説明

ケージドペプチドの合成法

【課題】ペプチドに関するケージド化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)


(式中、Rはアミノ基の保護基を示す。AはGly,Pro以外のペプチドを構成するαアミノ酸の側鎖を示す。Bはαアミノ酸の側鎖を示す。Rは光解離性保護基を示す。)で表されるN保護ジペプチド化合物を、固相合成においてN保護アミノ酸の代わりに使用することを特徴とする、光解離性保護基を主鎖に導入したペプチドの固相合成法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケージドペプチドの合成法に関し、特に固相合成法によるケージドペプチドの合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ペプチドの側鎖に光解離性保護基を導入することによって、ペプチドの生理活性を遮蔽し、光照射により、保護基を解離させ、ペプチドの生理活性を任意の時間部位で回復させることができるケージドペプチドが開発された(特許文献1)。その後、ペプチド結合に光解離性保護基を導入したタイプのケージドペプチドが開発された(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平10-120699
【非特許文献1】Tatsu Y, Nishigaki T, Darszon A, Yumoto N. ,FEBS Lett. 2002;525(1-3):20-4.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ペプチド結合に光解離性保護基を導入できれば、側鎖に光解離性保護基が導入できないアミノ酸残基でも、ケージドペプチド化することが可能となる。しかし、Baa−Aaa(Baaは、側鎖がB基であるαアミノ酸を示す。Aaaは、側鎖がA基であるαアミノ酸を示す。)のペプチド結合において、Aaaがグリシンのときのみ固相合成が進行し、その他のアミノ酸残基のケージドペプチドは合成することができなかった。
【0004】
本発明は、グリシンとプロリン以外のアミノ酸の主鎖(ペプチド結合を構成する)アミノ基に光解離性保護基が導入されたペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
Baa−Aaaのペプチド結合のAaaのαアミノ基を光解離性保護基で修飾したジペプチドを液相中で合成し、これを固相合成法に用いることで、上記課題が解決可能であることを見出した。
【0006】
本発明は、以下のペプチドの固相合成法を提供するものである。
1. 下記式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rはアミノ基の保護基を示す。AはGly,Pro以外のペプチドを構成するαアミノ酸の側鎖を示す。Bはαアミノ酸の側鎖を示す。Rは光解離性保護基を示す。)で表されるN保護ジペプチド化合物を、固相合成においてN保護アミノ酸の代わりに使用することを特徴とする、光解離性保護基を主鎖に導入したペプチドの固相合成法。
2. Rが2−ニトロベンジル基である項1に記載の固相合成法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固相合成法により、グリシン、プロリン以外のアミノ酸残基のペプチド結合のアミドに光解離性保護基が導入されたケージドペプチドの合成が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、「ケージドペプチド」とは、生理活性ペプチドの主鎖に紫外線照射により除去可能な光解離性保護基が付加されたペプチドであって、それ自身は生理活性ペプチドよりも活性が減弱ないし消失したポリペプチドを意味する。ケージドペプチドの生理活性は、もとの生理活性ペプチドの50%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。
【0011】
ケージドペプチドに結合する光解離性保護基の数は、ケージドペプチドの生理活性が減弱ないし消失する限り特に限定されないが、例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個である。
【0012】
光解離性保護基は、生理活性ペプチドを構成するアミノ酸の、ペプチド結合(アミド結
合)に関与するαアミノ基に結合する。光解離性保護基が結合するアミノ酸としては、グ
リシンとプロリン以外のαアミノ酸であれば特に限定されない。グリシンの場合には、アミノ基に光解離性保護基が結合していても通常の固相合成の手順に従ってペプチドの伸長を行うことができるので、本発明で使用する一般式(I)のジペプチドを使用する必要がない。また、プロリンはアミノ基に光解離性保護基が結合するとペプチド結合が形成できないので除外される。
【0013】
一般式(I)において、「A」で表される基としては、Ala、Ser、Thr、Tyr、Phe、Trp、Asp、Glu、Met、Cys、Leu、Ile、Val、Lys、Arg、His、Asn、Gln、Orn(オルニチン)の
側鎖が挙げられ、「B」で表される基としては、Ala、Ser、Thr、Tyr、Phe、Trp、Asp、Glu、Met、Cys、Leu、Ile、Val、Lys、Arg、His、Asn、Gln、Gly、Pro、Orn(オルニチン
