説明

グリーンシートのパンチング方法およびこれに用いるパンチング装置

【課題】細径のパンチピンで打ち抜いたシート屑をダイ側に付着させず下方に確実に落下させるグリーンシートのパンチング方法、およびこれに用いるパンチング装置を提供する。
【解決手段】表面の製品エリアa内に複数の受け入れ孔8の上端が開口するダイ7と、係るダイ7における複数の受け入れ孔8に個別に進入できるように昇降可能とされた複数のパンチピン4と、上記ダイ7における複数の受け入れ孔8の裏面側に形成され、各受け入れ孔8の内径および各パンチピン4の外径よりも小径の透孔10を同心で有する弾性体9と、上記ダイ7の表面における複数の受け入れ孔8を含む製品エリアaに対し、上方から高圧エアAを吹き付けるエアノズル12と、を含む、グリーンシートのパンチング装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追って多層セラミック基板などを形成するためのグリーンシート(セラミック生シート)にビアホールを穿孔するためのパンチング方法およびこれに用いるパンチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多層セラミック基板は、例えばアルミナを主成分とする複数のグリーンシートを積層および圧着し、得られた積層体を焼成することで形成される。上記グリーンシートは、予め所定の位置に複数のビアホールを穿孔され、係るビアホールにW粉末またはMo粉末を含むメタライズペーストを充填されると共に、何れかの表面に導電性ペーストを所定パターンで印刷された後に、上記積層に供せられる。
【0003】
グリーンシートに比較的小径のビアホールを複数穿孔するに際し、複数の細径なパンチピンをダイの表面に載置したグリーンシートに貫通させ、各パンチピンの先端部を打ち抜いた屑と共に上記ダイの受け入れ孔に受け入れ、係る受け入れ孔の裏面側に配置したゴム状弾性体により上記屑を弾性的に挟むようにした打ち抜き屑のパンチピンからの分離方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記ゴム状弾性体には、パンチピンや屑よりも小径な透孔がダイの受け入れ孔ごとに同心で形成され、パンチピンの押し込み圧力で打ち抜き屑をダイの下方に押し出して落下させるか、あるいは打ち抜き屑を透孔内で挟み、次に生じる打ち抜き屑でダイの下方に押し出すようにしている。
【0004】
しかしながら、前記抜き屑のパンチピンからの分離方法では、打ち抜き屑が静電気により前記ゴム状弾性体における透孔の開口部付近に順次付着した場合、細径のパンチピンが折れたり、受け入れ孔の内壁面を損傷するおそれがあった。
一方、グリーンシートを打ち抜いたポンチとその先端に付着した屑とに向ってエア流路口からエアを吹き付け、ダイブッシュの下方から集塵機で上記屑を落下させるセラミックグリーンシート穴明け用工具も提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、係る穴明け用工具では、複数のポンチごとに上記エア流路口を有するダイブッシュを設ける必要があるため、ダイ側の構造が複雑で高価となり、且つ高密度にビアホールを穴明けできない、という問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−333791 (第1〜7頁、図1〜7)
【特許文献2】特開平 5− 57687 (第1〜5頁、図1〜5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した背景技術における問題点を解決し、細径のパンチピンで打ち抜いたシート屑をダイ側に付着させず下方に確実に落下させるグリーンシートのパンチング方法、およびこれに用いるパンチング装置を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、複数のビアホールを穿孔したグリーンシートを取り外した後におけるダイの表面側から複数のパンチピンに受け入れ孔にエアを吹き付ける、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明のグリーンシートのパンチング方法(請求項1)は、ダイに設けた複数の受け入れ孔および当該ダイの表面における前記複数の受け入れ孔を含む製品エリアの上に載置したグリーンシートに、上記ダイの上方から下降し且つ上記複数の受け入れ孔に対応した複数のパンチピンを貫通させて、上記グリーンシートに複数のビアホールを形成する工程と、上記各パンチピンを各受け入れ孔から抜き出し、且つ複数のビアホールが形成されたグリーンシートを上記ダイの表面から除去する工程と、上記ダイの表面における複数の受け入れ孔を含む製品エリアに対し、上方からエアを吹き付ける工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0008】
