説明

ゲル濃度測定用チップ、ゲルの濃度を測定する方法、およびゲル濃度測定装置

【課題】少量のゲルであっても精度良くゲル濃度を測定する方法。
【解決手段】ゲル濃度測定用チップ11の貫通孔内に保持されているゲルの濃度を測定するためのゲル濃度測定装置31は、照明装置21と、照明装置21からの照明光が照射されるコントラスト測定用パターンと、コントラスト測定用パターンを通過した光がチップ11の貫通孔に入射するように、ゲル濃度測定用チップを保持する測定用チップ保持装置33と、ゲル濃度測定用チップ11の貫通孔13に保持されているゲルによって結ばれたコントラスト測定用パターンの像を撮像する撮像装置36と、撮像装置36を光軸に沿って前後に移動させるための撮像装置移動装置38とを備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル濃度測定チップと本チップを用いたゲル濃度測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲル(以下、ゲルと記載)は、高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収し膨潤したゲルであり、様々な用途で使用されている。
合成されたゲルの濃度を測定する方法としては、溶媒が吸収された状態でゲルの重量を測定した後、凍結乾燥等によって溶媒を除去した後の重量を測定し、それらの比率から濃度を推定すること等が広く知られている方法である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-174145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のゲル濃度測定方法は、対象となるゲルの量が少なくなればそれに合わせて測定誤差の影響が大きくなり、正しいゲル濃度を測定できないという問題点があった。
従って、本発明の主な目的は、少量のゲルであっても精度良くゲル濃度を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、以下に示す本発明によって解決される。
本発明の要旨は、
(1)光を透過しない部材(遮光部材)に設けられた貫通孔内にゲルが保持されている、ゲル濃度測定用チップ。
(2)(1)に記載のゲル濃度測定用チップの貫通孔に、光源からの光をコントラスト測定用パターンを介して照射し、貫通孔内のゲルが結んだコントラスト測定用パターンの結像位置から、ゲルの濃度を測定する方法。
(3)前記コントラスト測定用パターンは、穿孔を通して前記光源側からの入射光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射するピンホールと、並行配置された複数のスリットを通して前記光源側からの入射光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射する格子パターンとのうちの少なくともどちらか一方である(2)に記載の方法。
(4)前記光源と前記ゲル濃度測定用チップとの間に前記コントラスト測定用パターンを配置し、貫通孔内のゲルが結んだコントラスト測定用パターンのMTF(modulation transfer function)値から結像位置を求めることを特徴とする(2)または(3)に記載の方法。
(5)ゲル濃度測定用チップの貫通孔内に保持されているゲルの濃度を測定するためのゲル濃度測定装置であって、
光源と、
前記光源からの照明光が照射されるコントラスト測定用パターンと、
前記コントラスト測定用パターンを通過した光が前記貫通孔に入射するように、ゲル濃度測定用チップを保持する測定用チップ保持手段と、
前記ゲル濃度測定用チップの貫通孔に保持されているゲルによって結ばれた前記コントラスト測定用パターンの像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段を光軸に沿って前後に移動させるための撮像手段移動手段と、を備えていることを特徴とするゲル濃度測定装置。
(6)前記コントラスト測定用パターンを、前記撮像手段における前記コントラスト測定用パターンの像の範囲を制限する結像範囲制限手段を用いて形成することを特徴とする(5)に記載のゲル濃度測定装置。
