説明

ケースモールド型コンデンサ

【課題】確実な保安装置の動作を確保しつつ、構造が簡単で安価な保安装置を有するコンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】誘電体フィルム6の片面又は両面に金属蒸着電極7を設けた金属化フィルムを巻回し、巻回した両端面に金属を溶射したメタリコン電極8を備えたコンデンサ素子1と、前記メタリコン電極8に接続され、外部へ電気を引き出すリード線2と、前記コンデンサ素子1および前記リード線2を充填樹脂9とともに収容するケース4と、からなるケースモールド型コンデンサにおいて、前記ケース4内壁に設けた固定部4aにより保持した固定板3を前記メタリコン電極8と前記リード線2の間に挿入したケースモールド型コンデンサとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ運転用、力率改善用、充放電用、平滑用などを用途として車や電気機器に用いられるケースモールド型コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、比較的高い電圧で用いられるフィルムコンデンサなどのコンデンサでは、コンデンサが使用される回路に異常が発生し、コンデンサに急激な過負荷がかかり、コンデンサが破壊した場合などに備えて、コンデンサを回路から切り離すための保安装置が設けられているものがある。
【0003】
これは、金属化フィルムコンデンサにおける、蒸着金属の飛散により絶縁性が回復するセルフヒーリング機能やヒューズなどの保安機構は、比較的低い温度領域では極めて有効であるが、例えば90℃以上のような高温領域では、このような保安機構の動作性が低下する場合があり、これに対応するため保安機構とは別の保安装置を備えるというものである。
【0004】
すなわち、高温では、コンデンサ素子が収縮し、締まりが大きくなるため、金属化フィルムの局部破壊時に発生する分解ガスの逃げ場がなくなり、保安機構が順次動作する前に、コンデンサの全破壊(発煙や発火を伴う)に至る場合がある。この場合、従来の誘電体構成では、高温で誘電体が軟化し、誘電体そのものの絶縁耐力が低下する。そして、誘電体全体で漏れ電流が増大し、このジュール発熱で誘電体が溶融して遂には、発煙や発火に至る時もあり、このような場合にはセルフヒーリングやヒューズなどの保安機構では充分対応できない。
【0005】
さらに、低温における金属化フィルムの局部破壊(ショート)時には、ヒューズ部を電気的に断路するに足り得るショート電流(ショート箇所に流れ込む過大な電流)が発生するのに対して、上記のような高温での破壊においては、充分なショート電流が発生せず、またヒューズ部を断路するに十分な電流も発生しないことがある。
【0006】
このような異常時においても破壊を回避して安全なコンデンサを得るための保安装置を備えたコンデンサとして、図6に示す従来のコンデンサは、金属ケース61と蓋62からなる密閉容器にコンデンサ素子63を収納するとともに機械式保安装置を配したものである。
【0007】
この機械式保安装置は、コンデンサ素子63が異常をきたして破壊した時などに、密閉容器内の内圧が金属ケース61に設けられた蛇腹(ベローズ)加工64を伸長させ、その力によりリード線65の一部に設けられた機械的弱点部66が切断されて電気回路から切り離される構成となっているものである。
【0008】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平10−284341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来の保安装置付きのコンデンサでは、異常時に動作してコンデンサを電気回路から切り離すことができるが、金属ケース61に蛇腹加工64を設けるとともにリード線に機械的弱点部66を形成しなければならず、構造が複雑となり、またコストも高くなるという課題があった。
【0010】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、確実な保安装置の動作を確保しつつ、構造が簡単で安価な保安装置を有するコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のケースモールド型コンデンサは、誘電体フィルムに金属蒸着電極を設けた金属化フィルムを巻回した両端面にメタリコン電極を備えたコンデンサ素子と、このメタリコン電極に接続されるリード線と、コンデンサ素子およびリード線を充填樹脂とともに収容するケースからなるケースモールド型コンデンサにおいて、リード線は充填樹脂により位置固定されるとともに、リード線とメタリコン電極の間