説明

コンクリート強度試験用供試体及び供試体製造用型枠

【課題】本発明は、どのコンクリート強度試験においても共通して用いることが出来、かつ簡便に試験が可能な供試体及び該供試体を製作するのに用いる型枠を提供する。
【解決手段】 円柱形状のコンクリート本体に、その上端及び下端に上蓋及び下蓋を固定すると共にインサートを埋設し、中央部にドーナツ板を固持してなる供試体及び筒状の上部枠体と下部枠体とを両枠体の間に型枠の外径とほぼ同一の外径を有するドーナツ板を挟持して一体化し、上部型枠の上端及び下部型枠の下端に上蓋及び下蓋を固定すると共にインサートを支持してなる型枠である。
本発明によって成形された供試体は、どの強度性状試験にも適用でき、即ち、同一形状の供試体を用いて簡便に試験が可能となり、標準試験方法に代わる試験法を提供出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート強度試験に用いる供試体及びその供試体を製造するための型枠に関するものであり、どの強度形状の試験においても簡便に試験が可能な供試体及びこの供試体を製造する型枠に係るものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート強度には圧縮強度、曲げ強度、引張強度及びせん断強度等がある。これらの標準試験法はJIS A 1132に規定があり、せん断強度を除き各試験に適した供試体が決められている。例えば、圧縮強度では断面が真円の円柱体が用いられ、上下端面に密着させた加圧板に荷重を加えて供試体を圧縮する構成をとっているが、加圧板の均一密着が難しく、負荷がアンバランスになることがある。また、引張り強度試験では円柱形供試体の軸方向に加圧体を線接触させて載荷する割裂引張試験が行われるが、加圧体との接触部分が面接触になる場合があり、線荷重を等分に載荷するのが難しいとされている。また、曲げ強度試験には角柱体を用いることが規定され、せん断試験については複雑であるためJISが制定されていない。
【0003】
このような状況下で、引張強度試験や曲げ強度試験などは比較的簡便に試験ができる圧縮強度試験に基づいた、圧縮強度性状を統計的に処理した強度を引用することが一般的に行われていた。
しかし、コンクリートの高耐久性が求められている現状において、個々のコンクリート強度性状を把握することはきわめて重要であり、また、これらの強度性状を簡易に求めることが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような要請に応えるものであって、どのコンクリート強度試験においても共通して用いることが出来、かつ簡便に試験が可能な供試体を提供すると共に、該供試体を製作するに用いる型枠を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、コンクリート強度試験に汎用できる円柱形状の供試体及び該供試体を製造する型枠であり、以下の構成を要旨とする。即ち、
(1)円柱形状のコンクリート本体に、その上端及び下端に上蓋及び下蓋を固定すると共にインサートを埋設し、中央部にドーナツ板を固持してなる供試体であって、上蓋はコンクリート本体とほぼ同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する支持板と、側枠と支持板で囲まれた開口部を形成し、下蓋はコンクリート本体とほぼ同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する下面板からなりドーナツ板は外径をコンクリート本体の外径と同一か、わずかに大きくした金属板からなることを特徴とするコンクリート強度試験用の供試体であり、
(2)上記ドーナツ板はその外径がコンクリート本体の外径の1.00〜1.05倍、内径をコンクリート本体径の0.75〜0.85倍とした金属板とするのが好ましく、
(3)上記上蓋及び下蓋の側枠はその内径がコンクリート本体の外径と同一であることが好ましい。
【0006】
また、本発明の型枠は、
