説明

グルコン酸カルシウムの製造方法

【課題】グルコースからのグルコン酸の製造方法の提供。
【解決手段】グルコン酸カルシウムの製造方法であって、食品への使用が許容される少なくとも1種の有機酸塩および水を含み、かつ、カルシウム塩基が添加される反応混合物中における、酵素作用によるグルコースからグルコノ−δ−ラクトンを経由してのグルコン酸への変換、およびその後のグルコン酸からグルコン酸カルシウムへの変換を含んでなる、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、酵素的方法によるグルコン酸カルシウムの製造に関する。
【0002】
微量栄養素(ビタミン類およびミネラル類)は、必ずしも食物中に十分な量で存在するとは限らず、また、その十分な量が利用可能であるとは限らない。これは、とりわけ、作物が生育する土壌における特定の欠乏、微量栄養素のバイオアベイラビリティの低さ、バランスの悪い食生活または腸内寄生虫に起因することが考えられる。推奨栄養摂取量(Recommended Nutrient Intakes)(RNI)または1日あたりの推奨許容量(Recommended Daily Allowances)(RDA)は、微量栄養素摂取量の健全なレベルについての一般への情報提供を目的とするものである。
【0003】
現在のRNIを上回るレベルで摂取することでさらなる健康上の利益を得る栄養素もあることが認識されるようになった。カルシウムのRNIを上回る摂取レベルは、例えば、成人期初期での骨量の増加と、後年における骨粗鬆症の危険性の低下に関連する。
【0004】
十分なカルシウムの摂取は、骨粗鬆症の予防および治療のみならず、高血圧、結腸直腸癌およびシュウ酸腎結石をはじめとするいくつかのの疾病の危険性の低下にも有益であり得る。青年および高齢者は、カルシウムの摂取が不十分であることによる悪影響を特に受けやすい。最近の研究および食事に関する勧告では、妊婦および子供、特に、青春期発育に伴う急激な成長および骨の石化を迎えている者において、十分なカルシウム栄養状態が重要であることが強調されるようになってきた。世界の多くの地域の子供および若者による現在のカルシウムの食物摂取量は、おそらく、推奨される至適レベルを下回っているであろう。
【0005】
食糧供給においては、通常、RNIレベルを満たすのに十分なカルシウムが存在するにもかかわらず、調査データは、多くの人々が推奨量のカルシウムを摂取していないことを示している。例えば、多くの個体は、健康上、文化上または個人的な種々の理由で乳製品を摂っていないため、カルシウムの摂取量が低い。
【0006】
微量栄養素欠乏症を軽減するためには、食物の栄養価の強化が栄養戦略における必須要素になってきている。効果的な食物の栄養価強化計画では、必須栄養素の供給源を提供することによって食糧供給物の栄養価を向上させ、その不十分な摂取を改善する。
【0007】
栄養価の強化(fortification)または増強(enrichment)は、1種以上のビタミン類またはミネラル類の食品への添加と定義されるが、その食物がその物質をすでに含んでいるか否かには関係なく、ビタミン類、A、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、ナイアシン、葉酸、パントテン酸およびビオチン、ならびにミネラル類、ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、ヨウ化物、塩化物、銅、フッ化物、マンガン、クロム、セレン、コバルト、モリブデン、錫、バナジウム、ケイ素およびニッケルに関するものである。
【0008】
食物の栄養価強化は、政府による公式プログラムによって規定され、公衆衛生上の介入のためのツールとして用いられ(塩へのヨードの添加)、食物の加工中に失われた栄養素を補給するため(低脂肪または脱脂粉乳へのビタミンAの添加)、代用食の栄養学的同等性を保証するため(マーガリンへのビタミンAの添加)、または食事代用物、栄養補給剤、低ナトリウム食、無グルテン食、調整流動食および無糖食などの特別食の好適な栄養組成を保証するために用いられている。規定により、許容される栄養強化剤(fortificant)が定められている。
【0009】
人間の食物におけるナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムのようなミネラル類の存在は極めて重要である。公文書には、成人の摂取量がナトリウム1.1〜3.3グラム/日およびカリウム1.9〜5.6グラム/日と記載されており、安全かつ十分な1日あたりの食物摂取レベルが試算されている。カルシウムおよびマグネシウムの1日あたりの推奨許容量(RDA)は、各々、0.8〜1.2グラム/日および0.3〜0.4グラム/日である。ナトリウムは通常、十分なレベルで存在し、食卓塩の形で容易に補給することができる。特に、カルシウムについての状況はより複雑である。
【0010】
人間の体内において、カルシウムは骨および歯に主として存在し(99%)、細胞内および細胞外液、血液凝固、筋肉収縮、神経伝達、および正常な心拍数および血圧の維持における多くの酵素反応において重要な役割を果たしている。カルシウムは体内で最も豊富なミネラルであり、大部分はリン酸カルシウムの形で存在している。骨はCa2−およびP03−の大型貯留所およびバッファーとしての役割を果たしている。Ca2−およびP03−の血漿レベルは、骨カルシウム動員および腸内吸収を高め、カルシウムの腎排泄を減少させる、副甲状腺ホルモン(PTH)と呼ばれる副甲状腺ペプチド、ならびに骨カルシウムの放出を減少させることによって、および腎臓によるカルシウムおよびリンの排泄を増加させることによって相反する作用を有する甲状腺起源の第2のペプチド、カルシトニンによって狭い範囲内に維持される。ビタミンAもまた、主に、カルシウムの腸内吸収に関与している。
