説明

コンクリートボイドスラブ

【課題】 コンクリートに埋め込む軽量部材がコンクリートの打設時に偏位した位置に浮上するのを防止し、コンクリートの所定位置に埋め込むようにしたコンクリートボイドスラブを提供すること。
【解決手段】 ボイド部材10が、下部鉄筋枠組2と上部鉄筋枠組3との間に組み込まれると共に、金属線材を正面視逆U字状に形成したボイド固定金具20によって下部鉄筋枠組2に固定される。ボイド固定金具20は縦方向に延びる脚部材21を有しており、下部鉄筋枠組2に敷設したボイド部材10を跨いで下部鉄筋枠組2に結合される。ボイド固定金具20の頂部とボイド部材10との間に浮止め板30を装着する。浮止め板30は、係止片31が形成されており該係止片31によってボイド固定金具20のアーチ部材に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の軽量化を目的としたコンクリートボイドスラブに関しており、詳しくは、軽量部材たるボイド部材をコンクリート内部に埋設したコンクリートボイドスラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構築物の建造に際し、その軽量化を目的としてコンクリート内部に発泡樹脂などによる軽量部材を埋め込んだものが開発されており、軽量部材をコンクリート内に埋め込む手段が、下記の特許文献により開示されている。
【特許文献1】特開2000−234409号公報
【特許文献2】特開平11−107423号公報
【特許文献3】特開2005−48515号公報
【0003】
特許文献1に記載の発明は、コンクリート打込み用の脱型仮型枠1に配筋した鉄筋Fの枠内に、発泡ポリスチレン、その他の発泡合成樹脂体による埋込材A(コンクリートの軽量化を計るためにコンクリートに埋め込む軽量部材のこと)を自由状態で挿入し、埋込材Aに挿通した芯材2を脱型仮型枠1から突出させて設け、この芯材2の下端又は下端付近に当該芯材2の上昇位置を規制できるストッパー20を設けたものであって、図1に示すようにセッティングしてコンクリートを打設すると、コンクリートCの打ち込みによって埋込材Aが芯材2とともに浮上し、ストッパー20が脱型仮型枠1に当接することで埋込材Aの上昇が規制され、当該埋込材Aが、図2に示す位置に埋設されるものである。
【0004】
特許文献1に記載の発明は、軽量部材たる埋込材Aが、コンクリートの打設時に浮き上がる現象を利用して鉄筋Fの枠内中央に埋設するものであるが、コンクリート打設の仕方によっては、埋込材Aが中途半端な浮き上がりで放置されることが予想され、このため、埋込材Aは鉄筋Fの枠内中央に埋設することが出来ず偏った位置に埋設されてしまうといった問題が生ずる。また、埋込材Aに挿通した芯材2を脱型仮型枠1から突出させるために、脱型仮型枠1を支える根太と芯材2とが一致した場合は施工できないので、予め脱型仮型枠1に根太位置の墨出しを行わなくてはならない等の手数が掛かり、結果として施工費用が嵩むなどの問題がある。
【0005】
特許文献2に記載の発明は、2本の下部補強鉄筋1a(平成13年3月16日提出の手続補正書により図4に追加された)と、正面視逆U字状に形成され下端が下部補強鉄筋1aに溶接されたボイド型枠固定筋1b(上記と同じで補正により追加)とを有し、ボイド型枠固定筋1bの頂部が上部補強鉄筋1c(上記と同じで補正により追加)によって結合されたものであって、図4Aは、ボイドブロック固定金具1Aの側面形状が逆V型に形成されたものであり、図4Bは、側面形状が四角型に形成されたものである。ボイド型枠2(コンクリートの軽量化を計るためにコンクリートに埋め込む軽量部材のこと)は、発泡スチロール、ペーパー、プラスチック等により形成され、ボイド型枠固定筋1b内に隙間なく挿入される。
【0006】
特許文献2に記載の発明は、コンクリートに埋め込むボイド型枠2がボイド型枠固定筋1b内に隙間なく挿入されることで、コンクリートの打設時に浮き上がる現象は回避されるが、コンクリートの打設によって上部補強鉄筋1cがボイド型枠2に食い込んで、当該ボイド型枠2が変形する虞がある。また、ボイド型枠2の上下方向を拘束するために、ボイド型枠2をボイド型枠固定筋1b内に隙間なく挿入するためには、特殊な工具を必要とするので、組立て作業が容易でなく作業効率が悪くなるだけでなく、コスト高を招くと言った問題がある。
