説明

コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法及びその分散液

【課題】コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法及びその分散液を提供する。
【解決手段】金属塩と高分子を有機溶媒に混合して混合物を得る工程と、その混合物を所定の温度で加熱・還流して金属酸化物を析出する工程とを有するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法であって、前記金属塩が硝酸塩や酢酸塩であり、かつ、前記高分子の分子量の大きさによってコアシェル型金属酸化物微粒子の粒径を制御することからなるコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法、及び上記製造方法により得られるコアシェル型金属酸化物微粒子分散液であって、1日以上静置させても沈降が認められない金属酸化物微粒子分散液、及びその粉体。
【効果】長期安定性を有するコアシェル型金属酸化物分散液を作製し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法及びその分散液に関するものであり、更に詳しくは、触媒、フォトニック結晶、ガスセンサ、化学的機械的研磨剤、紫外線遮蔽剤、接合用ペーストなどに応用可能な、コアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液を製造するための当該コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法及びその製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物微粒子を含む分散液は、例えば、触媒、ガスセンサ、化学的機械的研磨剤、紫外線遮蔽材、接合用ペーストなど、種々の分野で使うことが可能である。上記用途用の金属酸化物微粒子を含む分散液を作製する場合、通常の手法で、単に乾燥した酸化物微粒子や金属酸化物微粒子を分散媒に分散させるだけでは、安定した分散液を得ることができない。これは、金属酸化物微粒子を含む安定した分散液を作製するために、一度凝集した酸化物微粒子や金属酸化物微粒子の凝集を解く必要があるが、それが難しいためである。
【0003】
通常のナノ粒子合成方法では、気相プロセス、液相プロセスのいずれの場合であっても、ナノ粒子が生成した後、ナノ粒子の凝集を抑制しない限り、一般に、合成したナノ粒子は強固に凝集してしまう。一度、ナノ粒子が強固に凝集すると、凝集を解くための処理を行っても、凝集を解くことは、一般に、困難である。先行技術文献には、無機酸化物の分散方法として、セラミックビーズを使ってサンドグライダーミル中で機械的に凝集を解く技術が開示されているが(特許文献1)、この場合、問題点として、不純物の混入が考えられ、また、溶媒に、分散剤を添加する必要が有ることがあげられる。
【0004】
このことから、ナノ粒子が凝集する前、すなわち、ナノ粒子の生成と同時に、凝集を抑制する処理を施せば、分散しやすい酸化物微粒子や金属酸化物微粒子が得られるはずである。このとき、高分子が溶解した分散媒を反応場として使用すれば、金属酸化物微粒子の生成と同時に凝集を抑制することができ、そのまま長期的に安定な金属酸化物微粒子の分散液が得られる。このようなコンセプトを、ゾルゲル法あるいは加水分解法に適用した例が報告されている(非特許文献1−4、特許文献2)。しかしながら、これまで、このようなコンセプトを還流法に適用した事例は見当たらない。
【0005】
フォトニック結晶として用いるには、金属酸化物微粒子は、球状で、粒径が揃っている(単分散である)必要がある。先行技術文献には、金属酸化物超微粒子とその製造方法、及び金属酸化物微粒子が開示されている(特許文献3、及び4)が、これらの文献には、フォトニック結晶用に用いることができるような、粒径は30〜1000nm程度、金属酸化物の粒径分布(粒径の標準偏差)が小さく、金属酸化物が球状であり、液中での分散性が良好であるコアシェル型の金属酸化物微粒子又はコアシェル型金属酸化物微粒子分散液に関する記述は何もない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−35632号公報
【特許文献2】特開平2−92810号公報
【特許文献3】特開平6−218276号公報
【特許文献4】特開2006−8629号公報
【非特許文献1】H.Yang,C.Huang,X.Su,Materials Letters,60(2006)3714
【非特許文献2】Z.T.Zhang,B.Zhao,L.M.Hu,J.Solid State Chem.,121(1996)105
【非特許文献3】D.L.Tao,F.Wei,Mater.Lett.58(2004)3226
【非特許文献4】G.C.Xi,Y.Y.Peng,L.Q.Xu,M.Zhang,W.C.Yu,Y.T.Qian,Inorg.Chem.Commun.7(2004)607
