説明

ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体及びその製造方法

【課題】ケイ酸塩で被覆された酸化マンガン複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、無機ケイ酸塩高分子が被覆された無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体を製造する方法であって、(1)ケイ素化合物水溶液と、アルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物水溶液を混合し、前駆体懸濁液を調製する、(2)上記工程で副生成した塩を除去する、(3)上記前駆体懸濁液に基材を入れ、水熱反応を行う、(4)上記(1)〜(3)により、表面に無機ケイ酸塩高分子を被覆した酸化マンガン複合体を合成する、ことを特徴とする無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の製造方法及びケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体に関するものであり、更に詳しくは、水熱反応を利用して、酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、ケイ酸塩無機高分子を被覆した、マンガン溶出抑制能力に優れた無機ケイ酸塩無機高分子−酸化マンガン複合体を合成する方法、及び、優れたマンガン溶出抑制能力を有する、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体に関するものである。
【0002】
本発明は、優れたマンガン溶出抑制能力を有する、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を、低コストで、かつ安全に、大量に製造することを可能とする、新しいケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の製造方法、及び該方法で作製されるケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
マンガン化合物は、様々な分野で利用されており、素材として重要になってきている。例えば、酸化マンガンは、マンガン/アルカリマンガン乾電池の正極材料や、有機合成分野での無機酸化触媒として利用されている。近年では、マンガン酸化物は、例えば、その結晶構造を利用して、二次電池の正極材料などとして注目されており、機能材料としての酸化マンガンの開発が世界的規模で行われている。
【0004】
マンガンは、資源的に豊富で安価な元素であること、高い安全性が期待されることから、実際に、車載用電池として一部実用化されており、低コスト正極としてのポテンシャルは十分にあり、特に、二次電池の正極材料として有望であり、多くの開発研究が行われている。
【0005】
しかし、マンガン酸化物を正極材料に用いた電池は、充放電サイクルの繰り返しに伴う構造変化による性能劣化の問題がある。これは、正極に用いたマンガン酸化物からマンガンが溶出することに起因する。
【0006】
そこで、例えば、マンガンの一部を他の元素で置換し、サイクル特性を改善することが提案されているが、いずれも技術的な限界がある。また、二次電池用の正極活物質であるマンガン酸化物や、コバルト酸化物に、共沈法によって金属複合酸化物を被覆する方法が知られている(特許文献1、2)。
【0007】
しかし、金属複合酸化物前駆体を、共沈法によって析出させる場合に、混合溶液の液性をアルカリ側に傾けなければならず、洗浄に大量の純水を要するため、製造コストが高くなる他、複合酸化物にナトリウム塩が不純物として残存しやすくなるため、好ましくない。そのため、副生成する不純物量を低減させる必要があり、当技術分野では、マンガンが溶出することを抑制可能とする新しい技術の開発が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−263176号公報
【特許文献2】特開2008−71623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、溶液の液性を中性領域に保持したまま金属酸化物を被覆する技術に関して、ケイ酸塩無機高分子を用いて、新しい酸化マンガン複合体及びその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、化学組成や細孔構造の制御されたケイ酸塩無機高分子が、優れたマンガン溶出抑制能力を有することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、化学組成や細孔構造の制御された、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の製造方法、及び当該方法で作製したケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、ケイ酸塩無機高分子が被覆された無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体及び製造する方法であって、
1)ケイ素化合物水溶液と、アルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物水溶液を混合し、前駆体懸濁液を調製する、
2)上記工程で副生成した塩を除去する、
3)上記前駆体懸濁液に基材を入れ、水熱反応を行う、
