説明

ケラチンバイオセラミック組成物

展性のボーングラフト組成物が記載されている。該組成物は、(a)ケラトースと、(b)粒子状充填剤と、(c)抗生物質と、(d)水とを含む。本発明は、容器中に無菌形態で提供され、任意で凍結乾燥されてもよい。そのような組成物を用いて骨折を治療する方法も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2005年10月21日に出願され、その開示全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする米国特許仮出願第60/728,971号の利益を主張する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、バイオセラミックボーングラフト組成物およびその使用法に関する。
【背景技術】
【0003】
骨折後の骨喪失は重大な問題である。実際に、感染と併発する骨喪失は、慢性骨髄炎および偽関節の原因になり得る。1970年に骨セメントへの抗生物質の取り込みが最初に報告されてから、多くの病院が、関節形成中の予防的処置および慢性感染症の阻止のために、この医療行為を採用してきた(McQueen M et al.,Int Ortho 1987;11:241−3;Fish DN et al.,Am J Hosp Pharm 1992;49:2469−74;Hanssen AD and Osmon DR.Clin Ortho Rel Res 1999;369(1):124−38;Hanssen AD.J Arthroplas 2002;17(4S1):98−101)。
【0004】
抗生物質含浸ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)ビーズも広く使用されるようになってきたが(Henry SL et al.,Ortho Rev 1991;20(3):242−7;Popham GJ et al.,Ortho Rev 1991;20(4):331−7;Klemm KW. Clin Ortho Rel Res 1993;295:63−76)、感染した偽関節または骨欠損の場合、この技術は典型的には二段階手術の中で用いられる。これらの場合、欠損部位または偽関節部位を必要に応じて創面切除し、欠損部位の中に抗生物質含浸PMMAビーズを置くことにより感染を処置する。第二段階で、約6週間後に該ビーズを除去し、グラフトを用いて骨欠損を修復する。該グラフトはそれぞれ、COLLAGRAFT(登録商標)ボーングラフトマトリックス、脱灰骨マトリックスまたは腸骨稜からの骨などの、動物由来、同種異型または自家のものであり得る。この二段階方法論も広く採用されている(Ueng SWN et al.,J Trauma 1996;40(3):345−50;Ueng SWN et al.,J Trauma 1997;43(2):268−74;Chen CY et al.,J Trauma 1997;43(5):793−8;Swiontkowski MF et al.,J Bone Joint Surg Br 1999;81(B6):1046−50)。
【0005】
技術の当然の進歩によって、二段階法の後に、間もなく一段階手法が続いた。この技術では、治療介入を一回の外科手術に限定するために、抗生物質をボーングラフト材料と組み合わせる。理想的には、内在する抗生物質が感染の予防措置用に局所送達され、一方、グラフトが新しい骨の成長ための環境を提供する。この方法論も広く採用されており、ヒトの自家グラフトおよびウシのグラフトの両方ならびに合成グラフトを用いて使用されている(Chan YS et al.,J Trauma 1998;45(4):758−64;Chan YS et al.,J Trauma:Inj Inf Crit Care 2000;48(2):246−55;Winkler H et al.,J Antimicrobial Chemo 2000;46:423−8;Sasaki S and Ishii Y.,J Ortho Sci 1999;4:361−9;McKee MD et al.,J Ortho Trauma 2002;16(9):622−7)。
【0006】
これらのアプローチに限界がないわけではない。例えば、抗生物質をPMMAに含浸させるための典型的プロトコールは、ポリマーを加熱して融解液を作製し、次いでその液体に粉末の抗生物質を混合するというものである。該抗生物質は、PMMAの融解温度に耐えるように熱安定性でなければならないが、これが該当しない場合が多い。したがって、可能性のある抗生物質の数は限られている。さらに、粉末の抗生物質と液体のPMMAは、熱力学的に混和性ではないため、その混合物は、典型的には均質ではない。その結果、抗生物質の放出は不均一になることになる。最後に、二段階プロトコールでは患者は外科手術を2回受けることになり、そのためにリスクが増大する。
【0007】
グラフト材料に抗生物質を含浸させるときに、同様の制限が存在する。典型的なグラフト材料は、とりわけ、ドナー骨、脱灰された骨マトリックスまたは合成セラミック代替物(例えばヒドロキシアパタイト)である。これらのバイオマテリアルは、抗生物質と相容性でないことが多く、得られる複合材料は均質ではない。PMMAまたはグラフト材料への含浸法を採用しても、これらの方法は、臨床的にある程度効果的ではあるが、放出制御されたシステムではなく、抗生物質の治療的投薬のために決して最適化されたものではない。上記バイオマテリアルは骨伝導性であり、自家骨の場合には確かに骨誘導性であるが、自家骨を用いるいかなるアプローチでも、患者は別の創傷を受けやすい。これは患者に対するリスクを増大させて、ドナー部位を病的状態にする可能性があり、そのため当初の問題を複雑化することになる(Silber,JS et al.,Spine 2003;28(2):134−9)。
【0008】
明らかに、骨欠損の治癒は整形外科医療において興味深い分野である。現在の方法は、患者の完全な利益のために最適化されていない。理想的には、骨欠損は、一段階手術のプロトコールにおいて利用することができるバイオマテリアル中の、骨伝導性および骨誘導性環境ならびに制御され、効果的な抗生物質処置の両方を与えるグラフト材料を用いて治療されるべきである。
【0009】
ボーングラフト代替物に関する最近の総説(Ludwig,SC et al.,Eur Spine J 2000;9(S1):S119−25)は、理想的な生成物の最も重要な三つの要素を以下のように列記した。
1.血管浸入、細胞浸潤および新しい骨形成に対して伝導性のスキャフォールドを提供するという点で骨伝導性であること;