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ナノ粒子の凝集を抑制して、長期安定性を保持したナノサイズの金属酸化物微粒子を含む分散液の製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、還流法を用いることで、有機溶媒が使え、反応開始剤を必要としないなど、有利な点が多いこと、それにより、ナノ粒子の凝集を抑制したコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液を調製できること、などの新規知見を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、還流法を上記コンセプトに適用させることで、長期的に安定なコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液を製造することを可能とする当該分散液の製造方法及びそのコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)金属塩と高分子を高沸点有機溶媒に混合して混合物を得る工程と、その混合物を110℃以上の温度で加熱・還流して金属酸化物を析出させる工程とからなることを特徴とする、前記金属酸化物の一次粒子が球状に集合した二次粒子表面に前記高分子又はその関連高分子の層が存在するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(2)前記コアシェル型金属酸化物微粒子の粒径の変動係数が、0.25より小である、前記(1)に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(3)前記(1)又は(2)に記載の製造方法で得られる分散液の溶媒中の未反応イオン及び高分子を除去する工程と、新たに溶媒を加える工程とを含むことを特徴とするコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(4)前記コアシェル型金属酸化物微粒子分散液が、1日以上静置させても沈降が認められない安定性を有する、前記(1)から(3)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(5)前記金属塩が、硝酸塩又は酢酸塩である、前記(1)から(4)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(6)前記高分子の分子量を大きくすることによって、金属酸化物微粒子の粒径を小さくする、前記(1)から(5)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(7)前記高分子の濃度(単位有機溶媒体積当たりに添加した高分子重量)が80kg/mから120kg/mである、前記(1)から(6)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(8)前記高分子が、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルセルロースであり、かつ、前記高分子又はその関連高分子の層が、洗浄によって分離しない、前記(1)から(7)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(9)前記金属塩の濃度が、0.05kmol/m以上である、前記(1)から(8)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(10)前記高沸点有機溶媒が、エチレングリコール又はジエチレングリコールのポリオールである、前記(1)から(9)のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(11)前記硝酸塩又は酢酸塩が、硝酸セリウム又は酢酸亜鉛である、前記(5)に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
(12)コアシェル型金属酸化物微粒子の粒径が、30nmから1000nmである、前記(1)から(11)のいずれかに記載の製造方法。
(13)前記(1)から(12)のいずれかに記載の製造方法により得られる金属酸化物の一次粒子が球状に集合した二次粒子表面に高分子層が存在するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液であって、1)酸化物の一次粒子が球状に凝集している、2)該凝集粒子(二次粒子)の表面で架橋反応による強固な高分子層が形成されている、3)分散媒に分散している、ことを特徴とする上記コアシェル型金属酸化物微粒子分散液。
(14)前記(13)に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液を乾燥させた、分散性の良好な乾燥粉体からなることを特徴とするコアシェル型金属酸化物微粒子粉体。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明で、コアシェル型金属酸化物微粒子とは、金属酸化物の一次粒子が球状に集合した二次粒子表面に、高分子層が存在する微粒子のことを意味するものとして定義されるものであり、一次粒子又は一次粒子が不規則に凝集した二次粒子の表面に、高分子が存在するものとは異なる。上記特許文献4には、一次粒子又は凝集体の表面に高分子化合物が被覆した複合粒子が開示されているが、この一次粒子又は凝集体は、球状ではなく、不均一な形状をしている。それというのも、上記文献に開示されている製造方法では、予め合成された金属酸化物微粒子をビーズミルなどの分散機を使って分散及び解砕しているためである。
【0011】
この分散工程では、一次粒子あるいは一次粒子の凝集粒子に解砕されるが、解砕後の一次粒子の凝集粒子は、球状で、大きさが揃うことは有り得ない。更に、この文献には、被覆する高分子の割合は25wt%以上であることが記載されているが、本発明では、後述するように、25wt%以下である。これは、遊離しやすい高分子は、洗浄により取り除かれているためである。このことも、この文献とは大きく異なる点である。
【0012】
