19、19の上下部で支持板13の裏面部には半円形状の支持溝17、17が形成されている。この支持溝17、17には後述する段付弾性板21の段付部23が支持されている。
【0018】
上記支持板13とソレノイドハウジング1との間には変換部材としての段付弾性板21、21が設置されている。この段付弾性板21は、薄板の弾性材料、例えば、ステンレス鋼板やりん青銅板等から構成されていて、図2(a)に示すように、段付形状に打ち抜かれて形成されている。すなわち、図2(a)に示すように、上記段付弾性板21は一枚の薄板であって段付形状をなしている。そして、段付部23を境にして、図2(a)中下部が座屈部材25であり、上部が変位拡大部材27となっている。このように、座屈部材25と変位拡大部材27とを一体化させて一枚の板材から構成することにより、構成の簡略化と部品点数の減少を図るようにしている。
尚、ここで用いている座屈部材25は、荷重がある値に達すると撓み始めて変形容易な変形モード(撓み変形)に変わる分岐型の座屈現象を呈する部材である。
【0019】
又、既に説明したソレノイドハウジング1の天板1bには、上記支持板13裏面に形成されている支持溝17、17に対応する箇所に一対の半円形状の支持溝31、31が形成されている。そして、上記段付弾性板21、21は、その変位拡大部材25を、上記支持板13の窓19、19を通して上方に突出・配置させ、段付部23を支持板13の下面に設けられた支持溝17、17に当接させると共に、座屈部材23の下端を、ソレノイドハウジング1側の一対の支持溝31、31内に挿入させた状態で設置されている。
【0020】
又、上記ソレノイドハウジング1の天板1bの所定位置にはストッパー用シャフト41が取り付けられている。このストッパー用シャフト41の上端は、上記支持板13に形成された貫通孔43を貫通・配置されていて、その上端の溝にはストッパーリング45が取り付けられている。
【0021】
そして、図1(b)中実線で示すように、ソレノイド3が非励磁状態にあるときには、可動部7及び支持板13は、段付弾性板21、21自身のバネ力によって、図1(b)中上方に付勢されている。但し、その付勢量は上記ストッパーシャフト41に係合されているストッパーリング45によって一定量に規制されている。又、ソレノイド3が励磁された場合には、可動部7及び支持板13が段付弾性板21、21自身のバネ力に抗して、図1(b)中下方に付勢される。それによって、段付弾性板21、21の座屈部材25、25が座屈し、その結果、段付弾性板21、21の変位拡大部材27、27が相互に接近する方向に変位する。それによって、図示しないワークを把持するものである{図1(b)中仮想線で示すように} 。
【0022】
又、図1(b)に示すように、ソレノイド3に電流の流れていない初期状態において、一対の段付弾性板21、21に対しては、支持板13により僅かに与圧が掛けられている。この与圧によって段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25は、図1(b)において、外側に僅かに反らされている。この僅かな反りにより座屈方向を決めることができるものである。この場合、ソレノイド3に電流を流し支持板13によりさらに段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25をさらに圧縮すると、さらに大きな外側への反りが生じることになる。図1(b)では仮想線によりこの状態を示している。
【0023】
この与圧の設定は、図1(b)に示されているように、ソレノイドハウジング1の上部に取り付けられているストッパー用シャフト41の上部に取り付けられているストッパーリング45により、支持板13の図1(b)中上方向への移動を制限していることにより実現されている。すなわち、ソレノイドハウジング1の支持溝31と支持板13の支持溝17との間の距離が段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25の長さより短いことにより与圧が掛かる構成になっている。
尚、反りの方向を決める方法としては、上記した方法以外に、例えば、上下の支持溝17、31の左右方向位置を僅かにずらし、それによって、段付弾性板21の下部の座屈部材25を傾ける方法が考えられる。
【0024】
次に、上記ソレノイド(ソレノイドハウジング1、可動部7、コイル5を主構成とするソレノイド)3を駆動するための電源装置51の構成に関して図3を参照して説明する。上記電源装置51は、図3に示すように、24VDC電源53、5VDC電源55、リレー57、タイマー59、キャパシタ(蓄電器)61から構成されている。上記24VDC電源53については、例えば、図示しないリニアアクチュエータ用の電源から引き回す場合には別途用意する必要はない。又、上記5VDC電源55については、小型でコンパクトなDC/DCコンバータにより作り出している。本実施の形態の場合には、過励磁倍率は、下記の式(I)に示すように、4.8倍である。
24V÷5V=4.8―――(I)
【0025】
