説明

ゲル乾燥組成物およびゲル乾燥組成物の製造方法

【課題】肌や器物に対して低刺激で、かつ洗浄効果に優れ、さらに膨潤性、保湿性、吸着性が良好なスクラブ剤組成物に適したゲル乾燥組成物およびゲル乾燥組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、およびアルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、を水中で混合した後、乾燥することにより得られるゲル乾燥組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル乾燥組成物およびゲル乾燥組成物の製造方法に関する。具体的には、本発明は、スクラブ剤組成物として用いられるゲル乾燥組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄剤やマッサージ剤において、洗浄効果を上げる目的で顆粒状物質であるスクラブ剤が配合されてきた。
これらのスクラブ剤には、表面が滑らかで軟らかすぎると洗浄効果が十分に発揮できず、また硬すぎると肌や器物への刺激が強くなり好ましくないという問題がある。
このような問題に対して、微生物産生セルロースまたは甘藷の裏ごし残渣を有効成分とするスクラブ剤(特許文献1)やコンニャクマンナンゲル粒子またはグルコマンナンゲル粒子を含むスクラブ剤(特許文献2〜4)が知られている。
また、特許文献5および6には、食品用のゲル組成物が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−91717号公報
【特許文献2】特開2000−344801号公報
【特許文献3】特開2001−131054号公報
【特許文献4】特開2006−169300号公報
【特許文献5】特開2004−41119号公報
【特許文献6】特開2004−313058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたスクラブ剤は、水不溶性のセルロース繊維のみを成分とするため、肌や器物に対して一定の摩擦を与えてしまい、刺激が十分に緩和されたとは言いがたい。
また、特許文献2〜4に開示されたスクラブ剤は、コンニャクマンナンゲル粒子またはグルコマンナンゲル粒子のみからなり、滑らかで軟らかすぎる表面を有するため、肌や器物に対する洗浄効果が十分ではない。
さらに、特許文献5に開示されたゲル組成物は、非常に滑らかで軟らかいゲルを形成するため、スクラブ剤組成物として十分な特性を有するものではない。
またさらに、特許文献6に開示されたスポンジ状ゲルもスクラブ剤として十分な特性を有するものではない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、肌や器物に対して低刺激で、かつ洗浄効果に優れ、さらに膨潤性、保湿性、吸着性が良好なスクラブ剤組成物に適したゲル乾燥組成物およびゲル乾燥組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討した結果、特定の微細な繊維状セルロースと特定の多糖類とを水中で混合した後、乾燥してゲル乾燥組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、
(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、およびアルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、
を水中で混合した後、乾燥することにより得られるゲル乾燥組成物。
[2]
前記(b)がグルコマンナンである、前記[1]に記載のゲル乾燥組成物。
[3]
前記(a)の原料が植物細胞壁である、前記[1]または[2]に記載のゲル乾燥組成物。
[4]
長径が0.5〜30μmであり、短径が2〜600nmであり、かつ長径/短径比が20〜400である前記(a)の含有量が、前記(a)全体において30質量%以上である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
[5]
前記(a)と、水溶性高分子および/または親水性物質と、を含むセルロース複合体と、
前記(b)と、
を水中で混合した後、乾燥することにより得られる、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
[6]
スクラブ剤組成物である、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
[7]
(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、
(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、
を水中で混合した後、乾燥する、ゲル乾燥組成物の製造方法。
[8]
前記(a)と、水溶性高分子および/または親水性物質と、を含むセルロース複合体と、
前記(b)と、
を水中で混合した後、乾燥する、前記[7]に記載のゲル乾燥組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水中で容易に膨潤してゲル状となり、肌や器物に対して低刺激で、かつ洗浄効果に優れ、さらに保湿性、吸着性が良好であり、高温での加熱殺菌処理を施すことができるスクラブ剤組成物に適したゲル乾燥組成物およびゲル乾燥組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態という)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、を水中で混合した後、乾燥することにより得られるゲル乾燥組成物である。
【0011】
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロース(以下、単に「(a)微細な繊維状セルロース」と記載する場合がある。)を含有する。
【0012】
本実施の形態において、「微細な繊維状セルロース」とは、セルロース繊維の90%以上が「微細な繊維状」であるセルロースを意味する。
本実施の形態において、「微細な繊維状」とは、セルロース繊維を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察・測定した場合に、セルロース繊維の長さ(長径)が5nm〜5mmであり、幅(短径)が1nm〜200μmであり、かつ長さと幅の比(長径/短径)が5〜10000であることを意味する。