【0011】
1日あたりのカルシウム損失は食物摂取によって補充する必要がある。一般に認められているカルシウム供給源は、食料源(天然のおよび/または食品栄養強化剤として)、ミネラル補給剤および制酸剤(胃潰瘍および酸逆流の治療用)などの多方面にわたる供給源である。ほとんどの人にとって、食事性カルシウムの最大の供給源は牛乳(1.2〜1.4gカルシウム/リットル)とその他の乳製品である。しかしながら、特に、カルシウム摂取量1.2〜1.5g/日(US RNI)を達成するためには、その他のカルシウム供給源が重要である。大部分の野菜はカルシウムを含んではいるが、低密度である。そのため、乳製品の1人分の標準量によって達成される全摂取量と同等とするには、比較的大量に摂取する必要がある。
【0012】
カルシウム適正量は、摂取量だけでなく、腸から吸収されることができ、体内で利用可能である(バイオアベイラビリティと呼ぶ)食物中のカルシウム分にも依存する。1日あたりの食物摂取量に、体内のカルシウムバランスを適切に理論上維持するのに十分なカルシウムが含まれていたとしても、体内のカルシウム欠乏が起こることがある。野菜由来のカルシウムのバイオアベイラビリティは通常高い。例外はホウレンソウであり、これはシュウ酸が多く含まれることから、そのカルシウムが実質的に生体内利用できなくなる。全粒穀物などの高フィチン酸食の中にも、カルシウムの生体内利用がほとんどできないものがある。
【0013】
ビタミンDおよび副甲状腺ホルモンは、能動的腸内吸収プロセスに関与しており、リン酸は拡散に基づく受動的吸収で重要な役割を果たす。この吸収プロセスは、溶解したカルシウムの濃度によってプラスの刺激を受け、カルシウム化合物の溶解度が高まるほど、受動的吸収が増大する。
【0014】
胃内で消化され、存在するほとんど全てのカルシウムは、低pH条件によって実質的にはイオン形態にある。しかしながら、カルシウムが腸に入り込むとその条件は中性寄りになり(pH6〜7)、存在するリン酸の量に応じてカルシウムは不溶性リン酸カルシウムとして沈殿することがある。これらの沈殿したリン酸カルシウムは体に吸収され得ない。沈殿は、食物中または腸内のカルシウム:リン酸比率が1未満の場合に起こる可能性が最も高い。欧州では、この比率が約0.6であり、米国ではこの数字がさらに低い。したがって、多くの理由で食物へのカルシウム補給が有益である。
【0015】
カルシウムを強化した数種類の製品が紹介されている。これらの製品、特にオレンジジュースは、カルシウム濃度が牛乳のものに近くなるよう強化されている。一部の調査では、これらの製品中のカルシウムのバイオアベイラビリティが牛乳のものと少なくとも同等であることが示されている。種々のカルシウム栄養強化剤のバイオアベイラビリティについてのデータは決定的なものではない。いくつかの調査では、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムの間のバイオアベイラビリティが同等であることが示されているが、その他の調査では、有機カルシウム塩が炭酸カルシウムなどの無機塩よりも高いバイオアベイラビリティを有することが示されている。一般に、バイオアベイラビリティは、上述のとおり、カルシウム化合物の溶解度によって決まる。溶解度は、ある化合物の、結晶性形状の該化合物の存在下における水への溶解濃度として定義され、すなわち、可溶性形状と結晶性形状とが熱力学的平衡にある。
【0016】
食物の栄養価強化に関する大きな問題としては、好適なビヒクルの同定、好適な栄養強化化合物の選択、栄養強化剤の製造および栄養価強化工程に用いる技術の決定、ならびに食品の風味および顧客満足度への影響が挙げられる。特定の栄養価強化用途に向けた好適なカルシウム供給源の選択は、通常、それぞれの製品に関連する数多くの特性、例えば、風味、カルシウム含有量、バイオアベイラビリティ、吸収性(通常10〜40%)、バイオアベイラビリティ、および、カルシウムの場合に最も重要である、バイオアベイラビリティおよび吸収性を決定する溶解度を考慮して行われる。経済上の考慮は、明らかに、その他の重要な因子である。カルシウム栄養強化剤は、理想的には1リットルあたり3グラムを超えるCa2+溶解度を示す。
【0017】
カキ殻または石灰岩の炭酸カルシウムは、その高カルシウム含有量と低コストを理由に、最も広範囲に利用されるカルシウム補給剤である。しかしながら、炭酸カルシウムには、胃内でCOが発生するという問題があり、チョークのような口当たりがする傾向にあり、完成品に苦味のある、石鹸のような、またはレモンの風味を与えることがあったり、食品中に沈殿物が生じたりする場合もある。最も重要なことは、炭酸カルシウムは溶解度が低く(25℃において<0.1g/L)、そのために吸収が少ないことである。リン酸二カルシウムなどのリン酸カルシウムでは、ざらついた口当たりとなり、淡白な味がし、さらに溶解度も低い(25℃において<0.1g/L)。
【0018】
乳酸カルシウムおよびグルコン酸カルシウムのような有機カルシウム塩には、比較的高い溶解度を示し、体への吸収も比較的優れているものがある。クエン酸三カルシウムは、高カルシウム含有量と当たり障りのない風味を提供するが、溶解度は最も低い(25℃において0.2g/L)。一方、乳酸カルシウムは、溶解度が高く(25℃において9.3g/L)、食品において高カルシウム含有量を得るのに非常に有益なものとなる。しかしながら、乳酸カルシウムには苦味が感じられる。グルコン酸カルシウムは、乳酸カルシウムよりも少し溶解度は低い(25℃において3.5g/L)が、食品への、風味に悪影響を及ぼさない、高レベルの添加ということを考えれば、風味に関して最も当たり障りのないカルシウム塩の1つであると考えられる。グルコン酸カルシウムはまた、人間の体と極めて適合する。これは、毒性または渋味を実質的に全く示さないため、耐容性は良好である。
【0019】
