説明

コラーゲンの抽出方法及び抽出装置、ヒドロキシアパタイトの製造方法及び製造装置、並びにコラーゲン含有水性抽出物及びヒドロキシアパタイト

【課題】 コラーゲン及びヒドロキシアパタイトを得ることができる装置及び方法を提供する。
【解決手段】 水タンク1から高圧ポンプ2及び電気炉4により亜臨界水を調製し、バルブ5aを介して魚鱗を充填した抽出管7に送る。抽出管7とは別に、亜臨界水の供給が安定するまでの間、亜臨界水をバイパスさせるバイパス10を設けるとともに、この装置の稼働初期において抽出管7に亜臨界水を導入する際の圧力低下により亜臨界水が気化するのを防止するための窒素ガスボンベ15が接続されている。抽出管7内では亜臨界水によりコラーゲンが抽出される。抽出管7内の出口付近には、固形分が排出されるのを防ぐために、スチールウール製のフィルター8を設ける。抽出管7の下部には、抽出後の亜臨界水を冷却する冷却管11をバルブ5dを介して接続する。冷却管11から排出される水性抽出物は、コントロールバルブ13を介して外部に定常的に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンの抽出方法及び抽出装置、ヒドロキシアパタイト製造方法及び製造装置、並びにコラーゲン含有水性抽出物及びヒドロキシアパタイトに関し、より詳細には、亜臨界水又は超臨界水を用いたコラーゲン抽出方法及びヒドロキシアパタイト製造装置及びヒドロキシアパタイトの製造装置及び製造方法と、この方法により得られるコラーゲン含有水性抽出物及びヒドロキシアパタイトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは、食用、医薬用、写真用、工業用、化粧品用等で幅広く利用されている動物性タンパク質で、一般にコラーゲンを主成分とする動物皮を加水分解して製造される。これらの目的に使用されるゼラチンは、BSE問題が採り上げられる以前には牛皮から調製されるものが多かったが、現在では牛皮以外を原料とする場合が多い。このような状況下から、新たなコラーゲン源として水産動物が注目され始めた。その中で、市場や水産加工場において廃棄される魚鱗は有効なコラーゲン源として定着しつつある(例えば、特許文献1)。
【0003】
魚鱗の主な成分はI型コラーゲンとヒドロキシアパタイトであり、その割合は魚の種により異なるが、日本産マイワシでは約1:1である。コラーゲンとともに魚鱗に含まれるヒドロキシアパタイトは、化粧品素材としてはファンデーションなどの粉末状製品のベースとして使用される。また、ヒドロキシアパタイトは優れた生体適合性及び骨親和性があるため、人工歯根、人工骨等としても利用されている。また、イオン交換機能があり、歯の表面の汚れを吸着して除去する機能があるため、界面活性剤との相乗効果により、歯磨き剤にも使用されている。
【0004】
魚鱗からゼラチン及びヒドロキシアパタイトを調製するには大きく分けて二つの方法がある。ひとつは、ヒドロキシアパタイトは希塩酸等に溶解するため、魚鱗と希塩酸を数時間撹拌し、不溶物として残ったコラーゲンを加水分解する方法である。もうひとつは、魚鱗をそのまま熱水中に数時間浸漬して加水分解し、ヒドロキシアパタイトの沈殿物とゼラチン溶液を得る方法である(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
しかし、上記のヒドロキシアパタイトを希塩酸に溶解させる方法では、後処理工程で希塩酸をの中和が必要となり、また、魚鱗を熱水中に数時間浸漬する方法では、処理に長時間を要するという問題点があり、より簡便なコラーゲン及びヒドロキシアパタイトの製造方法が望まれている。
【0006】
一方、高圧熱水を利用した高圧熱水抽出法(亜臨界水抽出法)が近年注目され始めている(特許文献3、非特許文献2)。高圧熱水では短時間に無触媒で加水分解反応が進行することが知られており(非特許文献3)、木質系バイオマスからヘミセルロースを加水分解してキシロースやキシロオリゴ糖が抽出されるという報告がある(特許文献2、非特許文献4)。しかし、高圧熱水抽出法をコラーゲン及びヒドロキシアパタイトの製造方法として用いた例は見当たらない。
【特許文献1】特開2000−189065号公報
【特許文献2】特開2005−23041号公報
【特許文献3】特開2002−59118号公報
