説明

ゲル状電解還元水

【課題】電解還元水は電気的にマイナスに偏倚した特殊な水であり、アルカリ性を呈し、洗浄、除菌、消臭等の作用を有するが、このような作用発現後は普通の水に戻るという特徴があり、合成界面活性剤とは異なり廃棄によって環境に蓄積され環境を汚染するといった問題は発生しない。電解還元水に増粘剤を加えてゲル状電解還元水を得て、対象物への付着力を高める方法が提案されているが、増粘により電解還元水の対象物への浸透力が減殺されるので、上述の電解還元水本来の機能が十分に発揮されないという問題があった。
【解決手段】高吸水性高分子中に電解還元水を吸蔵せしめたことを特徴とするゲル状電解還元水を提供する。本発明のゲル状電解還元水は、対象物へ付着後、油との接触により電解還元水を放出し、対象物に浸透するので、電解還元水の対象物への付着と浸透の両立を可能とし、洗浄、除菌、消臭等の電解還元水本来の機能の発現を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄または除菌あるいは洗浄および除菌に用いられるゲル状電解還元水に関するものである。
【背景技術】
【0002】
純水あるいは電解質を含む水に隔壁を介して陽極と陰極とを浸漬して通電し水の電気分解を施すと、陽極近傍には酸化還元電位がプラスの陽極水(電解酸化水と称する)が、陰極近傍には酸化還元電位がマイナスの陰極水(電解還元水と称する)が生成することは広く知られており、得られた電解酸化水は除菌、脱臭、漂白等に、また、電解還元水は洗浄等に利用されている。
【0003】
このうち、電解還元水は活性水素(原子状の水素)を含み、水酸イオン(OH)に富みアルカリ性を示す。その液性を示す指標として、pHが知られている。その値は電気分解条件のみならず、原料水の条件、すなわち、原料水中に含まれる電解質の量によっても影響を受ける。すなわち、電解質(例えばNaCl)を含む水を原料として使用した場合にはその電解質を構成する陽イオン(例えばNa)が陰極に引き寄せられて電解還元水中に濃縮し、電解還元水のアルカリ性の程度(pHの表示で7超え14以下の範囲のある値になる)に影響を与える。液性はpHで表示されることが多いが、電解還元水の場合、pHは、電気分解条件と原料水条件の双方に支配されるので、電解還元水の絶対的な評価の尺度とはなりにくい。したがって、電解還元水の液性は、pHと併せて、電気的な偏りの程度を示す酸化還元電位によって規定することが妥当とされる。
【0004】
上述したように、電解還元水は、通常の水の中では安定に存在し得ない活性水素を含む、電気的にマイナスに偏倚した特殊な水であり、還元作用(他者に電子を供給してそれを還元する作用)を有する。このため、電解還元水は、酸化還元電位とpHのレベルによって様々な特性を示すことが知られている。そして、それに対応する様々な用途開発がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1は、電解槽の陰極室の水に純水を選択した製造方法により、酸化還元電位が−900mV以下で、pHが12.0から12.6の範囲にある電解還元水を得、これを洗浄、除菌剤として使用することを提案している。
【0006】
【特許文献1】特許第3145347号公報
【0007】
この電解還元水は、pHが12.0以上と極めて高いので、水であるにもかかわらず油脂を水中に分散、乳化させる働きがある。これは、電解還元水が油脂と接触すると、鹸化反応を起こして油脂を脂肪酸とグリセリンに分解させながらその内部へ浸透して油脂を細粒化させていることによると考えられる。蛋白質に対しても加水分解を引き起こす。この過程で、油脂、蛋白質を含む被洗浄物の汚れを除去する働きが発現する。血液も同様のメカニズムにより洗浄できる。また、酸化還元電位が−900mV以下と極めて低いので還元性が顕著でありこれによって除菌効果が発現する。これには前述の活性水素が関与している可能性もある。この除菌効果はO−157、サルモネラ菌、大腸菌等で確認されている。この極低酸化還元電位の電解還元水は高還元性と強アルカリ性とにより洗浄と除菌を同時に可能にすることが特徴的である。
【0008】
