説明

ケナフ類(ケナフ、ローゼル)の種子成分による血糖値低下作用及び血糖値上昇抑制作用

【課題】ケナフ及びローゼルのこれまで有効利用されていなかった種子を用い、手軽にかつ安全に血液中のグルコース濃度を低下させること、または血糖値上昇抑制させることのできる糖尿病予防・治療組成物の提供。
【解決手段】ケナフ類(ケナフ及びローゼル)種子を含む熱水抽出画分に含まれる成分、又は、n−ヘキサンにて溶媒抽出された油脂画分に含まれる成分を有効成分とする血糖値低下組成物及び血糖値上昇抑制組成物。該成分は、消化管におけるマルトースからグルコースへの変換を特異的に阻害する作用を有し、糖尿病モデルマウスの血糖値を低下させ、また正常マウスにおける血糖値上昇を抑制させる働きがあり、糖尿病の予防及び治療に対し優れた効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケナフ種子及びローゼル種子からの抽出成分の有効性に関する。
【背景技術】
【0002】
ケナフは生長がはやく、かつ茎に豊富なセルロース成分を有することから、森林保護を目的とした木材代用品として有望な植物である。現在までにケナフを用いた紙、繊維またはプラスチック材料が様々な工業製品として開発されている。これらの製品の多くはケナフ茎の靭皮部または芯央部を用いているが、茎以外は付加価値が少なく有効利用されていない。
【0003】
人口高齢化の進行や欧米型の食事に伴う生活習慣の変化により、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病は年々増加傾向にある。ケナフ亜種であるローゼルは肝機能改善や血圧降下作用などの薬効を有しており、またケナフでも抗酸化活性や血漿脂質改善作用を有する。これらの知見はケナフ及びローゼルが生活習慣病予防に有効な素材となりうる。
【0004】
糖尿病治療に従事する医師ならびに製薬会社を対象とした「10年後に増加する患者人口と必要とされる新薬」のアンケート調査にていずれも糖尿病患者の増加と糖尿病治療薬が必要とされるとの結果であった。現在、わが国の糖尿病人口は約700万人であり、10年後には2倍に増加することが予想されている。これらの背景より、総医療費も大幅に増加することが考えられ、糖尿病治療に有用な素材開発は医療費削減にも大きく関与することが期待される。
【0005】
糖尿病は、血液中グルコースを細胞内への取り込みを促すインスリンの量不足、又は作用不足によりグルコースの利用率が低下する結果、血糖値が上昇する代謝疾患であり、大別すると、インスリン依存型の1型糖尿病、インスリン非依存型の2型糖尿病に分類される。更に2型糖尿病はインスリン分泌障害を持つもの、インスリン作用障害(インスリン抵抗性)を持つもの、及び両障害を持つものに分類される。
【0006】
2型糖尿病は、成人期以降に発症することが多く、インスリンの分泌量が低下しているか、インスリンに対する抵抗性を有するもので、遺伝素因のほかに、エネルギーの過剰摂取や栄養の偏った食生活、運動不足、喫煙、ストレス等の生活要因が加わって発症する。特に日本人の2型糖尿病患者は欧米人と比較してBMI(体重/身長)が25未満の肥満型でない患者または健常者に発症することが多い。
【0007】
糖尿病の治療法には、運動療法、食物療法、薬物療法があり、薬物療法には、糖尿病のタイプに応じて、糖尿病治療薬として、インスリン製剤や、経口血糖降下剤であるスルフォニル尿素剤、ビグアナイド剤、チアゾリジン誘導体、α−グルコシダーゼ阻害剤、フェニルアラニン誘導体等が用いられている。
【0008】
α−グルコシダーゼ阻害剤を投与すると、α−グルコシダーゼ阻害剤が小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼの作用を阻害し、食後の血糖値の急上昇及びそれに続くインスリン値の急上昇を抑制することが知られている。このようなα−グルコシダーゼ阻害剤のうち、アカルボースは2型糖尿病のひとつであるインスリン非依存型糖尿病(略語:NIDDM)用の経口糖尿病治療薬として用いられている。しかしながら、これらの物質は本来生体に対して異物であって、安全性については懸念が残されており、使用量について厳しい規定が定められている。
【0009】
食物繊維の多く含む食事を摂取すると、腸からの栄養素の吸収が穏やかになり、食後の血糖値の上昇を抑制し、インスリン分泌を低く抑えることができ、糖尿病の予防になることが報告されている。しかしながら、食物繊維は広範な食品に自由に添加混合できる糖とは異なり、種々の食品に対する利用に制約がある。例えば、食物繊維自体は甘味がなく、コーヒーやジュース等の飲料やケーキやお菓子類に用いる甘味料又は甘味素材として用いることはできない。
【0010】