グルコン酸カルシウムはグルコン酸のカルシウム塩である。生産物が食品栄養強化剤として登録されるには、これを高純度で、すなわち、未登録の副産物の存在なく、製造する必要がある。グルコン酸カルシウムの重要な問題は、製造に比較的コストがかかることである。グルコン酸塩の製造のためのいくつかの方法が文献に記載されている。米国特許第4,845,208号明細書には、パラジウム系触媒を用いたアルドース酸化によるアルドン酸の製造のための方法が記載されている。この方法の問題点は、非常に高価であり、かつ毒性のある触媒を使用すること、および数種類の副産物が形成されることである。
【0020】
米国特許第5,102,795号明細書には、臭化ナトリウムおよび中和用の塩基を用いた、グルコースからグルコン酸への電気化学的酸化が記載されている。この方法は、グルコン酸塩の製造に現在用いられているが、臭化ナトリウムまたは臭化物を最終生産物から分離しなければならないという問題点を有する。
【0021】
高純度のグルコン酸塩を生産する(反応混合物中での副産物の形成がない)製造方法は、国際特許出願96/35800に記載されている。この公報では、酵素作用によりグルコースからグルコン酸へ変換するのに、グルコースオキシダーゼ酵素およびカタラーゼ酵素の組み合わせを用い、水酸化ナトリウムによる中和によって、100%に近い、ほとんど不純物のない収率でグルコン酸ナトリウムが得られる。グルコン酸ナトリウムは溶解度が高く(20℃において380g/L)、この国際特許出願の発明者らは、273g/Lのグルコースからグルコン酸への完全変換(グルコン酸ナトリウム溶液として)を達成するすることができた。ナトリウムイオンをカルシウムイオンと交換してグルコン酸カルシウムを得ることはできるが、かかる方法は、カルシウム沈殿の問題、さらには一価のイオンを樹脂に結合させた二価のイオンで交換しなければならないという事実から実用的ではなく、このようなグルコン酸カルシウムの工業生産は魅力的でない。さらに、イオン交換は費用のかかる単位操作であり、この方法では廃塩が生成される。
【0022】
国際特許出願97/24454には、加圧反応装置システムならびにアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のグルコースオキシダーゼおよびミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)由来のカタラーゼを用いる、酵素作用によるグルコース(pH6.0で最大出発グルコース濃度450g/Lまで)からグルコン酸への変換(グルコン酸ナトリウム溶液として)が記載されている 。しかしながら、グルコン酸カルシウムの溶解度(20℃において30g/L)は対応するナトリウム塩のものよりも小さなオーダーであるため、この方法はグルコン酸カルシウムの高収率生産を可能にするものではない。
【0023】
また、グルコン酸カルシウムは、Shah and Kothari (Biotechnol. Lett. 1993; 15: 35-40)およびKlewicki and Krol (Pol. J. Food Nutr. Sci. 1999; 8: 71-79)に記載されているように、微生物発酵により製造してもよい。これらの手法の欠点は、製造後、形成された副産物からグルコン酸カルシウムを精製し、生産物から微生物を分離する必要があることに関連するものである。
【0024】
グルコン酸カルシウムの製造としては、その高い特異性と結果として得られる高純度の生産物から、酵素による方法が好ましい。しかしながら、酵素作用による最適な変換に必要な条件下(pH5〜7、30〜35℃)でのグルコン酸カルシウムの溶解度は40g/Lに過ぎない。工業的な量の生産物を得るためには、大型反応装置が必要であり、グルコン酸カルシウム結晶の濃縮には多量の水の蒸発を必要とする。出発グルコース濃度を高め、形成したグルコン酸カルシウムを瞬間的に結晶化すると、反応混合物の粘度の高まり、これに伴う酸素移動および酵素作用による変換の速度低下が引き起こされる。酸素移動を回復させ、粘度問題を克服するための、例えば、攪拌にラッシュトン型タービンを用いることによる振盪強化によって機器費用がかさみ、使用機器破損および付随する最終生産物の金属汚染(クロムまたはニッケル)のリスクが高まる。これらの欠点により、工業規模での酵素作用によるグルコン酸カルシウムの製造が魅力的でないものとなっている。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、酵素作用によるグルコースからグルコン酸カルシウムへの変換の間の結晶の形成を妨げる方法を開示するものであり、これにより、グルコン酸カルシウム製造のための酵素的方法が経済的見地から有利となる。
【0026】
本発明によれば、グルコン酸カルシウムの製造方法であって、食品への使用が許容される少なくとも1種の有機酸塩および水を含み、かつ、カルシウム塩基が添加される反応混合物中における、酵素作用によるグルコースからグルコノ−δ−ラクトンを経由してのグルコン酸への変換、およびその後のグルコン酸からグルコン酸カルシウムへの変換を含んでなる方法が提供される。この新規方法の利点は、前記反応条件により、グルコン酸カルシウム結晶が形成することなく、単位製造量当たり非常に高い収量のグルコン酸カルシウムがもたらされることである。
【発明の具体的説明】
【0027】
基本的には、食品に使用し得るいずれの有機酸塩を使用しても、本発明の利点がもたらされることが分かっている。「食品への使用が許容される」とは、食品としての摂取によるヒトまたは動物による消費によって有害な影響が実質的にもたらされないことを意味する。一般に、この表現は実質的に毒性のない塩をさしている。好適な塩の具体例としては、乳酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩およびそれらの組み合わせが挙げられる。以下の説明では、乳酸塩を取り上げることによって本発明を説明している。これは、いかなる場合においても、本発明の開示内容におけるその他の塩の使用に関する制限として解釈されるべきではない。乳酸塩を用いて非常に有利な結果が得られたが、基本的には、その他の有機酸の塩でも同様の結果がもたらされる。