そして、励磁コイル5の駆動初期時においては高い電圧(過励磁、この実施の形態の場合には24V)によって勢いよく可動部7を吸引する。これに対して、可動部7が着座部9の近くに来たときには低い電圧(通常励磁、この実施の形態の場合には5V)に切り替えて発熱を抑制するように構成されている。その為、この過励磁電源を用いることによりソレノイド3をより小型化させることができる。
【0026】

上記過励磁と通常励磁の切替は上記リレー57とタイマー59によって行われる。つまり、タイマー59によって過励磁を行う時間を予め設定しておき、その設定時間が経過した時点で上記リレー57を動作させてその接点57aを切り替えるものであり、それによって、過励磁から通常励磁に切り替えるものである。
尚、本実施の形態では上記リレー57として有接点(接点57a)のリレーを使用しているが、それ以外にも無接点のFETリレー等の使用が考えられる。
【0027】
本実施の形態のような有接点のリレー57であっても無接点のFETリレーであってもその切替は高速である。しかしながら、切替時に24Vから5Vへ円滑に移行せず、5V以下に励磁電圧が下がってしまうことが懸念される。その様子を図4を参照して説明する。図4は横軸に時間(ms)をとり縦軸に電圧(V)をとり、過励磁から通常励磁へ切り替える場合の電圧の変化(24Vから5Vへリレー切替時の電圧過渡変動)を示す図である。図4に示すように、切替時に24Vから5Vへ円滑に移行せず、5V以下に励磁電圧が下がってしまっていることがわかる。このような現象が生じた場合には、吸引された可動部7が戻ってしまうことになる。
【0028】
そこで、本実施の形態では、励磁コイル5にキャパシタ(蓄電器)61を並列に接続している。それによって、回路の時定数を上げて24Vから5Vへ円滑に移行させるようにしているものである。その時の電圧変化を図5に示す。図5も横軸に時間(ms)をとり縦軸に電圧(V)をとり、過励磁から通常励磁へ切り替える場合の電圧の変化(24Vから5Vへリレー切替時の電圧過渡変動)を示す図である。図5に示すように、切替時に24Vから5Vへ円滑に移行していて、励磁電圧が5V以下に下がってしまうようなことがないことがわかる。
【0029】
本実施の形態の場合には、既に説明したように、復帰ばね機能を持つ変換部材として段付弾性板21、21を用いることにより、変換部材と別に復帰用のばね部品を別途要することのない構成にしているので、グリッパの小型化を可能な構成になっている。又、段付弾性板21、21は略線形のばね特性を示すものであり、すなわち、変形量が大きければ大きい程その復元力(ばね力)が大きくなるように構成されているので、元の形状にスムーズに戻ることができるものである。
【0030】
又、段付弾性板21、21が変形することにより、駆動源であるソレノイド3についてもこれを高効率で用いることができるものである。それを図6を参照して説明する。図6は横軸にギャップ11の量(mm)をとり、縦軸にソレノイド3の吸引力と段付弾性板21のばね反力をとって、両者の関係を示した図である。図6中線図aがソレノイド3の吸引力を示していて、線図bが段付弾性板21のばね反力を示している。
【0031】
図6に示すように、ソレノイド3の駆動力(吸引力)は一定ではなく、ギャップ11が狭くなればなる程急激に増大する。又、略線形のばね特性を備えた段付弾性板21のばね反力もソレノイド3と同様にギャップ11が小さくなると(変形量が大きくなると)大きくなる。したがって、図6に示すように、段付弾性板21の変形が小さい時にはばね反力も小さく、変形に必要とされる駆動力(ソレノイド3の吸引力)も小さくて済む。一方、段付弾性板21の変形が大きくなると、変形に必要とされる駆動力(ソレノイド3吸引力)としても大きなものが必要となる。つまり、略線形のばね特性を備えた段付弾性板21を用いることによりソレノイド3の吸引力をより有効に用いることができ、ソレノイド3の消費電力の低減を図ることができ、且つ、小型化が実現可能となる。
【0032】
又、変換部材として板状の段付弾性板21を用いることで、図1(b)中左右方向の剛性は低く、図1(b)中紙面に直交する方向には高い剛性となっている。それによって、図1(b)中左右方向にのみに変形するよう規制することができ、いわゆる弾性案内を構成することができる。そのため従来必要であったリニアガイドを省くことができている。
【0033】
以上の構成を基にその作用を説明する。まず、図1(b)において、ソレノイド3のコイル5に通電すると、可動部7は一対の段付弾性部材21、21の弾性復帰力に抗して、図1(b)中下方に移動する。それによって、一対の段付弾性板21、21の座屈部材25、25が圧縮されると、座屈部材25、25は図1(b)中外側に凸の状態で反ることになる。図1(b)の仮想線はその反った状態を示している。又、一対の段付弾性板21、21の座屈部材25、25が僅かに圧縮されて反ると、その端部、すなわち、変位拡大部材27、27は回転することになる。その様子を示したのが、図1(b)の仮想線である。
【0034】
上記変位拡大部材27の回転を図2(b)を参照して詳細に説明する。図2(b)に示すように、変位拡大部材27の下端b部が角度θだけ回転すると、この時変位拡大部材27の上端a部は図2(b)中左右方向に大きな変位δを生じることになる。その変位δと回転角θとの関係は次の式(II)で示される。