これによれば、各パンチピンによりビアホールを形成するたびにグリーンシートから打ち抜かれたシート屑が、例えば静電気によりダイの裏面側における各受け入れ孔の開口部付近に付着していても、パンチピンを抜き出しした後で、ダイの上方から製品エリア内に吹き付けるエアにより、確実に除去することができる。
従って、パンチピンの折れ損や、受け入れ孔の内壁面の損傷を防止できるため、グリーンシートに複数のビアホールを高密度で精度良く確実に形成できると共に、係るビアホールの形成工程を安定させ、パンチピンを含むパンチング装置を安価に製作でき且つそのメンテナンスを容易にすることが可能となる。
尚、前記グリーンシートは、例えばアルミナ、ムライト、窒化アルミニウムなどを主成分とし且つ所要量の有機バインダなどを含んでいる。また、前記エアは、高圧エアを含み、更にはエアと実質的に同等な窒素ガスも含む。
【0009】
また、本発明には、前記ダイにおける複数の受け入れ孔の裏面側には、各受け入れ孔の内径および各パンチピンの外径よりも小径の透孔を同心で有する弾性体が形成されている、グリーンシートのパンチング方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、各パンチピンの先端に付着したグリーンシートのシート屑を、当該パンチピンの先端から確実に離脱させ、上記弾性体を含むダイの裏面側に移行させるか、あるいは上記弾性体の各透孔内で挟み込むことができる。従って、各パンチピンは、常に先端にシート屑がない状態で、グリーンシートを貫通して打ち抜くことができるため、複数のビアホールを内径の公差を小さくして形成することが可能となる。
【0010】
一方、本発明のグリーンシートのパンチング装置(請求項3)は、表面の製品エリア内に複数の受け入れ孔の上端が開口するダイと、係るダイにおける複数の受け入れ孔に個別に進入できるように昇降可能とされた複数のパンチピンと、上記ダイにおける複数の受け入れ孔の裏面側に形成され、各受け入れ孔の内径および各パンチピンの外径よりも小径の透孔を同心で有する弾性体と、上記ダイの表面における複数の受け入れ孔を含む製品エリアに対し、上方からエアを吹き付けるエアノズルと、を含む、ことを特徴とする。
【0011】
これによれば、前記パンチング方法の各工程を順序良く確実に行えると共に、ダイ側の構造を複雑にすることなくパンチング装置を構成でき、且つ係る装置を安価に製作できると共に、そのメンテナンスも容易化することが可能となる。
尚、前記エアノズルは、複数のパンチピンを支持するスライドなどとは、別体に配置されるが、ダイの上方に配置可能で且つ製品エリアにエアが吹き付け可能あれば、その数、サイズ、形状、および形態は、特に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明によるグリーンシートのパンチング装置1を示す概略図である。
係るパンチング装置1は、図1に示すように、昇降可能なスライド2の底面に垂直に突設した複数のパンチピン4と、係るパンチピン4を受け入れる複数の受け入れ孔8を表面と裏面との間に貫通させ、当該受け入れ孔8の上端が表面の製品エリアa内に開口するダイ7と、を備えている。
尚、上記製品エリアaは、後述するグリーンシートのうち、所要数のビアホールを打ち抜かれた後で積層および焼成の対象となる製品部分を指す。
また、図1に示すように、スライド2の下側には、上記複数のパンチピン4を貫通させる複数の通し孔6を有する押さえ板5が、当該スライダ2の四隅に配置されたコイルバネ3を介して水平に取り付けられている。
【0013】
更に、図1に示すように、ダイ7の下方には、各受け入れ孔8の下端が開口する空間7aが位置すると共に、当該ダイ7の裏面には、各受け入れ孔8と同心の透孔10を有する弾性体9が取り付けられている。係る弾性体9は、例えばシリコン系の樹脂からなり、各透孔10の内径は、受け入れ孔8の内径よりもやや小径である。
