説明

コンクリート剥落防止方法

【課題】FRPネットの端末を有効に固定できるコンクリート剥落防止方法を提供すること。
【解決手段】2子の網糸によって無結節状に編網して硬化してなるFRPネットに熱可塑性樹脂製メッシュが固着されてなるネット状物を、固定具とアンカーによりコンクリート面に固定するコンクリート剥落防止方法であって、該固定具は、中央にアンカー用通孔と、該FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部と、該嵌合部の辺壁に対向して設けられた外縁壁と、該辺壁と該外縁壁部との間に設けられ、該2子の網糸を保持するための抱持溝とを有し、該固定具をFRPネットの所定の部位の網目に嵌挿する一方、該アンカー用通孔にアンカーを打設(固定)する、ことを特徴とするコンクリート剥落防止方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製のトンネル、高架車道、橋梁、建築物などのコンクリート構造物におけるコンクリート剥落防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海岸又はその付近にある鉄筋コンクリート構造物が海塩粒子によって塩害を受けたり、海水と接触する鉄筋コンクリート構造物に塩分が侵入したりすることによる鉄筋の腐食、膨張によりそれらの構造物が劣化することや、酸性雨や工場の薬品等コンクリートに有害な物質により表層が脆弱化することなどによるコンクリートの劣化、あるいは、車両通行量の増大、積載量の増大、高速化等による構造物への過負荷などから、コンクリート構造物の表面部分が剥落したり、コンクリート構造物自体が劣化してきていることが大きな問題となっている。
【0003】
その劣化したコンクリートの剥落を防止する工法や、剥落した部分を補修する各種工法やその材料等が種々検討されている(例えば、特許文献1参照)。その中で、予め表面層となる保護層とコンクリート構造物への貼着層とを有する積層体とし、これらの層間に繊維基材からなる補強層を介在させた補修又は補強用メッシュにおいて、繊維基材として、有機繊維や無機繊維等を不織布、織布加工したシート状物を用いたものが、施工の容易化、品質の安定化を図られるとして提案されている(特許文献2参照)。
また、コンクリート塊が剥離して落下するのを防ぐネットとして、金属板の枠体に金網を挟持した剥落防止ネットが提案されている(特許文献3参照)。
さらに、合成繊維網の周囲にロープを挿通し縫製した網体を、支持金具に挿通した連結ワイヤーに、ロープを介して結束して張設する工法(特許文献4参照)が提案されている。
【0004】
さらにまた、上記問題に鑑み、軽量で鉄筋同様の補強効果があり腐食も少ないFRP格子筋をアンカーボルト、接着樹脂等でコンクリート構造物に取付ける方法も提案されており、さらにその改良された取付け方法が提案されている(特許文献5)。
【0005】
一方、本出願人は、各種土木工事において内部に石塊等を中詰めして用いる、ふとん篭、じゃ篭等の篭マットのメッシュ体として、未硬化状熱硬化性樹脂が含浸された長繊維の外周を、固化した熱可塑性樹脂によって被覆した、長尺状の繊維強化合成樹脂製線状物の中間体(未硬化状物)を用いて、任意の目合いを有するメッシュ体(網状体)を作製し、このメッシュ体を加熱硬化させたものを提案している(特許文献6参照)。このメッシュ体によれば、従来の金属線による欠点を克服できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−269087号公報
【特許文献2】特開2002−256707号公報
【特許文献3】実用新案登録第3068973号公報
【特許文献4】特開2005−179938号公報
【特許文献5】特開2006−9266号公報
【特許文献6】特開2003−184048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の補修方法は、下地ケレン、プライマー処理、不陸修正、接着剤塗布、強化繊維シートの含浸接着、上塗りと多くの工程がかかり、工期、工事費が嵩む等の問題点がある。特許文献2は、シート化することで強化繊維シートの含浸接着工程を省くこととしているが、トンネル目地部や漏水のある場合に施工の際、以下の欠点を有する。
すなわち、トンネルの覆工コンクリート壁の目地など、コンクリート構造物の緩衝機能を持つ目地部近傍において、ひび割れ、あるいは目地部からの漏水が発生することがある。この場合、目地部を跨いで剥離・剥落を防止するための補修、あるいは導水樋を設けて漏水を防止するための補修を施す必要がある。
この補修工法の1つとして、従来工法のシート接着工法を適用する場合、従来は健全層を含めた補修対象としている範囲全面にシートを接着するようにして貼り付けている。すなわち、シートの貼り付け範囲全面に接着材となるプライマー類を塗布した後、その上にシートを貼り付け、シートの非接着部分が無いように仕上げている。
しかし、このような全面接着による方法では、次のような問題が生じる。すなわち、シートの貼り付け範囲に目地部を境として異なった挙動をする構造物部分が含まれることから、貼り付け後にシートがそのような挙動に追従できず、剥がれや破断が生じることが想定され、所期の補修性能の維持・耐久性の確保が困難である。また、シート接着以外の板状の部材を固着する方法でも同様の問題が生じる。
そこで、目地部における構造物部分の異なった挙動に追従させることを可能とし、シートの剥がれや破断を防止して、所期の補修性能を維持するとともに耐久性を確保することができるコンクリート構造物の目地部周辺の補修方法として目地部を跨ぐようにコンクリート構造物にシートを貼り付けて補修する方法が行われているが、この工法は手間が係り作業時間が多くかかる。
【0008】
