説明

グロープラグ及びその製造方法

【課題】従来に比べて耐熱性及び耐久性の向上を図ることのできるグロープラグ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシーズ管と、先端が前記シーズ管内に位置し、後端が前記シーズ管の後端側へ突出するリード部材と、抵抗発熱線からなり、前記シーズ管内に配設されるとともに、先端が前記シーズ管の先端と電気的に接続され、後端が前記リード部材と電気的に接続された発熱コイルと、を有するシーズヒータを用いたグロープラグである。前記発熱コイルは、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37mass%含む合金からなり、かつ、前記シーズ管の外側表面にタングステンが存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに使用されるグロープラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジンの始動補助等に使用されるグロープラグとして、先端部の閉じた金属製のチューブ(シーズ管)内に、鉄(Fe)・クロム(Cr)・アルミニウム(Al)合金等からなる発熱コイルを封入したシーズヒータを用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−158431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなグロープラグでは、使用温度の高温化と急速昇温性が要求されている。このため、従来から使用されている鉄(Fe)・クロム(Cr)・アルミニウム(Al)合金からなる発熱コイルでは、耐久性が十分とはいえなくなってきた。
【0005】
これに対し、ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金は、還元雰囲気下では鉄(Fe)・クロム(Cr)・アルミニウム(Al)合金よりも耐久性に優れた材料である。よって、この材料を発熱コイルとして用いると、グロープラグの使用温度の高温化と急速昇温性が向上する。しかし、ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金は、非常に酸化され易いため、ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金から発熱コイルを構成した場合、シーズ管内に酸素が侵入しないようにする必要がある。また、シーズ管と発熱コイルとを溶接接合した際に、発熱コイル材料のタングステン(W)がシーズ管の構成部材中に拡散し、シーズ管が酸化し易くなって、その耐熱性及び耐久性が低下してしまう可能性があり、ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金からなる発熱コイルを用いてグロープラグの耐熱性及び耐久性を向上させることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたものである。本発明は、従来に比べて耐熱性及び耐久性の向上を図ることのできるグロープラグ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグロープラグの一態様は、軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシーズ管と、先端が前記シーズ管内に位置し、後端が前記シーズ管の後端側へ突出するリード部材と、抵抗発熱線からなり、前記シーズ管内に配設されるとともに、先端が前記シーズ管の先端と電気的に接続され、後端が前記リード部材と電気的に接続された発熱コイルと、を有するシーズヒータを用いたグロープラグであって、前記発熱コイルは、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37mass%含む合金からなり、かつ、前記シーズ管の外側表面にタングステンが存在しないことを特徴とする。
【0008】
本発明のグロープラグでは、発熱コイルは、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37mass%含む合金から構成されている。このような発熱コイルを用いることによって、鉄(Fe)・クロム(Cr)・アルミニウム(Al)合金からなる発熱コイルを用いた場合に比べて、より耐久性の向上を図ることができる。ここで、タングステンの含有量を10〜37mass%としたのは、次のような理由による。すなわち、体積抵抗率と融点からタングステンの含有量は少なくとも10mass%以上とする必要があり、かつ、必要な加工性を得るためには、タングステンの含有量は37mass%以下とする必要があるからである。
【0009】
