説明

コハク酸の製造方法

【課題】微生物を使用したコハク酸の製造方法において、原料の糖として所定のショ糖を用いることにより、コハク酸生成効率が向上し、製造コストが低減されたコハク酸の製造方法を提供する。
【解決手段】コハク酸産生能がある微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、前記ショ糖が所定の条件による高速液体クロマトグラフィーを用いて検出される所定量の物質(不純物X)を含有することを特徴とするコハク酸の製造方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を使用してコハク酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コハク酸等のジカルボン酸を微生物を用いて製造する方法として、嫌気性細菌を用いる方法や、コリネ型細菌等を使用する方法が知られている(特許文献1から4を参照)。コリネ菌等の好気性細菌を用いる場合には、好気的条件で増殖させて菌体を取得し、それを静止菌体として用いて有機原料に作用させるという方法がよく使用される。このような方法において、コハク酸等のジカルボン酸の生成量を増加せしめる方法としては、微生物を遺伝子組み換え等により育種されたこれに適したものを用いる方法の他に、ビオチンを添加するとコハク酸の生成量が増加することが開示されている(非特許文献1を参照)。しかし、培地への添加物による方法は生産コストがかかるため好ましい方法とは言えなかった。
【0003】
一方、植物由来の精製ショ糖は、植物体を粉砕して圧搾した糖液を、濃縮、結晶化して粗精製ショ糖とし、さらに該粗精製糖について脱色工程を行うことにより不純物を取り除き、濃縮・晶析することにより製造されている。開示されたコハク酸等製造法で用いられる原料としての糖は、精製ショ糖や上記精製ショ糖の製造工程の途中において得られるショ糖である糖蜜(甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス等)を使用することが記載されている(特許文献1〜7、非特許文献2,3を参照)。しかし、粗精製ショ糖や糖蜜等に含まれる不純物の含有量と、製造されるコハク酸量との関係については充分な検討がされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,143,834号公報
【特許文献2】米国特許第5,504,004号公報
【特許文献3】日本国特開平11−206385号公報
【特許文献4】日本国特開平11−196888号公報
【特許文献5】国際公開第2005/026349号
【特許文献6】日本国特開2008−237101号公報
【特許文献7】日本国特開2008−245537号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】農化 第36巻、第2号、p.172〜176(1962)
【非特許文献2】L.Agarwalら、Journal of Applied Microbiology 100(2006) 1348−1354
【非特許文献3】Yu−Peng Liuら、Bioresource Technology 99(2008) 1736−1742
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、微生物を使用したコハク酸の製造方法において、原料の糖として所定のショ糖を用いることにより、コハク酸生成効率が向上し、製造コストが低減されたコハク酸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定量の特定の不純物を含有するショ糖を原料として、コリネ型細菌等のコハク酸産生能を有する微生物によりコハク酸を生成させたところ、精製ショ糖を原料として用いるよりコハク酸生成効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下である。
1.コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際の保持時間6.7から6.95分で検出される物質を含有し、該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;ULTRON PS−80H(信和化工製)
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【0009】
2.コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際の保持時間6.7から6.95分で検出される物質を含有し、該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;粒径が7〜11μm及び架橋度が7〜9%である基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とし、内径が7.8〜8.2mm及び長さが260〜340mmである分離カラム
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【0010】
3.コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際のピークにおいて、ピークトップの時間[a]がコハク酸標品のピークトップの時間[b]との比([a]/[b])において0.85から0.91で検出されるピークの物質を含有し、かつ該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;粒径が7〜11μmである基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とする分離カラム
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【0011】
4.前記ショ糖が以下であることを特徴とする前項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度10重量%水溶液の350nmにおける吸光度が0.50以上100以下であるショ糖。
5.コハク酸産生能を有する微生物がコリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Acinobacillus)属、糸状菌および酵母菌からなる群から選択される微生物であることを特徴とする前項1〜4のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
6.前記ショ糖が、植物から搾取した糖液を濃縮、精製する方法であって、脱色工程を行っていない製造方法により製造されたものであることを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【0012】
7.前記微生物が、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの及びピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変されたもの少なくとも一方であることを特徴とする前項1〜6のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
8.前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム グルタミカム、ブレビバクテリウム フラバムおよびブレビバクテリウム ラクトファーメンタムより選択されるものであることを特徴とする前項5〜7のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
9.嫌気的雰囲気下でコハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させてコハク酸を生成させることを特徴とする前項1〜8のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【0013】
10.コハク酸産生能を有する微生物を予め増殖させる種培養工程と、該種培養工程で得られた微生物を不純物Xを含有するショ糖に作用させてコハク酸を生成させるコハク酸生成工程とを含む、前項1〜9のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
11.前項1〜10のいずれか1項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び該工程で得られたコハク酸を水素化する工程を含む、1,4−ブタンジオール製造方法。
12.前項1〜10のいずれか1項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び該工程で得られたコハク酸を原料として重合反応を行う工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、コハク酸を低コストで効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各種ショ糖を原料として、炭酸水素ナトリウム存在下で微生物を作用させた際の該微生物中のコハク酸蓄積濃度と、粗精製ショ糖10重量%水溶液の350nmの吸光度との関係を示した図である。
【図2】各種ショ糖を原料として、炭酸マグネシウム存在下で微生物を作用させた際の該微生物中のコハク酸蓄積濃度と、粗精製ショ糖10重量%水溶液の350nmの吸光度との関係を示した図である。
【図3】波長210nmのUV検出器を用いて分析を行った場合の試薬特級ショ糖(和光純薬製)及び本きび赤糖(日新製糖製)の高速液体クロマトグラフィーチャートである。
【図4】波長210nmおよび280nmのUV検出器並びにRI検出器を用いて本きび赤糖(日新製糖製)の分析を行った場合の高速液体クロマトグラフィーチャートである。
【図5】各種ショ糖を原料として、炭酸水素ナトリウム存在下で微生物を作用させた際の該微生物中のコハク酸蓄積濃度と用いたショ糖に含まれる不純物Xの含有量との関係を示した図である。
【図6】各種ショ糖を原料として、炭酸マグネシウム存在下で微生物を作用させた際の該微生物中のコハク酸蓄積濃度と用いたショ糖に含まれる不純物Xの含有量との関係を示した図である。
【図7】波長210nmのUV検出器を用いて分析を行った場合の試薬特級ショ糖(和光純薬製)及び原料糖(大日本明治製糖株式会社製)のMCI GEL CK08EH カラムによる高速液体クロマトグラフィーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明は、コハク酸産生能を有する微生物を特定の不純物を含有するショ糖に作用させることによってコハク酸を生成させ、該生成物を採取することを特徴とするコハク酸の製造方法(以下、これを「本発明の製造方法」または「コハク酸の生成方法」と称することがある)である。ここで、「微生物をショ糖に作用させる」とは、微生物またはその調製物を、反応液中でショ糖に作用させ、コハク酸を生成させることを言う。
【0018】
(1)ショ糖
本発明の製造方法において、コハク酸産生能を有する微生物によるコハク酸の生成に用いるショ糖は、以下の(A)〜(C)の少なくとも1の特徴を示すショ糖(以下、「不純物Xを含有するショ糖」と称することがある)である。
【0019】
(A)ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液について行う高速液体クロマトグラフィーにより検出される以下の(i)〜(iii)の少なくとも1である物質(以下、「不純物X」と称することがある)を含有し、かつ該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
一方、本明細書において「精製ショ糖」とは、不純物Xの検出における測定条件と同様の条件で高速液体クロマトグラフィーを行うことにより求められる不純物Xの含有量がコハク酸換算値として0.02g/Lより少ないショ糖をいう。
【0020】
(i)下記の測定条件iで行った高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持時間6.70から6.95分で検出される物質。
(測定条件i)
分離カラム;ULTRON PS−80H(信和化工製)
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nm UV
注入量;10μL
【0021】
(ii)下記の測定条件iiで行った高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持時間6.70から6.95分で検出される物質。
