説明

コンクリートサンプル採取方法およびその採取用ドリル切り

【課題】 サンプル採取、およびサンプル採取後の建物躯体の補修が容易なコンクリートサンプル採取方法、およびこの方法に用いられる採取用ドリル切りを提供する。
【解決手段】 採取用ドリル切り1として、螺進により円形範囲のコンクリートを砕いて砕き屑12を内部に進入させる中空形状であり、かつその中空空間から外部に開口する採取口6を有するものを用いる。この採取用ドリル切り1により、サンプル採取対象のコンクリート体11を目標穿孔深さの一部ずつ穿孔する。このように穿孔して採取用ドリル切り1内の砕き屑12を前記採取口6から排出する処理を、前記目標穿孔深さまで繰り返し行うことにより、前記砕き屑12であるコンクリートサンプルを採取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基礎や壁などの鉄筋コンクリートの劣化を判定するために、壁などからコンクリートのサンプルを採取するコンクリートサンプル採取方法、およびその採取方法に用いられる採取用ドリル切りに関する。
【背景技術】
【0002】
基礎や壁などの鉄筋コンクリートの劣化を判定する方法として、建物躯体から鉄筋コンクリートのサンプルを採取し、そのサンプルの中性化を測定することが一般的に行われている。その場合、中空ドリルにより建物躯体から直径75mmφ〜100mmφの円柱状のコア供試体を繰り抜くことで鉄筋コンクリートのサンプルとして採取し、このコア供試体にフェノールフタレイン水溶液を噴霧して、そのときのコア供試体の変色の状況により中性化の進行具合を測っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記方法では以下のような問題がある。
・直径75mmφ〜100mmφのコア供試体を建物躯体から繰り抜くことでサンプルを採取するので、サンプル採取により建物躯体にできた大きな穴を補修するのにコストがかかる。
・建物躯体からコア供試体を繰り抜いて採取するには、専門職による作業が必要である。・サンプル採取時に、建物躯体の内部の鉄筋が同時に損傷する危険性がある。
【0004】
上記方法において、サンプル採取により建物躯体にできる穴が小さければ、サンプル採取後の補修が簡単になるが、そのためには中空ドリルで繰り抜くコア供試体の直径を10mmφ程度に小さくしなければならず、中空ドリルの駆動力強化が必要となる。
【0005】
この発明の目的は、サンプル採取およびサンプル採取後の建物躯体の補修が容易なコンクリートサンプル採取方法を提供することである。
この発明の他の目的は、この発明方法に用いられる採取用ドリル切りを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のコンクリートサンプル採取方法は、螺進により円形範囲のコンクリートを砕いて砕き屑を内部に進入させる中空形状とされかつその中空空間から外部に開口する採取口を有する採取用ドリル切りを用い、サンプル採取対象のコンクリート体を目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して採取用ドリル切り内の砕き屑を前記採取口から排出する処理を、前記目標穿孔深さまで繰り返し行うことにより、前記砕き屑であるコンクリートサンプルを採取することを特徴とする。
【0007】
この方法によると、コンクリートを砕いてその砕き屑を内部に進入させる採取用ドリル切りを用い、目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して採取用ドリル切り内の砕き屑を排出する処理を繰り返すため、コンクリート体に開ける孔をなるべく小さくしながら、必要深さまで穿孔してサンプルを採取することができる。このようにサンプル採取のための断面欠損をできるだけ小さくすることができるため、後の補修が簡単で済み、補修費用も大きくかからない。また、小さな孔の穿孔で済むため、穿孔作業が容易で、鉄筋等を傷つける恐れも少なく、専門工が不要となる。このため、中古住宅等の検証等の広範な用途で、コンクリートの中性化等の測定が行える。さらに、目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して砕き屑であるコンクリートサンプルを採取するため、コンクリート体のどの深さ位置のサンプルであるかが明確になり、コンクリート体の深さ位置によって異なる中性化等の性状を検証することができる。
【0008】
この発明において、前記採取用ドリル切りの採取口からの砕き屑の排出を、真空吸引により行うようにしても良い。
砕き屑の排出を真空吸引により行うと、目標穿孔深さの一部ずつ砕き屑を排出するにつき、簡単にかつ迅速に排出が行える。