(7)前記コントラスト測定用パターンを、スリットを通して前記光源側からの光を前記ゲル濃度測定用チップ側に通す格子パターンを用いて形成することを特徴とする(5)または(6)に記載のゲル濃度測定装置。
(8)前記結像範囲制限手段が、穿孔を通して前記光源側から入射した光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射するピンホールである、(6)に記載のゲル濃度測定装置。
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のゲル濃度測定チップを用いることによって、少量のゲルであっても精度良くゲル濃度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のゲル濃度測定用チップの模式的な図面である。
【図2】貫通孔内のゲルによってピンホール像が結像する様子を表した模式的な図面である。
【図3】本発明の好ましい実施形態のゲル濃度測定装置31の構成を示す模式的な図面である。
【図4】本実施形態のゲル濃度測定装置31で用いられる格子パターン32の一例を示す模式的な平面図である。
【図5】ゲル濃度測定用チップ11のある貫通孔13に充填されたゲル14によって生成された格子パターン32の像を、撮像装置移動装置38によって撮像装置36を1mm毎に移動させながら撮像した画像である。
【図6】図5の5mmでの格子パターンの格子像に対して、格子パターンのラインに対して略直角方向の光量ラインプロファイル(A−A‘)を表したものである。
【図7】各位置毎の各ゲルのMTF値である。横軸は相対距離で、縦軸はMTF値である。
【図8】ゲル濃度Xと、焦点距離Yの相対値をX−Y平面上にプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、少量のゲルであっても精度良くゲル濃度を測定することを目的としてなされたものである。この目的を達成するために、本発明のゲル濃度測定用チップは、光を透過しない部材、即ち遮光部材に貫通孔を設け、この貫通孔内にゲルを保持することを特徴とする。
さらに、本発明のゲル濃度測定方法は、上述のゲル濃度測定用チップの貫通孔に、コントラスト測定用パターンを介して光源からの光を照射し、通り抜けた光により貫通孔内のゲルが結んだコントラスト測定用パターンの結像位置(光の焦点距離)から、ゲルの濃度を測定することを特徴とするものである。
ここで、コントラスト測定用パターンは、穿孔を通して前記光源側から入射した光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射するピンホールと、並行配置された複数のスリットを通して前記光源側から入射した光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射する格子パターンとのうちの少なくともどちらか一方を用いることができ、両方を用いることがより好ましい。
また、本発明のゲル濃度測定装置は、上記のゲル濃度測定用チップの貫通孔内に保持されたゲルの濃度を測定するために、以下の構成:
光源と;
この光源からの照明光が照射されるコントラスト測定用パターンと;
コントラスト測定用パターンを通過した光がゲル濃度測定用チップの貫通孔に入射するように、ゲル濃度測定用チップを保持する測定用チップ保持手段と;
ゲル濃度測定用チップの貫通孔に保持されているゲルによって結ばれた前記コントラスト測定用パターンの像を撮像する撮像手段と;
この撮像手段を光軸に沿って前後に移動させるための撮像手段移動手段と;
を備えることを特徴とする。
光源としては様々なものが利用可能であるが、一例として、適度に出力が調節されたハロゲンランプ、LED、レーザなどが挙げられる。
測定用チップ保持手段は、光源からの光をゲル濃度測定用チップに入射させるともに、ゲル濃度測定用チップからの光を撮像手段側に出射するために透明な材料を用いる。この透明な材料としては、ガラス、石英、透明樹脂などが挙げられる。ガラス、石英、透明樹脂はそれぞれ光学特性が異なり、このため測定用チップ保持手段に用いる材料は光源の波長特性を勘案して適宜決定するとよい。
コントラスト測定用パターンは、上述した通り、ピンホールと格子パターンとのうちの少なくともどちらか一方、あるいはその両方を用いて形成することが好ましいが、MTF値を測定できるようなパターンである限り特に制限されるものではなく、どのようなパターンを用いてもよい。
