説明

コモンモードチョークコイルの製造方法及びコモンモードチョークコイル

【課題】導体コイルの材料に銀を使用し、かつ、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、ガラスセラミックスへの銀の拡散を抑制することができ、よって、信頼性の高いコモンモードチョークコイルを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】第1磁性層(1)上に非磁性層(3)および第2磁性層(5)が積層され、該非磁性層(3)中に2つの対向する導体コイル(2、4)を含むコモンモードチョークコイル(10)の製造方法において、銀を含む導体により前記導体コイル(2、4)を形成し、銀を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、前記非磁性層(3)を少なくとも部分的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンモードチョークコイルの製造方法に関し、より詳細には、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、この非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルの製造方法に関する。また、本発明は、かかる製造方法によって得られるコモンモードチョークコイルにも関する。
【背景技術】
【0002】
コモンモードチョークコイルは、コモンモードノイズフィルタとも呼ばれ、各種電子機器の使用に際して発生し得るコモンモードノイズを低減し、好ましくは除去するために使用される。特に、差動伝送方式による高速データ通信においてコモンモードノイズが問題となり、コモンモードチョークコイルはかかる用途に多く利用されている。
【0003】
従来、コモンモードチョークコイルとして、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、この非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含む構成が知られている。非磁性層の材料には、電気絶縁性および加工性などの観点から、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂が使用されている(特許文献1を参照のこと)。また、非磁性層の材料には、ガラスセラミックスも使用されており、これにより、非磁性層の耐湿性および非磁性層を含む積層体と外部端面電極との接続強度を向上させることができる(特許文献2を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−260017号公報
【特許文献2】特開2006−319009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用する場合、ガラスセラミックスを焼成(焼結)する必要が生じる(例えば特許文献2では、グリーンシート積層体を一体焼成している)。非磁性層には、2つの対向する導体コイルを埋設配置していることから、ガラスセラミックスを焼成すると、導体コイル材料も焼成時の高温に曝されることとなる。本発明者らの知見によれば、導体コイル材料に銀を使用すると、ガラスセラミックスの焼成時に銀の拡散が起こることが認められた。このため、得られる非磁性層中の導体コイル間の絶縁抵抗が低下し、ひいてはコモンモードチョークコイルの信頼性が低下するという問題がある。かかる問題に対処するには、2つの対向する導体コイル間の距離を大きくとることが考えられるが、その場合には、コイル間の磁気的結合性が低下するなどして、コモンモードチョークコイルの性能が低下するという新たな難点を生じることとなる。加えて、銀の拡散により、導体コイルの配線抵抗が上昇し、コモンモードチョークコールを信号ラインに挿入した場合の挿入損失の増大を招くという別の問題もある。
【0006】
非磁性層の材料に樹脂を使用する場合には、非磁性層を比較的低温で形成することができ、また、非磁性層を挟持する第1磁性層および第2磁性層として既に焼成された焼結フェライト材料を使用することができるので、導体コイル材料が焼成に必要な高温に曝されることがなく、上記のような問題は特に生じなかったものと考えられる。
【0007】
本発明の目的は、導体コイルの材料に銀を使用し、かつ、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、ガラスセラミックスへの銀の拡散を抑制することができ、よって、信頼性の高いコモンモードチョークコイルを製造することができる方法を提供することにある。また、本発明の更なる目的は、かかる製造方法によって得られるコモンモードチョークコイルそのものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの要旨によれば、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、この非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルの製造方法であって、
銀を含む導体により上記導体コイルを形成すること、
銀を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、上記非磁性層を少なくとも部分的に形成すること
を含む製造方法が提供される。
【0009】
本発明者らの研究により、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、空気中で焼成する場合よりも、ガラスセラミックスへの銀の拡散が抑制されることが見出された。よって、本発明の上記方法によれば、導体コイルの材料に銀を使用し、かつ、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、銀を含む導体が存在するときに、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成しているので、この焼成時において、ガラスセラミックスへの銀の拡散を抑制することができ、その結果、非磁性層中の導体コイル間の絶縁抵抗の低下および導体コイルの配線抵抗の上昇を効果的に防止できる。これにより、信頼性の高いコモンモードチョークコイルを製造することができる。
【0010】