また、本発明のグロープラグでは、シーズ管の外側表面にタングステンが存在しないので、シーズ管表面にタングステンが存在することによってシーズ管が酸化され易くなることがなく、耐熱性及び耐久性が低下することを防止することができる。ここで、「シーズ管の外側表面にタングステンが存在しない」とは、シーズ管の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)で測定した際に、タングステンの存在量がその測定限界以下又はゼロでその存在量を測定することができないことを示している。なお、エネルギー分散型X線分光装置の測定限界は、0.1mass%程度である。
【0010】
本発明のグロープラグでは、シーズ管の先端から後端側1mmまでのタングステン(W)の含有量が1mass%以下とされている構成とすることが好ましい。これによって、シーズ管が酸化されることをより確実に防止することができる。
【0011】
上記のように、シーズ管の外側表面にタングステンが存在しない構成、及びシーズ管の先端から1mmまでのタングステンの含有量が1mass%以下とされている構成とするためには、例えば、発熱コイルとシーズ管が、タングステンの含有量が1mass%以下の金属線を介して接合されている構成を採用することができる。このように、タングステンの含有量が1mass%以下の金属線を介して発熱コイルとシーズ管とを接合することにより、発熱コイルに含有されるタングステンがシーズ管の構成部材内に拡散することを防止することができる。
【0012】
この場合、金属線の線径を、発熱コイルの線径の1.0〜2.0倍の範囲内とすることが好ましい。金属線の線径が発熱コイルの線径の1.0倍未満の場合、金属線の部分の強度不十分となったり、金属線の部分に発熱の集中が発生する等の問題が起きる虞がある。また、金属線の線径が発熱コイルの線径の2.0倍を超えると、溶接に必要なエネルギーが大きくなるとともに、シーズ管に対する発熱コイルの軸方向の傾きを調整することが難しくなる。
【0013】
上記のように、金属線を介して発熱コイルとシーズ管とを接合する場合、発熱コイルの先端に金属線を接合する工程と、金属線が接合された発熱コイルをシーズ管内に挿入し、シーズ管の先端部に形成された開口に金属線の先端部を挿入して金属線とシーズ管とを溶融接合する工程とを具備したグロープラグの製造方法を用いることができる。この場合、シーズ管の先端部に形成された開口の直径は、金属線の線径より0.4mm以上大きくすることが好ましい。これによって、シーズ管に対する発熱コイルの軸方向の傾きを容易に調整することができる。
【0014】
また、シーズ管の外側表面にタングステンが存在しない構成、及びシーズ管の先端から1mmまでのタングステンの含有量が1%以下とされている構成とするためには、例えば、シーズ管を発熱コイルよりも融点の低い金属から構成し、シーズ管と発熱コイルとを直接接合した構成としてもよい。このような構成とすることにより、発熱コイルを溶融させずにシーズ管のみを溶融させてこれらを接合することができ、発熱コイルに含有されるタングステンが、シーズ管を構成する部材中に拡散することを抑制することができる。この場合、シーズ管が、発熱コイルよりも100℃以上融点の低い金属からなる構成とすることが好ましい。
【0015】
また、上記構成のグロープラグを製造する場合、シーズ管内に発熱コイルを挿入し、発熱コイルの先端とシーズ管の内側先端部とを圧接させた状態で、シーズ管の先端部をシーズ管の融点以上発熱コイルの融点以下の温度に加熱し、シーズ管と発熱コイルとを接合するグロープラグの製造方法を用いることができる。この場合、シーズ管として、先端開口を溶接又は塑性加工によって閉塞したもの、又は板材から成形した底付きのものを用いることができる。
【0016】
上記の本発明の各グロープラグにおいて、シーズ管は、クロム(Cr)を24〜30mass%、炭素(C)を0.05〜0.30mass%、アルミニウム(Al)を1.8〜2.4mass%、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb)のうちの1種類以上を0.1〜0.3mass%含むニッケル基合金からなる構成とすることが好ましい。
【0017】
クロム(Cr)の含有量の下限を24mass%としたのは、高温耐酸化性を確保するためであり、上限を30mass%としたのは、冷間加工性を確保するためである。すなわち、クロム(Cr)の含有量を24mass%未満とすると、十分な高温耐酸化性を得ることができなくなり、クロム(Cr)の含有量を30mass%より多くとすると、十分な冷間加工性が得られなくなるためである。
【0018】
炭素(C)の含有量の下限を0.05mass%としたのは、高温強度を確保するためであり、上限を0.3mass%としたのは、冷間加工性と高温耐酸化性を確保するためである。すなわち、炭素(C)の含有量を0.05mass%未満とすると、十分な高温強度を得ることができなくなり、炭素(C)の含有量を0.3mass%より多くとすると、十分な冷間加工性と高温耐酸化性が得られなくなるためである。
【0019】
アルミニウム(Al)の含有量の下限を1.8mass%としたのは、高温耐酸化性を確保するためであり、上限を2.4mass%としたのは、NiAlの過剰な生成を回避するためである。すなわち、アルミニウム(Al)の含有量を1.8mass%未満とすると、十分な高温耐酸化性を得ることができなくなり、アルミニウム(Al)の含有量を2.4mass%より多くとすると、NiAlが過剰に生成されるためである。
