説明

コネクタ

【課題】止水性に優れたコネクタを提供する。
【解決手段】コネクタ1は、端子金具2の少なくとも一部を収容する端子収容室3aが設けられたコネクタハウジング3を備え、(イ)前記コネクタ1には、前記端子収容室3a内に液体の侵入を防止する熱可塑性エラストマー樹脂組成物で構成された止水体4aが設けられ、(ロ)前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体と、が含有され、かつ、(ハ)前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体との質量比が、50〜90:50〜10とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスなどに用いられるコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などに搭載される電子制御ユニットは、水のかからない非被水領域に搭載される場合においても、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要である。このため、従来からワイヤーハーネスの電線の端末などに取り付けられかつ前記電子制御ユニットに取り付けられるコネクタは、電線の芯線に接続される端子金具と、当該端子金具を収容する端子収容室が設けられたコネクタハウジングに加え、前記端子収容室に水の出入りを防止する止水体を備えている。
【0003】
従来、ワイヤーハーネスの止水には耐熱性を必要とされることから、前述した止水体を構成する方法として、シリコーン樹脂をはじめとして硬化性の樹脂をポッティングする方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの樹脂は硬化のために長時間の工程が必要となり、また、硬化するまで単体で形状保持が出来ないため、箱型の中に流し入れるポッティング法が使用されている。
【0004】
近年、前述した止水体の材料として耐熱性を向上させた熱可塑性エラストマーが開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこの材料では、軟化剤の添加を必須とし、流動性を高め、また、高温時の形状保持のために、フィラーの添加を必須としている。
【0005】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)は、他の構造のものに比べて格別に融点が高いため熱成形に際して高い温度において行う必要がある。しかし、このように高い温度で成形する際には、熱分解による分子量低下を招くことになり、機械的性質が低下する。
【0006】
従来から、成形時の熱分解による機械的性質の低下を防ぐために、ポリスチレン樹脂に、トリホスファイトとフェノール系酸化防止剤を添加したものや、トリホスファイト、ジホスファイトおよびフェノール系酸化防止剤を加えた方法が知られており、SPSと熱可塑性エラストマーからなる組成物に特定構造を有するリン系化合物とフェノール系酸化防止剤を配合してなるポリスチレン系樹脂組成物が公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−292898号公報
【特許文献2】特開2005−132922号公報
【特許文献3】特開平1−182350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1ないし特許文献3に示された材料によって形成された前述の止水体が設けられたコネクタは、前記止水体が、電線の被覆材との接着性、耐熱性、柔軟性が不十分で、前記コネクタの止水性が不十分であるという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、止水性に優れたコネクタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、端子金具の少なくとも一部を収容する端子収容室が設けられたコネクタハウジングを備えたコネクタにおいて、(イ)前記コネクタには、前記端子収容室内に液体の侵入を防止する熱可塑性エラストマー樹脂組成物で構成された止水体が設けられ、(ロ)前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体と、が含有され、かつ、(ハ)前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体との質量比が、50〜90:50〜10とされていることを特徴とするコネクタである。
【0011】
請求項2に記載された発明は、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物における前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体との質量比が、60〜80:40〜20とされていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタである。
【0012】
請求項3に記載された発明は、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、前記未変性スチレン系エラストマー、および、主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体の合計100質量部に対して、ポリフェニレンエーテル1〜10質量部が含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコネクタである。
【0013】
請求項4に記載された発明は、前記未変性スチレン系エラストマーが、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)から選ばれる少なくとも一種の共重合体で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のコネクタである。
