説明

グリース挙動観察方法及び転がり軸受

【課題】グリースの挙動を適切に観測することが可能なグリース挙動観察方法及び転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受1に封入したグリース8の挙動を観察するグリース挙動観察方法であって、前記転がり軸受1の少なくとも一部に、光透過性を有する光透過部2,6,7を形成する工程と、前記転がり軸受1に、トレーサ9が混合された光透過性を有するグリース8を封入する工程と、前記光透過部2を介して、前記グリース8に光を照射する光照射工程と、前記光透過部6を介して、前記光を照射したグリース8を撮像する工程と、前記グリース8を撮像した画像データに基づいて、前記トレーサ9の移動状態を検出する工程とを有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を観察するグリース挙動観察方法及びその方法に用いる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を観察する方法として、例えば、特許文献1に係るグリース挙動観察方法が知られている。このグリース挙動観察方法では、転がり軸受に封入されたグリースの一部に、少なくともグリースの基油に溶解するトレーサを含むトレーサグリースを混入させる。そして、所定の回転時間経過毎に、軸受内の任意に設定した箇所のグリースを採取して、該グリース中のトレーサ濃度を原子吸光分析で測定することによってグリースの挙動を観察する。
【0003】
また、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を観察する他の方法として、例えば、特許文献2に係る潤滑油挙動観察方法が知られている。この潤滑油挙動観察方法では、ハウジングの一部に透明部を形成する。また、ハウジングと回転軸との間に充填した潤滑油中に蛍光粒を混入させる。さらに、ハウジングの透明部を通して、潤滑油に対して紫外線を照射して、潤滑油中の蛍光粒を発光させる。そして、ハウジングの透明部を通して、潤滑油中で発光している蛍光粒を観察する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−257359号公報
【特許文献2】特開平9−145536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を適切に観察することができない場合がある。
例えば、上記特許文献1に係るグリース挙動観察方法は、グリースの移動量を定量的に分析することはできるが、逐次軸受の回転を停止して分析するので、グリースの経時的な挙動を観測することが困難である。
また、上記特許文献2に係る潤滑油挙動観察方法は、潤滑油の挙動観察には適しているが、不透明かつ不均質な流体であるグリースの挙動観察に適用することは困難である。
本発明は、グリースの挙動を適切に観測することが可能なグリース挙動観察方法及び転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係るグリースの挙動観察方法は、転がり軸受に封入したグリースの挙動を観察するグリース挙動観察方法であって、前記転がり軸受の少なくとも一部に、光透過性を有する光透過部を形成する工程と、前記転がり軸受に、トレーサが混合された光透過性を有するグリースを封入する工程と、前記光透過部を介して、前記グリースに光を照射する光照射工程と、前記光透過部を介して、前記光を照射したグリースを撮像する工程と、前記グリースを撮像した画像データに基づいて、前記トレーサの移動状態を検出する工程とを有することを特徴としている。
【0007】
請求項1に係るグリースの挙動観察方法では、転がり軸受の少なくとも一部に光透過性を有する光透過部が形成される。これにより、転がり軸受に封入したグリースに対して光を照射することが可能となる。また、転がり軸受に封入されたグリースが光透過性を有している。これにより、グリースにおける光の乱反射を抑制でき、トレーサの移動状態を適切に検出することができる。したがって、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を適切に観察することが可能となる。
また、請求項2に係るグリース挙動観察方法は、請求項1に係る発明において、前記撮像工程において、前記光を照射したグリースを互いに異なる二以上の方向から撮像することを特徴としている。
【0008】
請求項2に係るグリースの挙動観察方法では、光を照射したグリースを互いに異なる二以上の方向から撮像することによって、トレーサの移動状態を三次元的に検出することが可能となる。
さらに、請求項3に係るグリース挙動観察方法は、請求項又は2に係る発明において、前記光照射工程において、前記グリースにシート状の光を照射することを特徴としている。
請求項3に係るグリースの挙動観察方法では、グリースにシート状の光を照射することによって、トレーサの移動状態をより適切に検出することが可能となる。