【非特許文献1】山田ゆき、「化粧品・健康食品へ展開めざすコラーゲンペプチド」、JETI・、153、122−123(2005)
【非特許文献2】Gamiz-gracia, L., Luque. M. D.、「Continuous subcritical water extraction of medicinal plant essential oil: comparison with conventional techniques.」・、Talanta、51、1179-1185・(2000)
【非特許文献3】Akiya, N., and Phillip, E., Savage, 「Roles of Water for Chemical Reactions in High-Temperature Water」, Chem. Rev., 102, 2725-2750(2002)
【非特許文献4】熊谷聡、林信行、藤田修二、「加圧熱水処理によるイタジイからのキシロース、キシロオリゴ糖生成挙動」、日本食品工学会誌、5、205-210・(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、中和などの後処理工程が不要で、比較的短時間でコラーゲン及びヒドロキシアパタイトを得ることができる装置及び方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、これらの方法により得られるコラーゲン含有水性抽出物及びヒドロキシアパタイトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコラーゲンの抽出方法は、亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行うことを特徴とする。また、本発明のヒドロキシアパタイトの製造方法は、亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出することによりヒドロキシアパタイトを得ることを特徴とする。
【0009】
亜臨界水又は超臨界水を用いた本発明の抽出方法及び製造方法によれば、コラーゲンは魚鱗から水溶液中に抽出され、ヒドロキシアパタイトは抽出後の残渣として得られる。本発明に於いて原料として使用し得る魚鱗として、特に制限されないが、入手の容易さ等からイワシの鱗を好適に使用することができる。
【0010】
ここで、本明細書に於いては、超臨界水とは、温度及び圧力が臨界点(374℃、22MPa)以上の状態にある水をいい、また、本明細書に於いては、亜臨界水とは、圧力が0.2MPa以上で温度が374℃より低く100℃以上の範囲の水をいい、その温度における飽和蒸気圧以上に圧縮された状態にある水をいう。
【0011】
亜臨界水又は超臨界水を用いてコラーゲンの抽出を行う場合の魚鱗の抽出時の温度は、70〜400℃の範囲が好ましく、100〜350℃の範囲がより好ましく、更に、140〜250℃の範囲が最も好ましい。また、魚鱗の抽出時の圧力は、0.1〜25MPaの範囲が好ましく、0.1〜18MPaの範囲がより好ましく、更に、0.3〜6MPaの範囲が最も好ましい。抽出時の温度が上記より低いと、抽出されずに魚鱗に残ってしまうコラーゲンの量が多くなり、抽出時の温度が上記より高いと、得られるコラーゲンの分子量が小さくなり過ぎるので、使用目的によっては好ましくない。また、抽出時の圧力が上記より低いと、系が水蒸気相に近づく場合があり、抽出時の圧力が上記より高いと、設備や運転コストが増大し実用上は好ましくない。すなわち、飽和水蒸気以上の圧力があればコラーゲンは抽出され、圧力を過度に高めても抽出率にはあまり影響しない。
【0012】
魚鱗の抽出時の時間は、その種類や抽出条件によって変わるが、1〜30分の範囲が好ましく、3〜10分の範囲がより好ましい。また、抽出時の時間が上記より短いと、抽出されずに魚鱗内に残ってしまうコラーゲンの量が多くなり、抽出時の時間が上記より長いと、得られるコラーゲンの分子量が小さくなり過ぎるので、使用目的によっては好ましくない。
【0013】
本発明のコラーゲン含有水性抽出物は、上記のコラーゲンの製造方法により得ることができる。また、本発明のヒドロキシアパタイトは、魚鱗から上記コラーゲンの製造方法によりコラーゲンを除去することにより得られる。
【0014】