)の側鎖が挙げられる。なお、A, Bで表されるアミノ酸の側鎖がNH2、SH、イミダゾリル
、グアニジノ、OH、COOH)などの官能基を有する場合には、必要に応じてペプチド合成(
特に固相合成)で通常使用される保護基で必要に応じて保護される。
【0014】
光解離性保護基は、紫外線照射により除去される。照射される紫外線としては、光解離性保護基を除去できる限り特に限定されず、通常の紫外線ランプなどが用いられる。紫外線照射の条件は特に限定されないが、例えばTLC検出用の紫外線ハンドランプ(トプコン製、PU-2)で1時間程度処理すればよい。
【0015】
光解離性保護基が連結される生理活性ペプチドとしては、グリシンとプロリン以外のアミノ酸を含有する限り特に限定されず、動物、植物、微生物由来のあらゆる酵素、受容体またはそのリガンド、生理活性ペプチドが対象となる。例えば、光解離性保護基がα−ヘリックス、βシートなどの二次構造を構成するアミノ酸、酵素の活性中心、受容体あるいはそのリガンドの結合部位などに導入し、これらペプチド/ポリペプチドの活性がどの程
度影響されるかを評価することで、該活性に重要なアミノ酸を同定することができる。
【0016】
R1で表される保護基としては、Boc基、Z(Cbz)基、Fmoc基が挙げられ、Fmoc基が好まし
い。
【0017】
生理活性ペプチドは、3〜1000個程度、好ましくは4〜200個程度のアミノ酸から構成される。生理活性ペプチドの具体例としては、オキシトシン、バゾプレッシン、アンギオテンシンI、アンギオテンシンII、ACTH、TRH、LH−RH、Met−エン
ケファリン、Leu−エンケファリン、エンドルフィン、ガストリン、グルカゴン、ニューロペプチドY、セクレチン、カルシトニン、成長因子放出ホルモン(GRF)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRF)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、インシュリン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、インターフェロン、インターロイキン、TNF、神経ペプチドY等の各種のペプチドが挙げられる。
【0018】
光解離性保護基は、紫外線照射により切断されるものであれば特に限定されないが、例えば下記式(II)
【0019】
【化2】

【0020】
〔式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって水素原子、低級アルキル基、低級アルコキ
シ基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基またはシアノ基を示すか、あるいはR1、R2及びR3のいずれか2つが一緒になってメチレンジオキシ基を示す。Rは、水素原子又はメチ
ル基を示す。〕で表される
基が挙げられる。
【0021】
式(I)において、R1、R2、R3で表される低級アルキル基としては、メチル、エチ
ル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基が挙げられる。
【0022】
低級アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどの炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルコキシ基が挙げられる。
【0023】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0024】
好ましい式(II)の基は、R1、R2、R3は、いずれか2つが水素原子で、残りの1つ
が水素原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基で、Rが水素原子で表される基である。
1)ジペプチドの合成の概略
αアミノ基に光解離性保護基を有するアミノ酸(Aaa)とN保護アミノ酸(Baa)の酸フッ化物を反応させて、目的とする一般式(I)のジペプチドを合成することができる。反応は、光解離性保護基が結合したAaa1モルに対し、N保護−Baa−Fを1モルから過剰量使用し、0℃〜100℃程度の温度下に1分から24時間程度反応させることにより、有利に進行する。
【0025】
下記<反応工程式1>に、光解離性保護基がオルトニトロベンジル基であり、Baaの保護基がFmocである場合を例示する。オルトニトロベンジル基以外の光解離性保護基の場合も同様にして一般式(I)のジペプチドを合成することができる。
<反応工程式1>
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、A、Bは前記に定義されるとおりである。)
<反応工程式1>において、原料となるFmoc-NH-CHB-COFは、Fmoc-NH-CHB-COOHとフッ