【0007】
特許文献3に記載の発明は、下部鉄筋に載置される長尺の底部固定体2とボイド型枠10(コンクリートの軽量化を計るためにコンクリートに埋め込む軽量部材のこと)を押える型枠上部固定体5とからなり、上部固定体5は、所定箇所にボイド型枠10の高さと略同一に形成された型枠上部固定部8を有するものであって、底部固定体2に敷設したボイド型枠10を型枠上部固定体5によって固定するものである。なお、底部固定体2と上部固定体5は帯状鋼板などで形成されるが、上部固定体5は鋼板の他に針金、カーボン繊維などか利用できるとされている。
【0008】
特許文献3に記載の発明は、コンクリートに埋め込む軽量部材たるボイド型枠10が、底部固定体2と型枠上部固定体5の間に固定されるので、ボイド型枠10の埋設位置をコンクリート打設前に設定できるものであって、コンクリートの打設時にボイド型枠10が移動することを阻止し、施工完了時に所望する位置に埋め込むことが出来るようにした点で、特許文献1記載の発明とは異なる優れた長所を備えていると言える。また、型枠上部固定体5が帯状体の場合は、ボイド型枠10がコンクリート打設時に浮上しても型枠上部固定体5に食い込んで変形することが防止できるものである。
【0009】
しかし、特許文献3に記載の発明は、ボイド型枠10を長い板状の底板固定体2及び帯状体の上部固定体5で固定しているが、当該工法は、コンクリート内に埋設された長い板状体との間に「水平割裂面」を形成してしまう工法であり、コンクリートの強度が一定しないと言う問題がある。ここで、水平割裂面とは、コンクリートが剥離しやすい部分のことである。長い平板は、棒状の鉄筋と比べてコンクリートと一体になり難いから、ボイド型枠の固定に長い板状体を使用すると、床スラブコンクリート内に欠陥部となる水平割裂面が形成されてしまうことになる。
【0010】
また、コンクリートの打設は、上部から流し込んでいるから、長い板状体の下面にコンクリートを流し込むのは非常に困難であり、確実なコンクリート打設を期待することができない。この問題を解決するために、ボイド型枠は断面楕円形を採用しているが、ボイド型枠を固定する部材が長い板状体であっては、コンクリートの打設時にコンクリートの廻りが悪くなり、コンクリートの充填不足を起す原因となる。このため、コンクリートの密実性が失われ、ボイドスラブに、圧縮、曲げ、せん断に対する不安を残してしまうことなる。
【0011】
この他、特許文献3は、明細書において、底部固定体2が板状体の他に、鉄筋を溶接した格子状体が使用でき、また、上部固定体5が帯状体の他に、ワイヤ、鋼線等が使用できるとしているが、明細書は、底部固定体2が板状体の場合、上部固定体5が帯状体の場合についての結合手段が開示されているだけであって、他の部材の場合の結合手段については何も開示されていない。仮に、部材の結合を溶接で行うのであれば、現場での溶接作業は能率的でなく作業性が悪いと言える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、コンクリートの内部に埋め込む軽量部材たるボイド部材をコンクリート打設時に定位置に収めると共に、コンクリート内部で浮上する時にボイド部材自身が損傷するのを防止したコンクリートボイドスラブを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
解決手段の第1は、軽量部材たるボイド部材が、下部鉄筋枠組と上部鉄筋枠組との間に組み込まれると共に、金属線材を正面視逆U字状に形成したボイド固定金具により上記下部鉄筋枠組に固定されるものであって、上記下部鉄筋枠組にボイド部材を敷設し、敷設された上記ボイド部材に上記ボイド固定金具を遊嵌状態で装着し、該ボイド固定金具の自由端を上記下部鉄筋枠組に結合して上記ボイド部材を上記下部鉄筋枠組に固定し、上記ボイド固定金具の頂部と上記ボイド部材との間に浮止め板を装着したことを特徴とするものである。
【0014】
解決手段の第2は、軽量部材たるボイド部材が、下部鉄筋枠組と上部鉄筋枠組との間に組み込まれると共に、格子枠組を介して上記下部鉄筋枠組に固定されるものであって、上記格子枠組を上記下部鉄筋枠組に結合し、上記ボイド部材を上記格子枠組に遊嵌状態で装着して当該ボイド部材を上記下部鉄筋枠組に固定し、上記格子枠組の上方に形成された桟と上記ボイド部材との間に浮止め板を装着したことを特徴とするものである。