(測定条件ii)
分離カラム;粒径が7〜11μm及び架橋度が7〜9%である基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とし、内径が7.8〜8.2mm及び長さが260〜340mmである分離カラム
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【0022】
(iii)下記の測定条件iiiで高速液体クロマトグラフィー用いて測定した際のピークにおいて、ピークトップの時間[a]が、コハク酸標品のピークトップの時間[b]との比([a]/[b])において0.85から0.91の範囲で検出される物質。
【0023】
(測定条件iii)
分離カラム;粒径が7〜11μmである基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とする分離カラム
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【0024】
上記不純物Xの含有量は、不純物Xの検出における測定条件と同一条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、UV検出器を用いる波長210nmにおける分析により、コハク酸換算値として求められる。すなわち、コハク酸標品(濃度が既に測定されているコハク酸溶液)について、不純物Xの検出における測定条件と同一条件で高速液体クロマトグラフィーを行い、UV検出器を用いた波長210nmでの分析において、コハク酸標品で検出されるコハク酸のピークエリア値と、不純物Xのピークエリア値との比から、不純物Xの含有量を決定する。用いるコハク酸標品は、例えば10g/Lの濃度のもの等を用いることができる。
【0025】
前記不純物Xのピークエリアの計算方法としては、特段の制限はないが、当業者が用いうる計算方法を使用することができる。例えば、上記測定条件においては、フルクトースと不純物Xのピーク間にある谷部でピークを垂直分割した点を始点(6.6分近傍)とし、始点から不純物Xピーク終点(7.2分近傍)までを積分し、面積値を求めることによって行うことができる。なお、ベースラインは最初のピークの立ち上がり部(3.8分近傍)から不純物Xピーク終点までの水平線とする。
【0026】
前記不純物Xの含有量は、0.02g/L以上であり、0.50g/L以上であることが好ましい。また、100g/L以下であり、50g/L以下であることが好ましく、20g/Lであることがより好ましい。
【0027】
前記測定条件i〜iiiにおける分離カラムの内径は、7.8〜8.2mmであることが好ましく、7.9〜8.1mmであることがより好ましい。また、カラムの長さは、260〜340mmであることが好ましく、280〜320mmであることがより好ましい。
【0028】
前記測定条件iiおよびiiiにおける分離カラムに用いる基材の粒径は7〜11μmであり、8〜10μmであることが好ましい。また、測定条件iiおよびiiiおける分離カラムの基材はプロトン型スルホン酸基を有するカチオン交換樹脂の1つである基質架
橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体であれば特に限定はないが、架橋度が7〜9であることが好ましい。
【0029】
前記測定条件iiおよびiiiおける分離カラムとしては、USP(米国薬局方)のカテゴリーL17のカテゴリーに含まれるものも使用しうる。具体的には、例えば、ULTRON PS−80H(信和化工製)およびMCI GEL CK08EH(三菱化学製)
等が挙げられる。
【0030】
本発明者らは、不純物Xを含有するショ糖がコハク酸発酵を亢進すること、コハク酸生成速度と不純物Xの含有量とは一定の相関があることを見出した。不純物Xは、作用機構等の詳細は不明であるが、植物由来の嫌気代謝促進物質の混合物と想定される。微生物を好気的に培養する工程においては、不純物Xを含有するショ糖と精製ショ糖との間に何らの違いも認められなかったことから、不純物Xが嫌気的代謝の活性化に作用する成分である可能性が高いと想定される。
【0031】
微生物は様々な環境変化に適応するために、それぞれの条件で最も効率的な代謝経路を選択することができる。例えば、栄養源の種類によって必要且つ最もエネルギー効率が良い代謝経路を活性化または活用する。コハク酸発酵では、主として好気的雰囲気下で微生物を培養(増殖)させた後に、主として嫌気的雰囲気下においてコハク酸を生成する工程により実施されることが一般的である。
【0032】
しかしながら、嫌気発酵における理想的な代謝ルートは複数考えられ、実際にどのルートが使われるのかまたは有効なのかは明らかになっていない。不純物Xは、コハク酸を最終産物とした場合の嫌気代謝亢進成分であるだけでなく、乳酸、酢酸、アミノ酸およびグリセロール等の副生成物(他の嫌気代謝最終産物)生産の阻害成分であると予測される。これは、混合物ゆえに様々な代謝経路に影響を与えることが重要であり、単品では得られない効果が生じていると予測される。
【0033】
また、コハク酸発酵において促進的に働く微量成分としてビオチンが知られているが、本発明者らは、不純物Xはビオチンでは無い事を確認している。また、本明細書の実施例および比較例では十分量のビオチンを別途培地に添加していることから、該促進効果がビオチンによるものではないことが明らかであり、不純物Xの中には、コハク酸生成の亢進物質及び副生成物生産の阻害物質の少なくとも一方として新規物質が存在する可能性がある。
【0034】
(B)植物から搾取した糖液を濃縮、精製する方法において、脱色工程を行っていない製造方法により製造されるショ糖。
一方、本明細書において「精製ショ糖」は、本発明の不純物Xを含有するショ糖をさらに脱色工程を経たショ糖をいう。
【0035】
本明細書において「植物から搾取した糖液」とは、一般にショ糖原料として用いられるサトウキビ、甜菜およびサトウカエデ等を裁断したものを圧搾又は浸出させて取得した糖液、並びに該糖液を石灰洗浄したものをいう。植物の種類としては、不純物Xを多く含むことから、サトウキビが好ましい。
【0036】
また、「脱色工程」とは、具体的には、植物から搾取した糖液、又は該糖液を結晶化したものを洗浄、溶解した後に、酸飽充処理により不純物を析出させ、該不純物を活性炭、フィルターおよび遠心分離等でろ過する工程、さらにはイオン交換樹脂等で脱塩を行う工程等をいう。
【0037】
精製ショ糖以外の不純物の析出方法としては、酸飽充処理以外に、高分子凝集剤添加による方法や、石灰乳による凝集沈殿等も用いられる。これらの脱色工程は、精製ショ糖を製造する方法として既に知られている方法であり、例えば、日本国特開平10−42899号公報に記載の方法等が挙げられる。
【0038】
植物から搾取した糖液を濃縮、精製する方法は、具体的には、特段の制限はないが、サ
トウキビを例とすると、サトウキビからショ糖を搾り出す「圧搾工程」、該圧搾工程から作成された搾り汁から石灰乳による凝集沈殿により不純物を除去する「石灰洗浄工程」、該石灰洗浄の上澄み液を濾過・濃縮する「濾過・濃縮工程」、該濾過・濃縮工程で得られたシラップを真空結晶缶等により結晶化する「結晶(煎糖)工程」、該結晶(煎糖)工程で得られた結晶と糖蜜を遠心分離機等により分離する「分離工程」、該分離工程で得られた結晶と蜜を加えて結晶を洗う「洗糖工程」を経る方法が挙げられる。
【0039】
本発明の製造方法に使用するショ糖は少なくとも「圧搾工程」を経て製造されるものであり、好ましくはさらに「石灰洗浄工程」および「濾過・濃縮工程」を経て製造されるものである。また、より好ましくはさらに「結晶(煎糖)工程」を経て製造されるものであり、特に好ましくは、さらに「分離工程」を経て製造されるものである。分離工程で得られるショ糖は、結晶化ショ糖(「粗精製ショ糖」と称することがある)と糖蜜に分離される。粗精製ショ糖は保存安定性が良く、運搬等の物流コストが抑えられる点で、さらに好ましい。
【0040】
また、「石灰洗浄工程」における不純物除去の制御、「濾過・濃縮工程」における濾過条件およびショ糖濃度の制御、「結晶(煎糖)工程」における結晶化条件の制御並びに「分離工程」における分離条件の制御の少なくとも1つの制御を行うことで、ショ糖における不純物Xの含有量を所定の範囲内に制御することができる。さらに、植物由来の抗菌性物質等のコハク酸製造阻害物質の低減や植物由来の脂質や無機イオン等の生成されたコハク酸の精製に負荷を与える物質の低減をすることができる。
【0041】
「脱色工程」は、主として、該洗糖工程で得られた結晶を温水で溶解した糖液に対して、石灰乳による凝集沈殿及び炭酸飽充処理の少なくとも一方を行う「不純物析出工程」、該不純物を活性炭やフィルター等で除去する「不純物除去工程」、さらにイオン交換樹脂等による「脱塩処理工程」を行うことをいう。「脱色工程」を経ることにより、本発明に係る不純物Xが糖及び不純物X以外の物質とともにほぼ完全に除去されてしまうため、「脱色工程」を経たショ糖はコハク酸生成反応に使用する際に好ましくない傾向にある。
【0042】
(C)植物から搾取した糖液を濃縮、精製することにより製造されたもので、ショ糖濃度10重量%溶液の350nmにおける吸光度が通常0.50以上、好ましくは3.0以上、さらに好ましくは4.0以上であるショ糖。このショ糖濃度10重量%溶液の350nmにおける吸光度の上限値は通常100であり、50が好ましい。
【0043】
上記(A)〜(C)に記載の不純物Xを含有するショ糖としては、市販のものを用いることができ、具体的には、例えば、原料糖(大日本明治製糖株式会社製)、きび砂糖(日新製糖社製)、粉末黒砂糖(日新製糖社製)、粉末漆黒黒砂糖(日新製糖社製)および本きび赤糖(三井製糖社製)等が挙げられる。
【0044】
不純物Xを含有するショ糖としては、上記不純物Xを含有する糖蜜も挙げられる。その中でも、サトウキビ由来の糖蜜が好ましい。不純物Xを含有する糖蜜としては、市販のものを用いることができ、具体的には、例えば、ネオモラセスト((株)EM研究所製)および沖縄黒糖蜜((株)黒糖本舗 垣乃花製)等が挙げられる。
【0045】
不純物Xを含有するショ糖は、発酵性糖質を含有してもよい。発酵性糖質としては、例えば、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、サッカロース、デンプンおよびセルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトールおよびリビトール等のポリアルコール類等が挙げられる。
【0046】
(2)微生物
本発明の製造方法に用いる微生物は、コハク酸産生能を有する微生物であれば、限定されない。本明細書において「コハク酸産生能」とは、微生物を培養したときに、培地中にコハク酸を蓄積する能力をいう。
【0047】
本発明の製造方法において使用する微生物としては、特段の制限はないが、例えば、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Acinobacillus)属、糸状菌および酵母菌が挙げられる(以下、これを「本発明の製造方法で用いられる微生物」と称することがある)。
【0048】
前記微生物の中でも、コリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaero
biospirillum)属および酵母菌が好ましく、コリネ型細菌、大腸菌および酵
母菌がより好ましく、コリネ型細菌および酵母菌が特に好ましい。
【0049】
コリネ型細菌としては、例えば、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属およびマイクロコッカス(Micrococcus)属が挙げられる。
【0050】
ブレビバクテリウム属としては、例えば、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)およびコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)等が用いられる。
【0051】
なお、ブレビバクテリウム・フラバム、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムおよびコリネバクテリウム・グルタミカムは互いに非常に近縁で、性質も類似しており、現在の分類学においては、同一の種に分類されることもある。
【0052】
本発明の製造方法で用いられる微生物の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831およびブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。