また、特許文献3に記載の剥落防止ネットは、金属製であり錆びの発生の問題があること、四角平面状であるため、曲面を有するコンクリート構造物には使用し難いこと、金属枠ユニットであるため、固定に際して、取付け孔と固定部位との自由度が少ないことなどの問題がある。
さらに、特許文献4の網体の張設工法は、道路高架橋下面のコンクリート片剥落物の防止を対象とするものであって、トンネル上面や壁面などには適用できない。
また、特許文献5に記載のFRP格子筋は、補強筋が互いに30〜150mm離間して格子状に配置され、幅が3〜10mm、厚さが1〜5mmで、面状の剛性を有する比較的剛直なものであるため、段差のある部分に張設するには適していない。また、重量も比較的重く、高価であり、作業性に課題が残る。
【0009】
以上述べたように、従来のコンクリート構造物の剥落防止用ネットにおいては、軽量性、作業性、不陸部の段差や湧水部での施工性、及び価格等に問題がある。
一方、軽量性や耐腐食性、取扱い及び作業の優位性から篭マット等に使用されている特許文献6に記載のFRPのネット体は、FRP筋及び鋼線等の剛直線と柔軟性を有するナイロン網体との中間的剛性を有しており、上述した問題に対して好適に施工できる。つまり、コンクリート片の落下に対する変位を抑え、FRP筋と同程度のアンカー設置本数で、目地部を跨ぐ施工が容易なネットである。
しかしながら、当該FRPネットは無結状に編まれていることから、(i)その端部で従来のアンカーで施工すると載荷時にネットの網糸がほぐれ本来の強度を発現しない恐れがある。その為、少なくとも最端部から1網目内側に、さらにネット強度をより確実に確保するためには、2網目内側にアンカーを固定しなければならない。(ii)施工上FRPネットの継ぎ目部が必然的に生じるが、図15に示すように2網目内側にアンカー施工し、つなぎ部でネットを突合せで施工すると、2枚のFRPネット間の繋ぎゾーンT2では、FRPネット端部が片持ち状態となり、当該FRPネットは、剥落コンクリート片を保持出来るほどの十分な面状剛性を有していないので、その間でコンクリート小片が落下する可能性がある。また、片持ち状態をなくすため、重ね合わせで固定することで解決しようとすると、重ね部はFRPネットを二重に押さえる必要があり、かつ、的確にアンカー施工するためには煩雑にならざるを得ない。また、FRPネットの網糸の端部を的確に端末加工して、網糸がほぐれないようにして、最末端の網目で固定することも考えられるが、端末加工のためにFRPネットのコストが上昇し、実用的でない。
このような事情から、FRPネットの端末の網目で有効に固定できるコンクリート剥落防止方法が求められていた。
【0010】
そこで、本発明では、無結節状に編網して硬化してなるFRPネットを主体とし、これと熱可塑性樹脂製メッシュとからなるネット状物を、ネット端部で有効にコンクリート面に固定できるコンクリート剥落防止方法を鋭意検討した結果、中央にアンカー用通孔と、該FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部と、該嵌合部の辺壁に対向して設けられた外縁壁と、該辺壁と該外縁壁部との間に設けられ、2子の網糸を保持するための抱持溝とを有する固定具を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)2子の網糸によって無結節状に編網して硬化してなるFRPネットに熱可塑性樹脂製メッシュが固着されてなるネット状物を、固定具とアンカーによりコンクリート面に固定するコンクリート剥落防止方法であって、
(i)該FRPネットは、正方形に編網された網目(目合い)が30〜150mmの無結節網であり、
(ii)該熱可塑性樹脂製メッシュは、該FRPネットのコンクリート構造物側となる面に固着され、該FRPネットの網目(目合い)の1/3以下で、かつ1〜30mmの正方形の網目(目合い)を有し、
(iii)該固定具は、中央にアンカー用通孔と、
該FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部と、
該嵌合部の辺壁に対向して設けられた外縁壁と、
該辺壁と該外縁壁部との間に設けられ、該2子の網糸を保持するための抱持溝とを有し、
(iv)該固定具をFRPネットの所定の部位の網目に嵌挿する一方、該アンカー用通孔にアンカーを打設(固定)する、
ことを特徴とするコンクリート剥落防止方法、及び
(2)前記FRPネット端部におけるFRPネットの固定は、端部において10mm乃至網目の1/2の長さの余長を有する網目最端部において、前記固定具とアンカーにより所定の間隔で固定する、前記(1)に記載のコンクリート剥落防止方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、2子の網糸によって無結節状に編網して硬化してなるFRPネットを主体とするネット状物の固定に、特定の固定具を用いるので、コンクリートの剥落によるFRPネットへの載荷時に、1つの網糸の交叉部(無結節部)に荷重が集中することなく、網目を構成する網目の少なくとも1辺又は2辺を介して固定具の嵌合部及び/又は外縁壁に負荷されるので、従来の如く、最終的にアンカーピンが1つの網糸の交叉部に集中荷重を与えて、その部分の網糸を解きほぐし、ネット構造が破壊されるか、あるいは、網糸の交叉部で網糸が切断するような現象が防止される。
このため、FRPネットの網目最端部においてコンクリート面に当該固定具を用いてアンカーで固定することにより、有効にコンクリートの剥落を防止できる。
したがって、所定大きさの網目最端部においてFRPネットを固定できるので、FRPネットの施工において、従来において2網目内側に施工する場合に必要とされた、重ね合わせ繋ぎの必要性や、重ね合わせを行わない場合のFRPネット端部が片持ち状態であることによる、コンクリート小片の落下の危惧等の問題が解消される。