【0014】
請求項5に記載された発明は、前記未変性スチレン系エラストマーが、未変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)とされていることを特徴とする請求項4に記載のコネクタである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、コネクタは、止水体が柔軟性と耐熱性を併せ持ち、かつ電線被覆材との接着性に優れるため、ポッティング法を用いずに、射出成形などによってワイヤーハーネスの止水が可能である。このため、コネクタは、電子機器、車載・電送部品、トランス・コイルパワーモジュール及びそのデバイス、リレー、センサー等のワイヤーハーネスのコネクタとして極めて好適に使用することができる。
【0016】
請求項2に記載された発明によれば、コネクタは、止水体が、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体によって耐熱性が向上し、止水体として必要な電線被覆材との接着性が維持できる。
【0017】
請求項3に記載された発明によれば、コネクタは、止水材が、ポリフェニレンエーテルを1質量部以上含有させることにより当該ポリフェニレンエーテルによる接着性の向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより、エラストマーの伸びが阻害されず、必要とされる柔軟性が得られる。
【0018】
請求項4に記載された発明によれば、コネクタは、止水材を構成する未変性スチレン系エラストマーが、一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
請求項5に記載された発明によれば、コネクタは、止水材を構成する未変性スチレン系エラストマーが、未変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかるコネクタを示す図である。
【図2】図1に示すコネクタのII−II矢視断面図である。
【図3】図2に示すコネクタの止水体におけるSPS添加量とピーリング応力(N)の関係を示す図である。
【図4】図2に示すコネクタの止水体におけるSPS添加量とビカット軟化点(℃)の関係を示す図である。
【図5】図2に示すコネクタの止水体におけるSPS添加量と破断のび(%)の関係を示す図である。
【図6】図2に示すコネクタの止水体におけるPPE添加量とピーリング応力(N)の関係を示す図である。
【図7】図2に示すコネクタの止水体におけるPPE添加量とビカット軟化点(℃)の関係を示す図である。
【図8】図2に示すコネクタの止水体におけるPPE添加量と破断のび(%)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態にかかるコネクタを、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態にかかるコネクタは、図1及び図2に示すように、端子金具2と、コネクタハウジング3と、止水体4aとを備えている。
【0023】
端子金具2は、導電性の板金等を折り曲げる等して形成され、例えば、黄銅等の銅合金で構成されている。また、端子金具2は、折り曲げられる前の板金時もしくは端子金具2の形状にあり曲げられた後に、スズ、銀や金によってメッキ処理されてもよい。即ち、端子金具2の外表面は、銅合金、スズ、銀や金で構成されている。端子金具2は、図2に示すように、所謂雄型の端子金具であり、電気接触部21と電線接続部22とを一体に備えて形成されている。
【0024】
電気接触部21は、帯板状に形成されている。電気接触部21の電線接続部22側の基端部21aは止水体4a内に埋設されている。電気接触部21の先端部21bは、コネクタハウジング3、止水体4aから突出し、相手方のコネクタの端子金具(図示せず)と電気的に接続される。
【0025】
電線接続部22上には、電線5の端末5aで露出した芯線51が載置されている。そして、電線接続部22と芯線51とは、超音波溶着または熱溶着によって接続されている。超音波溶着または熱溶着によって、電線接続部22が電線5に電気的かつ機械的に接続される。なお、この電線接続部22と電線5との接続方法は、電線接続部22に加締め片を設け、この加締め片で芯線51を加締めるようにしてもよい。
【0026】
電線5は所謂被覆電線である。電線は、図2に示すように、導電性の芯線51と、絶縁性の被覆部52とを備えている。芯線51は、一本の素線から構成されている。芯線51を構成する素線は、銅やアルミニウム等の導電性の金属で構成されている。なお、芯線51は複数の素線が撚られて形成されていてもよい。
【0027】
被覆部52は、絶縁性の合成樹脂等で構成され、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂で構成されている。即ち、被覆部52の外表面は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂で構成されている。被覆部52は、芯線51を被覆している。被覆部52は、電線5の端末5aにおいて皮剥きされ、芯線51を露出している。
【0028】
コネクタハウジング3は、合成樹脂で構成され、円筒状に形成されている。コネクタハウジング3は、その内側に端子金具2の電線接続部22及び電線5の端末5aを収容する端子収容室3aが設けられている。コネクタハウジング3を構成する合成樹脂は、止水体4aを構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物とは異なる樹脂組成物である。コネクタハウジング3を構成する合成樹脂としては、一般的なコネクタのコネクタハウジングを構成する材料として用いられる周知の樹脂組成物が挙げられる。なかでもポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも一つの樹脂を含有する樹脂組成物で構成されているのが好ましい。