【0053】
なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もある(Lielbl,W.,et al.,International Journal of Systematic Bacteriology,1991,vol.41,p255−260)。したがって、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。
【0054】
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託セン
ター)(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託
番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。
【0055】
糸状菌としては、例えば、Aspergillus属、Penicillium属、R
izopus属などが挙げられる。Aspergillus属としては、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等が挙げられる。Penicillium属としては、例えば、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium simplicissimum)等が挙げられる。Rizopus属としては、例えば、リゾパス・オリゼー(Rizopus oryzae)等が挙げられる。
【0056】
酵母菌としては、例えば、サッカロミセス属(Saccaromyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccaromyces)、カンジダ属(Candida)、ピキア属(Pichia)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)およびチゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)などが挙げられる。
【0057】
サッカロミセス属(Saccaromyces)としては、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバラム(S.uvarum)、サッカロミセス・バイアヌス(S.bayanus)等が用いられる。
【0058】
シゾサッカロミセス属(Shizosaccaromyces)としては、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。
【0059】
カンジダ属(Candida)としては、例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・ソノレンシス(C.sonorensis)およびカンジダ・グラブラタ(C.glabrata)等が挙げられる。
【0060】
ピキア属(Pichia)としては、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・スティピディス(P.stipidis)等が挙げられる。
【0061】
クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)としては、クルイウェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイウェロマイセス・マルキシアヌス(K.marxianus)およびクルイウェロマイセス・サーモトレランス(K.thermotolerans)等が挙げられる。
【0062】
チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)としては、チゴサッカロミセス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailli)およびチゴサッカロミセス・ロウキシ(Z.rouxii)等が挙げられる。
【0063】
本発明の製造方法には、本発明の製造方法に用いる微生物の野生株だけではなく、UV照射およびNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合および遺伝子組み換え法等の遺伝学的手法により誘導される組み換え体等も用いられる。
【0064】
上記の組み換え体としては、コハク酸について生合成酵素遺伝子の発現強化や分解酵素遺伝子の発現低下等、公知の方法によって得られたものが用いられる。具体的には、例えば、コハク酸の製造方法においては、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼおよびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼから選ばれる補充経路酵素の活性が非改変型に対して増強又は付与するように遺伝子組換えされたもの等が挙げられる。また、ピルビン酸由来副生物生成酵素、即ち、該ピルビン酸由来副生物が乳酸である微生物においては、ラクテートデヒドロゲナーゼの活性が、それぞれ非改
変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの等が挙げられる。さらに、該ピルビン酸由来副生物がエタノールである微生物においては、ピルビン酸脱炭酸酵素又はアルコール脱水素酵素の活性が、それぞれ非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの等が挙げられる。
【0065】
ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PC」または「pc」とも呼ぶ)活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変された微生物、例えば、日本国特開平11−196888号公報に記載の方法と同様にして、pc遺伝子をプラスミドにより宿主微生物中で高発現させることにより構築することができる。また、相同組換えによって染色体上に組み込んでもよいし、プロモーター置換によってpc遺伝子の発現を増強することもできる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Res.Microbiol.,Vol.144,p.181−185,1993)等によって行うことができる。
【0066】
「PC活性が増強される」とは、PC活性が野生株又は親株等の非改変型に対して、単位菌体重量あたり好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上増加していることをいう。PC活性が増強されたことは、公知の方法、例えば、J.Bacteriol.,158,55−62,(1984)に記載の方法によりPC活性を測定することによって確認することができる。pc遺伝子や具体的な導入方法としては、日本国特開2008−259451号公報に記載のものが用いられる。
【0067】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(以下、「PEPCK」と称する)(EC4.1.1.49)が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変、又は付与するように遺伝子導入された微生物は、例えば、国際公開第2009/065780号に記載の方法と同様にして、Eschrichia coli、Mannheimia sp.、Actinobacillus sp.およびAnaerobiospirillum sp.、より好ましくは、Mannheimia succiniciproducens、Actinobacillus succinogenesおよびAnaerobiospirillum succiniciproducens由来の当該遺伝子を、プラスミドにより宿主微生物に導入、又は相同組換えによって染色体上に直接組み込むことによって構築することができる。当該遺伝子を宿主内で高発現させるためのプロモーターは、宿主微生物において、少なくても嫌気条件、又は酸素制限条件において機能するものであれば特段の制限は無い。
【0068】
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PEPC」と称する)(EC 4.1.1.38)が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変、又は付与するように遺伝子導入された微生物の構築に用いる遺伝子は、当該酵素活性をコードする限り特段の制限は無いが、好ましくは、アスパラギン酸、リンゴ酸およびオキザロ酢酸の少なくとも一方による活性阻害が軽減された酵素をコードするものが用いられる。アスパラギン酸耐性の具体的な遺伝子としては、日本国特開平8−70860号公報に記載のものが挙げられる。
【0069】
また、ラクトデヒドロゲナーゼ(以下、「LDH」と称することがある)活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたものとしては、例えば、日本国特開平11−206385号公報に記載されている相同組換えによる方法、およびsacB遺伝子を用いる方法(Schafer,A.et al.Gene 145(1994) 69−73)等により、染色体上のLDH遺伝子を破壊することによって構築することができる。
【0070】
なお、「LDH活性が低減された」とは、非改変型と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法(L..Kanarek,et al.,J.Biol.Chem.239,
4202(1964)等)によりLDH活性を測定することによって確認することができ
る。
【0071】
ピルビン酸デカルボキシラーゼ(以下、「PDC」と称することがある)(EC 4.1.1.1)活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変された酵母菌としては、例えば、日本国特開2007−174947号公報や国際公開第2005/052174号に記載されているように、ピルビン酸デカルボキシラーゼ1をコードする遺伝子、ピルビン酸デカルボキシラーゼ5をコードする遺伝子、及びピルビン酸デカルボキシラーゼ6をコードする遺伝子を欠損させることによって構築することができる。
【0072】
また、ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低下した酵母菌は、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子のプロモーター、ピルビン酸デカルボキシラーゼ構造遺伝子の発現を調節する遺伝子または該調節遺伝子のプロモーターを変異させたり、妨害したり、または該遺伝子の少なくとも一部を欠失させたりすること、並びにピルビン酸デカルボキシラーゼmRNAからピルビン酸デカルボキシラーゼタンパク質への翻訳を低下させるアンチセンス構築物を当該酵母菌に導入することによっても構築することができる。ピルビン酸デカルボキシラーゼの活性が低下したことは、公知の方法(van Maris,et al,2003)により当該酵素活性を測定することによって確認することができる。
【0073】
アルコールデヒドロゲナーゼ(以下、「ADH」と称することがある)(EC 1.1.1.1)活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変された酵母菌としては、例えば、日本国特開2007−174947に記載されているように、アルコールデヒドロゲナーゼ1をコードする遺伝子、より好ましくは国際公開第2010/003728号に記載されているように、アルコールデヒドロゲナーゼ1をコードする遺伝子及びアルコールデヒドロゲナーゼ2をコードする遺伝子を欠損させることにより構築することができる。
【0074】
また、アルコールデヒドロゲナーゼ活性が低下した酵母菌は、アルコールデヒドロゲナーゼ構造遺伝子のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ構造遺伝子の発現を調節する遺伝子若しくはその調節遺伝子のプロモーターを変異させたり、妨害したり、またはその遺伝子の少なくとも一部を欠失させたりすること、並びにアルコールデヒドロゲナーゼmRNAからアルコールデヒドロゲナーゼタンパク質への翻訳を低下させるアンチセンス構築物を当該酵母菌に導入することによっても構築することができる。
【0075】
