説明

ゲル粒子測定装置

【課題】ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル粒子の生成開始時点を現象の発生する溶媒中で光減衰を最小限に抑えて高感度に計測する。
【解決手段】試料S及び試薬Rが含まれる溶液を収容する試料セル1と、混合溶液Wを撹拌する撹拌手段2と、混合溶液Wに対してコヒーレントな光Bmを照射させる入射光源3と、試料セル1の外部で入射光源3と同じ側に設けられ、試料セル1内の混合溶液W中で散乱した光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段4と、後方散乱光検出手段4の検出出力に基づいて後方散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段5と、散乱光変動計測手段5の計測結果に基づいて混合溶液Wがゾル相からゲル相に相変化するタイミングにつながるゲル粒子の生成開始時点が少なくとも含まれるゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化反応によって測定対象の試料中のエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置に係り、特に、ゲル粒子が出現し始める時点を高感度に測定することを企図したゲル粒子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(内毒素)と呼ばれるものは、主としてグラム染色に染まらない(グラム陰性)細菌類の菌体の膜成分の一部で、その成分はリポポリサッカライドと呼ばれる脂質多糖類、具体的には、リピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質と多糖鎖が2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)を介して結合したリポ多糖(LPS)であるが、そこに含まれるリピドA(Lipid A)と呼ばれる脂質構造部分が、感染により人の体内に入ったときに細胞の受容体と結合して炎症を引き起こし、多くの場合様々な重篤な臨床症状を引き起こす。このように、エンドトキシンは、人において敗血症や菌血症という致死率の非常に高い臨床症状の原因となる物質であるため、体内に入ったエンドトキシンの推定をすることは臨床的に要求の高いことである。
また、医薬品(注射剤等)や医療用具(血管カテーテル等)はエンドトキシンによる汚染がないこと(パイロジェンフリー)が重要であり、細菌を用いて調製した医薬品(組み換えタンパク質、遺伝子治療に用いるDNA等)や食品添加物・化粧品などではエンドトキシンを適正に除去または制御することが不可欠になっている。
【0003】
このエンドトキシンの除去確認、あるいは救急医学における計測は、測定試料数の多さばかりでなく、救命治療という目的にかなった迅速性が求められている。
敗血症などの治療のため、エンドトキシン値を計ろうとする研究は古くよりなされ、カブトガニ(Limulus)のアメーバ状血球成分に含まれる因子群が、エンドトキシンに特異的に反応し、凝集塊となって傷口をふさぐという現象が発見されてから、このリムルスの水解物(Limulus Amebocyte Lysate;LAL試薬又はリムルス試薬)を用いてエンドトキシンの定量をする試みがなされている。
【0004】
最初にリムルス試薬を使った測定法は、単に試料となる患者の血漿を混合して静置し、一定時間後に転倒して混合溶液のゲル化の有無を溶液が固まることで確認し、ゲル化を起こすための最大希釈率でエンドトキシン量を推定する所謂ゲル化法と呼ばれる半定量の測定法であった。
その後、ゲル化反応の過程における濁度増加に着目し、光学的な計測方法を用いた濁度計で、精置した混合溶液のゲル化反応に伴う濁度変化によりエンドトキシン濃度を定量測定する比濁時間分析法が知られている。
また、リムルス試薬による反応過程の最終段階でコアギュロゲン(Coagulogen)がコアグリン(Coagulin)に転換するゲル化反応を合成基質の発色反応に置き換えた発色合成基質法も既に知られている。これは、凝固過程における凝固前駆物質(コアギュロゲン:Coagulogen)の代わりに発色合成基質(Boc-Leu-Gly-Arg-p-ニトロアリニド)を加えることにより、その加水分解でp-ニトロアニリンが遊離され、その黄色発色の比色によりエンドトキシン濃度を測定するものである。
【0005】
更に、従来におけるゲル化反応測定装置若しくはこれに関連する測定装置としては、例えば特許文献1〜3に示すものが挙げられる。
特許文献1は、ゲル化反応測定装置に関するものではないが、血中の血小板が凝集して塊として成長する過程につき、血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものであり、試料セル内の試料に対してレーザ光源からの照射光を照射させ、血小板で90度側方に散乱した散乱光の一部を光検出器にて検出し、この検出結果に基づいて血小板の凝集塊の大きさ、数を測定するものである。
また、特許文献2は、比濁時間分析法を用いたゲル化反応測定装置に関するものであり、検体(試料)とリムルス試薬とを混合させた混合液の透過光強度の経時変化を測定し、所定時間における変化量から検体のエンドトキシン濃度を測定するものである。
更に、特許文献3は、ゲル化反応により測定されるエンドトキシン等の物質の濃度を測定するゲル化測定装置に関するものであり、試料セル中で生成する個々のゲル粒子のレーザ光束による散乱光を受光する受光素子と、前記受光素子の散乱光検出出力に基づき、ゲル粒子の径と数を時系列的に計測する計測手段とを有するものである。
特許文献1〜3はいずれも、レーザ光源からの照射光のうち試料セル内で散乱した光のうち、レーザ光源の設置された側とは異なる側、例えばレーザ光源とは反対側の前方に向かって透過した前方散乱光、あるいは、レーザ光源に対して側方に向かって散乱した側方散乱光を検出し、この検出結果に基づいて測定対象である血小板の凝集塊やエンドトキシン濃度を測定しようとするものである。
【0006】
更に、ゲル化反応を利用した測定技術は、前述したエンドトキシンのみならず、β−D−グルカン(β−D−glucan)などの測定にも利用される。
β−D−グルカン(β−D−glucan)は真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。このβ−D−グルカンを測定することにより、カンジダやアスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、まれな真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどで有効である。
このβ−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによってゲル化することが利用されており、上述したゲル化法や比濁時間分析法、発色合成基質法によって測定される。
エンドトキシンやβ−D−グルカンの測定手法には共通点があり、例えば略同様の測定ハードウェアを用い、カブトガニの血球抽出成分中からβ−D−グルカン特異的に反応するFactor G成分を除くことによりエンドトキシンに選択的なゲル化反応や発色反応が測定でき、また、試料中のエンドトキシンに前処理により不活性化することにより、β−D−グルカンに選択的なゲル化反応や発色反応を測定することが可能である。
【0007】
【特許文献1】特許第3199850号公報(実施例,図1)
【特許文献2】特開2004−93536号公報(発明の実施の形態,図3)
【特許文献3】国際公開WO2008/038329号(発明を実施するための最良の形態,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のゲル化法、比濁時間分析法及び発色合成基質法にあっては、次のような不具合がある。
ゲル化法及び比濁時間分析法は、いずれもゲルが生成するのに低濃度では約90分以上という長時間を要する。すなわち、反応溶液のゲル化時間は、測定対象の試料中の目的物質の濃度に比例するが、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に感度の点から正確なゲル化開始時間などが検出できないため、ある程度のゲル化が進行するまでの時間から反応量を算出してゲル化時間の目安としている。
例えば比濁時間分析法を例に挙げると、比濁時間分析法は、試薬の調製により変化の始まる最初の濃度レベルの濁度と変化の行き着く濃度レベルの濁度については分かるが、夫々の変化の始まる時間や終わりの時間が分かり難く、最初と最後のレベルの間の一定レベルの変化到達(濁度の増加)を測ることで、ゲル化全体の変化観察に換えるということで定量法として確立されたものである。しかし、低濃度のエンドトキシンになると、系全体のゲル化が遷延し、それにつれて観測する濁度変化も遅くなることから測り難くなり、その分、感度が必然的に鈍くなってしまう。
従って、ゲル化法及び比濁時間分析法は共に救急を要する場合や多数の検体を測定するのに適した方法とは言い難い。更に、比濁時間分析法ではエンドトキシンとは無関係の非特異的濁りが生ずることがあり、測定精度に欠ける懸念がある。また、ゲル化法の測定限界濃度は3pg/ml、比濁時間分析法の測定限界濃度は1pg/ml程度である。