【0029】
前述したコネクタハウジング3は、モールド成形によって端子金具2や止水体4aの形成された電線5と一体に成形されている。コネクタハウジング3は、図1に示すように、第1円筒部31と、第2円筒部32とを一体に備え形成されている。第1円筒部31の外表面には、ゴム等の弾性材料で構成された筒状のパッキン(図示せず)が取り付けられている。
【0030】
第1円筒部31は、円筒状に形成されている。第1円筒部31は、内面が端子金具2の電気接触部21の先端部21bの外表面と密に接した(必ずしも水密ではない)状態である。
【0031】
第2円筒部32は、円筒状に形成されている。第2円筒部32は第1円筒部31の端部に連なり設けられている。第2円筒部32は、内部に端子金具2の電線接続部22や止水体4aの形成された電線5の端末5aを埋設している。第2円筒部32の内面は、止水体4aの外表面と密着している。第2円筒部32の第1円筒部31から離れた端部は、電線導出口33とされている。
【0032】
電線導出口33は、円筒状に形成され、止水体4aの形成された電線5をコネクタハウジング3の外側に導出している。電線導出口33の内面は止水体4aの外表面と密着しており、電線導出口33の内面と止水体4aとの間が水密に保たれている。
【0033】
止水体4aは、後述する熱可塑性エラストマー樹脂組成物からなり、図2に示すように、電線導出口33と電線5の端末5aとの間を封止している。止水体4aは、円筒状に形成されている。止水体4aは、モールド成形によって電線5やコネクタハウジング3と一体に成形されている。止水体4aは、電線5の被覆部52のコネクタハウジング3の端子収容室3a内に収容された部分の外表面とコネクタハウジング3外に配された部分の外表面とに亘って連続的に設けられ、被覆部52の外表面と密着している。また、止水体4aは、電線導出口33の内面と密着している。このような止水体4aは、電線5と電線導出口33の間を封止してこれらの間を水密に保ち、電線5を伝わった水等の液体がコネクタハウジング3の端子収容室3a内に入り込んで端子金具2に付着することを防止する。
【0034】
なお、止水体4aは、図2に示すように、コネクタハウジング3の端子収容室3a内に充填された形態であっても良く、また、端子金具2の少なくとも一部が収容されている側に設けられた形態であっても良く、コネクタハウジング3の電線5側に設けられた形態であっても良く、止水機能を発揮する形態であれば良い。
【0035】
止水体4aで用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体を含有し、前記未変性スチレン系エラストマーと前記ポリスチレン系重合体の質量比が50〜90:50〜10(境界値を含む)であることを特徴とする。即ち、前記未変性スチレン系エラストマーと前記ポリスチレン系重合体の質量比が、50:50〜90:10(境界値を含む)の範囲であることを特徴とする。
【0036】
ワイヤーハーネス(Wire Harness)は、絶縁されている導線を絶縁体の物質を用いてまとめてくくりつけたもので、電源供給・信号通信を目的とした複数の電線を束にして、それらを配線し易い長さ、形状にかたどったものであり、ケーブルハーネス(Cable Harness)とも呼ばれている。
【0037】
屋外に設置される電気・電子機器は、接続するワイヤーハーネスに雨水等が浸入しやすい被水領域を通って配線される場合が多いため、ワイヤーハーネス側からの電子制御ユニット内への水の浸入を防止することが重要であり、本発明のコネクタは前記ワイヤーハーネスの止水機能を備えたコネクタとして使用されるものである。
【0038】
本発明のコネクタで用いられる未変性スチレン系エラストマーとしては、未変性のスチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)などが挙げられ、これらの未変性スチレン系エラストマーは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、これら未変性スチレン系エラストマーの中で未変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましい。
【0039】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。
【0040】
核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるシンジオタクチック構造のタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、(B)成分の主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体には、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン系重合体が用いられる。
【0041】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)におけるスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体が挙げられる。
【0042】
ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t-ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などがある。
【0043】
なお、これらの中で特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−又はt−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
【0044】