本発明のコンクリート剥落防止方法によれば、FRPネット端部の突合せ施工ができるので、施工の簡易化、施工時間の短縮化、FRPネット材料費の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のコンクリート剥落防止方法においてFRPネットの端末側をコンクリート構造物に固定した状態を示す模式図である。
【図2】本発明のコンクリート剥落防止方法において、角目の無結節状に編網されたFRPネットに好ましい実施態様の固定具を被嵌し施工した状態を示し、(A)平面図、(B)X−X'線断面図である。
【図3】本発明のコンクリート剥落防止方法において、角目の無結節状に編網されたFRPネットに好ましい実施態様の固定具を被嵌した状態を示す、(A)下面図、(B)X−X'線断面図、(C)Y−Y'線断面図である。
【図4】本発明の剥落防止法に用いられる他の実施態様の固定具をFRPネットに被嵌し施工した状態を示し、(A)平面図、(B)下面図、(C)X−X'線断面図である。
【図5】実施例に用いた好ましい実施態様の固定具の斜視図である。
【図6】他の態様の固定具の斜視図である。
【図7】本発明の剥落防止法に用いられるネット状物の説明図であり、(A)構成図、(B)部分拡大図である。
【図8】FRPネットの説明図。
【図9】FRPネットを構成する網糸(複合線状物)の構成を示す模式断面図である。
【図10】FRPネットの実物大載荷試験方法の説明図であり、(A)下面図、(B)載荷試験開始時の状態を示す、(C)載荷試験進行中におけるFRPネットの変形状況の説明図である。
【図11】実物大載荷試験における試験例のFRPネットの端末固定方法の説明図である。
【図12】実物大載荷試験における比較試験例のFRPネットの端末固定方法の説明図である。
【図13】実物大載荷試験による実施例2の荷重(kN)−変位(mm)曲線である。
【図14】実物大載荷試験による比較例2の荷重(kN)−変位(mm)曲線である。
【図15】実物大載荷試験による比較例4の荷重(kN)−変位(mm)曲線である。
【図16】本発明に用いられる固定具により、FRPネットの網目の対角線方向に引張り試験する状態の説明図である。
【図17】従来の固定具によりFRPネットの網目の対角線方向に引張り試験する状態の説明図である。
【図18】従来のコンクリート剥落防止方法においてFRPネットの端末側をコンクリート構造物に固定した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、2子の網糸によって無結節状に編網して硬化してなるFRPネットに熱可塑性樹脂製メッシュが固着されてなるネット状物を、特定の固定具とアンカーによりコンクリート面に固定することを特徴としている。本発明のコンクリート剥落防止方法に使用されるネット状物を構成するFRPネットは、正方形に編網された網目(目合い)が30〜150mmの無結節網である。また、熱可塑性樹脂製メッシュは、FRPネットのコンクリート構造物側となる面に固着され、FRPネットの網目(目合い)の1/3以下で、かつ1〜30mmの正方形の網目(目合い)を有している。
また、固定具は、中央にアンカー用通孔と、FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部と、嵌合部の辺壁に対向して設けられた外縁壁と、辺壁と外縁壁部との間に設けられ、2子の網糸を保持するための抱持溝とを有している。
さらに、該固定具とアンカーによって、コンクリート面に固定するには、図1に示すようにFRPネット20の所定の部位の網目に当該固定具1を嵌挿し、該固定具のアンカー用通孔にアンカー8を打設(固定)すれば良い。
以下、本発明のコンクリート剥落防止方法について詳細に説明する。
【0016】
〔ネット状物〕
図7は、本発明のコンクリート剥落防止方法に使用されるネット状物を示し、該ネット状物はFRPネット20と熱可塑性樹脂製メッシュ30から成っている。FRPネットと熱可塑性樹脂製メッシュ(以下、単に「メッシュ」ということがある。)30とは相互に固着されている。固着の手段は特に限定されず、当該FRPネットとメッシュとが、拡大して示す図7(B)において、例えば網糸の連接部(交絡部)25で接着剤や熱融着等で接着させたり、適宜間隔で、結束ファスナーや細紐等で固定する方法等であってもよい。メッシュは、通常、強度がFRPネットよりも低いため、実際の施工に際しては、FRPネットとコンクリート面との間に介在させて施工されるので、FRPネットの全面に固着されている必要はなく、施工時の取扱いが容易な程度に固着されていればよい。
【0017】
〔FRPネット〕
本発明のコンクリート剥落防止方法に使用されるFRPネットは、図8に示すように網糸21が交差する連設部25において、結節のない無結節状に編網する必要上、網糸21'が柔軟性を有している未硬化状で編網し、編網後に硬化したものである。
図9は、本発明に係るFRPネット20を構成する硬化後の複合線状物(以下、単に「複合線状物」という。)の断面模式図である。図9の符号21は、繊維強化合成樹脂から成る複合線状物を示している。該複合線状物21は、長繊維22と、必要に応じて配合する増粘剤と浸透増粘割とを含む場合がある未硬化状熱硬化性樹脂23'と、固化された熱可塑性樹脂24と、からなる未硬化状複合線状物21'を、熱硬化処理したものである。長繊維22には、未硬化状熱硬化性樹脂23'が含浸されており、その外周を熱可塑性樹脂24で被覆されている。
FRPネット20は、例えば、未硬化状熱硬化性樹脂23'に必要に応じて増粘剤と浸透増粘剤とを含有させる工程と、長繊維22を未硬化状熱硬化性樹脂23'に含浸させる工程と、この含浸された長繊維22の外周を熱可塑性樹脂24によって被覆して未硬化状複合線状物21'とし、これをボビン等に巻取る工程と、巻取られた未硬化状複合線状物21'を用いて無結節網を編網し、未硬化状複合線状物21'の未硬化状熱硬化性樹脂を熱硬化処理する工程と、を少なくとも経て、硬化した複合線状物21とすることで、所定形状、物性を備えたFRPネット20とすることができる。
