説明

グルクロン酸残基を含む多糖の分解方法

【課題】 ウロン酸含有多糖を効率的に分解する手段を提供する。
【解決手段】 クロロウイルスCVK2から得られた多糖分解リアーゼであって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つリアーゼを用いて、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖を分解する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルクロン酸残基間の結合を切断する活性を持つ酵素を利用した多糖の分解方法、オリゴ糖の製造方法、及び多糖の構造解析方法に関する。これらの方法、及び前記酵素は、難分解性天然バイオマスの低分子化、クロレラ等の消化剤、多糖類の燃料化・原料化、稀少生化学分析試薬(酵素)、バイオテクノロジーツール(細胞プロトプラスト化酵素)、有害藻(草)類用生物農薬、機能性糖オリゴマーの生産などの用途に利用できる。
【背景技術】
【0002】
ウロン酸は、多糖類の構成成分として自然界に広く存在する。ウロン酸含有多糖類には、野菜や果実に含まれるペクチン、海藻類のアルギン酸、フコイダン、動物組織のヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、へパリンなど重要な機能を担うものが多い。これらの多糖類は比較的単純な構造をしていることから構造と機能の関係がよく研究されてきた。また、それらを分解する酵素が数多く発見され、種々の分野で活用されている。一方、自然界(特に天然バイオマスなど)にはこれら以外にウロン酸を含む複雑な多糖物質が多々存在し、それらは適当な分解方法が無いがためにほとんど手つかずで放置されている。
【非特許文献1】Ichiro Sugimoto et al., Virology, 277, 119-126 (2000)
【非特許文献2】Niti Chuchird et al., Microbes and Environment, 16, 206-212 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ウロン酸結合部位に特異的に作用し、多糖類を分解する酵素が見つかれば、これまで未知の分野であったウロン酸含有多糖の種類、構造、特徴、機能、性質等を調べる技術の一大ブレークスルーとなる。
【0004】
また、実際にバイオマス分解によって得られた低分子オリゴ糖は、食品、薬品、燃料、機能性素材等の分野で活用でき、結果的にバイオマスの有効利用(現状では高々総量の10%程度しか利用できていない)に大きな道が開ける。
【0005】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、ウロン酸含有多糖を効率的に分解する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は単細胞緑藻クロレラに感染するウイルス(クロロウイルス)を自然界より多数分離取得し、その性質を調べてきた。このウイルスはPhycodnaviridae 科Phycodnavirus属に属し、ある種のクロレラ株に特異的に感染する。感染プロセスの中でウイルスは固有の多糖質分解酵素群を発現して、固く堅牢な細胞壁を容易に溶解する。ウイルスがコードする多糖質分解酵素群の中に、ウロン酸重合体に作用し、そのβ-1,4結合を脱離反応によって分解する酵素を見出した。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(11)を提供するものである。
(1)下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
(2)グルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする(1)記載のグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法。
(3)側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする(2)記載のグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法。
(4)下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程及び反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
(5)オリゴ糖中に含まれるグルクロン酸残基が、4位の炭素と5位の炭素が二重結合しているグルクロン酸残基であることを特徴とする(4)記載のグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法。
(6)多糖中に含まれるグルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする(4)又は(5)記載のグルクロン酸残基を含む含むオリゴ糖の製造方法。
(7)側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする(6)記載のグルクロン酸残基を含む含むオリゴ糖の製造方法。
(8)下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程、反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程、及び採取したオリゴ糖の構造を解析する工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