本発明のコラーゲンの抽出装置は、亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行うコラーゲンの抽出装置であって、水を加熱及び加圧することにより亜臨界水又は超臨界水を調製して供給する亜臨界水・超臨界水供給部と、該亜臨界水・超臨界水供給部から供給される亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行う抽出管と、該抽出管の下流側に設けられたコントロールバルブとを備え、該コントロールバルブは、前記抽出管内の圧力を維持しながら抽出液の排出を制御することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のヒドロキシアパタイト製造装置は、亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出して除去するヒドロキシアパタイト製造装置であって、水を加熱及び加圧することにより亜臨界水又は超臨界水を調製して供給する亜臨界水・超臨界水供給部と、該亜臨界水・超臨界水供給部から供給される亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出して除去する抽出管と、該抽出管の下流側に設けられたコントロールバルブとを備え、該コントロールバルブは、前記抽出管内の圧力を維持しながら抽出液の排出を制御することを特徴とする。
【0016】
このように、コラーゲンの抽出装置及びヒドロキシアパタイト製造装置において、コントロールバルブにより、背圧を維持しながら抽出管から排出される抽出液の排出を制御することにより、亜臨界水又は超臨界水の状態を維持したままコラーゲンの抽出を行うことが可能となる。
【0017】
また、抽出管の出口側にスチールウール製のフィルターを設けることにより、コラーゲン抽出中に魚鱗の目詰まりが起こるのを防止し、長期に亘り安定したコラーゲンの抽出を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコラーゲンの抽出装置及び抽出方法によれば、塩酸を加えてヒドロキシアパタイトを溶解させるなどの工程が不要なので、従来より簡単な工程で、しかも短時間でコラーゲン含有水性抽出物を得ることができることが分かる。
【0019】
また、本発明のヒドロキシアパタイトの製造装置及び製造方法によれば、ヒドロキシアパタイトはコラーゲンの抽出後に残渣として残されるので、これを乾燥させるだけでドロキシアパタイトを得ることができる。従って、非常に簡便かつ短時間でヒドロキシアパタイトを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るコラーゲンの抽出装置を例示する概念図であり、この装置はヒドロキシアパタイトの製造装置を兼ねている。本実施形態の装置は、同図に示すように、水タンク1からの送水を行う高圧ポンプ2と、高圧ポンプ2からの水を加熱して亜臨界水を調製する電気炉4とを有している。
【0022】
また、本実施形態では、電気炉4から排出される亜臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行う抽出管7が設けられ、抽出管7の入口側にはバルブ5aが設けられている。ここで、抽出管7の内容積は約150mL、内径は2.3cm、長さは36cmである。また、本実施形態では、抽出管7に並行してバイパス10が設けられ、バイパス10上にはバルブ5bが設けられている。バイパス10は、亜臨界水の供給が安定するまでの間、電気炉4から送出される水が抽出管7に入らないようにバイパスさせるために設けられている。抽出管7の入口側には入口温度T1を計測する温度計6が設けられ、抽出管7の出口側には出口温度T2を計測する温度計9が設けられている。
【0023】
抽出管7内の出口付近には、魚鱗の断片などの固形分が排出されるのを防ぐために、スチールウール製のフィルター8が必要に応じて設けられる。更に、本実施形態の装置には、加圧窒素ガス(11MPa未満)を供給する窒素ガスボンベ15がバルブ5cを介して抽出管7の入口側に接続されている。この窒素ガスボンベ15は、この装置の稼働初期において、バルブ5aを切り換えて抽出管7に亜臨界水を導入する際の圧力低下により亜臨界水が気化するのを防止するために設けられている。
【0024】