本発明は、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法であって、金属塩と高分子を高沸点有機溶媒に混合して混合物を得る工程と、その混合物を所定の温度(110℃以上)で加熱・還流して金属酸化物を析出する工程とを有するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法であって、前記金属塩が硝酸塩又は酢酸塩であり、かつ、前記高分子の分子量の大きさによって金属酸化物微粒子の粒径を制御すること、を特徴とするものである。また、本発明は、上記製造方法により得られるコアシェル型金属酸化物微粒子分散液であって、1日以上静置させても沈降が認められないこと、を特徴とするものである。更に、本発明は、分散性の良好なコアシェル型金属酸化物微粒子粉体であって、上記コアシェル型金属酸化物微粒子分散液を乾燥させた、分散性の良好な乾燥粉体からなること、を特徴とするものである。
【0013】
本発明で、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液とは、分散質であるコアシェル型金属酸化物微粒子が分散媒に分散したものであり、コアシェル型金属酸化物微粒子懸濁液、コアシェル型金属酸化物微粒子ゾル、コアシェル型金属酸化物サスペンジョンとも云う。また、粘度が高い場合は、コアシェル型金属酸化物微粒子ペーストとも云う。まず、本発明のコアシェル型金属微粒子分散液の製造方法について説明すると、出発原料となるのは、金属塩、有機溶媒、及び高分子などである。これらのうち、金属塩としては、硝酸塩又は酢酸塩が例示され、市販されているものでよく、一般的には、水和物である。
【0014】
硝酸塩としては、好適には、例えば、硝酸セリウム、硝酸ジルコニル、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウムなどであり、金属硝酸塩である。酢酸塩としては、好適には、酢酸亜鉛、酢酸コバルトなどである。また、有機溶媒としては、高沸点のものが必須であり、ポリオールが例示される。また、ここで、ポリオールとは、多価アルコールであり、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール、グリセリンなどが例示され、より好ましくはエチレングリコール又はジエチレングリコールである。
【0015】
更に、高分子としては、有機溶媒に溶解するものが好ましく、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリエチレングリコール(PEG)などであり、より好ましくは、ポリビニルピロリドン(PVP)である。しかし、これらに制限されるものではなく、これらと同等又は類似の高分子で同様の性質を有するものであれば同様に使用することができる。
【0016】
これらの原料を混合し、溶解させる。これが、金属塩と高分子を高沸点有機溶媒に混合して混合物を得る工程である。このとき、金属塩の濃度は、0.05kmol/m以上であることが好ましい。これは、得られる分散液に含まれる金属酸化物の割合が増えるためであり、これにより、生産性が向上する。高分子の濃度は、80kg/mから120kg/mであることが好ましい。
【0017】
ここで、高分子の濃度とは、単位溶媒体積当たりに添加した高分子の重量と定義される。高分子の濃度が80kg/mから120kg/mの範囲である理由は、これより少な過ぎると、金属酸化物微粒子が凝集し易くなるためであり、これは、コアシェル型の金属酸化物が生成しない、凝集した微粒子が生成する、あるいは、分散性が悪い粒子が生成するためである。また、上記範囲である理由は、これより多すぎると、金属酸化物の核生成反応が進行しないためである。
【0018】
次に、上記混合物を110℃から200℃において加熱・還流する。これが、所定の温度で加熱・還流して金属酸化物を析出する工程である。一般に、金属酸化物を析出させる場合、水酸化ナトリウム、アンモニアなどのアルカリなどを加えるが、本発明は、それを必要としないことが特徴である。水酸化ナトリウムなどを加えると、最終的に得られるナノ粒子にナトリウムなどが混入する恐れがあるが、本発明では、アルカリなどを必要としないため、そのような不純物の混入は有り得ない。
【0019】
加熱・還流時間は、10分から120分ほどである。加熱・還流時間が短いと、未反応の金属イオンが多く残留する可能性があり、逆に長すぎると、二次粒子が粒成長する可能性がある。このため、10分から120分間ほどの加熱・還流時間が好ましい。加熱・還流中に、混合液は、濁りを増す。所定の時間加熱・還流を行い、冷却する。こうして、高分子が溶解した有機溶媒に、コアシェル型金属酸化物微粒子が分散した、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液が得られる。
【0020】
コアシェル型金属酸化物微粒子の生成メカニズムは、以下のように考えられる。
1.高分子が均一に溶解している高沸点有機溶媒(ポリオール)中に酸化物の一次粒子が核生成。
2.一次粒子が球状に凝集。このときも、絶えず一次粒子が核生成。
3.凝集粒子(二次粒子)の表面に、核生成した一次粒子が集まってくる。
4.このとき、二次粒子の表面で、酸化物が触媒として働き、高分子及び/又は有機溶媒が架橋反応を生じて、強固な高分子層が形成される。
5.高分子層が十分発達すると、凝集ができなくなり、コアシェル型金属酸化物微粒子となる。
【0021】
本発明において、コアシェル型の金属酸化物微粒子は、1)酸化物の一次粒子が球状に凝集している、2)該凝集粒子(二次粒子)の表面で架橋反応による強固な高分子層が形成されている、ことで特徴付けられる。
【0022】
酸化物が触媒作用を引き起こすには、熱が必要と考えられ、このために、110℃以上の温度での加熱・還流が必要となる。加熱・還流温度が低い場合、例え、一次粒子が生成したとしても、コアシェル型とはならない。一次粒子が凝集しなければ、本発明で云うコアシェル型金属酸化物微粒子とならない。この場合、未反応の高分子が多く存在するため、エバポレータなどで溶媒除去を行うと、高分子マトリックス中に一次粒子が取り残された酸化物高分子複合組成物となるが、これは、明らかにコアシェル型金属酸化物微粒子とは異なる。
