説明

ケイ素含有固体金属材料の分析装置及び分析方法

【課題】ケイ素含有固体金属材料中に含有するケイ素その他の成分を、簡便な装置および操作により分析または定量する。
【解決手段】金属材料10に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理手段12と、金属材料10を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させる塩基処理手段16と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理手段22とで処理された後に測定手段または装置28により成分分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有固体金属材料の分析装置及び分析方法に関する。より詳細には、鉄を含有する金属材料中のケイ素含有量を定量する、分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼(鋼とも称する)や鋳鉄などのように、鉄を含有する金属材料が、工業用原料として広く知られている。これらの金属材料は、全質量の90質量%程度以上を占める主成分の鉄と、一般には炭素とを含み、さらにケイ素やニッケル、クロム、マンガン、その他の元素を必要に応じて微量含んでいる。鉄を含有する金属材料においては一般に、上述したような種々の元素の配合割合を変化させることにより、種々の機械的特性を得ることが可能となるため、その用途に応じて好適な元素配合比を有する鉄含有金属材料を使用することが望ましい。
【0003】
一般にケイ素含有の有無やケイ素含有量の多寡は、上述したような鉄を含有する金属材料の、例えば耐摩耗性や粘性などの材料特性に相関があることが知られており、この金属材料のケイ素含有量を測定することにより、ある程度の材料特性を推定することが可能である。また、ケイ素含有量と材料特性との相関から、所望の材料特性を有する新たな鉄含有金属材料を設計することも可能である。このため、このような金属材料中のケイ素含有量を精度良く定量することが必要とされている。
【0004】
種々の物質中のケイ素またはケイ素化合物の量を定量する技術として、例えば特許文献1〜3が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−12800号公報
【特許文献2】特開2004−69413号公報
【特許文献3】特開2005−195551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、特許文献1〜3に記載された測定方法はいずれも、特定の物質中のシリコン含有量またはシリコン中の不純物の含有量に関するものであり、これをそのまま鉄を含有する金属材料におけるケイ素の定量に用いることは非常に困難である。鉄を含有する金属材料中のケイ素の定量については一般に、JIS G1212に規定する測定方法に準拠して行なわれる。
【0007】
JIS G1212には、大別すると2つの方法、すなわち二酸化ケイ素重量法およびモリブドケイ酸青吸光光度法を用いたケイ素定量方法が収載されている。モリブドケイ酸青吸光光度法は、適用可能なケイ素含有率の範囲が質量基準で0.01〜1.0%と狭いため、より適用範囲の広い二酸化ケイ素重量法が好適に適用される。以下、二酸化ケイ素重量法によるケイ素定量方法の概略について述べる。
【0008】
図4は、二酸化ケイ素重量法によるケイ素定量方法の一例について示した概略図である。ステップS400において、所定量の測定試料を秤量した後、ステップS402において酸溶解を行なう。このとき用いられる酸は、例えば硝酸と塩酸との組み合わせなどのように、含有する元素に応じて適切な酸を組み合わせて用いることが可能である。反応終了後、ステップS404にすすむ。
【0009】
ステップS404において、過塩素酸を添加、加熱して白煙処理を行ない、ケイ素化合物を形成させた後にステップS408にすすむが、測定試料にクロムを含有している場合には、必要に応じて一旦ステップS406にすすみ、塩酸を加えて加熱し、クロムを除去した後でステップS408にすすむ。
【0010】
ステップS408では、処理容器中のケイ素化合物を回収する。このとき、ケイ素化合物として、酸可溶性ケイ素化合物および含水二酸化ケイ素を含有しており、これらを回収し、ステップS410においてろ過する。ステップS410においては、灰分既知のろ紙が用いられ、ろ紙上の含水二酸化ケイ素と酸可溶性ケイ素化合物を含有するろ液とに分けられる。ろ液中のケイ素化合物は酸処理され、固形のケイ素化合物が得られる。これも別のろ紙にてろ過される。
【0011】
ステップS410において回収された不純二酸化ケイ素は、ろ紙とともにるつぼ中に入れられ、ステップS412において灰化される。強熱、放冷後、硫酸を加えて加熱され、強熱され、さらに恒量になるまで強熱される。デシケータ内で放冷後、ステップS414にすすみ、内容物をるつぼごと秤量する。さらにるつぼ中の内容物をフッ化水素酸と硫酸で処理し(ステップS416)、強熱して二酸化ケイ素を揮散させ(ステップS418)た後、秤量する(ステップS420)。ステップS400,S414,S420で得られた秤量値と、空試験により得られた秤量値を元にして、測定試料中のケイ素含有量が求められる(ステップS422)。
【0012】
図4に示すケイ素定量方法によれば、ある程度の熟練により高い精度の測定結果が得られるが、場合によっては以下の<1>〜<6>に挙げるようないくつかの問題点がある。
【0013】
<1>白煙処理により生成したケイ素化合物が容器の壁面や底面に付着してしまい、ステップS408におけるケイ素化合物の完全回収が困難となり、誤差要因となり得る。
【0014】
<2>ステップS416において使用するフッ化水素酸は腐食性が非常に強いため、場合によっては使用する器具の劣化の可能性があり、また接触により人体に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0015】
<3>工程が多いため、誤差要因が多くなるばかりでなく、測定に費やす時間が長くなる。
【0016】
<4>ステップS404の白煙処理において、終点の見極めが困難であるため、誤差を生じやすい。また、白煙処理中に突沸し、ケイ素化合物が飛散し、誤差が生じる可能性がある。
【0017】
<5>高いクロム含有率(概ね1.5%程度以上)を有する場合には、ステップS406の工程がさらに必要となり、工程が増加する。また、突沸によりケイ素化合物が飛散し、誤差が生じる可能性がある。
【0018】