化シアヌルを使用して常法により製造することができる。また、(o-ニトロヘ゛ンシ゛ル)-NHCHACOOHなどの光解離性保護基が導入されたアミノ酸は、Ra-Cl、Ra-BrなどのRa-(脱離基)で表される化合物と、必要に応じてCOOH基、側鎖官能基(NH2、SH、イミダゾリル、グアニジノ、OH、COOH)が保護されたαアミノ酸とを必要に応じて塩基の存在下に反応させることで得ることができる。また、光解離性保護基が一般式(II)の基の場合には、一般式(II)のベンジル位にカルボニル基を有するo-ニトロアセトフェノン誘導体又はo-ニトロベンズアルデヒド誘導体と必要に応じて保護基を有するαアミノ酸をNaBH4、NaCNBH3などの還元剤の存在下に反応させてシッフ塩基を還元させ、必要な場合には脱保護することにより、目的とする(光解離性保護基)-NH-CHA-COOHを得ることができる。
【0028】
2)ペプチド合成の概略
固相合成により、上記ジペプチドビルディングブロックを任意の配列のペプチド鎖に導入することができる。
<反応工程式2>
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、A、Bは前記に定義されるとおりである。BOPは、Benzotriazole-1-yl-oxy-tris(dimethylamino) phosphonium hexafluorophosphateである。固相合成用の樹脂(Resin)の末端の「H2N-CHX-」は、固相合成法における末端のアミノ酸を表す。)
固相合成の樹脂としては、ポリスチレンージ ビニルベンゼン共重合体などの公知の樹
脂を広く使用することができる。
【0031】
また、ペプチド鎖の伸長、保護基の除去、樹脂からのペプチドの切断などは、常法に従い実施することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
参考例1:N−2-ニトロベンジル−アミノ酸((NB)Aaa)の製造
<反応工程式1>の左辺第2項に示される化合物(N−2-ニトロベンジル−アミノ酸、(NB)Aaa)の合成例として、N−2-ニトロベンジル−アラニン((NB)Ala)の合成例を記載する。
【0033】
300mlナス型フラスコでアラニン8.90g(100mmol)を1N水酸化カリウム水溶液100mlに溶解させ、氷浴に移し、エタノール100mlに溶解させた2-
ニトロベンズアルデヒド15.1g(0.1mol)を撹拌しながら少量ずつ加えた。フラスコを氷浴に移し、水素化ホウ素ナトリウム6.0g(0.159mol)を攪拌しながら少量ずつ加えた。約15分後、エタノールをエバポレーターにより留去し、得られた懸濁液をジエチルエーテルにて洗浄後、2N塩酸水溶液を加え万能pH試験紙によりpHを約5に調整し、生じた沈殿を水、ジエチルエーテルにて洗浄後、真空乾燥し、N−2-ニトロベンジル−アラニン((NB)Ala)10.65g(0.047mol、収率47.5%)を得た。同定は、H−NMRによって行った。
【0034】
同様な方法により、N−2-ニトロベンジル−フェニルアラニン、N−2-ニトロベンジル−O−tブチル−セリン、N−2-ニトロベンジル−O−tブチル−アスパラギン酸、N−2-ニトロベンジル−O−tブチル−グルタミン酸、N−α−2-ニトロベンジル−N−ε―tブチルオキシカルボニル−リジン、を得た。
【0035】
参考例2:N-α-フルオレニルメチルオキシカルボニル-N-2-ニトロベンジル−アラニン(Fmoc-(NB)Ala)の製造
氷浴上の100mlナス型フラスコに上記参考例で得た(NB)Ala2.24g(10mmol)を入れ、10%炭酸ナトリウム水溶液(30ml)、水(70ml)、アセトン(10ml)を加え溶解させ、アセトン(20ml)に溶解した9-フルオレニル-N-スク
シンイミジル炭酸塩3.89g(15mmol)を滴下ロートで滴下後、一夜撹拌した。これをエバポレーターにより、アセトンを留去した後、水相をジエチルエーテルで洗浄し、2N塩酸水溶液を加え万能pH試験紙によりpHを約4以下に調整した後、酢酸エチルにより抽出し、有機相を1N塩酸1回、水2回、飽和食塩水1回にて洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、濃縮し、ヘキサンを加え白色沈殿を析出させた。次いで、この白色沈殿を濾取し、ヘキサンで洗浄して乾燥させ、標記化合物4.04gを回収した。(9.1mmol、収率91%、質量分析値:FABMS calculated for C25H22N2O6(M) 446.15, found m/z
446.13(M+H+))
【0036】
参考例3:アミノ酸フッ化物の調整法
Fmoc-NH-CHB-COFの合成法をAla(B=CH3)を例に取り記載する。100mlナス型フラス
コにN-α-フルオレニルメチルオキシカルボニル-アラニン1水和物1.81g(5.5
mmol)を入れ、乾燥ジクロロメタン(25ml)を加え溶解させ、ピリジン(221マイクロl)を加え、フッ化シアヌル(3.5ml)を滴下後、一夜撹拌した。水(50ml)を加え攪拌した。4時間後に、生じた固形物をろ別し、ジクロロメタンによる洗浄液をろ液と合わせ、水1回、飽和食塩水1回にて洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、ジクロロメタンを留去し、N-α-フルオレニルメチルオキシカルボニル−アラニン酸フッ化物(Fmoc−Ala−F)の粗生成物1.75gを回収した。収率101%。
【0037】