強アルカリ性水溶液は一般的には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムに通常の水を加えることによって得られるが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは、薬事法により指定される劇物であり、この強アルカリ性水溶液が皮膚に接触すると、火傷を引き起こす惧れがある。これに対して、上述の強電解還元水では、その強アルカリ性は電気的な偏倚によるものなので、強電解還元水は強アルカリ性でありながら、皮膚と接触しても火傷を引き起こす惧れはなく安全であり、その取扱いは極めて容易である。これが、強アルカリ性水溶液と強電解還元水の際立った相違といえる。また、上述の純水から製造された電解還元水の場合、この電解還元水は洗浄あるいは除菌後は還元性を失い普通の水に戻るのみであり、合成界面活性剤を含む洗剤や合成除菌剤のように、廃棄によって環境に蓄積され環境を汚染するといった問題は発生しない。すなわち、電解還元水からなる洗剤、除菌剤は安全で環境に優しいことが特徴として挙げられる。そこで、冷蔵庫、電子レンジ、ガラス、鏡、床、プラスチック用品、パソコン、キャビネット、電話機、おもちゃ、便座等の洗浄、除菌、しみ抜き、消臭用等の多様な器物の洗浄剤として利用されている。そして、この場合、強電解還元水を対象物に直接吹きかけてのち、拭き取るか洗い流すことが提案されている。
【0009】
これに対して、特許文献2は、新規な洗浄剤を提案する。すなわち、電解還元水に増粘剤として多糖類を加えてゲル化したゲル状電解還元水からなる洗浄剤を開示している。この多糖類としては、キサンタンガムとローカストビーンガムが挙げられている。そして、攪拌混合時に、空気を混入させてゲル化させることが提案されている。その狙いは、ゲル化によって電解還元水を被洗浄物から流れ落ち難くすることにある。これによって、汚れを電解還元水で包み込んで汚れの除去を容易にする効果が生まれるとし、さらに、電解還元水のpHを10以上にすれば電解還元水は汚れへの浸透力を発現し汚れ除去効果が増加するとしている。また、電気分解用の原料水として、炭酸水素ナトリウム水溶液を提案している。被洗浄物については具体的な記述がない。
【0010】
【特許文献2】特開2004−18663号公報
【0011】
特許文献2に記載されているように、電解還元水のゲル化は電解還元水を対象物に接触したまま保持することを可能にする。従って、電解還元水のゲル化は、電解還元水の用途を、前述した器物洗浄剤以外の用途に拡大する可能性がある。例えば、特許文献3は、電解還元水を含むゲルを皮膚または頭髪に付着させる皮膚または頭髪の調整方法を提案する。
この方法は電解酸化水と電解還元水を順次、皮膚または髪に付着させるものであるが、電解還元水は皮膚のすべすべ感や髪のサラサラ感に主に寄与するとしている。この発明に用いられる電解還元水は、pHが10.5以上、11.5以下であることが好ましいとされている。このように、電解還元水をゲル化すれば、皮膚洗浄剤、髪洗浄剤への用途が開ける。しかしながら、特許文献3には、ゲル状電解還元水の構成成分については具体的な記述がない。
【0012】
【特許文献3】特開2004−107304号公報
【0013】
また、電解酸化水と電解還元水を併用する歯洗浄器を提案するのが、特許文献4である。この発明は、電解酸化水と電解還元水を生成してノズルに供給する手段と、電解酸化水と電解還元水とをこの順に切替えて順次噴出させる電解水切替手段とを備える歯洗浄器である。この歯洗浄器を使用すれば、電解酸化水の噴出によって歯垢の除去、虫歯菌等の細菌の殺菌が図られる。しかし、電解酸化水は歯のエナメル質を溶かす作用がありこれが問題となる。そこで、電解還元水の噴出によって電解酸化水の中和を図り、歯のエナメル質を保護するというものである。
【0014】
この発明は歯の洗浄に関わるが、この発明における電解還元水の役割は唯一、電解酸化水の中和である。それ以外の機能は想定されていない。
【0015】
【特許文献4】特開平7−231903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ゲル状電解還元水に関しては、前述のように、特許文献2に、電解還元水のゲル化の方法が提案されている。この方法は、電解還元水に増粘剤として多糖類を加えるものである。このようにして得られたゲル状電解還元水は当然のことながらもとの電解還元水に比べて格段に粘度が高くなる。このため、該高粘性流体は外力が加えられることなく流動することは困難であり、外力が加えられたとしても、ゲル状電解還元水が被洗浄物の表面の微細な凹部には侵入せず、そこに付着した汚れへ電解還元水が到達しない状況は避けられない。すなわち、被洗浄物への付着を容易にするために行なう電解還元水のゲル化が、電解還元水の優れた浸透力を奪い、その結果、電解還元水本来の洗浄、除菌、消臭等の機能を減殺するという問題がある。