難消化性または低消化性のオリゴ糖として、フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖等、或いはデンプン加水分解物や他のオリゴ糖の糖アルコール類(例えば、マルチトールやマルトオリゴ糖の糖アルコール類、イソマルトースとそのオリゴ糖の糖アルコール類、還元パラチノースやラクチトール)は、それ自体が難消化性、低消化性のため血糖値の上昇が少ない甘味料として従来使用されている。しかし、これら血糖値の上昇が少ない甘味料として使用されていた難消化性或いは低消化性のオリゴ糖は、摂取量を誤ると下痢を誘発しやすい等の欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の糖尿病治療に用いられる医薬品は、使用時に充分な注意が必要とされた。投与量や投与するタイミング等を間違えると、低血糖症状、胃腸障害、肝障害、皮膚障害等の副作用が現われることがあり、特に、長期間投与する場合に問題となっていた。
【0012】
糖尿病においては高脂血症や高血圧を呈する患者も数多く存在し、これらの合併症治療のために多剤が併用される場合が多い。併用により、薬剤の作用が増強または減弱する等の薬物−薬物間相互作用が起こりうることがあり、予期される副作用が現われることがあり、問題となっていた。
【0013】
また、糖尿病の予防、及び治療効果のある食品を日常的に摂取することで改善を期待できるが、大量に摂取しなければその効果は発揮され難いという問題があった。
【0014】
糖尿病の治療には、血糖値を下げることが必要である。従って、本発明の目的は、日常的に摂取することにより手軽にかつ安全に血液中の血糖値を低下させることのできる糖尿病予防・治療組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、種々の研究の結果、ケナフ種子及びローゼル種子を粉砕し、熱水にて抽出した画分を2型糖尿病モデルマウス(KKAyマウス)へ混餌投与することで血糖値の降下に優れた効果を発揮することを見出した(図1及び図2)。また種子以外の部位である葉部及び顎部を粉砕して、熱水にて抽出した画分を混餌投与したが、KKAyマウスでは血糖値降下が認められなかった。
【0016】
更に、ケナフ種子及びローゼル種子を粉砕し、n−ヘキサンにて溶媒抽出した油脂画分をKKAyマウスへ反復経口投与することで血糖値の降下に優れた効果を発揮することを見出した(図3)。また油脂画分の1日の投与回数を増加させた場合に顕著な血糖値降下作用を示し、投与量との用量相関性を示した(図4)。
【0017】
この他に、ケナフ種子の油脂画分を正常マウスへ反復経口投与することにより、マルトースを投与した際の血糖値上昇抑制効果を発揮した。一方、同様の方法にてシュクロースを投与した際には血糖値上昇抑制効果は認められなく、マルトースからのグルコース変換を特異的に阻害することを見出した(図5)。
【0018】
また正常マウス消化管を用いた吸収試験においてケナフ種子及びローゼル種子の油脂画分はグルコースの消化管吸収に影響しないことを見出した(図6)。更に正常マウス消化管より得られた酵素ホモジネートを用いた代謝試験においてケナフ種子またはローゼル種子の油脂画分は、マルトースからグルコースへの変換を阻害するものの、シュクロースからグルコースへの変換は阻害しなかった(図7)。これらの成績より、ケナフ種子またはローゼル種子の油脂画分はα−グルコシダーゼを特異的に阻害する効果を有することを見出した。
【0019】
すなわち、本発明の糖尿病予防・治療組成物は、ケナフ種子およびローゼル種子を熱水にて抽出した成分またはn−ヘキサンにて溶媒抽出した油脂成分を含有することを特徴とする。またマルトースからグルコースへの変換を特異的に阻害する効果を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ケナフ種子及びローゼル種子を粉砕し、熱水抽出した画分またはn−ヘキサンにて抽出した油脂画分からなる有効成分を含有する組成物であり、血糖値降下作用又は血糖値上昇抑制作用をもたらし、糖尿病に対し優れた効果を発揮する。また、本発明の糖尿病予防・治療組成物は全て天然物から得られた物であり、化学薬品などにみられる副作用などの心配はなく、臓器に負担を及ぼすこともなく、日常生活の中で手軽に摂取することができる。
【0021】
本発明の糖尿病予防・治療組成物を混餌投与により20日間経口摂取または油脂画分として12日間反復経口投与させた際の摂餌量や動物体重の減少は認められなく、高い安全性を有している。更に投与終了後は速やかに血糖値の回復を示したことから、予期されぬ副作用や毒性が出現した場合は投与または摂取を中断すれば重篤な事態は回避できる。