【0023】
また、例え、凝集が生じても、酸化物表面での触媒反応が無いため、強固な高分子層が形成できず、形態が不均一な凝集粒子となる。特許文献3には、前記金属酸化物高分子複合組成物が開示されているが、これと、本発明とは本質的に異なる。後記する実施例で示すように、加熱・還流温度がある臨界となる温度より低いと、コアシェル型金属酸化物微粒子が生成しないため、本発明では、高温での加熱・還流が不可欠である。
【0024】
このとき、上記高分子の分子量を変えることにより、得られるコアシェル型金属酸化物微粒子の粒径を制御することが可能である。高分子のゲルパーミッションクロマトグラフィーにより求めたポリエチレングリコール換算の平均分子量が4000から20000の間で、分子量が大きくなるにつれ、コアシェル型金属酸化物微粒子の粒径は小さくなる。本発明では、高分子の分子量と、微粒子の粒径の相関関係を予め求めておき、所定の分子量の高分子を用いることで、所望の粒径の金属酸化物微粒子を含む分散液を作製することが可能である。
【0025】
上記加熱・還流の直後に得られる、コアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液では、その分散媒は、加熱・還流に用いた有機溶媒となる。すなわち、エチレングリコール(EG)で加熱・還流を行えば、分散媒は、EGである。分散媒を任意の分散媒に変更したい場合は、分散媒の置換を行えばよい。例えば、遠心分離などで、分散媒と分散質とを分離し、分散媒を取り除き、所望の分散媒を加えることにより、分散媒の置換を行うことが可能である。
【0026】
上記加熱・還流で用いた高分子は、分散媒中に残留しており、また、未反応の金属イオンも、残っていることが考えられる。このため、余分な高分子などは、分散媒に遠心分離を施し、溶媒置換を繰り返すことで、除去することが可能である。このとき、シェル部分の高分子は、洗浄によって、分離するものではなく、コアと不可分のものである。分散媒中での金属酸化微粒子の粒径は、動的光散乱(DLS)法により確認することができる。この金属酸化物微粒子の粒径は、一般には、走査電子顕微鏡(SEM)などで観察される粒子径とは異なる。
【0027】
その理由は、分散媒中で粒子が更に凝集していることが多く、この場合、凝集粒子径が結果として現れるからである。DLS法では、分散媒の屈折率と分散媒の粘度が必要であるが、分散媒の屈折率は、文献値を用いることができる。また、分散媒の粘度は、分散液の粘度と同一として、分散液の粘度を測定し、それを使用することができる。このようにして、平均粒径(daverage)及び標準偏差(s)を求め、変動係数c(=s/daverage)を計算する。
【0028】
上記の方法で得られるコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液を、遠心分離などの方法で分散媒と分離し、乾燥させることにより、粉体が得られる。一般に、金属酸化物微粒子の乾燥粉体は、溶媒に再分散することが困難であるが、前記のコアシェル型金属酸化物微粒子粉体は、容易に任意の溶媒に再分散することが可能である。これは、コアシェル型金属酸化物微粒子粉体のシェル部分に高分子の層が存在しており、これにより、分散性が向上していることによるものと考えられる。
【0029】
コアである金属酸化物微粒子が球状で単分散であれば、フォトニック結晶の原料として使用することができる。また、シェル部分を熱処理で除去しても、コア部分の一次粒子がばらばらになることはなく、球状の二次粒子を保つことができる。
【0030】
従来、各種のナノ粒子合成方法を利用してナノサイズの酸化物粒子の分散液を調製することが種々試みられているが、ナノ粒子が生成した後、ナノ粒子が凝集し、上記酸化物粒子の安定した分散液を得ることは困難とされていた。これに対し、本発明は、高温での加熱・還流により金属酸化物を析出させる還流法を利用して、原料の混合工程と、金属酸化物微粒子の析出工程を、特定の金属塩と高分子を使用して実施することにより、ナノ粒子の生成と同時に、ナノ粒子の凝集を抑制する処理を施すこと、すなわち、コアシェル構造を形成することで、長期間安定なコアシェル型金属酸化物微粒子分散液を調製し、提供することを可能とするものである。
【0031】
また、本発明は、コアである金属酸化物微粒子も、球状で、大きさが揃っており、シェルとなる高分子が存在するコアシェル型金属酸化物微粒子も、球状で、大きさが揃っているものを提供できる。硝酸セリウムであれば、酸化セリウム微粒子分散液が得られ、酢酸亜鉛であれば、酸化亜鉛微粒子分散液が得られる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)長期安定性を有する金属酸化物微粒子を含む分散液を得ることができる。
(2)分散媒中のコアシェル型金属酸化物の粒径は、30nmから1000nmと小さい。
(3)簡便な手法で、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液を作製することができる。
(4)任意の金属硝酸塩又は酢酸塩を使用することが可能である。
(5)本発明の金属酸化物微粒子を含む分散液は、例えば、触媒、フォトニック結晶、ガスセンサ、化学的機械的研磨剤、紫外線遮蔽剤、接合用ペーストなどに応用可能である。
(6)ナノ粒子の凝集が抑制された、溶媒に再分散できるコアシェル型金属酸化物微粒子粉体を提供することができる。
(7)微粒子分散液の製造に添加する高分子の分子量を変えることにより、製造される微粒子の平均粒径を任意に制御することができる。
(8)高濃度の微粒子分散液が得られる。
(9)焼成することにより、球状の金属酸化物微粒子が得られる。