さらに、本発明の製造方法に用いる微生物は、上記補充経路酵素活性の増強、または、同補充経路酵素活性の増強およびピルビン酸由来副生物生成酵素活性の低下に加えて、アセテートキナーゼ(以下、「ACK」とも呼ぶ)、ホスフォトランスアセチラーゼ(以下、「PTA」とも呼ぶ)、ピルベートオキシダーゼ(以下、「POXB」とも呼ぶ)およびアセチルCoAハイドロラーゼ(以下、「ACH」とも呼ぶ)からなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変されたものであってもよく、さらにフマル酸レダクターゼ(以下、「FRD」とも呼ぶ)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(以下、「MDH」とも呼ぶ)、リンゴ酸輸送タンパク質(以下、「MAE」とも呼ぶ)からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の遺伝子組み換えによって当該酵素活性を増強又は新規に導入させたものであっても良い。
【0076】
PTAとACKはいずれか一方を活性低下させてもよいが、酢酸の副生を効率よく低減させるためには、両方の活性を低下させることがより好ましい。
【0077】
「PTA活性」とは、アセチルCoAにリン酸を転移してアセチルリン酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「PTA活性が低減するように改変された」とは、PTA活性
が、非改変型、例えば野生株よりも低くなったことをいう。PTA活性は非改変型と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PTA活性は完全に消失していてもよい。PTA活性が低下したことは、例えば、Klotzsch,H.R.,Meth Enzymol.12,381−386(1969)等に記載の方法により、PTA活性を測定することによって確認することができる。
【0078】
「ACK活性」は、アセチルリン酸とADPから酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACK活性が低減するように改変された」とは、ACK活性が、非改変型、例えば野生株よりも低くなったことをいう。ACK活性は非改変型と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ACK活性は完全に消失していてもよい。ACK活性が低下したことは、Ramponiらの方法(Ramponi G.,Meth.Enzymol.42,409−426(1975))により、ACK活性を測定することによって確認することができる。
【0079】
なお、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムに分類されるものも含む)においては、Microbiology.1999 Feb;145(Pt 2):503−13に記載されているように、両酵素はpta−ackオペロン(GenBank Accession No. X89084)にコードされているため、pta遺伝子を破壊した場合は、PTA及びACKの両酵素の活性を低下させることができる。
【0080】
PTAおよびACKの活性低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer,A.et al.Gene 145 (1994) 69−73)に従ってこれらの遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、日本国特開2006−000091号公報に開示された方法に従って行うことができる。
【0081】
pta遺伝子およびack遺伝子としては、上記GenBank Accession
No. X89084の塩基配列を有する遺伝子のほか、宿主染色体上のpta遺伝子およびack遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有する遺伝子を用いることもできる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0082】
「POXB活性」は、ピルビン酸と水から酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「POXB活性が低減するように改変された」とは、POXB活性が、非改変型、例えば野生株よりも低くなったことをいう。POXB活性は非改変型と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、POXB活性は完全に消失していてもよい。POXB活性は、Chang Y.,et al.,J.Bacteriol.151,1279−1289(1982)等に記載の方法により、活性を測定することによって確認することができる。
【0083】
POXB活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer,A. et al.Gene 145 (1994)69−73)等に従ってpoxB遺伝子を破壊することにより行うことができる。具体的には、国際公開第2005/113745号等に開示された方法に従って行うことができる。
【0084】
poxB遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.Cgl2610(GenBank Accession No.BA000036の2776766−2778505番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のpoxB遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0085】
「ACH活性」は、アセチルCoAと水から酢酸を生成する反応を触媒する活性をいう。「ACH活性が低減するように改変された」とは、ACH活性が、非改変型、例えば野生株よりも低くなったことをいう。
【0086】
ACH活性は非改変型と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。尚、「低下」には活性が完全に消失した場合も含まれる。ACH活性は、例えば、Gergely,J.,et al.,(1952)J.Biol.Chem. 198 p323−334等に記載の方法により測定することが出来る。
【0087】
ACH活性の低下は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer, A.et al.Gene 145(1994)69−73)に従ってach遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、国際公開第2005/113744号等に開示された方法に従って行うことができる。
【0088】
ach遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.Cgl2569(GenBank Accession No.BA000036の2729376−2730917番目の相補鎖)の塩基配列を有する遺伝子が挙げられるが、宿主細菌の染色体DNA上のach遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよいため、該配列の相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0089】
FRD遺伝子を組み換えた微生物は、日本国特開2005−95169号公報および国際公開第2010/003728号に記載の方法によって構築することができる。
【0090】
MDH遺伝子を組み換えた微生物は、日本国特開2006−320208号公報および国際公開第2010/003728号に記載の方法によって構築することができる。
【0091】
MAE遺伝子を組み換えた微生物は、国際公開第2010/003728号や国際公開第2007/061590号に記載の方法によって構築することができる。
【0092】
なお、本発明の製造方法に用いられる微生物は、上記補充経路酵素活性の増強、または、補充経路酵素活性の増強およびピルビン酸由来副生物生成活性の低下に加え、上記改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる微生物であってもよい。
【0093】
前記微生物の中でも、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの及びピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変されたものの少なくとも一方である微生物が好ましく、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変され及びピルビン酸
カルボキシラーゼ活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変された微生物がより好ましい。
【0094】
好ましい微生物としては、例えば、日本国特開2008−259451号公報に記載されているブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株、国際公開第2010/003728号等に記載のアルコールデヒドロゲナーゼをコードするADH1及びADH2遺伝子の破壊、グリセロール3リン酸デヒドロゼナーゼをコードするGPD1遺伝子の破壊、並びにホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、フマラーゼ遺伝子、NADH型フマル酸リダクターゼ遺伝子及びリンゴ酸輸送タンパク質遺伝子による組換え酵母菌株であるSUC−200(MATA
ura3−52 leu2−112 trp1−289 adh1::lox adh2::lox gpd1::Kanlox, overexpressing PCKa,MDH3,FUMR,FRDg and SpMAE1)等が挙げられる。
【0095】
(3)種培養
本発明の製造方法に用いる微生物は、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接コハク酸の生成反応に用いても良いが、本発明の製造方法に用いる微生物を予め液体培地で培養(種培養)したものを用いるのが好ましい。
【0096】
種培養に用いる培地は、上記微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウムおよび硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキスおよびペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。
【0097】
種培養に用いる糖は、上記微生物が資化してコハク酸を生成させうる糖であれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、ショ糖、サッカロース、デンプンおよびセルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトールおよびリビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、ショ糖、フルクトースおよびグリセロールが好ましく、特にグルコース、精製ショ糖および不純物Xを含有するショ糖が好ましい。精製ショ糖は酸素供給量あたりの微生物の収量が悪いフルクトースを含有しない点でより好ましい。
【0098】
また、前記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液および糖蜜なども使用されうる。これらの糖は、単独でも組み合わせても使用できる。
【0099】
種培養に用いる培地における前記糖の含有量は特に限定されないが、コハク酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、培地に対して、通常5〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内で用いることができる。また、反応の進行に伴う前記糖の減少にあわせ、糖の追加添加を行っても良い。
コハク酸の種培養に用いるショ糖を含む培地は、コハク酸産生能を有する微生物に作用させる前に加熱処理をすることが好ましい。また、該加熱処理をする前にショ糖を含む反応液のpHを通常6以上、好ましくは7以上、一方通常10以下、好ましくは9以下に調整することが好ましい。加熱処理をする前のショ糖を含む反応液のpHを6以上とすることにより、ショ糖の分解物であるフルクトースの産生を防ぐことができる。
【0100】