同様な方法によって、Fmoc−Asp(OtBu)−F(収率61.8%)、Fmoc−Leu―F(収率84.4%)、Fmoc−Ser(OtBu)−F(収率93.1%)、Fmoc−Trp(Boc)−F(収率85.0%)、を得た。
【0038】
参考例4:ペプチドの製造方法
自動ペプチド合成装置PSSM−8((株)島津製作所製)を使用し、この合成マニュアルに従
い粗ペプチドを合成した。レジンはTGS-RAM レジン((株)島津製作所製)を用いた。合成スケールは、リアクションベッセル1個に対し、100mgのレジンとFmoc化アミノ酸を210μmol(10当量)加えた。ニトロベンジルが含まれていないアミノ基にペプチド結合
を生じさせるステップは、マニュアルどおり、ベンゾトリアゾリルオキシトリピロリジノフォスフォニウムヘキサフルオロフォスフェート(PyBOP、109mg、10当量、
Nメチルモルホリン(1M ジメチルホルムアミド溶液、210μl)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、0.5M ジメチルホルムアミド溶液、420μl)を次のFmoc化アミノ酸10当量を反応させるプログラムを選択した。合成終了後、リアクションベッセル内のペプチドレジンにメタノール及びt−ブチルメチルエーテルを加え順次洗浄した後、ペプチドレジンを1時間減圧乾燥した。乾燥後、クリーベッジカクテル(レ
ジン100mgのスケールに対してトリフルオロ酢酸(以下、TFAと略す)/チオアニソー
ル/エタンジチオール/水/エチルメチルスルフィド/チオフェノール/1, 2-エタンジ
チオール=0.8ml/0.05ml/0.05ml/0.03 ml / 0.02 ml / 0.025 ml)をリアクションベッセル内に注入し、約8時間放置した。クリーベッジカクテルの濾液を遠沈
管に回収し、冷却したジエチルエーテルを加え、遠心操作を行い、析出した沈殿物を回収し、アルゴン気流中で乾燥し、更に減圧乾燥して、粗ペプチドを得た。この粗ペプチドをC18AR-IIカラム(φ20x250mm、ナカライ製)を装着した逆相系液体クロマトグラフィ
ー(溶出液0.1%TFA水溶液と80%アセトニトリル水溶液のグラジエント溶出)によ
り、単離した。
【0039】
比較例1
SKAEAAARAAAAAAA-amideの配列のペプチドの10番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入したケージドペプチドの合成を試みた。10番目のアミノ酸導入は、Fmoc−(NB)Ala−OH(10当量)を用い、通常の合成プログラムで行った。9番目のアミノ酸導入は、FmocAla−OH(65mg、210μmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(25mg、210μmol)、Nメチルモルホリン(1
M ジメチルホルムアミド溶液、210μl)、をジメチルホルムアミド(500μl)
に溶解したものを約30分反応させ、同じ反応約1時間反応させた。その他のステップは参考例4の方法により行った。この結果、目的のペプチドは得られなかった。
【0040】
比較例2
SKAEAAARAAAAAAA-amideの配列のペプチドの10番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入したケージドペプチドの合成を試みた。10番目のアミノ酸導入は、Fmoc−(NB)Ala−OH(10当量)を用い、通常の合成プログラムで行った。9番目のアミノ酸導入は、FmocAla−F(65mg、228μmol)、Nメチルモルホリン(1M ジメチルホルムアミド溶液、210μl)、をジメチルホルムアミド(500μl)に溶解したものを約30分反応させ、同じ反応約1時間反応させた。そのほかのステップは参考例4の方法により行った。この結果、目的のペプチドは得られなかった。
【0041】
実施例1:ケージドジペプチド原料(Fmoc−Baa−(NB)Ala−OH)の合成
100mlナス型フラスコに(NB)Ala(2.24g、10mmol)をいれ、ジメチルホルムアミド(50ml)とジイソプロピルエチルアミン(1.71ml、10mmol)を加え溶解し、ここへ参考例3で調整した粗Fmoc−Ala-F(3.15g、10mmol)を加え、一夜撹拌した。不溶物をろ別後、ジメチルホルムアミドを留去し、酢酸エチル加え、を1N塩酸水溶液で1回、水で2回、飽和食塩水1回にて洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、酢酸エチルを留去し、ケージドジペプチド(Fmoc−Ala−(NB)Ala−OH)を回収した。この粗ケージドペプチドをC18AR-IIカラム(φ20x250
mm、ナカライ製)を装着した逆相系液体クロマトグラフィー(溶出液0.1%TFA水溶
液と80%アセトニトリル水溶液のグラジエント溶出)により、目的物質Fmoc−Ala−(NB)Ala―OHを単離し、凍結乾燥により白色粉末を得た。質量分析値:FABMS calculated for C28H27N3O7(M) 517.18, found m/z 518(M+H+), 540(M+Na+)。
【0042】
同様な方法によって、Fmoc−Asp(OtBu)−(NB)Ala―OH(質量分析値:FABMS calculated for C33H35N3O9(M) 617.24, found m/z 618(M+H+), 640(M+N