【0009】
また、請求項4に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配設された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪との間を密封するシール部と、該シール部により密封された前記内輪と前記外輪との間に封入されたグリースとを備え、前記グリースの挙動を観察するための転がり軸受であって、前記外輪及び前記シール部のうち少なくとも一方に、光透過性を有する光透過部が設けられ、前記グリースは、トレーサが混入された光透過性を有するグリースであることを特徴としている。
【0010】
請求項4に係る転がり軸受では、少なくとも一部に光透過性を有する光透過部が形成されている。これにより、転がり軸受に封入したグリースに対して光を照射することが可能となる。また、転がり軸受に封入されたグリースが光透過性を有している。これにより、グリースにおける光の乱反射を抑制でき、トレーサの移動状態を適切に検出することができる。したがって、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を適切に観察することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転がり軸受に封入されたグリースの挙動を適切に観察することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受の斜視図である。
【図2】図1に示す転がり軸受の軸方向断面図である。
【図3】転がり軸受観察装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係るグリース挙動観察方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の実施形態に係る転がり軸受1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受の斜視図である。図2は、図1に示す転がり軸受の軸方向断面図である。
転がり軸受1は、図1及び図2に示すように、外輪2と、内輪3と、外輪2及び内輪3の間に配置された複数の転動体4と、複数の転動体4を保持する保持器5とを備えている。
【0014】
外輪2の内周面には、外輪軌道面2aが形成されている。
内輪3の外周面には、内輪軌道面3aが形成されている。
複数の転動体4は、外輪2の外輪軌道面2aと内輪3の内輪軌道面3aとの間に転動自在に配置されている。
保持器5は、複数の転動体4を転動自在に保持している。
外輪2と内輪3との間の軸方向両側には、夫々円環状のシール部6,7が設けられている。
外輪軌道面2a、内輪軌道面3a及びシール部6,7で囲まれている空間には、グリース8が封入されている。
【0015】
ここで、転がり軸受1の少なくとも一部には、光透過性を有する光透過部が形成されている。具体的には、外輪2及びシール部6,7のうち少なくとも一方に光透過部が形成されている。ここで、光透過部は、外輪2及びシール部6,7において、全体に形成されていても、一部に形成されていても構わない。本実施の形態では、外輪2の全体及びシール部6,7の全体が光透過部となっている。
【0016】
光透過部は、光透過性を有する材料、好ましくは透明な材料により形成されている。本実施の形態では、光透過部は、透明アクリルにより形成されている。しかしながら、光透過部は、光透過性を有する材料であれば、他のガラス類又は合成樹脂で形成しても構わない。ここで、光透過部を形成するガラス類としては、例えば、パイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス等を用いることができる。そして、光透過部を形成する合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、NaClやKBr等の無機塩結晶、塩化ビニール、ポリエスチレン、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0017】
そして、光透過部は、透明なガラス類又は合成樹脂を切削し、切削した表面に研削、超仕上げ及び研磨等をすることによって形成されている。
グリース8は、光透過性を有している。本実施の形態では、グリース8として透明グリースを用いている。グリース8は、例えば、ソルビトール系のゲル化剤であるジベンジリデンソルビトールやアミノ酸系等の増ちょう剤と、例えばPAO、エーテル及びエステル等の合成油とを混合することによって形成されている。また、グリース8には、トレーサ9が混入されている。
トレーサ9は、グリース8とほぼ同じ比重を有している。これにより、トレーサ9は、グリース8に対して等しい速度で追従して運動する。また、トレーサ9は、所定波長の光に対して発光、蛍光、燐光又は吸光する性質を有する。具体的には、トレーサ9としては、ナイロン粒子、蛍光粒子、有機EL物質等を用いることができる。