4)上記1)〜3)により、表面にケイ酸塩無機高分子を被覆した酸化マンガン複合体を合成する、
ことを特徴とするケイ酸塩無機高分子−酸化マンガン複合体の製造方法。
(2)基材が、酸化マンガン粒子であることを特徴とする、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(3)無機ケイ酸塩高分子が、アロフェン、又はイモゴライトの非晶質体ないし準結晶質体、から選ばれる1種又は2種以上からなるケイ酸塩の内から選ばれた少なくとも一種のケイ酸塩である、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(4)酸化マンガンの結晶構造が、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、又はラムスデライト型である、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(5)溶液の濃度が、それぞれ、1mmol/l〜10000mol/lのケイ素化合物溶液と、1mmol/l〜10000mol/lのアルミニウム化合物及び/又は遷移金属化合物溶液を混合する、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(6)ケイ素と、アルミニウム及び/又は遷移金属化合物のモル比率が、0.1〜5.0である、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(7)ケイ素化合物水溶液と、アルミニウム化合物及び/又は遷移金属化合物水溶液を分速1ml〜10000lで同時混合、あるいは両溶液を急速混合して、混合溶液を調製する、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(8)混合溶液の液性を、pH3からpH8に調整する、前記(6)に記載の複合体の製造方法。
(9)凝集阻止剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール又は界面活性剤の水溶性あるいは非水溶性の試剤を添加する、前記(6)に記載の複合体の製造方法。
(10)得られた前駆体懸濁液を0.1〜72時間、振盪した後、反応副生成物である塩を除去する、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(11)前駆体懸濁液に酸性溶液を添加して、pH3から6の弱酸性に調整し、生成されるケイ酸塩の形態を制御する、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(12)反応温度50〜130℃、反応時間12〜240時間の条件で、懸濁液の水分が蒸発しない方法で水熱反応を行う、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(13)反応終了後の懸濁液にアルカリ性水溶液を添加して、溶液の液性をpH8〜12に調整し、生成物をゲル状物質として凝集させて回収する、前記(1)に記載の複合体の製造方法。
(14)前記(1)に記載の方法で製造された、酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、ケイ酸塩無機高分子が被覆された無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体であって、基材が酸化マンガン粒子であり、無機ケイ酸塩高分子がアロフェン又はイモゴライトの非晶質体ないし準結晶質体であり、酸化マンガンの結晶構造が、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、又はラムスデライト型であり、(2×2)トンネル構造、(1×1)トンネル構造、(1×1)及び(2×1)トンネル構造の混晶体、(2×∞)層状構造、(1×2)トンネル構造を有し、二次電池正極材料として利用可能な性質を有することを特徴とする上記酸化マンガン複合体。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明では、酸化マンガンを被覆するための出発原料として、ケイ素化合物と、アルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物が用いられる。ケイ素源として使用される試剤は、モノケイ酸であればよく、具体的には、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸アルキル、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジルなど)などが好適なものとして挙げられる。
【0013】
これらのケイ酸化合物は、1種又は2種以上を併用して使用することができる。上記ケイ酸塩分子集合体と結合させるアルミニウム源としては、アルミニウムイオンであればよく、具体的には、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウムアルキル化合物などのアルミニウム化合物が好適なものとして挙げられる。
【0014】
また、遷移金属化合物源としては、それらのイオンであればよく、例えば、バナジウム、鉄、タングステン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウムなどの遷移金属化合物、例えば、それらの塩化物、硫化物、水酸化物、硝酸塩ならびに有機金属塩などが好適なものとして挙げられる。
【0015】
これらのアルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物は、1種又は2種以上を併用して使用することができる。これらのケイ素源と、アルミニウム源あるいは遷移金属源は、上記の化合物に制限されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0016】
本発明では、酸化マンガンからなる表面を持つ基材(担体)が用いられる。この基材としては、好適には、例えば、酸化マンガン粒子が例示されるが、これに制限されるものではなく、表面に酸化マンガンを有する基材であれば同様に使用することができる。
【0017】
酸化マンガン粒子としては、酸化マンガンの結晶構造が、例えば、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、及びラムスデライト型、非晶質のものであり、(2×2)トンネル構造、(1×1)トンネル構造、(1×1)及び(2×1)トンネル構造の混晶体、(2×∞)層状構造、(1×2)トンネル構造を有するものを使用することが可能である。本発明では、上記以外の結晶構造のものを除く場合がある。また、酸化マンガン粒子の粒径は、どのような大きさでもよいが、活性炭素などに練り込むことを考える場合は、サブミクロンの小さなものが好ましい。
【0018】
酸化マンガン粒子を被覆するための、これらの出発原料を、水に溶解して、1mmol/l〜10000mol/l濃度のケイ素化合物水溶液と、1mmol/l〜10000mol/l濃度のアルミニウム化合物あるいはバナジウム、鉄、タングステン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウムなどの遷移金属化合物などの1種類以上の水溶液を調製する。
【0019】
これらの溶液を、分速1ml〜10000lで、同時混合あるいは両溶液を急速混合して、混合溶液を得る。この時のケイ素/アルミニウムあるいは遷移金属化合物のモル比率は、0.1〜5.0程度が望ましく、化学組成を制御することで、細孔構造が制御される。モル比が0.1を下回ると、副生成物として、ベーマイトやギブサイトを生成し、また、5.0を上回ると、非晶質シリカが副生成物として多量に生成する。
【0020】
また、前駆体溶液の液性は、弱酸性から中性付近(pH3からpH8)程度が好ましく、好適にはpH6から8付近である。組成を制御する目的で、混合溶液のpHが大幅に上記領域よりずれる場合、液性を調製するために、酸成分として、塩酸、硝酸ならびに硫酸をあらかじめ遷移金属化合物溶液に計算して添加しておくか、又はアルカリ成分として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ成分をあらかじめケイ素化合物溶液に計算して添加しておくことも有効である。
【0021】
この時、凝集阻止剤として、ポリエチレングリコールやポリビニールアルコール、界面活性剤などの水溶性あるいは非水溶性の試剤を添加してもよい。このように、アルミニウム/遷移金属溶液に、ケイ素化合物溶液を混合した後、もしpHが弱酸性領域であれば、アルカリ性溶液を0.1から5ml/分の速度で滴下して、pHが中性付近になるように調製して、前駆体を生成させる。
【0022】
この時、前駆体の生成過程に滴下するアルカリ性溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水などが挙げられる。勿論、混合段階で溶液の液性が、中性付近のpH6.5から8の領域でも、前駆体は生成される。得られた前駆体懸濁液は、室温で0.1〜72時間程度振盪した後、反応副生成物である塩を除去する。その除去方法は特に制限されないが、好適には、例えば、限外濾過、遠心分離機による分離などで行うことができる。脱塩後、除去した量と同量の純水を添加し、よく分散させる。
【0023】
生成されるケイ酸塩の形態を制御するために、この時、もし必要であれば、その前駆体懸濁液に、酸性溶液を添加して、pHが3から6の弱酸性溶液、好適にはpH3.5から4.5付近になるような弱酸性に調整する。この時、使用する酸性溶液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、過塩素酸などが挙げられる。
【0024】
本発明のケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の製造方法は、表面が酸化マンガンで覆われている基材を、上記ケイ酸塩前駆体用いて、水熱反応を利用することにより、その表面に多孔質のケイ酸塩を生成させることを特徴とするものである。
【0025】
所定濃度の出発溶液より調製した前駆体懸濁液に、酸化マンガン粒子を浸積させ、所定の温度で加熱して反応させる。反応温度範囲は50〜130℃であり、反応時間は12〜240時間程度である。この時、懸濁液の水分が蒸発しないような方法で加熱熟成を行えばよく、例えば、反応装置として、オートクレーブをはじめとする密閉容器や、冷却管付きマントルヒーターなどを用いることができる。反応温度及び時間は、好適には、100℃前後で、48時間程度の条件が望ましい。
【0026】
反応終了後、得られた生成物は、そのまま、あるいは数回純水で洗浄、乾燥を行うことにより、ケイ酸塩で被覆された酸化マンガン複合体が合成される。得られた生成物は、無機化合物であるため、耐熱性が高く、比較的過酷な条件下で乾燥させることができるが、乾燥条件としては、常圧下、温度40〜100℃が好適である。
【0027】