本発明の製造方法に用いる上記微生物を予め増殖させる種培養の条件は、使用する微生物によって適宜設定することができるが、コリネ型細菌であれば、生育至適温度である通常20℃〜40℃の範囲、より好ましくは25℃〜37℃、特に好ましくは30℃〜35℃で、酵母菌であれば、通常10℃〜40℃、より好ましくは20℃〜35℃、特に好ましくは30℃〜35℃で、いずれも通気、攪拌し酸素を供給しながら行う。培養時間は一
定量の微生物が得られる時間であればよいが、通常、6〜96時間である。生育至適温度は、コハク酸の生成に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。
【0101】
また、よりコハク酸の製造に適した微生物の調製方法として、日本国特開2008−259451号公報に記載の炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行う方法も用いることができる。
【0102】
種培養後の微生物は、遠心分離および膜分離等によって回収した後に、本発明の方法に用いることが好ましい。本発明では、本発明の製造方法に用いられる微生物として、該微生物の処理物を使用することもできる。微生物の処理物としては、例えば、上記方法で培養および回収した微生物をアクリルアミドおよびカラギーナン等で固定化したもの、該微生物を破砕した破砕物、該破砕物の遠心分離上清および該上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
【0103】
(4)コハク酸の生成反応
本発明の製造方法においては、コハク酸産生能を有する微生物を、不純物Xを含有するショ糖に作用させることによってコハク酸を生成する。当該コハク酸の生成に用いる微生物は、種培養により予め増殖させて得られた微生物であることが好ましい。
【0104】
本発明の製造方法は、コハク酸産生能を有する微生物を予め増殖させる工程(種培養工程)と、該種培養工程により得られた微生物を、不純物Xを含有するショ糖に作用させてコハク酸を生成させる工程(コハク酸生成工程)とを含むことが好ましく、種培養工程とコハク酸生成工程とにおいてそれぞれ別々にショ糖を供給することがより好ましい。
【0105】
即ち、主として微生物を増殖させる種培養工程において、微生物の増殖及びコハク酸生成の両方に使われる糖を一度に供給すると、増殖に好適な好気的雰囲気下(培養液中の溶存酸素濃度がゼロでない状態)を維持することができないため糖量あたりの微生物の収量が少ない傾向にある。したがって、嫌気的雰囲気下(酸素制限条件)を好適とする主としてコハク酸生成するコハク酸生成工程で新たに糖を供給することが好ましい。
【0106】
種培養工程で用いるショ糖は、コハク酸生成工程で用いるショ糖と同じものであっても、異なるものであっても良い。また、コハク酸生成工程で用いるショ糖は、上記の通り嫌気的雰囲気下におけるコハク酸代謝系を亢進する作用を有すると推定される不純物Xを含有するショ糖が好ましい。
【0107】
コハク酸の生成反応における反応液中の不純物Xを含有するショ糖の含有量は特に限定されないが、コハク酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くすることができ、通常5.0〜30%(W/V)、好ましくは10〜20%(W/V)の範囲内である。
【0108】
また、コハク酸の生成反応の進行に伴う不純物Xを含有するショ糖の減少に合わせ、不純物Xを含有するショ糖の追加添加を行っても良い。該追加添加は、段階的な追加でもよく、連続的な追加でもよい。
【0109】
一方、酵母菌など、高濃度の糖がコハク酸の生成に阻害的に作用する微生物を用いる場合は、糖律速条件となるように逐次反応液に添加することが好ましく、反応液中の糖濃度を好ましくは1g/L以下、より好ましくは0.7g/L、特に好ましくは0.5g/L以下に調整しながら行う。
【0110】
コハク酸の生成反応に用いるショ糖を含む反応液は、コハク酸産生能を有する微生物に作用させる前に加熱処理をすることが好ましい。また、該加熱処理をする前にショ糖を含
む反応液のpHを通常6以上、好ましくは7以上、一方通常10以下、好ましくは9以下に調整することが好ましい。加熱処理をする前のショ糖を含む反応液のpHを6以上とすることにより、ショ糖の分解を防ぐことができる。
【0111】
コハク酸の生成反応に用いるショ糖を含む反応液としては特に限定されず、例えば、コハク酸産生能を有する微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。当該反応液は、窒素源および無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。
【0112】
前記窒素源としては、コハク酸産生能を有する微生物が資化してコハク酸等を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキスおよびコーンスティープリカーなどの各種の有機および無機の窒素化合物が挙げられる。
【0113】
前記無機塩としては、例えば、各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄および亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトールおよびニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド並びにアミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
【0114】
コハク酸の生成反応に用いる反応液には、例えば上記した不純物Xを含有するショ糖、窒素源および無機塩などのほかに、炭酸イオン、重炭酸イオンおよび二酸化炭素ガス(炭酸ガス)などを含有させることが好ましい。炭酸イオンおよび重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸又はこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。
【0115】
炭酸又は重炭酸の塩の具体例としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン、重炭酸イオンは、好ましくは1〜500mM、より好ましくは2〜300mM、さらに好ましくは3〜200mMの濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり好ましくは50mg〜25g、より好ましくは100mg〜15g、さらに好ましくは150mg〜10gの二酸化炭素ガスを含有させる。
【0116】
コハク酸の生成反応に用いる反応液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウム等を添加することによって調整することができる。
【0117】
コハク酸の生成反応に用いる反応液のpHは、耐酸性が弱い微生物においては、通常pH5〜10、好ましくはpH6〜9.5とすることが好ましいので、反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
【0118】
一方、糸状菌や酵母菌のように耐酸性が強い微生物を用いる場合は、コハク酸の生成反応に用いる反応液のpHは、通常pH1〜5、好ましくはpH1.5〜4、特に好ましくはpH2〜3.5とすることが好ましい。
【0119】
上記コハク酸の生成反応における反応温度は、用いるコハク酸産生能を有する微生物の生育至適温度又は、生育至適温度より2〜20℃高い温度とすることが好ましく、7〜15℃高い温度とすることがより好ましい。具体的には、例えば、コリネ型細菌の場合には、反応温度を37〜45℃とすることが好ましく、39〜45℃とすることがより好ましく、39〜43℃とすることがさらに好ましく、39〜41℃とすることが特に好ましい。
【0120】
コハク酸の生成反応の間、常に好適な温度である必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間、上記温度範囲にすることが好ましい。また、コハク酸の生成反応における反応時間は1〜168時間が好ましく、3〜72時間がより好ましい。
【0121】
コハク酸の生成反応における反応液中の菌体量は、特に規定されないが、好ましくは1〜700g/L、より好ましくは10〜500g/L、さらに好ましくは20〜400g/Lとする。
【0122】
上記コハク酸の生成反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない、又は、通気を絞り酸素供給量を制限した嫌気的雰囲気下で行うことが好ましい。ここで、「嫌気的雰囲気下」とは、溶液中の溶存酸素濃度を低く抑えて反応することを意味する。
【0123】
コハク酸の生成反応を嫌気的雰囲気下で行う場合、溶存酸素濃度は、通常0ppm以上とすることが好ましい。また、通常2ppm以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下とすることが好ましい。コハク酸の生成反応を嫌気的雰囲気下で行うための方法としては、例えば容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって得ることができる。
【0124】
コハク酸の生成反応におけるコハク酸産生能を有する微生物の倍加時間は、特段の制限はないが、通常40時間以上、好ましくは50時間以上、より好ましくは60時間以上とすることが好ましい。また、通常500時間以下、好ましくは300時間以下、より好ましくは200時間以下とすることが好ましい。
【0125】
前記倍加時間を40時間以上とすることにより、糖が菌体増殖に利用されるためにコハク酸生成量が減少するのを防ぐとともに、増殖に伴い生産される副生物の増加を抑えることができ、コハク酸生成過程でのコストを抑えることができる。また、前記倍加時間を500時間以下とすることにより、触媒である菌体が死滅することによるコハク酸生成量の減少を防ぐことができる。
【0126】
ここで、コハク酸の生成反応におけるコハク酸産生能を有する微生物の倍加時間とは、該微生物の菌体数が2倍に増加するためにかかる時間であり、ある2点の菌体濃度(OD)もしくは乾燥菌体量の値を元に、以下の計算式(1)の式により求められる。
【0127】
【数1】

【0128】
上記式(1)において、T2及びT1はある2点のサンプリング時間、X1及びX2は
該2点に対応する菌体濃度もしくは乾燥菌体重量の値を示す。
【0129】
以上のような反応により、コハク酸が反応液中に生成、蓄積する。反応液(培養液)中に蓄積したコハク酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。具体的には、例えば、遠心分離およびろ過等により菌体等の固形物を除去した後、イオン交換樹脂等で脱塩し、その溶液から結晶化またはカラムクロマトグラフィーにより精製するなどして、コハク酸を採取することができる。
【0130】
上記した本発明の製造方法によりコハク酸を製造した後に、得られたコハク酸を水素化して1,4−ブタンジオールを製造することもできる。1,4−ブタンジオールは、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、テトラヒドロフラン(溶媒)、並びにN−メチルピロリドンおよびN−ビニルピロリドンの前駆体であるγ−ブチロラクタンの原料等に用いられる。
【0131】
さらに、本発明の製造方法により製造されたコハク酸を原料として重合反応を行うことによりコハク酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきており、特に、本発明の製造方法により製造されるコハク酸は、ポリエステルおよびポリアミドといったポリマーに加工して用いる事が出来る。
【0132】
コハク酸含有ポリマーとして、具体的には、例えば、ブタンジオールおよびエチレングリコールなどのジオールとコハク酸とを重合させて得られるコハク酸ポリエステル、並びにヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸とを重合させて得られるコハク酸ポリアミドなどが挙げられる。
【0133】
また、本発明の製造法により得られるコハク酸または該コハク酸を含有する組成物は、食品添加物、医薬品および化粧品などに用いることができる。
【実施例】
【0134】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0135】
(実施例1)不純物Xを含有するショ糖の効果(NaHCO存在下)
<種培養>