このようなSPSは、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報に記載の方法、水素化重合体は特開平1−178505号公報に記載の方法などにより得ることができる。これらのSPSは一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)との質量比は50〜90:50〜10(境界値を含む)であり、60〜80:40〜20であることが好ましく、70〜80:30〜20であることが更に好ましい。前記未変性スチレン系エラストマーと前記ポリスチレン系重合体(SPS)との合計100質量部に対して、SPSが10質量部未満の場合には当該SPSによる耐熱性向上効果が得られず、50質量部よりも多い場合には止水材として必要な電線被覆材との接着性が維持できなくなる恐れがある。
【0046】
本発明の止水体で用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、必要により、未変性スチレン系エラストマーとポリスチレン系重合体との合計100質量部に対して、ポリフェニレンエーテルを1〜10質量(境界値を含む)部含有することが好ましく、3〜7質量部を含有することがより好ましい。ポリフェニレンエーテルを1質量部以上含有させることにより当該ポリフェニレンエーテルによる接着性の向上効果が得られ、10質量部以下とすることにより、エラストマーの伸びが阻害されず、必要とされる柔軟性が得られる。
【0047】
ポリフェニレンエ−テル(PPE)の例としては、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ〔2−(4’−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエーテル〕;ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル);ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)及びポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。この中で、特にポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。なお、上記ポリフェニレンエーテルは、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
これらのポリフェニレンエーテルは、公知の化合物であり、米国特許第3,306,874号,同3,306,875号,同3,257,357号及び同3,257,358号の各明細書を参照することができる。ポリフェニレンエーテルは、通常、銅アミン錯体、および二箇所もしくは三箇所を置換した一種以上のフェノール化合物の存在下で、ホモポリマー又はコポリマーを生成する酸化カップリング反応によって調製される。ここで、銅アミン錯体は、第一,第二及び第三アミンから誘導される銅アミン錯体を使用できる。
【0049】
また、本発明のコネクタを構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、コンパウンド中および製品の熱安定性を高める目的で、5質量%以内で酸化防止剤を添加しても良い。
【0050】
酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブロビオネート](チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、IRGANOX1010)、ビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(株式会社ADEKA製、アデカスタブ PEP−36)、1,3,5−トリス−(3' ,5'−ジ−tert−ブチル−4'−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO−20)等を用いることができる。
【0051】
本発明のコネクタ1の止水体4aで用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物の調製方法については、特に制限はなく、公知の方法により調製することができる。例えば、上記成分を常温で混合した後、溶融混練など様々な方法でブレンドすればよく、その方法は特に制限はされない。混合・混練方法として、二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。
【0052】
二軸押出機を用いた溶融混練においては、用いるSPSの融点以上、350℃未満での混練が好ましい。混練温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、SPSの粘度が高くなりすぎることがないため、生産性が低下することがない。また、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。
【0053】
上述の如く構成されたコネクタ1を製造する際には、まず、止水体4aの形成される前の電線5に、超音波溶着または熱溶着によって端子金具2の電線接続部22を取り付ける。次に、電線5の端末5aの被覆部52から、端子金具2の電線接続部22に亘って止水体4aをモールド成形する。即ち、電線5の端末5aを、止水体4aをモールド成形する第1の金型(図示せず)内の所定位置に固定し、第1の金型内に溶融混練した本発明の止水体で用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物を成形する。そして、成形後に、一体に成形された電線5と止水体4aを第1の金型内から取り出す。
【0054】
次いで、コネクタハウジング3をモールド成形する。即ち、止水体4aの形成された電線5の端末5a、止水体4aの形成されたこの電線5に取り付けられた端子金具2の電気接触部21の基端部21a及び電線接続部22を、コネクタハウジング3をモールド成形する第2の金型(図示せず)内の所定位置に固定し、第2の金型内に溶融混練した前述のモールド樹脂を成形する。そして、成形後に、一体に成形された端子金具2、ハウジング部3及び電線5を第2の金型内から取り出す。こうして、図1及び図2に示したコネクタ1が製造される。