(10)球状の金属酸化物微粒子は、フォトニック結晶の原料となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
30cmのEG(和光純薬製)に、平均分子量がカタログ値で10000、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)による分析値で4350(ポリエチレングリコール換算)のPVP(シグマアルドリッチ製)及びCe(NO・6HO(高純度化学製)を加え、撹拌した。加えたPVPの濃度は、16kg/mから160kg/mとした。Ce(NO・6HOの濃度は、0.400kmol/mとした。
【0035】
混合物を加熱し、190℃で10−20分間加熱・還流した。ただし、サンプル1−4は、加熱・還流時間を120minまで延ばしても、次に示す反応が生じなかった。サンプル1−1から3では、加熱・還流実験中に、茶色のガスが発生し、その後、溶液は白濁した。所定時間加熱・還流後、白濁した混合溶液(分散液)が得られた。次に、未反応物及び余分なPVPを除去するために、白濁した溶液の一部を3000rpmから10000rpmの条件で遠心分離し、水及びエタノールで洗浄した。エタノールで洗浄後、80℃で乾燥させ、粉体を得た。表1に、実験条件及び結果を示す。
【0036】
分散液の粒度分布を、DLS法により調べた。DLS法では、粒径を求めるために、溶媒の粘度及び屈折率が必要である。B型粘度計を用いて、分散液の粘度を調べ、それを溶媒の粘度として用いた。B型粘度計は、コーンアンドプレートタイプであった。また、屈折率として、エチレングリコール(EG)の値(1.429)を用いた。平均粒径は、キュムラント解析法により求めた。80℃で乾燥した粉体については、X線回折(XRD)法、SEMによりキャラクタリゼーションした。また、分散液の長期安定性については、容器にサンプルを入れ、放置し、観察した。
【0037】
前述の通り、サンプル1−4は、白濁せず、分散液が得られなかった。サンプル1−1から3では、生成物は、酸化セリウムであった。サンプル1−1では、分散質の平均粒径は1330nmと大きく、SEM観察の結果もそれを支持し、しかも、すぐに沈殿した。一方、サンプル1−2、3では、分散質の平均粒径は、約110nmであった。サンプル1−2、3のSEM写真をそれぞれ図1、2に示す。粒径が約110nmの球状の微粒子が観察され、DLSで求められた平均粒径と一致した。
【0038】
このことから、粒径110nmの球状のコアシェル型酸化セリウム微粒子が独立して分散液中に分散していることが明らかとなった。また、PVP濃度が小さいと、安定な分散液が得られないこと、及びPVP濃度が大きいと反応が生じないことが分かり、安定な酸化セリウム微粒子分散液を得るための好適なPVP濃度が存在することが分かった。この実施例から、その十分条件として、PVP濃度は、80kg/mから105.6kg/mであることが示された。また、次に示す実施例から、PVP濃度は、120kg/mであることも、安定な酸化セリウム微粒子分散液を得るための十分条件であることが示された。
【0039】
【表1】

【実施例2】
【0040】
30cmのEG(和光純薬製)に、種々の平均分子量のPVPを加え、撹拌した。PVPの平均分子量のカタログ値とGPCによる分析値(ポリエチレングリコール換算)を表2に示す。PVPのAからFの順に、GPC分析による平均分子量は増大した。加えたPVPの濃度は、120kg/mとした。Ce(NO・6HOの濃度は、0.600kmol/mとした。混合物を加熱し、190℃で10−30分間加熱・還流した。
【0041】
表3に示す全てのサンプルで、加熱・還流実験中に、茶色のガスが発生し、その後、溶液は、白濁した。所定時間加熱・還流後、白濁した混合溶液(分散液)が得られた。分散液については、エチレングリコール(EG)で10倍に希釈したものも作製した。次に、未反応物及び余分なPVPを除去するために、白濁した溶液の一部を3000rpmから10000rpmの条件で遠心分離し、水及びエタノールで洗浄した。エタノールで洗浄後、80℃で乾燥させ、粉体を得た。
【0042】
実施例1に示した方法と同様の方法で、分散液の平均粒径、粘度、長期安定性を評価した。変動係数(c)については、DLS法で、平均粒径(d)と標準偏差(s)をContin法によるヒストグラム解析で求め、c=s/dで求めた。また、粉体については、SEM観察結果から、粒子形状、平均粒径、変動係数cを求めた。生成物の同定は、実施例1と同様の方法で求めた。平均粒径dは、SEM写真に撮影された90個以上の微粒子の粒径の平均値とした。変動係数(c)は、粒径の分布を求め、それの標準偏差sを求め、c=s/dで求めた。生成物は、XRDにより確認した。
【0043】
サンプル2−1から6の生成物は、全てCeOであった。微粒子の形状は、SEM観察により、サンプル2−1のみ凝集体で不均一であり、それ以外は球状であることが分かった(図3から7)。サンプル2−6のSEM写真では、粒子と粒子の間に繊維状のものが観察された。球状であるサンプルについて、SEM写真から平均粒径を求めると、表3のようになった。
【0044】
分子量(GPC分析値)が18000までは、分子量が増えるにつれ、平均粒径が小さくなることが分かった。分子量が18000を超えると、逆に粒径は大きくなった。変動係数については、サンプル2−2から6まで全て0.15以下であり、粒径分布が狭い、すなわち、ほぼ単分散であることが分かった。よって、PVPの分子量を制御することにより、ほぼ単分散であるコアシェル型酸化セリウム微粒子の平均粒径を自由に変えることが可能であることが示された。
【0045】
次に、分散液の特性について説明する。サンプル2−1から6の分散液の粘度は、分子量とともに増加した。DLSで求めた平均粒径は、サンプル2−1と6を除き、SEM観察結果から求めた平均粒径とほぼ一致した。よって、球状のコアシェル型酸化セリウム微粒子が、独立して分散液中に分散していることが、実施例2においても示された。