【0020】
チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb)のうちの1種類以上の含有量の下限を0.1mass%としたのは、高温クリープ強度を確保するためであり、上限を0.3mass%としたのは、冷間加工性を確保するためである。すなわち、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb)のうちの1種類以上の含有量を、0.1mass%未満とすると、十分な高温クリープ強度を得ることができなくなり、0.3mass%より多くとすると、十分な冷間加工性が得られなくなるためである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来に比べて耐熱性及び耐久性の向上を図ることのできるグロープラグ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るグロープラグの概略構成を示す図。
【図2】図1のグロープラグの断面概略構成を示す図。
【図3】図1のグロープラグの要部断面概略構成を示す図。
【図4】本発明の一実施形態に係るグロープラグの製造方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の詳細を、図面を参照して実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態にかかるグロープラグ1の全体概略構成を示す図であり、図2はグロープラグ1の縦断面概略構成を示す図である。
【0025】
図1、図2に示すように、グロープラグ1は、筒状の主体金具2と、主体金具2に装着されたシーズヒータ3とを備えている。
【0026】
主体金具2には、軸線C方向に貫通する軸孔4が形成されている。また、主体金具2の外周面には、ディーゼルエンジンへの取付用のねじ部5と、トルクレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部6とが形成されている。
【0027】
シーズヒータ3は、シーズ管7とリード部材としての中軸8とが軸線C方向に一体化されて構成されている。
【0028】
図3に示すように、シーズ管7は、先端部が閉じた金属製の筒状のチューブから構成されている。本実施形態において、このシーズ管7は、クロム(Cr)を24〜30mass%、炭素(C)を0.05〜0.30mass%、アルミニウム(Al)を1.8〜2.4mass%、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb)のうちの1種類以上を0.1〜0.3mass%含むニッケル基合金から構成されている。かかるニッケル基合金としては、例えば、ドイツ工業規格(DIN)で規定されたDIN2.4633(alloy602)の合金がこれに相当する。
【0029】
シーズ管7の内側には、シーズ管7先端に後述する金属線21を介して接合される発熱コイル9と、当該発熱コイル9の後端に直列接続された制御コイル10とが酸化マグネシウム粉末等の絶縁粉末11とともに封入されている。本実施形態において、発熱コイル9は、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37mass%(本実施形態では33mass%)含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)から構成されている。
【0030】
シーズ管7と発熱コイル9とは、その先端側において、金属線21を介して接合されている。この金属線21は、タングステン(W)の含有量が1mass%以下の材料によって構成することが好ましく、本実施形態では、シーズ管7と同一のニッケル基合金から構成されている。このように、金属線21を介してシーズ管7と発熱コイル9とを接続することによって、発熱コイル9を直接シーズ管7と溶融接合する場合に比べて、発熱コイル9中に含まれるタングステン(W)がシーズ管7を構成する材料中に拡散することを抑制することができる。金属線21の長さは、例えば、1〜2mm程度とすることが好ましく、本実施形態では約1.5mmとなっている。
【0031】
上記のように、シーズ管7と発熱コイル9とを金属線21を介して接合することによって、本実施形態では、シーズ管7の外側表面にタングステン(W)が存在しない構成となっている。なお、「シーズ管7の外側表面にタングステン(W)が存在しない」とは、前述したとおり、シーズ管7の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)で測定した際に、タングステン(W)の存在量がその測定限界以下で、測定することができないことを示している。
【0032】
また、上記のように、シーズ管7と発熱コイル9とを金属線21を介して接合することによって、本実施形態では、シーズ管7の先端から後端側1mmまでの部分(図3に示す矢印で挟まれた部分A)のタングステン(W)の含有量が1mass%以下となっている。
【0033】