複合線状物21の外径は、1.5〜5mmであることが好ましく、1.8〜2.5mmであることがさらに好ましい。1.5mm未満では、コンクリート剥落防止用ネットとしての十分な抗張力が得られず、5mmを超えると、編網がし難くなり、得られるFRPネット20も柔軟性に欠け、かつ重量も増して、施工性の問題が生じる。
また、前記FRPネット20を構成する複合線状物21の破断荷重(引張耐力)が、400N以上であることがコンクリート剥落防止用ネットとしての性能上好ましく、500N以上であることが更に好ましく、600N以上であることが特に好ましい。
【0018】
本発明のFRPネットに係る複合線状物21において、未硬化状複合線状物21'が加熱処理される際には、未硬化状熱硬化性樹脂23'は高粘度であるとともに、ゲル化しないことが望ましい。未硬化状硬化性樹脂23'がゲル化してしまうことで、時間が経過するにつれて物性が変化しやすくなる。
【0019】
本発明において用いられる補強繊維としての長繊維22の種類については、特に限定されず、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維等の合成樹脂繊維、ガラス繊維等の無機繊維、金属繊維等を用いることができるが、好適には、合成樹脂繊維であることが望ましく、より好適には、ポリエステル長繊維であることが望ましい。
【0020】
また、長繊維22の繊度についても特に限定されず、使用目的や加工容易性等を考慮して、適宜選択することができる。また、複合線状物21におけるFRP部の繊維の体積含有率も特に限定されないが、概ね30〜70Vol.%である。なお、補強繊維としての長繊維の体積含有率は、ネットの使用目的(剥落防止用ネットの使用部位)による所望の物性を考慮して、適宜選択することができる。
【0021】
本発明において用いられる(未硬化状)熱硬化性樹脂23'については、加熱により硬化するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、硬化後の性能安定性に優れた不飽和ポリエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂、エポキシ樹脂等が望ましく、より好適には架橋性物質を含有することが望ましく、更に好適には、不飽和ポリエステル樹脂、不飽和アルキド樹脂、またはエポキシアタリレートの少なくともいずれかと、架橋性モノマー等の架橋性物質と、ジアシルパーオキサイド等の重合開始剤と、を含有することが望ましい。かかる配合とすることで、熱加工処理時の熱等によって重合反応を促進させることができる。
【0022】
本発明において用いられる被覆用の熱可塑性樹脂24の種類については、特に限定されないが、柔軟性に優れた物質であることが望ましく、好適には、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。また、未硬化状熱硬化性樹脂23'に架橋性物質を含有させている場合には、架橋性物質等によって侵食されにくい性質を持つものが望ましい。更に好適には、磨耗しにくい物質を用いることでFRPネットの耐久性を向上させることができる。また、本発明において、長繊維22、未硬化状熱可塑性樹脂23'、熱可塑性樹脂24との組合せについても特に限定されない。
【0023】
図8は、前記複合線状物を用いたFRPネット20を示す。同図に示すFRPネット20は、連接部25に結び目のない無結節網である。未硬化状複合線状物21'からなる網糸を2子糸として、無結節網を編網すれば、網目が正確で、連接部25が平面的であり、コンクリート剥落防止用ネットとして、コンクリート構造体の表面に取付けても平面的で見栄えがよい。
無結節網には、2子の網糸の子糸を互いに交叉させ、網糸が連接部を貫通して直線状に伸びる貫通型(普通型)、2子の網糸の子糸を2〜3回交叉させ、網糸がジグザグに伸びる千鳥型、2子の網糸の子糸を3〜4回交叉させ網糸は連接部を経て直線的に伸び、網目を開いたときの形が六角形になる亀甲型が挙げられるが、特に、軽量で網目が一定であることから、正方形に編網された貫通型(普通型)無結節ネットとすることが好ましい。
【0024】
編網機により無結節網を作製した段階では、網目は、菱目状や角目状に開くことが可能であるが、本願に使用するFRPネット20は、編網後角目状に開いた状態で真空釜中に供給して、未硬化状熱硬化性樹脂の硬化と角目状ネット形態の熱セット(固定)を行う。
【0025】
本発明に用いるFRPネット20の目合いに関し、本発明では、網目を構成する対向する網糸で構成される間の距離を目合いと定義し、開口部の距離Wを網目と定義する。FRPネットの網目W(26)は、30〜150mmの大きさであることを要し、網目は、この範囲において、複合線状物21の強度、組み合わせて使用するメッシュ30の強度等と勘案して決定されるが、外径2.1mmの複合線状物21を用いる場合は、50mm角目が、FRPネット20の柔軟性とのバランス等から特に好ましい。
また、FRPネットの幅は、原反とするFRPネットが編網機との関係で決定され、最大4m、FRPネットの長さは18m程度なので、それらを上限として、対象となるコンクリート剥落防止箇所の工事方法等に対応して、適宜の幅や長さとして供給することができる。
【0026】
〔熱可塑性樹脂製メッシュ〕
本発明のコンクリート剥落防止方法に用いる熱可塑性樹脂製メッシュは、網目がFRPネットと同様に正方形の角目に編網されたもので、網目がFRPネットの1/3以下で、かつ1〜30mmであることが好ましく、1〜20mmであることがさらに好ましく、2〜10mmであることが特に好ましい。目合いが1mm未満では、剥落した小片で目詰まりが生じ、透水不良となる危惧がありコンクリートの新たなひび割れ等が発見しにくくなり、30mmを超えると、剥落片を有効に捕捉できない。