<6>測定試料として概ね1〜5g程度必要であるため、1g以下の微量分析には適合しない。
【0019】
本発明は、簡便な操作により、測定試料中に含有する所望の元素量を測定することが可能となるケイ素含有固体金属材料の処理方法、およびこの方法を適用し得る処理装置を提供する。
【0020】
本発明はさらに、簡便な操作により、従来と同等またはそれ以上の測定精度を有するケイ素含有固体金属材料中の成分分析方法、およびこの方法を適用し得る成分分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0022】
(1)ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させるケイ酸塩形成手段と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、を備える、ケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【0023】
(2)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる手段と、を備える、ケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【0024】
(3)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する手段と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、を備える、ケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【0025】
(4)ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させるケイ酸塩形成手段と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させるイオン形成手段と、金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定手段と、を備える、ケイ素含有固体金属材料の成分分析装置。
【0026】
(5)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる手段と、金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定手段と、を備える、ケイ素含有固体金属材料の成分分析装置。
【0027】
(6)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する手段と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、ケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有するケイ素量またはケイ素含有イオン量を測定するケイ素測定手段と、を備える、固体金属材料のケイ素含有量分析装置。
【0028】
(7)上記(6)に記載のケイ素含有量分析装置において、前記固体金属材料は、鉄鋼である、ケイ素含有量分析装置。
【0029】
(8)上記(6)または(7)に記載のケイ素含有量分析装置において、前記塩基は、水酸化ナトリウム水溶液である、ケイ素含有量分析装置。
【0030】
(9)上記(6)から(8)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析装置において、前記第1の酸および前記第2の酸は、塩酸と硝酸とを含む、ケイ素含有量分析装置。
【0031】
(10)上記(6)から(9)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析装置において、前記第2の酸が、前記第1の酸よりも低濃度である、ケイ素含有量分析装置。
【0032】
(11)上記(6)から(10)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析装置において、前記ケイ素量測定手段が、誘導結合プラズマ発光分光分析装置である、ケイ素含有量分析装置。
【0033】
(12)ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させる第2の工程と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第3の工程と、を有する、ケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【0034】
(13)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、を有する、ケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【0035】
(14)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する沈殿除去工程と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、を有する、ケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【0036】
(15)ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させる第2の工程と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第3の工程と、金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する第4の工程と、を有する、ケイ素含有固体金属材料の成分分析方法。
【0037】
(16)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料を秤量する秤量工程と、前記固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定工程と、を有し、前記秤量工程で得られた秤量値と前記測定工程で得られた測定値に基づいて固体金属材料中の成分含有量を算出する、ケイ素含有固体金属材料の成分分析方法。
【0038】
