説明

コネクタ用銀めっき端子

【課題】下地の銅の表面への拡散を抑制することが出来ると共に、端子の挿抜が良好で耐摩耗性に優れたコネクタ用銀めっき端子を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる母材2の表面が、銀めっき層3により被覆されたコネクタ用銀めっき端子1であり、前記銀めっき層3は、母材2側となる下層側の第一の銀めっき層31と、該第一の銀めっき層31の上に形成され、銀めっき端子1の表面に露出する上層側の第二の銀めっき層32とから構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに用いられる、表面に銀めっきが施された端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の電気部品等を接続するコネクタ端子は、一般に、銅又は銅合金などの母材の表面に錫めっきなどのめっきが施されている電気接点用端子が用いられていた。ところで、ガソリンエンジンと電動機を併用するハイブリッドカーや、電気自動車等では高出力モーターが使用される。そして高出力モーターの配線や端子等は、通電電流が大きくなる。コネクタ端子に大電流が流れると、発熱も大きくなる。また、電流容量に合わせて端子も大きくなるため、挿入力が大きくなり、挿入時の端子表面へのダメージも大きくなる。
【0003】
従来の錫めっき端子は、このような大電流で使用される場合には、耐熱性が不十分であり、挿抜が困難になると予想される。そこで、大電流が使用されるコネクタ端子として、錫めっきの代りに銀めっき端子を用いる試みがある。また電気接点用銀メッキ端子として、銀の結晶粒径を5μm以上としたものが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−2940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銀めっきは貴金属であり、耐食性に優れ、融点も高いことから耐熱性のめっきとして、電力、重機などでは古くから利用されている。しかし、下地が銅の表面に銀メッキを施した場合、銅と合金化は生じないものの、上記特許文献1にも記載されているように、銀メッキ層の結晶粒界から銅成分が拡散し、銀メッキ層の表面の銅成分の濃度が高くなるという問題がある。端子表面の銅成分は酸化されやすい。銅成分が酸化すると、接触抵抗が大きくなる。端子表面の銅成分の濃度が高くなると、接触抵抗の増大を引き起こす。その結果、端子が大電流で使用された場合の発熱が大きくなってしまう等、電気的接続性能を低下させる虞がある。
【0006】
これに対し上記特許文献1に記載されているように、銀めっき層の結晶粒を大きくすると、下地の銅成分の表面への拡散が防止できるものである。しかし、銀めっき層は、再結晶により結晶粒径が増大し易い。例えば200〜300℃程度の熱で、再結晶して結晶粒が大きくなってしまう。このように銀めっき層の結晶粒が増大すると、コネクタ端子同士が密着して、端子の挿抜が困難になる虞がある。また、銀めっき層の結晶粒が大きくなると、硬度が低くなることから、コネクタ端子として使用した場合に、端子同士の挿抜力が大きくなったり、摩耗が大きくなるといった問題がある。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、下地の銅の表面への拡散を抑制することが出来ると共に、端子の挿抜が良好で耐摩耗性に優れたコネクタ用銀めっき端子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のコネクタ用銀めっき端子は、銅又は銅合金からなる母材の表面が銀めっき層により被覆されているコネクタ用銀めっき端子において、銀めっき層が、下層側の第一の銀めっき層と、該第一の銀めっき層の上層側の第二の銀めっき層とからなり、第一の銀めっき層の結晶粒径が第二の銀めっき層の結晶粒径よりも大きいことを要旨とする。
【0009】