【0013】
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースを用いることにより、スクラブ剤組成物とした際に、肌や器物に対する刺激が少なく、また、特定の多糖類と併用して乾燥組成物にすることで、弾力性に富んだ好ましい触感を有するゲル乾燥組成物とすることができる。また、(a)微細な繊維状セルロースを用いることにより、スクラブ剤組成物とした際に、ゲル中のセルロースのネットワーク構造が密になるので、より細部の凹凸表面の汚れを掻き出すことができ、また、汚れをネットワーク構造内に吸着することでより洗浄効果に優れるゲル乾燥組成物とすることができる。
(a)微細な繊維状セルロースとして、セルロース繊維の長さ(長径)が0.5μm〜1mmであり、幅(短径)が2nm〜60μmであり、かつ長さと幅の比(長径/短径)が5〜400であることが好ましい
【0014】
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースは、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であり、好ましくは0.6以下である。損失正接が1以上になると、ゲル形成能が弱くなり、スクラブ剤組成物とした際に、前述した効果が劣る。
本実施の形態において、「損失正接」とは、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)を意味する。
損失正接の値は、水分散液の動的粘弾性を示すものであり、値が低いほど水分散液がゲル的な性質をとる。
本実施の形態において、損失正接は、以下の実施例に記載する方法により測定することができる。
【0015】
「ゲル」とは、たとえば高分子水溶液においては、溶質(高分子鎖)が三次元的なネットワーク構造を形成し、溶媒(水)を不動化(固定化)する状態と考えられている。一般論として、ゲル形成性水溶性高分子の場合、低濃度でゲルを形成しない状態では損失正接が1以上であるが、濃度が上がるにつれて値が下がり、ゲルを形成する濃度では1未満となるといわれている。
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースは、流動性があり、真性のゲルではないが、歪み10%、周波数10rad/sのような低周波数あるいは低歪みにおいては分散質(微細な繊維状セルロース)が三次元ネットワーク構造を形成し、分散媒(水)を固定化する性質、すなわちゲル的性質を有する。
【0016】
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースは、β−1,4グルカン構造を有するいわゆるセルロースを原料として製造することができる。安価な製品を安定的に供給するためには、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を、原料として使用するのが好ましい。この中でも特に、バガス、稲わら、麦わら、竹などを使用したイネ科植物由来のパルプが好ましい。
セルロース以外の成分の含有量が多いものの、綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども、原料として使用することができる。また、ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料を使用することができる。その他レーヨンなどの再生セルロースや、微生物が産出するセルロースを原料として使用してもよい。
【0017】
(a)微細な繊維状セルロースの損失正接を1未満にする為には、セルロースミクロフィブリルをできるだけ微細化された状態で、かつ、短繊維化させることなく取り出すことが重要である。
本実施の形態において、「短繊維化」とは、セルロースミクロフィブリルの繊維長を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。
本実施の形態において、「微細化」とは、セルロースミクロフィブリルの繊維径を、引き裂くなどの作用により細くすること、あるいは細くなった繊維の状態を意味する。
【0018】
原料として植物細胞壁を起源とするセルロース性物質を選択する場合に、セルロースミクロフィブリルの「短繊維化」を最低限に抑えつつ、「微細化」を進行させるという観点で、その平均重合度は400以上で、かつ、α−セルロース含有量が60〜100質量%のものを選択することが好ましく、より好ましくは平均重合度400〜12000で、α−セルロース含有量が60〜85質量%のものを選択する。
本実施の形態において、平均重合度およびα−セルロース含量は、以下の実施例に記載する方法により測定することができる。
【0019】
本実施の形態において、微細化の促進を目的として、セルロース性物質の前処理を行ってから、セルロース性物質を原料として使用することができる。前処理の例としては、希薄なアルカリ水溶液(たとえば、1mol/LのNaOH水溶液)に数時間浸漬したり、希薄な酸水溶液に浸漬したり、酵素処理したり、あるいは爆砕処理することなどが挙げられる。
【0020】
本実施の形態において、原料の微細化に使用する装置としては、セルロースミクロフィブリルの「短繊維化」を最低限に抑えつつ、「微細化」を進行させるという観点で、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.製)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン製)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社製)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.製)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社製、Invensys APV社製、Niro Soavi社製、株式会社イズミフードマシナリー製)などが挙げられる。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては、60〜414MPa程度であることが好ましい。
【0021】
本実施の形態において、スクラブ剤組成物とした際に、肌や器物に対するスクラブ剤組成物の洗浄効果をより高めるために、(a)微細な繊維状セルロースは、結晶性であることが好ましい。具体的には、X線回折法(Segal法)で測定される結晶化度が50%を越えることが好ましい。より好ましくは結晶化度が55%以上である。