【0055】
本発明にかかるコネクタ1の止水体4aの成形方法についても特に制限はなく、射出成形、押出成形等公知の方法により成形することができる。射出成形のときの成形温度は、用いるSPSの融点以上、350℃未満が好ましい。成形温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、流動性が低下するおそれがなく、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。また金型温度としては、40〜100℃が好ましく、40〜80℃が更に好ましい。金型温度を40℃以上とすることにより、SPSが十分結晶化し、SPSの特徴が十分発揮される。また100℃以下とすることにより、本材料が金型内で溶融してしまうことがない。
【実施例】
【0056】
以下、実施例1〜15により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0057】
なお、実施例1〜15および比較例1〜2における物性試験の測定およびシール性の評価を次のように行った。
【0058】
(1)ピーリング応力
インサート成形により127mm×13mm、厚み2mmの架橋ポリエチレン製の電線被覆材のシートと、実施例および比較例で得られた127mm×13mm、厚み1.2mmの止水材のシートを貼り合わせ、それをT型剥離試験装置(INSTRON製、5567P7529)にて25mm/minの試験速度でピーリング応力を測定した。
【0059】
(2)ビカット軟化点
JIS K7206に準拠して測定した。
【0060】
(3)破断伸び
ASTM D638に準拠して測定した。
【0061】
(4)シール性の評価
ペレット状に成形された本発明のコネクタ1で用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物を用いて、図1に示されたコネクタ1を製造し、このコネクタ1をアルミ製の冶具にセットして水中にいれ、冶具にチューブを通して当該チューブから止水部4と電線5の間に10.0kPaの圧縮空気を30秒間送り、止水部4とハウジング部3からの圧縮空気の漏れを観測した。圧縮空気の漏れがない場合、圧縮空気の圧力を10.0kPaずつ200kPaまで上げていった。漏れが観測されたときの圧縮空気の圧力をシール圧とし、シール圧が100kPa以上のものを合格(○)、100kPa未満のものを不合格(×)とした。
【0062】
なお、上記物性試験の測定およびシール性の評価に用いられた止水体4aを構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物における未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)と、ポリフェニレンエーテル(PPE)とは、以下のものを使用した。
【0063】
未変性スチレン系エラストマーとして、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ株式会社製、タフテック H1041、スチレン/エチレンブチレン質量比=30/70、MFR(温度230℃、荷重2.16Kgf)=5g/分)。
【0064】
主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)として、ホモシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、ザレック130ZC、ラセミペンタッドタクティシティート=98%、MFR(温度300℃、荷重1.3kgf)=13g/分)。
【0065】
ポリフェニレンエーテル(PPE)として、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、IUPIACE PX−100L)。
【0066】
上記物性試験およびシール性の評価に用いられた止水体4aを構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、以下のように製造した。
【0067】
未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)と、ポリフェニレンエーテル(PPE)と、を表1及び表2に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度290℃で溶融混練を行い、得られたストランドを水槽を通して冷却した後、ペレット化し、止水体4aを構成する熱可塑性エラストマー樹脂組成物を得た。
【0068】
実施例1〜15における熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)と、が含有され、かつ、前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体(SPS)との質量比が、50〜95:50〜5とされている。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、前記未変性スチレン系エラストマー、および、主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体(SPS)の合計100質量部に対して、ポリフェニレンエーテル(PPE)3〜17質量部が含有されている。
【0069】
比較例1〜2における熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)と、が含有され、かつ、前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体(SPS)との質量比が、40〜100:60〜0とされている。また、前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、ポリフェニレンエーテル(PPE)が含有されていない。