100mLの種培養培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、塩酸チアミン:200μg、ビオチン:200μg、及び蒸留水:1000mLの培地100mL)を500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50重量%ショ糖(試薬特級・和光純薬製)水溶液を4mL添加し、日本国特開2008−259451号公報に記載されているブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株を接種して16時間30℃にて種培養した。
【0136】
<コハク酸生成反応>
得られた全培養液を5000×g、4℃、7分の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(硫酸マグネシウム・7水和物:1g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、リン酸一アンモニウム:0.8g、リン酸二アンモニウム:0.8g、塩化カリウム:0.3g、塩酸チアミン:200μg、ビオチン:200μg、及び蒸留水:1000mL)100mLで2回洗浄した後、OD660の吸光度が20になるように菌体懸濁培地に懸濁した。4mL反応器に前記の菌体懸濁液0.5mLに、基質溶液(試薬特級ショ糖(和光純薬製)または表1に示す各不純物Xを含有するショ糖のいずれか:50g、炭酸水素ナトリウム:67.0gを蒸留水に溶解し1000mLにメスアップしたもの)0.5mLを加えて、20体積%炭酸ガス、80体積%窒素ガス雰囲気下、39℃で5時間反応させた。コハク酸の生成反応におけるMJ233/PC−4/ΔLDH株の倍加時間は70時間以上であった。反応後、12,000rpm、室温、5分の条件で遠心分離した上清のコハク酸濃度を定量した。その結果を表2に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
上記遠心上清のコハク酸蓄積量の測定方法は、上記上清と、10g/L濃度のコハク酸標品を、日立高速液体クロマトグラフィーシステム[UV検出機;L−2400、RI検出器;L−2490、ポンプ;L−2130、カラムオーブン;L−2350、オートサンプラー;L−2200]を用いて分析を行い、UV検出器を用いた波長210nmでの分析においてコハク酸標品で検出されるコハク酸ピークエリア値と、上清で検出されるコハク酸のピークエリア値との比から、コハク酸蓄積量を換算する方法で行った。高速液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0139】
(測定条件)
カラム;ULTRON PS−80H(信和化工製)
溶離液;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
UV検出波長;210nm
注入量;10mL
【0140】
【表2】

【0141】
表2に示すように、不純物Xを含有するショ糖を基質として使用すると、対照基質である精製ショ糖(試薬特級ショ糖)と比較して反応液中のコハク酸蓄積量が明らかに増加した。
【0142】
(実施例2)不純物Xを含有するショ糖の効果(MgCO存在下)
<種培養>
100mLの種培養培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、塩酸チアミン:200μg、ビオチン:200μg、及び蒸留水:1000mLの培地100mL)を500mLの三角フラスコにいれ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50重量%ショ糖(試薬特級・和光純薬製)水溶液を4mL添加し、上記ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株をそれぞれ接種して16時間30℃にて種培養した。
【0143】
<コハク酸生成反応>
得られた全培養液を5000×g、4℃、7分の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(硫酸マグネシウム・7水和物:1g、硫酸第一鉄・7水和物:40mg、硫酸マンガン・水和物:40mg、リン酸一アンモニウム:0.8g、リン酸二アンモニウム:0.8g、塩化カリウム:0.3g、塩酸チアミン:200μg、ビオチン:200μg、及び蒸留水:1000mL)100mLで2回洗浄した後、OD660の吸光度が40になるように菌体懸濁培地に懸濁した。
【0144】
4mL反応器に前記の菌体懸濁液0.5mLに、基質溶液(試薬特級ショ糖(和光純薬製)または表1に示す各不純物Xを含有するショ糖のいずれか:50gを蒸留水に溶解し、更に炭酸マグネシウム:194gを懸濁させて蒸留水にて1000mLにメスアップしたもの)0.5mLを加えて、20体積%炭酸ガス、80体積%窒素ガス雰囲気下、39℃で3時間反応させた。反応後、12,000rpm、室温、5分の条件で遠心分離し、上清のコハク酸蓄積濃度を、実施例1と同様に定量した。その結果を表3に示す。コハク酸の生成反応に係るMJ233/PC−4/ΔLDH株の倍加時間は70時間以上であった。
【0145】
【表3】

【0146】
表3に示すように、NaHCO存在下の場合と同様に、不純物Xを含有するショ糖を基質として使用すると、対照基質である精製ショ糖(試薬特級ショ糖)と比較して反応液中のコハク酸蓄積量が明らかに向上した。
【0147】
(実施例3)不純物Xを含有するショ糖の吸光度とコハク酸蓄積量との関連の検討
使用糖の着色度の目安となる吸光度測定を行った。微量天秤を用いて、表1に示す精製ショ糖及び各種不純物Xを含有するショ糖を夫々10gを秤量し、100mLメスフラスコに入れ、蒸留水に溶解させて10重量%糖水溶液を調製した。分光光度計(島津社製:UV−1200)を用いて調製した糖水溶液の350nmおよび500nmの吸光度を測定した。吸光度が1.0以上を示した場合には適宜希釈し、吸光度が1.0以下であるのを確認してから、その数値に希釈倍率を乗じて吸光度を算出した。吸光度測定結果を表4に示す。この測定の検出限界は0.010である。
【0148】
また、図1には実施例1で得られた各不純物Xを含有するショ糖を原料とした微生物中のコハク酸蓄積濃度と、上記で測定した吸光度の関係を、また図2には実施例2で得られた炭酸マグネシウム中和時における微生物中のコハク酸蓄積濃度の関係をそれぞれ示す。
【0149】
【表4】

【0150】
図1及び図2から明らかなように、不純物Xを含有するショ糖の吸光度とコハク酸蓄積量との間には正の相関関係がある事がわかった。また、特にショ糖濃度10重量%溶液の350nmにおける吸光度が好ましくは0.50以上、より好ましくは3.0以上、さらに好ましくは4.0以上の場合に、コハク酸蓄積量が精製ショ糖と比べて高いことがわかった。
【0151】
(実施例4)ショ糖中の不純物Xの含有量とコハク酸蓄積量との関連の検討
微量天秤を用いて、表1に示す精製ショ糖及び各種不純物Xを含有するショ糖を夫々1g秤量し、100mLメスフラスコに入れ、蒸留水に溶解させて1重量%糖水溶液を調製して不純物の確認を行った。不純物の確認には日立高速液体クロマトグラフィーシステム[UV検出機;L−2400、RI検出器;L−2490、ポンプ;L−2130、カラムオーブン;L−2350、オートサンプラー;L−2200]を用いて測定した。測定条件を以下に示す。
【0152】
(測定条件)
カラム;ULTRON PS−80H(信和化工製)
溶離液;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
UV検出波長;210nm
注入量;10mL
【0153】
ULTRON PS−80H(信和化工製)は、粒径が10μmおよび架橋度が8%である基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を充填したポリマー系の有機酸分析用カラムであり、カラム内径が8mmおよびカラム長さが300mmのものである。
UV検出器を用いた波長210nmでの分析の結果、使用した不純物Xを含有するショ糖ではいずれも、ショ糖加水分解物であるフルクトースの溶出ピーク直後、即ち保持時間が6.7から6.95分にUV吸収極大を示す物質が検出され、この物質を不純物Xと規定した。RI検出器を用いた分析では不純物Xは同位置に顕著な吸収強度を示さず、不純物Xは紫外部領域に強い吸収を持つ物質であることが示唆された。
【0154】
ショ糖中の不純物Xの含有量の測定は、上記分析による本不純物Xのピークエリア値と、同様の分析条件で、10g/L濃度のコハク酸標品の分析を行い、ここで得られるコハク酸のピークエリア値との比を用いて、コハク酸標品の濃度により換算して求めた。この濃度を表5に示す。この検出限界値は0.010g/Lである。
【0155】
不純物Xのエリア値の算出は、フルクトースと不純物Xのピーク間にある谷部でピークを垂直分割した点を始点(6.6分)とし、始点から不純物Xピーク終点(7.2分)までを積分し、面積値を求めることによって行った。なお、ベースラインは最初のピークの立ち上がり部(3.8分)から不純物Xピーク終点までの水平線とした。
【0156】
不純物Xを示す一例として、波長210nmのUV検出器を用いて分析を行った場合の試薬特級ショ糖(和光純薬製)及び本きび赤糖(日新製糖製)の高速液体クロマトグラフィーチャートを重ね書きしたものを図3に示す。ただし、上記測定条件においてはショ糖が分解してフルクトースのピークが検出される。
【0157】
同条件で分析を行った場合のコハク酸および酢酸のピーク位置も同図に示した。波長210nmおよび280nmのUV検出器並びにRI検出器を用いて本きび赤糖(日新製糖製)の分析を行った場合の高速液体クロマトグラフィーチャートを重ね書きしたものを図4に示す。
【0158】
図5に炭酸水素ナトリウム中和時における不純物Xとコハク酸蓄積濃度の関係を示す。また、図6に炭酸マグネシウム中和時における不純物Xとコハク酸蓄積濃度の関係を示す。
【0159】
【表5】

【0160】
表5に示すように、上記測定条件において、精製ショ糖である試薬特級ショ糖中の不純物Xの含有量は、不純物Xを0.02g/Lより少ないことが判った。尚、ビオチン標品を上記高速液体クロマトグラフィー分析に供したが如何なるピークも検出されなかった。
【0161】
また、図3〜5に示すように、各粗糖に含まれる不純物XのUVピークエリア値と表2および表3に示したコハク酸蓄積濃度との間に正の相関関係があることが分かった。
【0162】
(実施例5)酵母菌における不純物Xを含有するショ糖の効果
(A)酵母菌染色体DNAの調製
サッカロミセス・セレビシエYPH500株(STRATAGENE社)をYPAD液体培地(1重量% 酵母エキス、2重量% ポリペプトン、20μg/ml アデニン、2重量% グルコース)10mlに植菌し、30℃で16時間、振とう培養をおこなった。培養液から菌体を集菌し、STES緩衝液(0.1M NaCl、0.01M トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以下「トリス」と略す)、0.001M エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下「EDTA」と略す)、0.1重量% ラウリル硫酸ナトリウム、pH7.5)0.1mlに懸濁後、石英砂を細胞と同体積加えた。
【0163】
サンプルを30秒間ボルテックスミキサーで撹拌した後、1分間氷上に静置し、この操作を3回繰り返した。フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(体積比25:
24:1)を0.1ml加えて、同様に30秒間の撹拌と1分間の氷上静置を2回繰り返した。
【0164】
微量用遠心機により二層に分離させ、水層を回収した。等容積のクロロホルムを加えて撹拌した後、同様に微量用遠心機により二層に分離させ、水層を回収した。10分の1容の3M 酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)、2.5倍容の99% エタノールを加えてDNAを沈殿回収後、0.05mlのTE緩衝液(0.01M トリス、0.001M EDTA、pH7.5)に溶解した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
【0165】
(B)遺伝子破壊用の酵母pdc1、pdc5遺伝子断片の調製
サッカロミセス・セレビシエ由来ピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子pdc1、pdc5を含むDNA断片は、上記(A)で取得したサッカロミセス・セレビシエYPH500株の染色体DNAを鋳型にしてPCRにて合成、単離した。以下にその方法の詳細を示す。