本実施の形態において、結晶化度は以下の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースは、水中で安定に懸濁する成分が、(a)微細な繊維状セルロースの30質量%以上であることが好ましい。
本実施の形態において、「水中で安定に懸濁する成分」とは、0.1質量%濃度の水分散液状態として、これを1000Gで5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分を意味し、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察・測定される長さ(長径)が0.5〜30μmであり、幅(短径)が2〜600nmであり、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400である繊維状セルロースからなる。
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、長径が0.5〜30μmであり、短径が2〜600nmであり、かつ長径/短径比が20〜400である前記(a)の含有量が、前記(a)全体において30質量%以上であるゲル乾燥組成物であることが好ましい。好ましくは、短径が100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。
【0023】
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が30質量%以上であると、スクラブ剤組成物とした際に、スクラブ剤組成物としての機能がさらに向上するため好ましい。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は、より好ましくは50質量%以上である。
この成分の含有量は特に断らない限り、全(a)微細な繊維状セルロース中の存在比率を表すものであり、(a)微細な繊維状セルロース以外に水溶性成分が含まれている場合であってもそれが含まれないように測定・算出される。
本実施の形態において、水中で安定に懸濁する成分は、以下の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0024】
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類(以下、単に「(b)多糖類」と記載する場合がある。)を含有する。
ゲル乾燥組成物が、(b)多糖類を含有することにより、相乗的に増粘効果を得ることができる。また、単独では(a)微細な繊維状セルロース及び(b)多糖類共にゲル化しないが、ゲル乾燥組成物として熱不可逆性ゲルとすることができる。
【0025】
本実施の形態において、「グルコマンナン」とは、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した構造を有し、グルコースとマンノースの比率が約2:3の多糖である。グルコマンナンは、精製度が低いと独特の刺激臭があるので、精製度の高いものを使用することが好ましいが、用途に応じてコンニャク粉やコンニャクマンナンを使用することもできる
【0026】
本実施の形態において、「ガラクトマンナン」とは、D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖である。ガラクトマンナンの例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、カシアガムなどがあり、マンノースとガラクトースの比率は、グアーガムで約2:1、ローカストビーンガムで約4:1、タラガムで約3:1、カシアガムで約5:1である。
【0027】
本実施の形態において、「アルギン酸類」とは、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、またはアルギン酸プロピレングリコールエステルを意味する。アルギン酸類の中でも、アルギン酸がナトリウムで中和された水溶性の多糖類であるアルギン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。アルギン酸はβ−D−マンヌロン酸(Mと略する)とα−L−グルロン酸(Gと略する)からなる1,4結合のブロック共重合体である。Mからなるブロック(M−M−M−M)と、Gからなるブロック(G−G−G−G)と、両残基が交互に入り交じっているブロック(M−G−M−G)、という3つのセグメントから成り立っている。これらのアルギン酸類は、pHや塩濃度を制御して使用される場合もある。
【0028】
本実施の形態のゲル乾燥組成物において、(a)微細な繊維状セルロース:(b)多糖類の組成は、おおよそ10:90〜90:10であることが好ましい。
多糖類としては、弾力に富んだゲルを形成しやすいとの観点で、好ましくはグルコマンナンとガラクトマンナンからなる群から選択するのがよく、より好ましいのはグルコマンナンである。ガラクトマンナンとしては、上記と同様の観点で、好ましくはローカストビーンガムである。
グルコマンナンを用いる場合、(a)微細な繊維状セルロース:グルコマンナンの組成は35:65〜85:15であることが好ましく、より好ましくは40:60〜80:20である。
【0029】
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、(a)微細な繊維状セルロースを含むセルロース複合体と、(b)多糖類と、を水中で混合した後、乾燥することにより得られるゲル乾燥組成物であることが好ましい。
【0030】
本実施の形態において、「セルロース複合体」とは、(a)微細な繊維状セルロースと、水溶性高分子および/または親水性物質と、を含有する複合体を意味する。
セルロース複合体に含まれる水溶性高分子および親水性物質は多くの場合に非晶性であり、セルロース複合体を試料として結晶化度を測定すると、得られる値は(a)微細な繊維状セルロースそのものの正しい結晶化度より低くなる。例えば、セルロース複合体の結晶化度が50%であれば、微細な繊維状セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。
【0031】
セルロース複合体は、上記方法により得られる(a)微細な繊維状セルロースと、水溶性高分子および/または親水性物質と、を配合して、水中で適当な撹拌・混合機を選択して充分に混合し、公知の方法で乾燥することにより得ることができる。