メッシュの熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ビニロン、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド、塩化ビニル、アクリル等が挙げられる。熱可塑性樹脂製ネット状物として具体的には、ポリエステルネット、ビニロン繊維ネット、ナイロン繊維ネット、ポリオレフィンヤーンネット等が挙げられる。
【0027】
また、(a)ポリオレフィン系樹脂からなる芯成分と(b)前記芯成分の融点よりも20℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなる鞘成分とからなる鞘芯型複合繊維の鞘成分を融合させた、海島型複合糸を織網してなる二軸メッシュ状物(宇部日東化成(株)製、商品名「シムメッシュ」)であってもよい。この二軸メッシュ状物は、海島型複合糸が扁平であるため、これをボビン等に巻取る過程や、織りの工程で自然撚りが加わり、部分的に捩れた部分が存在することは避けられないが、ほぼ扁平状の経糸及び緯糸からなる平織の二軸メッシュ状物である。
海島型複合糸の繊度は、二軸メッシュ状物への織網のし易さと、メッシュ状物の強度の観点から、1000〜2000dtex、好ましくは1500〜2000dtex、より好ましくは1700〜1900dtexとすることが望ましい。また、海島型複合糸からなる経糸及び緯糸の交点を熱融着したものが、目ずれがなく、好適である。
【0028】
〔FRPネットと熱可塑性樹脂製メッシュの固着〕
本発明のコンクリート剥落防止方法では、ネット状物として、図7(B)に1つの網目を拡大して示すように、FRPネット20とメッシュ30とが、例えば、FRPネット20の連接部25のメッシュ30との接触側等において固着されていることを要する。固着する目的は、先ずFRPネット20と二軸メッシュ状物30とを一体とすることによって、製造後、保管時、施工時の取扱い性を向上させると同時に、FRPネット20の開口部26を覆うメッシュ30に万一コンクリートの剥落が生じた場合に、コンクリート剥落片による荷重を、FRPネット20を構成する当該負荷部近傍の網目の複合線状物21を介してFRPネット20に負荷し、さらにその負荷を、FRPネット20を固定する部材を介してコンクリート構造体に分担させることが出来、当該負荷部のメッシュ30が、FRPネット20の網目(開口部)26から膨出したりするのを極力抑制するためである。
具体的な固着の手段としては、既に述べたように、例えば網糸の連接部(交絡部)25で接着剤や熱融着等で接着させたり、適宜間隔で、結束ファスナーや細紐等で固定する方法等であってもよい。メッシュは、通常、強度がFRPネットよりも低いので、実際の施工に際しては、FRPネットとコンクリート面との間に介在させて施工されるので、FRPネットの全面に固着されている必要はなく、施工時の取扱いが容易な程度に固着されていればよい。
【0029】
なお、前記の二軸メッシュ状物を用いる場合は固着の手段として、熱融着が簡便である。FRPネット20を構成する複合線状物21は、熱可塑性樹脂被覆24を有しているので、当該熱可塑性樹脂被覆24を、二軸メッシュ状物30を構成する海島型複合糸の海成分のポリオレフィン系樹脂と熱融着可能なものを選択し、FRPネット20と二軸メッシュ状物30を重ねて、融点近傍の温度に加熱された熱ローラー間に通す方法等で熱融着することができる。
この方法によるときは、接着剤による方法と比較して、接着剤が不要で、塗布や硬化の装置や手間が要らず、経済的にも有利である。
【0030】
本発明のコンクリート剥落防止方法に使用するネット状物は、FRPネットの製造段階、二軸メッシュ状物等メッシュの製造段階、あるいはこれらを複合した後に、必要に応じて適宜各種処理を施しても良い。
例えば酸化防止処理、耐候性処理、抗菌処理、難燃処理、帯電防止処理、表面凹凸処理、酸化処理、微粒子付与処理、撥水処理、撥油処理、吸着処理、多孔質処理、蓄光・蛍光処理等を施すことができる。表面凹凸処理としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。また、密着性向上処理としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理が上げられる。
難燃処理としては、非ハロゲン系難燃剤や、臭素系化合物などで処理するものが挙げられ、具体的には、芳香族系臭素化合物、脂環族系臭素化合物、脂肪族系臭素化合物や、無機金属水酸化物、無機金属酸化物、無機金属炭酸塩、ホウ酸系化合物、硫黄系化合物、リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、(イソ)シアヌル酸誘導体化合物、シアナミド化合物、尿素系化合物などを含有する薬剤が挙げられる。
【0031】
〔固定具〕
本発明のコンクリート剥落防止方法に用いる固定具は、図5にその1態様を示すように中央にアンカー用通孔2と、FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部3と、該嵌合部3の辺壁4に対向して設けられた外縁壁5と、該辺壁4と該外縁壁部5との間に設けられ、該2子の網糸を保持するための抱持溝6とを有している。嵌合部3は、ネット状物の端末でコンクリート構造物に固定する用途の場合は、1網目に被嵌可能な嵌合部を有していればよいが、比較的大きなネット状物の中央部分等を固定する場合には、5網目に
被嵌可能な5つの嵌合部を有する構造としてもよく、嵌合部の数は特に限定されない。
嵌合部の形状は、FRPネットの網目の形状に近似した外形であることが、当該FRPネットへの被嵌のし易さ等の観点から望ましく、辺壁の角部はアール加工や、面取り加工等が施されていてもよい。
図6おいては、嵌合部3は正方形で、4つの外縁壁部5と4つの抱持溝6、及び島部7を有している。抱持溝6の断面寸法は、少なくとも2子の網糸が収納可能な寸法が必要であり、概ね、FRPネットの網糸21の外径の2倍程度が好ましい。