上記のように本実施形態では、シーズ管の7外側表面にタングステン(W)が存在しない構成となっているので、シーズ管7の表面にタングステン(W)が存在することによってシーズ管7が酸化され易くなることがなく、これによって耐熱性及び耐久性が低下することを防止することができる。さらに、本実施形態では、シーズ管7の先端から後端側1mmまでのタングステン(W)の含有量が1mass%以下となっているので、より確実にシーズ管7が酸化され易くなることを防止できる。
【0034】
さらに、シーズ管7の後端は、中軸8との間で環状ゴム17により封止されている。加えて、前述のように、発熱コイル9は、その先端においてシーズ管7と導通しているが、発熱コイル9及び制御コイル10の外周面とシーズ管7の内周面とは、絶縁粉末11の介在により絶縁された状態となっている。発熱コイル9と制御コイル10とは、後端側接合部位22によって接合されている。
【0035】
制御コイル10は、発熱コイル9の材質よりも電気比抵抗の温度係数が大きい材質、例えば、コバルト(Co)−ニッケル(Ni)−Fe系合金等に代表されるCo又はNiを主成分とする抵抗発熱線により構成されている。発熱コイル9は通電によって発熱し、シーズ管7の表面温度を所定の温度まで昇温させ、制御コイル10は発熱コイル9の過昇温を生じにくくすることができるようになっている。
【0036】
また、シーズ管7には、スウェージング加工等によって、その先端部に発熱コイル9等を収容する小径部7aが形成されるとともに、その後端側において小径部7aよりも径の大きい大径部7bが形成されている。そして、図2に示すように、この大径部7bが、主体金具2の軸孔4に形成された小径部4aに対し圧入接合されることにより、シーズ管7が主体金具2の先端より突出した状態で保持される。
【0037】
図3に示すように、中軸8は、自身の先端がシーズ管7内に挿入され、制御コイル10の後端と電気的に接続さている。また、中軸8は、主体金具2の軸孔4に挿通されている。中軸8の後端は主体金具2の後端から突出しており、この主体金具2の後端部においては、図2に示すように、ゴム製等のOリング12、樹脂製等の絶縁ブッシュ13、絶縁ブッシュ13の脱落を防止するための押さえリング14、及び、通電ケーブル接続用のナット15がこの順序で中軸8に嵌め込まれた構造となっている。
【0038】
次に上記のように構成されてなるグロープラグ1の製造方法について説明する。
【0039】
まず、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を33mass%含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)の抵抗発熱線をコイル形状に加工し、発熱コイル9を得る。
【0040】
次いで、Co−Ni−Fe系合金等の抵抗発熱線をコイル形状に加工し、制御コイル10を得る。そして、発熱コイル9の先端部分に、タングステン(W)の含有量が1mass%以下の材料(例えば、シーズ管7と同一のニッケル基合金)からなる金属線21を接合するとともに、発熱コイル9の後端部分と、制御コイル10の先端部分とを、後端側接合部位22においてアーク溶接等によって接合する。
【0041】
次に、最終寸法より加工代分だけ大径に形成され、かつ、先端の閉じていない筒状のシーズ管7内に、中軸8の先端と、当該中軸8と一体となった発熱コイル9及び制御コイル10とが配置される。そして、アーク溶接によって、シーズ管7の先端部分を閉塞させるとともに、当該シーズ管7の先端部分と金属線21とを接合する。
【0042】
その後、シーズ管7内に絶縁粉末11を充填した後、当該シーズ管7にスウェージング加工を施す。これにより、大径部7aを有するシーズ管7が形成されるとともに、当該シーズ管7が中軸8と一体となってシーズヒータ3が完成する。
【0043】
そして、上記のように形成されたシーズヒータ3が主体金具2の軸孔4に圧入固定されるとともに、主体金具2の後端部分において、Oリング12や絶縁ブッシュ13等が中軸8に嵌め込まれることで、グロープラグ1が完成する。
【0044】
このようにして、本実施形態では、従来に比べて耐熱性及び耐久性の向上したグロープラグを得ることができる。
【0045】
上記実施形態では、発熱コイル9の先端部分に、タングステン(W)の含有量が1mass%以下の材料からなる金属線21を接合し、この金属線21とシーズ管7とを接合することによって、発熱コイル9中のタングステン(W)がシーズ管7の表面にまで拡散することを防止している。一方、上記の金属線21を用いることなく、以下のようにして発熱コイル9中のタングステン(W)がシーズ管7の表面にまで拡散することを防止してもよい。
【0046】
すなわち、シーズ管7を発熱コイル9よりも融点の低い金属から構成し、発熱コイル9を溶融させずにシーズ管7のみを溶融させてこれらを直接接合した構成としてもよい。この場合、図4に示すように、先端の閉じている筒状のシーズ管7内に、中軸8の先端と、当該中軸8と一体となった発熱コイル9及び制御コイル10とを配置する。そして、発熱コイル9の先端が、シーズ管7先端の内壁に当接された状態とし、発熱コイル9に荷重を加えた状態(発熱コイル9の先端をシーズ管7端の内壁に圧接させた状態)でシーズ管7の先端部をプラズマアーク等でシーズ管7の融点以上、発熱コイル9の融点以下で加熱し、発熱コイル9を溶融させずにシーズ管7のみを溶融させて発熱コイル9とシーズ管7とを接合する。