2.骨誘導性であること(即ち、前駆細胞から骨芽細胞への増殖因子媒介性分化が可能である);および
3.新しい骨マトリックスを形成する細胞を送達することができること。
いかなる効果的な再生スキームであっても、機能的な骨を再現するためには、これらのパラメーターの3つをすべて最適化する努力をしなければならない。したがって、ボーングラフト材料として有用な新しい組成物には絶え間ない需要がある。
【発明の開示】
【0010】
本発明の第一態様は、
(a)1〜90重量パーセントのケラトースと、
(b)1〜90重量パーセントの粒子状充填剤(例えば骨伝導性充填剤)と、
(c)0.001〜5重量パーセントの抗生物質と、
(d)残余の水と
を含み、またはこれらからなり、または本質的にこれらからなる展性ボーングラフト組成物であって、37℃の温度で少なくとも3センチポアズの粘度を有する。ある実施形態では、ケラトースがアルファケラトース、ガンマケラトースまたはそれらの混合物である。ある実施形態では、ケラトースがアルファケラトースおよびガンマケラトースの混合物である。
【0011】
ある実施形態では、ケラトースが10〜90重量パーセントのアルファケラトースおよび90〜10重量パーセントのガンマケラトースを含む。ある実施形態では、前記ケラトースが、架橋されたケラトース(例えば、カルシウムイニシエーターの存在下でトランスグルタミナーゼとケラトースを組み合わせる方法によって生成される)である。
【0012】
ある実施形態では、組成物が0.001〜5重量パーセントの骨形態形成タンパク質をさらに含む。
【0013】
ある実施形態では、組成物が無菌であり、ある実施形態では、組成物が滅菌容器で包装されている。
【0014】
本発明の更なる態様は、水または生理食塩水で再構成すると、本明細書に記載された組成物を生成する凍結乾燥された(lyophilized)または凍結乾燥された(freeze−dried)組成物である。
【0015】
本発明の前記および他の目的ならびに態様は、本明細書の図面および以下の記載により、さらに詳細に説明される。本明細書で引用されたすべての米国特許文献の開示は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書に記載された組成物は、ヒト被験者(男性および女性を含み、幼児、若年、青年、成人および高齢の被験者を含む)および獣医学的目的のための動物被験体、特にイヌ、ネコ、ウマなどの他の哺乳動物被験体の処置に使用することを意図する。
【0017】
本明細書で使用する「骨」は、骨盤骨;脛骨、腓骨、大腿骨、上腕骨、橈骨および尺骨などの長骨、肋骨、胸骨、鎖骨などのいかなる骨も含む。
【0018】
骨に関して本明細書で使用する「骨折」または「切断(break)」は、開放骨折または閉鎖骨折、単純骨折または複雑骨折、粉砕骨折を含むいかなるタイプの骨折も、骨幹および骨幹端を含むいかなる部位の骨折も含む。自然発生であるか外科的に誘発されたもの(例えば、骨からの望ましくない組織の外科的除去による)であるかにかかわらず、本明細書で使用する「骨折」は、穴部、間隙(gap)、空隙(space)または開口部(opening)などの欠損を含むことを意図する。
【0019】
本明細書で使用する「抗生物質」は、セファゾリン、バンコマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、バシトラシン、ネオマイシン、ペニシリン、ポリマイシンB、テトラサイクリン、バイオマイシン、クロロマイセチン、ストレプトマイシン、アンピシリン、アザクタム(Azactam)、トブラマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシンおよびそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、適切ないかなる抗生物質も含む。例えば、米国特許第6,696,073号を参照のこと。いくつかの実施形態では、好ましくは、抗生物質は水溶性抗生物質である。
【0020】
本発明を実施するために使用される「粒子状充填剤」は、セラミックなどの適切ないかなる生体適合材料からも作製することができる。いくつかの実施形態では、粒子状充填剤は、好ましくは骨伝導性である。充填剤を作製し得る適切な材料の例は、リン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸アルカリカルシウムセラミック(calcium alkali phosphate ceramic)、カルシウムリンアパタイト(calcium phosphorus apatite)、バイオガラス、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、カルシウムリンアパタイト、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、コラーゲン、同種異系移植骨、その他の吸収性生体適合性材料およびそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。例えば、米国特許第6,869,445号;同第5,281,265号を参照のこと。いくつかの実施形態では、粒子状充填剤は、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムまたはそれの混合物を含む。
【0021】
本発明の組成物の粒子状充填剤含量は、組成物のケラチン含量の約0.1パーセント〜約200パーセントの範囲であってよい。いくつかの実施形態では、組成物の粒子状充填剤含量は、ケラチン含量の約10パーセント〜約100パーセントの範囲であってもよい。本発明の他の実施形態では、組成物の粒子状充填剤含量は、ケラチン含量の約20パーセント〜約90パーセントの範囲であってもよい。別の実施形態では、粒子状充填剤含量は、ケラチン含量の約40パーセント〜80パーセントの範囲であってもよい。更なる実施形態では、組成物の粒子状充填剤含量が、ケラチン含量の約25パーセント〜約50パーセントの範囲であってもよい。一例として、1つの実施形態では、ゲル100g中のケラチン濃度が20パーセント(即ち、水80g当たりケラチン20g)である場合、粒子状充填剤含量は約2g〜約20gの範囲であってよい。
【0022】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、練り歯磨きまたは塑像用粘土に似た粘稠度を有する。さらに、代表的な実施形態では、組成物の粘性は流動的且つ展性的であり、支持構造体がなくても形態または形状を保持することができる。