【0032】
また、通常、角目状無結節ネットは、連接部では、交差する子糸同士の絡み合いから、膨れた状態となるので、嵌合部3の辺壁4及び外縁壁5の抱持溝6に面する側は、図3(A)、図4(B)に示すように、面取り(カット加工)しておくことが望ましい。このような加工を施しておけば、連接部も含めて、無理なくネットに被嵌することができる。また、図5の固定具11では、4個の外縁壁5を有しているが、外縁壁は必ずしも、全ての辺壁4に対向して存在する必要はなく、FRPネットの網糸21に荷重が負荷される可能性の高い部位に存在すればよい。しかしながら、特定の位置のみに外縁壁を設けると、コンクリート剥落防止工事の施工時に、固定具の取付け方向が規定されるので、実際の施工時に、取付け方向の確認が煩雑であったりするので、全辺壁に対応して、同数の外縁壁を有することが好ましい。
【0033】
図6は、本発明に用いられる他の態様の固定具12の斜視図である。
図5に示す固定具11と比較して、交叉する抱持溝6の外方に4つの島部7を有している点に特徴がある。島部の大きさは外縁壁の厚みに対応して決定されるが、固定具に用いられる材質と、想定されるネット状物に対する負荷に応じて決定される。このような島部は、固定具の材質として、例えば、金属、FRPなどの高い破壊強度を有するものを選択した場合において、特に有効である。
また、アンカーの頭部と当接する固定具の上部には、例えば図4(C)に示すように、当該アンカーの頭部が上部に突き出ないように収納可能な深さの凹部(座繰り孔)を設けると、剥落防止工事後の仕上がりを美麗にできるという効果を奏する。
【0034】
固定具1の材料としては、エンジニアリングプラスチック、鋼板、ステンレススチール、チタン、真鍮、又はアルミニウム等を挙げることができる。施工後の耐久性から、耐錆性、耐腐蝕性、耐候性、耐水性、耐廃棄ガス性等を有し、必要な強度を有する材質から選択される。固定具を製造するための加工は、板状材を切削加工したり、薄板材をプレス加工したり、金属材料を鋳型加工したり、エンジニアリングプラスチック材料を射出成形したりする方法が挙げられるが、特に製造方法は、限定されない。
これらの固定具の材質乃至製造(加工)方法のうち、エンジニアリングプラスチックを射出成形して形成することが、加工コストの点から好ましい。
さらに、エンジニアリングプラスチックとしては、ABS(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂)、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PA(ポリアミド樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、AAS(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート樹脂)、ACS(塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン樹脂)、AES(アクリロニトリル−エチレン−スチレン樹脂)から選ばれる1種又はそれらの混合物が、物性及び加工のし易さの点から特に好ましい。
【0035】
本発明のコンクリート剥落防止方法では、前記のFRPネットの所定の部位の網目に固定具を嵌挿する一方、固定具のアンカー用通孔にアンカーを打設(固定)するものである。
固定具を嵌挿するFRPネット状物の所定の部位とは、例えば、工事標準で規定された間隔等に対応する部位の網目や、FRPネット端部近傍の当該FRPネット及び熱可塑性樹脂メッシュを固定するための網目を言う。
FRPネットの所定の部位におけるネット状物の固定は、FRPネットの端部においては、10mm乃至網目の1/2の長さの余長を有する網目最端部において、前記固定具とアンカーにより所定の間隔で固定することが、定尺のネット状物を、全面に貼り合わせ施工する場合に、ネット状物間で、固定されてない部分の面積(図18のT2)を少なくできるので特に好ましい。
【0036】
〔アンカー〕
本発明で使用できるアンカーは、特に限定されず種々のものが使用されるが、例えば、図2(B)に示すように、アンカー8の割れている足先Cが、打ち込んだ時に拡開する拡張式アンカーボルトが一般的に使用される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(未硬化状網糸の製造)
製造例1
1100dtex/本を13本無撚合糸した14300総dtexのポリエステル長繊維(東洋紡績(株)製、商品名「E1100T190−H02」)に、不飽和ポリエステル樹脂(日本ユピカ(株)製、商品名「ユピカ9001」)を未硬化状熱硬化性樹脂として含浸させ、外径1.05mmに絞り成形した未硬化状物とし、引き続いてこの未硬化状物を溶融押出機のヘッド部に導いて、その外周をポリエチレン系熱可塑性樹脂(日本ユニカー社製、商品名「NUCG5350」)で環状に被覆して、水冷却槽に導いて、熱可塑性樹脂被覆層を冷却固化して、未硬化状網糸(複合線状物)をボビンに巻き取った。得られた未硬化状複合線状物の直径は2.11mmであった。
【0039】
〔FRPネットの製造例〕
製造例1で得られた未硬化状複合線状物〔製造後24℃で保管し、1日(24時間)経過したもの〕を用い、目合い50mmの無結節網を編網し、次いでこれを、50mmの角目状になるように両端を緊張して100〜120℃の真空釜で硬化しつつ熱セットして、FRPネットを得た。
得られたFRPネットは、単位重量が640g/m2で、見かけ厚みが4.8mmのものであった。
なお、FRPネットを構成する複合線状物は、FRPネットからほぐしてサンプルを測定したところ、外径2.11mm、単位重量4g/m、破断荷重1080Nであった。
【0040】
〔海島型複合糸の製造例〕