尚、ゲル化反応測定装置に適用される比濁時間分析法として、仮に特許文献1に示す散乱測光法を適用したとしても、ゲル化全体の変化観察に換えた定量法である以上、上述した問題は解決し得ない。
一方、発色合成基質法はゲル化法及び比濁時間分析法に比べて測定時間が約30分程度と短時間であるが、臨床試料など天然物における測定では、混在する非特異的蛋白分解酵素による偽陽性反応が生ずる場合があり、特異度の高い測定を行うことが難しく、また、測定準備が煩雑であり、測定限界濃度も3pg/mlと比濁時間分析法に劣る。
【0009】
本発明は、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、ゲル粒子の生成開始時点を現象の発生する溶媒中で光減衰を最小限に抑えて高感度に計測することができるゲル粒子測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、少なくとも一部に光が入射される入射部を有し、測定対象である目的物質が含まれる試料及び前記目的物質のゲル化を生ずる試薬が含まれる溶液を収容する試料セルと、この試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌手段と、前記試料セルの入射部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させる入射光源と、前記試料セルの入射部の外部で前記入射光源と同じ側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液中で散乱した光のうち前記入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段と、この後方散乱光検出手段の検出出力に基づいて散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段と、この散乱光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液がゾル相からゲル相へ相変化する時点につながる前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点が少なくとも含まれるゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項2に係る発明は、請求項1に係るゲル粒子測定装置において、入射光源はレーザ光源であることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係るゲル粒子測定装置において、試料セルは、セル容器内に試料及び試薬溶液が直接撹拌可能な撹拌手段を内蔵したものであることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれかに係るゲル粒子測定装置において、試料セルは恒温槽内に設けられることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、試料セルは、それ自体又はその周囲に、入射光源からの照射光のうち前記混合溶液中で入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分以外の透過又は散乱で生じる迷光成分が除去させられる迷光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、ゲル粒子生成判別手段による判別結果が表示される表示手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6いずれかに係るゲル粒子測定装置において、後方散乱光検出手段は、入射光源から試料セルに入射される入射光を囲繞するリング状検出面を有することを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項8に係る発明は、請求項1乃至6いずれかに係るゲル粒子測定装置において、後方散乱光検出手段は、入射光源から試料セルに入射される入射光を囲繞する光透過性繊維束からなる導光部材を有し、この導光部材の一端を光導入面として機能させると共に、前記導光部材の他端に対応して検出面を配置するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、前記混合溶液内で散乱した光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段である第1の散乱光検出手段と、前記混合溶液内で散乱した光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分以外の散乱光成分を検出する第2の散乱光検出手段と、これらの後方散乱光検出手段による検出出力に基づいて夫々の散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段とを有し、前記ゲル粒子生成判別手段は、第1の散乱光検出手段の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点を判別し、第1の散乱光検出手段及び第2の散乱光検出手段の検出出力又は第2の散乱光検出手段の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点以外のゲル粒子の生成状態情報を判別することを特徴とするゲル粒子測定装置である。
請求項10に係る発明は、請求項1乃至9いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、測定対象である目的物質がエンドトキシンであり、これをゲル化する試薬がリムルス試薬であることを特徴とするゲル粒子測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ゲル化反応により試料中の目的物質を測定するに当たり、試料及び試薬溶液からなる混合溶液で散乱する散乱光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光の変動成分に基づいて前記混合溶液がゾル相からゲル相へ相変化する時点につながるゲル粒子の生成開始時点を現象の発生する溶媒中で光減衰を最小限に抑えて高感度に測定することができる。
請求項2に係る発明によれば、入射光源を簡単に提供することができる。
請求項3に係る発明によれば、試料及び試薬溶液をより確実に撹拌することができ、ゲル粒子の生成条件を揃えることができる。
請求項4に係る発明によれば、恒温環境下でゲル化反応を安定的に進行させることができる。
請求項5に係る発明によれば、後方散乱光検出手段にて後方散乱光成分以外の透過又は散乱で生じる迷光成分が誤検出される事態を有効に回避することができる。
請求項6に係る発明によれば、ゲル粒子生成判別手段の判別結果を目視することができる。
請求項7に係る発明によれば、後方散乱光検出手段による後方散乱成分の検出精度をより向上させることができる。
請求項8に係る発明によれば、簡単な構成の後方散乱光検出手段にて後方散乱光成分を効率的に検出することができる。
請求項9に係る発明によれば、第2の散乱光検出手段を用いない態様に比べて、後方散乱光の変動成分に加えて、後方散乱光以外の散乱光の変動成分をも計測可能であることから、混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点に加えて他のゲル粒子の生成状態情報をより正確に判別することができる。
請求項10に係る発明によれば、エンドトキシンの定量に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】は本発明が適用されるゲル粒子測定装置の実施の形態の概要を示す説明図である。
【図2】(a)はゲル化反応を模式的に示す説明図、(b)はゲル化反応の進行工程I〜IIIを示す説明図、(c)はゲル化反応の進行工程における反応時間と散乱光強度との関係を示す説明図である。
【図3】リムルス試薬を用いた際のエンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)はゲル粒子にコヒーレント光が照射されたときの散乱光の散乱方向を示す説明図、(b)はゲル粒子の粒子径の変化に伴う散乱光の光度分布を示す説明図である。
【図5】実施の形態1に係るゲル粒子測定装置を示す説明図である。
【図6】(a)は実施の形態1で用いられるレーザ光源、後方散乱光検出器の構成例を示す説明図、(b)は(a)の一部断面平面説明図である。
【図7】(a)は実施の形態1で用いられる試料セルを示す分解斜視図、(b)はその断面説明図である。
【図8】実施の形態1に係るゲル粒子測定装置のデータ解析処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】(a)は既知のエンドトキシン濃度の試料に対して後方散乱測光によるゲル粒子の検出例を示す説明図、(b)は(a)の結果を用いた検量線作成例を示す説明図である。
【図10】(a)(b)は実施の形態1に係るゲル粒子測定装置の変形形態を示す説明図である。
【図11】実施の形態2に係るゲル粒子測定装置を示す説明図である。