【0028】
本発明により、工業的見地から魅力的な、グルコン酸カルシウムの酵素作用による製造のための方法が初めて提供される。この方法は、ナトリウム−カルシウムイオン交換手順も、生産物の製造後の精製も必要としない。本発明は、1種以上の乳酸塩の存在下で高純度の、高溶解度グルコン酸カルシウムを製造するための新規方法に関する。
【0029】
本発明者らは、とりわけ、グルコン酸カルシウムは、乳酸カルシウムの存在下でグルコースから酵素反応によって製造すると、20℃において225g/溶液kgを超える溶解度を示すことを実証している。これは、乳酸カルシウムの不在下で酵素反応によって得られるグルコン酸カルシウムの溶解度(20℃において30g/L)よりも顕著に高く、その結果として、結晶を含まない、全カルシウム含有量が全カルシウム46g/溶液kgを超える透明な溶液が得られる。本発明による反応混合物中での酵素作用によるグルコン酸カルシウムの収量は、酵素的変換の結果として、65重量%のグルコン酸カルシウムと35重量%の乳酸カルシウムからなる混合物が生じる場合、特に、高レベルに至る。反応混合物中に存在する乳酸カルシウムの量が著しく少なくかなるか、または多くなると、反応混合物1kgあたりのグルコン酸カルシウム生産量は低くなる。しかしながら、酵素作用によるグルコースからグルコン酸への変換の間、単に乳酸塩が存在することによって、反応混合物中において、グルコン酸カルシウム沈殿物が形成することなく、有利に多量のグルコン酸カルシウムが形成することが可能となる。さらに、本発明による方法によって製造されるグルコン酸カルシウムは、実質的に純粋であり、さらなる精製工程は不要である。乳酸塩自体が認定された食品用化合物であることから、反応産物中の乳酸塩の存在によって、グルコン酸カルシウムの認定されたカルシウム栄養強化剤としての用途が制限されることはない。したがって、反応産物中の乳酸塩は、グルコン酸カルシウム生産物から除去または分離する必要はない。別の乳酸金属塩の存在は、別の微量栄養素を乳酸塩として提供し得ることから、本発明による方法によって製造されるグルコン酸カルシウムの食品栄養強化剤としての用途に有益である。
【0030】
酵素的方法では、グルコースオキシダーゼ酵素とカタラーゼ酵素との混合物を用いて、乳酸塩の存在下で、グルコースからグルコン酸へと変換させる。酵素的変換の間、カルシウム塩基(例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウム)は、生じるグルコン酸を中和する目的で用いられ、さらにカルシウム供給源となる。酵素反応の間、乳酸塩を存在させることによってグルコン酸カルシウムおよび/または乳酸カルシウムの結晶化が起こらず、これにより、高い終濃度(反応混合物1kgあたり混合溶解グルコン酸カルシウム−乳酸カルシウムが360gを超えることさえある)に達することが可能となる。
【0031】
本発明は、食物の栄養価強化用途に使用できるグルコン酸カルシウム塩を製造するための方法に関する。
【0032】
本発明によれば、乳酸塩の存在下において、グルコースからグルコン酸カルシウムを製造するための新規な効率的かつ経済的な方法が提供される。
【0033】
本発明は、とりわけ、
水中のグルコース、酵素および乳酸塩の混合物を調製する工程、
酵素作用によってグルコースをグルコン酸へ変換する工程、
カルシウム塩基の添加によってグルコン酸をグルコン酸カルシウムへ変換する工程
を含んでなる方法に関する。
【0034】
変換は、グルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)およびカタラーゼ(EC 1.11.1.6)を少なくとも含んでなる少なくとも2種類の酵素からなる混合物の総合作用によって行なわれる。酵素は、いかなる好適な起源のものであってもよく、商業的に入手可能であることは、本発明の一つの態様である。酵素の便宜な起源は、真菌起源または細菌起源などの微生物起源である。本発明において有利に使用できる、グルコースオキシダーゼおよびカタラーゼの両方を含む酵素調製物は、例えば、OxyGO 1500(Genencor Inc., USA)またはNovozyme 771(Novo Nordisk A/S, Denmark)である。あるいは、グルコースオキシダーゼ調製物とカタラーゼ調製物との組み合わせを用いてもよい。グルコースオキシダーゼとしては、例えば、グルコースオキシダーゼG9010(Sigma, USA)が市販されている。本発明において有利に使用できるカタラーゼ酵素は、例えば、カタラーゼT100(Genencor Inc., USA)である。グルコースオキシダーゼの代替物として、その他の酵素、例えば、ヘキソースオキシダーゼ(EC 1.1.3.5)もしくはグルコオリゴ糖オキシダーゼ、または酸素によるグルコースの酸化を触媒し、その結果として、反応産物であるグルコン酸および過酸化水素を生成させるそれ以外の酵素を用いてもよい。
【0035】
反応混合物に用いる酵素の量は、所望の時間内に本発明による化合物が製造されるように調製することができる。酵素の起源は、適用される反応条件下において、最適な変換速度が得られるように選択することができる。
【0036】
本発明において用いられるグルコースは、結晶性形状またはシロップとして反応混合物に添加することができる。反応混合物における出発グルコース濃度は、最大で180g/l反応混合物とすることができる。好ましくは、グルコン酸カルシウムへの完全変換前の反応混合物における出発グルコース濃度は、30g/l反応混合物よりも高い。