【0166】
PDC1遺伝子断片のPCRによる合成には、フォワードプライマーPDC1−F(配列番号1:5’−aaactgcagactagtctcatttgaatcagcttatggtgatggc−3’)、リバースプライマーPDC1−R(配列番号2:5’−cgcggatccactagtcagggttttggaaaccacactgttt−3’)を用いた。このプライマーの組み合わせでPDC1の蛋白質コード領域を含む断片を増幅することができる。また、5’側に制限酵素PstIとSpeIの認識配列を、3’側にBamHIとSpeIの認識配列を含んだ形で合成することができる。
【0167】
PDC5遺伝子断片のPCRによる合成には、フォワードプライマーPDC5−F(配列番号3:5’-aaactgcagcaaaatgtctgaaataaccttag
g−3’)、リバースプライマーPDC5−R(配列番号4:5’−aaaggatccttattgtttagcgttagtagcggcag−3’)を用いた。このプライマーの組み合わせでPDC5の蛋白質コード領域を含む断片を増幅することができる。また、5’側に制限酵素PstIの認識配列を、3’側にBamHIの認識配列を含んだ形で合成することができる。
【0168】
PCRはPrimeSTARポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて、94℃で10秒、53℃で5秒、72℃で2分30秒からなるサイクルを30回繰り返した。このPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、約2.2kbpのpdc1遺伝子断片および約1.7kbpのpdc5遺伝子断片をそれぞれ確認した。
【0169】
(C)PDC1遺伝子破壊用プラスミドpT7Blue−pdc1::URA3の構築
上記(B)でPCR合成したPDC1遺伝子断片を制限酵素PstI(タカラバイオ社製、以下、特に記載のない限り、制限酵素はタカラバイオ社製である)およびBamHIで切断し、同制限酵素で処理したpT7Blue(タカラバイオ社製)と混合してTaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。この連結物で大腸菌DH5α株を形質転換し、50mg/mlのアンピシリンおよび50μg/mLのX−Galを含むLB寒天培地(1重量% トリプトン、0.5重量% 酵母エキス、0.5重量% NaCl、1.5重量% 寒天)に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを常法により液体培養した後、アルカリ−SDS法でプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動により、制限酵素SpeIによる切断で約2.2kbpと2.8kbpの断片が確認できたものを目的のプラスミドとし、pT7Blue−PDC1と命名した。
【0170】
次に、pT7Blue−PDC1をHincIIで切断し、PDC1遺伝子の内部1,614bpを欠失させた。この欠失部分に、プラスミドpUC−URA3をHindIIIで切断して平滑化した約1.2kbpの酵母ウラシル合成系の遺伝子であるURA3遺伝子断片をTaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結させた。上記と同様にpT7Blue−PDC1とURA3遺伝子断片との連結物で大腸菌DH5α株を形質転換し、得られたクローンからプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動により、制限酵素SpeIによる切断で約1.8kbpと2.8kbpの断片が確認できたものを目的のプラスミドとし、pT7Blue−pdc1::URA3と命名した。
【0171】
なお、pUC−URA3は以下の方法で調製したプラスミドである。上記(A)の方法により取得したサッカロミセス・セレビシエS288C株(ATCC204508)の染色体DNAを鋳型とし、フォワードプライマーURA3−F(配列番号5:5’−ggttaatgtggctgtggtttcagg−3’)、リバースプライマーURA3−R(配列番号6:5’−gcgaggtattggatagttcc−3’)を用いてプロモーター領域を含むURA3遺伝子断片をPCRにて合成、単離した。PCRはTaqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて、94℃で1分、53℃で1分、72℃で1分30秒からなるサイクルを30回繰り返した。
【0172】
得られたPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、約1.2kbpのURA3遺伝子断片を確認した。このADE2遺伝子断片を制限酵素HindIIIで切断し、同制限酵素で消化後にBAP処理を行い脱リン酸化したpUC18(タカラバイオ社製)と混合して、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。この連結物で大腸菌JM109株を形質転換し、50mg/mlのアンピシリンおよび50μg/mLのX−Galを含むLB寒天培地(1重量% トリプトン、0.5重量% 酵母エキス、0.5重量% NaCl、1.5重量% 寒天)に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを常法により液体培養した後、アルカリ−SDS法でプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動により制限酵素HindIIIによる切断で約1.2kbpと2.7kbpの断片が生じることを確認した。
【0173】
(D)PDC5遺伝子破壊用プラスミドpT7Blue−pdc5::ADE2の構築
上記(B)でPCR合成したPDC5遺伝子断片を制限酵素PstIおよびBamHIで切断し、同制限酵素で処理したpT7Blue(タカラバイオ社製)と混合してTaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。この連結物で大腸菌DH5α株を形質転換し、50mg/mlのアンピシリンおよび50μg/mLのX−Galを含むLB寒天培地(1重量% トリプトン、0.5重量% 酵母エキス、0.5重量% NaCl、1.5重量% 寒天)に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを常法により液体培養した後、アルカリ−SDS法でプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動により、制限酵素PstIおよびBamHIによる切断で約1.7kbpと2.8kbpの断片が確認できたものを目的のプラスミドとし、pT7Blue−PDC5と命名した。
【0174】
次に、pT7Blue−PDC5をXbaIで切断して平滑化し、PDC5遺伝子の内部136bpを欠失させた。この欠失部分に、プラスミドpUC−ADE2をSmaIで切断して得た約2.5kbpの酵母アデニン合成系の遺伝子であるADE2遺伝子断片をTaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結させた。上記と同様にpT7Blue−PDC5とADE2遺伝子断片との連結物で大腸菌DH5α株を形質転換し、得られたクローンからプラスミド抽出をおこなっ
た。アガロースゲル電気泳動により、制限酵素PstIおよびBamHIによる切断で約2.5kbpと4.1kbpの断片が確認できたものを目的のプラスミドとし、pT7Blue−pdc5::ADE2と命名した。
【0175】
なお、pUC−ADE2は以下の方法で調製したプラスミドである。上記(A)の方法により取得したサッカロミセス・セレビシエS288C株(ATCC204508)の染色体DNAを鋳型とし、フォワードプライマーADE2−F(配列番号7:5’−gaattcccgggtaacgccgtatcgtgattaac−3’)、リバースプライマーADE2−R(配列番号8:5’−ggatcccgggtgatcttatgtatgaaattc−3’)を用いてプロモーター領域を含むADE2遺伝子断片をPCRにて合成、単離した。PCRはTaqポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて、94℃で1分、53℃で1分、72℃で3分からなるサイクルを30回繰り返した。
【0176】
得られたPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、約2.5kbpのADE2遺伝子断片を確認した。このADE2遺伝子断片を制限酵素SmaIで切断し、同制限酵素で消化後にBAP処理を行い脱リン酸化したpUC19(タカラバイオ社製)と混合して、TaKaRa DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。この連結物で大腸菌JM109株を形質転換し、50mg/mlのアンピシリンおよび50μg/mLのX−Galを含むLB寒天培地(1重量% トリプトン、0.5重量% 酵母エキス、0.5重量% NaCl、1.5重量% 寒天)に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを常法により液体培養した後、アルカリ−SDS法でプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動により制限酵素SmaIによる切断で約2.5kbpと2.7kbpの断片が生じることを確認した。
【0177】
(E)遺伝子破壊用断片pdc5::ADE2の導入によるPDC5遺伝子破壊株YPH500/ΔPDC5株の作製
上記(D)で構築したプラスミドpT7Blue−pdc5::ADE2を制限酵素PstIおよびBamHIで切断し、アガロースゲルから約4.1kbpのDNA断片(pdc5::ADE2)をGENE CLEAN II KIT(フナコシ社製)により抽出した。このDNA断片を用いてサッカロミセス・セレビシエYPH500株(MATα
leu2−、ura3−、trp1−、his3−、ade2−、lys2−)を酢酸リチウム法(Ito, H., Fukuda,Y., Murata, K. and
Kimura, A. (1983) J. Bacteriol. 153(1),
163−168)で形質転換し、100mg/mlのL−ロイシン、20mg/mlのウラシル、20mg/mlのトリプトファン、20mg/mlのL−ヒスチジン、30mg/mlのL−リジンを含むSDE寒天培地(0.17重量% YEAST NITROGEN BASE w/o AMINO ACIDS(DIFCO社製)、2重量% グルコース、1容量% エタノール、2重量% 寒天)に播き、30℃で6日間培養した。
【0178】
寒天培地上で生育してきたアデニン非要求性のコロニーをYPAE液体培地(1重量%
酵母エキス、2重量% ポリペプトン、20μg/ml アデニン、2容量% エタノール)5mlに植菌し、30℃で16時間、振とう培養をおこなった。この培養液から上記(A)の方法により染色体DNAを抽出した。これを鋳型としてフォワードプライマーPDC5−F(配列番号3:5’−aaactgcagcaaaatgtctgaaataaccttagg−3’)とリバースプライマーPDC5−R(配列番号4:5’−aaaggatccttattgtttagcgttagtagcggcag−3’)の組み合わせでPCRを行い、pdc5遺伝子座上での相同組換えの有無を調べた。PCRはPrimeSTARポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて、94℃で10秒、53℃で5秒、72℃で4分からなるサイクルを30回繰り返した。
【0179】
比較対照として、YPH500株の染色体DNA、プラスミドpT7Blue−PDC5、pT7Blue−pdc5::ADE2を鋳型にして、同様にPCRを行った。アガロースゲル電気泳動によりpT7Blue−pdc5::ADE2と同じ約4.1kbpのDNA断片が検出され、相同組換えによりPDC5遺伝子が破壊されたことが確認できた形質転換体をYPH500/ΔPDC5と命名した。
【0180】
(F)YPH500/ΔPDC5株への遺伝子破壊用断片pdc1::URA3の導入による二重遺伝子破壊株YPH500/ΔPDC5/ΔPDC1株の作製