δ = L×sinθ―――(II)
但し、
δ: 段付弾性板上部端の変位
L: 段付弾性板上部の長さ
θ: 段付弾性板下部の圧縮座屈時の下部端の回転角
【0035】
すなわち、一対の段付弾性板21、21は、下部の座屈部材25、25の圧縮座屈によって、上部の変位拡大部材27、27の下端の回転(θ)を生じさせ、変位拡大部材27、27の上部はその回転に基づいてさらに大きな変位(δ)を生じさせるものである。そして、上記一対の段付弾性板21、21の上部の変位拡大部材27、27の先端が相互に接近する方向に移動することにより、図示しないワークが把持されることになる。
【0036】
逆に、ソレノイド3への電流を遮断することにより、一対の段付弾性板21、21の下部、すなわち、座屈部材25、25はそのバネ復元力により圧縮されている状態から伸びることになる。それによって、支持板13を押上げて初期状態の略真直ぐな状態へ復帰する。これは図1(a)において実線で示されている初期状態である。この時、この一対の段付弾性板21、21の上部の変位拡大部材27、27の間にワークがあれば把持が解放されることになる。
【0037】
以上本実施の形態によると次のような効果を奏することができる。
まず、変換部材として、座屈部材25と変位拡大部材27を一体化させた段付弾性板21を使用するようにしているので、大きな変位を出すのに適さない駆動源であるソレノイド3の使用が可能となり、それによって、グリッパの小型化を図ることができる。
又、上記したように座屈部材25と変位拡大部材27を一体化させた段付弾性板21を使用するようにしているので、部品点数の削減と構成簡略化を図ることができる。
又、この実施の形態に示されているように、復帰ばね機能を持つ段付弾性板21、21を用いることにより、大きな変位を生じさせるための回転を起こさせるだけでなく、段付弾性板21、21とは別に復帰用のばね部品を設けることを不要とすることができ、グリッパの小型化の実現を可能にしている。
又、この実施の形態においては、一対の段付弾性板21、21に対して与圧を掛けるようにしている。それによって、座屈時における最初の変形モード(圧縮変形)は既にパスされているので、速やかに撓み変形モードに移行することになる。
又、座屈部材25、25は与圧下では略線形のばね特性を示すこととなり、変形量が大きければ大きい程その復元力(ばね力)が大きくなり、その結果、ソレノイド3の励磁を解除した場合にも、スムーズに元の形状に戻ることができる。
又、略線形のばね特性を提供することができるので、駆動源であるソレノイド3も高効率で用いることができる。すなわち、前述したように、ソレノイド3の駆動力(吸引力)は一定ではなく、ギャップ11が狭くなればなる程急激に増大する。一方、略線形のばね特性もソレノイド3と同様にギャップ11が小さくなると(圧縮量が大きくなると)ばね反力は大きくなる。したがって、図6に示すように、ばねの変形の小さい時にはばね反力も小さく、変形に必要とする駆動力(ソレノイド3の吸引力)も小さくて良い。一方、ばねの変形が大きくなると、変形に必要とする駆動力(ソレノイド3の吸引力)も大きなものが必要になる。そして、図6に示すように、略線形のばね特性を持つ段付弾性板21、21を用いることにより、ソレノイド3の吸引力をより有効に用いることができ、ソレノイド3の消費電力低減及び小型化が実現可能となる。
又、一対の段付弾性板21、21を支持する溝として、略半円形状の支持溝17、31がソレノイドハウジング1上部と支持板13の下部に設けられているので、段付弾性板21、21の座屈部材25、25は圧縮によりその端部が図1(b)中左右方向に滑らず滑らかに回転することになる。
尚、これら支持溝17、31としては、略半円形状のものに限定されるものではなく、例えば、略楔形状のものであっても同様の効果を奏する。
又、段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25の下端の回転に伴い、一体となっている段付弾性板の上部の変位拡大部材27、27も大きく回転することになるが、その際、変位拡大部材27、27の上部が支持板13と干渉しないように、支持板13には窓19、19が開けられている。この窓19、19の幅(図1(a)中上下方向の窓幅)は段付弾性板21、21の上部の変位拡大部材27、27の幅よりは僅かに大きくなっているので、変位拡大部材27、27の回転が損なわれることはない。
又、一対の段付弾性板21、21は、図1(b)中紙面面内方向には剛性は低く、図1(b)中紙面に直角方向には剛性が高くなっているので、紙面面内方向のみに変形するよう規制されており、いわゆる弾性案内を構成している。そのため従来必要であったガイドも省くことができている。
【0038】
尚、この実施の形態では把持機能のある段付弾性板21を2個用いているが、ワークにより、1個又は3個以上を用いる場合もある。
このように、この第1の実施の形態では、ギヤやカム等の複雑な機構を用いていないので小型化が容易であるばかりでなく、ギヤやカム等の摩擦も無く、摩擦ロスによる機械効率低下も少なく、小型化が実現できるばかりでなく、復帰ばね機能や変位拡大機能等を持つ段付弾性板や駆動源としてソレノイドを用いることにより、さらに小型化と低消費電力化も実現可能である。