【0017】
本発明は、ゲル状電解還元水の対象物への十分な付着力と優れた浸透力とを両立し、電解還元水本来の洗浄、除菌、消臭等の機能を発現するゲル状電解還元水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、電解還元水は高吸水性高分子に容易に吸蔵されてゲル状を呈すること、該ゲル状電解還元水が油脂と接触すると、高吸水性高分子は電解還元水を放出して自身は収縮すること、および、放出された電解還元水は本来の流動性を取り戻して、電解還元水本来の洗浄、除菌、消臭等の機能を発現することを見出して、本発明を完成させた。
【0019】
請求項1に記載のゲル状電解還元水は、高吸水性高分子中に電解還元水を吸蔵せしめたことを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載のゲル状電解還元水は、請求項1に記載のゲル状電解還元水であって、電解還元水の酸化還元電位が−600mV以下で、pHが10以上であることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載のゲル状電解還元水は、請求項1または2に記載のゲル状電解還元水であって、電解還元水の還元電位が−900mV以下で、pHが12以上であることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載のゲル状電解還元水は、請求項1から3のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水であって、吸水倍率が電解還元水と高吸水性高分子の重量比で30以上であることを特徴とする
【0023】
請求項5に記載のゲル状電解還元水は、請求項1から4のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水であって、高吸水性高分子が、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびポリ(アクリル酸/アクリル酸塩/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩)からなる群から選ばれる1種または2種以上の重合体により構成されることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載のゲル状電解還元水は、請求項1から5のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水であって、洗浄剤または除菌剤あるいは洗浄剤および除菌剤として使用されることを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載のゲル状電解還元水は、請求項1から6のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水であって、器物洗浄剤、皮膚洗浄剤、髭剃り剤または歯磨き剤として使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のゲル状電解還元水は、高吸水性高分子中に電解還元水を吸蔵せしめることにより得られるが、該ゲル状電解還元水は、高粘性流体であるので流出損失を伴うことなく容易に対象物に付着し、ついで、電解還元水が、対象物との接触界面において、対象物表面に存在する油と鹸化反応を起こし、この反応の進行に伴って高吸水性高分子は電解還元水を逐次放出し、放出された電解還元水は電解還元水本来の流動性を取り戻して対象物内へ浸透し、洗浄、除菌、消臭等の電解還元水本来の機能を発現する。すなわち、本発明のゲル状電解還元水によれば、電解還元水の対象物への付着と浸透の両立を可能とし、電解還元水本来の機能の発現を図ることができる。
【0027】
本発明のゲル状電解還元水は、それを器物洗浄剤または皮膚洗浄剤に適用すると、ゲル状電解還元水から放出された流動性のよい電解還元水が被洗浄物の汚れに浸透するので、従来技術のゲル状電解還元水に比べてはるかに優れた洗浄能力を発揮する。
【0028】