この場合は、反応終了後の懸濁液にアルカリ性水溶液を添加することで、溶液の液性をpH8〜12程度に調整し、生成物をゲル状物質として凝集させて回収してもよい。この時用いられるアルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水などが挙げられる。更に、その後、アルカリ溶液で凝集したゲル状生成物を遠心分離器や半透膜を用いて回収することもできる。
【0028】
凝集阻止剤を添加しているのであれば、乾燥終了後、200℃以下の温度で、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの有機溶媒で、1時間以上抽出除去するかあるいは、空気中300〜600℃、保持時間1〜8時間の加熱処理を行うことにより、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体が得られる。
【0029】
本発明では、無機ケイ酸塩として、好適には、アロフェン、イモゴライト及びそれらの類似物の非晶質体ないし準結晶質体が挙げられる。それにより、球状又はチューブ状のアロフェン又はイモゴライトを酸化マンガンに被覆した酸化マンガン複合体を合成し、提供することが可能となる。
【0030】
上記方法により、反応条件や、被覆するケイ素化合物と他の金属元素化合物の比率を制御することにより、被覆膜の物性を変化させた、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を合成することができる。
【0031】
ケイ酸塩無機高分子として、アロフェンを担持させる方法及び条件の一例を示すと、例えば、100mmol/lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液と100mmol/lの塩化アルミニウム水溶液を調製する。それぞれをSi/Al比が0.75となるように秤量し、塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を添加する。この時の混合溶液の液性がpH4〜7付近になることが望ましく、十分に撹拌して、前駆体懸濁液を生成する。
【0032】
液性が酸性側に移行するときには、前駆体懸濁液は、透明な溶液へと変化するが、その後、水酸化ナトリウム水溶液を1ml/分程度でゆっくり添加して、液性をpH6〜7付近まで調整すると、前駆体は生成する。前駆体の生成と同時に塩化ナトリウムが副生成するので、それを遠心分離などを用いて除去し、前駆体を洗浄する。前駆体濃度10mmol/lの懸濁液100mlに、酸化マンガン粉末を0.1g添加し、100℃で48時間、オートクレーブを用いて、水熱反応を行うことで、アロフェンを被覆した酸化マンガン複合体が得られる。
【0033】
次に、ケイ酸塩無機高分子として、イモゴライトを担持させる方法及び条件の一例を示すと、例えば、100mmol/lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液と100mmol/lの塩化アルミニウム水溶液を調製し、Si/Al比が0.70となるように秤量し、塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を添加する。この時の混合溶液の液性がpH4〜7付近になることが望ましく、十分に撹拌して、前駆体懸濁液を生成する。液性が酸性側に移行するときには、前駆体懸濁液は、透明な溶液へと変化する。
【0034】
その後、水酸化ナトリウム水溶液を1ml/分程度でゆっくり添加して、液性をpH6付近まで調製すると、前駆体は生成する。前駆体の生成と同時に、塩化ナトリウムが副生成するので、それを遠心分離などを用いて除去し、前駆体を洗浄する。前駆体濃度20mmol/lの懸濁液100mlに、酸化マンガン粉末を0.1g添加し、その後、塩酸を加えて、pHが4になるように液性を調節する。100℃で48時間、オートクレーブを用いて水熱反応を行うことで、イモゴライトを被覆した酸化マンガン複合体が得られる。アロフェン、イモゴライト両方に関しての被覆膜の厚さは反応前駆体濃度によって制御される。
【0035】
上記方法及び条件により、酸化マンガンの表面に、アロフェンを担持させた無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体、及び酸化マンガンの表面に、イモゴライトを担持させた無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体が合成される。
【0036】
これらの生成物の理化学的特徴として、基材である酸化マンガンに、重量比で50wt%程度のアロフェンあるいはイモゴライトが被覆されている複合体が生成し、X線回折では、酸化マンガンのピークと、アロフェンの場合はそのブロードなピーク、イモゴライトの場合は、その低角度側に、特徴のあるピークが確認される。
【0037】
本発明の酸化マンガン複合体は、表面のケイ酸塩高分子の多孔質性や膜厚、形状を、前駆体の組成や温度、浸積時間を変えることによって、制御することができる。ケイ素や他の金属化合物の含有率を低くしたり、反応温度を低くしたり、時間を短くした場合には、基材の表面に、ドメイン状のケイ酸塩が生成したり、ケイ酸塩の薄膜が生成する。ケイ素や他の金属化合物の含有率を高くしたり、反応温度を高くすることにより、ケイ酸塩の膜厚を厚くすることができる。
【0038】
また、本発明の酸化マンガン複合体は、例えば、環境浄化材料として使用される。上記酸化マンガン複合体を、水処理技術に関連した分野にも応用可能であり、例えば、汚染帯水層の地下水浄化や、ゴミ焼却場の洗煙排水や、火力発電所の排煙脱硫排水、メッキ工場排水中などに含まれる金属化合物を、除去するための部材、として、使用することができる。