【0070】
得られた熱可塑性エラストマー樹脂組成物を使用して上記の物性試験の測定を行った。測定結果を表1及び表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例1〜8及び比較例1〜2で得られた、SPS添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断伸び(%)との関係を図3〜5にグラフで示す。また、実施例9〜15で得られたPPE添加量と、ピーリング応力(N)、ビカット軟化点(℃)及び破断伸び(%)の関係を図6〜8にグラフで示す。なお、密着性はピーリング応力(N)、耐熱性はビカット軟化点(℃)、柔軟性は破断伸び(%)でそれぞれ示される。
【0074】
以上の実施例及び比較例の結果から次のようなことが確認される。
(1)未変性スチレン系エラストマーにSPSを添加することによりビカット軟化点が高くなり、耐熱性が向上すると共に、ポッティング法を用いずに、射出成形によって止水可能なワイヤーハーネス用コネクタを得ることができる。
【0075】
(2)未変性スチレン系エラストマーとSPSの組成物にポリフェニレンエーテル(PPE)を添加することによりピーリング応力が上昇し、接着性が向上する。但し、破断伸びが低下するので、用いられるワイヤーハーネスに応じたPPEの含有量が選定される。
【0076】
(3)未変性スチレン系エラストマーにSPSを添加することによりピーリング応力および破断伸びが低下する。
【0077】
上記結果から、主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体(SPS)の添加量は、図3に示されるピーリング応力(N)の低下が緩やかになり、図5に示される破断伸び(%)の上昇が緩やかになる範囲とされる。
【0078】
即ち、未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体(SPS)との質量比が50〜90:50〜10(境界値を含む)とされる範囲であることが好ましい。さらには、前記質量比が60〜80:40:20とされる範囲であることがより好ましい。
【0079】
また、ポリフェニレンエーテル(PPE)の添加量は、図6に示されるピーリング応力(N)の下限であり、図8に示される破断伸び(%)の下限となる範囲とされる。
【0080】
即ち、未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体(SPS)との合計100質量部に対して、1〜10質量部(境界値を含む)とされる範囲であることが好ましい。さらには、前記質量部が3〜7とされる範囲であることがより好ましい。
【0081】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 コネクタ
2 端子金具
3 コネクタハウジング(ハウジング)
3a 端子収容室
4 止水部
4a 止水体
5 電線
5a 電線の端末
21 端子金具の電気接続部
21a 電気接続部の基端部
21b 電気接続部の先端部
22 端子金具の電気接続部
31 第1円筒部
32 第2円筒部
33 電線導出口
51 芯線
52 被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具の少なくとも一部を収容する端子収容室が設けられたコネクタハウジングを備えたコネクタにおいて、
(イ)前記コネクタには、前記端子収容室内に液体の侵入を防止する熱可塑性エラストマー樹脂組成物で構成された止水体が設けられ、
(ロ)前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、未変性スチレン系エラストマーと、主としてシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体と、が含有され、かつ、
(ハ)前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体との質量比が、50〜90:50〜10とされている
ことを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物における前記未変性スチレン系エラストマーと主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体との質量比が、60〜80:40〜20とされていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー樹脂組成物には、前記未変性スチレン系エラストマー、および、主としてシンジオタクチック構造を有する前記ポリスチレン系重合体の合計100質量部に対して、ポリフェニレンエーテル1〜10質量部が含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記未変性スチレン系エラストマーが、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレン共重合体(SEEPS)から選ばれる少なくとも一種の共重合体で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のコネクタ。
【請求項5】
前記未変性スチレン系エラストマーが、未変性スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)とされていることを特徴とする請求項4に記載のコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−164590(P2012−164590A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25680(P2011−25680)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】