本発明のゲル状電解還元水は、それを髭剃り剤に適用すると、従来のゲル状髭剃り剤にはない数々の優れた機能が発揮される。すなわち、ゲル状電解還元水から放出された流動性のよい電解還元水が、髭に速やかに浸透してそれを柔らかくすること、皮膚を除菌して剃刀負けを防止すること、切り傷部の血液の洗浄と止血作用を発揮すること、剃刀の除菌、消臭作用を発揮することが挙げられる。
【0029】
本発明のゲル状電解還元水は、それを歯磨き剤に適用すると、従来のゲル状歯磨き剤にはない数々の優れた機能が発揮される。すなわち、ゲル状電解還元水から放出された流動性のよい電解還元水が、歯表面の付着物あるいは歯と歯肉の隙間に入り込んだ付着物に速やかに浸透して洗浄除去すること、除菌、消臭、止血効果を発揮することが挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のゲル状電解還元水を構成する電解還元水の酸化還元電位を−600mV以下で、pHを10以上とすることにより、洗浄効果が顕著に発揮される。電気分解を容易にするために、原料水に塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の電解質を加えてもよい。
【0031】
本発明のゲル状電解還元水を構成する電解還元水の酸化還元電位を−900mV以下で、pHを12.0以上とすることにより、洗浄効果に加え、除菌効果が顕著に発揮される。電気分解を容易にするために、原料水に塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の電解質を加えてもよい。
【0032】
本発明のゲル状電解還元水を構成する電解還元水の重量を分子とし高吸水性高分子の重量を分母とする重量比で表現した吸水倍率を30以上とすることにより、ゲル状電解還元水は対象物表面の微小な凹凸への密着を可能にする変形能を獲得する。ちなみに、30未満では、ゲル状電解還元水は、それを構成する高吸水性高分子の強度が高くて変形しにくい。また、高吸水性高分子の表面の湿潤状態も不十分である。このため、対象物との密着は困難であり、対象物に付着しにくくなるという問題が起きる。
【0033】
本発明のゲル状電解還元水を構成する高吸水性高分子は、吸水能力と油脂との接触により水分を放出する能力とを併せ持つことが要求される。この観点から、各種の高吸水性高分子、例えば、カルボキシメチルセルロース架橋物、ポリオキシエチレン部分架橋物、澱粉アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、ポリアクリル酸塩部分架橋物、を特に限定なしに用いることができる。このような高吸水性高分子については、その吸水性および吸水後の強度は高吸水性高分子の架橋の程度により調節でき、吸水能力は自身の重量の数十倍から数百倍に及び、一般的に吸水性が高いほど吸水後の強度は低下し、外力によって分断され易く小粒になることが知られている。このような外力による高吸水性高分子の分断、分裂はゲル状電解還元水と対象物との接触を促進するので好ましい。これらの観点より、より好ましい高吸水性高分子として、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリル/メタクリル酸)、ポリ(イソブチレン/マレイン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩)、ポリ(アクリル酸/アクリル酸塩/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸/アクリル酸塩/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩)が挙げられる。ここで、アクリル酸塩または2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩の塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他に、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機置換アンモニウム塩等を用いることができる。このような高吸水性高分子うち、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリ(アクリル酸/アクリル酸塩/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩)が特に好適である。この群から選ばれる2種以上の重合体により高吸水性高分子を構成してもよい。それは、この群の高吸水性高分子が自身の重量の数十倍以上の電解還元水を吸蔵できるだけでなく、油脂との接触により、電解還元水を速やかに放出するからである。