乾燥後のセルロース複合体における水分含量は、取り扱い性、経時安定性を考慮すれば、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0032】
セルロース複合体は必要に応じて粉砕する。粉砕機としてはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが使用され、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕することが好ましい。より好ましくは目開き425μmの篩をほぼ全通し、かつ、平均としては10〜250μmとなるように粉砕する。粉砕することによりセルロース複合体は顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、またはシート状などを呈する。
【0033】
セルロース複合体において、(a)微細な繊維状セルロース:水溶性高分子および/または親水性物質の組成は、好ましくは30:70〜95:5であり、より好ましくは40:60〜90:10であり、さらに好ましくは50:50〜90:10である。
セルロース複合体において、上記範囲内で水溶性高分子および/または親水性物質を含有することにより、水性媒体の存在下で(a)微細な繊維状セルロースの崩壊・分散性が向上し、作業性や機能の面で優れたゲル乾燥組成物とすることができる。
【0034】
本実施の形態のゲル乾燥組成物において、(a)微細な繊維状セルロース:(b)多糖類の組成が、おおよそ10:90〜90:10であるように、セルロース複合体と、(b)多糖類と、を配合することが好ましい。
【0035】
本実施の形態において、「水溶性高分子」とは、冷水および/または温水に溶解または膨潤する高分子であり、乾燥時における(a)微細な繊維状セルロース同士の角質化を防止する作用を有するものである水溶性高分子としては、具体的には、アラビアガム、アラビノガラクタン、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれる1種以上の物質が使用される。
水溶性高分子としては、微細な繊維状セルロースの崩壊・分散性が優れるという観点で、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムが好ましい。このカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、置換度が0.5〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.6〜0.8である。
【0036】
本実施の形態において、「親水性物質」とは、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトールなど)などから選ばれる1種以上の物質である。
低分子量物質の方が水中での(a)微細な繊維状セルロースの崩壊・分散性が良くなる傾向にあり、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどが好ましい。(a)微細な繊維状セルロースの崩壊・分散性に加え、製造時の乾燥性や、製品の保湿性、経時安定性の観点から、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンであることがより好ましい。
【0037】
本実施の形態の効果に影響を与えない範囲で、必要に応じて、ゲル乾燥組成物中に増粘剤、界面活性剤、色素、香料、油分、防腐剤、および保湿剤、ビタミン類などの機能性成分などを添加してもよい。
【0038】
本実施の形態のゲル乾燥組成物は、水中で膨潤してゲル状となる。該ゲルは熱不可逆性であるため、100℃以上の高温で加熱処理しても溶解せず、ゲル中の水分や他成分を安定に保持することができる。本実施の形態のゲル乾燥組成物は、必要に応じてバッチ式殺菌タンク、プレート式熱交換機、ジュール加熱装置などによる殺菌処理を行うことができる。
【0039】
本実施の形態のゲル乾燥組成物をスクラブ剤組成物として用いる場合、スクラブ剤として低刺激で洗浄効果が高い製品を提供することができるため、洗浄剤(特に洗顔剤、クレンジング剤、石鹸、シャンプー、ボディソープなどの皮膚洗浄剤)、マッサージ剤、パック剤、歯磨き剤などに用いることができる。
スクラブ剤組成物の製品形態としては、クリーム状、ペースト状、ジェル状、ゲル状、液状あるいは粉末状などが挙げられる。いずれの製品形態においても水系あるいは水中油型乳化系であることが好ましい。
【0040】
本実施の形態のゲル乾燥組成物をスクラブ剤組成物として用いる場合、製品によって配合量を適宜変えることができるが、ゲル乾燥組成物を固形分として0.01〜10質量%配合することが好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%である。配合量が0.01質量%以上であることにより、洗浄効果に優れるスクラブ剤組成物とすることができる。
【0041】
本実施の形態のゲル乾燥組成物の製造方法は、(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、を水中で混合した後、乾燥する、ゲル乾燥組成物の製造方法である。
また、本実施の形態のゲル乾燥組成物の製造方法は、(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと水溶性高分子および/または親水性物質を含むセルロース複合体と、(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、を水中で混合した後、乾燥する、ゲル乾燥組成物の製造方法である。
【0042】
本実施の形態において、(a)微細な繊維状セルロースまたはセルロース複合体と(b)多糖類と、を配合して、水中で適当な撹拌・混合機を選択して充分に混合し、公知の方法で乾燥・粉砕・篩分することで、本実施の形態のゲル乾燥組成物を製造することができる。
【0043】
乾燥する際は、乾燥物が硬いかたまりにならないような方法が好ましく、乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法などが挙げられる。乾燥が不十分だと十分な強度のゲルが得られずに、スクラブ剤組成物としての機能が劣ってしまう。乾燥後のゲル乾燥組成物における水分含量は、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。