本発明の1つの態様において、本発明の上記方法は、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるフェライト材料を用いて、このフェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、上記第2磁性層を形成することを更に含む。
【0011】
本発明者らの研究により、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるフェライト材料を用いて、このフェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、高い比抵抗を確保しつつ、フェライト材料を空気中で焼成する場合よりも低温で焼結できることが見出された。第2磁性層を形成するためにフェライト材料を焼成すると、第1磁性層と第2磁性層を成すフェライト材料との間に存在する、導体コイルを成す銀を含む導体および非磁性層を成すガラスセラミックスも、この焼成時の高温に曝されることとなる。しかしながら、本発明の上記態様によれば、第2磁性層を形成するためのフェライト材料の焼成を低温で実現できるので、この焼成時において、ガラスセラミックス中の銀への熱負荷を低減することができて、ガラスセラミックスへの銀の拡散を抑制することができ、その結果、非磁性層中の導体コイル間の絶縁抵抗の低下および導体コイルの配線抵抗の上昇を一層効果的に防止できる。また、本発明の上記態様によれば、第2磁性層の比抵抗および焼結密度を高く維持できるので、得られるコモンモードチョークコイルの絶縁抵抗および信頼性を高めることができる。
【0012】
本発明の1つの態様において、上記第1磁性層として、焼結フェライト材料を使用してよい。かかる態様において、焼結フェライト材料は、任意のフェライト材料を用いて、任意の適切な条件下にて予め焼成されたものであってよい。
【0013】
本発明のもう1つの態様において、本発明の上記方法は、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるフェライト材料を用いて、このフェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、上記第1磁性層を形成することを更に含み、
上記非磁性層を形成するための焼成、上記第2磁性層を形成するための焼成、および上記第1磁性層を形成するための焼成を同時に実施するものであってよい。かかる態様によれば、上述の本発明者らの知見から、第2磁性層を形成するためのフェライト材料の焼成および第1磁性層を形成するための焼成をいずれも低温で実現できる。しかも、かかる態様においては、これらの焼成を非磁性層を形成するための焼成と同時に実施しているので、ガラスセラミックス中の銀への熱負荷を最小限にすることができて、ガラスセラミックスへの銀の拡散を一層抑制することができ、その結果、非磁性層中の導体コイル間の絶縁抵抗の低下および導体コイルの配線抵抗の上昇を更に一層効果的に防止できる。また、本発明の上記態様によれば、第2磁性層および第1磁性層の比抵抗および焼結密度を高く維持できるので、得られるコモンモードチョークコイルの絶縁抵抗および信頼性を高めることができる。
【0014】
本発明のもう1つの要旨によれば、第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルであって、
導体コイルが銀を含む導体から成り
非磁性層が、銀を含む導体の存在下にて、酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成された焼結ガラスセラミックスから成る、コモンモードチョークコイルもまた提供される。
【0015】
かかる本発明のコモンモードチョークコイルは、上述した本発明の製造方法によって得ることができる。本発明のコモンモードチョークコイルには、非磁性層中での銀の拡散が低減されているという特徴が認められる。
【0016】
本発明の1つの態様において、第2磁性層が、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuO換算含有量が5mol%以下である焼結フェライト材料から成っていてよい。第2磁性層の成分は、コモンモードチョークコイルを破断し、第2磁性層の破断面を波長分散型X線分析法(WDX法)で定量分析することにより確認できる。CuO換算含有量は、第2磁性層中のCuの全てがCuOの形態であると仮定して、CuをCuOに換算した場合のCuO含有量を意味し、具体的には、第2磁性層中のCuを上記WDX法で定量分析することにより調べられる。
【0017】
本発明の1つの態様において、非磁性層中に配置された2つの導体コイルのコイル内部を通って、第1磁性層と第2磁性層とが接続されていてよい。かかる態様によれば、コイル間の磁気的結合性を高めることができ、コモンモードインピーダンスがより高いコモンモードチョークコイルを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導体コイルの材料に銀を使用し、かつ、非磁性層の材料にガラスセラミックスを使用しつつも、銀を含む導体が存在するときに、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することによって、空気中で焼成する場合よりも、ガラスセラミックスへの銀の拡散を抑制することができ、その結果、信頼性の高いコモンモードチョークコイルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるコモンモードチョークコイルを示す図であって、(a)はコモンモードチョークコイルの概略斜視図、(b)は、(a)のX−X’線に沿って見たコモンモードチョークコイルの概略断面図である。
【図2】図1の実施形態におけるコモンモードチョークコイルの概略分解斜視図であって、外部電極を省略した図である。
【図3】図1の実施形態の改変例におけるコモンモードチョークコイルを示す図であって、図1(b)に対応する図である。