【0023】
本発明の組成物は、乾燥形態で利用者に提供してもよい。乾燥形態の組成物は、後の使用のために再水和することができる。
【0024】
[ケラチン材料]
ケラチン材料は、羊毛およびヒト毛髪を含むがこれらに限定されない、適切ないかなるソースにも由来する。1つの実施形態では、ケラチンは、理髪店およびサロンから得られるエンドカット(end−cut)したヒト毛髪に由来する。該材料を、熱湯および中性洗剤中で洗浄し、乾燥して、非極性有機溶媒(典型的には、ヘキサンまたはエーテル)で抽出して、使用前に残留オイルを除去する。
【0025】
下記のスキーム1は、ケラチン中のジスルフィド架橋の(a)酸化および(b)還元の概略を示した。これらの反応は、シスチン残基中のイオウ−イオウ結合を開裂し、それによって、高次構造を破壊し、ケラチンを反応媒体に対して可溶性とする。
【化1】

【0026】
[ケラトース画分]
ケラトース画分は、適切ないかなる技術によっても得ることができる。1つの実施形態では、ケラトース画分はAlexanderおよび共同研究者による方法を用いて得られる(P.Alexander et al.,Biochem.J.46,27−32(1950))。簡潔に述べると、毛髪を10パーセント未満の濃度の過酢酸水溶液と室温で24時間反応させる。溶液を濾過し、鉱酸を添加してpHを約4にすることによりアルファケラトース画分を沈殿させる。アルファケラトースを濾過によって分離し、酸を追加して洗浄した後、アルコールで脱水し、その後減圧下で乾燥する。7M尿素、水酸化アンモニウム水溶液または20mMトリス塩基緩衝液などの変性溶液にケラトースを再溶解して、再沈殿させ、再び溶解して、脱イオン水で透析した後にpH4で再度沈殿することによって、純度を上げることができる。
【0027】
ガンマケラトース画分は、pH4では溶解したままであり、アルコールなどの水混和性有機溶媒を添加した後、ろ過して、アルコールを追加して脱水し、減圧下で乾燥することにより単離される。7M尿素、水酸化アンモニウム水溶液または20mMtris緩衝液などの変性溶液にケラトースを再溶解して、鉱酸を加えてpHを4に下げ、生じた固形物を全て除去して、上清を中和し、タンパク質をアルコールで再沈殿させ、再溶解し、脱イオン水で透析した後にアルコールを添加して再沈殿させることによって、純度を上げることができる。これらのステップで消費されるアルコールの量は、蒸留によってケラトース溶液を最初に濃縮することにより最小限にすることができる。
【0028】
使用に際しては、必要に応じて組成物を再水和することもでき、該組成物を処置有効量で骨折に接触させることによって、公知技術に従い被験体の骨折を処置する(例えば、骨欠損を充填する)ために使用することができる。骨折は、いかなる骨の骨折でもよく、篩骨、前頭骨、鼻骨、後頭骨、頭頂骨、側頭骨、下顎骨、上顎骨、頬骨、頚椎、胸椎、腰椎、仙骨、肋骨、胸骨、鎖骨、肩甲骨、上腕骨、橈骨、尺骨、手根骨、中手骨、指骨、腸骨、坐骨、恥骨、大腿骨、脛骨、腓骨、膝蓋骨、踵骨、足根骨、または中足骨などの骨折を含むがこれらに限定されない。実際、Boyce et al.による米国特許第6,863,694号に記載されているように、組成物は、ボーングラフトまたは骨形成性インプラントが使用される、適切ないかなる目的にも使用することができる。
【0029】
本発明は、下記の本発明を限定するものではない実施例において、更に詳細に説明される。
【実施例】
【0030】
この研究では、骨伝導性、骨誘導性および抗生物質の放出制御をもたらすケラチンバイオセラミック抗生物質パテ(KBAP)を試験する。該パテは、セラミック充填剤および抗生物質を備えるケラチンヒドロゲルで構成されている。KBAPは展性であり、更に調製を行わなくても形をつくることができ、骨欠損部位に押し入れることができる。これにより、一段階手術プロトコールでの骨再生のために即時的で予防的な抗生物質の放出ならびに骨伝導性および骨誘導性環境が与えられる。
【0031】
ケラチンヒドロゲルは高度に水和されたタンパク質ネットワークである。したがって、いかなる水溶性抗生物質(例えばセファゾリン、ゲンタマイシン、およびバンコマイシン)も用いることができる。水和されたケラチンの親水性により、細胞付着および内部増殖が促進される。セラミック成分は、現在市販されている製品(例えば、COLLAGRAFT(登録商標))の骨伝導特性を有することができるが、吸引骨髄を必要としないこともある。ケラチンは、あらゆるバイオマテリアルの中でも最も低い異物反応を誘発するタンパク質類に属するため、ケラチンマトリックスは高度に生体適合性のある環境を与える(Ito H et al.,Kobunshi Ronbunshu 1982;39(4):249−56;Blanchard CR et al,米国特許第6461628号(2002年10月8日);Tachibana A et al.,J Biotech 2002;93:165−70)。
【0032】
ケラチンタンパク質は、適切に処理された場合、分子が自己集合するという固有の能力を有する。これは、ケラチンタンパク質が本来の三次構造に対する何らかの類似体を再構築するプロセスである(Sauk JJ et al.,J Cell Bio 1984;99:1590−7;Thomas H et al.,Int J Biol Macromol 1986;8:258−64;van de Loecht M.Melliand Textilberichte 1987;10:780−6)。これは、2つの理由によりボーングラフト代替物にとって特に有用な特性である。第一の理由は、自己集合する結果、再現可能な構築、次元性および間隙率を有する高度に規則的な構造になることである。第二の理由は、温和な条件下でこれらの構築物が自発的に形成されることにより、マトリックスの形成につれて細胞が取り込まれることが可能になっていることである。これらの2つの特徴は、天然のECMを模倣しようとするいかなる系においても極めて重要である。図1に示すケラチンスキャフォールドは、ヒドロゲルの自発的な自己集合によって作られたものであり、細胞浸潤および組織再生に関して伝導性のある構築物のタイプを示している。
【0033】
天然のECMは、細胞周辺で該細胞によって生成された規則的な構造体である。組織損傷の経過において、ECMは、細胞の動員、増殖および分化の相互作用的な媒体であり、新しい機能的な組織の形成および成熟に導く。ECMは、構造的なサポート、増殖因子の送達、および細胞が結合し情報を得ることを可能にする分子認識の部位を提供することにより、これらのプロセスの組織化を助ける。