【0034】
高吸水性高分子の形態については特に限定はない。粉体状、綿状、シート状等のいずれでも良い。用途に応じて適した形態を選択すればよい。高吸水性高分子の形態が粉体状の場合、吸水初期は粉体として挙動し、吸水によって粉体を構成する粒同士が付着し合い、一体化し、吸水がさらに進行すると、粒の塑性変形が容易となって粒間の空孔が減少し、ゲル状電解還元水となる。粒が繊維状の場合、繊維が短いと粉体状を呈し、繊維が長いと、繊維同士の絡み合いにより綿状を呈する。綿状の場合、吸水による一体化が容易であるという特徴がある。さらに、繊維の絡み合いによりシート状に加工してもよい。また、綿状あるいはシート状の形状構成材に粒状の高吸水性高分子を担持させることによって綿状あるいはシート状の形態を実現してもよい。綿状の形状構成材としては、例えば綿状パルプが挙げられる。
【0035】
本発明のゲル状電解還元水は、酸化還元電位を−600mV以下で、かつ、pHを10以上とすることにより、油脂を含む汚れに浸透して油脂と反応して汚れを水中に分散させる機能が顕著となる。したがって、これは、洗浄剤として好適である。さらに、酸化還元電位を−900mV以下で、pHを12以上とすることにより、上述の洗浄機能に加えて除菌機能が顕著となる。したがって、除菌剤あるいは、洗浄剤および除菌剤として好適である。このように、本発明のゲル状電解還元水は、洗浄剤または除菌剤としての用途、あるいは、洗浄剤および除菌剤として機能する用途に使用できるのである。除菌作用は、硫化水素、メチルメルカプタン等の臭いの発生源を絶つことにもなるので、本発明のゲル状電解還元水からなる除菌剤は消臭剤としても機能するものである。
【0036】
本発明のゲル状電解還元水の好適な用途について具体的に記述すると、第一に、器物洗浄剤が挙げられる。洗浄対象として、冷蔵庫、電子レンジ、ガラス、鏡、床、プラスチック用品、パソコン、キャビネット、電話機、おもちゃ、便座等の多様な器物が挙げられる。
【0037】
第二に、皮膚洗浄剤が挙げられる。人間の皮膚は皮脂、すなわち、弱酸性の油性の分泌物で覆われている。過剰な分泌物あるいはそれに捕捉された老廃物および外来の異物を除去して皮膚を清潔にするために、皮膚洗浄剤が使用されるが、本発明のゲル状電解還元水はこの目的に好適である。前述のように、顕著な洗浄性能を発揮するためには酸化還元電位−600mV以下でpH10以上の強アルカリ性の電解還元水を適用することが好ましく、さらに顕著な除菌性能を併せて発揮するためには酸化還元電位−900mV以下でpH12以上の強アルカリ性の電解還元水を適用することが好ましい。ゲル状電解還元水を皮膚の洗浄目的部位に接触させて手で皮膚に摺り込むと、ゲル状電解還元水を構成する高吸水性高分子が電解還元水を放出して、自身は収縮する。また、この摺り込みにより高吸水性高分子が破損、分裂し、皮脂との接触が容易となり、電解還元水の放出が加速される。これによりゲル状態は消失し、高吸水性高分子の視認は困難となる。放出された電解還元水は皮脂と反応して脂肪酸とグリセリンを生成し、捕捉されていた老廃物および外来の異物、高吸水性高分子粒とともに、油脂および生成物を水中に分散させる。この後、水洗により老廃物、異物、高吸水性高分子粒は分散した油脂および生成物の一部とともに除去される。その一方で、水中に分散した油脂および生成物の残部は油水エマルジョンを構成し、これが皮膚に広がり皮膚に平滑性と湿潤性をもたらす。電解還元水は皮脂との反応の際にマイナスイオンを失い強アルカリ性を失って中性に近い液性の普通の水に戻る。同時に皮膚の除菌が行なわれ、その結果として消臭効果が発現する。
【0038】
第三に、髭剃り剤が挙げられる。髭剃り剤には、髭を剃るに先立って髭に水分を浸透させて柔らかくすること、剃刀の刃先の潤滑機能、さらには皮膚洗浄機能が求められる。本発明のゲル状電解還元水は従来の髭剃り剤の有するこの三つ機能を満足するだけでなく、さらに、皮膚を除菌し、剃刀負けを防止し、さらに、切り傷部の血液の洗浄と止血作用を発現する。この止血作用は、血液は蛋白質系、脂肪系なので、電解還元水は血液と反応してそれを水中に分散させるが、この際、血液の凝固を伴うために起きると理解される。さらに、剃刀の除菌、消臭作用も発現する。この作用は、剃刀は繰り返しの使用よって、付着物が腐敗し臭いを発するので、これを防止するために重要である。このように、本発明のゲル状電解還元水を髭剃り剤に適用すれば、従来の髭剃り剤にはない数々の優れた機能が発揮されるのである。