【図4】本発明の実施例1〜2および比較例1におけるコモンモードチョークコイルについて、波長分散型X線分析法(WDX)により、導体コイルおよびその近傍におけるAg元素の面内分布を調べた結果を示す図であって、(a)は比較例1の分析結果を示し、(b)は実施例1の分析結果を示し、(c)は実施例2の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のコモンモードチョークコイルの製造方法およびこれによって得られるコモンモードチョークコイルについて、以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1〜2に示すように、本実施形態のコモンモードチョークコイル10は、第1磁性層1ならびにその上に順次積層された非磁性層3および第2磁性層5より構成される積層体7を含んで成る。非磁性層3の内部には、2つの導体コイル2、4が対向するように埋設される。積層体7の周囲には外部電極9a〜9dが設けられ得、導体コイル2の両端は外部電極9a、9cに、導体コイル4の両端は外部電極9b、9dにそれぞれ接続され得る。
【0022】
本発明を限定するものではないが、より詳細には、非磁性層3は、ガラスセラミックスの非磁性サブ層3a〜3eから構成され得る(図1(b))。また、導体コイル2は、引出し部2aおよび本体部2bから構成され、引出し部2aおよび本体部2bは、非磁性サブ層3bのビア6aを通じて一体的に形成されている。導体コイル4は、引出し部4aおよび本体部4bから構成され、引出し部4aおよび本体部4bは、非磁性サブ層3dのビア6bを通じて一体的に形成されている。各本体部2bおよび4bは渦巻状の形状を有し(図2)、非磁性サブ層3cを間に挟んで対向配置されており、引出し部2aは、非磁性サブ層3aにより第1磁性層1から離間して配置されており、引出し部4aは、非磁性サブ層3eにより第2磁性層5から離間して配置されている(図1(b))。但し、本実施形態の導体コイル2、4の構成、形状、巻回数および配置等は、図示する例に限定されないことに留意されたい。
【0023】
本実施形態において、コモンモードチョークコイル10は、以下のようにして製造される。本実施形態の製造方法は、概略的には、第1磁性層1に焼結フェライト材料を使用し、非磁性サブ層3a〜3eを各層毎に焼成により形成して非磁性層3を得た後、その上に第2磁性層5を焼成により形成するものである(非磁性層および第2磁性層の個別焼成)。
【0024】
(a)第1磁性層の準備
まず、第1磁性層1として、焼結フェライト材料から成る磁性基板を準備する。焼結フェライト材料から成る磁性基板は、所定のインダクタンスを得ることができる限り、任意の適切なフェライト材料を焼結したものであってよい。フェライト材料には、例えば、FeおよびNiOを主成分として含むNi系フェライト材料、Fe、NiOおよびZnOを主成分として含むNi−Zn系フェライト材料、Fe、NiO、ZnOおよびCuOを主成分として含むNi−Zn−Cu系フェライト材料などを使用してよい。かかる磁性基板は、フェライト材料を焼結したものから所望の形状に切り出したものであってよいが、これに限定されない。
【0025】
(b)非磁性サブ層3aの形成
次に、第1磁性層1上にガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3aを形成する。原料のガラスセラミックスには、感光性または非感光性のガラスセラミックスを使用してよいが、非磁性サブ層3bと同じ(感光性の)ガラスセラミックスを使用することが好ましい。例えば、ガラスセラミックスには、ホウケイ酸ガラス(二酸化ケイ素を主成分として含み、更にホウ酸および必要に応じて他の化合物を含むガラス)、無ホウケイ酸ガラス(二酸化ケイ素を主成分として含み、ホウ酸を含まず、必要に応じて他の化合物を含むガラス)などを使用してよい。第1磁性層1上へのガラスセラミックスの積層は、ガラスセラミックスを任意の適切な他の絶縁性成分と一緒にペースト状にしたもの(以下、単にガラスペーストと言う)を印刷等の方法で第1磁性層1上に塗膜することや、ガラスセラミックスを任意の適切な他の絶縁性成分と一緒にグリーンシート状にしたもの(以下、単にガラスセラミックグリーンシートと言う)を第1磁性層1上に重ね合わせることによって実施できる。非磁性サブ層3aを形成するための焼成(熱処理)は、ガラスセラミックスを焼結できれば特に限定されない。この工程において、積層体には銀を含む導体は未だ存在していないので、積層体を空気中で熱処理することによりガラスセラミックスを焼成してよい。焼成温度は、ガラスの軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば820〜870℃とし得る。
【0026】
(c)導体コイル2の引出し部2aの形成
次に、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3a上に、銀を含む導体をパターン形成して、引出し部2aを形成する。銀を含む導体は、銀を主成分として含み、場合により他の導電性成分を含むものであってよい。銀を含む導体のパターン形成は、銀(および必要に応じて他の導電性成分、以下も同様)の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを非磁性サブ層3a上に所定のパターンでスクリーン印刷することや、銀をスパッタリング法で非磁性サブ層3a上に成膜し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンにエッチングすることや、銀を所定のパターンに選択メッキすることによって実施できる。選択メッキは、例えばフルアディティブ法(レジストパターン形成、無電解メッキ、およびレジスト剥離による方法)や、セミアディティブ法(無電解メッキによるシード層の成膜、レジストパターン形成、電気メッキ、レジスト剥離、シード層除去による方法)などを利用できる。
【0027】
(d)非磁性サブ層3bの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3aおよび引出し部2a上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層する。但し、本工程においては、原料のガラスセラミックスには、感光性のガラスセラミックスを使用し、この層にビア6aをフォトリソグラフィ法により形成して、引出し部2aを部分的に露出させる。そして、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3bを形成する。非磁性サブ層3bを形成するための焼成(熱処理)は、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。この工程において、積層体には銀を含む導体が存在しており、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、銀の拡散を防止することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、銀が酸化するとガラスセラミックスへの拡散が促進されると考えられ、低酸素濃度雰囲気で焼成することにより銀の酸化を抑制でき、これにより銀の拡散が抑制されるものと考えられる。焼成雰囲気の酸素濃度は0.1体積%以下であればよいが、ガラスセラミックスの焼結性を確保する観点から0.0001体積%以上であることが好ましい。焼成温度は、ガラスの軟化点以上の温度であれば特に限定されないが、例えば820〜870℃とし得る。