抽出管7の下部には、抽出後の亜臨界水を冷却する冷却管11がバルブ5dを介して接続されている。また、バイパス10を介して排出される亜臨界水も冷却管11で冷却される。冷却管11から排出される水性抽出物は、コントロールバルブ13を介して外部に定常的に排出される。このコントロールバルブ13は、圧力センサ12で検出される圧力に基づいてその開閉を制御することにより、抽出管7及び電気炉4に於ける圧力を一定(ここでは11MPa)に維持する機能を果たしている。コントロールバルブ13から排出される水性抽出物は、貯留タンク14に貯留される。
【0025】
図7は本発明の他の実施形態に係るコラーゲンの抽出装置を示す概念図であり、この装置も、ヒドロキシアパタイトの製造装置を兼ねている。本実施形態の装置は、前述の図1の装置と同様に、水タンク1からの送水を行う高圧ポンプ2と、高圧ポンプ2からの水を加熱して亜臨界水を調製する電気炉4とを有している。本実施形態では、高圧ポンプ2ととの間に、急激な圧力変化を吸収するためのダンパ21が設けられている。本実施形態では、魚鱗からのコラーゲンの抽出を行う抽出管7が複数設けられ、各抽出管7はバルブ5eを介して電気炉4に接続されている。本実施形態においても、亜臨界水の供給が安定するまでの間、電気炉4から送出される水をバイパスさせるバイパス10及びバルブ5bが設けられている。また、抽出管7の入口側には入口温度T1を計測する温度計6が設けられ、各抽出管7の出口側には出口温度T2をそれぞれ計測する温度計9が設けられている。各抽出管7内の出口付近には、魚鱗の断片などの固形分が排出されるのを防ぐために、スチールウール製のフィルター8が設けられている。なお、本実施形態の装置には設けられていないが、各抽出管7に亜臨界水を導入する際の圧力低下を防止するための窒素ガスボンベ15を、各抽出管7に接続してもよい。
【0026】
本実施形態の装置では、コラーゲン抽出後に抽出管7内に残されるヒドロキシアパタイトを水を用いて排出するための送水ポンプ22がバルブ5eに接続されている。また、各抽出管7の下部には、ヒドロキシアパタイトを水とともに流し出すためのドレインがバルブ5fを介して接続されている。
【0027】
更に、本実施形態では、各抽出管7から排出される抽出後の亜臨界水を冷却する冷却管11が各バルブ5dを介して接続されている。また、冷却管11では、バイパス10を介して排出される亜臨界水の冷却も行われる。冷却管11から排出される水性抽出物は、コントロールバルブ13を介して外部に定常的に排出される。このコントロールバルブ13は、図1の実施形態と同様に、圧力センサ12で検出される圧力に基づいてその開閉を制御することにより、抽出管7及び電気炉4に於ける圧力を一定(ここでは11MPa)に維持する機能を果たしている。
【実施例】
【0028】
<コラーゲン及びヒドロキシアパタイトの製造>
(実施例1〜4)
図1の装置を使用して、抽出管7の入口温度T1を147℃(実施例1)、169℃(実施例2)、194℃(実施例3)及び225℃(実施例4)として、魚鱗からコラーゲン及びヒドロキシアパタイトを製造した。鳥取県境港の魚市場で自然に脱落したイワシ鱗を原料として使用し、表面に付着している異物等の除去のため、イワシ鱗を1M水酸化ナトリウム溶液に24時間浸漬した後、十分に水洗及び乾燥を行った。洗浄後のイワシ鱗は50%がタンパク質、50%が灰分であった。
【0029】
まず、抽出管7に35〜40gの上記イワシ鱗を仕込み、バルブ5a及び5dを閉じた状態で、バルブ5cを介して高圧窒素を抽出管7に導入した後、バルブ5cを閉じた。次に、バルブ5bを開き、高圧ポンプ2及び電気炉4を作動させて水タンク1からの水の供給を開始した。高圧ポンプ2の流量は100mL/分、コントロールバルブ13の圧力は11MPaに調整した。次に、亜臨界水の供給が定常化した後、バルブ5a及び5dを開けるとともにバルブ5bを閉じて抽出管7への亜臨界水の供給を開始した。
【0030】
図2は、抽出管7の入口温度T1を147℃、169℃、194℃及び225℃の一定温度とした場合のそれぞれについて、抽出管7の出口温度T2の経時変化を表している。図2に示すように、抽出管7の出口温度T2の初期値は、原料及び抽出管7の温度が亜臨界水の温度より低いため、抽出管7の入口温度T1よりも低い値となり、各出口温度T2は、亜臨界水の通水時間とともに増加した。抽出時間は8分間又は10分間とし、採液量は800mL又は1Lである。抽出管7のフィルター8に目詰まりは認められず、安定した抽出を行うことができた。