(17)ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料を秤量する秤量工程と、前記固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する沈殿除去工程と、ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、ケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有するケイ素量またはケイ素含有イオン量を測定するケイ素測定工程と、を有し、前記秤量工程で得られた秤量値と前記ケイ素測定工程で得られた測定値に基づいて固体金属材料中のケイ素含有量を算出する、固体金属材料のケイ素含有量分析方法。
【0039】
(18)上記(17)に記載のケイ素含有量分析方法において、前記固体金属材料は、鉄鋼である、ケイ素含有量分析方法。
【0040】
(19)上記(17)または(18)に記載のケイ素含有量分析方法において、前記塩基は、水酸化ナトリウム水溶液である、ケイ素含有量分析方法。
【0041】
(20)上記(17)から(19)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析方法において、前記第1の酸および前記第2の酸は、塩酸と硝酸とを含む、ケイ素含有量分析方法。
【0042】
(21)上記(17)から(20)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析方法において、前記第2の酸が、前記第1の酸よりも低濃度である、ケイ素含有量分析方法。
【0043】
(22)上記(17)から(21)のいずれか1つに記載のケイ素含有量分析方法において、前記ケイ素量測定工程が、誘導結合プラズマ発光分光分析法を適用する工程である、ケイ素含有量分析方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、ケイ素含有固体金属材料中に含有するケイ素その他の成分を、簡便な装置および操作により分析または定量することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0046】
図1は、本発明の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【0047】
図1において、処理装置50は、第1の酸処理手段12と、塩基処理手段16と、第2の酸処理手段22とを備えている。
【0048】
第1の酸処理手段12は、第1の酸添加部14と、反応部30とを有している。第1の酸添加部14は、反応部30に送られた所定量のケイ素含有固体金属材料(以下、金属材料または被験試料ともいう)10に所定量の酸を添加する。酸を添加された金属材料10は、金属成分が酸溶解し、液状となる。一方、炭素やケイ素化合物など、一部の成分は溶液に溶けずに残っている。酸と金属との反応により水素ガスが発生するので、必要に応じてガス回収機構またはガス吸着部材を設けて、外部への水素ガスの漏出を防止することも好適である。また、反応を促進させるために、反応部30またはその近傍に必要に応じて加熱機構や震盪機構を設けても良い。
【0049】
塩基処理手段16は、塩基添加部18と、反応部32とを有している。第1の酸処理手段12において金属成分を酸溶解させた金属材料溶液が反応部32に送られると、塩基添加部18により所定量の塩基が添加される。金属材料溶液中のケイ素化合物は、添加された塩基との反応によりケイ酸塩を生成し、溶解する。このとき、使用する金属材料の種類によっては金属水酸化物の沈殿を生成する。生じる沈殿に、測定に供する元素を含有しないことが明らかな場合には、必要に応じてこの沈殿を沈殿除去部20により除去しても良い。沈殿除去部20は、処理装置50に常設しておいても良く、または処理装置50とは別体として所望のときにのみ用いる構成としても良い。
【0050】
第2の酸処理手段22は、第2の酸添加部24と、反応部34とを有している。第2の酸添加部24は、反応部34に送られた塩基性の金属材料溶液に所定量の酸を添加する。このとき、金属化合物の沈殿を再度溶解させることができるが、添加する酸の濃度によってはケイ酸塩がゲル化してしまうことがあるため、高濃度の酸の使用は好ましくない。金属化合物の沈殿が溶解し、かつケイ酸塩がゲル化せず、ケイ酸イオンを形成させる適切な酸濃度を有する酸を予め調製しておき、これを所定量添加すると良い。
【0051】
金属材料10に含まれる金属成分およびケイ素を溶解させた、金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液は、不溶成分除去部26にて処理が行なわれ、炭素などの不溶成分が除去される。ただし、前述した沈殿除去部20での処理を行なった場合には、省略することも可能である。不溶成分除去部26は、ろ過または吸着などにより、不溶成分を除去することができる。
【0052】
図1に示すように、処理装置50において上述の各処理を行なうことにより、ケイ素含有固体金属材料中に含有するケイ素その他の成分を定量することが可能となる。ただし、ケイ素含有固体金属材料中に含有する成分のうち、沈殿除去部20で除去された金属成分や、沈殿除去部20または不溶成分除去部26において除去される炭素は除外される。
【0053】
処理装置50により得られた溶液は、測定装置28にて測定することが可能である。測定装置28は、溶液中に含有する複数の成分種を定性的に分析するものでも良く、溶液中に含有する少なくとも1つの成分濃度を定量的に分析することにより、金属材料10中に含有する成分量を定量可能とするものでも良い。なお、金属材料10中に含有する成分量を定量可能とする場合には、第1の酸処理手段12での処理の前に予め金属材料10の質量を秤量しておく必要がある。またこのとき、必要に応じて、測定装置28に導入する前に、例えば得られた溶液に適切な溶媒(例えば、イオン交換水など)を加えて定容とする処理(メスアップ)を施しても良い。
【0054】
図1に示す測定装置28として、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置、ICP質量分析装置、原子吸光分析装置、分光光度法による比色分析装置などが好適に用いられるが、複数の成分を一斉に定量することが可能な、ICP発光分光分析装置がより好適である。また、ICP発光分光分析装置を測定部28として処理装置50に組み合わせて、成分分析装置100として一体化することも好適である。
【0055】
本実施の形態において、測定装置または測定部28により、試料溶液中の各成分濃度が測定される。得られた各成分の濃度に基づいて、金属材料10中のケイ素および/または金属成分の含有量を算出することが可能となる。本実施の形態の変形例として、図1に示す成分分析装置100に図示しないデータ処理部を設けて、金属材料10の秤量値および測定装置または測定部28から、金属材料10中のケイ素および/または金属成分の含有量を自動的に算出可能とすることも可能である。