【0009】
この発明において、前記採取用ドリル切りの採取口からの砕き屑の排出は、前記中空空間に挿脱可能に挿入される掴み部材で掴んで行うようにしても良い。掴み部材で排出する場合は、真空吸引と異なり、真空吸引装置等の大掛かりな付帯設備が不要となる。
【0010】
この発明のコンクリート中性化測定方法は、この発明のコンクリートサンプル採取方法を用いてコンクリートサンプルを採取し、採取したコンクリートサンプルの中性化の進行度を役液により測定するものである。
この方法によると、コンクリート中性化測定を容易に行うことができる。この場合に、一部ずつ穿孔を繰り返す過程における各回のコンクリートサンプルを区別して役液による測定を行えば、コンクリート体の表面からの一部の深さ毎の中性化進行度を測定することができる。
【0011】
この発明の採取用ドリル切りは、切刃を先端周縁に有する円筒状とされ螺進によりコンクリート体を砕いて砕き屑を内部に進入させるドリル切り本体と、このドリル切り本体の基端に設けられてドリル装置のチャックに取付可能なシャンク部と、前記ドリル切り本体の基端近傍に設けられた本体部採取口と、前記ドリル切り本体の外周に前記本体部採取口が設けられた軸方向位置で回転自在に取付けられ前記本体部採取口に連通した密閉空間を形成する空回り部材と、この空回り部材に設けられて真空吸引装置に接続可能な吸引採取口とを備えることを特徴とする。
この構成の採取用ドリル切りによると、容易にコンクリートサンプルを採取することができ、一部ずつ砕き屑を排出する処理も、真空吸引により容易に行える。
【0012】
この発明の採取用ドリル切りにおいて、ドリル切り本体の外周に、コンクリート体の表面に当接させる採取位置規制用ガイドを、着脱可能に、または軸方向の取付位置が変更可能なように取付けても良い。
上記の採取位置規制用ガイドが設けられていると、一部ずつ繰り返し穿孔するときに、採取位置規制用ガイドがコンクリート体に当たるまで穿孔すれば良いため、一部ずつ穿孔を繰り返す過程における各回の穿孔の深さを、正確かつ容易に規制することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のコンクリートサンプル採取方法は、螺進により円形範囲のコンクリートを砕いて砕き屑を内部に進入させる中空形状とされかつその中空空間から外部に開口する採取口を有する採取用ドリル切りを用い、サンプル採取対象のコンクリート体を目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して採取用ドリル切り内の砕き屑を前記採取口から排出する処理を、前記目標穿孔深さまで繰り返し行うことにより、前記砕き屑であるコンクリートサンプルを採取する方法としたため、断面欠損の面積をなるべく小さくできて、サンプル採取およびサンプル採取後の建物躯体の補修を容易に行うことができ、補修にかかるコストも低減できる。
この発明のコンクリート中性化測定方法は、この発明のコンクリートサンプル採取方法を用いてコンクリートサンプルを採取し、採取したコンクリートサンプルの中性化の進行度を役液により測定する方法としたため、コンクリート中性化測定を容易に行うことができる。
この発明の採取用ドリル切りは、切刃を先端周縁に有する円筒状とされ螺進によりコンクリート体を砕いて砕き屑を内部に進入させるドリル切り本体と、このドリル切り本体の基端に設けられてドリル装置のチャックに取付可能なシャンク部と、前記ドリル切り本体の基端近傍に設けられた本体部採取口と、前記ドリル切り本体の外周に前記本体部採取口が設けられた軸方向位置で回転自在に取付けられ前記本体部採取口に連通した密閉空間を形成する空回り部材と、この空回り部材に設けられて真空吸引装置に接続可能な吸引採取口とを備えたものとしたため、容易にコンクリートサンプルを採取することができ、一部ずつ砕き屑を排出する処理も、真空吸引により容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。このコンクリートサンプル採取方法は、建物躯体の基礎や壁などのコンクリート体11の劣化を判定するために、コンクリート体11からコンクリートサンプルを採取する方法であり、採取用ドリル切り1を用いて行う。採取用ドリル切り1は、切刃3を先端周縁に有する円筒状のドリル切り本体2と、このドリル切り本体2の基端に設けられてドリル装置20のチャック21に取付可能な非中空部材からなるシャンク部4とを備える。ドリル切り本体2は、ドリル装置20による回転駆動で螺進してコンクリート体11を砕き、その砕き屑を内部に導入させるものである。ドリル切り本体2の直径は10mmφ程度とされる。
【0015】