【0031】
抽出終了後、亜臨界水はバルブ5bを介してバイパス10へ経由させ、抽出管7の内圧を徐々に大気圧まで下げた。その際、抽出管7内の残液は回収せずに系外へ排出した。
【0032】
<抽出物及び残渣の分析>
(抽出率、残渣率、タンパク質量及び灰分)
各実施例1〜4について、抽出率、残渣率を調べるとともに、抽出物及び残渣のそれぞれについてタンパク質量及び灰分を調べ、その結果を表1に示した。抽出率(水可溶性成分率)は抽出液の凍結乾燥物と仕込み試料の重量から算出した。また、残渣率は80℃で24時間乾燥した残渣と仕込み原料の重量から算出した。抽出物と残渣の合計が100%にならないのは、抽出管7内に付着して回収できない残渣と、抽出管7内の残液に含まれる可溶成分が含まれていないためである。灰分は電気炉で600℃、10時間処理した後の重量変化により求めた。タンパク質量は、ファイソンズ社製EA−1108を用いて元素分析を行い、窒素元素の測定値から求めた。この時の窒素−タンパク質換算係数は、牛皮コラーゲンの5.62を用いた。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、抽出物は入口温度T1の上昇に伴い増加する一方、残渣は減少し、実施例4では48.3%となった。この値はイワシ鱗の灰分50%に近く、この時の残渣中のタンパク質が2.6%と非常に低いことから、225℃8分間の抽出でほとんどのイワシ鱗コラーゲンが溶出することが分かった。また、抽出物中の灰分は抽出物に対して1.4〜5.6%である。これらの値を抽出液中の灰分に換算すると13〜29mg/100mLとなり、灰分のほとんどが僅かに溶解したアパタイトと考えられる。
【0035】
(コラーゲンの抽出挙動)
実施例1〜4においては、図2に示したように、通水時間とともに抽出管7内の熱水温度が徐々に上昇する。さらに、表1で示したように抽出温度が抽出率に大きく影響することから、抽出量は抽出時間毎に変化すると考えられた。そこで、実施例2(入口温度T1:169℃)及び実施例4(入口温度T1:225℃)において200mL毎(2分ごと)に分画して計5回(10分間)の採液を行い、各画分の抽出量を測定して図3に示した。
【0036】
まず、実施例2では採液1回目の0−200mLの画分から徐々に抽出量が増加し、600−800mLの画分で最大となった。抽出量は400−600mLの画分で大きく増加することから、この温度領域143−153℃で加水分解反応が顕著になると考えられる。実施例2では最後の画分800−1000mLでも多くの可溶成分が溶出していること、および表1において実施例2の残渣中のタンパク質が15.6%あることから完全抽出にはさらに抽出時間を要する。
【0037】
一方、実施例4では0−200mLの画分で156℃以上となっており、この値は実施例2での600−800mLの画分と同程度の温度領域であるため、最初の画分から抽出量が多い。鱗の表面は非常に硬いため熱水が内部まで瞬時に到達するのではなく表面から徐々に加水分解が進み、それに従い熱水が鱗内部へ浸透すると考えられる。それ故に初期の段階で表面付近のコラーゲンが溶出した後は、熱水温度が上昇するにもかかわらず抽出量が減少すると考えられる。
【0038】
(抽出物のアミノ酸組成)
各実施例1〜4の抽出物のアミノ酸組成について調べ、その結果を図4に示した。アミノ酸分析は、Waters社のAccQ・TAG法により分析した。すなわち、試料を6N塩酸で21時間、110℃で気相分解した後蛍光指示薬で修飾し、修飾アミノ酸を逆相HPLCにより分離した。検出器は蛍光分光光度計(励起光の波長250nm、検出波長395nm)を用いた。また、アミノ酸組成の比較のため、イワシ鱗の酵素可溶化コラーゲン(PSC)のアミノ酸組成についても合わせて調べた。PSCの試料は、10℃以下で希塩酸を用いて脱鱗し、得られた粗コラーゲンをペプシンで可溶化し、等電点沈殿で精製することにより得た。図4では、PSC及び実施例1〜4の抽出物の1000残基あたりのアミノ酸残基数を示している。
【0039】