【0056】
図1に示す本実施の形態において、処理装置50および/または成分分析装置100における各処理は、各手段および/または部においてそれぞれ一括の処理を行なういわゆるバッチ処理が好ましい。また、反応部30,32,34は別の部位であっても良く、また同じ部位または容器であっても良い。すなわち、金属材料10は、処理装置50内を手動または自動で搬送されながら順にバッチ処理されても良く、また第1の酸添加部14、塩基添加部18および第2の酸添加部24が移動しながら順に処理しても良く、さらにいずれも所定の部位に常時固定されていても良い。
【0057】
なお、図1に示す本実施の形態において、沈殿除去部20および不溶成分除去部26を除き、処理装置50内の、少なくとも金属材料10およびその処理溶液等に曝される部位については、薬剤に対する耐性および撥水性の高い、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が好適に使用される。
【0058】
図2は、本発明の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理方法および分析方法を例示する概略図である。
【0059】
まずステップS200において、試料を秤量する。本実施の形態において好適に適用することの可能な試料は、ケイ素含有固体金属材料であり、例えば、鉄、銅、ニッケル、クロム、マグネシウム、アルミニウムなどを高配合するケイ素含有固体金属材料が挙げられる。ケイ素含有固体金属材料からの被験試料の採取は、切削、破砕、粉砕など、いかなる方法によるものでも良い。例えば鉄を含むケイ素含有固体金属材料を試料とする場合には、JIS G0417に基づく、いかなる採取方法を適用しても良く、さらに必要に応じて、秤量前に必要な前処理を施しても良い。
【0060】
ステップS200において、一回の測定に使用する試料は少量で良く、例えば0.1〜1.0g程度で適宜設定することが可能であるが、測定する含有成分量や要求される測定精度、測定機器の感度などにより、適宜はかり取り量を設定して良い。つまり、はかり取り量として、例えば0.1g以下、1.0g以上に設定変更することも可能である。なお、質量比で0.1〜5%程度のケイ素を含有する鉄鋼を測定試料とする場合を例に挙げると、好適には0.5g程度の試料で測定に供することが可能である。ステップS200は、以下に示すステップS202の操作を行なう容器上で行っても良く、また薬包紙等で予め秤量したものを移し入れても良い。
【0061】
次に、ステップS202にすすみ、第1の酸処理を行なう。ここでは所定量の酸を用いて試料中の金属成分を溶解する。反応を促進させるため、必要に応じて加熱しても良いが、突沸や沸騰による飛散を防止するために、例えば100℃〜120℃以下程度に制御することが好ましく、さらに必要に応じて蓋などが設けられた閉容器内で処理することが好ましい。試料中の金属成分を溶解可能なものであればいかなる酸を用いても良いが、より少量にて溶解可能な酸が好ましい。ただし、溶液の流動性がある程度確保できることが好ましく、試料の質量1に対し例えば1〜20倍程度の酸で溶解できるように酸溶液を調製することができる。用いる酸は一種のみでも良く、また複数の酸を組み合わせても良いが、一般には複数の酸からなる酸の混合物が用いられる。このような酸として、無機酸または鉱酸、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、過酸化水素、リン酸、過塩素酸などが挙げられ、試料中に含有する金属成分の組成により適宜選択することが可能である。特に塩酸と硝酸の組み合わせは、大部分の金属成分組成を有するケイ素含有固体金属材料に適用可能であるため、好ましい。なお、リン酸と過塩素酸との組み合わせは、ニッケルやクロムを主成分とする金属材料において好適に用い得る組み合わせである。
【0062】
ステップS202において、試料中の金属成分が完全に溶解した後も、含有する炭素やケイ素化合物が溶けずに溶液中に存在しているため、目視にて溶解を確認することは困難である場合が多い。金属成分として鉄を高配合する金属材料の場合には、例えば溶液に磁石を接近させることに伴う、不溶成分の挙動の変化の有無により、不溶成分に鉄を含有しないことを確認することが可能であるが、このような方法は通常、他の金属成分の溶解の判定に適用することは困難である。そこで、事前に酸溶解に要する酸濃度及び/または量を確認しておき、少なくともそれ以上の酸を添加するようにすると良い。このようにして決定された、酸溶解に十分な量の酸を添加した場合の反応の終了は、例えば、水素ガスなどの発生に伴う、いわゆる反応泡の消失により確認することができる。
【0063】
次に、ステップS204にすすみ、塩基処理を行なう。ここでは所定量の塩基を用いて試料中のケイ素化合物を溶解する。反応を促進させるため、必要に応じて加熱しても良いが、突沸や沸騰による飛散を防止するために、例えば100℃〜120℃以下程度に制御することが好ましく、さらに必要に応じて蓋などが設けられた閉容器内で処理することが好ましい。例えば、ステップS202において使用した反応容器をそのまま用いることも可能である。試料溶液中のケイ素化合物を溶解可能なものであればいかなる塩基を用いても良いが、より少量にて溶解可能な塩基が好ましい。試料溶液中のケイ素化合物を溶解可能な塩基として、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、およびこれらの水溶液が挙げられるが、ケイ素化合物との反応性がより高く、また反応時にCOが発生しない水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。特に水酸化ナトリウムは、高純度の市販品があることや、中和後に生成する塩の量が少ないため、より好適である。保存安定性を確保し、また過激な反応を回避するために、例えば上述した塩基を適当な濃度に希釈した水溶液などを用いることが好ましい。ステップS200において秤量した試料の質量1に対し例えば1〜20倍程度の塩基で溶解できるように塩基濃度を調製することができる。
【0064】