(9)オリゴ糖中に含まれるグルクロン酸残基が、4位の炭素と5位の炭素が二重結合しているグルクロン酸残基であることを特徴とする(8)記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。
(10)多糖中に含まれるグルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする(8)又は(9)記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。
(11)側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする(10)記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、難分解性バイオマスの分解が可能になる。また、分解生成物は機能性素材として、食品、薬品、燃料、ポリマー等に利用することができる。更に、分解によって生じたオリゴ糖の構造を解析することにより、従来構造が不明であった天然バイオマスの構造の解明も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
(A)酵素
最初に、本発明の多糖の分解方法等に使用する酵素について説明する(以下、この酵素を「本酵素」という場合がある。)。
【0011】
本酵素には、以下の(a)〜(c)のタンパク質が含まれる。
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質
(a)のタンパク質は、クロロウイルスCVK2から得られた「vAL-1」と呼ばれる多糖分解リアーゼである。vAL-1のアミノ酸配列及びvAL-1遺伝子の塩基配列は、それぞれ配列番号2及び配列番号1に示すとおりである。vAL-1は、図1に示すように、2位の炭素に側鎖(R1、R2)を持つグルクロン酸のβ-1,4結合を、脱離反応によって切断し、二重結合を残す。また、vAL-1は、アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチン等には作用しない。vAL-1のアミノ酸配列及びvAL-1遺伝子の塩基配列は既に公知であるが(GenBank Accession No. AB044791、BAB1927)、この酵素が上記のような活性を持つことは今回初めて明らかになったことである。
【0012】
(b)のタンパク質は、(a)のタンパク質に、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を失わせない程度の変異が導入されたタンパク質である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は、前記した活性を失わせない限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
【0013】
(c)のタンパク質は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる(a)と同様の機能を持つタンパク質である。(c)のタンパク質における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、配列番号1記載の塩基配列で表されるDNAと通常高い相同性を有する。高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
【0014】
(B)多糖の分解方法
本発明の多糖の分解方法は、上述の本酵素を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程を含むことを特徴とするものである。
【0015】
グルクロン酸残基を分子中に含む多糖には、グルクロン酸残基のみからなる多糖のほか、グルクロン酸以外のウロン酸や糖などの残基を含む多糖も含まれる。分解対象とする多糖中に含まれるグルクロン酸残基は、通常、2位又は3位の炭素(好ましくは、2位の炭素)に側鎖を持っている。側鎖は、通常、アラビノース残基、グルコサミン残基、及びガラークトース残基を含むオリゴ糖である。
【0016】
酵素と多糖の反応は、常法に従って行えばよく、例えば、基質となる多糖を含む緩衝液中に酵素を添加すればよい。反応時の温度は特に制限されないが、20℃〜50℃ぐらいが適当である。反応時間も特に限定されないが、1〜24時間ぐらいが適当である。基質と酵素の量比も特に限定されないが、基質と酵素の重量比は100:1〜1000000:1ぐらいにするのが適当である。
【0017】
本発明の多糖の分解方法は、例えば、難分解性天然バイオマスの低分子化、クレロラ等の消化、多糖類の燃料化及び原料化、プロトプラストの調製、有害藻類の防除などに利用することができる。
【0018】
(C)オリゴ糖の製造方法
本発明のオリゴ糖の製造方法は、上述の本酵素を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程及び反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程を含むことを特徴とするものである。
【0019】
採取対象とするオリゴ糖中に含まれるグルクロン酸残基は、通常、4位の炭素と5位の炭素が二重結合している。なお、本明細書中でいう「グルクロン酸」には、分子式:C6H10O7で表されるグルクロン酸だけでなく、グルクロン酸に側鎖が導入されているものやグルクロン酸の一部の結合が二重結合に変化したものなども含めるものとする。
【0020】
オリゴ糖の採取は、常法に従って行えばよく、例えば、クロマトグラフィーなどを使って行うことができる。
【0021】
本発明のオリゴ糖の製造方法は、機能性オリゴマーの製造などに利用することができる。