乾燥物は必要に応じて粉砕することが好ましい。粉砕機としてはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが挙げられる。粉砕物の粉体平均粒径を好ましくは10〜1000μmとなるように、より好ましくは50〜500μmとなるように粉砕する。
【実施例】
【0044】
以下、本実施の形態を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下の通りである。
【0045】
<セルロース性物質の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行った。
【0046】
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 α−セルロース)に準じて行った。
【0047】
<(a)微細な繊維状セルロースの結晶化度>
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回折装置で得られたX線回折図の回折強度値から、シーゲル法により次式から算出した。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
(Ic:X線回折図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回折角2θ=
18.5度付近のベースライン強度(極小値強度))
【0048】
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定した。
固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散して分散液を調製した。
光学顕微鏡を使用する場合は、セルロース繊維(粒子)の水分散液を適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察した。
中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察した。
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察した。
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているものがあったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nmの繊維の観察時に使用したが、一本の繊維が長すぎて、一つの視野に収まらなかった。その為、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
【0049】
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散させた。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置した。
(3)動的粘弾性測定装置にサンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求めた。
装置:ARES(100FRTN1型)
(商標、TA INSTRUMENTS CO.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度:25℃
歪み:10%(固定)
周波数:1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
【0050】
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
(1)セルロース濃度が0.1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散させた。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて9800m/s2で5分間遠心分離した。
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の質量(a)を測定した。
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の質量(b)を測定した。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出した。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出した。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース=d/f [配合比率]
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
【0051】
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行った。
(3’)上層の液体部分を取得し、重量(a’)を測定した。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の重量(b’)を測定した。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出した。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出した。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース=d/f [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
但し、(3)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は適宜セルロース濃度を下げて操作を行った。
【0052】
(a)微細な繊維状セルロースA、B、セルロース複合体Cについて、製造例1〜3に示す。
[製造例1]微細な繊維状セルロースAの調製
市販木材パルプ(平均重合度=1210、α−セルロース含有量=94質量%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、充分量の水に浸漬した。これを、カッターミル(URSCHEL LABORATORIES,Inc.製「コミトロール」、モデル1700、カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通した。