【0037】
反応混合物中に存在する乳酸塩は、好適ないずれの供給源から誘導されたものであってもよく、乳酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩もしくはそれらの組み合わせなどのいずれの乳酸塩であってもよい。乳酸塩は、結晶性乳酸塩として反応混合物に添加してもよい。あるいは、乳酸を溶解形態の乳酸として添加してもよく、酵素作用による変換反応の開始前にアルカリ金属塩塩基および/またはアルカリ土類金属塩塩基などのいずれかの好適な塩基、例えば、カルシウム塩基によって中和してもよい。
【0038】
本発明の他の態様によれば、予め、炭水化物の微生物発酵によって乳酸塩を得、続いて、アルカリ金属塩塩基および/またはアルカリ土類金属塩塩基などの好適な塩基、例えば、カルシウム塩基を用いて中和を行い、好適な乳酸塩を得てもよい。本発明のかかる実施態様によれば、好ましい炭水化物はグルコースである。本発明のかかる実施態様における微生物発酵は、当技術分野で公知の条件下で、炭水化物発酵からラクテートを生産できる、乳酸菌などのいずれかの微生物を用いて実施できる。このような好ましい微生物はラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)である。
【0039】
乳酸塩は、変換反応の開始時に、反応混合物において最適なグルコン酸カルシウムレベルを得るのに十分な量で存在していてもよい。あるいは、乳酸塩または乳酸を、グルコネートとラクテートとを一定の比率に維持するために、反応の経過中、連続的なステップで、または連続して添加してもよい。
【0040】
本発明による方法は、当業者に利用可能ないずれのタイプの反応装置で実施してもよい。これらは自動pH、アルカリ添加および温度制御機器を装備した試験室または工業規模の発酵槽を含んでよいが、これらはまた、反応物質が別個の処理として添加される固定反応器を含むこともできる。さらに、反応装置に攪拌器を適用して反応物質の適切な混合を容易にしてもよい。反応物質は、1工程で添加してもよいし、またはこれらを複数の工程で添加してもよい。また、反応物質は、変換反応の間、反応装置に連続して添加してもよい。
【0041】
本発明において用いられる反応条件は、所望の特性を有する生産物を得る、または所望の時間内に本発明による物質を製造するように変更することができる。当業者が変更できる反応条件としては、限定されるものではないが、温度、pH、アエレーションレベル、酸素分圧, 圧力、二酸化炭素レベル、粘度などが挙げられる。
【0042】
本発明において用いられる、変換反応の間の反応混合物の温度は、酵素の正常な機能を維持するものである。かかる温度は、0℃〜50℃の間であればいずれを選択してもよい。有利に使用できる温度は、30℃〜40℃の間である。本発明による方法によるグルコン酸カルシウムの工業生産の間の変換反応の温度は、結果として、酵素により高変換速度がもたらされ、高溶解度レベルのグルコン酸カルシウム生産物が生成されるように最適化してもよい。
【0043】
変換の間の反応混合物のpHは、1種以上の塩基の添加によって、酵素の正常な機能を維持するような値に調節、すなわち、制御することができる。主として、上記の1種以上の塩基は、変換反応の経過中に添加され、酵素の正常な機能を維持する適正なpH値が維持される。これらはまた、酵素作用による変換反応の開始前に添加してもよい。本発明において用いられる、生じるグルコン酸を中和するための好適な塩基としては、アルカリ金属アニオンおよび/またはアルカリ土類金属アニオンが挙げられる。
【0044】
変換反応の経過中に反応混合物に添加される塩基のさらなる働きは、グルコン酸カルシウムを得るためのカルシウム供給源を提供することであろう。このカルシウム供給源は、酵素作用による変換反応の開始直前に、または反応の間連続して添加してもよい。このカルシウム供給源には、カルシウム塩基を使用することがかなり有利であるが、その他のカルシウム供給源もまた使用できる。カルシウム供給源として使用されるカルシウム塩基は、適正なpH値の維持に用いる塩基と同一のものであってよいが、異なる塩基であってもよい。好ましくは、中和を行う塩基は、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩基とされる。カルシウム塩基は、水酸化カルシウムであることが最も好ましい。本発明の好ましい実施態様によれば、カルシウム塩基は、20℃にてグルコン酸カルシウム単独によって得られる3.1g/Lを超えるカルシウムイオン濃度に相当する、30g/反応混合物Lを超える量のグルコン酸カルシウムの製造に十分な量で反応混合物に添加される。反応混合物に添加されるカルシウム塩基の全量は、40℃にてグルコン酸カルシウム単独によって得られる3.6g/Lを超えるカルシウムイオン濃度に相当する。
【0045】
反応は、緩衝させなくてもよいし、または当業者に入手可能な好適なバッファーを用いて緩衝させてもよい。変換反応の間、反応混合物のpHは、好ましくは3〜9の間、より好ましくは4〜6の間に維持される。
【0046】
アエレーションは、酸素または別の好適な酸素供給源、例えば、空気でのバブリングによって達成してもよい。反応混合物における酸素分圧は、反応装置で過度の圧力をかけることにより高めることができる。有利に使用できる溶解酸素分圧(DOT)は、好ましくは50%より高く、より好ましくは70%より高く、最も好ましくは80%より高いものである。
【0047】
変換の進行は、反応器に添加される中和用の塩基の量などの反応物質の消費をモニタリングすることによって、または酸素消費速度をモニタリングすることによって追跡してもよい。十分に高レベルのグルコン酸が生成した時に反応を停止させてもよいし、または全てのグルコースが変換されるまで続けて行ってもよい。
【0048】