【0022】
なお、本発明のオリゴ糖の製造方法における最初の工程は、上述の本発明の多糖の分解方法と同様に行うことができる。
【0023】
(D)多糖の構造解析方法
本発明の多糖の構造解析方法は、上述の本酵素を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程、反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程、及び採取したオリゴ糖の構造を解析する工程を含むことを特徴とするものである。
【0024】
オリゴ糖の構造解析は、常法に従って行えばよく、例えば、クロマトグラフィー、MALDI-TOF MSなどを使って行うことができる。
【0025】
なお、本発明の多糖の構造解析方法における最初と二番目の工程は、上述の本発明のオリゴ糖の製造方法と同様に行うことができる。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕 クロレラ溶菌液の調製
クロレラ株(Chlorella sp.NC64A、Chlorella prototechoides 211-6、Chlorella vulgaaris C135)をMBBM培地(硝酸ナトリウム0.025%、塩化カルシウム0.0025%、硫酸マグネシウム0.0075%、リン酸1カリウム0.0175%、リン酸2カリウム0.0075%、食塩0.0025%、ペプトン0.1%、pH 6.5)で、光照射下(白色光3000〜50000ルックス)、25℃で対数増殖期後期(107〜108cells/ml)まで培養した。クロロウイルスCVK2をmoi 1〜10で接種し、25℃で6〜8時間そのまま静置した。遠心分離(10,000g)により細胞残滓を除き、クロレラ溶菌液を得た。
【0027】
なお、NC64A株、211-6株、及びC135株は、それぞれネブラスカ大学、東京大学、及びゲッチンゲン大学から入手したものである。また、クロロウイルスCVK2は京都府の天然水中から単離したものである。
【0028】
〔実施例2〕 vAL-1タンパク質の大腸菌での大量生産及び精製
vAL-1全長を含む1050bpの断片の前後を制限酵素BamHIサイトで挟む形で増幅するようPCRプライマーを設計し、PCRによって該当するCVK2断片を得た。この断片をpGEX-4T-3に挿入し、大腸菌BL-2を形質転換し、タンパク質生成を誘導した。生成したGSTとの融合タンパク質(GST-vAL-1)を、グルタチオン-セファロース4Bカラム(アマシャム・バイオサイエンス社製)を用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製した後、トロンビンによりvAL-1断片部分のみを単離した。
【0029】
各精製段階におけるタンパク質の電気泳動像を図2Aに示す。図中の各レーンは、以下のタンパク質等を試料としている。レーン1:宿主大腸菌タンパク質、レーン2:GST-vAL-1生成誘導後の大腸菌タンパク質、レーン3:誘導後可溶化区分、レーン4:不溶性区分、5:アフィニティクロマト素通り画分、6:GST-vAL-1融合タンパク質、7:トロンビン処理後分離タンパク質、8:精製vAL-1。
【0030】
また、vAL-1の溶菌活性を調べるため、少量の精製vAL-1をスポットしたペーパーディスクをクロレラ細胞培養プレート上に置き、溶菌活性アッセイを行った。この結果を図2Bに示す。図の中央のディスクがvAL-1をスポットしたものであり、左及び右のディスクはそれぞれGST及びトロンビンをスポットしたものである。この図に示すように、vAL-1をスポットしたディスクを置いた場合には、ハローが形成されており、このことから、vAL-1がクロレラ細胞に対し、溶菌作用を示すことがわかる。
【0031】
〔実施例3〕 クロレラ細胞壁分解産物の分析
クロレラ細胞壁標品を、実施例2で調製したvAL-1と反応させ、その分解産物を薄層クロマトグラフィーによって分析した。
【0032】
クロレラ細胞壁標品は、以下のように調製した。MBBM培地中で増殖させたクロレラの細胞を、遠心分離(1000g、10分、4℃)により集め、蒸留水で洗浄した。集めた細胞をホモジナイズし、1%SDS溶液中に懸濁させた。懸濁液を3分間ボルテックスした後、遠心分離(10000g、15分、4℃)を行い、その後、沈殿の上部の白色の層を1%SDS溶液に戻した。この抽出操作を数度繰り返した後、沈殿物を再懸濁し、シームレス・セルロース・チュービング(ポアサイズ:12-14kDa、ナカライテスク社製)による透析を行い、クロレラ細胞壁標品を得た。細胞壁標品はNC64A株、211-6株、及びC135株の3種類のクロレラ株について調製した。
【0033】
3.3mg/mlの細胞壁標品を含むリン酸緩衝液に約20μgのvAL-1を加え、37℃で2時間反応させた。可溶化画分をシリカゲル60プレート(ワットマン社製)上で展開した(展開液;n-ブタノール:酢酸:水、2:2:1)。この結果を図3に示す。
【0034】
図に示すように、NC64A株及び211-6株の細胞壁では、それぞれ二つの主要なバンド(図中の矢印)が検出された。一方、C135株の細胞壁では、分解産物は検出されなかった。
【0035】
〔実施例4〕 不飽和ウロン酸の定量
vAL-1は、酵素基質が不特定物質であり、生成産物も不均一であるため活性の定量化は困難である。そこで、リアーゼ反応によって生ずる不飽和ウロン酸の量を測定し、この値からvAL-1の酵素活性を推定した。
【0036】
クロレラ(Chlorella.sp NC64A)細胞壁標品(3.3mg/ml)を約20μgのvAL-1と反応させた(反応温度:37℃)。反応液300μl中の不飽和ウロン酸の量を過ヨウ素酸・チオバルビツール酸法(Weissbach,A. and hurwitz, J. (1959) J. Biol. Chem. 234, 705-709)で測定した。この結果を図4に示す。