次いで2質量%濃度となるようにカッターミル処理品と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを110→80μmと変えて処理した。
次いで得られた水分散液を水で希釈して1質量%にし、高圧ホモジナイザー(MFIC Corp.製「マイクロフルイダイザー」M−110Y型、処理圧力:110MPa)で8パスし、微細な繊維状セルロースAを得た。
微細な繊維状セルロースAの結晶化度は76%以上だった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が50〜1050μm、短径が1〜50μm、長径/短径比が4〜150の微細な繊維状セルロースが観察された。損失正接は0.92だった。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は25質量%だった。
【0053】
[製造例2]微細な繊維状セルロースBの調製
市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断した。次いでセルロース濃度が3質量%、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム(置換度:0.6〜0.8)の濃度が0.176質量%となるように、それぞれと水を量り取り、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(商標、「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で3回処理した。
次いで得られた水分散液を水で希釈して2質量%にし、高圧ホモジナイザー(商標、「マイクロフルイダイザー」M−140K型、処理圧力110MPa)で4パスし、微細な繊維状セルロースBを得た。
微細な繊維状セルロースBの結晶化度は73%以上だった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状セルロースが観察された。損失正接は0.32だった。「水中で安定に懸濁する成分」は99質量%だった。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が20〜200のきわめて微細な繊維状セルロースが観察された。
【0054】
[製造例3]セルロース複合体Cの調製
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=64:17:18.7:0.3(質量比)となるように、微細な繊維状セルロースBにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s、置換度:0.6〜0.8)と、デキストリン(DE:28)と、ナタネ油と、を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPa、1パス処理した。
これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース複合体C(水分含量3.7質量%)を得た。
セルロース複合体Cの結晶化度は54%以上、損失正接は0.50、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が20〜200のきわめて微細な繊維状セルロースが観察された。
【0055】
[実施例1]
製造例1で得られた1質量%の微細な繊維状セルロースA溶液15kg(微細な繊維状セルロースAを固形分として150g含有)に、グルコマンナン150g(商標、レオレックスRS、清水化学(株)製)を加え、攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、ドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で粉砕し、篩分により平均粒径200μmとなるゲル乾燥組成物A(微細な繊維状セルロースA:グルコマンナン=50:50、水分含量3.5質量%)を得た。
ゲル乾燥組成物Aの粉体表面をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、数〜十数μmレベルのセルロース繊維が一部観察されたものの、大部分は繊維幅が細すぎて確認できなかった。
【0056】
ゲル乾燥組成物Aを水中に投入して軽く攪拌し、室温で1日間浸漬したものを遠心分離(15100Gにて15分間)によって、沈殿物を採取し湿質量を測定した。その後、110℃で10時間乾燥して乾燥質量を測定し、次式に従って保水量を算出した。
保水量(倍)=湿質量(g)/乾燥質量(g)
一方、ゲル乾燥組成物Aを水中に投入して軽く攪拌し、高圧蒸気滅菌器で120℃にて20分間加熱後に、室温で1日間浸漬したものを上記と同様に遠心分離して湿質量を測定した。さらに上記と同様に乾燥質量を測定し、保水量を算出した。
加熱前後で採取された沈殿物量は殆ど変わらず、また保水量は加熱前で98倍、加熱後では102倍となり、加熱前後で違いが見られなかった。つまり、高温加熱処理を行ってもゲル乾燥組成物Aは溶解せず、保湿性も維持することができる。
【0057】
上記のゲル乾燥組成物Aをスクラブ剤組成物として2.0質量%配合して、下記の処方でクレンジングフォームを調製し、肌の洗浄評価を行った。
<クレンジングフォーム処方>
油相部
ステアリン酸 8.0質量%
パルミチン酸 3.5
ミリスチン酸 8.0
ラウリン酸 8.0
ビースワックス 2.0
グリセリンモノステアレート 2.0
水相部
水酸化カリウム 5.5
グリセリン 10.0
ポリエチレングリコール1500 15.0
精製水 全体を100とする量
【0058】
<クレンジングフォーム製法>
油相部および水相部を70℃に加熱して完全溶解した後、油相部を水相部に攪拌しながら加えて中和を行った。次いで上記のゲル乾燥組成物を加えた。その後、30℃まで冷却した。
【0059】
<肌の洗浄評価>
20代〜50代の女性パネラー10人の左手の甲部分に、青色マジック(ゼブラ 油性マーカー ハイマッキーケア、6mm幅、ゼブラ株式会社)で長さ1cmの線を引き、上記クレンジングフォームをつけて右手の人差し指と中指を用いて20回こすって洗浄し、水洗い、乾燥後に、手の甲をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で50倍に拡大して観察し、マジックの落ち具合を確認した。また使用時の感触および痛感などの不快感について官能評価を行った。
・汚れ落ち 4点:毛穴や溝内部の汚れが80%以上落ちている