【0028】
(e)導体コイル2の本体部2bの形成
次に、ビア6a内部および非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3b上に、銀を含む導体をパターン形成して、本体部2bを渦巻状に形成する。銀を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得るが、ビア6a内部に銀を含む導体を埋設して本体部2bと引出し部2aを接続するものとし、これらが一体となって導体コイル2を構成するようにする。
【0029】
(f)非磁性サブ層3cの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3bおよび本体部2b上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3cを形成する。非磁性サブ層3cを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。
【0030】
(g)導体コイル4の本体部4bの形成
次に、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3c上に、銀を含む導体をパターン形成して、本体部4bを渦巻状に形成する。銀を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得る。
【0031】
(h)非磁性サブ層3dの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3cおよび本体部4b上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層する。但し、本工程においては、原料のガラスセラミックスには、感光性のガラスセラミックスを使用し、この層にビア6bをフォトリソグラフィ法により形成して、本体部4bを部分的に露出させる。そして、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3dを形成する。非磁性サブ層3dを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。
【0032】
(i)導体コイル4の引出し部4aの形成
次に、ビア6b内部および非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3d上に、銀を含む導体をパターン形成して、引出し部4aを形成する。銀を含む導体のパターン形成は、上記工程(c)と同様にして行い得るが、ビア6b内部に銀を含む導体を埋設して本体部4bと引出し部4aを接続するものとし、これらが一体となって導体コイル4を構成するようにする。
【0033】
(j)非磁性サブ層3eの形成
その後、非磁性サブ層(焼結ガラスセラミックス層)3dおよび引出し部4a上に、上記工程(b)と同様にしてガラスセラミックスを積層し、得られた積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3eを形成する。非磁性サブ層3eを形成するための焼成(熱処理)は、上記工程(d)と同様、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスを該雰囲気で焼成することにより実施する。非磁性サブ層3eの形成により、非磁性サブ層3a〜3eが全部焼結され、これらは全体として非磁性層3(焼結ガラスセラミックス層)を成すものとなる。
【0034】
(k)第2磁性層5の形成
以上により得られた積層体の非磁性層3上に、所定のフェライト材料を積層し、得られた積層体を熱処理に付して、このフェライト材料を焼成して第2磁性層5を形成する。このフェライト材料には、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用する。非磁性層3上へのフェライト材料の積層は、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にペースト状にしたものを印刷等の方法で非磁性層3上に塗膜することや、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にグリーンシート状にしたものを非磁性層3上に重ね合わせることによって実施できる。第2磁性層5を形成するための焼成(熱処理)は、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してフェライト材料を該雰囲気で焼成することにより実施する。フェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、フェライト材料を空気中で焼成する場合よりも低温で焼結できる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、低酸素濃度雰囲気で焼成した場合、結晶構造中に酸素欠陥が形成され、結晶中に存在するFe、Ni、Cu、Znの相互拡散が促進され、低温焼結性を高めることができるものと考えられる。この工程において、積層体には銀を含む導体が存在しているが、フェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で低温焼成することにより、銀の拡散を防止することができる。