上記本発明コネクタ用銀めっき端子において、第一の銀めっき層の結晶粒径が平均粒径で2μm以上になるように構成したり、第一の銀めっき層の厚さが4μm以上になるように構成したり、第二の銀めっき層の厚さが2μm以上になるように構成したり、銀めっき層の全厚さが6μm以上になるように構成することができる。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明のコネクタ用銀めっき端子によれば、銀めっき層を結晶粒径の異なる第一の銀めっき層と第二の銀めっき層とから構成し、下層側の第一の銀めっき層の結晶粒径が、表面側の第二の銀めっき層の結晶粒径よりも大きく構成したことにより、下層側の第一の銀めっき層の結晶粒径は、第一の銀めっき層よりも大きいので、下地の銅が表面に拡散するのを良好に抑制することが出来る。更に表面側の第二の銀めっき層は、下層側の第一の銀めっき層よりも結晶粒径が小さいので、硬度が高くなり端子の挿抜性が良好で耐摩耗性に優れている。このように本発明によれば、従来は困難であった、大電流で使用された際に接触抵抗の低い優れた電気的特性と、挿抜性や耐摩耗性との両方を共に満足するコネクタ用銀めっき端子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の銀めっき端子の表面の断面図である。本発明のコネクタ用銀めっき端子(以下、単に銀めっき端子ということもある)1は、銅又は銅合金からなる母材2の表面が、銀めっき層3により被覆されているものである。そして前記銀めっき層2は、母材2側となる下層側の第一の銀めっき層31と、該第一の銀めっき層31の上に形成され、銀めっき端子1の表面に露出する上層側の第二の銀めっき層32とから構成される。
【0012】
母材2は、コネクタ用端子の基材として用いられるものであり、銅又は銅合金等から形成されている。また母材2は、銅又は銅合金以外の材料(例えば鋼、アルミニウム等)の表面を銅又は銅合金で被覆したものでも良い。
【0013】
第一の銀めっき層31は、下層の母材2から銅が拡散するのを抑制するための層であり、結晶粒径が第二の銀めっき層32の結晶粒径よりも大きく形成されている。銀めっき層において結晶粒径が大きい程、下地の銅が表面の銀めっき層に拡散するのを防止する効果が大きくなる。第一の銀めっき層31の結晶粒径は、平均粒径で2μm以上であるのが好ましい。また第一の銀めっき層31の厚さAは、厚くなると下地の銅の拡散防止効果が大きくなると共に、銀めっき層の表面から酸素が該層の内部に浸透し難くなり、下地である母材2の銅の酸化防止効果が大きくなる。このような点から第一の銀めっき層31の厚さAは3μm程度であればよいが、4μm以上に形成することが好ましい。第一の銀めっき層31の厚さAの上限は特に限定されず、銀めっき端子が使用される環境や用途等に応じて適宜設定することができる。
【0014】
第二の銀めっき層32は、銀めっき端子1の表面に存在し、他のコネクタ端子と直接接触する部分となる。銀めっき端子1は、第二の銀めっき層32が硬くなる程、コネクタ端子1を他の端子と挿抜する際にし易くなり、また挿抜による摩耗防止効果が大きくなる。銀めっき層の硬さと結晶粒径の関係は、下記の(1)式のホールペッチの式で表される。ホール・ペッチの式に示すように、銀めっき層の硬さ(降伏強度)は、結晶粒径の大きさと反比例して、結晶粒径が小さくなるほど大きくなる。第二の銀めっき層32の結晶粒径は、第一の銀めっき層31の結晶粒径よりも小さくなるように構成されているので、第二の銀めっき層32の硬度は、第一の銀めっき層31の硬度よりも大きくなり、挿抜性や耐摩耗性が向上する。
【0015】
[ホール・ペッチの式]
σ=σ+kd1/2 ・・・・(1)
上記式において、σは降伏強度、σは実験より求める値、kは実験より求める係数、dは結晶粒径である。
【0016】
また第二の銀めっき層32の厚さBは、少なくとも1μm以上に形成されていればよいが、確実に挿抜性及び耐摩耗性等を得るために、2μm以上に形成することが好ましい。第二の銀めっき層32の厚さBの上限は特に限定されず、端子の使用される環境や用途等に応じて適宜設定することができる。
【0017】
銀めっき層3の厚さは、第一の銀めっき層31及び第二の銀めっき層32を合わせた全厚さCが5μm以上になるように形成すればよいが、より確実に銅の拡散を防止するという点から、6μm以上に形成することが好ましい。
【0018】
本発明の銀めっき端子1は、例えば、母材2に対して二段階で銀めっきを行うことにより、第一の銀めっき層31と第二の銀めっき層32を段階的に形成することで、製造することができる。銀めっき層の結晶粒径を変化させるには、例えば、めっき液にセレンやアンチモン、或いは他の添加剤を加えることで、結晶粒径の小さい銀めっき層が得られる。また図2は銀めっき層の硬さとめっきの際の電流密度の関係を示すグラフである。図2に示すように、めっきの際の電流密度を変化させることでも、銀めっき層の結晶粒径を変化させることができる。このように、銀めっき層の結晶粒径は、めっき液の組成を変えることや、めっき処理の電流密度を変えることにより調節可能である。