【0015】
解決手段の第3は、解決手段の第1において、ボイド固定金具は、縦方向に延びる脚部材とアーチ状に形成されたアーチ部材が連続して設けられたものであり、上記脚部材の自由端は、いずれか一方にフック部材を曲げ形成したことを特徴とするものである。
【0016】
解決手段の第4は、解決手段の第3において、第1の固定金具は、脚部材の自由端に設けたフック部材が、アーチ部材の長手方向に対して直交する方向に曲げ形成されており、該フック部材が上記脚部材のいずれか一方にのみ形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
解決手段の第5は、解決手段の第3において、第2の固定金具は、脚部材の自由端に設けたフック部材が、アーチ部材の長手方向に対して平行する方向に曲げ形成されており、該フック部材が上記脚部材のいずれか一方にのみ形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
解決手段の第6は、解決手段の第3において、ボイド固定金具は、脚部材の自由端に設けたフック部材が、いずれの脚部材にも形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
解決手段の第7は、解決手段の第1において、浮止め板は、ボイド固定金具に係合する係止片が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
解決手段の第8は、解決手段の第7において、浮止め板は、ボイド部材に仮固定する固定爪が設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
解決手段の第9は、解決手段の第7又は8において、浮止め板は、組立てられたボイド部材の長手方向に対し平行方向にリブが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1は、軽量部材たるボイド部材が、金属線材によって形成されたボイド固定金具を介して下部鉄筋枠組に固定されると共に、ボイド部材とボイド固定金具との間に浮止め板を装着したものであるから、ボイド部材がコンクリート打設時に浮き上がるとしても、浮止め板がボイド部材の浮上を阻止するだけでなく、コンクリート硬化時に、ボイド部材にボイド固定金具が食い込んで当該ボイド部材が変形することを防止でき、これにより、ボイド部材は、コンクリート内で編位することなく所定位置に収まり、高品位なコンクリートボイドスラブが得られることの効果がある。また、浮止め板は、長い板状体ではないので、コンクリート内に埋設された時にコンクリートの剥離現象を起させないという効果がある。
【0023】
請求項2は、軽量部材たるボイド部材が、格子枠組に挿入されて下部鉄筋枠組に固定されるものであるから、コンクリート打設によりボイド部材が浮き上がろうとしても、格子枠組とボイド部材との間に装着した浮止め板がボイド部材の浮き上がりを阻止し、また、コンクリート硬化時にボイド部材が固定金具に食い込んで変形することが防止でき、コンクリート内でのボイド部材の位置は、編位することなく所定位置に収まり高品位なコンクリートボイドスラブが得られることの効果がある。
【0024】
請求項3は、ボイド固定金具が、脚部材の少なくとも一方の自由端にフック部材を形成したものであるから、ボイド固定金具を下部鉄筋枠組に結合する作業において、一方の脚部材を下部鉄筋枠組に結合しておき、他方の脚部材を自由状態にしてボイド部材を嵌合すれば、ボイドスラブの組立作業が効率よく行えることの効果がある。
【0025】
請求項4は、ボイド固定金具の脚部材に設けたフック部材の曲げ方向が特定されているから、下部鉄筋枠組の鉄筋の配設方向に会わせて使用することができ、ボイドスラブの組立作業が効率よく行えることの効果がある。
【0026】
請求項5は、ボイド固定金具の脚部材に設けたフック部の曲げ方向が特定されているから、下部鉄筋枠組の鉄筋の配設方向に会わせて使用することができ、ボイドスラブの組立作業が効率よく行えることの効果がある。
【0027】
請求項6は、ボイド固定金具を下部鉄筋枠組に結合するフック部材が、双方の脚部材に設けられているから、フック部を鉄筋に結合する作業が効率よく行えるものである。