加えて、CuOの含有量が5mol%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用することにより、酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成しても、第2磁性層5において高い比抵抗を確保することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、低酸素濃度雰囲気で焼成した場合、熱処理雰囲気の還元作用によりCuOがCuOに還元されて第2磁性層5の比抵抗が低下する(インピーダンスが低下する)と考えられ、CuOの含有量を小さくすることによりCuOの還元によるCuOの生成を抑制でき、これにより比抵抗の低下が抑制されるものと考えられる。フェライト材料中のCuOの含有量は5mol%以下であればよいが、十分な焼結性を得るためには0.2mol%以上であることが好ましい。かかるフェライト材料は、必要に応じて他の成分、例えばBiなどを、主成分であるFe、ZnO、NiO、CuOの合計100重量部に対して、例えば0.1〜1重量部で更に含んでいてよい。また、焼成雰囲気の酸素濃度は0.1体積%以下であればよいが、第2磁性層の比抵抗を確保するには0.001体積%以上であることが好ましい。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、酸素濃度があまり低すぎると、酸素欠陥が必要以上に生成されて第2磁性層5の比抵抗が低下するおそれがあり、酸素をある程度存在させることにより、酸素欠陥の生成が過剰となるのを回避でき、これにより高い比抵抗を確保できるものと考えられる。
【0035】
これにより、第1磁性層1上に非磁性層3および第2磁性層5が積層され、非磁性層3中に2つの対向する導体コイル2、4を含む積層体7が得られる。この積層体7は、個々に作製したものであってもよいが、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に分割して(素子分離して)個片化したものであってもよい。
【0036】
(l)外部電極9a〜9dの形成
積層体7の対向する側部に、外部電極9a〜9dを形成する。外部電極9a〜9dの形成は、例えば、銀の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを所定の領域に塗布し、得られた構造体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で、例えば750〜780℃で熱処理して銀を焼き付けることによって実施し得る。
【0037】
以上のようにして、本実施形態のコモンモードチョークコイル10が製造される。本実施形態によれば、非磁性層3を成すガラスセラミックス中での銀の拡散が抑制され、高信頼性のコモンモードチョークコイルを得ることができる。非磁性層3の導体コイル2、4間の絶縁抵抗を確保でき、かつ、導体コイル2、4の配線抵抗を低くできる。また、第2磁性層5の低温焼結性が良好で、かつ、第2磁性層5の比抵抗を高く維持することができる。
【0038】
本実施形態のコモンモードチョークコイル10において、第2磁性層5は、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuO換算含有量が5mol%以下である焼結フェライト材料から成るが、焼結前のNi−Zn−Cu系フェライト材料と組成が異なることもあり得、例えば、CuOは焼成によりその一部がCuOに変化していることが起り得る。
【0039】
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1にて上述したコモンモードチョークコイル10を別の方法で製造するものであり、以下、実施形態1と同様の部材を同じ符号により説明するものとする。本実施形態の製造方法は、概略的には、基板レス工法により、保持層上に第1磁性層1の材料を積層し、非磁性層3の材料を(導体コイル2、4を形成しながら)積層し、その上に、第2磁性層5の材料を積層した後、得られた積層体を一括焼成して、第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成するものである(第1磁性層、非磁性層および第2磁性層の共焼成)。
【0040】
(m)第1磁性層1の材料層の形成
任意の適切な保持層(図示せず)上に、所定のフェライト材料を積層して、第1磁性層1の材料層を形成する。このフェライト材料には、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用する。保持層上へのフェライト材料の積層は、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にペースト状にしたものを印刷等の方法で保持層上に塗膜し、乾燥させることや、フェライト材料を任意の適切な他の成分と一緒にグリーンシート状にしたものを保持層上に重ね合わせることによって実施できる。
【0041】
(n)非磁性サブ層3a〜3eの材料の積層および導体コイル2、4の形成
この第1磁性層1の材料層(未焼結Ni−Zn−Cu系フェライト材料層)上に、非磁性サブ層3a〜3eを形成するために各工程にて焼成を実施しなかったこと以外は、実施形態1にて上述した工程(b)〜(j)と同様にして、非磁性サブ層3a〜3eの材料層(未焼結ガラスセラミックス材料層)を、導体コイル2、4を形成しながら積層する。これにより、非磁性層3の材料層が、その内部に導体コイル2、4を埋設した状態で形成される。
【0042】
(o)第2磁性層5の材料層の形成
その後、非磁性層3の材料層上に、上記工程(m)と同様にして、所定のフェライト材料を積層して、第2磁性層5の材料層を形成する。このフェライト材料にも、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用する。かかる条件を満たす限り、第1磁性層1の材料および第2磁性層5の材料は同じであっても、異なっていてもよい。
【0043】
これにより、未焼成の積層体が得られる。未焼成の積層体は、個々に作製したものであってもよいが、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に分割して(素子分離して)個片化したものであってもよい。
【0044】
(p)第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5の形成