ヒドロキシプロリン(Hyp)はコラーゲンに特有のアミノ酸で、タンパク質中のコラーゲン含有量測定の指標に使われている。また、コラーゲン分子はグリシン(Gly)が三残基毎に現れる構造のため、グリシンが全体の約1/3を占める。PSCは等電点沈殿による精製工程を経ているためほぼコラーゲン100%と考えられ、図4においてグリシンが全体のほぼ1/3であることから、実施例1〜4の抽出物はイワシ鱗コラーゲンのアミノ酸組成を反映していると言える。亜臨界水抽出された実施例1〜4の抽出物では、グリシンはPSCの値に近く全体のほぼ1/3であり、ヒドロキシプロリンもPSCと同程度である。これらのことから、実施例1〜4にはアミノ酸組成に影響を与えるような量の他のタンパク質は含まれておらず、また熱水によるアミノ酸の熱分解もほとんど起こっていないと考えられる。
【0040】
(抽出物の分子量分布)
各実施例1〜4の抽出物の分子量分布について調べ、その結果を図5に示した。抽出物の分子量分布はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。カラムにはファルマシア製Superdex 200HR10/30(排除限界分子量(Vo):1300kDa)を、溶離液には0.2Nリン酸ナトリウム水溶液 pH6.8を用いて、流速0.75ml/min、210nmの紫外吸収(UV)により検出した。
【0041】
タンパク質を亜臨界水で処理すると、処理されたタンパク質の分子量が処理温度の上昇とともに小さくなることが知られている。図5に示すように、各実施例の抽出物の分子量分布は全体的に幅が広く、GPC曲線のピーク地点の分子量は、実施例1の443kDa付近から実施例4の6.5kDa付近までとなっており、抽出温度が高くなるほど低くなる。図2で示したように、何れの実施例においても入口温度T1と出口温度T2の温度差が大きいため試料が接触する亜臨界水の温度差も大きくなり、抽出管7内の試料の位置により滞留時間の差もある。それ故にこのような幅広い分子量分布になると考えられる。例えば、内径が大きく長さが短いディスク状の抽出管を用いれば熱水温度および滞留時間の差が小さくなるため、幅の狭い分子量分布のゼラチンを調製できると考えられる。いずれにしても、亜臨界水の温度を調整すれば分子量分布の違うゼラチンを容易に調製できることが分かかる。
【0042】
さらに、図3で示した実施例2と実施例4の各画分の分子量分布を測定し、その結果を図6に示した。実施例2(図6の上側)では、0−200mLの画分は出口温度T2が最も低温であるにもかかわらずピークの分子量が32kDa付近を示しており、他の画分に比べて低分子量である。この画分は図3で示したように非常に低収量であるため全体的な影響は小さいが、鱗の極表面付近の他のタンパク質や前処理におけるアルカリ処理等でダメージを受けたコラーゲンが低温で溶出したと考えられる。次の画分200−400mLが最も高分子領域にあり、以降分子量分布が低分子領域へシフトした。一方、実施例4(図6の下側)では0−200mLの画分の出口温度T2が実施例2の800−1000mLの出口温度T2と同程度であるため、両者は同様のGPC曲線を示している。これ以降の画分では分子量は小さくなり、400−1000mLではピークの分子量が6.5kDa以下の幅の狭い分子量分布になった。実施例4の場合、400−1000mLを採液すれば、分子量分布の狭いゼラチンを後処理工程なしで調製できることになる。ゼラチンは用途によって適した分子量分布を選択する必要がある。例えば、低分子量のゼラチンは冷水でも速やかに溶解するところにメリットがあり、また高分子量のゼラチンはゲル強度が高いことが特徴である。本発明の製造方法では、抽出温度や採液時間を調節することにより、容易に分子量分布の調整が可能であり、抽出管の温度をさらに精密に制御すれば、分子量分布の狭いゼラチンの製造が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、簡便かつ短時間でコラーゲン含有水性抽出物を得ることができるので、食品、医薬、写真、化粧品等の分野で利用が可能である。
【0044】
また、本発明によれば、簡便かつ短時間でヒドロキシアパタイトを得ることができるので、人工骨等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係るコラーゲンの抽出装置を例示する概念図であり、ヒドロキシアパタイトの製造装置を兼ねている。
【図2】図1の抽出管の入口温度T1を一定温度とした場合における、抽出管の出口温度T2の経時変化を表している。
【図3】実施例2及び実施例4において200mL毎(2分ごと)の各画分の抽出量を示す図である。