【図12】(a)は標準品エンドトキシンを加えた水試料に対し、実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(b)は(a)と同様な標準品エンドトキシンを加えた水試料に対し、比較例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(c)は(a)と同様な標準品エンドトキシンを加えた水試料に対し、比較例2に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方透過光の実測データ例を示す説明図である。
【図13】(a)は臨床の全血溶血試料に標準品のエンドトキシンを加えた試料に対し、実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(b)は(a)と同様な臨床の全血溶血試料に標準品のエンドトキシンを加えた試料に対し、比較例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(c)は(a)と同様な臨床の全血溶血試料に標準品のエンドトキシンを加えた試料に対し、比較例2に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方透過光の実測データ例を示す説明図である。
【図14】(a)は臨床の全血溶血試料に対し、実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(b)は(a)と同様な臨床の全血溶血試料に対し、比較例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方散乱測光した実測データ例を示す説明図、(c)は(a)と同様な臨床の全血溶血試料に対し、比較例2に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光と同時に前方透過光の実測データ例を示す説明図である。
【図15】(a)は実施例1に係るゲル粒子測定装置を用いて後方散乱測光の実測データ例を示す説明図、(b)は(a)の実測データにつき3データ毎にスムージング処理したデータ例を示す説明図、(c)は(a)の実測データにつき5データ毎にスムージング処理したデータ例を示す説明図である。
【図16】血液凝固反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【図17】(a)(b)は抗原抗体反応での本件発明の適用例を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
◎実施の形態の概要
図1は本発明が適用された実施の形態に係るゲル粒子測定装置の概要を示す説明図である。
同図において、ゲル粒子測定装置は、ゲル化反応によって試料S中の目的物質を粒子化して測定するものであって、少なくとも一部に光が入射される入射部を有し、測定対象である目的物質が含まれる試料S及び前記目的物質のゲル化を生ずる試薬Rが含まれる溶液を収容する試料セル1と、この試料セル1内の試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液Wを撹拌する撹拌手段2と、前記試料セル1の入射部の外部に設けられ、前記試料セル1内の試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液Wに対してコヒーレントな光Bmを照射させる入射光源3と、前記試料セル1の入射部の外部で前記入射光源3と同じ側に設けられ、前記試料セル1内の試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液W中で散乱した光のうち前記入射光源3側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段4と、この後方散乱光検出手段4の検出出力に基づいて散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段5と、この散乱光変動計測手段5の計測結果に基づいて前記混合溶液Wがゾル相からゲル相へ相変化する時点につながる前記混合溶液W内のゲル粒子Gの生成開始時点が少なくとも含まれるゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段6とを備えたものである。
【0015】
このような技術的手段において、本件の目的物質は、所定の試薬との間でゲル化反応し、ゲル粒子が生成されるものであれば広く含む。例えばエンドトキシンやβ−D−グルカンが挙げられ、この場合の所定の試薬としてはリムルス試薬が挙げられる。
また、試料セル1は、少なくとも一部に光が入射される入射部を有するものであればよく、その形状は円筒状周壁を有するものに限られず、多角形状周壁を有するものでもよい。
尚、入射部から入射された光のうち後方散乱光検出手段4側の方向に戻る後方散乱光以外の散乱光、透過光などの光が試料セル1の内壁で反射散乱すると、その反射散乱光の一部が迷光として後方散乱光検出手段4に誤って捕捉される懸念があるため、このような検出に影響する迷光が生じない構成を採用することが好ましい。
また、測定条件を一定に保つという観点からすれば、この試料セル1は恒温槽7内に設けられる態様が好ましい。
更に、撹拌手段2としては、試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液Wに対して撹拌作用を与えるものであれば広く含み、内蔵して直接的に撹拌する態様は勿論のこと、エアによる撹拌作用を与えたり、振盪による撹拌作用を与えるなど適宜選定して差し支えない。
ここで、撹拌手段2の撹拌の程度は、試料セル1内の試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するものであることを要する。
特に、撹拌手段2による撹拌動作を確実に行うという観点からすれば、試料セル1は、セル容器内に試料S及び試薬R溶液からなる混合溶液Wが直接撹拌可能な撹拌手段2を内蔵したものであることが好ましい。
更にまた、入射光源3はコヒーレントな光を照射するものであればレーザ光源によるレーザ光に限られず、例えばナトリウムランプの光のような単色光をピンホールに通すことによっても作成可能であるほか、高輝度LEDとフィルタとを用いて構成してもよい。
【0016】
また、後方散乱光検出手段4としては、入射光源3から試料セル1内に入射された光Bmで試料S及び試薬R溶液中で散乱した光のうち入射光源3側の方向に戻る後方散乱光成分を検出するものであればよい。この場合、後方散乱光検出手段4としては、入射光源3からの入射光の周りで前記後方散乱光成分を直接検出する態様でもよいし、あるいは、入射光源3からの入射光の周りの光を集め、グラスファイバ等の導光部材にて任意の場所まで導いて検出する態様でもよい。また、入射光源3から入射された光で混合溶液W中にて入射光源3側の方向に戻らない透過光又は散乱光成分が迷光として後方散乱光検出手段4に検出されないように、迷光成分を除去する迷光除去手段8(試料セル1の周壁内又は外部に光吸収材を設けたり、試料乱反射させる構造)を採用することが好ましい。
更に、散乱光変動計測手段5としては、後方散乱光検出手段4の検出出力に基づいて散乱光の変動成分を計測するものであればよく、例えば検出出力を平均化又はスムージングすると共にフィルタリング化する手法が挙げられる。
【0017】
更にまた、ゲル粒子生成判別手段6としては、前記混合溶液Wがゾル相からゲル相へ相変化するタイミングにつながる前記混合溶液W内のゲル粒子の生成開始時点が少なくとも含まれるゲル粒子の生成状態を判別するものを広く含む。
そして、「ゲル粒子の生成状態を判別する」とは、ゲル粒子の生成状態に関する情報を直接判別することは勿論、ゲル粒子の生成状態に基づいて判別可能な情報(例えば目的物質の定量情報)を判別することをも含むものである。
ここで、ゲル粒子の生成状態とは、ゲル粒子の生成開始(出現)時点、生成過程の変化、生成終了時点、生成量などを広く含むものであるため、本件では、前記混合溶液Wがゾル相からゲル相へ相変化するタイミングが少なくとも含まれていれば、他の事項を含んでいても差し支えない。
更にまた、散乱光変動計測手段5による計測結果を目視するという観点からすれば、散乱光変動計測手段5による計測結果が表示される表示手段9を備えていることが好ましい。
【0018】
更に、本実施の形態では、上述した後方散乱光検出手段4を第1の散乱光検出手段とし、更に、前記混合溶液W内で散乱した光のうち入射光源3側の方向に戻る後方散乱光成分以外の散乱光成分を検出する第2の散乱光検出手段10と、これらの後方散乱光検出手段4,10による検出出力に基づいて夫々の散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段5とを有し、前記ゲル粒子生成判別手段6は、第1の散乱光検出手段4の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子Gの生成開始時点を判別し、第1の散乱光検出手段4及び第2の散乱光検出手段10の検出出力又は第2の散乱光検出手段10の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液W内のゲル粒子Gの生成開始時点以外のゲル粒子Gの生成状態情報を判別するようにしてもよい。