【0018】
次に、本発明の実施形態に係るグリース挙動観察方法を実施するための転がり軸受観察装置10の構成について説明する。
図3は、転がり軸受の観察を行う転がり軸受観察装置の概略構成を示すブロック図である。
転がり軸受観察装置10は、図3に示すように、載置回転台11と、光源装置12と、撮像装置13と、データ保存部14と、画像解析処理部15と、画像表示装置16とを備えている。
載置回転台11は、転がり軸受1を載置することが可能に構成されている。そして、載置回転台11は、載置した転がり軸受1を所定回転速度で軸回りに駆動させる。
【0019】
光源装置12は、載置回転台11に載置された転がり軸受1に対して光を照射する。具体的には、光源装置12は、転がり軸受1の光透過部を介してグリース8に対して所定波長の光を照射するように配置されている。光源装置12としては、近赤外領域のレーザ、YAGレーザ等を用いることができる。ここで、光源装置12は、転がり軸受1のグリース8に対してシート状の光を照射する。そして、シート状の光の厚さは、例えば、保持器5及びシール部6間の距離と略等しく設定されている。
ここで、本実施の形態では、トレーサ9としてナイロン粒子を用いるとともに、光源装置12として近赤外領域のレーザを用いている。しかしながら、トレーサ9及び光源装置12は、トレーサ9と光源装置12との相性、転がり軸受1の透明部を形成する材料との相性、トレーサ9の視認性、トレーサ9のグリース8に対する追従性、観察面の幾何学的な構造等に基づいて、適宜選択することが可能である。
【0020】
撮像装置13は、載置回転台11に載置された転がり軸受1を撮像する。具体的には、撮像装置13は、転がり軸受1の光透過部を介して、光源装置12により光が照射されたグリース8を撮像する。これにより、グリース8に混入されたトレーサ9が撮像される。撮像装置13は、シール部6の上方から光源装置12の光の照射方向に対して直交する位置に配置されている。ここで、撮像装置13としては、例えば、CCDカメラ、ビデオカメラ、高速度カメラ等を用いる。
【0021】
データ保存部14は、撮像装置13が撮像した画像データを保存する。
画像解析処理部15は、データ保存部14に保存された画像データを画像解析処理することによって画像処理データを作成する。具体的には、画像解析処理部15は、データ保存部14に保存された画像データについて、PIV法(粒子画像流速測定法)による画像処理を行う。PIV法とは、水や空気等の流体の速度計測法の一種であって、流体と等しい速度で運動する微粒子を流体に混入し、混入した微粒子の速度を画像計測の手法で測定することにより、流体の速度の分布を求めるものである。
画像表示装置16は、画像解析処理部15が作成した画像処理データを表示する。
【0022】
次に、本発明の実施形態に係るグリース挙動観察方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るグリース挙動観察方法の手順を示すフローチャートである。
本実施形態に係るグリース挙動観察方法では、図4に示すように、先ず、ステップS1において、上述した転がり軸受1を形成する。
すなわち、転がり軸受1の外輪2及びシール部6の少なくとも一方に光透過部を形成する。本実施の形態では、外輪2の全体及びシール部6の全体を光透過とする。
【0023】
また、光透過性を有するグリース8に、所定波長の光に対して発光、蛍光、燐光又は吸光するトレーサ9を混入する。また、外輪2、内輪3、複数の転動体4及び保持器5を組合せ、外輪2と内輪3との間の軸方向一方にシール部7を配置する。そして、外輪軌道面2a、内輪軌道面3a及びシール部7で囲まれた空間にトレーサ9が混入されたグリース8を充填する。そして、外輪2と内輪3との間の軸方向他方にシール部6を配置し、転がり軸受1内にトレーサ9が混入されたグリース8を封入する。
次いで、ステップS2において、載置回転台11に転がり軸受1を載置する。すなわち、転がり軸受1をシール部6が上方となるように載置する。このとき、内輪3に対して外輪2を回転自在とする。
【0024】
次いで、ステップS3において、光源装置12によって、載置回転台11に載置されている転がり軸受1に対して所定波長のシート状の光を照射する。具体的には、光源装置12によって、転がり軸受1の光透過部としての外輪2に対して所定波長のシート状の光を照射する。これにより、所定波長のシート状の光が、光透過部としての外輪2を介して転がり軸受1に封入されたグリース8に対して照射される。
ここで、グリース8は、光透過性を有している。したがって、グリース8に対して照射された所定波長のシート状の光が、グリース8において乱反射することを抑制することができる。これにより、グリース8に対して照射された所定波長のシート状の光をグリース8に混入されているトレーサ9に適切に照射することが可能となる。
【0025】