【0039】
第四に、歯磨き剤が挙げられる。歯磨き剤には、第一義的には、歯の表面、歯間および歯と歯肉の隙間の付着物の除去機能が求められる。さらには、歯または歯肉への細菌の接着により生み出される歯石の形成防止、および、虫歯、歯周病等の発症防止も求められる。これに対して、従来のゲル状歯磨き剤は多数の成分、例えば、合成界面活性剤、清掃剤、湿潤剤、粘結剤、香味剤、防腐剤等から構成される。さらに、薬用成分が加えられることもある。合成界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルグルコシドが挙げられる。清掃剤としては、炭酸カルシウム、燐酸水素カルシウムが挙げられる。湿潤剤としては、例えば、ソルビット液が挙げられる。粘結剤としては、例えば、ハイドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられる。香味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、ハーバルミントタイプの香料が挙げられる。防腐剤としては、パラベンが挙げられる。薬用成分としては、例えば、塩化ベンゼトニウム(殺菌剤)、モノフルオロ燐酸ナトリウムが挙げられる。従来技術においては、このように多数の成分の組み合わせにより必要とされる機能の実現を図ろうとしてきた。
【0040】
しかしながら、従来の歯磨き剤はゲル状の高粘性流体であるため、歯ブラシを使用してそれを歯間あるいは歯と歯肉の隙間に十分に行き渡らせることは困難であり、各種の配合成分が本来有する機能、例えば洗浄、除菌、消臭等は十分に発揮されていない。また、口内、特に舌に対して刺激があるという問題がある。
【0041】
本発明のゲル状電解還元水を歯磨き剤に適用すれば、これらの問題は解決される。ゲル状電解還元水は歯ブラシの毛上あるいは毛間に容易に保持することができる。ゲル状電解還元水を保持した歯ブラシで歯を磨くと、ゲル状電解還元水が歯に付着した油脂と接触し、これによって電解還元水が放出され、これが歯表面の付着物あるいは歯と歯肉の隙間に浸透して付着物を洗浄除去する。さらに、電解還元水は除菌作用を発揮し、その結果、消臭効果が発現する。さらに、電解還元水は歯肉の出血部の血液を凝固させ止血作用を発揮する。歯磨き後は、電解還元水はマイナスイオンを失い強アルカリ性を失って普通の水になる。合成界面活性剤を含む従来の歯磨き剤のように、口内、特に舌への刺激はない。このように、本発明のゲル状電解還元水を歯磨き剤に適用すれば、従来の歯磨き剤では達せられなかった数々の効果が発現するのである。
【0042】
本発明のゲル状電解還元水に固着した汚れを除去する効果を付与すために、研磨剤を加えても良い。研磨剤としては、例えば、シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、第2燐酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第3燐酸マグネシウム、ゼオライト、ベントナイト、スメクタイトが挙げられる。また、香味剤を加えてもよい。
【実施例1】
【0043】
純水を陰極室に配して水の電気分解を行って陰極水として得られる、酸化還元電位−900mV以下、pH12.5の電解還元水を用意した。一方、表1に示すように、高吸水性高分子として3種類を用意した。すなわち、(a)ポリアクリル酸、(b)綿状パルプ混合ポリアクリル酸ナトリウム、(c)ポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)であり、それぞれ粉体状、綿状、粉体状の形態を有する。ここで、(b)綿状パルプ混合ポリアクリル酸ナトリウムは綿状パルプを形状構成材として、これに粒状のポリアクリル酸ナトリウムを分散させたものである。
【0044】
所定量の高吸水性高分子を容器に入れ所定量の電解還元水を加えてスパチュラーを用いて攪拌し吸水を完成させ、ゲル状電解還元水を得た。各々の吸水倍率は(a)110、(b)100、(c)70である。(a)のゲル状電解還元水はゲル表面の凹凸が顕著であり、(b)のゲル状電解還元水は綿を構成する繊維の絡まりによりゲルの自立性が顕著であり、(c)のゲル状電解還元水はゲル表面が比較的平滑であることが特徴として挙げられる。この3種類のゲル状電解還元水をそれぞれ出口径4mmのチューブ状容器に充填した。