ステップS204において、ケイ酸化合物を含み、金属成分を溶解させた溶液中に塩基を添加すると、上述したケイ酸塩を生成するとともに、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や、アルミニウム、亜鉛などの両性金属など、一部の金属を除き、大部分は不溶化し、金属水酸化物の沈殿を生じている。このため、反応の終了は目視による観察では不明であるため、所定の反応時間を確保し(例えば10分間の加熱など)、確実に反応を完了させるようにする。
【0065】
次にステップS206にすすみ、第2の酸処理を行なう。ここでは所定量の酸を用いて試料中の大部分の成分を溶解する。反応を促進させるため、必要に応じて加熱しても良いが、突沸や沸騰による飛散を防止するために、例えば100℃〜120℃以下程度に制御することが好ましく、さらに必要に応じて蓋などが設けられた閉容器内で処理することが好ましい。例えば、ステップS204において使用した反応容器をそのまま用いることも可能である。炭素を除く試料中の成分を溶解可能なものであればいかなる酸を用いても良いが、ステップS204で用いた酸と同じものを用いると、事前に用意すべき試薬の種類が増大せずに済むため、好ましい。ただし、ステップS202では使用する酸の量を極力低減させることが好ましいため、あまり希釈していない高濃度の酸を用いたのに対し、ステップS206で用いる酸は、あまり高濃度にしてしまうとゲル化し、不溶化してしまうため、注意が必要である。一般にはステップS202で用いた酸の濃度よりも低くしておくことが好ましいが、あまり希釈してしまうと使用する酸の量が増加してしまうため、適切な酸濃度としておくことが好ましい。このとき、複数の酸を組み合わせて使用するような場合には、例えば使用する複数の酸を混合させた後に所望な酸濃度となるように希釈して使用しても良いし、また一部の酸のみを希釈して使用しても良く、使用する酸の組み合わせおよびその濃度および添加量の決定方法に制限はないが、予め適用し得る酸を例えば予備実験などにより決定しておくことが好ましい。
【0066】
このように、ステップS206を終了した時点では、試料を各ステップにて溶解させた溶液中には金属イオンとケイ酸イオンとを含み、一般に不溶成分は炭素を含むごくわずかの成分のみである。ステップ208にすすみ、溶液中の不溶成分を除去する。
【0067】
ステップ208において、溶液中の不溶成分の除去は一般にろ過により行なう。このステップにおいて除去される不溶成分は通常、残渣として廃棄されるのみであるため、例えばろ紙やメンブランフィルタなど、通常ろ過材として用い得るものであればあらゆるものを使用しても良い。ただし、少なくとも耐酸性を有し、また金属イオンやケイ酸イオンなどの溶存成分に対し、吸着性や反応性を有しないことが必要である。また、必要に応じて複数のろ過材を組み合わせても良い。なお、試料中に炭素を含有せず、ステップS206を終了した時点で溶液中に不溶成分が認められない場合には、ステップ208を省略することも可能である。
【0068】
このように、ケイ素含有固体金属材料の処理が行なわれた、金属イオンやケイ酸イオンを含有する溶液は、ステップS210にすすみ、測定にかけられる。ステップS200において、試料の質量を正確に秤量しており、ステップS210では通常、測定試料溶液中の成分濃度を定量分析により測定し、金属材料中の各成分の含有量を測定するが、場合によっては含有成分のみを確認する定性分析を行なうことも可能である。ステップS210において測定し得る成分は、溶液中に溶存している金属イオンやケイ酸イオンである。ただし、ステップS202〜ステップS206において添加された成分、例えば、ナトリウムおよび/またはカリウムなどについては、誤差を生じる場合があるため、高精度の定量は困難であるため、通常は測定対象から除外される。
【0069】
ステップS210において、固体金属材料中に含有するケイ素など、ある特定の成分のみを定量しようとする場合には、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、原子吸光分析装置、分光光度法による比色分析装置など、どのような装置による測定であっても測定の手間や測定精度にはそれほど差異はないが、ケイ素含有固体金属材料中に含有する複数の成分を同時に定量したい場合には通常、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、原子吸光分析装置などが用いられる。ステップS210の実施に際し、必要に応じて、例えば検量線作成用の標準液など、適用する測定方法に応じた、適切な試薬が準備・調製される。
【0070】
このように、図2のステップS200〜ステップS210に示す分析方法によれば、白煙処理やフッ化水素酸処理などの特殊な操作や、強熱後の恒量など、長時間にわたる操作が不要であり、簡便な装置および操作によってケイ素含有固体金属材料中に含有するケイ素その他の成分を定量することが可能となる。
【0071】
図3は、本発明の他の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理方法および分析方法を例示する概略図である。図3において、ステップS300、ステップS302およびステップS304については、図2に示したステップS200、ステップS202およびステップS204とそれぞれ同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0072】
図3に示す、ステップS304の塩基処理の工程において、ケイ酸化合物を含み、金属成分を溶解させた溶液中に塩基を添加すると、溶解性のケイ酸塩を生成するとともに、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や、アルミニウム、亜鉛などの両性金属など、一部の金属を除き、大部分は不溶化し、金属水酸化物の沈殿を生じている。そこで、ステップS306にすすみ、不溶化した金属水酸化物の沈殿を除去すると、沈殿及び炭素が除去された処理溶液中にはケイ素含有固体金属材料由来のケイ酸塩および両性金属が、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属とともに溶液中に残存しているのみである。すなわち、金属水酸化物の沈殿を生じさせたケイ素含有固体金属材料中の金属材料由来の金属イオンが除去されることにより、沈殿が除去された後の溶液中に残存するケイ酸塩や両性金属イオンの相対的な含有率が上昇する。すなわち、図3に示す本実施の形態は、図2に示す方法と比較して、ケイ素および/または両性金属の含有量が低い場合においても公的に定量することが可能となる、高感度分析として適用することが可能である。ステップS306において除去することが可能な金属の量にもよるが、本実施の形態によれば、図2に示す処理及び分析方法において好適に測定し得る測定値の下限と比較して、例えば1オーダー低い、すなわち1/10程度の低含有量である場合についても、精度良く測定することが十分可能である。