【0019】
次に、図1に示すゲル粒子測定装置の作動について説明する。
先ず、ゲル化反応を図2(a)に模式的に示す。
同図において、試料Sの目的物質Stに対し特異的に反応する試薬Rが存在すると、試料S中の目的物質Stの濃度に依存した割合にて、その目的物質Stが試薬Rと特異的に反応する現象が起こる。この反応過程において、試薬Rは、目的物質Stの刺激を受けて所定の因子が活性化し、これに起因して所定の酵素が活性化するタイミングで例えば水溶性のタンパク質が酵素による分解反応にて不溶性のタンパク質に転換し、ゲル粒子Gの出現に至ることが起こる。
より具体的には、エンドトキシンを例に挙げて、エンドトキシンのゲル化反応過程を模式的に示すと、図3の通りである。
同図において、(1)に示すエンドトキシンの刺激がリムルス試薬に伝わると、先ず(2)に示すように、因子C(Factor C)が活性化されて活性化因子C(Activated Factor C)となり、次いで、活性化因子Cの作用により、(3)に示すように、因子B(Factor B)が活性化されて活性化因子B(Activated Factor B)になる。この後、活性化因子Bの作用により、(4)に示すように、Pro-Clotting酵素がClotting酵素になり、(5)に示すように、このClotting酵素がCoagulogen(水溶性タンパク質)を分解してCoagulin(不溶性タンパク質)に生成する。このCoagulin(不溶性タンパク質)は、この条件下で攪拌が行われると全体のゲル化が阻害されるに伴ってゲル粒子Gとして出現し、一方ここで静置すると(6)に示すように、溶液系全体が重合化・ゲル化を起こす。
【0020】
つまり、試料Sの目的物質Stがエンドトキシンである場合には、混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与えることで混合溶液W全体のゲル化を阻害しつつ、この状態で、リムルス試薬Rにエンドトキシンの刺激が伝わると、Clotting酵素の周りにCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gを産出させることが可能であり、Coagulin(不溶性タンパク質)がゲル粒子Gとして生成された後に、ゲル粒子Gが順次生成される反応過程を経ることが理解される。
また、リムルス試薬Rの反応の流れ(カスケード)にエンドトキシンの刺激が伝わる速度(リムルス反応速度)はエンドトキシン濃度に依存的であり、エンドトキシン濃度が高い程リムルス反応速度が速く、Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングが早いことが見出された。
よって、散乱光変化を精度良く検出するようにすれば、ゲル粒子Gの生成開始時点として前記Coagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの出現タイミングを把握することは可能であり、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の測定原理の基本である。
このようなゲル粒子測定装置の測定原理は、例えば従前のゲル化法や比濁時間分析法の測定原理(リムルス試薬Rによる反応過程において、静置した条件下、活性化されたClotting酵素の影響で最終的にゲル化するに至り、このゲル化する過程を濁度により定量測定する態様)とは全く相違するものである。
【0021】
ここで、ゲル粒子測定装置の測定原理を図2(b)に模式的に示す。
本実施の形態のゲル粒子測定装置では、図2(b)の工程Iに示すように、試料S及び試薬R溶液の混合溶液Wにゲル粒子がない場合(混合溶液Wがゾル相である場合に相当)には、図示外の入射光源から照射光Bmはゲル粒子によって遮られることがないため、その照射光Bmがゲル粒子によって散乱することはなく、当然ながら入射光源3側の後方に戻る後方散乱光成分はない。このため、後方散乱光検出手段4にて検出される散乱光強度は略0に保たれる(図2(c)I工程P参照)。
そして、図2(b)の工程IIに示すように、試料S及び試薬R溶液の混合溶液Wにゲル粒子Gが生成開始し始めた場合(混合溶液Wがゾル相からゲル相へ相変化し始めた場合に相当)、例えばエンドトキシンの場合のCoagulin(不溶性タンパク質)のゲル粒子Gが産出し始めると、図示外の入射光源から照射光Bmは産出されたCoagulin(不溶性タンパク質)からなるゲル粒子Gの存在によって一部遮られるため、その照射光Bmが散乱することになり、その散乱光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分が後方散乱光検出手段4に検出されることになる。このため、後方散乱光検出手段4による検出出力が安定領域である0レベルから立ち上がり変化しようとする(図2(c)II工程P参照)。この場合、入射光の当たる試料セル1直後の後方散乱光は、溶媒による減衰をほとんど受けずに検出される。
この後、図2(b)の工程IIIに示すように、試料S及び試薬R溶液の混合溶液Wにゲル粒子Gの生成が次第に進行していく場合には、図示外の入射光源から照射光Bmは順次生成される多くのゲル粒子Gの存在によって散乱度合が次第に増加することになり、後方散乱光検出手段4に検出される入射光源側の後方に戻る後方散乱光成分も次第に増加する。このため、後方散乱光検出手段4による検出出力が順次増加していき、後方散乱光検出手段4にて検出される散乱光強度は変化点Pを境に順次立ち上がり変化していく(図2(c)III工程P参照)。一方、ある程度強度が増加すれば、前方や側方散乱も、溶媒による減衰以上に強度が上がり検出されるようになる。しかし初期の散乱は減衰により検出されず、試料セル1直後での後方散乱検出に遅れる。
上述した実施の形態では、混合溶液W中に照射された照射光Bmの後方散乱光の変動成分に基づいて、他方向の散乱に比べて有意に早く混合溶液Wがゾル相からゲル相へ相変化するタイミングにつながるゲル粒子の生成開始時点(図2(b)II工程Pに相当)を判別する態様が示されている。
【0022】
一般に、臨床試料におけるエンドトキシン測定の要請は、特に救命救急という目的の下では、簡便で・早く測れることが第一に求められるゆえんである。
従来法の比濁時間法で問題になっていた事項である‘感度の悪さによる測り落とし’と、‘測定時間の長さによる不便さ’は、上述した測定方式でより確実に解消される。
つまり、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置は、原理的に、均一に試料及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを攪拌することで、均一な反応の下、混合溶液系全体としてではなく、局所での微小なゲル粒子を発生させ、それをレーザ光のようなコヒーレントな均一の光を当てることで散乱を起こさせ、それを検出することにより、エンドトキシンが加わったことによるゲル粒子の出現というゾル相からゲル相への相変化につながる相変化点を検出し、その相変化点に至るまでの時間を測ることにより、リムルス試薬におけるエンドトキシンの量を推量することが可能になるものである。
要約すれば、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置は、混合溶液系全体の変化(ゲル化)を追うことなく、相変化を起こすまでのタイミング(ゲル粒子の生成開始時点)がエンドトキシンに依存的な反応であることに着眼して構成されたものであり、これにより、従来法の比濁時間法に比べて、エンドトキシンを早く検出することができるゆえんである。
【0023】
特に、本実施の形態では、散乱光のうち入射光源側の後方に戻る後方散乱光成分に着眼しているが、この理由は以下の通りである。
一般に、図4(a)に示すように、粒子に例えばレーザ光等のコヒーレントな均一の光(コヒーレント光)が照射されたモデルを想定すると、コヒーレント光は粒子の存在によって散乱することは広く知られている。このような散乱現象において、粒子の大きさと散乱光の関係とについて調べたところ、単一光の入射によって生じる散乱光の強さ及び方向性は例えば図4(b)に示すような関係が見られる。同図において、散乱現象としては、粒子に対して入射した光と同方向に発生する前方散乱、入射した光と直角方向に発生する側方散乱、そして入射光と反対の方向に発生する後方散乱がある。
このような散乱現象においては、発生するエネルギはさておき、粒子の大きさと散乱の方向を考えると、粒子が大きくなるほど前方散乱が主になり、粒子が小さいと後方散乱を含めた全方位への散乱が観察される。このような観察結果からすれば、大きな粒子を捉えるには前方散乱が有利と言える。一方、無の状態から発生し、成長するという現象の下、最初に発生する小さな粒子を早く捉えるためには、どの方向でもよいとはいえるが、エネルギが小さいことを考えると、粒子の存在する溶媒中における散乱光の減衰を考慮したときには、その減衰の少ない(溶媒の影響による吸収の少ない)後方散乱が適していると考えられる。
とりわけ、本実施の形態でのゲル粒子測定装置は、無から生成する粒子(ゲル化という相変位)を捉えるため、なるべく早く発生する微小な粒子を検出するという目的に、試料セル直後での後方散乱によるゲル粒子検出は他のいかなる方向の散乱検出よりも優っているものと推測される。