以上のようにして得られた未焼成の積層体を熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性層3を形成すると共に、フェライト材料を焼成して第1磁性層1および第2磁性層を形成する。これら第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5を形成するための焼成(熱処理)は、積層体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で熱処理してガラスセラミックスおよびフェライト材料を該雰囲気で同時に焼成することにより実施する。
【0045】
これにより、第1磁性層1上に非磁性層3および第2磁性層5が積層され、非磁性層3中に2つの対向する導体コイル2、4を含む積層体7が得られる。
【0046】
(q)外部電極9a〜9dの形成
その後、実施形態1にて上述した工程(l)と同様にして、積層体7の対向する側部に、外部電極9a〜9dを形成する。
【0047】
以上のようにして、本実施形態のコモンモードチョークコイル10が製造される。本実施形態によれば、実施形態1の製造方法とは異なり、非磁性層3および第2磁性層を形成するための焼成(熱処理)が1回で完了するため、非磁性層を成すガラスセラミック中への銀の拡散を効果的に抑制することができ、より信頼性の高いコモンモードチョークコイルを得ることができる。銀の拡散をより効果的に抑制できることから、実施形態1の製造方法による場合よりも、非磁性層3の薄層化が可能となるので、これに伴い、コモンモードチョークコイルの特性向上および小型・低背化が可能となる。そのほか、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0048】
以上、本発明の二つの実施形態について説明したが、これら実施形態は種々の改変が可能である。例えば、実施形態1および2のコモンモードチョークコイルは、図3に示すように、非磁性層3を貫通する貫通孔11を、非磁性層3から導体コイル2、4が露出しないように、サンドブラスト工法やエッチング工法などにより形成し、その貫通孔を、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト材料で埋め込んでよく、このフェライト材料は、第2磁性層5の材料(および実施形態2の場合には第1磁性層1の材料)と同じであっても、異なっていてもよい。かかる構成によれば、導体コイル2、4間の磁気的結合性を強めることができ、コモンモードインピーダンスがより高いコモンモードチョークコイルを得ることができる。
【実施例】
【0049】
(実験)
第2磁性層の材料として使用するのに適したフェライト材料を調べるために、以下の実験を行った。
【0050】
フェライト材料の素原料として、Fe、ZnO、NiO、CuOおよびBiの各粉末を用意した。主成分であるFe、ZnO、NiO、CuOの組成が表1のNo.1〜7に示す割合となるように、これらの粉末を秤量し、これら主成分の合計100重量部に対して、Biを0.25重量部で秤量添加した。
【0051】
【表1】

【0052】
次いで、試料No.1〜7の各秤量物を、純水および玉石と共にボールミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕した。玉石には、PSZ(Partial Stabilized Zirconia; 部分安定化ジルコニア)ボールを使用した。粉砕処理物を蒸発乾燥させた後、700〜800℃の温度で2時間仮焼した。これにより得られた仮焼物を、再びボールミルに入れ、10時間程度湿式粉砕し、粒径 約0.5〜1.5μmに調整した磁性体粉末を作製した。
【0053】
以上により得られた各磁性体粉末を、バインダ樹脂(エチルセルロース樹脂)および有機溶剤(α―テルピネオール)からなる有機ビヒクルと混合し、三本ロールミルで混練し、これにより磁性体ペーストを作製した。
【0054】
作製した磁性体ペーストを、ポリエチレンテレフタラート(PET)フイルム上にスクリーン印刷で膜形成、乾燥、膜形成を繰り返して厚み1mmの塗膜を作製した。作製した塗膜を直径が10mmの円板状に2枚打ち抜いて、未焼成試料を作製した。
【0055】
試料No.1〜7について各々作製した2枚の未焼成試料を、1枚は空気流動下にて、もう1枚は酸素濃度を0.1体積%に調整したN−O混合ガスの流動下にて、900℃の温度で1時間焼成した。なお、焼成温度の指標として適用した900℃の温度は、銀との同時焼成が可能な温度である。
【0056】
これにより得られた焼成後試料の各々について、アルキメデス法により焼結密度(g/cm)を求めた。また、焼成後試料の各々について、両主面に銀ペーストを塗布し、上記焼成に使用したガスと同じ雰囲気下にて、770℃で5分間熱処理して、銀を焼き付けて1対の電極を形成し、これら電極間に直流電圧50Vを印加して絶縁抵抗(IR)を測定し、この測定値と試料寸法とから比抵抗logρ(Ω・cm)を求めた。結果を表1にまとめて示す。
【0057】
表1から理解されるように、空気中で焼成(900℃)した場合、CuOの含有量が7mol%以上でないと高い焼結密度が得られなかった。CuOは主成分のうち、融点が比較的低い成分である。この結果は、空気中で焼成する場合、高い焼結密度を得るためには、より高い温度、例えば1000℃より高い温度で焼成する必要があることを示している。これに対して、低酸素濃度雰囲気(酸素濃度 0.1体積%以下)で焼成(900℃)した場合、CuOの含有量が7mol%以下であっても、高い焼結密度が得られた。これは、低酸素濃度雰囲気で焼成すると、結晶構造中に酸素欠陥が形成され、結晶中に存在するFe、Ni、Cu、Znの相互拡散が促進されたため、低温でも焼結できたものと考えられる。しかしながら、このうち、CuOの含有量が5mol%を超えたものでは、比抵抗が低下することが認められた。これは、低酸素濃度雰囲気で焼成すると、CuOがCuOにより多く還元されたため、比抵抗が低下したものと考えられる。以上を総合すると、低酸素濃度雰囲気(酸素濃度 0.1体積%以下)で焼成(900℃)した場合、CuOの含有量を5mol%以下とすることにより、焼成後試料(これは比磁性層に相当する)において、高い比抵抗を維持しつつ、低温焼結が可能となることが確認された。
【0058】
(実施例1)
実施形態1の製造方法に従って、図1〜2に示すコモンモードチョークコイル10を作製した。本実施例においては、以下の条件を適用した。
【0059】
上述の工程(a)において、第1磁性層1として、焼結済のNi−Zn−Cu系フェライト材料から成る基板(Fe 49.0mol%、ZnO 30.0mol%、NiO 19.0mol%、CuO 2.0mol%、およびこれら主成分の合計100重量部に対してBi 0.25重量部添加)を用いた。