上記(C)で構築したプラスミドpT7Blue−pdc1::URA3を制限酵素SpeIで切断し、アガロースゲルから約1.8kbpのDNA断片(pdc1::URA3)をGENE CLEAN II KIT(フナコシ社製)により抽出した。このDNA断片を用いて上記(E)で作製したYPH500/ΔPDC5株を酢酸リチウム法(Ito, H., Fukuda,Y., Murata, K. and Kimura, A. (1983) J. Bacteriol. 153(1), 163−168)で形質転換し、100mg/mlのL−ロイシン、20mg/mlのトリプトファン、20mg/mlのL−ヒスチジン、30mg/mlのL−リジンを含むSDE寒天培地(0.17重量% YEAST NITROGEN BASE w/o AMINO ACIDS(DIFCO社製)、2重量% グルコース、1容量% エタノール、2重量% 寒天)に播き、30℃で6日間培養した。
【0181】
寒天培地上で生育してきたアデニン非要求性のコロニーをYPAE液体培地(1重量%
酵母エキス、2重量% ポリペプトン、20μg/ml アデニン、2容量% エタノール)5mlに植菌し、30℃で16時間、振とう培養をおこなった。この培養液から上記(A)の方法により染色体DNAを抽出した。これを鋳型としてフォワードプライマーPDC1−F(配列番号1:5’−aaactgcagactagtctcatttgaatcagcttatggtgatggc−3’)とリバースプライマーPDC1−R(配列番号2:5’−cgcggatccactagtcagggttttggaaaccacactgttt−3’)の組み合わせでPCRを行い、PDC1遺伝子座上での相同組換えの有無を調べた。PCRはPrimeSTARポリメラーゼ(タカラバイオ社製)を用いて、94℃で10秒、53℃で5秒、72℃で2分30秒からなるサイクルを30回繰り返した。
【0182】
比較対照として、YPH500株の染色体DNA、プラスミドpT7Blue−PDC1、pT7Blue−pdc1::URA3を鋳型にして、同様にPCRを行った。アガロースゲル電気泳動によりpT7Blue−pdc1::URA3と同じ約1.8kbpのDNA断片が検出され、相同組換えによりPDC1遺伝子が破壊されたことが確認できた形質転換体をYPH500/ΔPDC5/ΔPDC1と命名した。
【0183】
(G)酵母菌における粗糖の効果
<種培養>
培養培地(酵母エキス:10g、ペプトン:20g、アデニン:20mg、及び蒸留水:1000mLの培地)100mLを500mLの三角フラスコに入れ120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめフィルター滅菌した99.5%エタノールを2mL添加し、前記サッカロミセス・セレビシエ YPH500/ΔPDC5/ΔPDC1株を濁度OD660が0.1となるように接種し、30℃、160rpmにて88時間振盪培養した。
【0184】
<コハク酸生成反応>
得られた培養液全量を4000×g、25℃、3分間の遠心分離により集菌し、菌体懸濁培地(リン酸一カリウム:6g、硫酸マグネシウム・七水和物:1g、エチレンジアミ
ン四酢酸二ナトリウム・二水和物:30mg、硫酸亜鉛・七水和物:9mg、塩化コバルト・六水和物:0.6mg、塩化マンガン・四水和物:2mg、硫酸銅・五水和物:0.6mg、塩化カルシウム・二水和物:9mg、硫酸鉄・七水和物:6mg、モリブデン酸ナトリウム・二水和物:0.8mg、ホウ酸:2mg、ヨウ化カリウム:0.2mg、ビオチン:0.1mg、パントテン酸カルシウム:2mg、ニコチン酸:2mg、イノシトール:50mg、チアミン塩酸塩:2mg、ピリドキシン塩酸塩:2mg、及び蒸留水1000mLの培地)100mLで2回洗浄した後、OD660の吸光度が80となるように菌体懸濁培地に懸濁した。4mLの反応器に前記の菌体懸濁液0.5mLと基質溶液(試薬特級ショ糖(和光純薬製)または粉末黒砂糖(日新製糖製):100g、炭酸マグネシウム:60gを蒸留水に溶解し、1000mLにメスアップした溶液)0.5mLを加えて、6%炭酸ガス、14%酸素ガスの雰囲気下でレシプロ型振盪機(エイブル社製、型式MLU−4−TR−250)で30℃、250rpmで24時間反応させた。
【0185】
反応後12,000rpm、室温、5分の条件で遠心分離した上清のコハク酸濃度を定量した。その結果を表6に示す。
【0186】
【表6】

【0187】
表6に示すように、不純物Xを含有するショ糖である粉末黒砂糖を基質として使用すると、対照基質である精製ショ糖(試薬特級ショ糖)と比較して反応液中のコハク酸蓄積量が顕著に増加した。
【0188】
(実施例6)糖蜜の種類と不純物Xの含有量について
表7に示す糖蜜について、吸光度及び不純物Xの含有量を、それぞれ実施例3及び実施例4に記載の方法にて測定した。その結果を表7に示す。
【0189】
【表7】

【0190】
表7に示すように、不純物Xは、サトウキビ由来品に高濃度で含まれるのに対して、テンサイ由来の糖蜜には含まれておらず(検出限界以下)、特定の種類の糖蜜にのみ含まれることが分かった。
【0191】
(実施例7)不純物Xを含有する糖蜜の効果
実施例1に記載の方法に従って、糖蜜の効果を確認した。但し、菌体反応時に用いた基質溶液、反応時間及びコハク酸蓄積濃度は、後述のとおりに行った。基質溶液は、試薬特級ショ糖(和光純薬社製)または表7に示した糖蜜を予めショ糖濃度100g/Lに調整した溶液:500mL、炭酸水素ナトリウム:67gを蒸留水に溶解し、1000mLに溶解した溶液とした。
【0192】
反応開始から3時間目および5時間目の反応液中のコハク酸濃度を定量し、係る2時間の間に生成したコハク酸の蓄積濃度を表8に示す。コハク酸の生成反応に係るMJ233/PC−4/ΔLDH株の倍加時間は70時間以上であった。
【0193】
【表8】

【0194】
表8に示すように、精製ショ糖(試薬特級ショ糖)と比較して、不純物Xを含有する糖蜜を基質とした場合にコハク酸蓄積濃度が向上していた。
【0195】
(実施例8)高速液体クロマトグラフィによる不純物Xの分析
高速液体クロマトグラフィーの分離用カラムとしてMCI GEL CK08EH(三菱化学製)を用いた以外は実施例4に記載の条件にて、表5に記載の原料糖、フルクトース、及びコハク酸標品を分析し、得られたクロマトチャートを図7に示す。MCI GEL CK08EH(三菱化学製)は、粒径が9μmおよび架橋度が8%である基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を充填したポリマー系の有機酸分析用カラムであり、カラム内径が8mmおよびカラム長さが300mmのものである。
【0196】
ULTRON PS−80H(実施例4で取得)及びMCI GEL CK08EHで分離・検出したコハク酸標品のピークトップの時間([b])及び不純物Xのピークトップの時間([a])、並びにコハク酸標品のピークトップ時間に対する不純物Xのピークトップの時間の比([a]/[b])を表9に示す。
【0197】
【表9】

【0198】
表9に示すように、不純物Xのピークトップの時間はコハク酸のピークトップの時間との比において、0.85から0.91の範囲で検出される。当該ピークで規定される不純物Xの含有量は表5および表7に示すとおりである。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2009年4月16日出願の日本特許出願2009−099903に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際の保持時間6.7から6.95分で検出される物質を含有し、該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;ULTRON PS−80H(信和化工製)
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【請求項2】
コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際の保持時間6.7から6.95分で検出される物質を含有し、該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;粒径が7〜11μm及び架橋度が7〜9%である基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とし、内径が7.8〜8.2mm及び長さが260〜340mmである分離カラム
溶媒;60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速;1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【請求項3】
コハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させるコハク酸の製造方法において、該ショ糖が以下であることを特徴とするコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度1重量%に調製した水溶液を以下の測定条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した際のピークにおいて、ピークトップの時間[a]がコハク酸標品のピークトップの時間[b]との比([a]/[b])において0.85から0.91で検出されるピークの物質を含有し、かつ該水溶液における該物質の含有量がコハク酸換算値として0.02g/L〜100g/Lであるショ糖。
(測定条件)
分離カラム;粒径が7〜11μmである基質架橋型スチレンジビニルベンゼン共重合体を基材とする分離カラム
溶媒; 60重量%過塩素酸1.8mL/1L蒸留水
流速; 1.0mL/分
カラム温度;60℃
検出波長;210nmUV
注入量;10μL
【請求項4】
前記ショ糖が以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
ショ糖濃度10重量%水溶液の350nmにおける吸光度が0.50以上100以下であるショ糖。
【請求項5】
コハク酸産生能を有する微生物がコリネ型細菌、大腸菌、アナエロビオスピリラム(Anaerobiospirillum)属、アクチノバチルス(Acinobacillus)属、糸状菌及び酵母菌からなる群から選択される微生物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項6】
前記ショ糖が、植物から搾取した糖液を濃縮、精製する方法であって、脱色工程を行っていない製造方法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項7】
前記微生物が、ラクテートデヒドロゲナーゼ活性が非改変型と比べて低減するように遺伝子改変されたもの及びピルビン酸カルボキシラーゼ活性が非改変型と比べて増強するように遺伝子改変されたもの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項8】
前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム グルタミカム、ブレビバクテリウム フラバム及びブレビバクテリウム ラクトファーメンタムより選択されるものであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項9】
嫌気的雰囲気下でコハク酸産生能を有する微生物をショ糖に作用させてコハク酸を生成させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項10】
コハク酸産生能を有する微生物を予め増殖させる種培養工程と、該種培養工程で得られた微生物を不純物Xを含有するショ糖に作用させてコハク酸を生成させるコハク酸生成工程とを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコハク酸の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び該工程で得られたコハク酸を水素化する工程を含む、1,4−ブタンジオール製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び該工程で得られたコハク酸を原料として重合反応を行う工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−263887(P2010−263887A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94250(P2010−94250)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】