以下に、図を用いながら本発明のより詳細な実施形態について説明する。
【0009】
図1は、ゲル濃度測定用チップの模式的な図面である。ゲル濃度測定用チップ11は、光を透過しない部材12に貫通孔13を有している。貫通孔の形状は特に制限されるものではないが、断面円形状が好ましい。貫通孔13の中には、測定対象となるゲル14が充填されている。光を透過しない部材12の材質は特に限定されないが、例えば、カーボンブラックを練り込んで製作した樹脂板等のような光を反射し難い部材の方が好ましい。
ゲル濃度測定用チップは、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂、あるいはステンレスなどの金属の平板に貫通孔を穿孔し、ゲルを充填することにより製造することができる。また、ゲル濃度測定用チップの製造は、中空繊維配列体を用いたマイクロアレイの製造方法を適用することができる。この方法では、貫通孔基盤を合成高分子からなる複数本の中空繊維を繊維軸方向に規則正しく配列させた中空繊維配列体を用いて製造するものである。この製法は、中空繊維配列体の各中空繊維中空部にゲルを導入し、この中空繊維配列体を繊維軸方向と垂直な方法で薄片化することで、同一ロッドから同じ仕様のチップを製造することができる(特開2000-270878号公報)。
ここで、ゲルとしては特に限定されるものではないが、例えばアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類又は二種類以上と、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体とを共重合したゲルが挙げられる。その他本発明に用いることのできるゲルとしては、例えばアガロース、アルギン酸、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等のゲル、又はこれらを架橋したゲルが挙げられる。
【0010】
図2は、貫通孔内のゲルによってピンホール像が結像する様子を表した模式的な図面である。光源である照明装置21から照射された照明光は、ピンホール22によって所定の大きさに制限され、ゲル濃度測定用チップ11の貫通孔内に充填されている、測定対象となるゲル14に入射する。測定対象となるゲル14は、入射した光を屈折して焦点を結び、ピンホール像23を結像する。濃度の異なる複数のゲルを用いてこのピンホール像23のMTF値を演算して近似直線(検量線)の数式を求めることにより、未知の濃度のゲルについても濃度を測定することができる。
【0011】
コントラスト測定用パターンとしては、例えば、遮光板に複数のスリットが並行に形成された格子パターン、方形状の孔が市松模様状に貫通形成されたパターン、その他の様々なパターンを用いることができる。その中でもコントラスト測定用パターンとして、例えば格子パターンを用いることにより、MTF値から結像位置を容易に測定することが可能となる。この詳細については後に記載する。
【0012】
図3は、本発明の好ましい実施形態のゲル濃度測定装置31の構成を示す模式的な図面である。図3に示されているように、ゲル濃度測定装置31は、光量調整が可能なハロゲンランプ、LED素子等の照明装置(光源)21と、照明装置からの照明光を受光する撮像手段である撮像装置36と、図示しない処理装置とを備えている。撮像装置36は、照明装置21に向けられた対物レンズ35と、イメージセンサとを備える。イメージセンサとしては、例えばCCDセンサやCMOSセンサが挙げられ、ここではCCDセンサ37を例示する。CCDセンサ37を備えている。CCDセンサ37で得られた画像は、図示しない画像処理装置に送られ、所定の画像解析等の処理が施されるように構成されている。撮像装置36は、光軸方向に沿って前後に移動させることが可能な撮像手段移動手段である撮像装置移動装置上に設置されている。
【0013】
ゲル濃度測定装置31では、さらに、照明装置21と撮像装置36との間に、照明装置21側から順に、結像範囲制限手段である結像範囲制限装置22、格子パターン32、測定用チップ保持手段である測定用チップ保持装置33が配置されている。
【0014】