【0046】
サンプル2−1は、平均粒径が大きかった。これは、微粒子の形状が凝集体であることと一致した。また、すぐ沈殿し、分散液として安定性がなかった。サンプル2−6については、SEM観察結果からの平均粒径より、DLSで求めた平均粒径のほうが大きかった。これは、図7に示したように、粒子と粒子が繊維状のもので結合されたものが存在するため、平均粒径として大きくなったことによると考えられる。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
◎一ヶ月経過しても沈殿物が認められない。
○一ヶ月経過でわずかに沈殿物が認められる。
△一ヶ月経過で多くの沈殿物が認められる。
×2、3日ほどで沈殿物が認められる。
*原液での測定結果は、高粘度のため正確に求められなかった。このため、EG(エチレングリコール)で10倍に希釈したデータを用いた。
【実施例3】
【0050】
実施例2で示したサンプル2−2と同じ方法で、分散液を作製し、次に、分散媒置換の実験を、以下の手順で行った。遠心分離で分散媒と分散質を分離し、分離後の分散質にテルピネオールを加え、超音波ホモジナイザーを使い、分散させた。分散時間は、4minであり、冷却しながら、分散させた。分散媒置換後の分散液について、DLSにより平均粒径を求めた。その結果を表4に示す。粒径は、サンプル2−2とほぼ同じであった。よって、分散媒置換しても、コアシェル型酸化セリウム微粒子は、凝集なしに分散していることが確認できた。また、分散液は、非常に安定しており、10日以上放置しても分離しなかった。
【0051】
【表4】

【実施例4】
【0052】
実施例2で示したサンプル2−2の粉体(分散液から分離後の粉体)、及びエチレングリコールの体積は異なるが硝酸セリウムやPVPの濃度がサンプル3−2と同じ条件で作製した粉体について、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、熱重量分析(TG)及び透過電子顕微鏡(TEM)により、キャラクタリゼーションを行った。熱重量分析(TG)の結果、220℃付近で15%近い重量減少が認められた。すなわち、分散媒の沸点(190℃)よりも高温で重量が生じた。乾燥粉体を900℃まで加熱することにより、22wt%の重量減少があった。作製日が異なる別のサンプルでは、19wt%の重量減少であり、おおよそ19から22wt%の重量減少があることが分かった。
【0053】
また、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)の結果、酸化セリウムに起因するピーク以外のピークが観察された。上記乾燥粉体では、遠心分離と水やエタノールへの再分散を3回行っていることから、酸化セリウム微粒子と無関係な余分な高分子は除去されている。また、乾燥を行っていることから、分散媒も十分除去されている。よって、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)で観察された酸化セリウム以外の吸収ピークは、酸化セリウム微粒子表面に存在するものに起因するものであること、及び、それは、高分子の吸収と似ていること、が示された。
【0054】
また、透過電子顕微鏡(TEM)観察の結果(図8、9)から、粒子表面に5nm程度の高分子の層らしいものが観察された。これは、長時間の透過電子顕微鏡(TEM)観察により層が減少することも明らかになっており、電子線により分解していることも示唆された。以上のことから総合的に考えて、酸化セリウム微粒子の表面に高分子が付着していることが明らかとなった。
【0055】
サンプル2−2の粉体のXRDパターンのピークの半値幅から、Hallの式を使って結晶子(一次粒子)の大きさを求めると、約3nm程度であることが分かった。透過電子顕微鏡(TEM)観察の結果からも、一次粒子の大きさは、1から2nm以下であることが確認された。また、一次粒子間には、隙間などなく、高密度に一次粒子が集合した二次粒子であることが分かった。
【実施例5】
【0056】
30cmのEG(和光純薬製)に、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(分子量:15000から30000(和光純薬製))及びCe(NO・6HO(高純度化学製)を加え、撹拌した。加えたHPCの濃度は120kg/mとした。Ce(NO・6HOの濃度は0.600kg/mとした。混合物を加熱し、190℃で10分間加熱・還流した。加熱・還流実験中に、茶色のガスが発生し、その後、溶液は、白濁した。所定時間加熱・還流後、白濁した混合溶液(分散液)が得られた。次に、未反応物及び余分なHPCを除去するために、白濁した溶液の一部を18000rpmの条件で遠心分離し、水及びエタノールで洗浄した。80℃で乾燥させ、粉体を得た。
【0057】
生成物は、酸化セリウムであることがXRDにより確認できた。粉体のSEM観察から微粒子の形状は球状であることが確認できた。また、平均粒径は90.1nmであり、その変動係数は0.223であった。分散液の平均粒径は170.6nm(変動係数は0.182)であり、SEM観察から求められる平均粒径の約1.89倍であった。また、分散液は2週間放置しても安定に存在した。以上のことから、PVPの代わりに、HPCを用いて合成しても、分散液中での粒径はPVPを使った場合と比べ大きいが、安定性のある分散液が得られることが分かった。
【実施例6】
【0058】
30cmのジエチレングリコール(DEG)(和光純薬製)に、ポリマー及び酢酸亜鉛(Zn(CHCOO)・2HO:和光純薬製)を加え、撹拌した。ポリマーは、PVPを使用した。加えたPVPの濃度は、120kg/mとした。PVPの平均分子量は、カタログ値で10,000(シグマアルドリッチ製)である。Zn(CHCOO)・2HOの濃度は、0.05又は0.10kmol/mとした。混合物を加熱し、180℃で20min加熱・還流した。