【0039】
更に、本発明による酸化マンガン複合体は、ケイ酸塩前駆体懸濁液の組成や、反応温度、時間を変化させることによって、表面の細孔径の大きさや、細孔分布の密度などを制御することができる。
【0040】
本発明は、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の新規製造方法を提供するものとして有用であり、該方法で作製されるケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体は、優れた耐水性、耐熱性、耐腐食性、イオン交換能、及び高比表面積を有し、それらの機能を利用した有害汚染物質除去剤、触媒担体などに応用可能なものとして有用である。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、例えば、アロフェン、又はイモゴライト等のケイ酸塩無機高分子が被覆された新規無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体を合成することができる。
(2)ケイ酸塩高分子により、酸化マンガン表面の溶解サイトを被覆するため、優れたマンガン溶出抑制能力を有する、酸化マンガン複合体を提供できる。
(3)被覆したケイ酸塩無機高分子により、これら新規無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体は、既存の固体材料よりも、比表面積が大きく、表面水酸基の露出度が高く、細孔径の制御された構造を有しているため、高い親水性を有している。
(4)従来のマンガン系正極材料では、電解液中から発生する酸の作用により、マンガンが溶出してしまうことが、容量低下の要因となっていたが、酸化マンガンにケイ酸塩無機高分子を被覆させることで、結晶構造が安定し、マンガンの溶出を低減、充放電容量低下の抑制及び超寿命化を達成することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例に係わる、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体のX線回折図形である。
【図2】本発明の一実施例に係わる、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の塩酸水溶液中におけるマンガンの溶出特性である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
オルトケイ酸ナトリウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/lオルトケイ酸ナトリウム水溶液100mlを調製し、この水溶液に、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液20mlを添加した。これとは別に、塩化アルミニウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/l塩化アルミニウム水溶液を200ml調製した。
【0045】
次に、上記塩化アルミニウム水溶液に、オルトケイ酸ナトリウム/水酸化ナトリウム混合水溶液を添加し、室温で、1時間撹拌し、前駆体懸濁液を得た。この時のケイ素/アルミニウム比は、0.5であった。この前駆体生成の際に、副成した塩化ナトリウムを除去するために、遠心分離機を用いて、脱イオン水で充分に洗浄処理した。得られた前駆体を、320mlの脱イオン水中に分散させた。
【0046】
この前駆体懸濁液に、0.4gの酸化マンガン基材を投入し、充分に撹拌した後、この懸濁液を、テフロン(登録商標)容器に封入し、100℃で48時間加熱した。加熱終了後、遠心分離機により、充分に洗浄処理を行った。その後、これを、電気乾燥機中にて、40℃、常圧で乾燥し、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を得た。
【0047】
このようにして得られたケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体のX線回折図形を図1に示す。当該酸化マンガン複合体は、X回折図形から、基材の酸化マンガンのピークが確認されるのと同時に、非晶質ケイ酸塩成分の特徴であるブロードなピークも25°付近に確認された(図1)。
【0048】
この材料の蛍光X線分析による化学組成分析結果では、MnO:39.7wt%、Al:33.7wt%、SiO:26.6wt%であり、60wt%程度のアルミニウムケイ酸塩が酸化マンガン基材に被覆されていることが示唆された。この時のケイ素/アルミニウム比は、0.66程度であった。
【実施例2】
【0049】
オルトケイ酸ナトリウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/lオルトケイ酸ナトリウム水溶液150mlを調製した。これとは別に、塩化アルミニウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/l塩化アルミニウム水溶液を200ml調製した。次に、上記塩化アルミニウム水溶液に、オルトケイ酸ナトリウム水溶液を添加し、室温で、1時間撹拌し、前駆体懸濁液を得た。この時のケイ素/アルミニウム比は、0.75であった。この前駆体生成の際に、副成した塩化ナトリウムを除去するために、遠心分離機を用いて、脱イオン水で充分に洗浄処理した。得られた前駆体を、350mlの脱イオン水中に分散させた。
【0050】