3点:毛穴や溝内部の汚れが50%以上落ちている
2点:毛穴や溝内部の汚れが30%以上落ちている
1点:毛穴や溝内部の汚れが70%を超える範囲で残っている
・使用時の感触 4点:良好
3点:やや良好
2点:やや悪い
1点:悪い
・痛感など不快感 4点:感じない
3点:やや感じる
2点:感じる
1点:強く感じる
得られた点数の平均値を表1に示した。
【0060】
[実施例2]
製造例2で得られた2質量%の微細な繊維状セルロースB溶液7.5kg(微細な繊維状セルロースBを固形分としておよそ141g含有)に水を加えて1質量%に希釈し、グルコマンナン141g(商標、レオレックスRS、清水化学(株)製)を加え、攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、ドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で粉砕し、篩分により平均粒径200μmとなるゲル乾燥組成物B(微細な繊維状セルロース:グルコマンナン=50:50程度、水分含量3.8質量%)を得た。
ゲル乾燥組成物Bの粉体表面をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、数μmレベルのセルロース繊維が一部観察されたものの、大部分は繊維幅が細すぎて確認できなかった。
【0061】
実施例1と同様にして、ゲル乾燥組成物Bの保水量を算出したところ、加熱前後で採取された沈殿物量は殆ど変わらず、また保水量は加熱前で121倍、加熱後では125倍であり、加熱前後で違いが見られなかった。つまり、高温加熱処理を行ってもゲル乾燥組成物Bは溶解せず、保湿性も維持することができる。
【0062】
上記のゲル乾燥組成物Bをスクラブ剤組成物として2.0質量%配合して、実施例1と同様にクレンジングフォームを調製し、肌の洗浄評価を行った。結果を表1に示した。
【0063】
[実施例3]
製造例3で得られたセルロース複合体C150g(微細な繊維状セルロースBを固形分として96g含有)に水を加えて1質量%とし、グルコマンナン64g(商標、レオレックスRS、清水化学(株)製)を加え、攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、ドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で粉砕し、篩分により平均粒径200μmとなるゲル乾燥組成物C(微細な繊維状セルロース:グルコマンナン=60:40程度、水分含量4.2質量%)を得た。
ゲル乾燥組成物Cの粉体表面をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、数μmレベルのセルロース繊維が一部観察されたものの、大部分は繊維幅が細すぎて確認できなかった。
【0064】
実施例1と同様にして、ゲル乾燥組成物Cの保水量を算出したところ、加熱前後で採取された沈殿物量は殆ど変わらず、また保水量は加熱前で80倍、加熱後では83倍となり、加熱前後で違いが見られなかった。つまり、高温加熱処理を行ってもゲル乾燥組成物Cは溶解せず、保湿性も維持することができる。
【0065】
上記のゲル乾燥組成物Cをスクラブ剤組成物として2.0質量%配合して、実施例1と同様にクレンジングフォームを調製し、肌の洗浄評価を行った。結果を表1に示した。
【0066】
[比較例1]
製造例2で得られた2質量%の微細な繊維状セルロースB溶液(0.117質量%のカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを含む)15kgをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で粉砕し、篩分により平均粒径200μmとなる乾燥組成物D(殆ど微細な繊維状セルロースのみ、水分含量3.3質量%)を得た。
乾燥組成物Dの粉体表面をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、個々のセルロース繊維が結着して十数〜数十μmレベルの太いセルロース繊維が大部分であった。
【0067】
実施例1と同様にして、乾燥組成物Dの保水量を算出したところ、加熱前後で採取された沈殿物量は殆ど変わらず、また保水量は加熱前で33倍、加熱後では35倍となり、加熱前後で違いが見られなかった。つまり、高温加熱処理を行っても乾燥組成物Dは溶解せず、保湿性も維持することができるが、実施例1〜3と比較して保湿性が顕著に劣る結果であった。
【0068】
上記の乾燥組成物Dをスクラブ剤組成物として2.0質量%配合して、実施例1と同様にクレンジングフォームを調製し、肌の洗浄評価を行った。結果を表1に示した。
【0069】
[比較例2]
グルコマンナン100gを水10Lに加え、攪拌して溶解させた。この溶液を95%エタノール8L中へ攪拌しながら投入し、グルコマンナンの沈殿物を得た。この溶液中に飽和水酸化カルシウム水溶液を100mL加えて攪拌し、遠心分離により沈殿物を採取した。得られた沈殿物を50%エタノール水溶液入れ、攪拌後に再度遠心分離により沈殿物を採取した。この操作を数回繰り返して得られた沈殿物を水中に懸濁させ、ドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で粉砕し、篩分により平均粒径200μmとなる乾燥組成物E(グルコマンナンのみ、水分含量4.6質量%)を得た。
乾燥組成物Eの粉体表面をビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、表面は非常に滑らかで均一であった。
【0070】
実施例1と同様にして、乾燥組成物Eの保水量を算出したところ、加熱前後で採取された沈殿物量は殆ど変わらなかった。保水量は加熱前で145倍、加熱後では87倍となり、加熱によって保湿性が悪化する傾向が見られた。
【0071】
上記の乾燥組成物Eをスクラブ剤組成物として2.0質量%配合して、実施例1と同様にクレンジングフォームを調製し、肌の洗浄評価を行った。結果を表1に示した。
【0072】
[比較例3]
製造例3で得られたセルロース複合体C150g(微細な繊維状セルロースBを固形分として96g含有)とグルコマンナン64g(商標、レオレックスRS、清水化学(株)製)を混合し、水を加えて全固形分量として1質量%とし、攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、80℃で3時間加熱して冷却し、滑らかなゲル状組成物F(微細な繊維状セルロース:グルコマンナン=60:40程度)を得た。