このように、リムルス試薬による相変化によって出現する微小粒子を、早く感度よく検出することを目的として、後方散乱による検出方式を採用することで前記相変化のタイミングをより測ろうとするものである。
要するに、微小粒子出現により発生する散乱光のうち後方散乱光成分を検出する方式は、小さな粒子を早く検出できることと、粒子の浮遊する溶媒による減衰無く散乱光を検出することができることの2つが優れている点である。また、入射光源からの入射光が通過する光路を基本的に設定する必要のないことから、装置の機構もより簡単なものにすることが出来ることも優れている点の1つである。
【0024】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明をより詳細に説明する。
◎実施の形態1
本実施の形態1に係るゲル粒子測定装置は、エンドトキシンを含む試料が注入される試料セル100を有し、例えば試料の目的物質としてのエンドトキシンの濃度をリムルス試薬を用いたゲル化反応にて測定するものである。
−ゲル粒子測定装置−
本実施の形態において、ゲル粒子測定装置は図5に示すように構成されている。
同図において、試料セル100は、予め決められた測定ステージに設置されるが、本実施の形態では、恒温槽115内に配置されて試料S及び試薬(図示せず)からなる混合溶液Wを一定の恒温環境(例えば37℃)下におき、測定条件を一定にするようになっている。
また、符号120は試料セル100内の混合溶液Wを撹拌するために試料セル100内の磁性撹拌棒121を駆動する撹拌駆動装置であり、例えば混合溶液Wに対して一定の撹拌状態を与え、混合溶液Wを均一に撹拌しながら混合溶液W全体がゲル化するのを抑制するようになっている。
特に、本例では、撹拌駆動装置120は、試料セル100内の底壁に内蔵された磁性体からなる撹拌棒(スターラーバー)121に対して磁力による撹拌力を作用させる撹拌駆動源(マグネチックスターラー)として構成されている。
【0025】
更に、符号130は試料セル100の側周壁の外側に設けられ且つコヒーレントな光を照射するレーザ光源である。
本例において、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmは、図6(a)(b)に示すように、試料セル101の略直径部分を横切る経路に沿って照射されており、その光径dは生成されるゲル粒子径(例えば0.2〜2μm程度)に対して十分に大きい値(例えば5〜20μm程度)に設定される。
更にまた、符号140は試料セル100の外部でレーザ光源130と同じ側に設けられ、レーザ光源130からの照射光Bmが試料セル100内の混合溶液中に生じたゲル粒子にて散乱した光のうちレーザ光源130側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出器である。
本例では、後方散乱光検出器140は、中央部に通孔142が開設された筒状の検出器本体141を有し、この検出器本体141の通孔142にはレーザ光源130から試料セル100内に照射された照射光を通過させるようにすると共に、この検出器本体141の試料セル100の側周壁外面に対向してリング状検出面143を設け、更に、この検出器本体141内の一部にはリング状検出面143にて検出された散乱光が感知可能なフォトダイオードなどの受光素子(図示せず)を組み込むようにしたものである。
ここで、後方散乱光検出器140の検出精度は、レーザ光源130からの照射光Bmの通過面積内に1ないし数個のゲル粒子の有無による後方散乱光量変化を検出可能な程度に設定されている。
尚、後方散乱光検出器140のリング状検出面143は試料セル100の側周壁外面に対して接触又は非接触配置されてもよいが、後方散乱光成分の検出性を良好に保つという観点からすれば、接触配置する態様が好ましい。
【0026】
更に、本実施の形態では、試料セル100の外部で試料セル100を挟んで前記レーザ光源130の反対側には迷光除去部材150が設けられている。
この迷光除去部材150は、レーザ光源130から試料セル100内に照射された照射光Bmがそのまま透過して試料セル100の反対側周壁に到達した領域及びその周辺領域に対応して光吸収材を配設したものである。
このように試料セル100の一部に迷光除去部材150を設けた理由は以下のようである。つまり、レーザ光源130からの照射光が例えばゲル粒子にて散乱した光のうちレーザ光源130側に戻る後方散乱光成分以外の散乱光成分、あるいは、発生したゲル粒子の周囲をそのまま透過する透過光成分は、試料セル100内壁などで反射されて後方散乱光検出器140に向かう迷光成分になり得るが、これらの中で、特に指向性の高い迷光成分が透過光成分及び透過光成分と同じ方向に向かう散乱光成分であることから、これらに対応した箇所に迷光除去部材150を設けるようにしたものである。
【0027】
符号160は後方散乱光検出器140からの検出出力を取り込み、例えば図8に示すデータ解析処理を実行するデータ解析装置、170はデータ解析装置160で解析された解析結果を表示するディスプレイである。
このデータ解析装置160はCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースなどを含むコンピュータシステムにて構成されており、例えばROM内に図8に示すデータ解析処理プログラムを予め格納しておき、後方散乱光検出器140からの検出出力に基づいてCPUにてデータ解析処理プログラムを実行するものである。
尚、後方散乱光検出器140からの検出出力は例えば図示外の増幅器により電流電圧変換された後、AD変換器によりAD変換され、データ解析装置160に取り込まれる。
【0028】
<試料セルの構成例>
次に、本実施の形態で用いられる試料セル100の構成例、及び、試料セル100への撹拌棒121、試料Sの導入例を図7(a)(b)に基づいて詳述する。
同図において、試料セル100は、例えばガラス材料にて一体的に成形され且つ上部が開口した横断面円形の有底の筒状容器101からなり、その上部にフランジ部102を形成すると共に、このフランジ部102の下部にくびれ部103を形成し、フランジ部102及びくびれ部103には小径孔部104を形成し、この小径孔部104より大径の大径空間部105を内部に形成したものである。
そして、この試料セル100内には、エンドトキシンを含む試料とゲル化反応を生ずる試薬106が例えば凍結乾燥粉末状にて予め無菌的かつ無エンドトキシン的(“エンドトキシンフリー”あるいは“パイロジェンフリー”と一般的にはいわれている)に収容されると共に、磁性材料を用いた撹拌棒121が予め収容される。
更に、この試料セル100の小径孔部104にはゴム等の弾性材料からなる密封栓108が嵌め込まれている。この密封栓108は断面略T字状に成形されており、その頭部108aが試料セル100のフランジ部102に載置され、その脚部108bが小径孔部104に密接した状態で挿入されている。尚、密封栓108の脚部108bの一部には切欠108cが設けられている。
更にまた、試料セル100のフランジ部102及び密封栓108の頭部108aは例えばアルミニウム製のキャップ状の保持カバー109で覆われ、この保持カバー109は試料セル100のフランジ部102の周壁に嵌り込み、密封栓108を外側から抱き込み保持するようになっている。そして、この保持カバー109の例えば中央には密封栓108の頭部108aに面して孔部109aが形成されている。
【0029】
また、試料セル100は、図7(a)(b)に示すように、筒状容器101の小径孔部104を開放した状態で試薬106及び撹拌棒121を収容し、この状態で、筒状容器101の小径孔部104を密封栓108で密封すると共に、この密封栓108を保持カバー109で覆うようにしたものである。
このような試料セル100は、ゲル粒子測定装置の付属品や測定キットとしてユーザーに供給される。
そして、本態様の試料セル100の筒状容器101への試料Sの導入法としては、例えば保持カバー109の孔部109aを利用して密封栓108に注射針のような穿孔具(図示せず)にて穿孔し、この穿孔を通じて注入器(図示せず)にて試料Sを注入するようにしたものが挙げられる。更に、試料Sの導入を容易に行うため、筒状容器101内が大気圧に対して所定の負圧レベルを保つように密封栓108の密封仕様を設定してもよい。
【0030】
次に、本実施の形態に係るゲル粒子測定装置の作動について説明する。
本実施の形態において、図5に示すように、試料セル100にエンドトキシンを含む試料Sを注入した後、図示外のスタートスイッチをオン操作すると、ゲル粒子測定装置による測定シーケンスが開始される。
この測定シーケンスは、撹拌駆動装置120にて撹拌棒121が回転され、試料セル100内の試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを撹拌する。このため、混合溶液W全体が均一に撹拌されると共に、混合溶液W全体としてはゲル化することが抑制される。
更に、測定シーケンスは、レーザ光源130からコヒーレントな光Bmを試料セル100内の混合溶液Wに照射し、混合溶液W中で散乱した光のうちレーザ光源130側の方向に向かう後方散乱光成分を後方散乱光検出器140にて検出すると共に、後方散乱光検出器140の検出出力をデータ解析装置160に取り込む。