【0022】
本発明の糖尿病予防・治療組成物は、全て天然素材から構成されているため、低血糖などの副作用を引き起こす可能性は低く、糖尿病予防・治療を図るための医薬品、健康食品等として、効果的に利用することができる。
【0023】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤の有効成分であるケナフ及びローゼル種子の熱水抽出画分またはn−ヘキサン抽出した油脂画分は、マルトースと併用して使用するとき、小腸の消化酵素であるα−グルコシダーゼの作用を緩慢に阻害し、急激な血糖値の上昇を抑制する効果がある。
【0024】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤を含有する食品、甘味料は、健康な人には、糖尿病を含む成人病の予防に役立つことができ、また、糖尿病患者には、従来のシュクロース、デンプン、及びデンプン由来のオリゴ糖等の糖類摂取の制限を緩和することが可能な、食事療法に適した幅広い食品、甘味料の提供が可能となる。
【0025】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤を含有する飼料は、ペット又は家畜等の動物の糖尿病予防用飼料としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明で得られるケナフ類種子からの熱水抽出画分または油脂画分を含有する糖尿病予防・治療組成物は粉末、錠剤やカプセル、また乳化液や溶液の形態にしても良いし、連続して摂取しても良いし、様々な食品に混入させて食品形態で摂取しても、また動物や魚類用飼料に混入させて利用することも可能である。また熱水抽出画分は水溶性であり、水、生理食塩水、その他の水溶性溶媒などに溶解して用いることが出来るが、取り扱いが容易であることから水又は生理食塩水が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0028】
(実施例1)
〈各種ケナフ材料の熱水抽出画分の調整方法〉
ケナフ種子、ケナフ葉、ローゼル種子、ローゼル葉およびローゼル顎の乾燥品をミキサーにて粉砕し、各15gを精製水120mLに添加し、約90度で1時間加温して熱水抽出画分とした。熱水抽出画分100mLを粉末動物飼料(マウス・ラット用CE−2、日本クレア)100gに添加混合した。熱水抽出画分を添加混合した動物飼料は、80℃で一夜乾燥させ、混餌投与用の動物飼料とした。本飼料は使用時まで冷蔵保存した。この他に各種ケナフ材料を添加せずに水と飼料を混合成形したコントロール飼料も調整した。
【0029】
(実施例2)
〈各種ケナフ材料の熱水抽出画分の血糖値低下効果作用〉
次に日本クレア(株)より購入したKKAyマウスを用いて、各種ケナフ材料の血糖値低下作用の検討を行った。KKAyマウスとは、高血糖、多尿を呈する2型糖尿病モデルマウスであり、糖尿病治療薬の研究に汎用されている。
【0030】
血中グルコース濃度が400mg/mL以上示したKKAyマウスをコントロール、ケナフ種子、ケナフ葉、ローゼル種子、ローゼル葉、ローゼル顎の混餌投与群に4例ずつ分けて試験を行い、各投与群における血糖値低下作用について確認した。混餌での飼育期間は20日間行い、その後は通常飼料にて8日間飼育した。血糖値は定期的にマウス尾静脈より採血し、小型血糖測定器(グルテストエースR、三和化学研究所(株))にて血液中グルコース濃度を測定した。
【0031】
ケナフ種子の混餌投与群において投与開始後12日目よりコントロールと比較して有意な血糖値低下を示した(図1)。その後も有意かつ持続的な血糖値低下作用が認められた。混餌投与は投与開始後20日で終了し、その後は通常飼料にて飼育した。通常飼料に交換されたマウスでは血糖値の上昇が認められ、ケナフ種子の混餌投与は血糖値低下に大きく関与していることが示された。なお、ケナフ葉の混餌投与も同様に実施したが、有意な血糖値低下作用を示さなかった。
【0032】
ローゼル種子の混餌投与群において投与開始後15日目よりコントロールと比較して有意な血糖値低下を示した(図2)。その後、持続的な血糖値低下作用が認められた。これらのマウスは投与開始後20日で混餌投与を終了して通常食にて飼育した。通常食にて飼育されたマウスでは血糖値の上昇が確認され、ローゼル種子の混餌投与は血糖値低下に大きく関与していることが示された。なお、ローゼル葉、ローゼル顎混餌投与群では有意な血糖値低下作用を示さなかった。
【0033】
各種混餌投与群における摂餌量及び動物体重の変化を表−1に示す。この結果より、各種ケナフ材料の混餌投与では摂餌量に変化はなく、また動物体重を減少させないことが示された。
【表−1】

【0034】
(実施例3)