芯成分にアイソタクチックポリプロピレン(mp=163℃)、鞘成分にメタロセン触媒による直鎖状低密度ポリエチレン(mp=110℃)を使用し、定法の複合紡糸設備、芯鞘型複合紡糸ノズル(240ホール)を用い、鞘/芯断面比が35/65となるように260℃で紡糸し、直結する延伸装置に導いて、0.42MPa、145℃の飽和水蒸気圧下で、延伸倍率13倍で延伸を行い、延伸と共に鞘成分で繊維間を融合したトータル繊度1850dtex、フィラメント数240本の、芯成分のポリプロピレンを島成分、鞘の直鎖状低密度ポリエチレンを海成分とする海島型複合糸を得た(スピンドロー方式)。この海島型複合糸は、延伸をローラー間で行っているので、240本の繊維が集束された形態であって、糸は扁平状を呈していた。
この有機繊維強化熱可塑性樹脂複合材である海島型複合糸の引張強度は、6.5cN/dtex、伸度は、15%、ヤング率は、92.0cN/dtex、140℃で測定した熱収縮率は、6.8%であった。
【0041】
〔二軸メッシュ状物の製造例〕
得られた海島型複合糸を、織機を用いて、経,緯糸の打ち込みを、それぞれ糸の中心距離が3mmとなるようにして(打ち込み密度:7〜9本/2.5cm)で平織の二軸メッシュ状物を得た。この平織り二軸メッシュ状物を表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して複合糸の海部樹脂を溶融し経緯の海島型複合糸が熱融着した二軸メッシュ状物を得た。熱融着後得られたメッショ状物は、目合いは、3mmであり、約2mm角の開口部を有し、交点は熱融着しており、目ずれがすることはなかった。なお、JIS規格 R3420: ガラス繊維一般試験方法7.4に準じて測定した、交点の接着強力は、7.3N/50mmであった。
【0042】
〔ネット状物の製造例〕
前記により得られたFRPネットの上面と、上記二軸メッシュ状物の下面とをそれぞれ表面温度150℃の加熱ローラーで接触加熱して、FRPネットの複合線状物被覆部樹脂の表面と、二軸メッシュ状物の海島型複合糸の海部樹脂の表面部分をそれぞれ溶融し、これらを重ね合わせて、加圧ローラーに通して、FRPネットと二軸メッシュ状物とを熱融着して、コンクリート剥落防止用ネットを得た。
熱融着は、FRPネットの連接部(網糸の交叉部)において行われていた。
【0043】
(ネット状物の剛軟性測定)
4網目が含むようにして長さ24cm×幅5.5cmのサンプルを準備し、(A)表面及び(B)裏面の状態でJIS L 1096のカンチレバー法に準じて、剛軟性をたわみ量により測定した。先端に24gの負荷を与えた場合の先端たわみ量が、メッシュ状物を上面として測定した場合5.5mm、メッシュ状物を下面とした場合のたわみ量が7.8mmで、メッシュ状物を上面とした方が、たわみ量が少ない結果が得られた。これは、曲げ荷重に対する引張り応力作用面がメッシュ状物の面となって、FRPネットに対する補強効果が発現されているためと考えられる。
コンクリート剥落防止ネットとして、実際に施工する場合も、その使用態様からコンクリート構造物側にメッシュ状物を介在させる方向で準備(仮設)して、コンクリート構造物に固定するので、よりたわみの少ない状態は、好都合で、作業の効率化が図られる。
【0044】
(ネット状物の実物大載荷試験)
上記で得られたネット状物について、本発明で特定する固定具及び従来の固定具を用いて、ネット状物におけるFRPネットの端末近傍での固定部位と荷重及び変位量の関係を測定した。
実物大載荷試験は、図10(A)の下面図に示すように、コンクリート平板40の中央に長方形の孔を設け、ネット状物の有効な網目によるFRPネットの大きさを、孔の長手方向に650mm(13網目)、該長手方向と直交する方向に600mm(12網目)として、固定具の種類及び固定位置を変化させて試験を行った。
固定具として実施例では、中央部に直径6mmの通孔2、及び40×40mmで高さ5mmの嵌合部3、4周に5×40mmで高さ5mmの4つの外縁壁5と、幅10mmで深さ5mmの抱持溝6を有し、70×70mmで全体厚みが10mmの大きさで、図5に示す斜視図状のものを用いた。また、アンカーは直径6mmのものを用いた。
比較例では、直径70mmの円板状座金と直径6mmのアンカーを用いて、図9(A)の如く4点で固定した。載荷は、幅100mm×長さ700mmのH型鋼により、速度50mm/分で載荷し、荷重(kN)−変位(mm)曲線を記録した。なお、固定具の位置関係について、実施例1及び2については、図11(A)、(B)に、比較試験例1〜4については、図12(A)〜(D)に示す。なお、図11及び図12において熱可塑性メッシュ30の図示を省略している。
【0045】
実施例1、2及び比較例1〜4
(ネット状物の実物大載荷試験結果)
表1に、実施例と比較例の結果をまとめて示す。また、実施例2、比較例2、及び比較例4の実物大載荷試験における荷重−変位曲線を図13〜15示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように本発明のコンクリート剥落防止方法の実施例1、2では、比較例1,2と比較して、同一耳長さでも最大荷重において、実施例が1.9倍〜1.5倍高い荷重を示している。また、実施例では、最大荷重時変位も比較例1、2より大きく、コンクリート剥落片の捕捉能力が高いことが明確に示唆される。一方、固定網目位置を最端部から2つ目の網目にずらした比較例3及び4では、最大荷重及び最大荷重時変位が増加しているが、これは、アンカーによる把持点に対して先端部までの余長(耳長さ及び網目を含む)が長くなるため、2子の網糸が解きほぐれるのに、比較例1や2より大きな荷重が必要となるためである。このように、固定網目位置を内側にずらせば、高い最大荷重は確保できるが、具体的にこのような施工を行えば、図18に示すように
2つのネット状物におけるFRPネットの繋ぎ部分T2において、FRPネット或いはネット状物の最先端が拘束されていない片持ち状態となって、例えば、比較例4では150mmの繋ぎ部分(剥落防止機能の空白部)が生じ、この部分を素抜けるコンクリート片の落下を防止することができない。