に固定板が配設され、この固定板にリード線が当接されていることを特徴とするケースモールド型コンデンサである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のケースモールド型コンデンサによれば、リード線を充填樹脂により位置固定するとともに、メタリコン電極とリード線の間に固定板が配設され、この固定板にリード線が当接していることにより、コンデンサの温度が何らかの異常により許容温度を超えたとき、メタリコン電極面に垂直な方向(コンデンサ素子の幅方向)に熱収縮によりフィルムが縮みコンデンサ素子が大きく収縮することを利用して、コンデンサ素子が破壊に至る前にリード線とメタリコン電極を切り離すものであり、極めて簡単で低コストの構成により確実な保安装置の動作ができ、安全なコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態におけるケースモールド型コンデンサについて、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態)
図1は本発明におけるケースモールド型コンデンサの一実施の形態を示す正面断面図、図2は充填樹脂を充填する前の平面断面図である。
【0015】
図3はコンデンサ素子1の断面図であり、ポリプロピレンなどの誘電体フィルム6にアルミニウムと亜鉛の合金による金属蒸着電極7を設け、この誘電体フィルム6を介して金属蒸着電極7が対向するように巻回したものの両端面に亜鉛やスズなどの金属を溶射することによってメタリコン電極8を備えたものである。
【0016】
誘電体フィルム6としては、ポリプロピレンやポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性高分子フィルムを用いることにより、コンデンサ素子1の収縮を大きくし、保安装置の動作を確実にすることができる。
【0017】
図1、図2において、このコンデンサ素子1のメタリコン電極に、リード線2をメタリコン電極8の中心より下部にはんだ付け部5により接続し、ケース4に収納したのち、図2に示すように固定板3をケース4の上方からメタリコン電極8とリード線2の間に、メタリコン電極8と固定板3、及びリード線2と固定板3とが互いに密着するように挿入し、ケース4の内壁に設けられた固定部4aにより固定板3を固定する。固定板3はプラスチックやアルミナ基板などの絶縁性材料で作製されたものである。
【0018】
そして固定板3を固定したのち、充填樹脂9を充填して熱硬化し、ケースモールド型コンデンサとなる。充填樹脂9はコンデンサ素子1の絶縁性を確保するとともに、外部の湿気(水分)や機械的な衝撃などからコンデンサ素子1を保護するものであり、またこの充填樹脂9によりリード線2が位置固定される。
【0019】
このとき、外部接続用のリード線2の上端部は、充填樹脂9から露出するように、ケース4の上方に導出されている。
【0020】
このように、コンデンサ素子1とケース4の間に固定板3を設けたことが本発明における技術的特長のひとつであり、ポリプロピレンなどの誘電体フィルムにより構成されたコンデンサ素子1は、温度が上がると熱収縮し、130℃付近を越えるとコンデンサ素子1の幅方向に急激に大きく収縮変化する。
【0021】
そしてこのコンデンサ素子1の急激な収縮により、充填樹脂9で位置固定されたリード線2が、ケース4に固定した固定板3によって保持された状態になり、その結果リード線2がコンデンサ素子1のメタリコン電極8から切り離されることにより、保安装置が動作してコンデンサ素子1が破壊に至る前に電力供給が止まるため、コンデンサ素子の発煙や発火を防止することになる。
【0022】
次に本実施の形態による実施例および比較例のコンデンサを試作し、保安性試験を行って本実施の形態の保安装置の効果について検証した結果について説明する。
【0023】
まず、本実施の形態における実施例として厚み4μmの片面金属化ポリプロピレンフィルムを巻回した後、扁平形状になるようにプレスし、その後両端面に亜鉛を溶射してメタリコン電極8を形成し、さらに120℃でエージングして静電容量が5μFのコンデンサを得た。
【0024】
次に線径が1.2mmφのリード線2をはんだ付け部5によりメタリコン電極8に接続し、ポリフェニレンサルファイド樹脂よりなるケース4に収納した。
【0025】
そして、メタリコン電極8とリード線2の間に固定板3が挟まるように配設し、固定板3をケース4の内壁面に設けた固定部4aに固定した。
【0026】
そして充填樹脂9としてエポキシ樹脂を充填し、95℃で熱硬化して実施例のケースモールド型コンデンサを得た。
【0027】