図4は、本実施形態のゲル濃度測定装置31で用いられる格子パターン32の一例を示す模式的な平面図である。格子パターンは、公知のMTF測定用格子を用いることが好ましく、黒く示されている光の透過率が低い又は非透過性の部分(黒部分)と、白く示されている光の透過率が高い部分(白部分:スリット)とが交互に配置されている格子部材である。細長い白部分であるスリット41は一定間隔ごとに並行配置され、これにより撮像装置36における縞状の格子パターンの形成が可能となる。格子の各白部分および各黒部分の幅は例えば同一であり、格子パターンの一対の白部分と黒部分の幅がラインピッチ(mm)であり、ラインピッチの逆数が空間周波数(lp/mm)である。
【0015】
格子パターン32は、ガラス板などの基板に金属を蒸着させる等の公知の方法によって形成することができる。格子パターンの空間周波数は、検査対象となるゲル濃度測定用チップの厚さや、貫通孔の大きさ、撮像装置31の対物レンズ35の倍率等の種々の条件に応じて、適当な値が選定される。空間周波数として、例えば、3.0lp/mmを有した格子パターンを用いることができる。
【0016】
測定用チップ保持装置33は、ガラス、石英、透明な樹脂等の光透過性材料で構成された水槽状の部材であり、水などの液体34を収容し、ゲル濃度測定用チップ11を液体34に浸漬した状態で保持する浸漬装置としての機能も有するように構成されている。ゲル濃度測定用チップは、その表面が、撮像装置36の対物レンズ35の光軸と直交する向き(即ち照明装置と撮像装置を結ぶ線に直交する向き)に向けられ、測定用チップ保持装置33内の液体34に浸漬されて、保持装置33内に保持される。
【0017】
ゲル濃度測定用チップ11を液体34に浸漬する理由は、ゲル濃度測定用チップ11の貫通孔13に保持された測定対象となるゲル14の乾燥を防ぐためである。液体は、ゲルの乾燥を防ぎ、ゲルを汚染または劣化させないものであれば良く、透明性が高いものが望ましい。水以外の液体としては例えば、塩溶液、グリセロール溶液等があげられる。またこれらの溶液に、防腐剤等を添加しても良い。
【0018】
このような構成によって照明装置21からの照明光で照らされた格子パターン32の像がゲル濃度測定用チップ11の貫通孔13内の測定対象となるゲル14のレンズ作用によって結像位置に結ばれ、結像位置に配置された撮像装置31のCCDセンサ37によって撮像される。
【0019】
結像範囲制限装置22は、例えば光を通さない遮光板に円形孔が穿設されたピンホールであり、これによりゲル濃度測定用チップ11の結像範囲を制限することができる。格子パターン32を用いる場合では、格子パターン32の像の大きさを所定の大きさに制限することができる。ゲル濃度測定用チップに2個以上の貫通孔を設けて同時にゲルの濃度を測定する場合、貫通孔同士の距離によっては、それぞれの貫通孔内のゲルによって結像した格子パターンの像が重なり合ってしまい像を分離/識別できなくなってしまうため、結像範囲制限装置によって像の重なり合いを防ぐことが可能である。結像範囲制限装置22としては、例えば、孔が形成された金属板、孔の大きさを調整できる視野絞り(アパーチャ)等を用いることができる。結像範囲制限装置22の位置、結像範囲制限装置22の孔の寸法等は、測定条件に応じて、適宜選定される。
【0020】
なお、上記実施形態では、結像範囲制限装置22が、照明装置21と格子パターン32の間に配置されているが、結像範囲制限装置は照明装置21とチップ保持装置33との間に配置されていればよく、結像範囲制限装置22と格子パターン32とのうちどちらを照明装置側に配置しどちらをチップ保持装置側に配置するかは特に制限されるものではない。従って、例えば、結像範囲制限装置が格子パターン32とチップ保持装置33との間に配置された機構としても良い。
【0021】
次に、ゲル濃度測定用チップ11とゲル濃度測定装置31を用いた、ゲル濃度測定方法について説明する。
まず、複数種類の予め既知の濃度で調整したゲルが充填されたゲル濃度測定用チップ11を用意する。各濃度のゲルは、複数の貫通孔13を設けたゲル濃度測定用チップ11にそれぞれ充填しても良いし、1枚のゲル濃度測定用チップに1種類を充填し、濃度の種類の数だけ用意しても良い。本明細書では、1枚のゲル濃度測定用チップに複数の貫通孔を設けた場合で説明する。
【0022】