この前駆体懸濁液に、0.4gの酸化マンガン基材を投入し、充分に撹拌した後、この懸濁液を、テフロン(登録商標)容器に封入し、100℃で48時間加熱した。加熱終了後、遠心分離機により、充分に洗浄処理を行った。その後、これを、電気乾燥機中にて、40℃、常圧で乾燥し、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を得た。
【0051】
このようにして得られたケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体のX線回折図形を図1に示す。該酸化マンガン複合体は、X回折図形から、基材の酸化マンガンのピークが確認されるのと同時に、非晶質ケイ酸塩成分の特徴であるブロードなピークも25°付近に確認された(図1)。
【0052】
この材料の蛍光X線分析による化学組成分析結果では、MnO:18.9wt%、Al:34.2wt%、SiO:46.9wt%であり、80wt%程度のアルミニウムケイ酸塩が酸化マンガン基材に被覆されていることが示唆された。この時のケイ素/アルミニウム比は1.16程度であった。
【実施例3】
【0053】
(1)ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の作製
オルトケイ酸ナトリウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/lオルトケイ酸ナトリウム水溶液200mlを調製した。これとは別に、塩化アルミニウムを、脱イオン水に溶解し、100mmol/l塩化アルミニウム水溶液を200ml調製し、この水溶液に、1mol/l塩酸水溶液20mlを添加した。
【0054】
次に、上記塩化アルミニウム/塩酸混合水溶液に、オルトケイ酸ナトリウム水溶液を添加し、室温で1時間撹拌し、前駆体懸濁液を得た。この時のケイ素/アルミニウム比は、1.0であった。この前駆体生成の際に、副成した塩化ナトリウムを除去するために、遠心分離機を用いて、脱イオン水で充分に洗浄処理した。得られた前駆体を、420mlの脱イオン水中に分散させた。
【0055】
この前駆体懸濁液に、0.4gの酸化マンガン基材を投入し、充分に撹拌した後、この懸濁液を、テフロン(登録商標)容器に封入し、100℃で48時間加熱した。加熱終了後、遠心分離機により、充分に洗浄処理を行った。その後、これを、電気乾燥機中にて、40℃、常圧で乾燥し、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体を得た。
【0056】
このようにして得られたケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体のX線回折図形を図1に示す。該酸化マンガン複合体は、X回折図形から、基材の酸化マンガンのピークが確認されるのと同時に、非晶質ケイ酸塩成分の特徴であるブロードなピークも25°付近に確認された(図1)。
【0057】
この材料の蛍光X線分析による化学組成分析結果では、MnO:23.9wt%、Al:28.8wt%、SiO:47.3wt%であり、75wt%程度のアルミニウムケイ酸塩が酸化マンガン基材に被覆されていることが示唆された。この時のケイ素/アルミニウム比は、1.39程度であった。
【0058】
(2)マンガンの溶出特性の確認
本発明のケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の、塩酸水溶液中におけるマンガンの溶出特性を調査した。酸化マンガン複合体0.5gに対して、0.25mol/l濃度の塩酸水溶液500mlを添加し、室温にて撹拌した。単位時間毎(2、4、6、8、24時間)に溶液を採取し、各段階でのマンガン濃度を測定した。溶液中のマンガン濃度の測定には、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いた。その結果(塩酸水溶液中におけるマンガンの溶出特性)を図2に示した。図において、縦軸は、複合体中に含有している酸化マンガン単位質量当たりに換算したマンガンの溶出量であり、横軸は、溶出時間である。
【0059】
図2は、実施例1の試料、実施例2の試料、実施例3の試料と、比較例として、未処理の酸化マンガンに、酸化マンガン複合体の場合と同様の溶出試験を行って得たプロットを示したものである。その結果、酸化マンガンに、ケイ酸塩無機高分子による被覆を行うことで、マンガンの溶出を著しく抑制できることが明らかとなった。
【0060】
実施例1〜3と比較例との比較で明らかなように、本発明の製造方法によって得られたケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体は、マンガンの溶出特性を大幅に改善することができる。本発明において、マンガンの溶出を抑える効果は、酸化マンガン表面に、ケイ酸塩無機高分子を成長させることで、ケイ酸塩無機高分子がより均一に酸化マンガン表面に被覆されるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上詳述したように、本発明は、ケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体の製造方法、及びケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体に係るものであり、本発明の方法により合成される新しいケイ酸塩無機高分子酸化マンガン複合体は、基材の表面を覆うケイ酸塩無機高分子により、酸化マンガン表面の溶解サイトを被覆するため、優れたマンガン溶出抑制能力を有する。また、上記ケイ酸塩無機高分子酸化マンガン複合体は、上記ケイ酸塩で被覆された酸化マンガン複合体の表面水酸基の露出度が高く、細孔径の制御された構造を有しているため、高い親水性を有している。
