説明

コイン形リチウム電池

【課題】 負極と負極端子板との位置ずれが少なく、その位置ずれに基づく負荷特性の低下や内部短絡の発生が少ないコイン形リチウム電池を提供する。
【解決手段】 負極活物質としてリチウムまたはリチウム合金を用い、上記リチウムまたはリチウム合金を負極端子板の内面に圧着して負極を構成するコイン形リチウム電池において、上記負極端子板の負極と接する面の少なくとも一部をRaが7以上100以下の表面粗さに粗面化してコイン形リチウム電池を構成する。
前記負極端子板としては、ステンレス鋼または鉄を基材とするものであることが好ましく、また、前記負極端子板の負極と接する面には、ニッケルメッキを施しておくことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイン形リチウム電池に関し、さらに詳しくは、負極と負極端子板との位置ずれが少なく、その位置ずれに基づく負荷特性の低下や内部短絡の発生が少ないコイン形リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極にリチウムまたはリチウム合金を用いたリチウム電池は、容量が大きく、長寿命で、重負荷パルス特性が優れていることから、種々の用途に使用され、それをコイン形にしたコイン形リチウム電池も、前記のようなリチウム電池特有の優れた特性を有することから、パソコン、メモリーカードなどのメモリバックアップ電源や、電卓、腕時計、リモコンなどの電源として使用されている。
【0003】
そして、そのようなコイン形リチウム電池では、負極を構成するリチウムまたはリチウム合金を負極端子板の内面に圧着する構造を採用している(特許文献1)。しかしながら、コイン形リチウム電池の製造にあたって、負極端子板の内面にリチウムまたはリチウム合金を圧着する際に適正位置からのずれが生じ、そのずれによって、負荷特性が低下したり、内部短絡が発生するという問題があった。
【特許文献1】特開昭55−56370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のようなコイン形リチウム電池における事情に鑑み、負極のリチウムまたはリチウム合金と負極端子板との位置ずれが少なく、その位置ずれに基づく負荷特性の低下や内部短絡の発生が少ないコイン形リチウム電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、負極活物質としてリチウムまたはリチウム合金を用い、上記リチウムまたはリチウム合金を負極端子板の内面に圧着して負極を構成するコイン形リチウム電池において、上記負極端子板の負極と接する面の少なくとも一部をRa7以上100以下の表面粗さに粗面化することによって、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、負極と負極端子板との位置ずれが少なく、そのずれに基づく負荷特性の低下や内部短絡の発生が少ないコイン形リチウム電池を提供することができる。
【0007】
すなわち、本発明では、負極端子板の負極と接する面を粗面化しているので、電池組立時に、リチウムやリチウム合金を負極端子板の内面に圧着したときに、リチウムまたはリチウム合金が負極端子板の所定位置からずれることが少なくなる。その結果、従来のコイン形リチウム電池で見られたような負極と負極端子板との位置ずれに基づく負極と正極との対向面積の減少による負荷特性の低下や負極が大きく所定位置からずれてセパレータよりはみ出して正極や正極缶に接触して内部短絡を引き起こすのが少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、負極端子板の基材としては、特に限定されることはないものの、通常、ステンレス鋼や鉄などが好適に用いられ、この負極端子板の少なくとも負極と接する面にはニッケルメッキを施しておくことが好ましい。すなわち、負極端子板の基材がステンレス鋼の場合は、接触抵抗を小さくするためにニッケルメッキを施しておくことが好ましく、また、負極端子板の基材が鉄の場合には、上記のような接触抵抗の低減に加えて、腐食防止の観点からもニッケルメッキを施しておくことが好ましい。
【0009】
そして、本発明においては、この負極端子板の負極と接する面の少なくとも一部をRa7以上100以下の表面粗さに粗面化しておくことを必要としているが、このRaとはJIS B 0601に規定される中心線平均粗さを意味し、上記Raが7より小さい場合は、負極と負極端子板との位置ずれの発生を充分に防止することができず、また、上記Raが100より大きい場合は、負極と負極端子板との接触が点接触となって、負極が負極端子板の所定位置からずれやすくなり、Raが7以上100以下の範囲内にある場合にのみ、負極と負極端子板とのずれを少なくすることができ、特にRaが15以上50以下が好ましい。
【0010】
そして、上記負極端子板の負極と接する面の少なくとも一部を粗面化する手段としては、例えば、圧延ローラでステンレス鋼板や鉄板などを圧延する方法、ステンレス鋼板や鉄板などを負極端子板の形状にプレスする際に凹凸のあるパンチでプレスする方法、作製後の負極端子板を傷付ける方法などを採用することができるが、上記の圧延ローラーでステンレス鋼板や鉄板などを圧延する方法では、圧延ローラーを変えることによって、粗面化の程度を調整することができるので、特に適している。
【0011】
なお、本発明においては、コイン形リチウム電池を対象とするが、そのコイン形とは、高さに比べて径が大きいものであればよく、電池業界においてボタン形電池と呼ばれているもののボタン形との間に格別の差異はなく、ボタン形リチウム電池と呼ばれているものも、本発明のコイン形リチウム電池の範囲内に含まれる。
【0012】