【0047】
この場合、シーズ管7を、発熱コイル9よりも100℃以上融点の低い金属から構成することが好ましい。発熱コイル9を、例えばニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を33mass%含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)から構成し、シーズ管7を、例えば前述したDIN2.4633(alloy602)に相当するニッケル基合金から構成すると、発熱コイル9の材料の融点がおよそ1520℃、シーズ管7の材料の融点がおよそ1400℃となり、シーズ管7の材料の融点が発熱コイル9の材料の融点より約120℃低くなるので、このような組み合わせを好適に用いることができ、この間の温度(例えば、1450℃)で加熱することで、発熱コイル9とシーズ管7とを接合できる。
【0048】
なお、この場合、上記したとおり、先端の閉じている筒状のシーズ管7、つまり、先端開口を溶接又は塑性加工によって閉塞したシーズ管7、又は板材から成形した底付きのシーズ管7を用いる。
【0049】
実施例1として、以下のようにしてシーズヒータ3を作製した。ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を33mass%含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)(融点およそ1520℃)からなり、線径(直径)が0.4mmの線材から発熱コイル9を構成した。この発熱コイルの先端に、前述したDIN2.4633(alloy602)に相当するニッケル基合金(融点およそ1400℃)からなる線径(直径)が0.5mm、長さが1.5mmの金属線21を接合し、この金属線21の先端を、金属線21と同一の材料からなるシーズ管7の先端開口部(開口径1mm)に設置し、プラズマアーク溶接によってシーズ管7の先端開口部を閉塞するとともに、シーズ管7と金属線21の先端とを接合しシーズヒータ3を作製した。
【0050】
実施例2として、以下のようにしてシーズヒータ3を作製した。ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を33mass%含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)(融点およそ1520℃)からなり、線径(直径)が0.4mmの線材から発熱コイル9を構成した。これとともに、前述したDIN2.4633(alloy602)に相当するニッケル基合金(融点およそ1400℃)から、深絞り加工によって先端が閉塞されている形状のシーズ管7を作製した。このシーズ管7内に、発熱コイル9を設置してその先端部をシーズ管7先端の内側壁部分に当接させ、発熱コイル9の後端側から荷重をかけた状態で、シーズ管7の先端をプラズマアークで加熱(1450℃)し、発熱コイル9を溶融させず、融点の低いシーズ管7のみを溶融してシーズ管7と発熱コイル9とを接合し、シーズヒータ3を作製した。
【0051】
比較例1として、以下のようにしてシーズヒータ3を作製した。カンタル(Fe25Cr5Al)(融点およそ1520℃)からなり、線径(直径)が0.4mmの線材から発熱コイル9を構成した。前述したDIN2.4633(alloy602)に相当するニッケル基合金(融点およそ1400℃)からなるシーズ管7の先端開口部(開口径1mm)に、この発熱コイル9の先端を設置し、プラズマアーク溶接によってシーズ管7の先端開口部を閉塞するとともに、シーズ管7と発熱コイル9の先端とを接合しシーズヒータ3を作製した。
【0052】
比較例2として、以下のようにしてシーズヒータ3を作製した。ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を33mass%含む合金(ニッケル(Ni)・タングステン(W)合金)(融点およそ1520℃)からなり、線径(直径)が0.4mmの線材から発熱コイル9を構成した。前述したDIN2.4633(alloy602)に相当するニッケル基合金(融点およそ1400℃)からなるシーズ管7の先端開口部(開口径1mm)に、この発熱コイル9の先端を設置し、プラズマアーク溶接によってシーズ管7の先端開口部を閉塞するとともに、シーズ管7と発熱コイル9の先端とを接合しシーズヒータ3を作製した。
【0053】
上記の実施例1,2、比較例1,2について、机上通電サイクル試験を行った。通電サイクルは、シーズ管7の表面温度が2秒間で1000℃に到達するように電圧を印加し、その後、シーズ管7の表面温度が1100℃になるように3分間通電し、この後室温で放冷するというサイクルであり、発熱コイルが断線するまでのサイクル数を寿命とし、その良否を判定した。この結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示されるとおり、実施例1では、断線寿命が7700サイクル、実施例2で断線寿命が7100サイクルであった。これに対して、比較例1では、断線寿命が4900サイクル、比較例2では、断線寿命が4300サイクルであり、実施例1,2と、比較例1,2とでは、明らかに断線寿命に差があることが分かった。