(4)筒状の上部枠と下部枠とを両枠の間に型枠の外径とほぼ同一の外径を有するドーナツ板を挟持して一体化し、上部枠の上端及び下部枠の下端に上蓋及び下蓋を固定すると共にインサートを支持してなる型枠であって、上蓋は型枠と同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する支持板と、側枠と支持板で囲まれたコンクリートを注入する開口部を形成し、下蓋は型枠と同径の側板と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する下面板からなり、この上蓋及び下蓋には案内孔を通したボルトをインサートに設けた螺子孔に螺合してインサートを固定してなることを特徴とするコンクリート強度試験用供試体を製造するための型枠であり、
(5)上記ドーナツ板はその外径を型枠の外径とほぼ同一とし、内径を型枠の内径の0.75〜0.85倍とした金属板とするのが好ましく、
(6)上記筒状の上部枠と下部枠に紙管を用いることが好ましい。
(7)また、本発明の型枠は上部枠と上蓋、下部枠と下蓋、ドーナツ板を介した上部枠と下部枠とをそれぞれ接着バンドを用いて固定し型枠を一体形成することが出来る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって成形された供試体は、どの強度性状試験にも適用でき、即ち、同一形状の供試体を用いて簡便に試験が可能となり、標準試験方法に代わる試験法を提供出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を図に示す実施例に基づいて詳細に説明する。しかし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
図1は本発明供試体の斜視図であり,図2は図1のX−X‘断面図である。供試体Aは円柱状のコンクリート本体1で形成され、該コンクリート本体1の上端面及び下端面には、上蓋2と下蓋3を固定すると共に、中央部分にドーナツ板4を固着し一体化している。
【0009】
ドーナツ板はその外径がコンクリート本体の外径と等しいか、やや大きくする。即ち、コンクリート本体外径の1.00〜1.05倍とし、内径をコンクリート本体外径の0.75〜0.85倍とした金属板を用いるのが好ましい。外径が1,0倍以上になるとコンクリート本体の周面よりドーナツ板の外周が突出し、例えばせん断試験等における載荷がしやすくなる。しかし、1.05倍以上になると載荷が不安定になる。
内径をコンクリート本体外径の0.75〜0.85倍としたのは供試体の破壊性状を考慮して決めた。
【0010】
上蓋2は図3に示すようにコンクリート本体1の外周と同じ寸法の外径を持つ側枠21と、側枠に架橋する支持板22を有し、この支持板22と側枠21で囲まれた開口部23を形成している。また、支持板22にはインサート5を支持するためのボルト6を通す案内孔24が中心部に設けてある。
【0011】
下蓋3は図4に示す様に側枠31と下面板32からなり、下面板32の中心部にインサート5を支持するためのボルト6を通す案内孔24が設けてある。
上蓋及び下蓋を構成する材料は特に限定しないが、金属であればよく、鉄を用いるのが一般的である。
インサートはコンクリート本体に埋設されており、その上端は上蓋、下蓋の案内孔24,34周面に接面し、螺子孔51と案内孔が連通している。
【0012】
本発明の供試体Aを製造する型枠Bは図6の展開図及び図7の組立図に示すように、円筒形の上部枠7と下部枠8で本体を構成し、上部枠7の上端には上蓋2が、また下部枠8の下端には下蓋3が組み立てられる。上蓋及び下蓋の構造は前記した通りであるが、これらの蓋には図3及び図4に示すように、コンクリート本体に埋設されるインサート5が螺子孔51に螺合されるボルト6によって支持されている。上部枠7と下部枠8の間には前述したドーナツ板4の外周部分が挟持されている。
【0013】
図6の(a)は上蓋2の案内孔24及び下蓋3の案内孔34にボルト6を通した状態を示し、(b)は上、下蓋にインサート5をボルト6で固定した状態を示している。
図7は上記図6(b)に示す部材を組立てて接着部材、例えば接着テープ9で固定して組み立てた型枠Bの斜視図であり、コンクリートを上蓋の開口部23より注入し、必要あれば振動を与えながら十分に充填する。組立てた部材の固定には接着テープに限らず、バンドや開閉可能な機械的手段を用いることが出来る。
【0014】
充填されたコンクリートを所定期間水中養生した後、脱枠することにより、コンクリート本体に上、下蓋、インサートおよびドーナツ板が一体になった供試体が得られる。