また、本発明における負極端子板は、周辺折り返し部を有するものであるが、電池業界において負極缶と呼ばれているものとの間に格別の差異はなく、コイン形リチウム電池やボタン形リチウム電池において、負極缶と呼ばれているものも本発明における負極端子板の範囲内に含まれる。
【0013】
本発明において、負極を構成する負極活物質としては、リチウムまたはリチウム合金を用いるが、そのリチウム合金としては、例えば、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−鉛合金、リチウム−ビスマス合金、リチウム−インジウム合金などの二元系リチウム合金や、リチウム−インジウム−ガリウム合金などの三元系リチウム合金が挙げられ、それらの中でも特にリチウム−アルミニウム合金が好適に用いられる。
【0014】
上記負極の対極となる正極の活物質としては、特に限定されることはないが、例えば、マンガン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、銅、鉄、ニオブなどの酸化物、それらの複合酸化物、それらとリチウムとの複合酸化物、フッ化黒鉛などが用いられる。
【0015】
そして、正極の作製にあたっては、例えば、上記の正極活物質と導電助剤とバインダーとを混合して調製した正極合剤を加圧成形することが行われる。ただし、正極の作製方法は、上記例示の方法のみに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0016】
上記導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、鱗片状黒鉛、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、繊維状炭素などが用いられ、バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンラバーなどが用いられる。
【0017】
電解液としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルや、1,2−ジメトキシエタン、ジグライム(ジエチレングリコールメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシメタン、テトラヒドロフランなどのエーテルより選ばれる1種の溶媒または2種以上の混合溶媒に電解質を0.3〜2.0mol/l程度の濃度に溶解させることによって調製した有機電解液が用いられる。
【0018】
上記電解質としては、例えば、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiClO、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSOなどが用いられる。
【0019】
セパレータとしては、微孔性樹脂フイルム、樹脂不織布のいずれも用いることができる。その材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィンのほか、耐熱用として、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられる。また、上記材質の微孔性樹脂フィルムと樹脂不織布とを複数積層したり、微孔性樹脂フィルム同士や樹脂不織布同士を複数積層することによってセパレータを構成してもよい。
【0020】
本発明のコイン形リチウム電池は、上記正極、負極、電解液およびセパレータなどを含む発電要素を、正極缶、負極端子板および環状ガスケットで構成される空間内に収容することによって構成される。正極缶としては、その材質に関して特に限定されることはないが、例えば、ステンレス鋼製のものが好ましく、また、環状ガスケットとしては、例えば、ポリプロピレン製のものや、ナイロン製のもののほか、耐熱用に、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などで構成したものを用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例に例示のもののみに限定されることはない。
【0022】
実施例1
負極端子板として圧延ローラーでステンレス鋼板を圧延して一方の面を粗面化した後、その粗面化した側が内面側になるようにしてプレス加工して負極端子板の形状にし、さらにニッケルメッキを施したものを用いた。この負極端子板の負極と接する面の表面粗さRaは20であった。
【0023】
この負極端子板の内面、すなわち、Ra=20に粗面化した面に、直径16mm、厚さ0.6mmのリチウム板を圧着することによって、負極を構成し、その負極上にポリプロピレン不織布からなるセパレータを載置し、そこに電解液を注入した。この電解液はプロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとの体積比1:1の混合溶媒にLiClOを0.5mol/lの濃度に溶解することによって調製したものである。
【0024】
それとは別に、二酸化マンガン92質量部と黒鉛7質量部とポリテトラフルオロエチレン1質量部とを混合することによって正極合剤を調製し、この正極合剤を直径16mm×厚み1.8mmに加圧成形して正極を作製し、その正極を前記電解液注入後のセパレータ上に載置し、その上からステンレス鋼製の正極缶を被せ、正極缶の開口端部を内方に締め付けて、負極端子板の周辺折り返し部にあらかじめ取り付けておいたポリプロピレン製の環状ガスケットを正極缶の開口端部の内周面と負極端子板の周辺折り返し部とに圧接させて正極缶の開口部を封口することによって、図1に示す構造で直径20mm、高さ3.2mmのコイン形リチウム電池を作製した。
【0025】