【0031】
一方、試料セル100内の混合溶液W中では、リムルス試薬にエンドトキシンの刺激が伝わり、図3に示すようなリムルス反応が起こり、混合溶液W全体のゲル化が抑制された状態で、ゲル粒子Gが順次生成されていく。
本実施の形態では、レーザ光源130からのコヒーレントな光Bmの通過面積内にゲル粒子Gが例えば1個生成されたときに、混合溶液Wがゾル相からゲル相に変化する相変化点のタイミングにつながるゲル粒子Gの生成開始時点として把握されるものである。
このような反応過程において、データ解析装置160は、例えば図8に示すように、後方散乱光検出器140からの検出出力を散乱光量データ(デジタルデータ)として読み込んだ後、平均化・フィルタリング化処理を行って散乱光量データの変動成分を計測する。
次いで、散乱光量データの変動成分に基づいて、後方散乱光検出器140にて検出された散乱光量データの増加変化点(図2(c)II工程Pに相当)を抽出し、予め規定されている検量線を参照することによって試料Sのエンドトキシン濃度(ETX濃度)を決定し、ディスプレイ170に表示する。
本例では、検量線は、エンドトキシン濃度(ETX濃度)と散乱光量データの増加変化点に至るまでの時間閾値との関係を示すものであり、散乱光量データの増加変化点に至る時間と検量線との相関に基づいてエンドトキシン濃度(ETX濃度)が決定される。また、ディスプレイ170にはエンドトキシン濃度(ETX濃度)以外に、散乱光量データの時系列データ、散乱光量データの変動成分の時系列計測データなどのデータが切り換え表示されるようになっている。
【0032】
<検量線の作成例>
ここで、本実施の形態で採用された検量線の作成例について説明する。
本実施の形態1に係るゲル粒子測定装置を用い、予め決められた実験条件を例えば以下のように定め、様々なエンドトキシン濃度(例えば10・1・0.1pg/ml)のサンプル試料を添加したときのリムルス試薬に対して、ゲル粒子測定装置で後方散乱光検出器140による散乱光度(散乱光量データ)の変化を調べたものである。
本例で用いられる実験条件は以下の通りである。
・レーザ光源130:赤色光又は青色光
・後方散乱光検出器140:フォトダイオード
・撹拌棒(スターラーバー)121の回転数:1000rpm
・恒温条件:37℃
図9(a)は、エンドトキシン濃度10pg/ml、1pg/ml、0.1pg/mlのサンプル試料に対する散乱光強度につき夫々の時間経過を追ってプロットしたものである。尚、図9(a)の縦軸は散乱光強度U(グラフ中の最大散乱光強度スケールをUyで表記)、横軸は反応時間(グラフ中の最大反応時間スケールをtx[例えば100min]で表記)を示す。
同図において、各条件の散乱光強度の変化は、いずれも略0の一定のレベルを維持する部分がある時間になって増加する傾向を示している。この散乱光強度の増加変化点はゲル粒子の生成開始時点(エンドトキシンを含むサンプル試料がゾル相からゲル相へと相変化するタイミング)に相当し、ゲル化開始時による増光を意味するものと想定される。
このゲル化開始時を求めるために、本実施の形態では、図9(a)のグラフにおいて、マニュアルで、一定散乱光度の部分を近似した直線(通常は0)と散乱光強度が増加傾斜していく変化部分を近似した直線との交点を求め、夫々ゲル化開始時間(反応時間)t(10)、t(1)、t(0.1)を求めた。
更に、本実施の形態では、図9(a)のグラフから求めたゲル化開始時間t(10)、t(1)、t(0.1)の値を用いて検量線を作成するようにした(図9(b)参照)。
図9(b)において、検量線は、X軸をエンドトキシン濃度であるETX濃度(log変換)、Y軸をゲル化開始時間として各ゲル化開始時間の値をプロットし、これらの値に対して最小自乗法による直線を描くことで求められるものである。このとき、各エンドトキシン濃度のサンプル試料に対するゲル化開始時間の値には直線関係が得られ、相関係数の高い相関が示される。
【0033】
ちなみに、本実施の形態で求めた検量線の一例を示すと、以下の通りである。
エンドトキシン濃度(pg/ml) ゲル化開始時間(min.)
10pg/ml:t(10)=12(min.)
1pg/ml:t(1)=20(min.)
0.1pg/ml:t(0.1)=27(min.)
これに対し、和光純薬工業株式会社製の比濁時間分析法を採用したエンドトキシンキット(ゲル化反応測定装置)を用い、エンドトキシン濃度とゲル化時間とを調べたところ、以下のような結果が得られた。
エンドトキシン濃度(pg/ml) ゲル化時間(min.)
10.0 18.0
1.0 41.8
0.5 56.3
0.1 123.7
【0034】
このように、本実施の形態においては、ゲル粒子測定装置は、試料S及びリムルス試薬からなる混合溶液Wを所定の恒温環境下で撹拌し、混合溶液W中に産生するCoagulin粒子からなるゲル粒子Gの出現によって照射光Bmが一部遮られて散乱する光のうちレーザ光源130側の後方に戻る後方散乱光成分を検出し、ゲル化の開始時期を捉えようとするものである。
つまり、本実施の形態では、後方散乱光成分を検出する方式を採用しているが、他の散乱光成分を検出する方式に比べて、ゲル粒子の生成開始時点を把握する上で有効である。
特に、本例では、後方散乱光検出器140の検出精度を高感度にするため、レーザ光というコヒーレントで強い光を利用し、また、微細な変化を検出するために、低濃度での変化では特に散乱した光のうち、後方散乱光以外の散乱光とゲル粒子の周囲をそのまま透過した透過光が迷光として後方散乱光検出器140側に向かわないように、迷光除去部材150にて迷光が除去されることから、後方散乱光検出器140にはレーザ光源130からの照射光Bmのうちゲル粒子で散乱した後方散乱光成分だけが入射することになり、その分、後方散乱光変化が正確に検出される。
【0035】
◎変形形態
本実施の形態では、試料セル100の外部で当該試料セル100を挟んでレーザ光源130と反対側に迷光除去部材150を配設するようにしているが、これに限られるものではなく、例えば図10(a)に示すように、試料セル100の周囲を囲繞するように筒状カバー151を設置し、この筒状カバー151の内面を例えば黒色の光吸収材で覆うと共に、筒状カバー151の一部には後方散乱光検出器140を装着するための取付孔152を開設し、この取付孔152に後方散乱光検出器140を装着し、後方散乱光検出器140の通孔142を通じてレーザ光源130からの照射光Bmを通過させるようにしてもよい。
また、本実施の形態では、試料セル100は透過性のある材料にて構成されているが、試料セル100内の混合溶液W中での光の透過をほとんど求めないため、試料セル100のうちレーザ光源130及び後方散乱光検出器140の設置箇所に対応した一部だけ透過性を有する入射部としておけば、試料セル100の他の部位については非透過性の材料で構成してもよいし、非透過性の塗料を塗布するようにしてもよい。
更に、本実施の形態では、レーザ光源130と後方散乱光検出器140とを別ユニットとして構成しているが、例えば図10(b)に示すように、レーザ光源130の周囲を囲繞するように導光部材としての多数の光透過性グラスファイバ145を束ね、各グラスファイバ145の試料セル100側の一端部を光導入面146として機能させると共に、各グラスファイバ145の他端部に対向して検出面が配置されるように後方散乱光検出器140を設け、レーザ光源130、後方散乱光検出器140及び導光部材としてのグラスファイバ145を用いて光学検出ユニットを一体的に構成するようにしてもよい。
更にまた、迷光除去部材150は試料セル100の外部に設ける態様に限られるものではなく、例えば図10(b)に示すように、試料セル100の内壁周面に迷光除去部材150として微小粗面155を形成し、この微小粗面155にてレーザ光源130から照射された照射光のうち迷光成分を乱反射させることで減衰させるようにしてもよい。
尚、本実施の形態では、迷光除去部材150を設けているが、必ずしも迷光除去部材150を用いる必要はなく、例えば予め迷光成分がどの程度影響するかを既知のエンドトキシン濃度のサンプル試料を用いて実測し、この実測値に基づいて例えば後方散乱光検出器140による検出出力から実測した迷光成分を補正するようにしてもよい。
また、本実施の形態では、一検体(試料S)分の試料セル100に対するゲル粒子測定装置を示しているが、複数の検体(試料)を同時に処理するという要請下では、例えば複数の試料セル100を一体化したマルチ試料セルを用意し、各試料セルに対応して夫々レーザ光源130、後方散乱光検出器140を配置し、複数の検体(試料)を同時に測定できるようにすればよい。
更に、実施の形態1では、測定対象の物質をエンドトキシンとするものが開示されているが、これに限られるものではなく、例えば同じ測定ハードウェアで、かつ、同様ないしは類似のリムルス試薬を用い、測定対象の物質をβ−D−グルカンとすることも可能である。
【0036】
◎実施の形態2
図11は本発明が適用されたゲル粒子測定装置の実施の形態2の要部を示す。尚、実施の形態1と同様な構成要素については、実施の形態1と同様な符号を付し、その詳細な説明は省略する。