【0034】
細胞認識は、ECMの特異的なアミノ酸モチーフに対する細胞表面インテグリンの結合によって促進される(Buck CA and Horwitz AF.Annu Rev Cell Biol 1987;3:179−205;Akiyama SK.Hum Cell 1996;9(3):181−6)。主なECMタンパク質は、コラーゲンおよびフィブロネクチンであり、両者とも細胞結合に関して広範に研究されている(McDonald JA and Mecham RP(編者).Receptors for extracellular matrix(1991).Academic Press,San Diego)。フィブロネクチンは、多種多様なタイプの細胞による付着を支える複数の領域を含む。Mould et al.は、周知のアルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)モチーフの他に、フィブロネクチン上の「X」−アスパラギン酸−「Y」モチーフ(ここで、Xはグリシン、ロイシンまたはグルタミン酸に等しく、Yはセリンまたはバリンに等しい)もインテグリンα4βlによって認識されることを示した(Mould AP et al,J Biol Chem 1991;266(6):3579−85)。ケラチンバイオマテリアルからの安価な生体適合性スキャフォールドは、これらと同じ結合モチーフを含む。
【0035】
NCBIタンパク質データベースの最近の探索から、固有のヒト毛髪ケラチンタンパク質71種についての配列が明らかにされた(National Center for Biotechnology Information(NCBI)database,http://www.ncbi.nlm.nih.govからのデータ)。これらのうち、55種は高分子量、低イオウのアルファヘリックスファミリー由来のものである。このグループのタンパク質は、しばしばα−ケラチンと呼ばれ、ヒト毛髪繊維への強靭性の付与に関与している。これらのα−ケラチンは、40kDaを超える分子量を有し、4.8モルパーセントの平均システイン(タンパク質の分子間および分子内結合の形成に関与する主要アミノ酸)含量を有する。重要なことには、これらのα−ケラチンタンパク質のアミノ酸配列を解析したところ、78%がフィブロネクチン様インテグリンレセプター結合モチーフを少なくとも1つ含み、25%は少なくとも2つ以上含むことが明らかにされた。最近の論文は、ケラチン泡状物への優れた細胞接着を実証することにより、これらの結合部位がケラチンバイオマテリアル上に存在するという事実を浮き彫りにした(Tachibana A et al.,J Biotech 2002;93:165−70)。この論文は、該原理を実証するために線維芽細胞を使用しているが、その後、ケラチンバイオセラミックの骨伝導性が、同じ著者によって実証された(Tachibana A et al.,Biomaterials 2005;26(3):297−302)。
【0036】
多数の増殖因子がエンドカットしたヒト毛髪中に存在し、ケラチンが極めて効果的な送達マトリックス(delivery matrix)として働いていることを示す多くの証拠を、いくつかの研究が示し始めている。形質転換増殖因子β(TGF−β)スーパーファミリーの骨形成タンパク質−4(BMP−4)および他のメンバーなどの増殖因子が、発育毛嚢中に存在することは、10年以上前から知られていた(Jones CM et al.,Development 1991;111:531−42;Lyons KM et al.,Development 1990;109:833−44;Blessings M et al.,Genes and Develop 1993;7:204−15).39−41。実際、30より多い増殖因子およびサイトカインが、周期循環する毛嚢の増殖に関与している(Stenn KS et al.,J Dermato Sci 1994;7S:S109−24)。これらの分子の多くは、様々な組織の再生において極めて重要な役割を果たしている(Clark RAF(編者).The molecular and cellular biology of wound repair(1996)Plenum Press,New York)。サイトカインが毛嚢のバルジ領域に存在する幹細胞に結合すると、ヒト毛髪内に多くの増殖因子が取り込まれるようになることは大いにあり得る(Panteleyev AA et al.,J Cell Sci 2001;114:3419−31)。本発明者らは最近、ヒト毛髪の抽出物を分析し、これらのサンプル中に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの増殖因子が存在することを明らかにした。本発明者らは現在、BMP、TGF−βおよび神経成長因子を含む他の複数の増殖因子の存在について、ケラチンバイオマテリアルを分析している。
【0037】
上記の議論は、KBAPが従来のボーングラフト代替物に優る複数の重要な利点を示し、優れた製品の開発という目的を達成するために本発明者らが専門知識を活用する方向性を示す。抗生物質充填剤を備えるケラチンバイオマテリアルは、抗生物質の持続放出を実現し、以下の理由から、この目的を達成する潜在力を有する。
ケラチンバイオマテリアルは、容易に得られ、加工される。
ケラチンは、高度に生体適合性である。
ケラチンは、細胞の付着および増殖に対して伝導性の構築物へと自己集合する。
ケラチンは、細胞認識部位を含み、効果的なECM代替物である。
ケラチンは、抗生物質などの薬剤化合物の封入材またはコンジュゲートとして働き、該薬剤化合物の放出動態を制御することができる。
ケラチンバイオマテリアルは、細胞の増殖および分化を調節し、したがって骨誘導性を付与する潜在力を有するBMPなどの増殖因子を含む。
【0038】
[結果]
1.抗生物質マイクロカプセルを取り込み得る、鉱物成分を有するケラチンマトリックスを使用するボーングラフトパテの調製
