説明

コサイン変換を使用する形状表現

虹彩の内側または外側境界を近似する方法は、最小二乗近似を含む近似境界表現(20)を、固定点(A)からの境界上の計測点(10)の距離の、固定点(A)に関する角度(θ)の関数のコサイン変換級数によって生成する段階を含む。より広義には、方法は、任意の二次元曲線または模様の形状を近似するために使用することができる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コサイン変換を使用する形状表現に関する。本発明は、バイオメトリックスにおいて、たとえば、人の眼の虹彩の外側および/または内側境界の近似表現の生成において、具体的かつ非排他的な用途を有する。
【背景技術】
【0002】
GhoshおよびJain (「An Algebra of Geometric Shapes」, IEEE Computer Graphics and Applications, 1993, 50(非特許文献1))は、形状の外周をトラッキングすることによってその形状の輪郭をモデル化するための高速フーリエ変換(FFT)の使用を記載している。
【0003】
虹彩認識に依存するバイオメトリックスシステムにおいては、虹彩の外縁および内縁(瞳孔の周)の両方を正確に識別し、マッピングすることができることが非常に重要である。多くの虹彩認識システムは、瞳孔の形状が常に円形であると仮定するが、これは、多くの場合、不正確であり得る仮定である。実際には、瞳孔が円形である場合でさえ、瞳孔は、斜めから見た場合、細長い形または長円形になる傾向がある。
【0004】
非円形瞳孔位置測定に関する研究がいくらか実施されている。B. Bonney, R. Ives, D. Etter, and D. Yingzi, 「Iris pattern extraction using bit planes and standard deviations」, Conference Record of the Thirty-Eighth Asilomar Conference on Signals, Systems and Computers, 2004(非特許文献2)、Y. Du, B. L. Bonney, R. W. Ives, D. M. Etter, and R. Schultz, 「Analysis of Partial Iris Recognition Using a 1-D Approach」, Proceedings of the 2005 IEEE International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing, March 18-23, 2005(非特許文献3)を参照すること。しかし、これら早期の取り組みにもかかわらず、多数の点(等間隔でなくてもよい)を上に与えられた境界を直接的な方法で近似することができるシステムの必要性がなおも残る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】GhoshおよびJain ,「An Algebra of Geometric Shapes」, IEEE Computer Graphics and Applications, 1993, 50
【非特許文献2】B. Bonney, R. Ives, D. Etter, and D. Yingzi, 「Iris pattern extraction using bit planes and standard deviations」, Conference Record of the Thirty-Eighth Asilomar Conference on Signals, Systems and Computers, 2004
【非特許文献3】Y. Du, B. L. Bonney, R. W. Ives, D. M. Etter, and R. Schultz, 「Analysis of Partial Iris Recognition Using a 1-D Approach」, Proceedings of the 2005 IEEE International Conference on Acoustics, Speech, and Signal Processing, March 18-23, 2005
【発明の概要】
【0006】
本発明の第一の局面にしたがって、虹彩境界を近似する方法であって、
・虹彩境界を含む眼の画像を取得する工程、
・該境界上の複数の離間した境界点を注記する工程、
・固定基準点を選択する工程、および
・最小二乗近似を含む近似境界表現を、コサイン変換級数により、該固定点からの該境界点の距離の、該固定点に関する角度の関数として生成する工程
を含む方法が提供される。
【0007】
境界上の点は等間隔ではないかもしれないため、係数を計算する標準的方法、たとえば離散コサイン変換(DCT)を使用することはできない。
【0008】
好ましくは、この方法は、人の眼の虹彩の内側境界(または、等しくは、瞳孔の外側境界)をマッピングするために使用される。または、外側虹彩境界をマッピングするために使用することもできる。
【0009】
記載された方法では、高次調和関数の使用が、一般的な眼の画像および非理想的な眼の画像の両方に関して優れた瞳孔位置測定を提供する。この方法は、有意に非円形である大多数の瞳孔に関して優れた結果を提供する。
【0010】
本発明の第二の局面にしたがって、二次元形状を近似する方法であって、
・固定基準点を選択する工程、および
・最小二乗近似を含む近似形状表現を、コサイン変換級数により、該固定点からの該計測点の距離の、該固定点に関する角度の関数として生成する工程
を含む方法が提供される。
【0011】
本発明は、多数の方法で実施することができるが、一つの具体的な方法を、添付図面を参照しながら例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】撮像されたとおりの非円形の瞳孔形状を示す図である。
【図2】その形状への近似を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の態様を特定の問題、すなわち、非円形の瞳孔形状を特徴付けする問題に適用する方法を説明する。
【0014】
まず、眼を撮像し、その画像を解析して、撮像された瞳孔/虹彩境界12上に生じる複数の点10を識別することができる。これを行うために、まず、画像中心に近い有意なサイズの暗い区域をサーチすることにより、近似瞳孔位置を決定することができる。次いで、ヒストグラム解析を実施して、より正確な中心および平均瞳孔半径を見いだすことができる。次いで、この近似円形瞳孔境界を詳細に審査して、必要な数の縁点10を得ることができる。好ましい態様では、16個のそのような点が識別される。当業者には、他の方法を使用して瞳孔/虹彩境界上の点を位置決定してもよく、請求項に係わる主題の範囲がこれに関して限定されないということが理解されよう。
【0015】
また、点10が必ずしも瞳孔の縁に沿って等間隔でなくてもよいということが理解されよう。実際に、一部の画像では、境界14の一部がまぶたおよび/またはまつげ16によって不明瞭になることがある。
【0016】
ひとたび境界点10が識別されたならば、それらの点を使用して、図2に示すような実際の曲線12の数学的近似20を生成することができる。本発明では、あてはめられた曲線20は、概念的固定点A (図1を参照)からの点10の距離の、角度θの関数としての、コサイン変換級数最小二乗近似である。
【0017】
本発明者らは、既知または仮想中心からの平面中の曲線の距離d (θ)を、1D離散コサイン変換(DCT)の変化の形態の角度θの調和関数として表すことを望む。簡約のため、関数d(θ)がθで単一値化されるものと仮定する。N個の係数{Cn;n=0・・・N-1}からの逆変換は以下のとおりである。