a+))、Fmoc−Leu―(NB)Ala−OH(質量分析値:FABMS calculated for
C31H33N3O7(M) 559.23, found m/z 560(M+H+), 582(M+Na+))、Fmoc−Ser(OtBu)―(NB)Ala−OH(質量分析値:FABMS calculated for C32H35N3O8(M)
589.24, found m/z 590(M+H+), 612(M+Na+))、を得た。
【0043】
実施例2:ケージドペプチドの製造1
SKAEAAARAAAAAAA-amideの配列のペプチドの10番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入したケージドペプチドの合成を行った。9,10番目のアミノ酸導入は、実施例1で製造したケージドジペプチドFmoc−Ala−(NB)Ala―OHを用い、14残基アミノ酸のペプチド合成として、通常の合成プログラムで行った。その他のステップは参考例3の方法により行った。乾燥した白色粉末の目的物を得た。(質量分析値:MALDI-TOFMS calculated for C60H99N21O20(M) 1434.6, found m/z 1437(M+H+))
【0044】
実施例3:ケージドペプチドの製造2
神経ペプチドY(11−36)(アミノ酸配列:DAPAEDLARYYSALRHY
INLITRQRY-amide)の2番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入し
たケージドペプチド([(NB)Ala]NPY(11−36))の合成を、<反応工程式2>に示される方法にて行った。1,2番目のアミノ酸導入は、実施例1で製造したケージドジペプチドFmoc−Asp(tBu)−(NB)Ala―OHを用い、25残基アミノ酸のペプチド合成として、通常の合成プログラムで行った。その他のステップは参考例4の方法により行った。乾燥した白色粉末の目的物([(NB)Ala]NPY(11−36))を得た。(質量分析値:MALDI-TOFMS calculated for C149H224N44O42(M) 3301.7, found m/z 3302(M+H+))
【0045】
実施例4:ケージドペプチドの製造3
神経ペプチドY(11−36)(アミノ酸配列:DAPAEDLARYYSALRHY
INLITRQRY-amide)の8番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入し
たケージドペプチド([(NB)Ala]NPY(11−36))の合成を、<反応工程式2>に示される方法にて行った。1,2番目のアミノ酸導入は、実施例1で製造したケージドジペプチドFmoc−Leu−(NB)Ala―OHを用い、25残基アミノ酸のペプチド合成として、通常の合成プログラムで行った。その他のステップは参考例4の方法により行った。乾燥した白色粉末の目的物([(NB)Ala]NPY(11−36))を得た。(質量分析値:MALDI-TOFMS calculated for C149H224N44O42(M) 3301.7,
found m/z 3300(M+H+))
【0046】
実施例5:ケージドペプチドの製造4
神経ペプチドY(11−36)(アミノ酸配列:DAPAEDLARYYSALRHY
INLITRQRY-amide)の13番目のアラニンのアミノ基にニトロベンジル基を導入
したケージドペプチド([(NB)Ala13]NPY(11−36))の合成を、<反応工程式2>に示される方法にて行った。1,2番目のアミノ酸導入は、実施例1で製造したケージドジペプチドFmoc−Ser(OtBu)−(NB)Ala―OHを用い、25残基アミノ酸のペプチド合成として、通常の合成プログラムで行った。乾燥した白色粉末の目的物([(NB)Ala13]NPY(11−36))を得た。(質量分析値:MALDI-TOFMS calculated for C149H224N44O42(M) 3301.7, found m/z 3300(M+H+))
【産業上の利用可能性】
【0047】
光で生理活性を制御する技術(ケージド化合物)に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(式中、Rはアミノ基の保護基を示す。AはGly,Pro以外のペプチドを構成するαアミノ酸の側鎖を示す。Bはαアミノ酸の側鎖を示す。Rは光解離性保護基を示す。)で表されるN保護ジペプチド化合物を、固相合成においてN保護アミノ酸の代わりに使用することを特徴とする、光解離性保護基を主鎖に導入したペプチドの固相合成法。
【請求項2】
が2−ニトロベンジル基である請求項1に記載の固相合成法。

【公開番号】特開2007−332042(P2007−332042A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162385(P2006−162385)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度 独立行政法人科学技術振興機構「ケージドペプチドの合成法の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】