型枠の材質は特に限定しないが、紙製パイプを用いることにより、水中養生期にふやけ脱型が容易になると共に環境にやさしい配慮が出来る。
養生は水中に限らず他の方法、例えば蒸気中でも行うことができる。
【0015】
本発明の供試体は図8に模式的に示すように、圧縮強度試験(A)、引張強度試験(B)、曲げ強度試験(C)、及びせん断強度試験(D)において、供試体はいずれもコンクリート本体の半径方向断面積が減少しているドーナツ板挿入部で破断されている。即ち、本発明での各試験は共通した形状の供試体を用いて実施でき、試験が簡易であり、かつ信頼性が高く、標準試験方法に代わる方法として適用出来る。
図において、三角印は支点、矢印は載荷方向を示す。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の実験例を説明する。
供試体として、JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)に規定されている方法に用いられる、直径Φ100mm×高さh200mmの円柱状コンクリート本体を作製した。この供試体を作製する型枠は外径105mm、内径100mm、長さ100mmの紙製パイプを上枠7及び下枠8として用い、図7に示すように、この枠(パイプ)7,8を上下に配置して、接続部を粘着テープ9で固定した。接続部には鋼製ドーナツ板4を挿入した。ドーナツ板の寸法は厚さ1.0mm、外径105mm、内径は70mm、75mm、80mm及び85mmの4種類のものを用い、コンクリート断面積減少による破壊形状の影響を試験した。
枠体を紙製パイプとしたのは、水中養生期間中に紙パイプがふやけて簡単に脱枠できること、紙パイプはリサイクルが比較的容易に行え、環境にも優しいことに配慮したからである。
【0017】
上枠7及び下枠8の各端面には鋼製の上蓋2,下蓋3を粘着テープ9で固定した。図3,4に示すように、上蓋2、下蓋3の中心部には、図5に示す形状(Φ10mm以上)の直径を持つインサート5をボルト6で固定した。上蓋2には、コンクリートを流し込むための開口部23を設けている。
【0018】
インサート5の形状及び材質は特に限定しないが、コンクリートと密着し、引張力を加えて容易に脱抜しなければよく、本例ではΦ10mm、長さL50mmの合成樹脂製インサートとした。インサートを合成樹脂製としたのは、水中養生期間中にインサートが腐食するのを防止できるからである。鋼製ドーナツ板は、型枠組み立て時に粘着テープで被われることから、腐食の影響は受けにくい。
なお、試験法によってはインサートなしのものを用いてもよい。
【0019】
上記方法で製作した供試体を用いて以下の試験を行った。
引張り強度試験は供試体両端部に埋設したインサート5にアイボルトを装着し、試験機冶具の吊りリングで連結した。連結部は何れも自由連結であることから、載荷は常時供試体断面の中心部に作用する。したがって、偏心載荷を未然に防ぐことができる。
引張り断面は、ドーナツ板4が挿入してある供試体高さの1/2部のコンクリート断面減少部で必ず破断する。
曲げ強度試験は、支点間距離を150mmとして曲げ載荷を行った。載荷方法は、供試体中心部に挿入したドーナツ板の鋼製円板が、型枠脱枠によって、コンクリート供試体外円周に沿って突出した部分を載荷することによって、曲げ載荷試験とした。
せん断強度試験は、支点間距離はドーナツ板厚の1mmとした。載荷は、曲げ試験と同様にドーナツ板を載荷することによって、せん断試験とした。
本試験において、圧縮強度試験はJISに規定されている標準試験法に基づいて実施した。また、せん断強度試験には比較法として一般的な試験法、即ち円柱形供試体にノッチを入れたものを用いて試験した。
【0020】
試験の結果を標準試験(JIS)と比較して表1に示す。表1から解るように、引張り強度、曲げ強度は、一般的に言われている圧縮強度に対して約10〜7%の範囲内の試験結果であった。また標準試験の場合の、それぞれの試験の変動係数vは、曲げ試験0.042、引張り試験0.022及びせん断試験0.049であった。これに対して本発明に基づく試験方法は、曲げ試験0.045、引張り試験0.042およびせん断試験0.062であった。このことから、本発明に基づいた結果は信頼性ある試験方法といえる。
【0021】