【0028】
請求項7は、浮止め板に、係止片を設けたものであるから、浮止め板がボイドスラブ構築後に固定金具から脱落するのを防止できるという効果がある。
【0029】
請求項8は、浮止め板に、ボイド部材を仮固定する固定爪を設けたものであるから、浮止め板をボイド部材の所定位置に固定できるので、ボイドスラブ構築作業が容易となることの効果がある。
【0030】
請求項9は、浮止め板にリブを設けたものであるから、コンクリートの打設によってボイド部材が浮上する際に、ボイド部材の浮上力によって浮止め板が変形することが防止できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は本発明に係るボイドスラブの第1の実施形態を示す全体の斜視図及び断面図、図2はボイド部材を鉄筋枠組に固定する第1の固定金具を示す斜視図、図3はボイド部材を鉄筋枠組に固定する第2の固定金具を示す斜視図、図4は浮止め板を示しており、A,Bは係止片を有するものの斜視図、C,Dは係止片と係止爪を有するものの斜視図、図5はフック金具の正面図、図6は第1の実施形態によるボイドスラブを構築する工程図、図7は第1の固定金具を使用してボイド部材を鉄筋枠組みに固定する工程図、図8は第2の固定金具を使用してボイド部材を鉄筋枠組みに固定する工程図、図9はボイドスラブの第2の実施形態を示しており、Aは全体の斜視図、Bは同断面図、図10は第2の実施形態によるボイドスラブを構築する工程図である。
【0032】
図1はボイドスラブの第1の実施形態を示しており、ボイドスラブ1は、下部鉄筋枠組2と上部鉄筋枠組3との間にボイド部材10を組み込んだものであり、コンクリート床の構築に最適なものである。
【0033】
ボイド部材10は、発泡スチロール等の発泡樹脂をはじめ、紙又は薄鋼板による管体等を含むものである。また、ボイド部材10の断面形状は楕円形に形成されているが、断面形状は任意であり、長さも特に規定されない。
【0034】
ボイド部材10は、ボイド固定金具20,200によって下部鉄筋枠組2に固定されるものであり、該ボイド固定金具20,200は、図2及び図3に示すように、針金状の金属線材を正面視逆U字状に形成したものである。また、ボイド固定金具20,200の頂部とボイド部材10との間には、コンクリートの打設時に、ボイド部材10が浮上してボイド固定金具20,200に食い込んで変形するのを防止するための浮止め板30が装着される。
【0035】
ボイド固定金具20,200は、図2に示す第1の固定金具20と、図3に示す第2の固定金具200からなものである。ボイド固定金具20,200は、正面視形状が逆U字状に形成されており、縦方向に延びる脚部材21,201とアーチ状に形成されたアーチ部材22,202とが連続して形成されており、自由端にフック部材23,203を曲げ形成したものである。
【0036】
第1の固定金具20と第2の固定金具200は、自由端に形成したフック部材23,203の向きが異なっている。第1の固定金具20は、フック部材23がアーチ部材22の長手方向に対して直交する方向(正面視で前後方向)に曲げ形成されており、フック部材23は、左右の脚部材21のいずれか一方にのみ形成し、他方は直角方向に折り曲げた折曲部24のままにしておく(図2A,B)。ただし、予めフック部材23を両方の脚部材21に形成することは可能である(図2C)。
【0037】
第2の固定金具200は、フック部材203がアーチ部材202の長手方向に対して平行する方向(正面視で左右方向)に形成されており、フック部材203は、左右の脚部材201のいずれか一方にのみ曲げ形成し、他方は直角方向に折り曲げた折曲部204の状態にしておく(図3A)。ただし、ここでもフック部材203を予め両方の脚部材201に形成できることは勿論である(図3B)。
【0038】
第1の固定金具20と第2の固定金具200において、フック部材23,203の折り曲げ方向を異にしているのは、脚部材21,201を下部鉄筋枠組2の鉄筋に結合する時に、鉄筋の配設方向に会わせていずれかを選択して使用できるようにするためである。
【0039】