図2に採取用ドリル切り1を拡大して断面で示す。ドリル切り本体2の基端近傍には、本体部採取口6が設けられ、この本体部採取口6が設けられた軸方向位置で、ドリル切り本体2の外周に空回り部材5が回転自在に取付けられている。具体的には、空回り部材5の両端が、それぞれリング状の部材8により、ドリル切り本体2に対して滑り自在となるように取付けられ、空回り部材5は、本体部採取口6に連通した密閉空間を、ドリル切り本体2の外周に形成する。空回り部材5には、ホース10を接続する吸引採取口9が設けられている。
【0016】
ホース10は、図1の真空吸引装置23に接続され、その吸引経路にサンプル溜め容器24が介在させてある。真空吸引装置23は吸引ブロワまたは真空ポンプからなる。サンプル溜容器24は、内部にフィルタ(図示せず)が設けてあり、空気と共に吸引される砕き屑であるコンクリートサンプルが溜められる。
【0017】
図2において、ドリル切り本体2の外周には、コンクリート体11の表面に当接させる採取位置規制用ガイド7が、着脱可能に、または軸方向の取付位置を変更して固定できるように取付けられている。採取位置規制用ガイド7はリング状に形成され、止めねじ(図示せず)等によりドリル切り本体2の外周に固定される。ドリル切り本体2の外周面に、軸方向に所定間隔毎にマーク(図示せず)が付してあり、そのマークに合わせて採取位置規制用ガイド7を固定する。なお、採取位置規制用ガイド7は、ドリル切り本体2に軸方向に所定間隔を開けて複数個取付けておき、先端側の採取位置規制用ガイド7から順次取り外すようにしても良い。前記所定間隔は、例えば5〜10mmの範囲とされる。
ドリル切り本体2の先端から空回り部材5までの軸方向長さLは、サンプル採取対象のコンクリート体11の深さ以上、つまり建物躯体の幅寸法以上とされている。
【0018】
図3は、この実施形態のコンクリートサンプル採取方法の手順を示す。このコンクリートサンプル採取方法では、採取用ドリル切り1をシャンク部4でドリル装置20(図1)のチャック21に取付けた状態で、図3(A)のようにドリル切り本体2の先端をサンプル採取対象のコンクリート体11の表面に押し当てる。この状態で、ドリル装置20でドリル切り本体2を回転駆動する。これにより、ドリル切り本体2をコンクリート体11内に螺進させ、先端の切刃3で円形範囲のコンクリートを砕いて砕き屑12を中空形状のドリル切り本体2の内部に進入させる。
【0019】
このとき、ドリル切り本体2の螺進は、採取位置規制用ガイド7がコンクリート体11の表面に当接する位置で止められる。例えば、採取位置規制用ガイド7がドリル切り本体2の先端から5mm(あるいは10mm)の位置に取付けられている場合には、ドリル切り本体2はコンクリート体11を目標穿孔深さの一部寸法Aである5mm(あるいは10mm)の深さまで穿孔した位置で止められる。
【0020】
次に、図3(B)のように採取用ドリル切り1における空回り部材5の吸引採取口9に接続したホース10を介して、ドリル切り本体2内の砕き屑12を真空吸引装置23(図1)で吸引し、本体部採取口6および吸引採取口9から外部に排出する。空回り部材5はドリル切り本体2の外周に回転自在に取付けられているので、空回り部材5の吸引採取口9にホース10を接続したままでも、ドリル切り本体2の回転駆動は支障なく行える。
【0021】
以上の工程を、採取位置規制用ガイド7のドリル切り本体2に対する取付け位置を一定間隔(例えば5mm〜10mm)だけずらして順次繰り返し、穿孔深さが目標深さに達するまで行う。目標深さは、例えばコンクリート体11を貫通する深さ、またはコンクリート体の中央深さとされる。コンクリート体11に穿孔された孔は、モルタルや止水材等で塞ぐ。このようにして採取した砕き屑12であるコンクリートサンプルに、役液であるフェノールフタレイン水溶液を噴霧し、変色の状況により、中性化の進行度を測定する。中性化の他に塩分測定や、微粉末化測定を行うようにしても良い。
【0022】
この方法によると、コンクリートを砕いてその砕き屑を内部に進入させる採取用ドリル切り1を用い、目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して採取用ドリル切り1内の砕き屑を排出する処理を繰り返すため、コンクリート体11に開ける孔をなるべく小さくしながら、必要深さまで穿孔してサンプルを採取することができる。例えば直径10mm程度の孔で済む。このようにサンプル採取のための断面欠損をできるだけ小さくすることができるため、後の補修が簡単で済み、補修費用も大きくかからない。また、小さな孔の穿孔で済むため、穿孔作業が容易で、鉄筋等を傷つける恐れも少なく、専門工が不要となる。このため、中古住宅の検証等の広範な用途で、コンクリート体11の中性化等の測定が行える。さらに、目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して砕き屑であるコンクリートサンプルを採取するため、コンクリート体11のどの深さ位置のサンプルであるかが明確になり、コンクリート体11の深さ位置によって異なる中性化等の性状を検証することができる。