毛髪繊維からケラチンを抽出する方法が多数公開されている。一般に、弾力性の毛髪繊維構造を化学的に分解し、目的の皮質ケラチンタンパク質に水溶性を付与するために、1)酸化、2)還元、および3)亜硫酸分解の3つの方法が用いられる(例えば、Crewther WG et al.,Advances in protein chemistry(1965).Anfinsen CB Jr.,Anson ML,Edsall JT,and Richards FM(編者).Academic Press.New York:191−346;Goddard DR and Michaelis L.,J Bio Chem 1934;106:605−14;Kelley RJ et al.,PCT国際公開公報第03/011894号;Zackroff RV and Goldman RD.Proc Natl Acad Sci 1979;76(12):6226−30を参照のこと)。効率的な抽出は、第一に、これらの3つの方法のうちの1つを使用してジスルフィド結合を切断すること、第二に遊離タンパク質を穏やかに変性させて、その分解に影響を与えることに依存する。この第二のステップの重要性は、競争反応であるケラチン主鎖中のペプチド結合の加水分解があるため、強調しすぎることはない。タンパク質主鎖の加水分解は、ケラチンの有用な特性の多くを損なうため、避けなければならない。本発明者らは、骨欠損を修復するために用いることができる展性パテを製造することを目的として、以下に詳細に記載するように、これら3つの方法をすべて評価した。
【0039】
[酸化]
ヒト毛髪は地元サロンから入手し、これを中性洗剤(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)で洗浄し、エチルエーテル(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)で脱脂して風乾した。典型的な反応では、清潔な乾燥毛髪20gを、脱イオン(DI)水中の2重量/容量(w/v)%過酢酸(PAA,Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)溶液400mLで処理した。37℃に保温された密閉ポリプロピレン容器中で穏やかに撹拌しながら12時間、酸化を行った。酸化された毛髪を回収し、大量のDI水ですすいだ。濡れた酸化された毛髪を、0.2Mトリス塩基(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)、0.1Mトリス塩基およびDI水のそれぞれ500、500および1000mLで順次抽出した。抽出物を合わせ、12M塩酸(HCL;Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)を滴下して加え最終pHを4.2にすることによってα−ケラトースを沈殿させた。該α−ケラトースを、20mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)を有する20のmMトリス塩基に再溶解し、HClを滴下して加え最終pHを4.2にすることにより再沈殿させ、トリス塩基+EDTAに再溶解した。得られたタンパク質溶液を、1日2回水を交換しながらDI水に対して3日間透析した(LMWCO 12.4K;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)。透析後、50℃で減圧蒸留することによって液体の容量を減らし、濃縮物を凍結乾燥することによりα−ケラトース粉末を単離した。このサンプルを、乳酸リンゲル液(RL)にて5、4、3、2、1および0.5重量パーセントに調製し、ブルックフィールド・コーン・プレート粘度計(Brookfield Engineering,Middleboro,MA)にて、37℃で粘度を分析した。粘度のデータを図1に示す。
【0040】
[還元]
第二のケラチンサンプルは、異なる抽出プロトコールを用いて得られた。ヒト毛髪は地元サロンから入手し、これを中性洗剤で洗浄し、エチルエーテルで脱脂して風乾した。典型的な反応では、清潔な乾燥毛髪20gを、飽和水酸化ナトリウム溶液(Fisher Scientific)を用いてpH10.2に滴定した、脱イオン(DI)水中の1.0Mチオグリコール酸(Sigma−Aldrich)溶液400mLで処理した。37℃に保温された密閉ポリプロピレン容器中で穏やかに撹拌しながら12時間、還元を行った。還元された毛髪を回収し、大量のDI水ですすいだ。濡れた還元された毛髪を、0.1Mチオグリコール酸を有する0.1Mトリス塩基500mLで3回、順次抽出した。抽出物を合わせ、12M塩酸を滴下して加え最終pHを4.2にすることによってα−ケラテイン(keratein)を沈殿させた。該α−ケラテインを、20mMEDTAを有する20mMトリス塩基に再溶解し、HClを滴下して加え最終pHを4.2にすることにより再沈殿させ、さらにトリス塩基+EDTAに再溶解した。得られたタンパク質溶液を、1日2回水を交換しながらDI水に対して3日間透析した(LMWCO 12.4K)。透析後、ヨード酢酸(Sigma−Aldrich)と透析物1mL当たり0.25mgを加えてシステイン残基を反応させることによりα−ケラテインを誘導体化した。37℃、pH9.0に保温された密閉ポリプロピレン容器中で時々撹拌しながら24時間、この反応を実施した。過剰のヨード酢酸および他の夾雑物は、DI水に対して透析することにより除去された(LMWCO 12.4K)。透析物を減圧蒸発により濃縮し、凍結乾燥してα−s−カルボキシメチルケラテイン(α−SCMK)を得た。RLにて5、4、3、2、1および0.5重量パーセントα−SCMK溶液を調製し、上記のように粘度を分析した。これらのデータを図2に示す。
【0041】
これらのデータは許容粘度値を示す傾向にあったが、生体適合性を維持し、骨芽細胞が生存し得る多孔性マトリックスを提供するために、10重量パーセント以下でヒドロゲルを製剤化することが望ましい。低間隙率またはポアが小さすぎるバイオマテリアル(即ち、間隙率<85%およびポア<100μm)は、最初に該バイオマテリアルを分解することなしには、細胞の生存が困難である。この場合、治癒が遅れ、線維症を引き起こし得る。5%未満のケラチン製剤について図1に示された粘度は、許容し難く低い値であると考えられた。採用された抽出条件が過度の加水分解をもたらしたことが判明したため、本発明者らは、この副反応を最小限にするために酸化プロトコールを改変した。
【0042】