尚、上記空間7aは、図示しない集塵機またはポンプに連通し、常に負圧状態に保たれている。
図1において、パンチピン4、押さえ板5の通し孔6、ダイ7の受け入れ孔8、および弾性体9の透孔10は、図示の前後方向に沿っても適宜の間隔および配置パターン(例えば、格子模様や千鳥模様)で形成されている。
本パンチング装置1には、後述するグリーンシートにビアホールを穿孔した後、スライド2、複数のパンチピン4、押さえ板5を除去した跡に、ダイ7の表面における製品エリアaにエアを吹き付ける後述するエアノズルも含まれる。
因みに、円柱形のパンチピン4の直径や通し孔6と受け入れ孔8の内径は、約50〜200μmであり、弾性体9の透孔10の内径は、これらよりも小さい。
【0014】
ここで、前記パンチング装置1を用いた本発明によるグリーンシートのパンチング方法について、説明する。
先ず、図2に示すように、ダイ7の前記製品エリアaを含む表面上に、例えばアルミナを主成分とし且つ有機バインダを含むグリーンシートgを載置する。係るグリーンシートgは、厚みが約50〜200μmで、その裏面(底面)はダイ7の表面などとの摩擦によって、予め静電気が帯電されていることがある。
図2中の矢印で示すように、スライド2を押さえ板5と共に下降させると、グリーンシートgの表面(上面)に押さえ板5が面接触し、当該グリーンシートgを押さえ板5とダイ7の表面との間で拘束する。
【0015】
引き続いて、スライド2のみを単独で下降させると、図3に示すように、スライド2と共に下降した複数のパンチピン4は、押さえ板5の対向する通し孔6、これに隣接するグリーンシートg、およびダイ7の各受け入れ孔8を順次貫通して行く。この間において、コイルバネ3は、その軸方向に沿って圧縮される。
更に、各パンチピン4は、その先端面に付着したグリーンシートgを打ち抜いたシート屑pと共に、弾性体9の透孔10を押し広げつつ貫通して、負圧状態の空間7aに先端部が達する。その結果、図3に示すように、グリーンシートgには、複数のパンチピン4が貫通した位置に、ほぼ同じ径のビアホールhが複数個形成される(ビアホール形成工程)。
【0016】
次に、図4中の矢印で示すように、スライド2を上昇させると、複数のパンチピン4は、各受け入れ孔8から抜き出される。また、この間にコイルバネ3が伸長するため、押さえ板5は、各パンチピン4に対して相対的に下降して各パンチピン4の先端部を、各通し孔6内に収容しつつ上昇する。更に、押さえ板5および複数のパンチピン4を含むスライド2を、図4で図示した位置よりも上方に上昇させるか、あるいはダイ7の上方から外側の位置に移動させる。
次いで、複数のビアホールhが形成されたグリーンシートgをダイ7の表面から除去する(グリーンシートの除去工程)。
【0017】
この間において、前記グリーンシートgから打ち抜かれたシート屑pは、弾性体9の透孔10を貫通して空間7a側に移動する。尚、係るシート屑pやパンチピン4との摩擦によって、当該弾性体9にも静電気が帯電し易くなっている。
このため、空間a側に移動したシート屑pは、当該空間7aの負圧に抗して、弾性体9における各透孔10の開口部付近の表面に吸着されると共に、図5に拡大して示すように、以降の打ち抜き工程で生じるシート屑pが順次付着する。
尚、図5中の符号9aは、弾性帯9のうち各透孔10内に入り込んだ厚肉の補強部で、各透孔10内でシート屑pを挟み易くしている。
【0018】
更に、図6中の白抜きの矢印で示すように、ダイ7の表面における複数の受け入れ孔8が開口する製品エリアa内に対し、上方から高圧エア(エア)Aを吹き付ける(高圧エアAの吹き付け工程)。
係る高圧エアAの吹き付けは、図7の拡大図で示すように、ダイ7の表面に対して軸方向を垂直姿勢にしたエアノズル12によって行われる。係るエアノズル12は、例えば、図示しない増幅器を介して工場エアに配管に接続されている。尚、ダイ7下方の空間7aは、これに連通する図示しない集塵機により、常時負圧の状態とされている。
複数の受け入れ孔8を含む製品エリアaに吹き付けられる高圧エアAは、例えば、エアノズル12の噴射口13の面積を4.4mmとした場合、その流量は約264〜854リットル/分、その流速は約264〜845m/秒、その圧力は約0.4〜1.5MPaである。