これとは別に、メタリコン電極8とリード線2の間に固定板3が設けられていないこと以外は実施例と同様にして比較例のケースモールド型コンデンサを作製した。
【0028】
この実施例と比較例のケースモールド型コンデンサについて、DC400Vを印加し、周囲温度が120℃から開始して1時間ごとに10℃ずつ上昇させながら周囲温度ステップアップによる保安性試験を行った。
【0029】
その結果を図5のグラフに示す。図5で横軸は周囲温度、縦軸は静電容量変化率(ΔC/Cとして%で示した)である。
【0030】
図5の結果より明らかなように、比較例のケースモールド型コンデンサは、図5の×印で示したように、周囲温度が160℃で破壊するのに対して、本実施の形態による実施例のケースモールド型コンデンサでは周囲温度が150℃でリード線2が外れて保安装置が作動し、コンデンサ素子1はオープン状態になった。このように、本実施の形態によるケースモールド型コンデンサでは、コンデンサ素子1の最高許容温度を超えた状態で通電状態が維持された場合、コンデンサ素子1への電力供給が停止されるため、発煙や発火は全くなく、保安装置として動作性が十分な事が分かった。
【0031】
なお、本実施の形態では図2に示すような固定板を用いたがこれに限定されるものではなく、例えば図4に示すようにあらかじめケース4に設けた上面視L字状の固定板3でも良い。
【0032】
また、本実施の形態では、保安装置としての動作をより確実に行うため、コンデンサ素子1の両側でメタリコン電極8とリード線2の間に2つの固定板3を配設した例を示したが、これに限定されるものではなく、固定板3はどちらか片方に1つ配設した場合であっても保安装置として充分動作することができる。
【0033】
また、本実施の形態では、誘電体フィルム6の片面に金属蒸着した片面金属化フィルムを用いたが、これに限定されるものではなく、誘電体フィルム6の両面に金属蒸着電極を設けた両面金属化フィルムと、金属蒸着電極を設けていない誘電体フィルムとを重ねて巻回して用いることもできる。
【0034】
また、コンデンサ素子1としては、交流電流用途におけるコロナ放電の影響を低減するため、本実施の形態では蒸着金属としてアルミニウムと亜鉛の合金を用いたが、これに限定されるものではなく、アルミニウムによる金属蒸着電極であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のケースモールド型コンデンサは、保安装置として極めて簡単で低コストの構成でありながら、確実な保安装置の動作を行うことができ、特に電気機器用、産業用等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態におけるケースモールド型コンデンサの正面断面図
【図2】同ケースモールド型コンデンサの平面断面図
【図3】同コンデンサ素子の断面図
【図4】同他の実施例を示す平面断面図
【図5】保安性試験の結果を示すグラフ
【図6】従来の保安装置付きコンデンサの構造断面図
【符号の説明】
【0037】
1 コンデンサ素子
2 リード線
3 固定板
4 ケース
4a 固定部
5 はんだ付け部
6 誘電体フィルム
7 金属蒸着電極
8 メタリコン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの片面又は両面に金属蒸着電極を設けた金属化フィルムを巻回し、巻回した両端面に金属を溶射したメタリコン電極を備えたコンデンサ素子と、前記メタリコン電極に接続され、外部へ電気を引き出すリード線と、前記コンデンサ素子および前記リード線を充填樹脂とともに収容するケースと、からなるケースモールド型コンデンサにおいて、前記リード線は前記充填樹脂により位置固定されるとともに、前記リード線と前記メタリコン電極の間に固定板が配設され、前記固定板に前記リード線が当接されていることを特徴とするケースモールド型コンデンサ。
【請求項2】
前記固定板はその両端が前記ケース内壁に設けた固定部により保持されていることを特徴とする請求項1に記載のケースモールド型コンデンサ。
【請求項3】
前記誘電体フィルムはポリプロピレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性高分子フィルムである請求項1に記載のケースモールド型コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−212573(P2010−212573A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59111(P2009−59111)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】