酸化(低加水分解法):このプロトコールを用いる典型的な方法では、清潔な乾燥毛髪50gをDI水中の2重量/容量(w/v)%PAA溶液1,000mLで処理した。37℃に保温された密閉ポリプロピレン容器中で穏やかに撹拌しながら12時間、酸化を行った。酸化された毛髪を回収し、大量のDI水ですすいだ。濡れた酸化された毛髪を0.1Mトリス塩基1,000mLで抽出し、続いてDI水1,000mL容量で順次抽出した。該抽出物を合わせ、50℃での減圧蒸発により10倍濃縮した。その濃縮溶液を冷エタノールに滴下して加えることにより、α−ケラトースを沈殿させた。該沈殿を最小量のDI水に再溶解し、12M塩酸を滴下して加え最終pHを4.2にすることによって再沈殿させた。これを遠心して、DI水に再溶解し、pH7.0に調整し、1日2回水を交換しながら3日間DI水に対して透析し(LMWCO 12.4K)、濃縮した後に凍結乾燥することによってα−ケラトースを単離した。低加水分解(LH)α−ケラトース溶液を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10および5重量パーセントに調製し、上記のように粘度を分析した。10重量パーセントでは、粘度が高すぎるため、粘度計で測定することができなかった。5重量パーセントでは、粘度(前回の測定より低トルクで分析)は37℃で460センチポアズであった。これらのデータから、本発明者らは、LH法がケラチン抽出およびその後の処理中の加水分解を実質的に低下させるとの結論を得た。
【0043】
本発明者らのケラチン製造過程には潜在的に更に改良の余地があり得ることを認識したので、上記のLH抽出プロトコールに多少の変化を加えた。等電沈澱によるα−ケラトースおよびγ−ケラトースの分離ではなく、粗抽出液を透析して、微量夾雑物および残余の処理用化学物質を除去し、透析物を濃縮して凍結乾燥した。その結果、α−ケラトースとγ−ケラトースの両方の混合物が得られ、該混合物は、粘弾性の改善を示した。さらに本発明者らは、ケラトース混合物を架橋することにより、ヒドロゲル製剤の粘度の改善を試みた。本方法の詳細は以下の通りである。典型的な方法では、清潔な乾燥毛髪50gを、DI水中の2重量/容量(w/v)%PAA溶液1,000mLで処理した。37℃に保温された密閉ポリプロピレン容器中で穏やかに撹拌しながら12時間、酸化を行った。酸化された毛髪を回収し、大量のDI水ですすいだ。濡れた酸化された毛髪を0.1Mトリス塩基1,000mLで抽出し、続いてDI水1,000mL容量で順次抽出した。該抽出物を合わせ、50℃での減圧蒸発により10倍濃縮した。この濃縮溶液を、DI水に対して透析し(LMWCO 12.4K)、濃縮して凍結乾燥した。α−ケラトース+γ−ケラトースおよびα−ケラトースの5w/v%DI水溶液を調製し、それらの粘度を測定した。グルタミン−リジン架橋(両アミノ酸とも、ケラチン中に広く存在している)によってそれらの粘度をさらに増大させることを目的として、これらの溶液をトランスグルタミナーゼ溶液(1mg/mL;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)と反応させた。興味深いことには、α−ケラトース+γ−ケラトースサンプルの初期粘度は、α−ケラトースより低かったが、37℃でわずか1時間インキュベーションした後、α−ケラトース+γ−ケラトースサンプルはα−ケラトースより高い粘度に達した。この観察に基づいて、いくつかの製剤を調製して、トランスグルタミナーゼで架橋し、得られたゲルの粘度を測定した。これらのデータを表1に示す。
【0044】
これらの製剤の粘度が、本発明者らが使用する装置の範囲内にあることを単に確認するために実施したので、これらの製剤は、KBAP製剤に通常使用されるよりも少ないケラトースを含んでいた。そのため、これらのデータは注意深く解釈しなければならない。さらに、トランスグルタミナーゼおよび少量のカルシウムイニシエーターを追加すると、ケラトースの見かけの重量パーセントが低下した。これらのデータは、高粘度ヒドロゲルを形成する際に、α−ケラトース+γ−ケラトース混合物およびトランスグルタミナーゼ架橋の使用が有用であり得ることを示唆する。定性的には、α−ケラトース溶液では、37℃で1時間インキュベーションした後に粘度が低下したが、類似のα−ケラトース+γ−ケラトース溶液では粘度が増加した。この現象は、ケラチンのアルファ型およびガンマ型間の複合体形成に起因するのかもしれない。
【0045】
【表1】

【0046】
粘度分析に加えて、これらのゲル製剤の最初の6個について基礎をなす微細構造を検討した。各製剤を粘度計から回収し、凍結乾燥した。得られたサンプルの構造を、走査電子顕微鏡(SEM;Model S−2600N;Hitachi High Technologies America,Inc.,Pleasanton,CA)を用いて特徴づけ、図3に示す。これらの画像は、ヒドロゲルが線維性であることを示し、この微細構造が粘度に及ぼす影響を示している。例えば、4番の製剤は、酵素架橋後の粘度の増加が最大であったものの1つを示す。さらに、該製剤は、最も高度に発達した線維性構築物を示す。ケラチンに基づくバイオマテリアルのユニークな特徴である分子の自己集合プロセスが線維性構築を媒介すると考えられる。
【0047】
2.抗生物質製剤の最適化および検証
抗生物質の送達を実証するために、本発明者らは薬物担体としてケラチンを使用して初期研究を行った。これらの実験では、セファゾリンナトリウムを目標濃度0、10、20、40および80μgでα−ケラテイン水溶液に溶解した。該溶液を凍結乾燥し、固形サンプルを粉砕して粉末にした。手動プレス機を用いて、該粉末を500mgのディスクに成形した。該ディスクを使用して黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC29213の懸濁液に対する殺菌曲線を作成した。黄色ブドウ球菌のヒツジ血液寒天培地(SBA)の一晩培養物から、最終濃度で1mL当たり約105cfuを含むようにミュラーヒントンブロス培養物を調製した。ケラチンディスクを、黄色ブドウ球菌培養物2mL(最終容量)を含む培養試験管に入れ、37℃でインキュベーションした。0、4および8時間に各培養物の10μLアリコートを採取し、生理食塩水10mLに希釈して、その100μLを、ガラススプレッダーおよび播種用回転台を用いてSBA上にプレーティングした。抗生物質の各濃度を3回反復試験した。3回反復のサンプルから平均コロニー数を計算し、抗生物質を含まない陽性対照培養物および微生物を含まない陰性対照培養物と比較した。図4に示すこれらのデータは、ケラチンバイオマテリアルDDSの有効性を示す。
【0048】
さらに最近の実験では、高粘度KBAP製剤(LH方法)を用いて、ボルテックスすることにより1000、500および250μgの抗生物質セファゾリンを取り込ませた。このゲルを、0.1%トランスグルタミナーゼl00μlを用いて37℃で1時間架橋し、得られた製剤を凍結乾燥してフリースタンディングディスク(free standing disc)を作製した。改変型フランツ拡散セルを用いて、KBAPディスクからのセファゾリン放出をPBS中で測定した。ペレット剤(15mg)はドナーコンパートメントに置き、アクセプターコンパートメントをPBSで充たした。ドナーコンパートメントは、セルロースメンブレン(ポアサイズ100μm)によりアクセプターコンパートメントから隔てられた。その後、この拡散セルを37℃のインキュベータ内に置いた。アクセプターコンパートメントの溶液を定期的に取り出し、同量の新鮮な緩衝液と置き換えた。セルロースメンブレンを通過して放出されたセファゾリンを、UV/可視スペクトロメトリ(Thermo Spectronic、USA、UV/VIS)を用いて285nmで分析した。