【0039】
次に、図7を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。前記第1の実施の形態の場合には、一対の段付弾性板21、21を与圧によって外側に僅かに反らせていたが、この第2の実施の形態の場合には、その逆に、内側に反らすようにしたものである。
その他の構成は前記第1の実施の形態の場合と同様であり、図中同一部分には同一符号を付して示しその説明は省略する。
【0040】
小型で剛性の低いものであれば、初期の与圧状態での反り方向の反転は指などで押すことにより容易に実施できる。すなわち、全く同じ部材、構成にて段付弾性板21、21の開閉方向をどちらにも設定できるものであり、開閉方向により2種類のグリッパを準備する必要はない。
因みに、この実施の形態の場合には、図7(b)に示されているように、ソレノイド3に電流を流すことにより、ソレノイド3の可動部7はソレノイド3のギャップ11を狭くする方向、すなわち、図7(b)中下向きに動く。それによって、可動部7に接合されている支持板13も下向きに動くことになり、段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25は圧縮される。座屈部材25、25が圧縮されることにより、段付弾性板21、21は、図7(b)にて内側へ反ることになり、段付弾性板21、21の下部の座屈部材25、25の端部は回転し、段付弾性21、21の上部の変位拡大部材27、27も回転することになり、大きな図中左右方向の変位が生じ、2つの段付弾性板21、21の上部の間隔が広くなる。この2つの段付弾性板21、21上部の間にワークがあれば把持が解放されることになる。ソレノイド3の電流を流すことを止めれば、段付弾性板21、21の下部は、そのバネ復元力により圧縮されている状態から伸び、支持板13を押上げ、初期状態のほぼ真直ぐな状態へ復帰する。これは図7(b)にて実線で示されている初期状態である。この時、この2つの段付弾性板21、21上部の間にワークがあれば把持されることになる。
【0041】
したがって、前記第1の実施の形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0042】
尚、本願発明は前記第1、第2の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、前記第1、第2の実施の形態では、変換部材として段付弾性板を例に挙げて説明しているが、その形状としては様々なものが想定される。
又、前記第1、第2の実施の形態では、ソレノイド可動部先端及びそれに対応するハウジング着座部にテーパを形成しているが、テーパを形成せず平坦にしても、ギャップ量を大きくとることはできないが、実施が可能であることはいうまでもない。
又、前記第1、第2の実施の形態の場合には、一対の変換部材を使用した例を説明したが、のワーク形状により3つあるいは4つ以上用いることにより把持をより安定にできる場合もある。
又、駆動源としては、ソレノイドの実施の例を挙げているが、これはあくまで一例であり、他の駆動方式を除外するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えば、産業用ロボットに用いるワーク等の把持装置であるグリッパに係り、特に、その小型化を図ることができるように工夫したものに関し、例えば、狭隘な空間に設置された産業用ロボットに好適である。
【符号の説明】
【0044】
1 ソレノイドハウジング
3 ソレノイド
5 コイル
7 可動部
13 支持板
21 段付弾性板(変換部材)
23 段付部
25 座屈部材
27 変位拡大部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、上記駆動源により発生される運動を被把持物を把持する為の開閉運動に変換する変換部材と、を具備し、
上記変換部材は座屈部材と変位拡大部材とから構成されていることを特徴とするグリッパ。
【請求項2】
請求項1記載のグリッパにおいて、
上記座屈部材と変位拡大部材とを一体化させて上記変換部材としたことを特徴とするグリッパ。
【請求項3】
請求項2記載のグリッパにおいて、
上記変換部材は上記座屈部材と変位拡大部材の境界部が段付形状となっていることを特徴とするグリッパ。
【請求項4】
請求項1記載のグリッパにおいて、
上記座屈部材は略楔形状又は略半円形状の溝によって支持されていることを特徴とするグリッパ。
【請求項5】
請求項1記載のグリッパにおいて、
上記座屈部材は復帰ばね機能を持っていることを特徴とするグリッパ。
【請求項6】
請求項1記載のグリッパにおいて、
上記座屈部材に与圧を作用させるようにしたことを特徴とするグリッパ。
【請求項7】
請求項1記載のグリッパにおいて、
上記駆動源としてソレノイドを用いることを特徴とするグリッパ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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