浮止め板30は、図4に示すように、金属平板の中央部に切り起し加工により係止片31を形成したものである(図4A)。また、他の浮止め板30は、係止片31の前後又は四隅部にボイド部材10に仮固定する固定爪32を設けたものである(図4B)。なお、浮止め板30には、係止片31の両側に当該係止片31の切り起し穴に対し平行方向にリブ33を形成することがある(図4C)。この他、固定爪32とリブ33の双方が設けられている浮止め板30も可能である(図4D)。
【0040】
実施形態の浮止め板30は、ボイド固定金具20,200がボイド部材10に食い込むのを防止するための大きさを備えているが、コンクリート内部に埋め込まれた時に、長板状の部材と異なり、コンクリートの剥離現象を生じさせることがないものである。
【0041】
フック金具40は、ボイドスラブ1を構築するコンクリート型枠4に対し、下部鉄筋枠組2を結合するためのものである。フック金具40の実施形態は、図5に示すように、略中央部でネジ軸41と金具軸42とに区分されており、金具軸42の先端が正面視逆U字状の鉄筋係合部43に形成され、該鉄筋係合部43の入口部分に鉄筋の嵌合を補助するガイド部44が形成されている。なお、鉄筋係合部43の開口45は奥部よりも若干狭く形成されていて、鉄筋係合部43内に係合された鉄筋が抜け難いようになっている。また、ネジ軸41と金具軸42の区分箇所に、断面V字状のV字切込み46を円周方向に形成すると共に、ネジ軸41の先端に回転工具が装着できる二面角部47を形成している。図中、48はネジ軸41にねじ結合するナットである。
【0042】
フック金具40は、鉄筋係合部43を下部鉄筋枠組2の鉄筋に係合してネジ軸41の先端をコンクリート型枠4から突出し、該ネジ軸41にナット48をねじ結合して当該コンクリート型枠4に下部鉄筋枠組2を固定するものである。鉄筋係合部43は開口45が奥部よりも若干狭く形成されているから、係合された鉄筋は容易に抜け出ないようになっている。また、コンクリートが打設され、コンクリートが硬化した後は、ネジ軸41と金具軸42を分断する。フック金具40の分断は、コンクリート型枠4から突出している二面角部47に回転工具を装着してネジ軸41を回転する。この時、金具軸42は鉄筋に係合されて回転不可となっているから、ネジ軸41の回転によってV字切込み46が破壊し、該V字切込み46から両者が分断されることになる。なお、V字切込み46は、打設されたコンクリートの内部に残るから、ネジ軸41を除去した後のコンクリート穴にはモルタル等を充填しておく。
【0043】
次に、ボイドスラブを構築する作業手順を説明する。図1に示すボイドスラブ1は、これを単位スラブとして使用するものであって、建造するコンクリート構造物、実施形態では床構造であるが、床の大きさに合わせて縦横方向に連続して敷設するものである。
【0044】
図6において、まずコンクリート型枠4に並べたサイコロ状駒体の上に下部鉄筋枠組2を敷設し、次いで該下部鉄筋枠組2をフック金具40によってコンクリート型枠4に固定する(図6A)。実施形態では、フック金具40は、鉄筋係合部43に下部鉄筋枠組2の鉄筋を挿入してネジ軸41の部分をコンクリート型枠4から突出し、突出した部分にナット48をねじ結合している。
【0045】
次いで、下部鉄筋枠組2にボイド部材10を載置する(図6B)。なお、単位スラブとなるボイドスラブ1に設けられるボイド部材10の数は任意であり、また、ボイド部材10を設置する間隔も任意であり、建造するコンクリート構造物の種類により適宜選択されるものとする。
【0046】
次に、下部鉄筋枠組2に載置されたボイド部材10に固定金具20を遊嵌状態で装着して当該固定金具20を下部鉄筋枠組2に結合し、これにより、ボイド部材10が下部鉄筋枠組2に固定される(図6C)。この時、ボイド部材10の頂部と固定金具20との間に浮止め板30を装着する。ここで、ボイド部材10が固定金具20に遊嵌状態で装着したとは、ボイド部材10が固定金具20に対して、左右方向のみならず上下方向にも僅かな隙間が形成されていることであり、これにより、コンクリートの打設時にボイド部材10は、該隙間分だけ浮上し、所定の位置に収まるようになっている。
【0047】
ボイド部材10が下部鉄筋枠組2に固定されたら、ボイド部材10の上方に上部鉄筋枠組3を結合してボイドスラブ1の組立てが完成する(図6D)。
【0048】