用意した既知濃度のゲル測定用チップを、測定用チップ保持装置33に収容されている液体34内に浸漬されるように測定用チップ保持装置33の所定位置で保持する。次いで、照明装置21からの照明光を、結像範囲制限装置22、及び格子パターン32を介してゲル濃度測定用チップに照射し、撮像装置36で格子パターン32の像を生成する。生成された格子パターン32の像を、撮像装置移動装置38によって一定間隔毎にずらしながらCCDセンサ37で撮像する。
【0023】
図5は、ゲル濃度測定用チップ11のある貫通孔13に充填されたゲル14によって生成された格子パターン32の像を、撮像装置移動装置38によって撮像装置36を1mm毎に移動させながら実際に撮像した画像である。図に記載している数値(mm)は、対物レンズ(保持装置側の表面)とゲル濃度測定用チップ11(チップ自身の対物レンズ側の表面)との間の距離を、ある位置を基準点0mmとした相対値として記載したものである。例えば、5mmと記載された格子像の画像は、対物レンズとゲル濃度測定用チップ11の間の距離が、基準0mmよりも5mm長いことを表している。
【0024】
図6は、図5の5mmでの格子パターンの格子像に対して、格子パターンのラインに対して略直角方向の光量ラインプロファイル(A−A‘)を表したものである。CCDセンサ37で得られた格子パターンの像は、ゲル濃度測定装置31に搭載された処理装置において処理され、処理装置は光量ラインプロファイルに基づきMTF値を演算する。処理装置ではMTF値の演算プログラムが実行され、光量ラインプロファイルから次式1により格子パターンのMTF値が算出される。
MTF={(Imax-Imin)/(Imax+Imin)}×100(%) (式1)
ここで、MTFは像のコントラスト特性を示すものである。また、Imax、Iminは、MTF値を算出するための値であり、結像された格子パターンの像の光量ラインプロファイルの最大光量値(Imax)と最小光量値(Imin)のことである。なお、コントラスト測定用パターンとして、市松模様状のパターンを用いた場合には互いに直行する2本の光量ラインプロファイルを用いてMTF値を演算することが可能となる。
【0025】
MTF値は、式1から、格子パターンの白と黒のラインが鮮明に見える程高くなり、ぼやけた像になれば低い値となることは明らかである。撮像装置移動装置によってピント位置を変えながら撮像し、各位置のMTF値を算出していく。MTF値が最も高い、すなわち、鮮明に見える画像が得られたということは、ゲル濃度測定用チップのゲルによって結像した格子パターンの結像位置を、対物レンズを通してCCDカメラで観察しているということであり、対物レンズのW.D(ワーキングディスタンス)と、対物レンズからゲル濃度測定用チップまでの距離から、ゲルの焦点距離は容易に計算可能である。
【0026】
このような方法で、複数種類の予め既知の濃度で調整したゲルが充填されたゲル濃度測定用チップにおいて、各濃度のゲルの焦点距離を算出し、横(X)軸を濃度、縦(Y)軸を焦点距離の相対値としてX−Y平面上にプロットし、Y=AX+Bで表される近似直線式を求めることで、この近似直線を検量線として用いることができ、この近似直線に、未知濃度のゲルのMTF値に基づく焦点距離を照らし合わせることにより未知の濃度であるゲルの濃度を逆算することが可能となる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
ゲル濃度測定用チップの作製
板の中央部に直径0.32mmの孔が0.42mm間隔で、格子状に2×2、4個配列された、厚さ0.1mmの多孔板2枚を用い、その多孔板の全ての孔に、カーボンブラックで着色したポリカーボネート製中空繊維(外径0.28mm、内径0.18mm、長さ500mm)を通過させ、この2枚の繊維を通過させた多孔板を50mm離間させ、離間した多孔板間に、カーボンブラックで着色したポリウレタン樹脂を充填し、長さ50mm、10mm角の角柱状の、両端に樹脂で固定化されない部分を有する中空繊維配列体を得た。
【0028】
既知のゲル濃度チップ
得られた中空繊維配列体中の中空糸に(i)3%、(ii)4%、(iii)5%、(iv)6%で調整した4種類の濃度のジメチルアクリルアミドゲル前駆体溶液を充填・重合させ、その後、ミクロトームにて、繊維軸と直角方向に、厚さ0.25mmの薄片を切り出すことにより既知のゲル濃度チップを得た。