同図において、ゲル粒子測定装置は、実施の形態1と略同様に、試料セル100の外部にレーザ光源130を有し、このレーザ光源130と同じ側に前記後方散乱光検出器140を設置したものであるが、実施の形態1と異なり、試料セル100の外部で例えば試料セル100を挟んで前記後方散乱光検出器(第1の散乱光検出器に相当)140とは反対側に第2の散乱光検出器180を設置し、第1の散乱光検出器140のみならず、第2の散乱光検出器180の検出出力をデータ解析装置160に取込み、第1の散乱光検出器140による検出出力に基づいて実施の形態1と同様にゲル粒子の生成開始時点を判別すると共に、第2の散乱光検出器180による検出出力(前方散乱光出力)に基づいてゲル粒子の生成開始時点以外のゲル粒子の生成状態情報(例えばゲル粒子の生成量など)を判別するようにしたものである。
本例では、第2の散乱光検出器180において、後方散乱光成分以外の散乱光成分を検出するようにしているが、第2の散乱光検出器180には例えば透過光成分も合わせて検出される可能性があるため、データ解析にあたり、第2の散乱光検出器180の検出対象として透過光成分を除去したいという要請がある場合には、散乱光成分と透過光成分とは位相がずれることを利用して偏向フィルタ190を設置し、透過光成分を除去するようにすればよい。
また、このような偏向フィルタ190を用いない場合には、第2の散乱光検出器180は透過光成分が含まれた散乱光成分を検出することになるが、データ解析装置160側で透過光成分が含まれることを考慮して散乱光成分を解析するようにしてもよいし、あるいは、データ解析装置160側で透過光成分を除去するように補正した後に散乱光成分を解析するようにしてもよい。
尚、第2の散乱光検出器180は基本的に散乱光成分を単独若しくは透過光成分と共に検出するものであるが、例えば散乱光成分除去用の偏向フィルタを介在させるようにすれば、散乱光成分を含まない透過光成分だけを解析することも可能である。
【0037】
また、本例では、第1の散乱光検出器140による検出出力を用いてゲル粒子の生成開始時点を判別し、第2の散乱光検出器180を用いてゲル粒子の生成開始時点以外のゲル粒子の生成状態情報を判別するようにしているが、これに限られるものではなく、第1の散乱光検出器140及び第2の散乱光検出器180の両方の検出出力を用いてゲル粒子の生成開始時点以外のゲル粒子の生成状態情報を判別するようにしてもよい。この場合、第1の散乱光検出器140及び第2の散乱光検出器180の検出出力の差分情報を用いることにより、例えば散乱光と試料に由来する非特異的な濁度の増加や迷光の発生、または、
試料溶媒に由来する散乱光の吸収による減衰の度合から試料溶媒の性質が検量出来ることになり、ゲル粒子の生成状態情報をより細かく解析することが可能である。
尚、本実施の形態では、第2の散乱光検出器180は、第1の散乱光検出器140に対して試料セル100の反対側に設置されているが、これに限られるものではなく、第2の散乱光検出器180の設置箇所は第1の散乱光検出器140と異なる部位であれば任意の部位に設置して差し支えない。例えば第1の散乱光検出器140に対して試料セル100の周囲方向に90°偏倚した部位に設置するようにすれば、図4(b)に示す側方散乱光を検出することが可能である。
【実施例】
【0038】
◎実施例1
本実施例1は、水又は全血溶液に既知濃度のエンドトキシンを添加した試料サンプルを複数用意し、各無料サンプルに対し、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置を具現化したモデル装置を用いて後方散乱光の変化を時系列で測定したものである。
本例における試料サンプルは以下の通りである。
試料サンプルI=水に標準品エンドトキシン10pg/mlを添加した試料サンプル
試料サンプルII=全血溶血試料に標準品エンドトキシン10pg/mlを添加した試料サンプル
試料サンプルIII=全血溶血試料にエンドトキシンを添加しない試料サンプル
試料サンプルI〜IIIについての結果を図12(a),図13(a),図14(a)に示す。
尚、各図の縦軸は相対散乱光強度、横軸は時間(sec.)である。
◎比較例1
本比較例1は、実施例1で用いられる試料サンプルI,II,IIIと同様な試料サンプルに対し、実施の形態2に係るゲル粒子測定装置を具現化したモデル装置(偏向フィルタ190装備)を用いて、後方散乱光とは反対側の前方に向かう前方散乱光の変化を時系列で測定したものである。
試料サンプルI〜IIIについての結果を図12(b),図13(b),図14(b)に示す。
尚、各図の縦軸は相対散乱光強度、横軸は時間(sec.)である。
◎比較例2
本比較例2は、実施例1で用いられる試料サンプルI,II,IIIと同様な試料サンプルに対し、実施の形態2に係るゲル粒子測定装置を具現化したモデル装置を用いて、後方散乱光とは反対側の前方に向かう透過光(本例では前方散乱光を含む)の変化を時系列で測定したものである。
試料サンプルI〜IIIについての結果を図12(c),図13(c),図14(c)に示す。
尚、各図の縦軸は相対散乱光強度、横軸は時間(sec.)である。
【0039】
<実施例1と比較例1,2との対比>
実施例1と比較例1とを対比してみるに、どれも、比較例2における透過光減少からみた試料サンプルの相変化のタイミングと比較して、比較例1に係る前方散乱光による試料サンプルの相変化のタイミングに相当するゲル化開始時点(散乱光度の増加変化点)は、実施例1に係る後方散乱光による試料サンプルの相変化のタイミングに相当するゲル化開始時点(散乱光度の増加変化点)よりも検出開始が遅れている傾向(約10〜40秒)が見られる。
また、臨床試料そのものに等しい低濃度のエンドトキシン測定のデータ(図14(a)〜(c)参照)を見てみるに、例えば比較例2の場合には、試料サンプルIII中において不明な沈殿や凝集等による妨害で、透過光量による定量は難しく、ゲル化開始時間はおろか、試料サンプルIIIの混合溶液系の反応も判定できない状態であるが、比較例1の前方散乱光による検出方式ではゲル化開始時点が顕著に検出されている。
しかし、比較例1の前方散乱光による検出方式では、試料溶液を通過する過程で散乱光成分が減衰するため、ゲル粒子の発生に対する検出タイミングが実施例1(14(a))に比べて遅くなるだけでなく、ゲル粒子の成長に対する検出タイミングも遅くなる結果、前方散乱光による検出方式は、後方散乱光による検出方式に比べて顕著に遅れる(約200〜300秒)ことが明らかであり、その分、後方散乱光による方式の優位性が理解される。この傾向は低濃度エンドトキシン(すなわちゲル粒子発生の少ない試料)において、さらに顕著である。
【0040】
◎実施例2
本実施例は、実施の形態1に係るゲル粒子測定装置のデータ解析処理の一つである平均化処理の具体例を示す。
図15(a)は後方散乱光検出器140にて後方散乱光の変化をプロットした実測値データ(BS)である(図14(a)に相当)。
図15(a)において、実測値データの前後3点を平均化したスムージング処理(Smooth3)を図15(b)に、また、図15(a)において、実測値データの前後5点を平均化したスムージング処理(Smooth5)を図15(c)に夫々示す。
図15(b)によれば、実測値データよりも幅狭のデータ群になり、更に、図15(c)によれば、図15(b)よりも更に幅狭なデータ群にまとまることが理解される。
このように、実測値データがある幅でばらついたとしても、所望のスムージング処理を施すことで実測値データを平均化することが可能になり、データ解析処理にあたり有効であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、リムルス試薬を用いたエンドトキシンやβ−D−グルカンなどを測定対象とするゲル粒子測定装置を始め、ゲル化反応によってゲル粒子が生成可能な目的物質を測定対象とする測定装置に広く適用される。
例えば血液凝固反応や抗原抗体反応において適用することが可能である。
−血液凝固反応(図16)−
血漿中のプロトロンビンは、様々な血液凝固因子の活性化を経てトロンビンとなり、フィブリンが凝集する。
この点について補足すると、血漿の凝固系は、以下の開始期、増幅期、伝播期を経て進行する。
<開始期>
(外因性経路)
血液凝固カスケードにおいて、細胞が傷害を受けると、組織因子が第VIIa因子(第VII因子が活性化したもの)と結合する。
ここで、第VIIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、第IXa因子は第X因子を活性化して第Xa因子とする。
(内因性経路)
血液が負に帯電した固体(例えば、岩石や砂)に触れると、プレカリクレインと高分子量キニノゲンが第XII因子を活性化し、第XIIa因子とする。また、第XIIa因子は第XI因子を活性化して第XIa因子とする。また、第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。
<増幅期>
トロンビンは第XI因子を活性化して第XIa因子とする。第XIa因子は第IX因子を活性化して第IXa因子とする。また、トロンビン自体も第V因子と第VIII因子を活性化させてそれぞれ第Va因子、第VIIIa因子とする。さらにトロンビンは血小板を活性化して、第XIa因子、第Va因子、第VIIIa因子を血小板表面に結合させる。
<伝播期>