〈ケナフ及びローゼル種子油脂画分の調整〉
ケナフ種子及びローゼル種子をミキサーにて粉砕し、各20gを80mLのn−ヘキサンにて溶媒抽出し、減圧濃縮機にて溶媒を留去した。また溶媒留去した抽出残渣にエタノールを20mL添加して残留抽出溶媒を除去した。その後、残渣を回収し、遠心分離して油脂画分を得た。ケナフ種子及びローゼル種子の油脂画分は使用時まで冷蔵保存した。
【0035】
(実施例4)
〈ケナフ及びローゼル種子油脂画分の血糖値低下作用〉
実施例3により得られた種子の油脂画分を用い、血中グルコース濃度が400mg/mL以上示したKKAyマウスをコントロール、ケナフ種子オイル、ローゼル種子オイルの投与群に4例ずつ分け、反復経口投与による血糖値低下作用について確認した。種子油脂画分の経口投与量は各0.1mLとし、投与回数は1日2回とした。なお、コントロールでは油脂画分と等量の生理食塩水をマウスへ経口投与した。反復投与期間は12日間とし、その後4日間通常飼育した。血糖値は定期的にマウス尾静脈より採血し、小型血糖測定器にて血液中グルコース濃度を測定した。
【0036】
ケナフ及びローゼル種子の油脂画分投与群において投与開始後4日目より有意な血糖値低下が認められ、コントロールと比較してケナフ種子の油脂画分では約35%、ローゼル種子の油脂画分では約25%低い血糖値を示した(図3)。その後も有意かつ持続的な血糖値の低下作用が認められ、反復投与12日目ではケナフ種子の油脂画分投与群ではコントロールの約50%、ローゼル種子の油脂画分投与群では約40%まで低下した。両者の油脂画分の反復投与を中断し、これらのマウスを通常飼育した際の血糖値はコントロ−ルとの有意差を示さなかったことから、ケナフ種子及びローゼル種子の油脂画分は血糖値低下に大きく関与していることが示された。
【0037】
各種子の油脂画分投与群における摂餌量及び動物体重の変化を表−2に示す。この結果より、各種子の油脂画分を経口投与した際の摂餌量には変化がなく、また動物体重を減少させないことが示された。
【表−2】

【0038】
(実施例5)
〈ケナフ種子油脂画分の血糖値低下作用の用量反応性〉
実施例3により得られたケナフ種子の油脂画分を用い、400mg/mL以上の血中グルコース濃度を示したKKAyマウスを以下に記す投与群に分け、血糖値低下に対するケナフ種子の油脂画分の用量反応性について確認した。投与群としてコントロールの他にケナフ種子の油脂画分を1日1回投与、2回投与及び3回投与を設定し、各群4例ずつに分けた。ケナフ種子油脂画分の経口投与量は1回0.1mLとし、投与期間は8日間とした。なお、コントロールでは油脂画分のマウスへ経口投与は行わなかった。血糖値は定期的にマウス尾静脈より採血し、小型血糖測定器にて血液中グルコース濃度を測定した。
【0039】
投与開始前、反復投与4日目及び8日目の各投与群における血中グルコース濃度を図4に示す。投与期間中のコントロール群では顕著な血糖値変動は認められなかった。一方、ケナフ種子油脂画分を1日1回投与したマウスにおいて反復投与8日目に有意な血糖値低下が認められた。またケナフ種子油脂画分を1日2回または3回投与したマウスでは反復投与4日目より有意な血糖値低下が認められた。反復投与8日目ではケナフ種子油脂画分の投与回数と血糖値低下作用に用量相関性が認められた。
【0040】
(実施例6)
〈ケナフ種子の油脂画分のマウスにおける血糖値増加抑制効果〉
日本クレア(株)より購入したMCHマウスを用い、ケナフ種子油脂画分の血糖値増加抑制効果について確認した。予めマウスに1日2回の頻度で生理食塩水0.1mLを3日間反復経口投与した。生理食塩水を最終投与して0.5時間経過したマウスに0.5g/mLのマルトース溶液またはシュクロース溶液を0.15mL経口投与し、尾静脈より採血して経時的な血糖値推移を測定した。採血時間として投与前、経口投与後0.5,1,1.5及び2時間とした。これらのマウスは3日間通常飼育した後、摂餌下で1日2回の頻度でケナフ種子油脂画分0.1mLを3日間反復経口投与した。ケナフ種子の油脂画分を最終投与して0.5時間経過したマウスに再び0.5g/mLのマルトース溶液またはシュクロース溶液を0.15mL経口投与した。糖類を経口投与後、尾静脈より採血して小型血糖測定器にて血液中グルコース濃度を投与後2時間まで測定した。なお、生理食塩水及びケナフ種子油脂画分の最終投与前日に使用動物を一夜絶食処理した。使用例数はいずれの投与群も4例とした。
【0041】
実施例3により得られたケナフ種子の油脂画分を用い、[0040]の方法によりマルトース及びシュクロースをマウスに経口投与した際の血中グルコース濃度推移を図5に示す。マルトース投与群においてはケナフ種子の油脂画分を反復経口投与することにより血糖値上昇抑制効果が認められ、投与後1時間及び1.5時間では生理食塩水投与と比較して有意差を伴う低い血糖値を示した。一方、シュクロース投与群においてはケナフ種子の油脂画分反復投与による血糖値上昇抑制効果は示されなく、生理食塩水投与との有意差は検出されなかった。