【0045】
グリースを塗布したステンレス鋼板(縦100mm×横100mm×厚さ0.5mm)を垂直にしてこれに、チューブ状容器からゲル状電解還元水約1ccを搾り出して鉄板に載せ、ナイロン不織布を使用して鉄板に摺込んだ。摺込む過程でゲル構成粒子の収縮と分裂および電解還元水の放出が確認された。そして30秒後にはゲル構成粒子の視認は困難となり、電解還元水の放出は完了した。(a)、(c)の場合には、グリースおよび微細化した高吸水性高分子はナイロン不織布に移動し、グリースの無い清浄な鋼板が得られた。(b)の場合には、グリースの無い清浄な鋼板が得られたが、電解還元水を放出し終えた高吸水性高分子は薄膜状となってナイロン不織布にからめとられたことが特徴的である。
【0046】
以上のように、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)について、ゲル状電解還元水は垂直に保持した鉄板に付着できる付着力を有すること、油脂との接触により電解還元水を放出すること、放出された電解還元水は前述のように油脂に対して優れた洗浄力を発揮することが明らかとなった。
【0047】
【表1】

【実施例2】
【0048】
さらに器物洗浄剤での実施例を示す。表1に示すように、粉体状のポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)を使用して電解還元水の吸水倍率(d)50、(e)30の2条件で実施例1と同様に実施した。その結果、吸水倍率を50、30と低下させるに従ってゲル状電解還元水は流動性が低下したが、鋼板への付着力は維持していること、油脂との接触により電解還元水を放出すること、放出された電解還元水は油脂に対して優れた洗浄力を発揮することが明らかとなった。
【0049】
比較例として、さらに吸水倍率(f)25の条件で実施例1と同様に実施した。その結果、垂直に保持した鋼板には付着できないことがわかった。すなわち、ゲル状電解還元水が十分な付着力を獲得するには、吸水倍率30以上とすることが必要であることがわかった。
【実施例3】
【0050】
皮膚洗浄剤での実施例を示す。実施例1(c)と同様に、粉体状のポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)、吸水倍率70のゲル状電解還元水を製造しチューブ状容器に充填した。
【0051】
チューブ状容器から手に約1ccのゲル状電解還元水を搾り出し、顔面に摺込んだ。これによりゲルを構成する高吸水性高分子の粒子の収縮と分裂および電解還元水の放出を進行させた。そして、この摺込みを粒の存在が視認できなくなるまで継続した。その後、水洗したところ、電解還元水と皮脂との反応によって生成した油水エマルジョンによる肌の平滑感と湿潤感が得られた。
【実施例4】
【0052】
髭剃り剤での実施例を示す。実施例1(c)に記述した高吸水性高分子として粉体状のポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)、吸水倍率70のゲル状電解還元水を製造しチューブ状容器に充填した。
【0053】
チューブ状容器から手に約1ccのゲル状電解還元水を搾り出し、髭面に摺込んだ。これによりゲル構成粒子の収縮と分裂および電解還元水の放出を進行させた。この摺込みを粒の存在が視認できなくなるまで継続した。次いで、T型剃刀を使用して、髭を剃り、剃り跡を水洗した。この結果、電解還元水の髭への浸透による髭の軟化と、皮脂との反応によって生成した油水エマルジョンの潤滑機能による快適な剃り心地と、この油水エマルジョンによる肌の平滑感と湿潤感とが得られた。
【0054】
また、夏季の高温多湿期の14日間、一日一回上記の手順で髭剃りを行ない、その後、T型剃刀を水中で浸け洗いした。残留物があったがT型剃刀から異臭は発生しなかった。従来は浸け洗いだけでは異臭の発生は避けられなかった。この相違は、電解還元水の除菌作用によって異臭の元となる菌が排除されて、消臭効果が発現したことによると解釈される。
【実施例5】
【0055】