次いで、ステップS4において、撮像装置13により載置回転台11に載置されている転がり軸受1を撮像する。具体的には、撮像装置13により、転がり軸受1の光透過部としてのシール部6を介して、光源装置12により光が照射されたグリース8を撮像する。これにより、光源装置12により光が照射されたトレーサ9が撮像される。この際、グリース8が光透過性を有していることにより、グリース8に混入されたトレーサ9を適切に撮像することが可能となる。
そして、撮像装置13により撮像した画像データをデータ保存部14に保存する。
さらに、光を照射したグリース8を撮像装置13で撮像している状態で、載置回転台11の回転によって転がり軸受1の外輪2を所定回転速度で軸方向回りに回転させる。
【0026】
次いで、ステップS5において、グリースを撮像した画像データに基づいてトレーサ9の移動状態を検出する。
すなわち、画像解析処理部15によって、データ保存部14に保存された画像データについて、PIV法による画像処理を行う。そして、画像解析処理部15により画像処理が行われた画像データに基づいて、転がり軸受1内でのトレーサ9の移動状態を検出する。
具体的には、撮像された時間的に微小時間異なる二つの時刻の画像データを輝度パターンの分布とみなして画像比較、解析の画像処理を行い、グリース8におけるトレーサ9の移動状態を検出する。
【0027】
次いで、ステップS6において、画像表示装置16にトレーサ9の移動状態の検出結果を出力する。例えば、画像処理データに基づいて検出した転がり軸受1内でのトレーサ9の移動状態を画像表示装置16に表示する。
本発明では、上述したように、転がり軸受1の少なくとも一部に光透過性を有する光透過部が形成される。これにより、転がり軸受1に封入したグリース8に対して光を照射することが可能となる。また、転がり軸受1に封入されたグリース8が光透過性を有している。これにより、グリース8における光の乱反射を抑制でき、グリース8に混入されたトレーサ9の移動状態を適切に検出することができる。したがって、転がり軸受1に封入されたグリース8の挙動を適切に観察することが可能となる。
【0028】
また、本発明では、トレーサ9に対してシート状の光を照射する。これにより、トレーサ9の移動状態をより適切に検出することが可能となる。
なお、上記実施形態においては、1台の撮像装置13を用いてトレーサ9の移動を撮像する場合について説明した。しかしながら、これに限定されるものではなく、撮像装置13を2台以上備え、光源装置12により光が照射された位置を互いに異なる二以上方向から撮像する構成としても構わない。トレーサの移動状態を三次元的に検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1…転がり軸受、2…外輪、2a…外輪軌道面、3…内輪、3a…内周軌道面、4…複数の転動体、5…保持器、6,7…シール部、8…グリース、9…トレーサ、10…転がり軸受観察装置、11…載置回転台、12…光源装置、13…撮像装置、14…データ保存部、15…画像解析処理部、16…画像表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受に封入したグリースの挙動を観察するグリース挙動観察方法であって、
前記転がり軸受の少なくとも一部に、光透過性を有する光透過部を形成する工程と、
前記転がり軸受に、トレーサが混合された光透過性を有するグリースを封入する工程と、
前記光透過部を介して、前記グリースに光を照射する光照射工程と、
前記光透過部を介して、前記光を照射したグリースを撮像する工程と、
前記グリースを撮像した画像データに基づいて、前記トレーサの移動状態を検出する工程と、を有することを特徴とするグリース挙動観察方法。
【請求項2】
前記撮像工程において、
前記光を照射したグリースを互いに異なる二以上の方向から撮像することを特徴とする請求項1に記載のグリース挙動観察方法。
【請求項3】
前記光照射工程において、
前記グリースにシート状の光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載のグリース挙動観察方法。
【請求項4】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配設された複数の転動体と、前記内輪と前記外輪との間を密封するシール部と、該シール部により密封された前記内輪と前記外輪との間に封入されたグリースとを備え、前記グリースの挙動を観察するための転がり軸受であって、
前記外輪及び前記シール部のうち少なくとも一方に、光透過性を有する光透過部が設けられ、
前記グリースとして、トレーサが混入された光透過性を有するグリースが用いられていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−196760(P2010−196760A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41130(P2009−41130)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】