【0037】
〔実施例5〕 細胞壁分解産物中に含まれるオリゴ糖の同定
実施例2で、シリカゲルプレート上に分けられたChlorella.sp NC64Aの細胞壁分解産物を、バンドの位置ごとに回収し、これらをPALSTATIONピリジルアミノ化キット(タカラバイオメディカル社製)によってピリジルアミノ化した。ピリジルアミノ化した細胞壁分解産物を、PALPAKタイプRカラム(タカラバイオメディカル社製)を用いた逆相HPLCによって分離した。この結果を図5に示す。図5A及び図5Bは、図3において矢印で示した上のバンド及び下のバンドから回収された細胞壁分解産物をそれぞれサンプルとしている。
【0038】
図5Aのピーク1〜4のオリゴ糖をMALDI-TOF MS解析をした結果、それぞれGal-Gal-Gal-Gal、Ara-Gal-GlcNAc-Ara-GlcA、Ara-Ara-GlcNAc-Ara-GlcA、Ara-Ara-GlcNAc-Ara-GlcAであると同定された(図6A〜D)。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】vAL-1の分解反応の様式を表した図。
【図2】vAL-1、GST-vAL-1、GST等の電気泳動像(A)及びvAL-1の溶菌活性アッセイの結果を表す図(B)。
【図3】クロレラ細胞壁分解産物の薄層クロマトグラフィーによる分析結果を示す図。
【図4】分解反応時間と不飽和ウロン酸の生成量との関係を表す図。
【図5】クロレラ細胞壁分解産物の逆相HPLCによる分析結果を示す図。
【図6】クロレラ細胞壁分解産物中に含まれるオリゴ糖のMALDI-TOF MSによる分析結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
【請求項2】
グルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする請求項1記載のグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法。
【請求項3】
側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする請求項2記載のグルクロン酸残基を含む多糖の分解方法。
【請求項4】
下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程及び反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
【請求項5】
オリゴ糖中に含まれるグルクロン酸残基が、4位の炭素と5位の炭素が二重結合しているグルクロン酸残基であることを特徴とする請求項4記載のグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
多糖中に含まれるグルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする請求項4又は5記載のグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法。
【請求項7】
側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする請求項6記載のグルクロン酸残基を含むオリゴ糖の製造方法。
【請求項8】
下記の(a)〜(c)のタンパク質を、2以上の連続したグルクロン酸残基を分子中に含む多糖と反応させる工程、反応物の中からグルクロン酸残基を含むオリゴ糖を採取する工程、及び採取したオリゴ糖の構造を解析する工程を含むことを特徴とするグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法、
(a)配列番号2記載のアミノ酸配列で表されるタンパク質、
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質、
(c)配列番号1記載の塩基配列で表されるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードするクロロウイルス由来のタンパク質であって、グルクロン酸残基間のβ-1,4結合又はα-1,4結合を切断する活性を持つタンパク質。
【請求項9】
オリゴ糖中に含まれるグルクロン酸残基が、4位の炭素と5位の炭素が二重結合しているグルクロン酸残基であることを特徴とする請求項8記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。
【請求項10】
多糖中に含まれるグルクロン酸残基が、2位又は3位の炭素に側鎖を持つグルクロン酸残基であることを特徴とする請求項8又は9記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。
【請求項11】
側鎖が、アラビノース残基、N-アセチルグルコサミン残基、及びガラクトース残基を含むオリゴ糖であることを特徴とする請求項10記載のグルクロン酸残基を含む多糖の構造解析方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−20586(P2006−20586A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202644(P2004−202644)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(000177704)山陰建設工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】