【図4】各実施例1〜4の抽出物のアミノ酸組成を示す図である。
【図5】各実施例1〜4の抽出物の分子量分布を示す図である。
【図6】実施例2と実施例4の各画分の分子量分布を示す図である。
【図7】図7は本発明の他の実施形態に係るコラーゲンの抽出装置を示す概念図であり、ヒドロキシアパタイトの製造装置を兼ねている。
【符号の説明】
【0046】
1 水タンク
2 高圧ポンプ
4 電気炉
5a バルブ
5b バルブ
5c バルブ
5d バルブ
5e バルブ
5f バルブ
6 温度計
7 抽出管
8 フィルター
9 温度計
10 バイパス
11 冷却管
13 コントロールバルブ
12 圧力センサ
15 窒素ガスボンベ
14 貯留タンク
21 ダンパ
22 送水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行うことを特徴とするコラーゲンの抽出方法。
【請求項2】
前記魚鱗の抽出時の温度が、70〜400℃の範囲である請求項1記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項3】
前記魚鱗の抽出時の圧力が、0.1〜25MPaの範囲である請求項1又は2記載のコラーゲンの抽出方法。
【請求項4】
亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出することによりヒドロキシアパタイトを得ることを特徴とするヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項5】
前記魚鱗の抽出時の温度が、70〜400℃の範囲である請求項4記載のヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項6】
前記魚鱗の抽出時の圧力が、0.1〜25MPaの範囲である請求項4又は5記載のヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法により得られるコラーゲン含有水性抽出物。
【請求項8】
請求項4乃至6の何れかに記載の製造方法により得られるヒドロキシアパタイト。
【請求項9】
亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行うコラーゲンの抽出装置であって、
水を加熱及び加圧することにより亜臨界水又は超臨界水を調製して供給する亜臨界水・超臨界水供給部と、
該亜臨界水・超臨界水供給部から供給される亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンの抽出を行う抽出管と、
該抽出管の下流側に設けられたコントロールバルブとを備え、
該コントロールバルブは、前記抽出管内の圧力を維持しながら抽出液の排出を制御することを特徴とするコラーゲンの抽出装置。
【請求項10】
前記抽出管の出口側に、スチールウール製のフィルターが設けられていることを特徴とする請求項9記載のコラーゲンの抽出装置。
【請求項11】
亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出して除去するヒドロキシアパタイト製造装置であって、
水を加熱及び加圧することにより亜臨界水又は超臨界水を調製して供給する亜臨界水・超臨界水供給部と、
該亜臨界水・超臨界水供給部から供給される亜臨界水又は超臨界水を用いて魚鱗からコラーゲンを抽出して除去する抽出管と、
該抽出管の下流側に設けられたコントロールバルブとを備え、
該コントロールバルブは、前記抽出管内の圧力を維持しながら抽出液の排出を制御することを特徴とするヒドロキシアパタイトの製造装置。
【請求項12】
前記抽出管の出口側に、スチールウール製のフィルターが設けられていることを特徴とする請求項11記載のヒドロキシアパタイトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285456(P2008−285456A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134197(P2007−134197)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(000150877)株式会社帝国電機製作所 (24)
【Fターム(参考)】