【0059】
未反応物や、余分なポリマーを除去するために、白濁した溶液の一部を18000rpmの条件で遠心分離し、水及びエタノールで洗浄した。洗浄後、80℃で乾燥させ、粉体を得た。加熱・還流直後の混合溶液(原液)について、DLS法により、分散粒子の粒度分布を調査した。また、乾燥粉体をSEM観察し、その写真から粒度分布を調査した。サンプル6−1及びサンプル6−2は、それぞれZn(CHCOO)・2HOの濃度が0.10及び0.05kmol/mで作製したものである。
【0060】
サンプル6−1について調査した結果は、次の通りである。乾燥粉体のXRD分析の結果から、微粒子は酸化亜鉛であることが確認できた。図10に、得られた酸化亜鉛微粒子のSEM写真を示す。粒径のそろった球状の粒子が得られた。SEM写真から求めた粒径は、約340nmであり、その変動係数は、0.08と単分散であることが分かった。IRの結果、PVPに特徴的に存在する1650cm−1付近のピークが存在した。
【0061】
このことから、粒子表面にPVPあるいはそれに関連する高分子層が存在することが示された。TGの結果、900℃加熱による重量減少は6wt%であった。300℃付近に発熱を伴う重量減少があった。また、XRDパターンのピーク幅から求めた結晶子サイズは14nmであった。サンプル6−2では、SEM写真から求めた粒径は、600から800nmの範囲にあった。
【実施例7】
【0062】
30cmのEG(和光純薬製)に、平均分子量がカタログ値で10000のPVP(シグマアルドリッチ製)及びCe(NO・6HO(高純度化学製)を加え、撹拌した。加えたPVPの濃度は、120kg/mとした。Ce(NO・6HOの濃度は、0.600kmol/mとした。
【0063】
混合物を加熱し、種々の温度で加熱・還流した。実験条件を表5に示す。サンプル7−1から7−5までは、加熱・還流後の液は白濁していたため、実施例1とほぼ同様の方法で、分散液から微粒子を分離し、SEMやXRDによるキャラクタリゼーションを行った。サンプル7−6、7−7は、加熱・還流後も白濁しなかったため、サンプル7−6について、150℃で乾燥機を使って、乾燥又は80℃でエバポレータによる乾燥を行い、SEMやXRDによるキャラクタリゼーションを行った。150℃では、すぐに溶媒が揮発し、乾燥体が得られた。
【0064】
【表5】

【0065】
表5で明らかなように、加熱・還流温度が110℃以上と100℃以下では、明らかに異なる結果が得られた。表5の通り、加熱・還流温度が190℃より低くなるにつれ、白濁が開始するのに時間がかかった。また、濁りが強くなるのも温度が低いほうが時間がかかった。110℃以上の加熱・還流温度では、全て球状の粒子が観察され、コアシェル型の微粒子が得られることが示された。
【0066】
一方、100℃以下では、22時間加熱・還流しても白濁しなかった。加熱・還流後の溶液(分散液)は透明感が有り、白濁とはいえなかった。サンプル7−6を150℃で乾燥させた粉体のXRDパターンは、酸化セリウム(CeO)の回折ピークが見られ、また、エバポレータを使った80℃で乾燥させた粉体のXRDパターンにも、酸化セリウム(CeO)の回折ピークがわずかであるが見られた。
【0067】
これによって、粉体には、酸化セリウムが含有することが確認できた。サンプル7−6を150℃で乾燥させた粉体のSEM観察の結果、コアシェル型の粒子は観察されなかった。これによって、得られた粉体は、酸化物と高分子の複合組成物と考えられる。以上のことから、加熱・還流温度が110℃より低い場合は、コアシェル型の微粒子は得られないことが分かった。逆に言い換えると、コアシェル型の酸化セリウム微粒子を得るには、110℃以上の温度が必要であることが分かった。
【実施例8】
【0068】
実施例2で示したサンプル2−2をエタノールに再分散させた再分散液を50℃に加熱して、エタノールを蒸発させ、針状の結晶状サンプル(サンプル8−1)を得た。これを光学顕微鏡及びSEMで観察した結果、コアシェル型酸化セリウム微粒子が三次元的に集積していることが分かった。
【0069】
サンプル8−1について、紫外可視光域での反射率を顕微紫外可視近赤外分光光度計により測定した結果を図11に示す。333nm付近にピークが存在する。これは、酸化セリウム微粒子の周期配列に起因するピークと考えられる。これによって、サンプル8−1は、フォトニック結晶である可能性が高いことが示された。
【実施例9】
【0070】
実施例2のサンプル2−2と加熱・還流時間以外は同じ方法で作製した粉体を500℃5h空気中で熱処理を加えたサンプル9−1のSEM観察結果を図12に示す。この温度では、ほとんどの高分子層が燃焼しており、粉体にほとんど残留していない。このため、コアシェルではなく、コアだけの酸化セリウム微粒子のSEM像であり、球状で大きさがほぼ揃っていることが分かった。また、熱処理後、高分子層がなくなっても、一次粒子がばらばらになることはなく、一次粒子が球状に集合した二次粒子が存在できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上詳述したように、本発明は、コアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法及びその分散液に係るものであり、本発明により、長期安定性を有するコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液及びその粉体を作製し、提供することができる。本発明のコアシェル型金属酸化物微粒子を含む分散液は、例えば、触媒、フォトニック結晶、ガスセンサ、化学的機械的研磨剤、紫外線遮蔽剤、接合用ペーストなどに応用可能である。本発明は、高分子の分子量によって金属酸化物微粒子の粒径を制御して任意の粒径のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液を合成することができるコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の新規製造方法及びその製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】サンプル1−2のSEM像を示す。