【0023】
採取用ドリル切り1からの砕き屑の排出は真空吸引により行うため、目標穿孔深さの一部ずつ穿孔する毎に砕き屑を排出するにつき、簡単にかつ迅速に排出が行える。
【0024】
また、この実施形態では、採取用ドリル切り1におけるドリル切り本体2の外周に、コンクリート体11の表面に当接させる採取位置規制用ガイド7を、軸方向の取付位置が変更可能なように取付けているので、コンクリート体11を目標穿孔深さまで穿孔するのに、その深さの一部ずつ繰り返し穿孔することが簡単に行える。これにより、コンクリートサンプル採取時の穿孔深さを明確にでき、穿孔時にコンクリート体11内の鉄筋を損傷させる危険性を低減できる。
【0025】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態では、採取用ドリル切り1の本体部採取口6からの砕き屑12の排出を、先の実施形態の場合の真空吸引に代えて、ドリル切り本体2の中空空間に挿脱可能に挿入される掴み部材13で砕き屑12を掴んで行うようにする方法である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一実施形態に係るコンクリートサンプル採取方法を示す説明図である。
【図2】同コンクリートサンプル採取方法に用いられる採取用ドリル切りの一例の部分省略断面図である。
【図3】同コンクリートサンプル採取方法の工程説明図である。
【図4】この発明のコンクリートサンプル採取方法の他の実施形態の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1…採取用ドリル切り
2…ドリル切り本体
3…切刃
4…シャンク部
5…空回り部材
6…本体部採取口
7…採取位置規制用ガイド
9…吸引採取口
11…コンクリート体
12…砕き屑
13…掴み部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺進により円形範囲のコンクリートを砕いて砕き屑を内部に進入させる中空形状とされかつその中空空間から外部に開口する採取口を有する採取用ドリル切りを用い、サンプル採取対象のコンクリート体を目標穿孔深さの一部ずつ穿孔して採取用ドリル切り内の砕き屑を前記採取口から排出する処理を、前記目標穿孔深さまで繰り返し行うことにより、前記砕き屑であるコンクリートサンプルを採取することを特徴とするコンクリートサンプル採取方法。
【請求項2】
請求項1において、前記採取用ドリル切りの採取口からの砕き屑の排出を、真空吸引により行うコンクリートサンプル採取方法。
【請求項3】
請求項1において、前記採取用ドリル切りの採取口からの砕き屑の排出を、前記中空空間に挿脱可能に挿入される掴み部材で掴んで行うコンクリートサンプル採取方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のコンクリートサンプル採取方法を用いてコンクリートサンプルを採取し、採取したコンクリートサンプルの中性化の進行度を役液により測定するコンクリート中性化測定方法。
【請求項5】
切刃を先端周縁に有する円筒状とされ螺進によりコンクリート体を砕いて砕き屑を内部に進入させるドリル切り本体と、このドリル切り本体の基端に設けられてドリル装置のチャックに取付可能なシャンク部と、前記ドリル切り本体の基端近傍に設けられた本体部採取口と、前記ドリル切り本体の外周に前記本体部採取口が設けられた軸方向位置で回転自在に取付けられ前記本体部採取口に連通した密閉空間を形成する空回り部材と、この空回り部材に設けられて真空吸引装置に接続可能な吸引採取口とを備えることを特徴とする採取用ドリル切り。
【請求項6】
請求項5において、ドリル切り本体の外周に、コンクリート体の表面に当接させる採取位置規制用ガイドを、着脱可能に、または軸方向の取付位置が変更可能なように取付けた採取用ドリル切り。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−315842(P2007−315842A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143768(P2006−143768)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】