ゲル状組成物Fを一部取って親指と人差し指ですり潰すと、ゲル形状が完全に壊れて均一なペースト状となってしまい、スクラブ剤組成物としては不適切であった。ゲル状組成物Fをビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、数μmレベルのセルロース繊維が極僅かに観察されたものの、殆どの繊維が細すぎて確認できなかった。
【0073】
[比較例4]
製造例3で得られたセルロース複合体C150g(微細な繊維状セルロースBを固形分として96g含有)とグルコマンナン64g(商標、レオレックスRS、清水化学(株)製)を混合し、水を加えて全固形分量として1質量%とし、攪拌型ホモジナイザー(プライミクス(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、80℃で3時間加熱後に冷却して得たゲル状組成物を、冷凍庫(−20℃)に24時間置き凍結させた。その後40℃の雰囲気下に放置して解凍し、ゲル凍結組成物G(微細な繊維状セルロース:グルコマンナン=60:40程度)を得た。
ゲル凍結組成物Gを手で押すと容易に水分が染み出てしまい、また表面がザラザラして不均一な触感を有し、低刺激スクラブ剤組成物としては不適切であった。ゲル凍結組成物Gをビデオマイクロスコープ(VH−7000、キーエンス株式会社)で500倍に拡大して観察したところ、十数μmレベルの太いセルロース繊維が多く、また数十μmレベルの不均一な孔が多数存在していた。
【0074】
【表1】

【0075】
表1において、平均値の点数が高いほど低刺激で洗浄効果の優れたスクラブ剤組成物を示し、3点以上であれば良好な評価結果が得られたと判断する。
実施例1〜3のゲル乾燥組成物A〜Cは、「汚れ落ち」「触感」「不快感」の全ての評価項目において3点以上と良好な評価結果が得られた。特に「汚れ落ち」に関しては、比較例1,2の乾燥組成物D、Eと比べて顕著な改善が見られた。この結果より、本実施の形態のゲル乾燥組成物は水中で容易に膨潤して保湿性の良好な軟らかなゲル状となり、肌に対する刺激が少なく、また該ゲル中にネットワーク構造を形成している微細な水不溶性セルロースによって優れた洗浄効果や汚れに対する優れた吸着性を有することが分かる。
【0076】
一方、微細な繊維状セルロースのみ(極少量のカルボキシメチルセルロース・ナトリウムを含む)からなる乾燥組成物D(比較例1)は、不溶性セルロースによる摩擦が大きく刺激が強く感じられた。また殆どセルロースのみで乾燥させたために、微細なセルロース繊維同士が結着して太い繊維となったため、セルロースの密なネットワーク構造を形成できなかったと思われる。
また、グルコマンナンのみからなる乾燥組成物E(比較例2)は、刺激は非常に少ないが、ゲル表面が滑らかすぎて十分な洗浄効果が得られなかった。
特許文献5に記載の方法に従って製造した比較例3では、実施例1〜3のゲル乾燥組成物と同様の組成で(a)微細な繊維状セルロールと(b)多糖類とを有するものの、(a)微細な繊維状セルロースと(b)多糖類との双方を水中で混合して、乾燥する工程を経てゲル乾燥組成物としていないため、非常に滑らかで軟らかいゲルを形成し、スクラブ剤組成物として適するものではなかった。
また、特許文献6に記載の方法に従って製造した比較例4では、実施例1〜3のゲル乾燥組成物と同様の組成で(a)微細な繊維状セルロールと(b)多糖類とを有するものの、(a)微細な繊維状セルロースと(b)多糖類とを水中で混合して、乾燥する工程を経てゲル乾燥組成物とせずに冷解凍しているため、微細なセルロース繊維同士が部分的に密集して不均一な系を構成しスクラブ剤組成物として適するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のゲル乾燥組成物は、水中で容易に膨潤してゲル状となり、肌や器物に対して低刺激で、かつ洗浄効果に優れ、さらに膨潤性、保湿性、吸着性が良好であり、高温での加熱殺菌処理を施すことができるスクラブ剤組成物として、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、
(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、およびアルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、
を水中で混合した後、乾燥することにより得られるゲル乾燥組成物。
【請求項2】
前記(b)がグルコマンナンである、請求項1に記載のゲル乾燥組成物。
【請求項3】
前記(a)の原料が植物細胞壁である、請求項1または2に記載のゲル乾燥組成物。
【請求項4】
長径が0.5〜30μmであり、短径が2〜600nmであり、かつ長径/短径比が20〜400である前記(a)の含有量が、前記(a)全体において30質量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
【請求項5】
前記(a)と、水溶性高分子および/または親水性物質と、を含むセルロース複合体と、
前記(b)と、
を水中で混合した後、乾燥することにより得られる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
【請求項6】
スクラブ剤組成物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のゲル乾燥組成物。
【請求項7】
(a)0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満である微細な繊維状セルロースと、
(b)グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類から選択される少なくとも1種の多糖類と、
を水中で混合した後、乾燥する、ゲル乾燥組成物の製造方法。
【請求項8】
前記(a)と、水溶性高分子および/または親水性物質と、を含むセルロース複合体と、
前記(b)と、
を水中で混合した後、乾燥する、請求項7に記載のゲル乾燥組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−18704(P2010−18704A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180215(P2008−180215)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】