【0042】
(実施例7)
〈ケナフ及びローゼル種子油脂画分のマウス消化管におけるグルコース吸収に対する効果〉
ペントバルビタール麻酔したMCHマウスを開腹し、胃幽門部及び十二指腸付近を結さつし、消化管ループを作成した。マウス消化管ループ内に0.5g/mLのグルコース溶液0.1mLにケナフまたはローゼル種子の油脂画分を0.1mLずつ混合させた投与液を注入した。一方、コントロールとしてグルコース溶液と生理食塩水を0.1mLずつ混合させた投与液を用いた。各投与群における使用例数は4例ずつとした。ループ内に投与液を注入後30分経過したマウスより消化管ループを摘出し、一定量の生理食塩水を用いて消化管ループ内容物を洗浄回収した。ループ内容物のグルコース濃度を小型血糖測定器にて測定し、グルコース投与溶液で除することにより、見かけ上の吸収率を算出した。
【0043】
実施例3により得られたケナフ及びローゼル種子の油脂画分及び[0042]の消化管ループを施したマウスを用い、消化管におけるグルコース吸収に対する効果について確認した。マウス消化管ループにケナフ及びローゼル種子の油脂画分を注入した際のグルコースの見かけ上の吸収率を図6に示す。いずれの油脂画分は見かけの吸収率に対して、コントロールとの有意な差を示さなかった。これらの成績より、各種子の油脂画分はグルコースの消化管吸収には影響を及ぼさないことが確認された。
【0044】
(実施例8)
〈ケナフ種子またはローゼル種子油脂画分のグルコース生成に対する阻害効果〉
ペントバルビタール麻酔したMCHマウスを下大静脈採血により脱血死させ、速やかに胃幽門部から約10cmの消化管を摘出した。摘出した消化管を秤量すると共に0.5g組織重量/mLの濃度になるように氷冷した生理食塩水を添加し、ホモジナイザーにて均質化した。均質化した組織液を小型冷却遠心機にて遠心分離(2000回転、5分間)し、その上清画分を酵素ホモジネートとして用いた。
【0045】
実施例3により得られたケナフまたはローゼル種子の油脂画分及び[0044]のマウス消化管より得られた酵素ホモジネートを用いて、グルコース変換に対する阻害効果をインビトロにより確認した。pH6.0に調整した0.1Mトリス緩衝液0.2mLに酵素ホモジネート0.03mL、0.5g/mLのマルトース溶液を0.02mL添加混合し、各種子の油脂画分0.05mLと共に37℃で0.5時間又は1時間反応させた。また0.5g/mLのシュクロース溶液を0.02mL用いて、同様の反応を行った。なお、コントロールでは油脂画分と等量の生理食塩水を用いた。酵素反応によりマルトースまたはシュクロースから変換したグルコースは小型血糖測定器にて測定し、反応時間で除してグルコース生成速度を算出した。
【0046】
マウス消化管ホモジネートにマルトースまたはシュクロースを添加し、グルコース生成に対するケナフ及びローゼル種子油脂画分の阻害効果を図7に示す。マルトースでは各種子の油脂画分を酵素ホモジネートに存在させた場合、コントロールと比較してグルコース生成速度の有意な低下が認められた。一方、シュクロースでは油脂画分によるグルコース生成速度の低下作用は認められなかった。これらの成績より、各種子の油脂画分はマルトースからグルコースへの酵素的変換を特異的に阻害することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、飲料などの液状の食品や、錠剤、顆粒、チュアブルタブレットなどの固形の食品に利用することができる。また、ケナフ類種子の熱水抽出または油脂画分が有する血糖値改善効果に応じた健康食品、機能性食品、特定保健用食品、患者用食品等の用途に利用することができる。また副作用の恐れがなく、長期間常用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例2で示したケナフ種子またはケナフ葉を混餌投与(各15%相当を含有する)した際のKKAyマウスの血中グルコース濃度推移を示した図である。混餌投与は試験開始後20日間まで実施し、その後は通常飼育とした。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクはコントロールとのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05,**:p<0.01で表記した。