【0049】
図5に示すように、放出曲線は、KBAP製剤からセファゾリンが放出制御されていることを明らかにした。取り込まれた抗生物質の約60〜70%が1日でKBAPから放出され、4日間放出は続いた。
【0050】
3.インビトロにおける生体適合性、骨伝導性および骨誘導性
ウシ骨芽細胞のサンプルを、凍結保存物を急速に解凍して10cmの組織培養皿上にプレーティングすることによって再構成した。細胞は、0.05mg/mLのアスコルビン酸(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)および抗生物質を添加した、10%FBS(Invitrogen,Carlsbad,CA)を含む低ブドウ糖DMEM 10mL中で培養した。1週間に3回培地を交換し、3〜5日毎に継代することにより細胞を増殖させた。少なくとも3回の継代培養サイクル(「継代」)の後、細胞をトリプシン処理して、ウェル当たり約3,000個の細胞密度で96ウェル組織培養プレート中に播種した。5回反復用ウェルのそれぞれに、表2に示すKBAP製剤の1つを約1mg添加した。培地に入れる前に、KBAPは凍結乾燥してγ線で殺菌した。37℃、5%CO2および95%湿度で約72時間インキュベーションした後、3−(4,5−ジメチルチアゾリル−2)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)(MTT;1mg/mL;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)200μLを培養ウェルに添加した。細胞を4時間インキュベートし、代謝還元生成物であるMTTホルマザンを既知量のジメチルスルホキシドに溶解した。マイクロプレートリーダ(model Elx800;Bio−Tek Instruments,Inc.;Winooski,VT)を用いて、代謝的に低下したMTTの色強度を540nmで測定することにより、細胞数を間接的に測定した。これらの培養物からの吸光度(OD)データを図6に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
これらのデータは、KBAP製剤が培養で骨芽細胞の増殖を助けるので、KBAP製剤が骨伝導物質として作用できることを示す。
【0053】
KBAPが走化性メカニズム(即ち骨伝導)を介して骨原性細胞を動員する能力は、多孔性の細胞膜インサートを使用して評価した。この技術は、走化性物質の濃度勾配に応答して多孔質メンブレンを通過する細胞の遊走の程度を決定する。これらの実験では、KBAPを37℃の無血清培地に入れ、浸漬後1、3、6および24時間などの様々な時点で上清を採取した。このKBAP「抽出物」を培養ウェルに置き、インサートをその上に置いた(図示せず)。上部チャンバー中にウシ骨芽細胞を約2×104細胞/ウェルで播種して、37℃、5%CO2および95%相対湿度でインキュベーションした。
【0054】
無血清培地のみの存在下で培養された細胞を、対照として使用した。6時間および20時間インキュベーションした後、メンブレンをグルタルアルデヒドで固定し、アルコール勾配を用いて脱水した。細胞の形態的特徴を、環境制御型走査電子顕微鏡(SEM;model N−2600 Hitachi,Japan)を用いて検討した。
【0055】
骨芽細胞の遊走に対するKBAP抽出物の影響は、図7に示す顕微鏡写真において明白である。これらのデータは、KBAPが骨芽細胞の遊走に影響し得る可溶性分子を有することを示唆する。KBAP抽出物を含まない培地では、メンブレンの上部(「表」)表面上に数個の細胞が現れ、下部(「裏」)表面上には細胞は現れなかった。6および24時間のKBAP抽出に使用した培地では、上部表面上により多くの細胞が現れ、24時間抽出の方が若干効果的であった。更に重要なのは、20時間培養した後にKBAP抽出物の存在下で細胞がポアを通過してメンブレンの下部表面へ移動したことである。これらのデータは、KBAPの可溶性画分の走化性能およびケラチンバイオマテリアルの潜在的な骨誘導性を示す。
【0056】
4.結論
本発明者らは、ケラチンバイオセラミック抗生物質パテまたはKBAPと称されるボーングラフト代替物製剤における適格性について、3つの型のケラチンバイオマテリアルを評価した。タンパク質が所望の粘弾特性を有するように、ヒト毛髪繊維からケラチンを抽出するための低加水分解法が開発された。本発明者らは、高分子量ケラチンが得られる場合、該高分子量ケラチンは細胞浸潤および増殖に対して伝導性である繊維性微小構築物へと自己集合できることを発見した。
【0057】
本発明者らは、この自己集合したヒドロゲルの物理的特性を架橋するストラテジーによって更に改善した。本発明者らは、このケラチンに基づくヒドロゲルから、抗生物質を放出することができる薬物送達システムを含む展性KBAPのプロトタイプ製剤を開発した。
【0058】
KBAPのプロトタイプ製剤は、黄色ブドウ球菌を使用するインビトロモデルでの抗生物質の放出について試験され、この細菌種を効果的に殺菌することが示された。本発明者らは、インビトロでの放出動態を決定することにより、抗生物質の放出を更に特徴づけた。複数の異なるKBAP製剤の生体適合性は、ウシ骨芽細胞を用いるインビトロで実証され、ヒト毛髪ケラチンの骨誘導性は、細胞遊走アッセイを使用して明らかにされた。これらのデータは、ケラチンバイオマテリアルから抗生物質を放出する展性ボーングラフト代替物の製剤化が実現可能であることを示す。
【0059】
前述の記載は、本発明を例示するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は、特許請求の範囲に記載の請求項、および特許請求の範囲に包含される請求項の均等物によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ケラチンバイオマテリアルスキャフォールド(a)は、自己集合メカニズムによって自然に形成された。線維性構造、高い間隙率および天然ECMに類似の均質性に注目のこと(b;膀胱粘膜下層ECMを示す)。これは、「相互に連結した(interconnected)」ポアを有すると主張される合成スキャフォールド(c)に対して著しく対照的である。これらのタイプの合成スキャフォールドは、最良の場合でも接種が困難であり、組織浸潤するためにはマトリックスを分解しなければならない。その結果、治癒は遅れ、不完全なものとなる。