【0062】
更に、本発明のケイ酸塩無機高分子で被覆された酸化マンガン複合体は、水処理技術に関連した分野にも応用可能であり、例えば、汚染帯水層の地下水浄化や、ゴミ焼却場の洗煙排水や火力発電所の排煙脱硫排水、メッキ工場排水中などに含まれる有害物質を除去するための除去剤として使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、ケイ酸塩無機高分子が被覆された無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体及び製造する方法であって、
(1)ケイ素化合物水溶液と、アルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物水溶液を混合し、前駆体懸濁液を調製する、
(2)上記工程で副生成した塩を除去する、
(3)上記前駆体懸濁液に基材を入れ、水熱反応を行う、
(4)上記(1)〜(3)により、表面にケイ酸塩無機高分子を被覆した酸化マンガン複合体を合成する、
ことを特徴とするケイ酸塩無機高分子−酸化マンガン複合体の製造方法。
【請求項2】
基材が、酸化マンガン粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
無機ケイ酸塩高分子が、アロフェン、又はイモゴライトの非晶質体ないし準結晶質体、から選ばれる1種又は2種以上からなるケイ酸塩の内から選ばれた少なくとも一種のケイ酸塩である、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
酸化マンガンの結晶構造が、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、又はラムスデライト型である、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
溶液の濃度が、それぞれ、1mmol/l〜10000mol/lのケイ素化合物溶液と、1mmol/l〜10000mol/lのアルミニウム化合物及び/又は遷移金属化合物溶液を混合する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
ケイ素と、アルミニウム及び/又は遷移金属化合物のモル比率が、0.1〜5.0である、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
ケイ素化合物水溶液と、アルミニウム化合物及び/又は遷移金属化合物水溶液を分速1ml〜10000lで同時混合、あるいは両溶液を急速混合して、混合溶液を調製する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
混合溶液の液性を、pH3からpH8に調整する、請求項6に記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
凝集阻止剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニールアルコール又は界面活性剤の水溶性あるいは非水溶性の試剤を添加する、請求項6に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
得られた前駆体懸濁液を0.1〜72時間、振盪した後、反応副生成物である塩を除去する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項11】
前駆体懸濁液に酸性溶液を添加して、pH3から6の弱酸性に調整し、生成されるケイ酸塩の形態を制御する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項12】
反応温度50〜130℃、反応時間12〜240時間の条件で、懸濁液の水分が蒸発しない方法で水熱反応を行う、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項13】
反応終了後の懸濁液にアルカリ性水溶液を添加して、溶液の液性をpH8〜12に調整し、生成物をゲル状物質として凝集させて回収する、請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法で製造された、酸化マンガンからなる表面を持つ基材の表面に、ケイ酸塩無機高分子が被覆された無機ケイ酸塩−酸化マンガン複合体であって、基材が酸化マンガン粒子であり、無機ケイ酸塩高分子がアロフェン又はイモゴライトの非晶質体ないし準結晶質体であり、酸化マンガンの結晶構造が、α型(ホーランダイト型)、β型(ルチル型)、γ型、δ型、又はラムスデライト型であり、(2×2)トンネル構造、(1×1)トンネル構造、(1×1)及び(2×1)トンネル構造の混晶体、(2×∞)層状構造、(1×2)トンネル構造を有し、二次電池正極材料として利用可能な性質を有することを特徴とする上記酸化マンガン複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−241132(P2011−241132A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116788(P2010−116788)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】