【0073】
ステップ306において、溶液中の金属水酸化物の沈殿の除去は一般にろ過により行なう。このステップにおいて除去される不溶成分は、残渣として廃棄される場合には、例えばろ紙やメンブランフィルタなど、通常ろ過材として用い得るものであればあらゆるものを使用して良く、また、他の方法による分析に供される場合には、定量ろ紙などの使用が好適である。ただし、いずれの場合についても、少なくとも耐塩基性を有し、また溶液中に溶存している金属イオンやケイ酸イオンなどに対し、吸着性や反応性を有しないことが必要である。また、沈殿の除去中に目詰まりを起こしてしまう不具合を防止するために、必要に応じて複数のろ過材を組み合わせても良い。ステップ306において、沈殿及び不溶成分が除去された後の溶液またはろ液は、ステップS308に供される。
【0074】
ステップS308において、第2の酸処理が行なわれる。図2に示したステップS206と同様に、所定量の酸を用いて試料中の成分を溶解する。用い得る酸の種類その他の注意点については、上述したステップS206とほぼ同様であり、詳細については省略する。図2に示したステップS206との相違点は、図3に示すステップS308においては、ステップS306で酸不溶成分が既に除去されていることにより、すべての成分が溶解する点である。また、金属水酸化物の沈殿を再び溶解させる必要がないため、図2に示したステップS206における酸添加量よりも少量にて酸処理を行なうことも可能であるが、一方、ケイ酸塩がゲル化しない程度の酸の添加であればある程度の量の増減は許容され、例えば、図2に示したステップS206における酸添加量と同量としても構わない。
【0075】
ステップS308において、被験試料である金属材料中のケイ素および両性金属が溶存した溶液は、ステップS310にすすみ、測定にかけられる。図2に示すステップS210とは異なり、測定し得る成分の種類は限られるが、より微量な含有成分を定量する場合にも、例えば秤量値を変えたり、濃縮操作を行なったりといった、図2に示した方法と異なる操作を必要とせず、簡易的に成分分析測定を行なうことが可能となる。ただし、本実施の形態の変形例として、秤量値の変更や濃縮/希釈操作を実施することは許容され、これらの操作を実施することにより、さらに広範囲の成分含有量における定量分析が可能となる。
【実施例】
【0076】
<試料および試薬>
実施例において使用する試料および試薬について、以下に示す。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」はいずれも質量基準である。
【0077】
測定試料として、含有する成分の標準含有量が既知である標準試料を用いた。使用した標準試料および含有成分の標準値について表1、表2にまとめた。Si以外の元素含有量についても併記した表1において、100%に満たない差分は、主成分として含有する鉄と、本法により測定不能の炭素である。また、表2において、Siを除く他の元素含有量については省略した。なお、表1、表2に示した数値単位はすべて質量%である。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
塩酸として、濃塩酸(HCl 37%=12mol・dm−3)(試薬1級、ナカライテスク社製)を使用した。なお、後述する試料の調製において、例えば塩酸(a+b)と示した場合は、濃塩酸a部を、b部の脱イオン水またはイオン交換水で希釈したことを表す。
【0081】
硝酸として、濃硝酸(HNO 69.3%=16mol・dm−3)(試薬1級、ナカライテスク社製)を使用した。
【0082】
水酸化ナトリウム水溶液として、水酸化ナトリウム(純度99%、ナカライテスク社製)を、同じ質量の脱イオン水と混合溶解したものを使用した。
【0083】
[実施例1]
図2に示した方法に従って、表1に示した3種類の標準試料(NBS 19g、NBS 341、NBS 342)を処理するとともに、各標準試料中の成分含有量を定量した。
【0084】
標準試料約0.5部を精秤し、用意したPTFE製の容器に入れた(図2のステップS200に相当)。次に、塩酸3容量部、硝酸2容量部および脱イオン水5容量部を混合した溶液10部を静かに加え、110〜120℃で約30分保持し、金属成分を完全に溶解させた(同ステップS202に相当)。これに水酸化ナトリウム水溶液を5部加え、温度を110〜120℃に保持したまま約5分放置した(同ステップS204に相当)。
【0085】
次に、図2のステップS206に相当する操作として、塩酸および硝酸を加え、酸処理を行なう。不溶性のシリカゲルを生じない、適切な酸の強度を確認するため、以下のような予備実験を行ない、塩酸の希釈濃度を決定した。
【0086】
(予備実験)
図2のステップS204に相当する、上記操作を終えた標準試料(ここではNBS 19gを使用)の溶解液に硝酸5mLを加えたものに、塩酸(濃塩酸および希釈液)を適量加えて酸性とする場合における、塩酸の添加量およびゲル化した沈殿の有無を確認し、その結果を表3に示した。濃塩酸を加えた場合にはゲル化したのに対し、塩酸(2+1)以上に希釈した場合には、ゲル化しなかった。一方、塩酸(1+3)よりも希釈倍率が大きくなると、添加する液量が多くなってしまうため、好ましくない。このため、本実施例においては、塩酸(1+2)の希釈液を用いることとした。また、他の標準試料を用いた場合にも、NBS 19gを使用した場合と同様の塩酸希釈液の使用が好適であった。
【0087】
【表3】

【0088】
上記予備実験により得られた結果を参考にして、図2のステップS204に相当する操作を終えた標準試料の溶解液に塩酸(1+2)30容量部、硝酸5容量部を混合した溶液35部を静かに加え、110〜120℃で約20分保持した(図2のステップS206に相当)。
【0089】
次に、ろ紙(5B)にてろ過を行ない、少量の脱イオン水にてろ紙を洗浄した(同ステップS208に相当)。このろ液に脱イオン水を加え、20〜25℃の室温にて定容にした。
【0090】
次に、ICP発光分光分析装置(ICP-S8100、島津製作所製)を用いて、元素分析を行なった。なお、測定条件、検量線溶液の作製方法は以下の通りである。
【0091】
<測定条件>
高周波出力 :1.2kW
測定時間 :10秒×3
アルゴンガス量:プラズマ 12L/分、補助 1.5L/分、キャリアガス 0.7L/分
定量法 :発光強度測定