【0018】
標準的離散コサイン変換は、サンプル点の間で等リプル性を有する、チェビシェフ多項式に関連する規則的に離間したデータのあてはめである。
【0019】
しかし、本出願では、あてはめられる点{rii;i=1・・・M}は、θiが不規則であるかもしれない。
【0020】
あてはめにおける誤差が
E(θi)=d(θi)-ri
であるならば、本発明者らは、

の二乗の和を最小化する{Cn;n=0・・・N}を見いだすことを望む。
【0021】
これを行うため、本発明者らは、Ckに関して微分し、=0にする:

【0022】
これから、

である。
【0023】
これが、
PC=S
として行列形態で表すことができる、未知数{Cn;n=0・・・N-1}におけるN個の一次方程式を与える。
式中、未知数は

によって与えられ、右辺は

によって与えられ、

である。
【0024】
そして、N×N行列Pは、k=0・・・N-1およびn=1・・・N-1の場合、

である。
【0025】
行列Pは対称行列である。これを、標準的数値法を使用してMおよびNに関して解くと、M個の所与の点へのN個の係数による近似を得ることができる:
C=P-1S
【0026】
M≧Nの場合、上記方程式は、実際の境界上の各計測点100と、あてはめられた境界20のもっとも近く合致する点101との間の二乗平均平方根(RMS)誤差を最小限にする。係数の数が1である場合、あてはめられる曲線は円であり、係数の数が増すにつれ、RMS誤差は一般に減少する。実際には、五つの係数を使用することにより、虹彩近似において良好な結果を得ることができることがわかった。
【0027】
瞳孔の境界(または、等しくは、虹彩の内側境界)をモデル化することに加えて、本態様はまた、虹彩の外側境界の形状をモデル化するために使用することもできる。ひとたび内側および外側境界が決定されたならば、内側境界と外側境界との間の虹彩画像の特徴に基づく普通の方法でバイオメトリックス識別を進めることができる。
【0028】
固定点A (図1)の位置は重要ではなく、瞳孔の近似中心が、採用するのに好都合な点であるが、他の点が除外されるわけではない。境界の外に位置する点でさえあてはめられる。当然、固定点が境界の外に位置するならば、得られる関数はもはやθで単一値化されず、それに関して対応する許容が加えられなければならない。
【0029】
距離における大きなばらつきがあるならば、ときには、マルチパス手法(第一のあてはめを実施し、カットオフ値よりも大きい異常値を除外し、計算を繰り返す)を使用して改善されたあてはめを達成することもできる。カットオフ値は、固定されていてもよいし、データ依存性、たとえば所与の数の標準偏差であってもよい。
【0030】
上記方法は、内側および外側虹彩境界のあてはめに加えて、多様な他の曲線および/または境界のあてはめにも用途を見いだすことができることが理解できよう。固定基準点の適当な選択により、方法は、簡単な曲線線分のような開放形状を近似するために使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虹彩境界を近似する方法であって、
(a) 虹彩境界を含む眼の画像を取得する工程、
(b) 該境界上の複数の離間した境界点を注記する工程、
(c) 固定基準点を選択する工程;および
(d) 最小二乗近似を含む近似境界表現を、コサイン変換級数により、該固定点からの該境界点の距離の、該固定点に関する角度の関数として生成する工程
を含む方法。
【請求項2】
近似境界表現が、一次方程式の系
PC=S
またはその数学的等価物を未知数行列Cに関して数値的に解くことによって生成され:
式中、

および

であり、

であり、
Pは、k=0・・・N-1およびn=1・・・N-1の場合、

および

によって与えられるN×N行列である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
境界が瞳孔/虹彩境界である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
境界が外側虹彩境界である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
境界点のすべてが等間隔であるわけではない、請求項1記載の方法。
【請求項6】
固定基準点が虹彩境界の近似中心にある、請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程(d)ののち、境界表現からの選択された距離よりも遠くに位置する任意の境界点を除外し、次いで工程(d)を繰り返す、請求項1記載の方法。
【請求項8】
二次元形状を近似する方法であって、
(a) 形状上の複数の離間した計測点を注記する工程、
(b) 固定基準点を選択する工程;および
(c) 最小二乗近似を含む近似形状表現を、コサイン変換級数により、該固定点からの該計測点の距離の、該固定点に関する角度の関数として生成する工程
を含む方法。
【請求項9】
近似形状表現が、一次方程式の系
PC=S
またはその数学的等価物を未知数行列Cに関して数値的に解くことによって生成され、
式中、

および

であり、

であり、
Pは、k=0・・・N-1およびn=1・・・N-1の場合、

および

によって与えられるN×N行列である、
請求項9記載の方法。
【請求項10】
計測点のすべてが等間隔であるわけではない、請求項9記載の方法。
【請求項11】
固定基準点が形状の近似中心にある、請求項9記載の方法。
【請求項12】
工程(c)ののち、形状表現からの選択された距離よりも遠くに位置する任意の境界点を除外し、次いで工程(c)を繰り返す、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−517127(P2010−517127A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545907(P2009−545907)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050372
【国際公開番号】WO2008/087129
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(509191399)
【Fターム(参考)】