次に、図7を参照して、第1の固定金具20を使用してボイド部材10を下部鉄筋枠組2に固定する作業手順の詳細を説明する。ここでは、ボイド固定金具たる第1の固定金具20は、フック部23が一方の脚部材21にのみ形成されているものとする。第1の固定金具20は、ボイド部材10の上方から跨ぐようにして嵌合し、予め形成されているフック部23を下部鉄筋枠組2の鉄筋に結合する。ただし、もう一方の折曲部24は、そのままの状態で鉄筋の下方に挿入する(図7A)。
【0049】
次いで、ボイド部材10の頂部と第1の固定金具20のアーチ部材22との間に浮止め板30を装着する。ここで、浮止め板30が固定爪32を備えていないもの(図4A,C)を使用する時は、浮止め板30の板部分を上部接続部材22の下面に挿入し、係止片31が上部接続部材22に接触した時点で当該係止片31を折り曲げ、浮止め板30を上部接続部材22に結合する(図7B)。また、浮止め板30が固定爪32を備えているもの(図4B,D)を使用する時は、第1の固定金具20を取り付ける前に、浮止め板30を、ボイド部材10に描かれたケガキ線(ボイド部材と固定金具が交差する位置などを示した線)を利用して所定位置に仮固定する。浮止め板30の仮固定は、固定爪32をボイド部材10に軽く打ち込むことで簡単に固定することができる。
【0050】
なお、浮止め板30がリブ33を有するもの(図4C,D)を使用した場合は、コンクリートの打設によってボイド部材10が浮上する際に、当該ボイド部材10の浮上力によって浮止め板30が変形することが防止できる。
【0051】
続いて、下部鉄筋枠組2の鉄筋の下方に差し込まれている折曲部24を折り曲げて鉄筋に係合すれば、第1の固定金具20によるボイド部材10の下部鉄筋枠組2への固定が完了する(図7C)。
【0052】
図8は第2の固定金具200を使用してボイド部材10を下部鉄筋枠組2に固定する手順を説明している。第2の固定金具200は、フック部203の向きが第1の固定金具20と異なるだけであって、ボイド部材10を固定する作業手順は、第1の固定金具20を説明した図7の場合と同じである。
【0053】
図9はボイドスラブの第2の実施形態を示しており、ボイドスラブ100は、ボイド部材10が前後を格子枠組50に組み込まれたものである。格子枠組50は、正面視で下桟51と上桟52を有し、これら下桟51及び上桟52の間に縦桟53を設けており、ボイド部材10は縦桟53の間に嵌合されている。なお、ボイド部材10の頂部と上桟52との接触部に浮止め板30を介在させている。
【0054】
図10において、第2の実施形態によるボイドスラブを構築するが、構築の手順は、図6に示す第1の実施形態の場合と同じである。まず、コンクリート型枠4に下部鉄筋枠組2をフック金具40により結合し、さらに、該下部鉄筋枠組2に格子枠組50を結合する(図10A)。次いで、格子枠組50の縦桟53内にボイド部材10を遊嵌し(図10B)、続いて、ボイド部材10の頂部と格子枠組50の上桟52との間に浮止め板30を装着する(図10C)。ボイド部材10が格子枠組50内に固定されたら、ボイド部材10の上方に上部鉄筋枠組3を結合してボイドスラブ100は完成する(図10D)。
【0055】
なお、第2の実施形態においても、ボイド部材10は、格子枠組50に対して遊嵌状態で装着したものであるから、コンクリート打設時に、当該ボイド部材10は、遊嵌状態によって形成された隙間分だけ浮上し、所定の位置に収まるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るボイドスラブの第1の実施形態を示しており、Aは全体の斜視図、Bは断面図。
【図2】ボイド部材を鉄筋枠組に固定する第1の固定金具を示す斜視図。
【図3】ボイド部材を鉄筋枠組に固定する第2の固定金具を示す斜視図。
【図4】ボイド固定金具に装着する浮止め板を示す斜視図。
【図5】鉄筋枠組をコンクリート型枠に固定するフック金具の正面図。
【図6】第1の実施形態によってボイドスラブを構築する工程図。
【図7】第1の固定金具を使用してボイド部材を鉄筋枠組みに固定する工程図。
【図8】第2の固定金具を使用してボイド部材を鉄筋枠組みに固定する工程図。
【図9】ボイドスラブの第2の実施形態を示しており、Aは全体の斜視図、Bは同断面図。
【図10】第2の実施形態によってボイドスラブを構築する工程図。
【符号の説明】
【0057】
1,100 ボイドスラブ
2 下部鉄筋枠組
3 上部鉄筋枠組
4 コンクリート型枠
10 ボイド部材