図1において、1は負極端子板であり、2は負極であって、上記負極端子板2は、前記のように、ステンレス鋼製で、その表面にはニッケルメッキが施され、その負極2と接する面は図2に示すように粗面化されており、その表面粗さRaは20であった。上記負極2は前記のようにリチウム板を上記負極端子板1の内面に圧着することによって構成したものであり、3はステンレス鋼製の正極缶であり、4は前記のように二酸化マンガンを活物質とする正極であり、この正極4と前記負極2との間にはポリプロピレン不織布からなるセパレータ5が配置し、6はポリプロピレン製の環状ガスケットである。そして、前記の負極2、正極4、電解液、セパレータ5などを含む発電要素は、負極端子板1、正極缶3および環状ガスケット6で構成される空間内に収容されている。
【0026】
実施例2
負極端子板として、その負極と接する面がRa=7に粗面化されているものを用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0027】
実施例3
負極端子板として、その負極と接する面がRa=15に粗面化されているものを用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0028】
実施例4
負極端子板として、その負極と接する面がRa=50に粗面化されているものを用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0029】
比較例1
負極端子板として、その負極と接する面を実質上粗面化していないもの(Ra=1のもの)を用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0030】
比較例2
負極端子板として、その負極と接する面がRa=2のものを用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0031】
比較例3
負極端子板として、その負極と接する面がRa=5のものを用いた以外は、実施例1と同様にコイン形リチウム電池を作製した。
【0032】
上記実施例1〜4の電池と比較例1〜3の電池をそれぞれ1000個ずつ製造する際の負極端子板の内面へのリチウム板の圧着工程での位置ずれの発生率を調べた結果を表1に示す。
【0033】
負極端子板の内面へのリチウム板の圧着は、まず、負極端子板の内面の所定位置にリチウム板を挿入し、リチウム板の上部から、押圧棒で仮圧着を2回行った後、本圧着を行うことにより行った。この本圧着の際に、負極端子板の負極のリチウム板と接する面の表面粗さの相違により、表1に示すように、負極と負極端子板との位置ずれの発生率に相違を生じる。ここで、負極と負極端子板との位置ずれとは、負極のリチウム板が負極端子板の平面部のみでなく、肩部(側壁部)までリチウム板の一部が飛び出していることをいう。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、実施例1〜4は、比較例1〜3に比べて、負極と負極端子板との位置ずれの発生が少なく、上記ずれに基づく負荷特性の低下や短絡の発生が少ないことを示していた。すなわち、負極端子板の負極と接する面が実質上粗面化されていない比較例1や粗面化の程度が少ない比較例2〜3は、本圧着時にリチウム板が負極端子板の所定位置からの位置ずれを生じやすかったが、Raを適正範囲内に粗面化した実施例1〜4では、本圧着時にリチウム板が負極端子板の所定位置から位置ずれが生じにくく、負極と負極端子板との位置ずれの発生が少なかった。
【0036】
なお、上記実施例1〜4の電池および比較例1〜3の電池(ただし、負極と負極端子板との位置ずれが生じていないもの)について、20℃、15kΩで、終止電圧2.0Vまで連続放電させ、その放電容量を調べたところ、実施例1〜4の電池の放電容量は220〜225mAhであり、比較例1〜3の電池(ただし、負極と負極端子板との位置ずれが生じていないもの)の放電容量は210〜225mAhであって、実施例1〜4の電池において、負極端子板の負極と接する面を粗面化したことによる放電容量の低下は認められなかった。
【0037】
なお、上記実施例では、平面形状が円形のコイン形リチウム電池について説明したが、最近は、平面形状が角形のコイン形リチウム電池も開発されており、本発明は実施例で示したような平面形状が円形のコイン形リチウム電池だけに限定されることなく、平面形状が角形のコイン形リチウム電池にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のコイン形リチウム電池の一例を概略的に示す断面図である。
【図2】図1に示すコイン形リチウム電池の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 負極端子板
2 負極
3 正極缶
4 正極
5 セパレータ
6 環状ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質としてリチウムまたはリチウム合金を用い、上記リチウムまたはリチウム合金を負極端子板の内面に圧着して負極を構成するコイン形リチウム電池であって、上記負極端子板の負極と接する面の少なくとも一部がRa7以上100以下の表面粗さに粗面化されていることを特徴とするコイン形リチウム電池。
【請求項2】
前記負極端子板が、ステンレス鋼または鉄を基材としていることを特徴とする請求項1記載のコイン形リチウム電池。
【請求項3】
前記負極端子板の負極と接する面に、ニッケルメッキが施されていることを特徴とする請求項1または2記載のコイン形リチウム電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−66167(P2006−66167A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246122(P2004−246122)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】