血小板表面に結合した第VIIIa因子と第IXa因子は第X因子を活性化して血小板表面に結合させる。また、血小板表面に結合した第Xa因子と第XIa因子はプロトロンビンを次々とトロンビンに変化させる。更に、大量のトロンビンが血漿中のフィブリノーゲンを分解してフィブリンモノマーにする。フィブリンモノマーは第XIII因子によって架橋されてフィブリンポリマーとなり、他の血球を巻き込んで血餅(かさぶた)となる。
【0042】
これは生体においては血液凝固で傷口をふさぐなど有用な反応であるが、一方微小な凝集塊が血流中に発生すると、血栓となり様々な微小血管をふさいで脳梗塞・心筋梗塞・肺塞栓など重篤な臨床症状を引き起こす。よって、臨床的に‘凝集の起こしやすさ’を求めることは、この発生を予知する上で重要なこととなる。従来凝集時間の延長は、‘血が止まらない’という心配のもとに測られていたが、‘血が固まりやすい’ことは測る方法が確立されていない。それを適当な希釈された血漿と、一定量の凝集を促進する試薬(例えばADP・コラーゲン・エピネフリンなど)と混合することで、凝集の程度を測ることが、この粒子計測の方法で可能と予想される。
このため、本例では、試料セル100内に磁性撹拌棒121と共に、一定量のADP等を無菌的に入れて、凍結乾燥などの処理を行った試料セル100を作成することで、臨床現場において適宜に希釈した血漿を、上部の密封栓108を通して導入し、凝集塊の発生時間すなわちゲル化開始時間を実施の形態1と同様なゲル粒子測定装置で測ることで、凝集能の程度を測ることが可能となる。
【0043】
−抗原抗体反応(図17)−
図17(a)に示すように、様々な抗原300に対する特異抗体310は、会合することで不溶性の沈殿としてその抗原300の不活性化を促し、生体の防御作用を担っている。一方この現象を利用して、特異抗体310をあらかじめ用意しておけば、発生する沈殿は存在する抗原300の量に比例することから、様々な抗原300を定量する方法が考案されている。しかし、沈殿させる(または抗原抗体の会合を促進する)には時間がかかるため、様々な検出法や鋭敏な検出装置が開発されてきた。抗原抗体反応の沈殿形成をゲル化の粒子形成と捉えると、粒子を安定に形成させ、それを計測するゲル粒子測定装置は応用可能と考えられる。
とりわけ、図17(b)に示すように、抗体330を樹脂等のミクロビーズ320等に結合させ、そのビーズ表面にて抗原300との間で抗原抗体反応を起こさせるタイプの検出反応には、粒子形成のパターンが変化することで捉えることは容易であり、その方法にも応用できる。
そのため、試料セル100には、磁性撹拌棒121と共に、一定量の抗体330またはミクロビーズ320に結合させた抗体溶液を無菌的に入れておく。この場合、抗体330の活性を保持する必要から、凍結乾燥ではなく溶液として保存する方がよいと思われる。測定を行う場合には、一定に希釈した血漿など検液を、上部の密封栓108を通して導入し、抗原抗体反応による凝集塊の発生速度を、例えば実施の形態1のゲル粒子測定装置で測る。特に、ゲル粒子生成の速度として捉えるため、透過光の減少速度を計測する。
【0044】
実施の形態1で示したエンドトキシン活性反応、血液凝固反応、抗原抗体反応の3つの使用方法で共通することは、水に均一に溶けている分子が会合し、不溶性の粒子になる反応を捉えて、定量しようとするものであるが、可溶性から不溶性になるとき、反応の偏り(反応の中心となる酵素などの廻りに反応分子が局部的に不足する)現象が生じる。正しく反応を進め、その速度を測るためには、この偏りが理論的には‘0(ゼロ)’でなければならない。その解決法が、‘撹拌する’ということになる。この測定法の中心は、溶液を均一に撹拌し、粒子形成を安定に行わせる事を意図したことにある。
【符号の説明】
【0045】
1…試料セル,2…撹拌手段,3…入射光源,4…後方散乱光検出手段(第1の散乱光検出手段),5…散乱光変動計測手段,6…ゲル粒子生成判別手段,7…恒温槽,8…迷光除去手段,9…表示手段,10…第2の散乱光検出手段,G…ゲル粒子,S…試料,R…試薬,W…混合溶液,Bm…光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化反応によって試料中の目的物質を粒子化して測定するゲル粒子測定装置であって、
少なくとも一部に光が入射される入射部を有し、測定対象である目的物質が含まれる試料及び前記目的物質のゲル化を生ずる試薬が含まれる溶液を収容する試料セルと、
この試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液全体がゲル化するのを抑制するように前記混合溶液を撹拌する撹拌手段と、
前記試料セルの入射部の外部に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液に対してコヒーレントな光を照射させる入射光源と、
前記試料セルの入射部の外部で前記入射光源と同じ側に設けられ、前記試料セル内の試料及び試薬溶液からなる混合溶液中で散乱した光のうち前記入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段と、
この後方散乱光検出手段の検出出力に基づいて散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段と、
この散乱光変動計測手段の計測結果に基づいて前記混合溶液がゾル相からゲル相へ相変化する時点につながる前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点が少なくとも含まれるゲル粒子の生成状態を判別するゲル粒子生成判別手段とを備えたことを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のゲル粒子測定装置において、
入射光源はレーザ光源であることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゲル粒子測定装置において、
試料セルは、セル容器内に試料及び試薬溶液が直接撹拌可能な撹拌手段を内蔵したものであることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
試料セルは恒温槽内に設けられることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
試料セルは、それ自体又はその周囲に、入射光源からの照射光のうち前記混合溶液中で入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分以外の透過又は散乱で生じる迷光成分が除去させられる迷光除去手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
ゲル粒子生成判別手段による判別結果が表示される表示手段を備えていることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
後方散乱光検出手段は、入射光源から試料セルに入射される入射光を囲繞するリング状検出面を有することを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
後方散乱光検出手段は、入射光源から試料セルに入射される入射光を囲繞する光透過性繊維束からなる導光部材を有し、この導光部材の一端を光導入面として機能させると共に、前記導光部材の他端に対応して検出面を配置するものであることを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
前記混合溶液内で散乱した光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分を検出する後方散乱光検出手段である第1の散乱光検出手段と、
前記混合溶液内で散乱した光のうち入射光源側の方向に戻る後方散乱光成分以外の散乱光成分を検出する第2の散乱光検出手段と、
これらの後方散乱光検出手段による検出出力に基づいて夫々の散乱光の変動成分を計測する散乱光変動計測手段とを有し、
前記ゲル粒子生成判別手段は、第1の散乱光検出手段の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点を判別し、
第1の散乱光検出手段及び第2の散乱光検出手段の検出出力又は第2の散乱光検出手段の検出出力の変動成分の計測結果に基づいて前記混合溶液内のゲル粒子の生成開始時点以外のゲル粒子の生成状態情報を判別することを特徴とするゲル粒子測定装置。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれかに記載のゲル粒子測定装置において、
測定対象である目的物質がエンドトキシンであり、これをゲル化する試薬がリムルス試薬であることを特徴とするゲル粒子測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−257156(P2011−257156A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129294(P2010−129294)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(508084272)
【Fターム(参考)】