一方、実施例1では、図1に示す繋ぎ部分T1を20mm、実施例2では50mmとできるので、比較例と比較して、剥落防止機能の空白部を極端に少なくすることができる。また、完全にコンクリート剥落片の落下を防止するためには、繋ぎ部では、大きな荷重は負荷されないので、熱可塑性樹脂製メッシュのみを施工してもよい。
【0048】
実施例3、比較例5〜6
(ネット状物におけるFRPネットの網目の対角線方向への張り試験)
固定されたネット状物のFRPネットには、コンクリート剥落の発生箇所によって、種々の方向の引張力が作用するので、本発明の剥落防止方法に使用する固定具(実施例1と同じ物)と従来からの固定具を使用し、固定位置を変化させて、ネット状部におけるFRPネットの対角線方向の引張り力を加えた場合の最大荷重を測定した。
【0049】
製造例で得られたネット状物において、正方形に編網されたFRPネット〔50mm目合い(網目45mm)〕を図16及び図17に示すように、縦300mm、横300mm(6網目)で裁断し、このネット状物を、厚み5mmの鋼板により作成した上下の把持具に所定の固定具を用いて、当該固定具の通孔をネジで固定した。なお、図16及び図17において熱可塑性メッシュ30の図示を省略している。
引張り試験は、万能型引張り試験機(オリエンテック社製:TENSILON万能試験機RTA−100)にて、速度50mm/分で行った。
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
網目の対角線方向への張り試験の結果より、引張応力は、網目の対角交点に作用し、余長の長さにより2子の網糸の解きほぐれの抵抗が変わるため、最大引張強力に影響を及ぼすことが確認された。
従来の固定具を用いた比較例5では、最端の網目で固定すると0.39kNと本来の網糸の強力の30%程度しか発現しない。一方、比較例6に示すように、最端から2つ目の網目で固定すれば、引張強力は増すが、前述同様、繋ぎ部が広くなるのを避けられず、剥落防止機能の空白部が生じる。
一方、本発明に用いる固定具を用いた実施例3では、最端網目で固定しても、1.27kNの引張強力が得られ、従来の固定具を用いて最短から2つ目の編み目で固定した比較例6と同等程度のであり、網糸と同等以上の引張強力を発現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のコンクリート剥落防止方法は、FRPネットの網目最端部においてコンクリート面に固定具を用いてアンカーで固定することにより、有効にコンクリートの剥落を防止でき、従来における2網目内側に施工する場合に必要とされた重ね合わせ繋ぎや、重ね合わせを行わない場合のFRPネット端部におけるコンクリート小片の落下の危惧等の問題が解消できる、改良されたコンクリート剥落防止方法として有効に利用できる。
本発明のコンクリート剥落防止方法では、FRPネット端部の突合せ施工ができるので、施工の簡易化、施工時間の短縮化、FRPネット材料費の削減を図ることができるコンクリート剥落防止方法として有効に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 固定具
2 通孔
3 嵌合部
4 辺壁
5 外縁壁
6 抱持溝
7 島部
8 アンカー
9 座繰り孔
10 ネット状物
11、12、50 固定具
20 FRPネット
21 網糸(複合線状物)
21' 未硬化状網糸
22 長繊維
23 硬化した熱硬化性樹脂
23' 未硬化の熱硬化性樹脂
24 熱可塑性樹脂
25 連接部(交絡部)
26 網目
30 熱可塑性樹脂製メッシュ
31 メッシュ用原糸
40 コンクリート平板
41 H型鋼
W 網目寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2子の網糸によって無結節状に編網して硬化してなるFRPネットに熱可塑性樹脂製メッシュが固着されてなるネット状物を、固定具とアンカーによりコンクリート面に固定するコンクリート剥落防止方法であって、
(i)該FRPネットは、正方形に編網された網目(目合い)が30〜150mmの無結節網であり、
(ii)該熱可塑性樹脂製メッシュは、該FRPネットのコンクリート構造物側となる面に固着され、該FRPネットの網目(目合い)の1/3以下で、かつ1〜30mmの正方形の網目(目合い)を有し、
(iii)該固定具は、中央にアンカー用通孔と、
該FRPネットの少なくとも1網目(升目)に被嵌可能な嵌合部と、
該嵌合部の辺壁に対向して設けられた外縁壁と、
該辺壁と該外縁壁部との間に設けられ、該2子の網糸を保持するための抱持溝とを有し、
(iv)該固定具をFRPネットの所定の部位の網目に嵌挿する一方、該アンカー用通孔にアンカーを打設(固定)する、
ことを特徴とするコンクリート剥落防止方法。
【請求項2】
前記FRPネット端部におけるFRPネットの固定は、端部において10mm乃至網目の1/2の長さの余長を有する網目最端部において、前記固定具とアンカーにより所定の間隔で固定する、請求項1に記載のコンクリート剥落防止方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【図17】
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【図1】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−179198(P2011−179198A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43115(P2010−43115)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(508001431)西日本高速道路メンテナンス九州株式会社 (7)
【Fターム(参考)】