変換完了後、または十分なグルコン酸カルシウムが生成した時に、酵素を反応混合物から除去することが好ましい。反応混合物からの酵素の除去は、当技術分野において公知のいずれの好適な方法によって行ってもよい。本発明の好ましい実施態様によれば、40℃を超える、好ましくは50℃を超える温度に加熱することにより酵素を不活性化し、沈降させる。沈降した酵素の除去は、遠心分離によって行うことができる。酵素沈降物は、濾過によってかなり有利に除去できる。
【0049】
次いで、グルコン酸カルシウムを含む、透明な酵素不含の反応混合物を乾燥させてグルコン酸塩を得てもよい。本発明の好ましい実施態様によれば、グルコン酸カルシウムを含む液体を、当技術分野で公知の方法を用いて噴霧乾燥させる。本発明の他の好ましい実施態様によれば、グルコン酸カルシウム塩は、グルコン酸カルシウム塩と乳酸カルシウム塩との乾燥混合物として得られる。所望により、混合物を当業者に公知の方法によって脱色してもよい。
【0050】
本発明による方法によれば、グルコン酸塩と食品への使用が許容される有機酸塩との重量比5:95〜95:5の混合物を得ることができる。これらの混合物の有利な具体例としては、グルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの混合物、グルコン酸カルシウムと乳酸マグネシウムとの混合物、グルコン酸カルシウムとクエン酸カルシウムとの混合物、グルコン酸カルシウムとクエン酸マグネシウムとの混合物、グルコン酸カルシウムとリンゴ酸カルシウムとの混合物、およびグルコン酸カルシウムとリンゴ酸マグネシウムとの混合物が挙げられる。また、1種以上の有機酸を、酵素反応の間、またはその後のいずれかに添加される反応混合物中のそれらのミネラル塩基とともに使用できる。しかしながら、所望により、本発明によって製造されたグルコン酸カルシウムを、例えば、食品への使用が許容される有機酸塩の除去によってさらに精製してもよい。
【0051】
以下、本発明を非限定的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0052】
分析方法
分析
カルシウムおよびマグネシウムは、原子吸光分析法によって測定した。グルコネートおよびラクテートは、HPLCによって測定した。還元糖は、Luff Schoorlによって評価し、グルコース%/乾燥重量gで示した。屈折率は、ブリックス計によって測定した。
【0053】
グルコースオキシダーゼ−カタラーゼ(GOC/Cat)
全ての試験において、市販の調製物であるGenencor InternationalのOxyGO 1500を用いた。この酵素調製物は、製造業者によれば、≧1500滴定単位グルコースオキシダーゼ/mlおよび≧400ベーカー(Baker)単位カタラーゼ/mlを含有するものであった。
【0054】
酵素反応条件
酵素反応は全て、自動のpH制御、アルカリ添加(設定値 pH=5.0)および温度制御(35℃に設定)を備えた実験室発酵槽(Applikon)で実施した。DOT(溶解酸素分圧)は、気流(1〜2リットル/分)およびインペラー速度(600〜1250RPM)の自動制御によって、80%に設定した。反応は、酸素およびアルカリの消費速度によってモニタリングした。
【0055】
実施例1:グルコン酸/乳酸カルシウムの製造
溶液は、237.6gのグルコース・HO、60gの乳酸(90%)および516.6gの脱塩水を発酵槽に添加して調製した。乳酸は、自動pH制御および10%(w/v)Ca(OH)懸濁液を用いて、pH5.0に達するまで中和した。Ca(OH)は合計180mlを要した。
【0056】
酵素反応は3.0mlのGOD/Catの添加によって開始し、これと同時に、グルコースからグルコン酸への酸化的変換による酸素およびアルカリの消費が起こった。酵素反応の間に生成したグルコン酸の中和には、10%(w/v)のCa(OH)懸濁液を用いた。11.5時間後に反応が完了したが、これはアルカリおよび酸素の消費の終了によって示された。酵素反応の間に462mlのCa(OH)が消費された。その後、反応混合物を80℃で30分間加熱して酵素の不活性化を行った。この結果、添加した酵素調製物由来のタンパク性物質の沈殿が生じた。次いで、液体を周囲温度に冷却し、pHをCa(OH)の添加によって6.8に合わせた。続いて、この混合物をSeitzデプス型フィルターで濾過し、沈殿したタンパク質を除去した。
【0057】
結果として、乳酸グルコン酸カルシウムを含有する透明無色の液体が得られた。このブリックス24°の溶液は、0.6Mカルシウム(24g/L)、0.4Mラクテート(36g/L)および0.8Mグルコネート(156g/L)を含有していた。
【0058】
上記の溶液を噴霧乾燥させ、結果として、以下の組成を有する白色の粉末が得られた:
水分: 3.62%;
カルシウム: 10.26%;
ラクテート: 658mg/g(正味量);
グルコネート:125mg/g(正味量);
還元糖: 0.23% 。
【0059】
実施例2:グルコン酸/乳酸カルシウムの製造
実施例2で記載したものと同様の実験において、酵素反応の間に、より高濃度の乳酸グルコン酸カルシウムが得られた。
【0060】
溶液は、279gのグルコース・HO、75gの乳酸(90%)および271gの脱塩水を発酵槽に添加して調製した。乳酸は、240mlの水酸化カルシウム懸濁液を用いて中和した。酵素的変換は2.25mlのGOD/Catの添加によって開始し、18時間後にこの酵素0.1mlを追加で添加した。全酵素反応時間は21時間であり、その間に生じたグルコン酸の中和に560mlのCa(OH)を用いた。
【0061】
このようにして得られた溶液は、0.75Mカルシウム(30g/L)、0.5Mラクテート(44.5g/L)および1.0Mグルコネート(195g/L)を含有しており、したがって、約270g/Lの乾燥物を含有していた。
【0062】