【0029】
近似直線式の算出
ゲル濃度測定装置を用いて、撮像装置移動装置を所定の位置を基準0mmとし、0.5mmピッチ毎に対物レンズとゲル濃度測定用チップの距離を広くしながら6mmまで移動させながら、各位置毎に、4種類のゲルの格子パターンを測定し、MTF値を算出した。
図7は、各位置毎の各ゲルのMTF値である。横軸は相対距離で、縦軸はMTF値である。ゲルによって結像した格子パターンの格子像を観察している点(すなわち、MTF値が最も高い点)は変曲点となっている位置である。
【0030】
図8は、ゲル濃度Xと、焦点距離Yの相対値をX−Y平面上にプロットした図である。得られた式は、以下に示す式2
Y=1.65×X−4.3 (式2)
となり、
ゲル濃度Xを求めるには、以下に示す式3
X=(Y+4.3)/1.65 (式3)
によって焦点距離の相対値Yから導き出すことが可能である。
【0031】
(実施例1)
上記の方法で、4.5%のゲルをゲル濃度測定用チップに充填・重合し、焦点距離の相対値を測定したところ、3.2mmであった。式3によってゲル濃度を算出すると、4.55%であった。
【符号の説明】
【0032】
11 ゲル濃度測定用チップ
13 貫通孔
14 ゲル
21 照明装置(光源)
22 結像範囲制限装置(結像範囲制限手段)
31 ゲル濃度測定装置
32 格子パターン
33 測定用チップ保持装置(測定用チップ保持手段)
34 液体
35 対物レンズ
36 撮像装置(撮像手段)
37 CCDセンサ
38 撮像装置移動装置(撮像手段移動手段)
41 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過しない部材に設けられた貫通孔内にゲルが保持されている、ゲル濃度測定用チップ。
【請求項2】
請求項1記載のゲル濃度測定用チップの貫通孔に、光源からの光をコントラスト測定用パターンを介して照射し、前記貫通孔内のゲルが結んだコントラスト測定用パターンの結像位置から、ゲルの濃度を測定する方法。
【請求項3】
前記コントラスト測定用パターンは、穿孔を通して前記光源側からの入射光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射するピンホールと、並行配置された複数のスリットを通して前記光源側からの入射光を前記ゲル濃度測定用チップ側に出射する格子パターンとのうちの少なくともどちらか一方である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記光源と前記ゲル濃度測定用チップとの間に前記コントラスト測定用パターンを配置し、貫通孔内のゲルが結んだコントラスト測定用パターンのMTF値から結像位置を求めることを特徴とする請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
ゲル濃度測定用チップの貫通孔内に保持されているゲルの濃度を測定するためのゲル濃度測定装置であって、
光源と、
前記光源からの照明光が照射されるコントラスト測定用パターンと、
前記コントラスト測定用パターンを通過した光が前記貫通孔に入射するように、ゲル濃度測定用チップを保持する測定用チップ保持手段と、
前記ゲル濃度測定用チップの貫通孔に保持されているゲルによって結ばれた前記コントラスト測定用パターンの像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段を光軸に沿って前後に移動させるための撮像手段移動手段と、を備えていることを特徴とするゲル濃度測定装置。
【請求項6】
前記コントラスト測定用パターンを、前記撮像手段における前記コントラスト測定用パターンの像の範囲を制限する結像範囲制限手段を用いて形成することを特徴とする請求項5に記載のゲル濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−193972(P2012−193972A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56278(P2011−56278)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】