各種強度試験の破壊形状は、ドーナツ板挿入部で破壊しているのが見て取れる。曲げ破壊は、曲げ引張り部から載荷部までほぼ平滑に破壊した。引張り試験は、ドーナツ部の上下面でコンクリート破壊面で凹凸形状となって破壊した。せん断破壊は、ドーナツ板が押
されて下方に極僅かにずれ、円柱コンクリート供試体が押し切り状態となって破壊しており、破壊の状況を明らかに知ることが出来た。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明供試体の斜視図。
【図2】図1のx−x’断面図。
【図3】インサートを支持した上蓋を示す斜視図。
【図4】インサートを支持した下蓋を示す斜視図。
【図5】インサートとインサートを固定する支持ボルトを示す図。
【図6】本発明型枠の各部を展開し、(a)は上下の蓋に支持ボルトを挿通した状態、(b)は上下の蓋にインサートを固定した状態を示す斜視図であり、(c)は上蓋、ドーナツ板、下蓋の平面図を示す。
【図7】本発明型枠の斜視図。
【図8】圧縮強度試験(A)、引張強度試験(B)、曲げ強度試験(C)、及びせん断強度試験(D)の模式図。
【符号の説明】
【0024】
A:供試体
B:型枠
1:コンクリート本体
2:上蓋
21:側枠
22:支持板
23:開口部
24:案内孔
3:下蓋
31:側枠
32:下面板
34:案内孔
4:ドーナツ板
5:インサート
51;螺子孔
6:支持ボルト
7:上部枠
8:下部枠
9:接着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱形状のコンクリート本体に、その上端及び下端に上蓋及び下蓋を固定すると共にインサートを埋設し、中央部にドーナツ板を固持してなる供試体であって、上蓋はコンクリート本体とほぼ同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する支持板と、側枠と支持板で囲まれた開口部を形成し、下蓋はコンクリート本体とほぼ同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する下面板からなり、ドーナツ板は外径をコンクリート本体の外径と同一か、それよりわずかに大きくした金属板からなることを特徴とするコンクリート強度試験用の供試体。
【請求項2】
ドーナツ板はその外径がコンクリート本体の外径の1.00〜1.05倍、内径をコンクリート本体の外径の0.75〜0.85倍とした金属板からなる請求項1に記載のコンクリート強度試験用の供試体。
【請求項3】
上蓋及び下蓋の側枠はその内径がコンクリート本体の外径と同一である請求項1に記載のコンクリート強度試験の供試体。
【請求項4】
筒状の上部枠と下部枠とを両枠の間に型枠の外径とほぼ同一の外径を有するドーナツ板を挟持して一体化し、上部枠の上端及び下部枠の下端に上蓋及び下蓋を固定すると共に各蓋にインサートを支持してなる型枠であって、上蓋は型枠と同径の側枠と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する支持板と、側枠と支持板で囲まれたコンクリートを注入する開口部を形成し、下蓋は型枠と同径の側板と、中央にインサートに設けた螺子孔と連通する案内孔を有する下面板からなり、この上蓋及び下蓋には案内孔を通したボルトをインサートに設けた螺子孔に螺合してインサートを固定してなることを特徴とするコンクリート強度試験用供試体の製造用型枠。
【請求項5】
ドーナツ板はその外径を型枠の外径とほぼ同一とし、内径を型枠の内径の0.75〜0.85倍とした金属板からなる請求項4に記載のコンクリート強度試験用供試体の製造用型枠。
【請求項6】
筒状の上部枠と下部枠が紙管である請求項4に記載のコンクリート強度試験用供試体の製造用型枠。
【請求項7】
上部枠と上蓋、下部枠と下蓋、ドーナツ板を介した上部枠と下部枠とをそれぞれ接着バンドで固定してなる請求項4に記載のコンクリート強度試験用供試体の製造用型枠。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−128853(P2008−128853A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315096(P2006−315096)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】