実施例2で記載したとおり、加熱および濾過の後、液体を4℃で一晩保存したが、目に見える結晶化の徴候は全くなかった。続いて、この溶液を噴霧乾燥させ、結果として、実施例2で記載したものとほぼ同じ組成を有する以下の組成の白色の粉末が得られた。
【0063】
実施例3:グルコン酸カルシウム/乳酸マグネシウムの製造
349.2gのグルコース・1HO、140.4gの乳酸(90%)および688gの脱塩水を発酵槽に添加した。乳酸は、自動pH制御および20%(w/v)のMg(OH)懸濁液を用いて、pH5.0に達するまで中和した。乳酸の中和には、204gのMg(OH)懸濁液を要した。
【0064】
酵素反応は3.0mlのGOD/Catの添加によって開始した。酵素反応の間に生成したグルコン酸の中和には20%(w/v)のCaCO懸濁液を用いた。19.5時間後に追加の0.5mlグルコースオキシダーゼを反応装置に添加し、これを21.5時間および22.5時間の時点においても繰り返した。24時間後に反応が完了したが、これはアルカリおよび酸素の消費の終了によって示された。酵素反応の間に386.1mlのCaCOが消費された。
【0065】
実施例2で記載したとおり、加熱および濾過の後、透明無色の液体を噴霧乾燥させ、結果として、以下の組成を有する白色の粉末が得られた:
水分: 7.4%;
カルシウム: 70.4mg/g(正味量);
マグネシウム:22.8mg/g(正味量);
ラクテート: 161mg/g (正味量);
グルコネート:572mg/g (正味量);
還元糖: 0.23% 。
【0066】
実施例4:発酵による乳酸カルシウム/酵素作用によるグルコン酸カルシウム
一容器反応において、乳酸カルシウムをグルコースから発酵により製造し、その後、グルコースからグルコン酸カルシウムへの酵素的変換を行った。この目的を達するために、ラクトバチルス・ラムノサスATCC10863株を用いて発酵を行った。発酵槽に257.5gのグルコース・1HO、20gの酵母抽出物と、最終量2000mlまでの水を添加した。発酵は、一晩、嫌気的に増殖させた、ラクトバチルス・ラムノサスATCC10863株、4.6%のグルコース、3%の酵母抽出物、2.5%のCaCOおよび0.1%のMnCL・4HOを含む100mlの予備培養物の添加によって開始した。発酵の間、反応温度は37℃に設定し、pHは、20%(W/V)のCa(OH)懸濁液を用いて生成した乳酸を中和することにより5.7に合わせた。インペラー速度は100RPMに設定し、アエレーションは用いなかった。発酵の間に440gのCa(OH)懸濁液を用いた。24時間後、細菌を不活性化するために反応混合物を70℃で30分間加熱して反応を停止させた。
【0067】
次の酵素反応は、847.5gのグルコース・1HO、452.5gのHOおよび8mlのGOD/Catの発酵ブロスへの添加により行った。アエレーションは上述のように行った(「酵素反応条件」を参照)。酵素反応の22.5時間後、23.5時間後および24.5時間後に追加分のグルコースオキシダーゼ、それぞれ2ml、2mlおよび1mlを添加した。反応は26.5時間で終了した。酵素反応の間に合計819.1gのCa(OH)懸濁液を用いた。
【0068】
得られたブロスは、細菌バイオマスを除去するために遠心分離によって処理した。この上清を80℃で30分間加熱し、その間に、溶液を脱色するために10g/lの活性炭で処理した。Seitzデプス型フィルターによって濾過した後に、わずかに黄色味を帯びた透明の液体を得、これを噴霧乾燥させた。
【0069】
得られた白色粉末は以下の組成を有していた:
水分: 4.6%;
カルシウム: 103mg/g(正味量);
ラクテート: 156mg/g(正味量);
グルコネート:643mg/g(正味量);
還元糖: 0.29% 。
【0070】
実施例5:高ラクテート比のグルコン酸カルシウム−乳酸カルシウムの製造
溶液は、275gのグルコース・HOおよび750gの脱塩水を発酵槽に添加して調製した。反応は、3mlのGOD/Catの添加によって開始した。同時に、50%乳酸溶液(274gの90%乳酸と220gの脱塩水とを合わせて製造した)を流速30ml/時間でのポンピングにより発酵槽にゆっくりと添加した。全ての乳酸の添加に22時間を要した。
【0071】
自動pH制御および25%(w/v)のCaCO懸濁液によって、酵素反応によって生成したグルコン酸およびゆっくりと添加した乳酸の両方を中和し、全工程を通じてpH5.0に維持した。
【0072】
酵素反応は28時間後に完了したが、これはアルカリおよび酸素の消費の終了によって示された。この工程の間に合計820gの炭酸カルシウム懸濁液を添加した。次いで、溶液のpHを7.0に合わせ、実施例1で記載したとおり、加熱して濾過した。
【0073】
得られた透明無色の溶液は、3.9Mカルシウム、1.3Mラクテートおよび0.66Mグルコネート(156g/lカルシウム、117g/lラクテート、129g/lグルコネート)を含有していた。
【0074】
実施例6:グルコン酸/乳酸/クエン酸カルシウムの製造
実施例2の酵素反応による方法に従って、約28%の乾燥物を含有するグルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムとの高濃縮溶液を製造した。この混合物に活性炭を添加した後、これを90℃に加熱して酵素を不活性化し、沈殿させた。その後、この混合物を40℃に冷却した。
【0075】
この混合物2kgに、250gのクエン酸一水和物および200gのCaCOを、連続して攪拌しながら添加した。CO生成が終わった後、溶液をSeitzデプス型フィルターで濾過した。得られたほぼ無色の透明溶液は約38%の乾燥物を含有し、そのpHは5.2であった。
【0076】