【図2】サンプル1−3のSEM像を示す。
【図3】サンプル2−2のSEM像を示す。
【図4】サンプル2−3のSEM像を示す。
【図5】サンプル2−4のSEM像を示す。
【図6】サンプル2−5のSEM像を示す。
【図7】サンプル2−6のSEM像を示す。
【図8】サンプル2−2の粉体のTEM像、及びエチレングリコールの体積は異なるが硝酸セリウムやPVPの濃度がサンプル2−2と同じ条件で作製した粉体のTEM像を示す。黒いコアの部分が酸化物であり、これは、一次粒子が球状に集合したものである。周りの淡い灰色のシェルの部分は、高分子層である。
【図9】サンプル2−2の粉体、及びエチレングリコールの体積は異なるが硝酸セリウムやPVPの濃度がサンプル2−2と同じ条件で作製した粉体の高倍率のTEM像を示す。酸化セリウム一次粒子が高密度に集積している。
【図10】実施例6で得られた酸化亜鉛微粒子のSEM像を示す。
【図11】サンプル8−1の顕微紫外可視近赤外分光光度計による測定結果を示す。
【図12】サンプル9−1のコア部分だけの酸化セリウム微粒子(二次粒子のみ)のSEM像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩と高分子を高沸点有機溶媒に混合して混合物を得る工程と、その混合物を110℃以上の温度で加熱・還流して金属酸化物を析出させる工程とからなることを特徴とする、前記金属酸化物の一次粒子が球状に集合した二次粒子表面に前記高分子又はその関連高分子の層が存在するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記コアシェル型金属酸化物微粒子の粒径の変動係数が、0.25より小である、請求項1に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られる分散液の溶媒中の未反応イオン及び高分子を除去する工程と、新たに溶媒を加える工程とを含むことを特徴とするコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記コアシェル型金属酸化物微粒子分散液が、1日以上静置させても沈降が認められない安定性を有する、請求項1から3のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記金属塩が、硝酸塩又は酢酸塩である、請求項1から4のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記高分子の分子量を大きくすることによって、金属酸化物微粒子の粒径を小さくする、請求項1から5のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記高分子の濃度(単位有機溶媒体積当たりに添加した高分子重量)が80kg/mから120kg/mである、請求項1から6のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記高分子が、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルセルロースであり、かつ、前記高分子又はその関連高分子の層が、洗浄によって分離しない、請求項1から7のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
前記金属塩の濃度が、0.05kmol/m以上である、請求項1から8のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
前記高沸点有機溶媒が、エチレングリコール又はジエチレングリコールのポリオールである、請求項1から9のいずれかに記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項11】
前記硝酸塩又は酢酸塩が、硝酸セリウム又は酢酸亜鉛である、請求項5に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液の製造方法。
【請求項12】
コアシェル型金属酸化物微粒子の粒径が、30nmから1000nmである、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の製造方法により得られる金属酸化物の一次粒子が球状に集合した二次粒子表面に高分子層が存在するコアシェル型金属酸化物微粒子分散液であって、1)酸化物の一次粒子が球状に凝集している、2)該凝集粒子(二次粒子)の表面で架橋反応による強固な高分子層が形成されている、3)分散媒に分散している、ことを特徴とする上記コアシェル型金属酸化物微粒子分散液。
【請求項14】
請求項13に記載のコアシェル型金属酸化物微粒子分散液を乾燥させた、分散性の良好な乾燥粉体からなることを特徴とするコアシェル型金属酸化物微粒子粉体。

【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−111114(P2008−111114A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260044(P2007−260044)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】