【0019】
図7に示すように、高圧エアAが、エアノズル12の噴射口13から製品エリアa内の受け入れ孔8付近に対して噴射されると、当該受け入れ孔8を貫通した高圧エアAの一部は、弾性体9の透孔10を貫通して空間7a側に達する。
これにより、弾性体9の表面に静電気により付着していたシート屑pは、上記高圧エアAの噴射に伴って、図7中の矢印で示すように、弾性体9の表面から離脱して空間7aの下方に落下すると共に、図示しない集塵機により吸引され、ダイ7を含む当該パンチング装置1の外部に排出される。
その結果、弾性体9の表面に付着していた複数のシート屑pを確実に除去することができる。また、弾性体9の透孔10内に挟まれていたシート屑pも、空間7a側に強制的に吹き飛ばして除去することができる。
【0020】
従って、次に行う新たなグリーンシートgに対するビアホールhの打ち抜き工程において、パンチピン4の折れ損や、これに伴う受け入れ孔8の内壁面の損傷を防げるため、グリーンシートgのパンチングを安定して行うことができる。
尚、高圧エアAの吹き付け工程は、1枚のグリーンシートgにおいて所要数のビアホールhの打ち抜くごとに、1回ずつ行っても良い。また、高圧エアAは、前記条件で製品エリアaに吹き付けられれば、複数のノズル12を同時に使用して吹き付けたり、ダイ7における複数の受け入れ孔8に対し、1つのノズル12から高圧エアAを吹き出すようにしても良い。
更に、高圧エアAは、実質的にこれと同等な高圧の窒素ガスに替えても良い。
加えて、前記弾性体9は、合成ゴムから形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のパンチング装置を示す概略図。
【図2】本発明のパンチング方法における一工程を示す概略図。
【図3】図2に続く工程を示す概略図。
【図4】図3に続く工程を示す概略図。
【図5】図4中の部分拡大図。
【図6】図4に続く工程を示す概略図。
【図7】図6中の部分拡大図。
【符号の説明】
【0022】
1……パンチング装置
4……パンチピン
7……ダイ
8……受け入れ孔
9……弾性体
10…透孔
12…エアノズル
A……高圧エア(エア)
g……グリーンシート
h……ビアホール
a……製品エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイに設けた複数の受け入れ孔および当該ダイの表面における前記複数の受け入れ孔を含む製品エリアの上に載置したグリーンシートに、上記ダイの上方から下降し且つ上記複数の受け入れ孔に対応した複数のパンチピンを貫通させて、上記グリーンシートに複数のビアホールを形成する工程と、
上記各パンチピンを各受け入れ孔から抜き出し、且つ複数のビアホールが形成されたグリーンシートを上記ダイの表面から除去する工程と、
上記ダイの表面における複数の受け入れ孔を含む製品エリアに対し、上方からエアを吹き付ける工程と、を含む、
ことを特徴とするグリーンシートのパンチング方法。
【請求項2】
前記ダイにおける複数の受け入れ孔の裏面側には、各受け入れ孔の内径および各パンチピンの外径よりも小径の透孔を同心で有する弾性体が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のグリーンシートのパンチング方法。
【請求項3】
表面の製品エリア内に複数の受け入れ孔の上端が開口するダイと、
上記ダイにおける複数の受け入れ孔に個別に進入できるように昇降可能とされた複数のパンチピンと、
上記ダイにおける複数の受け入れ孔の裏面側に形成され、各受け入れ孔の内径および各パンチピンの外径よりも小径の透孔を同心で有する弾性体と、
上記ダイの表面における複数の受け入れ孔を含む製品エリアに対し、上方からエアを吹き付けるエアノズルと、を含む、
ことを特徴とするグリーンシートのパンチング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−110696(P2006−110696A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302613(P2004−302613)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】