実施例4と同様に、ゲル状電解還元水を製造しチューブ状容器に充填した。同じく、チューブ状容器から手に約1ccのゲル状電解還元水を搾り出し、髭面に摺込み、高吸水性高分子の粒が収縮、分裂し、粒が視認できなくなるまで継続した。T型剃刀を使用して髭を剃ったが、顎部で逆剃りすることにより切り傷を発生させた。しかし、出血はほとんどないまま自然止血した。血液は蛋白質系、脂肪系の被洗浄物であり、電解還元水と反応して水中へ分散、乳化されるが、この際、血液の凝固を伴い、止血作用が発現したと考えられる。
【0056】
このように、本発明のゲル状電解還元水の髭剃り剤は、止血作用を有することが特徴的である。
【実施例6】
【0057】
歯磨き剤での実施例を示す。実施例1(c)に記述した高吸水率高分子として粒状のポリ(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸ナトリウム)、吸水倍率70のゲル状電解還元水を製造しチューブ状容器に充填した。
【0058】
チューブ状容器から約1ccのゲル状電解還元水を搾り出して、毛上と毛間に跨って歯ブラシに取った。通常の方法で歯および歯に跨るように歯肉を磨き、口内に溜まった液を吐き出して、口を漱いだ。検査のため、綿棒により歯表面を拭いたが残留物の付着はなく、歯表面の付着物はこの歯磨きにより極めて良く除去されていることがわかった。歯磨き中、従来の歯磨き剤で起きる口内、特に舌への刺激はなかった。吐液中には視認できる大きさの高吸水性高分子の粒は認められず、高吸水性高分子は歯磨きの過程で電解還元水を十分に放出したと判断された。
【0059】
この歯磨きを30日間にわたって、一日一回継続した。従来の歯磨き剤を使用していたときには吐液に赤い血液の混入が見られたが、上述の歯磨き剤使用初回には、吐液は水中に分散した血液に由来する黄色を呈しており、歯磨きに伴う歯肉からの出血は、本発明のゲル状電解還元水を歯磨き剤に使用しても受継がれたことがわかった。しかし、15日目の歯磨きからは吐液に着色が見られず、すなわち、これ以降、歯磨き時の出血は見られなくなった。同時期に、口臭も消えた。
【0060】
また、この30日間には、歯ブラシの毛に変色は見られず、電解還元水による歯ブラシの除菌、さらに、その結果として消臭が図られていると判断された。ちなみに、従来の歯磨き剤を使用していたときには、歯ブラシの毛の根元部にくすみが生じていた。
【0061】
以上のように、本発明のゲル状電解還元水を歯磨き剤に適用すると、歯の洗浄、除菌、口臭の解消、歯ブラシの除菌、消臭の諸効果が発現することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性高分子中に電解還元水を吸蔵せしめたことを特徴とするゲル状電解還元水。
【請求項2】
電解還元水の酸化還元電位が−600mV以下で、pHが10以上であることを特徴とする請求項1に記載のゲル状電解還元水。
【請求項3】
電解還元水の酸化還元電位が−900mV以下で、pHが12以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル状電解還元水。
【請求項4】
吸水倍率が電解還元水と高吸水性高分子の重量比で30以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水。
【請求項5】
高吸水性高分子が、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩およびポリ(アクリル酸/アクリル酸塩/2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩)からなる群から選ばれる1種または2種以上の重合体により構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水。
【請求項6】
洗浄剤または除菌剤あるいは洗浄剤および除菌剤として使用されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水。
【請求項7】
器物洗浄剤、皮膚洗浄剤、髭剃り剤または歯磨き剤として使用されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゲル状電解還元水。

【公開番号】特開2007−209965(P2007−209965A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58618(P2006−58618)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(506074923)
【Fターム(参考)】