説明

コンクリートの補修構造

【課題】強化繊維シートに対する押圧板の馴染みを良くし、強化繊維シートの破断が生じないコンクリートの補修構造を提供する。
【解決手段】コンクリート躯体4の表面に強化繊維シート1をアンカーピン2で取り付けるとともに、強化繊維シート1に樹脂を含浸させて固化する構造において、強化繊維シート1として所定幅に裁断された長尺のものを用い、強化繊維シート1を横に並べてコンクリート躯体の剥落想定範囲を覆うとともに、各強化繊維シート1の側縁部を重ね合わせ、重ね合わせた側縁部に繊維強化プラスチック製の押圧板3を被せ、各強化繊維シート1の側縁部を押圧板3と一緒にアンカーピン2でコンクリート躯体4に固定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの補修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの壁面に亀裂が発生した場合、亀裂の発生した箇所にアラミド繊維や炭素繊維などを含んだ繊維強化プラスチック(FRP)を貼り付けて補修している。すなわち、コンクリート躯体の表面に強化繊維シートを取り付けた後、その上に樹脂を塗布し、これを強化繊維シートに含浸させて繊維強化プラスチック層を形成している(特許文献1)。
【0003】
強化繊維シートは所定幅に裁断された長尺のものを用いる。そして、この強化繊維シートを横に並べてコンクリート躯体の剥落想定範囲を覆うように配置するとともに、各強化繊維シートの側縁部を重ね合わせ、その上に押圧板を被せてアンカーピンでコンクリート躯体に固定してある。
【0004】
図10は強化繊維シート20の取付構造を示している。アンカーピン21にはスリット22を形成するとともに、フランジ23を備えたピン24が嵌入してある。そして、フランジ23をハンマーで叩いてピン22をアンカーピン21の内部に押し込むと、アンカーピン21が拡開してコンクリート躯体25の孔26の周面に圧接するするとともに、フランジ23がワッシャー27と押圧板28を介して強化繊維シート20をコンクリート躯体25の表面に押し付け、強化繊維シート20がコンクリート躯体25に固定されることになる。
【特許文献1】特開平3−224901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強化繊維シート20をコンクリート躯体25に押し付ける押圧板28として金属製のものを用いているため、押圧板28の強化繊維シート20に対する馴染みが悪く、強化繊維シート20の破断が生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、強化繊維シートに対する押圧板の馴染みを良くし、強化繊維シートの破断が生じないコンクリートの補修構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、コンクリート躯体の表面に強化繊維シートをアンカーピンで取り付けるとともに、該強化繊維シートに樹脂を含浸させて固化する構造において、強化繊維シートとして所定幅に裁断された長尺のものを用い、該強化繊維シートを横に並べてコンクリート躯体の剥落想定範囲を覆うとともに、各強化繊維シートの側縁部を重ね合わせ、重ね合わせた側縁部に繊維強化プラスチック製の押圧板を被せ、各強化繊維シートの側縁部を押圧板と一緒にアンカーピンでコンクリート躯体に固定したことを特徴とする。
【0008】
押圧板の強化繊維として強化繊維シートと同材質のものを用いるのが好ましい。
【0009】
押圧板の強化繊維はアラミド繊維またはガラス繊維、炭素繊維であるのが好ましい。
【0010】
コンクリート躯体の剥落想定範囲の付近に設置物が配置されて、強化繊維シートの定着長が十分に確保できない場合、設置物と剥落想定範囲の間に別の押圧板を配置し、該押圧板と一緒に強化繊維シートをアンカーピンでコンクリート躯体に固定するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強化繊維シートに対する押圧板の馴染みを良くし、強化繊維シートの破断が生じなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図8はトンネル壁面Sの補修箇所を示す図で、亀裂の発生箇所に繊維強化プラスチックPを貼り付けて補修してある。補修に際しては、まず、トンネル壁面Sにアラミド繊維製の強化繊維シート1をアンカーピン2で取り付ける(図7参照)。強化繊維シート1は所定の幅(通常1m)に裁断されたものを用い、その側縁部を隣の強化繊維シート1の側縁部に重ね合わせ、その上に繊維強化プラスチック製の押圧板3を被せ、これらをアンカーピン2でコンクリート躯体4に固定してある(図6参照)。押圧板3は、強化繊維としてアラミド繊維を含有し、トンネル壁面Sを補修する繊維強化プラスチックPと同じマトリクス樹脂で構成されている。
【0013】
図1は図6のアンカーピン2の打設部分を拡大して示す図、図2はアンカーピン2の斜視図、図3はアンカーピン2の一部を破断して示す正面図である。
【0014】
アンカーピン2は、筒状の本体部2aの一端を拡径させて大径部2bとテーパー部2g(係止手段)を形成するとともに、これら部分2b,2gの付近を残して軸方向に延びるスリット2cを本体部2aに形成してある。さらに、本体部2aの先端部分と中央部分には縊部2dをそれぞれ形成してある。本体部2aの内部にはテーパーピン2eを収容してある。
【0015】
強化繊維シート1の取り付けに際しては、まず、コンクリート躯体4の表面に強化繊維シート1と押圧板3を被せ、これらにアンカーピン2を通してコンクリート躯体4の孔5に挿入する。なお、予め、アンカーピン2にはワッシャー6を装着しておく。次いで、アンカーピン2の内部にプッシュロッド(図示せず)を通し、その端をハンマーで叩いてテーパーピン2eを本体部2aの先端部側に押し込み、本体部2aを拡開させて孔5の周面に圧接する。すると、大径部2bとテーパー部2gがワッシャー6と押圧板3を介して強化繊維シート1をコンクリート躯体4の表面に押し付け、強化繊維シート1がコンクリート躯体4に固定される。