【0060】
上述の工程(b)において、感光性のホウケイ酸ガラス(SiO−B−CaO−KO、以下も同様)を用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、その後、840℃にて30分間の熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3aを形成した。
【0061】
上述の工程(c)において、セミアディティブ法により選択メッキして引出し部2aを形成した。具体的には、非磁性層3aの主面全域にシード層(本実施例ではAgとしたが、Ag/Tiでもよい)をスパッタリング法で形成し、シード層上に感光性フォトレジストをフォトリソグラフィ法によりパターン形成した後、レジストに被覆されずに露出しているシード層を利用して、レジストパターンの開口部に銀を電解メッキにより形成し、レジストを剥離し、これにより露出したシード層部分をエッチングにより除去した。上述の工程(e)における本体部2bの形成、工程(g)における本体部4bの形成、工程(i)における引出し部4aの形成も、これと同様とした。
【0062】
上述の工程(d)において、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6aを形成し、その後、酸素濃度を0.1体積%に調整したN−O混合ガス雰囲気にて、840℃にて30分間の熱処理に付して、ガラスセラミックスを焼成して非磁性サブ層3bを形成した。上述の工程(f)における非磁性サブ層3cの形成、工程(h)における非磁性サブ層3dおよびビア6bの形成、工程(j)における非磁性サブ層3eの形成も、これと同様とした。
【0063】
上述の工程(k)において、非磁性層3上にNi−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 49.0mol%、ZnO 30.0mol%、NiO 19.0mol%、CuO 2.0mol%、およびこれら主成分の合計100重量部に対してBi 0.25重量部添加)を用いた磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、その後、酸素濃度を0.1体積%に調整したN−O混合ガス雰囲気にて、900℃にて35分間の熱処理に付して、フェライト材料を焼成して第2磁性層5を形成した。なお、ここで使用したNi−Zn−Cu系フェライト材料は、表1中に示すNo.4の組成に一致するものである。
【0064】
これにより得られた積層体7をダイシングして個片化した。1個の素子の寸法は、縦 0.5mm、横 0.65mm、高さ 0.3mmとした。
【0065】
上述の工程(l)において、銀ペーストを塗布し、得られた構造体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で、770℃にて5分間の熱処理に付して銀を焼き付け、これにより外部電極9a〜9dを形成した。以上により、本実施例のコモンモードチョークコイル10を作製した。
【0066】
(実施例2)
非磁性層3b〜3eを形成するための各焼成および外部電極9a〜9dを形成するための焼成を、酸素濃度を0.001体積%に調整したN−O混合ガス雰囲気を用いて実施したこと以外は、実施例1と同様にしてコモンモードチョークコイルを作製した(表2参照)。
【0067】
(比較例1)
非磁性層3b〜3eを形成するための各焼成、第2磁性層5を形成するための焼成および外部電極9a〜9dを形成するための焼成を空気中で実施したこと、ならびに第2磁性層5の材料としてNi−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 49.0mol%、ZnO 30mol%、NiO 12.0mol%、CuO 9.0mol%、およびこれら主成分の合計100重量部に対してBi 0.25重量部添加)を用いた磁性体ペーストで置換したこと以外は、実施例1と同様にしてコモンモードチョークコイルを作製した(表2参照)。なお、ここで使用したNi−Zn−Cu系フェライト材料は、表1中に示すNo.7の組成に一致するものである。
【0068】
【表2】

【0069】
以上により作製した実施例1〜2および比較例1のコモンモードチョークコイルを図1(a)のX−X’線に沿って切断し、切断面を鏡面研磨して、波長分散型X線分析法(WDX)を用いて、Ag元素の面内分布を調べた。比較例1の分析結果を図4(a)に示し、実施例1の分析結果を図4(b)に示し、実施例2の分析結果を図4(c)に示す。なお、図4中に示すAgレベルは、測定範囲中におけるAg濃度の最高値(コイル部分に相当する)を100とした相対値を意味する。図4から理解されるように、比較例1ではAg元素がガラスセラミック中に(Agレベル 約50〜80)拡散していることが認められたが、実施例1〜2ではAg元素のガラスセラミック中への拡散はほとんど認められなかった(Agレベル 約22以下)。これは、低酸素濃度雰囲気で焼成することにより、Agの酸化を抑制することができ、同じく酸化物であるガラスセラミックス中への拡散が抑制されたものと考えられる。
【0070】
実施例1〜2および比較例1のコモンモードチョークコイルについて、導体コイル2、4間の絶縁抵抗値(IR)をアドバンテスト社製エレクトロメータR8340Aを用いて測定したところ、実施例1ではlog(IR)=8.1、実施例2ではlog(IR)=9.2、比較例1ではlog(IR)=5.3であった。実施例1〜2では、コモンモードチョークコイルとして十分な絶縁抵抗が得られたが、比較例1では絶縁抵抗が低くなっていた。
【0071】
(実施例3)
実施形態2の製造方法に従って、図1〜2に示すコモンモードチョークコイル10を作製した。本実施例においては、以下の条件を適用した。
【0072】
上述の工程(m)において、アルミナ基板上にアルミナ粉をバインダおよび溶剤と一緒にしてペースト状にしたものを印刷工法で塗布後、溶媒分を乾燥し塗膜して保持層(図示せず)として用いた。この保持層上にNi−Zn−Cu系フェライト材料(Fe 49.0mol%、ZnO 30.0mol%、NiO 19.0mol%、CuO 2.0mol%、およびこれら主成分の合計100重量部に対してBi 0.25重量部添加)を用いた磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させた。なお、ここで使用したNi−Zn−Cu系フェライト材料は、表1中に示すNo.4の組成に一致するものである。