分析線(単位nm):Si 251.61、Mn 257.61、P 178.29、Cr 267.72、Cu 327.4、Ni 231.6、Mo 262.03、V 311.07、Ti 334.94、Sn 189.99、Mg 279.55。
【0092】
<検量線溶液の作製方法>
純鉄(純度99.99%、ナカライテスク社製)0.5±0.005gをPTFE製ビーカーにとり、図2に示すステップS208に相当する操作(ろ過)を行なわないことを除き、実施例1と同様の操作を実施して、溶液を作製した。この溶液に市販の各単元素標準溶液(1000mg/L)を、対象元素の濃度が段階的となるよう、所定量添加し、最後に脱イオン水にて定容とし、検量線溶液とした。
【0093】
[比較例1]
従来法を適用して、実施例1と同様の標準試料を用いて定量分析を行なった。ケイ素イオンについてはJIS G−1212、二酸化ケイ素重量法(1)に、その他の金属(イオン)については、JIS G−1258に、それぞれ準拠して、測定を行なった。実施例1および比較例1により得られた結果を以下の表4〜表6に示した。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
[実施例2]
表2に示した4つの標準試料(JIS 120−1、BCS 481−1、NBS 342、JIS 650−2)について、測定対象とする元素をケイ素のみとしたことを除き、実施例1と同様の操作を行なって、各標準試料中のケイ素含有量を測定した。測定はいずれも日時を変えながらそれぞれ10回ずつ行ない、その最大値、最小値、平均値、範囲R、標準偏差σ、相対標準偏差RSDを表7に示した。いずれの標準試料を用いた場合にもRSDは1%未満となり、きわめて良好な精度であることが確認できた。
【0098】
[比較例2]
実施例2で使用したものと同じ標準試料を用いて、JIS G−1212−1997に記載された二酸化ケイ素重量法(1)に従い、各標準試料中のケイ素含有量を測定した。なお、各標準試料の秤量値は実施例2と同様に約0.5部とした。測定はいずれも日時を変えながらそれぞれ10回ずつ行ない、その最大値、最小値、平均値、範囲R、標準偏差σ、相対標準偏差RSDを表7に示した。
【0099】
【表7】

【0100】
実施例2と比較例2とにより得られた結果は、平均値にあまり差異はなく、いずれも標準値に対して良好な値を示したが、比較例2の方が測定値のばらつきが大きく、場合によっては測定誤差が大きくなる可能性があることが示唆された。
【0101】
[実施例3]
表2に示した3つの標準試料(A、B、C)について、実施例2と同様の操作を行なって、各標準試料中のケイ素含有量を測定した。1試料に対し4回ずつ繰り返し分析を行なった結果を表8に示す。
【0102】
【表8】

【0103】
表8によれば、金属材料中のケイ素含有量が少ない、高感度の測定が必要となるような場合でも、本実施例による金属材料の処理を行なうことにより、良好な測定精度が確保できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料中に含有する成分の定量または定性分析に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理装置および分析装置の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理方法および分析方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施の形態におけるケイ素含有固体金属材料の処理方法および分析方法を示すフローチャートである。
【図4】従来の鉄含有固体金属材料中のケイ素含有量の測定方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0106】
10 金属材料、12 第1の酸処理手段、14 第1の酸添加部、16 塩基処理手段、18 塩基添加部、20 沈殿除去部、22 第2の酸処理手段、24 第2の酸添加部、26 不溶成分除去部、28 測定手段または測定部、50 処理装置、100 成分分析装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させるケイ酸塩形成手段と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、
を備えることを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【請求項2】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる手段と、
を備えることを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【請求項3】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する手段と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、
を備えることを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理装置。
【請求項4】
ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させるケイ酸塩形成手段と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させるイオン形成手段と、
金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定手段と、
を備えることを特徴とするケイ素含有固体金属材料の成分分析装置。
【請求項5】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる手段と、
金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定手段と、
を備えることを特徴とするケイ素含有固体金属材料の成分分析装置。
【請求項6】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる酸溶解手段と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる手段と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する手段と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させるケイ酸イオン形成手段と、
ケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有するケイ素量またはケイ素含有イオン量を測定するケイ素測定手段と、
を備えることを特徴とする固体金属材料のケイ素含有量分析装置。
【請求項7】
請求項6に記載のケイ素含有量分析装置において、
前記固体金属材料は、鉄鋼であることを特徴とするケイ素含有量分析装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載のケイ素含有量分析装置において、
前記塩基は、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とするケイ素含有量分析装置。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析装置において、
前記第1の酸および前記第2の酸は、塩酸と硝酸とを含むことを特徴とするケイ素含有量分析装置。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析装置において、
前記第2の酸が、前記第1の酸よりも低濃度であることを特徴とするケイ素含有量分析装置。
【請求項11】
請求項6から10のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析装置において、
前記ケイ素量測定手段が、誘導結合プラズマ発光分光分析装置であることを特徴とするケイ素含有量分析装置。
【請求項12】
ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させる第2の工程と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第3の工程と、
を有することを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【請求項13】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、
を有することを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【請求項14】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する沈殿除去工程と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、
を有することを特徴とするケイ素含有固体金属材料の処理方法。
【請求項15】
ケイ素と金属成分とを含有する固体金属材料に酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、ケイ酸塩を形成させる第2の工程と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第3の工程と、
金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する第4の工程と、
を有することを特徴とするケイ素含有固体金属材料の成分分析方法。
【請求項16】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料を秤量する秤量工程と、
前記固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、金属イオンとケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、
金属イオンとケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有する少なくとも1つの元素量またはイオン量を測定する測定工程と、
を有し、
前記秤量工程で得られた秤量値と前記測定工程で得られた測定値に基づいて固体金属材料中の成分含有量を算出することを特徴とするケイ素含有固体金属材料の成分分析方法。
【請求項17】
ケイ素と、少なくとも鉄を含む金属成分と、を含有する固体金属材料を秤量する秤量工程と、
前記固体金属材料に第1の酸を添加し、金属成分を酸溶解させる第1の酸処理工程と、
金属成分を酸溶解させた金属材料溶液に塩基を添加し、水酸化鉄を含む金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを形成させる塩基処理工程と、
金属水酸化物の沈殿とケイ酸塩とを含む金属材料溶液から金属水酸化物の沈殿を除去する沈殿除去工程と、
ケイ酸塩を含む金属材料溶液に第2の酸を添加し、ケイ酸イオンを形成させる第2の酸処理工程と、
ケイ酸イオンを含む金属材料溶液中に含有するケイ素量またはケイ素含有イオン量を測定するケイ素測定工程と、
を有し、
前記秤量工程で得られた秤量値と前記ケイ素測定工程で得られた測定値に基づいて固体金属材料中のケイ素含有量を算出することを特徴とする固体金属材料のケイ素含有量分析方法。
【請求項18】
請求項17に記載のケイ素含有量分析方法において、
前記固体金属材料は、鉄鋼であることを特徴とするケイ素含有量分析方法。
【請求項19】
請求項17または18に記載のケイ素含有量分析方法において、
前記塩基は、水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とするケイ素含有量分析方法。
【請求項20】
請求項17から19のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析方法において、
前記第1の酸および前記第2の酸は、塩酸と硝酸とを含むことを特徴とするケイ素含有量分析方法。
【請求項21】
請求項17から20のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析方法において、
前記第2の酸が、前記第1の酸よりも低濃度であることを特徴とするケイ素含有量分析方法。
【請求項22】
請求項17から21のいずれか1項に記載のケイ素含有量分析方法において、
前記ケイ素量測定工程が、誘導結合プラズマ発光分光分析法を適用する工程であることを特徴とするケイ素含有量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128992(P2008−128992A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317817(P2006−317817)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】