20,200 ボイド固定金具
21,201 脚部材
22,202 アーチ部材
23,203 フック部材
24,204 折曲部
30 浮止め板
31 係止片
32 固定爪
33 補強リブ
40 フック金具
41 ネジ軸
42 金具軸
43 鉄筋係合部
44 ガイド部
45 開口
46 V字切込み
47 二面角部
48 ナット
50 格子枠組
51 下桟
52 上桟
53 縦桟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量部材たるボイド部材(10)が、下部鉄筋枠組(2)と上部鉄筋枠組(3)との間に組み込まれると共に、金属線材を正面視逆U字状に形成したボイド固定金具(20,200)により上記下部鉄筋枠組に固定されるものであって、上記下部鉄筋枠組にボイド部材を敷設し、敷設された上記ボイド部材に上記ボイド固定金具を遊嵌状態で装着し、該ボイド固定金具の自由端を上記下部鉄筋枠組に結合して上記ボイド部材を上記下部鉄筋枠組に固定し、上記ボイド固定金具の頂部と上記ボイド部材との間に浮止め板(30)を装着したことを特徴とするコンクリートボイドスラブ。
【請求項2】
軽量部材たるボイド部材(10)が、下部鉄筋枠組(2)と上部鉄筋枠組(3)との間に組み込まれると共に、格子枠組(50)を介して上記下部鉄筋枠組に固定されるものであって、上記格子枠組を上記下部鉄筋枠組に結合し、上記ボイド部材を上記格子枠組に遊嵌状態で装着して当該ボイド部材を上記下部鉄筋枠組に固定し、上記格子枠組の上方に形成された桟と上記ボイド部材との間に浮止め板(30)を装着したことを特徴とするコンクリートボイドスラブ。
【請求項3】
ボイド固定金具(20,200)は、縦方向に延びる脚部材(21,201)とアーチ状に形成されたアーチ部材(22,202)が連続して設けられたものであり、上記脚部材の自由端は、いずれか一方にフック部材(23,203)を曲げ形成したことを特徴とする請求項1に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項4】
第1の固定金具(20)は、脚部材(21)の自由端に設けたフック部材(23)が、アーチ部材(22)の長手方向に対して直交する方向に曲げ形成されており、該フック部材が上記脚部材のいずれか一方にのみ形成されていることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項5】
第2の固定金具(200)は、脚部材(201)の自由端に設けたフック部材(203)がアーチ部材(202)の長手方向に対して平行する方向に曲げ形成されており、該フック部材が上記脚部材のいずれか一方にのみ形成されていることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項6】
ボイド固定金具(20,200)は、脚部材(21,201)の自由端に設けたフック部材(23,203)が、上記いずれの脚部材にも形成されていることを特徴とする請求項3に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項7】
浮止め板(30)は、ボイド固定金具(20,200)に係合する係止片(31)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項8】
浮止め板(30)は、ボイド部材(10)に仮固定する固定爪(32)が設けられていることを特徴とする請求項7に記載のコンクリートボイドスラブ。
【請求項9】
浮止め板(30)は、組立てられたボイド部材(10)の長手方向に対し平行方向にリブ(33)が設けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載のコンクリートボイドスラブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−63736(P2008−63736A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239991(P2006−239991)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(391004322)株式会社ファスナーエンジニアリング (2)
【Fターム(参考)】