【0019】
また銀めっき層の結晶粒径を変化させる他の手段としては、電気めっき等により銀めっき層を一層のみ形成した後、該銀めっき層の表層を機械的に加工することで加工硬化させて、表層の結晶粒径を小さくして第二の銀めっき層32を形成することもできる。
【0020】
図3(a)、(b)は、銅(Cu)母材の表面に厚さ7μmの銀(Ag)めっき層を設けた試験片の深さ方向のAg濃度及びCu濃度を示すグラフであり(a)は初期を示し、(b)は耐久試験後を示すものである。Agめっき層の厚さが7μmの場合は、図3(b)に示すように、耐久試験後であってもCuの拡散は見られない。図4(a)、(b)は、Agめっき層の厚さが2μm未満とした場合のグラフである。同図(b)に示すように、Agめっき層の厚さが2μm未満の場合は、耐久試験後にCuの拡散が見られる。
【0021】
図5(a)〜(c)は、Cu母材の表面に、結晶粒の平均粒径が2μmの銀めっき層を設けた試験片を大気中200℃、120時間処理し、試験片の表面を観察した電子顕微鏡写真である。銀めっき層の厚さは、(a)が4.91〜4.98μm、(b)が2.41〜2.69μm、(c)が0.40〜0.44μmである。(c)は表面に多数のCuが露出しているが、(b)は表面にCuがほとんど見られず、(a)は表面にCuは全く見られない。この結果は、銀めっき層の結晶粒径が2μmの場合、銀めっき層の厚さが3μm程度以上であれば、母材のCuの拡散を防止出来ることを示すものである。
【0022】
なお本発明のコネクタ用銀めっき端子は、オス型端子とメス型端子が嵌合するタイプのコネクタ、機器用コネクタ、ボルト締め端子(バッテリー、アース)等のコネクタの端子全般に利用することができる。
【0023】
本発明の銀めっき端子は、大電流で使用されるハイブリッドカーや電気自動車等に実装される電気部品に用いられるコネクタ端子として最適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の銀めっき端子表面の断面図である。
【図2】銀めっきの電流密度と硬さの関係を示すグラフである。
【図3】Cu母材にAgめっきが施された試験片のAg層の厚さが7μmの場合の濃度勾配を示し、(a)は初期を、(b)は耐久後をそれぞれ示すグラフである。
【図4】Cu母材にAgめっきが施された試験片のAg層の厚さが2μmの場合の濃度勾配を示し、(a)は初期を、(b)は耐久後をそれぞれ示すグラフである。
【図5】(a)〜(b)はCu母材の表面に結晶粒径が2μmの銀めっき層を厚さを変えた試験片を大気中200℃、120時間処理した後の表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 コネクタ用銀めっき端子
2 母材
3 銀めっき層
31 第一の銀めっき層
32 第二の銀めっき層
A 第一の銀めっき層の厚さ
B 第二の銀めっき層の厚さ
C 銀めっき層の全厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる母材の表面が銀めっき層により被覆されているコネクタ用銀めっき端子において、銀めっき層が、下層側の第一の銀めっき層と、該第一の銀めっき層の上層側の第二の銀めっき層とからなり、第一の銀めっき層の結晶粒径が第二の銀めっき層の結晶粒径よりも大きいことを特徴とするコネクタ用銀めっき端子。
【請求項2】
第一の銀めっき層の結晶粒径が平均粒径で2μm以上であることを特徴とする請求項1記載のコネクタ用銀めっき端子。
【請求項3】
第一の銀めっき層の厚さが4μm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のコネクタ用銀めっき端子。
【請求項4】
第二の銀めっき層の厚さが2μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のコネクタ用銀めっき端子。
【請求項5】
銀めっき層の全厚さが6μm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のコネクタ用銀めっき端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−169408(P2008−169408A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1512(P2007−1512)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】