【図2】α−ケラトース(下の曲線)およびα−SCMK(上の曲線)の粘度曲線。高間隙率とするために、サンプルは、RL溶液にて5重量パーセント以下で調製した。生体適合性を付与し、骨芽細胞の内部増殖(in growth)のための場所を確保するためには、低固形分含量のヒドロゲルが望ましい。
【図3】ケラトース製剤(表1に規定の通り)のSEM顕微鏡写真。ヒドロゲルの基礎をなす微細構造を研究するために、凍結乾燥された溶液からサンプルを作製した。最も線維質の微細構造を呈するゲルは、見かけの粘度についても最大の増加を示した。
【図4】抗生物質含有ケラチンバイオマテリアルの殺菌曲線。これらのデータは、黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対するケラチンバイオマテリアルDDSの有効性を示す。セファゾリンの各濃度で該細菌の効果的な阻止が認められた。
【図5】セファゾリンを含有するKBAP製剤の放出動態を、改変型フランツ拡散セル中で測定した(a)。抗生物質は、ケラチンヒドロゲルに単に添加され、カプセル封入も化学的コンジュゲートも行われなかった。その結果、放出動態は最初の24時間で急速な放出を示し、はるかに低い放出がその後3日間続いた。カプセル封入およびコンジュゲーションの方法は、2週間後までMICを与えるように現在開発中である。
【図6】対照条件(培地のみ)と比較した6種の異なるKBAP製剤の存在下におけるウシ骨芽細胞の増殖。光学密度値(Y軸)は生細胞の総数に比例する。これらのデータは、KBAP製剤番号3、4、5、8および9が骨芽細胞に適合することを示唆する(p>0.05、n=5)。製剤番号6および7は、ほぼ有意であり、p値はそれぞれ0.030と0.041であった(n=5)。
【図7】骨芽細胞遊走に対するKBAP抽出物の効果を示す顕微鏡写真である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
展性ボーングラフト組成物であって、
(a)1〜90重量パーセントのケラトースと、
(b)1〜90重量パーセントの粒子状充填剤と、
(c)0.001〜5重量パーセントの抗生物質と
(d)残余の水と
を含み、37℃の温度で少なくとも3センチポアズの粘度を有するボーングラフト組成物。
【請求項2】
前記ケラトースが、アルファケラトース、ガンマケラトースまたはそれらの混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ケラトースが、アルファケラトースとガンマケラトースとの混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ケラトースが、10〜90重量パーセントのアルファケラトースと、90〜10重量パーセントのガンマケラトースとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ケラトースが、架橋されたケラトースである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記架橋されたケラトースが、カルシウムイニシエーターの存在下で、前記ケラトースとトランスグルタミナーゼとを組み合わせる方法により製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
0.001〜5重量パーセントの骨形態形成タンパク質をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記粒子状充填剤が骨伝導性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
粒子状充填剤が、リン酸四カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸アルカリカルシウムセラミック、バイオガラス、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、カルシウムリンアパタイト、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、コラーゲン、その他の吸収性生体適合材料、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記生体適合の粒子状充填剤が、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムまたはそれらの混合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗生物質が、セファゾリン、バンコマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、バシトラシン、ネオマイシン、ペニシリン、ポリマイシンB、テトラサイクリン、バイオマイシン、クロロマイセチン、ストレプトマイシン、アンピシリン、アザクタム、トブラマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が無菌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
滅菌容器で包装されている、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
水または生理食塩水を用いて再構成すると請求項1の組成物を生成する、凍結乾燥された(lyophilized)または凍結乾燥された(freeze−dried)された組成物。
【請求項15】
請求項1の組成物を治療有効量で骨折と接触させることを含む、骨折治療が必要な被験者の骨折を治療する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−513190(P2009−513190A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536758(P2008−536758)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/040673
【国際公開番号】WO2007/050387
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】