【0016】
ところで、コンクリート躯体4の表面には、強化繊維シート1の取り付けに先立って下塗樹脂を塗布しておく。また、コンクリート躯体4の表面に強化繊維シート1を取り付けた後、その上に上塗樹脂を塗布し、これを強化繊維シート1に含浸させて繊維強化プラスチックPを形成し、最後にアクリルウレタン樹脂で仕上塗装を施す。
【0017】
ところで、強化繊維シート1は図9に示すようにコンクリートの剥落想定範囲Zを覆うように配置される。その際、強化繊維シート1の取付強度を十分なものにするため、剥落想定範囲Zの周囲に十分な定着長Lを確保しなければならない。なお、この定着長Lは通常50cmに設定する。しかし、コンクリートの剥落想定範囲Zの付近に蛍光灯などの設置物Mがある場合、十分な定着長の確保が困難になる。その場合には、設置物Mと剥落想定範囲Zとの間に繊維強化プラスチック製の押圧板3Aを設置して強化繊維シート1の取付強度を確保すればよい。
【0018】
本実施形態の構造によれば、コンクリート躯体4の孔5内に水が滲み出しても、滲み出した水はスリット2cを通ってアンカーピン2の内部に入り、アンカーピン2の内部を通って係止部2b側の開口2hから外部に排出される。このため、コンクリート躯体4と繊維強化プラスチックPの隙間に水が侵入しにくくなくなり、繊維強化プラスチックPの剥離の防止に役立つ。
【0019】
ところで、アンカーピン2からの水抜きを良くするためには、図4と図5に示すように本体部2aに水抜き孔2fを形成しておけばよい。また、この水抜き孔2fをスリット2cの両側に配置すると、アンカーピン2として必要な強度を保ちつつ水抜き性をさらに向上させることが可能になる。
【0020】
さらに、本実施形態では、強化繊維シート1として所定幅に裁断されたものを用い、各強化繊維シート1を横に並べてコンクリートの剥落想定範囲Zを覆い、各強化繊維シート1の側縁部を重ね合わせてアンカーピン2でコンクリート躯体4に固定してある。このため、コンクリートの剥落想定範囲Zが大きい場合でも、大きな強化繊維シート1を一度に取り付ける必要がなく、施工が容易なる。また、強化繊維シート1を同じ材質の押圧板3で押さえているので、馴染みが良く、強化繊維シート1の破断の防止に役立つ。
【0021】
なお、以上の実施形態では、筒状の本体部2aの一端を拡径させて大径部2bとテーパー部2gを形成してあるが、係止手段はこれに限定されるものではなく、本体部2aの一端に設けたフランジであってもよいし、本体部2aの一端に雄螺子を形成してナットを螺着するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のコンクリートの補修構造を示す断面図で、図6のアンカーピンの打設部分を拡大して示す図。
【図2】同補修構造で用いるアンカーピンの斜視図。
【図3】同アンカーピンの一部を破断して示す正面図。
【図4】図2の変形例を示す図。
【図5】図3の変形例を示す図。
【図6】強化繊維シートの取付構造を示す断面図。
【図7】強化繊維シートの取付状態を示す平面図。
【図8】トンネル壁面の補修工法を説明する図。
【図9】強化繊維シートの定着長を説明する図。
【図10】図1と対応する従来例を示す図。
【符号の説明】
【0023】
1 強化繊維シート
2 アンカーピン
2a 本体部
2b 大径部
2d 縊部
2e テーパーピン
2f 水抜き孔
2g テーパー部
3 押圧板
4 コンクリート躯体
5 孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体の表面に強化繊維シートをアンカーピンで取り付けるとともに、該強化繊維シートに樹脂を含浸させて固化する構造において、強化繊維シートとして所定幅に裁断された長尺のものを用い、該強化繊維シートを横に並べてコンクリート躯体の剥落想定範囲を覆うとともに、各強化繊維シートの側縁部を重ね合わせ、重ね合わせた側縁部に繊維強化プラスチック製の押圧板を被せ、各強化繊維シートの側縁部を押圧板と一緒にアンカーピンでコンクリート躯体に固定したことを特徴とするコンクリートの補修構造。
【請求項2】
押圧板の強化繊維として強化繊維シートと同材質のものを用いたことを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの補修構造。
【請求項3】
押圧板の強化繊維がアラミド繊維またはガラス繊維、炭素繊維であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリートの補修構造。
【請求項4】
コンクリート躯体の剥落想定範囲の付近に設置物が配置されて、強化繊維シートの定着長が十分に確保できない場合、設置物と剥落想定範囲の間に別の押圧板を配置し、該押圧板と一緒に強化繊維シートをアンカーピンでコンクリート躯体に固定したことを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のコンクリートの補修構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−308892(P2007−308892A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136669(P2006−136669)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(598072180)ファイベックス株式会社 (24)
【Fターム(参考)】