この溶液を噴霧乾燥させ、結果として、白色の粉末(グルコン酸/乳酸/クエン酸カルシウム)が得られた。この粉末は、乾燥物に対し、水分量は7.2%、カルシウム含有量は15.3%であった。この粉末は冷水に完全に溶解した。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明の一つの実施態様によるグルコン酸カルシウムの製造に関与する反応式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸カルシウムの製造方法であって、
食品への使用が許容される少なくとも1種の有機酸塩および水を含み、かつ、カルシウム塩基が添加される反応混合物中における、グルコースからグルコン酸への酵素的変換、およびその後のグルコン酸からグルコン酸カルシウムへの変換を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記酵素的変換が、グルコースオキシダーゼおよびカタラーゼを用いて行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルコン酸カルシウムが、反応混合物において40g/Lより高い濃度で製造され、かつ、実質的に完全に溶解される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記グルコン酸カルシウムが、反応混合物において100g/Lより高い濃度で製造され、かつ、実質的に完全に溶解される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記グルコン酸カルシウムが、反応混合物において200g/Lより高い濃度で製造され、かつ、実質的に完全に溶解される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
食品への使用が許容される少なくとも1種の有機酸塩が、乳酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩が乳酸塩である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記乳酸塩が結晶性乳酸塩として添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の有機酸塩として、グルコン酸、乳酸、クエン酸およびカルシウム塩基の組み合わせが用いられる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の前記乳酸塩が、アルカリ金属塩基および/またはアルカリ土類金属塩基による乳酸の中和によって得られるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記乳酸が、嫌気性細菌による炭水化物の変換によって得られるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記炭水化物がグルコースである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
食品への使用が許容される少なくとも1種の有機酸塩がカルシウム塩である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記酵素的変換が0〜50℃の間の温度で行なわれる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素的変換が30〜40℃の間の温度で行なわれる、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素的変換が3〜9の間のpHで行なわれる、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素的変換が4〜6の間のpHで行なわれる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記カルシウム塩基が、40℃にてグルコン酸カルシウム単独によって得られる3.6g/Lを超えるカルシウムイオン終濃度に相当する量で反応混合物に添加される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記カルシウム塩基が水酸化カルシウムである、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
酵素が、熱沈降およびその後の濾過によって反応混合物から除去される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記水を噴霧乾燥によって除去することにより、グルコン酸塩/有機酸塩混合物を得る、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記グルコン酸塩/有機酸塩混合物が所望により脱色される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法によって得られる、グルコン酸塩/有機酸塩混合物。
【請求項24】
グルコン酸塩と有機酸塩とが5:95〜95:5の重量比で存在する、請求項23に記載のグルコン酸塩/有機酸塩混合物。
【請求項25】
前記有機酸塩がクエン酸塩またはリンゴ酸塩である、請求項23または24に記載のグルコン酸塩/有機酸塩混合物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−220630(P2010−220630A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149068(P2010−149068)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【分割の表示】特願2003−534605(P2003−534605)の分割
【原出願日】平成14年10月7日(2002.10.7)
【出願人】(593078556)
【Fターム(参考)】