【図2】本発明の実施例2で示したローゼル種子、ローゼル葉またはローゼル顎を混餌投与(各15%相当を含有する)した際のKKAyマウスの血中グルコース濃度推移を示した図である。混餌投与は試験開始後20日間まで実施し、その後は通常飼育とした。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクはコントロールとのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05,**:p<0.01で表記した。
【図3】本発明の実施例4で示したケナフ及びローゼル種子の油脂画分を0.1mL反復経口投与した際のKKAyマウスの血中グルコース濃度推移を示した図である。反復経口投与は1日1回12日間実施し、その後は通常飼育とした。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクはコントロールとのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001で表記した。
【図4】本発明の実施例5で示したケナフ種子の油脂画分によるKKAyマウスの血中グルコース濃度低下作用の用量反応を示した図である。ケナフ種子の油脂画分を1日1回〜3回の頻度で毎回0.1mLの投与量で反復経口投与した。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクはコントロールとのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001で表記した。
【図5】本発明の実施例6で示したマルトースまたはシュクロースを経口投与した際のグルコース濃度推移に対するケナフ種子油脂画分の阻害効果を示した図である。図左にマルトース投与群を、図右にシュクロース投与群の血糖値を示す。予めマウスに1日2回の頻度で生理食塩水0.1mLまたはケナフ種子の油脂画分0.1mLを3日間反復経口投与し、最終投与後0.5時間経過したマウスに0.5g/mLのマルトース溶液またはシュクロース溶液を0.15mL経口投与した。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクは生理食塩水投与とのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05で表記した。
【図6】本発明の実施例7で示したケナフ及びローゼル種子油脂画分のマウス消化管におけるグルコース吸収に対する影響を示した図である。マウス胃幽門部及び十二指腸付近を結さつした消化管ループ内に0.5g/mLのグルコース投与溶液0.1mL及び各種子の油脂画分を0.1mLずつ混合させた投与液を注入した。投与後1時間経過したマウスの消化管ループを回収し、ループ内に残余したグルコースより見かけ上の吸収率を算出した。なお、コントロールとしてグルコース溶液と生理食塩水の混合液を用いた。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。
【図7】本発明の実施例8で示したケナフ及びローゼル種子油脂画分のマウス消化管におけるグルコース変換に対する阻害を示した図である。マウス消化管より調製した酵素ホモジネートにマルトースまたはシュクロースを添加し、グルコース生成に対する各油脂画分の阻害効果を示した。なお、コントロールとして生理食塩水を用いた。試験は各群4例にて実施し、成績は平均値±標準偏差で表示した。図中のアスタリスクはコントロールとのstudent’st−検定の結果を示しており、*:p<0.05,***:p<0.001で表記した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケナフ類(ケナフ及びローゼル)種子からの熱水抽出画分を有効成分とする血糖値低下組成物及び血糖値上昇抑制組成物。
【請求項2】
ケナフ類種子からn−ヘキサン抽出した油脂画分を有効成分とする血糖値低下組成物及び血糖値上昇抑制組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物で作用機序として消化管でのマルトースからグルコースへの変換阻害活性を有する組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−62348(P2009−62348A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260337(P2007−260337)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(507329860)ユーエスエンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】