【0056】
なお、本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能であることは、勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1……グロープラグ、2……主体金具、3……シーズヒータ、7……シーズ管、9……発熱コイル、10……制御コイル、21……金属線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びるとともに先端部が閉塞した筒状のシーズ管と、
先端が前記シーズ管内に位置し、後端が前記シーズ管の後端側へ突出するリード部材と、
抵抗発熱線からなり、前記シーズ管内に配設されるとともに、先端が前記シーズ管の先端と電気的に接続され、後端が前記リード部材と電気的に接続された発熱コイルと、
を有するシーズヒータを用いたグロープラグであって、
前記発熱コイルは、ニッケル(Ni)を主成分とし、タングステン(W)を10〜37mass%含む合金からなり、
かつ、前記シーズ管の外側表面にタングステン(W)が存在しない
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項2】
請求項1記載のグロープラグであって、
前記シーズ管の先端から後端側1mmまでのタングステン(W)の含有量が1mass%以下とされている
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のグロープラグであって、
前記発熱コイルと前記シーズ管は、タングステン(W)の含有量が1mass%以下の金属線を介して接合されている
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項4】
請求項3記載のグロープラグであって、
前記金属線の線径が、前記発熱コイルの線径の1.0〜2.0倍の範囲内である
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項5】
請求項1又は2記載のグロープラグであって、
前記シーズ管は、前記発熱コイルよりも融点の低い金属からなり、当該シーズ管と前記発熱コイルとが直接接合されている
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項6】
請求項5記載のグロープラグであって、
前記シーズ管が、前記発熱コイルよりも100℃以上融点の低い金属からなる
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項記載のグロープラグであって、
前記シーズ管は、クロム(Cr)を24〜30mass%、炭素(C)を0.05〜0.30mass%、アルミニウム(Al)を1.8〜2.4mass%、チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb)のうちの1種類以上を0.1〜0.3mass%含むニッケル基合金からなる
ことを特徴とするグロープラグ。
【請求項8】
請求項3又は4記載のグロープラグの製造方法であって、
前記発熱コイルの先端に前記金属線を接合する工程と、
前記金属線が接合された前記発熱コイルを前記シーズ管内に挿入し、前記シーズ管の先端部に形成された開口に前記金属線の先端部を挿入して前記金属線と前記シーズ管とを溶融接合する工程と、
を具備することを特徴とするグロープラグの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載のグロープラグの製造方法であって、
前記開口の直径は、前記金属線の線径より0.4mm以上大きい
ことを特徴とするグロープラグの製造方法。
【請求項10】
請求項5又は6記載のグロープラグの製造方法であって、
前記シーズ管内に前記発熱コイルを挿入し、前記発熱コイルの先端と前記シーズ管の内側先端部とを圧接させた状態で、前記シーズ管の先端部を前記シーズ管の融点以上前記発熱コイルの融点以下の温度に加熱し、前記シーズ管と前記発熱コイルとを接合する
ことを特徴とするグロープラグの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載のグロープラグの製造方法であって、
前記シーズ管として、先端開口を溶接又は塑性加工によって閉塞したもの、又は板材から成形した底付きのものを用いる
ことを特徴とするグロープラグの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−57820(P2012−57820A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198536(P2010−198536)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】