【0073】
上述の工程(n)において、感光性のホウケイ酸ガラス(SiO−B−CaO−KO、以下も同様)を用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、非磁性サブ層3aの材料層を形成した。その上に、銀ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、引出し部2aを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6aを形成し、乾燥させて、非磁性サブ層3bの材料層を形成した。その上に、銀ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、本体部2bを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、非磁性サブ層3cの材料層を形成した。その上に、銀ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、本体部4bを形成した。その上に、感光性のホウケイ酸ガラスを用いたガラスペーストを印刷工法により塗膜し、フォトリソグラフィ法によりビア6bを形成し、乾燥させて、非磁性サブ層3dの材料層を形成した。その上に、銀ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させて、引出し部4aを形成した。
【0074】
上述の工程(o)において、非磁性層3の材料層上に、上記工程(m)にて使用したものと同じNi−Zn−Cu系フェライト材料を用いた磁性体ペーストを印刷工法により塗膜し、乾燥させた。
【0075】
これにより得られた未焼成の積層体をダイシングして個片化した。1個の素子の寸法は、縦 0.5mm、横 0.65mm、高さ 0.3mmとした。
【0076】
上述の工程(p)において、酸素濃度を0.1体積%に調整したN−O混合ガス雰囲気にて、900℃にて35分間の熱処理に付して、ガラスセラミックスおよびフェライト材料を該雰囲気で同時に焼成して第1磁性層1、非磁性層3および第2磁性層5の形成を形成した。
【0077】
上述の工程(q)において、銀ペーストを塗布し、得られた構造体を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気中で、770℃にて5分間の熱処理に付して銀を焼き付け、これにより外部電極9a〜9eを形成した。以上により、本実施例のコモンモードチョークコイル10を作製した。
【0078】
以上により作製した実施例3のコモンモードチョークコイルを、実施例1〜2のコモンモードチョークコイルと同様にして、波長分散型X線分析法(WDX)を用いて、Ag元素の面内分布を調べたところ、実施例3でも、Ag元素のガラスセラミック中への拡散はほとんど認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の製造方法によって得られるコモンモードチョークコイルは、差動伝送方式による高速データ通信など、コモンモードノイズの低減および除去が要求される様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0080】
1 第1磁性層
2 導体コイル
2a 引出し部
2b 本体部
3 非磁性層
3a〜3e 非磁性サブ層
4 導体コイル
4a 引出し部
4b 本体部
5 第2磁性層
6a、6b ビア
7 積層体
9a〜9d 外部電極
10 コモンモードチョークコイル
11 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルの製造方法であって、
銀を含む導体により前記導体コイルを形成すること、
銀を含む導体の存在下にて、ガラスセラミックスを酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、前記非磁性層を少なくとも部分的に形成すること
を含む製造方法。
【請求項2】
Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるフェライト材料を用いて、該フェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、前記第2磁性層を形成することを更に含む、請求項1に記載のコモンモードチョークコイルの製造方法。
【請求項3】
前記第1磁性層として、焼結フェライト材料を使用する、請求項1または2に記載のコモンモードチョークコイルの製造方法。
【請求項4】
Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuOの含有量が5mol%以下であるフェライト材料を用いて、該フェライト材料を酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成することにより、前記第1磁性層を形成することを更に含み、
前記非磁性層を形成するための焼成、前記第2磁性層を形成するための焼成、および前記第1磁性層を形成するための焼成を同時に実施する、請求項2に記載のコモンモードチョークコイルの製造方法。
【請求項5】
第1磁性層上に非磁性層および第2磁性層が積層され、該非磁性層中に2つの対向する導体コイルを含むコモンモードチョークコイルであって、
導体コイルが銀を含む導体から成り、
非磁性層が、銀を含む導体の存在下にて、酸素濃度0.1体積%以下の雰囲気で焼成された焼結ガラスセラミックスから成る、コモンモードチョークコイル。
【請求項6】
第2磁性層が、Fe、NiO、ZnO、CuOを含み、かつCuO換算含有量が5mol%以下である焼結フェライト材料から成る、請求項5に記載のコモンモードチョークコイル。
【請求項7】
非磁性層中に配置された2つの導体コイルのコイル内部を通って、第1磁性層と第2磁性層とが接続されている、請求項5または6に記載のコモンモードチョークコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−42040(P2013−42040A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179065(P2011−179065)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】