説明

コンクリート硬化遅延剤及び該遅延剤を用いたコンクリート表面の洗い出し工法

【課題】 熟練を必要とせず誰もが簡単にコンクリート中の骨材の素地を露出させることができるコンクリート表面の洗い出し工法を提供すること。
【解決手段】 コンクリート打設終了後、まだ硬化しないコンクリート表面に、コンクリート硬化遅延剤を散布し、コンクリート表面の薄層部分の硬化を遅らせ、コンクリート内部の硬化後、まだ硬化していない薄層部分のセメントモルタルを除去し、骨材の素地を露出させる、コンクリート表面の洗い出し工法において、上記コンクリート硬化遅延剤として、液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂とを混合し、加熱乾燥して粒状化してなる、コンクリート硬化遅延剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面の洗い出し工法に用いられる特殊処理を施したコンクリート硬化遅延剤、及び該遅延剤を用いたコンクリート表面の洗い出し工法に関する。本発明のコンクリート表面の洗い出し工法によれば、熟練を必要とせず誰もが簡単にコンクリート中の骨材の素地を露出させることができる。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の外観を向上させる方法として、建築物の玄関、遊歩道、店舗の通路、景観舗装材等に使用されているコンクリート中の粗骨材を露出させる工法がある。該工法としては、大まかに下記の4つの方法が挙げられる(例えば、非特許文献1〜3参照)。
第1の方法は、熟練した職人が、水を含んだ刷毛及びブラシによって、硬化し始めたコンクリート表面のモルタル部分のみを丁寧に除去し、粗骨材の素地を露出させる方法。
第2の方法は、コンクリート硬化遅延剤を紙に滲みこませ乾燥させたものを、まだ硬化しないコンクリート表面に一様に覆い、翌日、水を含んだ刷毛及びブラシによって、コンクリート表面の硬化していないモルタル部分を洗い出す方法。
第3の方法は、まだ硬化しないコンクリート表面に、コンクリート硬化遅延剤をそのまま散布し、翌日、水を含んだ刷毛及びブラシによって、コンクリート表面の硬化していないモルタル部分を洗い出す方法。
第4の方法は、硬化したコンクリート表面のモルタル部分を、ショットブラスト及びウオーターブラストのような機械的手段によって除去する方法。
【0003】
本発明者らは、コンクリートに係わる洗い出し工法の現状や、コンクリートの硬化に係わるメカニズムの研究を行ってきた。そして現在のところ、上記の4つの方法について、下記の欠点があることを確認している。
第1の方法は、熟練工を必要とし、またコンクリートの硬化時間を見ながら行わなければならず、多くの時間を必要とする。また、ポーラスコンクリートや一度に大きい面積の施工ができない。
第2の方法は、平坦なコンクリート面では遅延剤を含んだ紙が密着するが、ポーラスコンクリート等のような表面の凹凸の激しい表面では、コンクリートの一部しか紙に接しないため、洗い出しにむらができる。
第3の方法は、遅延剤が液体の場合、コンクリート面が水平であれば良いが、少しでも勾配がある場合などは、コンクリートのブリージング水と共に遅延剤が流されてしまう。また、遅延剤が粉体の場合、屋外作業での風の影響等により、遅延剤の散布にムラができたり、呼吸器から人体に入り作業者の健康を害する恐れもある。
第4の方法は、一度に大きな面積の施工が可能な反面、ショットブラスト及びウオーターブラストともに施工機械が大掛かりであり、またコンクリートの硬化時期によってコンクリート表面が多く取れすぎたり多く残ったりする。
【0004】
【非特許文献1】社団法人全国宅地擁壁技術協会、“YOUHEKI ”会報No.19 、[online]、社団法人全国宅地擁壁技術協会、〔平成16年7月2日検索〕、インターネット< URL : http://www.takukyou.or.jp/kaihou/dai/g19.htm>
【非特許文献2】佐藤道路株式会社、“パーミアストーン舗装−洗い出しパーミアコン舗装”、[online]、佐藤道路株式会社、〔平成16年7月21日検索〕、インターネット< URL : http://www.satoroad.co.jp/pavement/pmc/pmstone/pmstone 1.htm >
【非特許文献3】日本ジッコウ株式会社、“ディスパライトCR”、[online]、日本ジッコウ株式会社、〔平成16年7月21日検索〕、インターネット< URL : http://www.kyosyo.net/materials/c10020/c10020-01/spec.html >
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリートの洗い出し工法は、骨材の素地がコンクリート表面に浮き出ることで、景観材料として従来より広く親しまれてきた。反面、従来の工法は、上述したように、熟練工を必要とする、手間と時間がかかる、大掛かりな機械を必要とする、一度に大きな面積の施工ができない等の欠点がある。そのため、これらの欠点のない、しかも簡単に大きな面積の施工が可能となるコンクリートの洗い出し工法が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する欠点を解消し、誰もが簡単にしかも一度に大きな面積の施工を可能にしたコンクリートの洗い出し工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、コンクリート打設終了後、まだ硬化の始まらないあるいは硬化が始まりつつあるコンクリートの仕上がり面に、特殊処理を施したコンクリート硬化遅延剤を散布することにより、コンクリート表面の薄層部分(表面から深さ1〜3mm程度までの部分)のモルタルの硬化を極端に遅らせることができ、翌日、上記遅延剤を散布したまだ硬化していない薄層部分のセメントモルタルを水及びブラシ等により簡単に除去でき、骨材の素地を露出させることができることを見い出し本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、コンクリート表面の洗い出し工法に好適に用いられるコンクリート硬化遅延剤として、液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂とを混合し、加熱乾燥して粒状化してなる、コンクリート硬化遅延剤を提供するものである。
また、本発明は、コンクリート打設終了後、まだ硬化しないコンクリート表面に、上記の本発明のコンクリート硬化遅延剤を散布し、コンクリート表面の薄層部分の硬化を遅らせ、コンクリート内部の硬化後、まだ硬化していない薄層部分のセメントモルタルを除去し、骨材の素地を露出させる、コンクリート表面の洗い出し工法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンクリート硬化遅延剤は、まだ硬化しないコンクリート表面に散布されると、コンクリート表面の薄層部分のモルタルと反応し、コンクリート表面の薄層部分の硬化時間を極端に遅らせることができる。また、本発明のコンクリート硬化遅延剤は、粉体ではなく粒状物であるため、屋外での風の影響も少なく、ハンドスプレッダー等でコンクリート表面に均一に散布することができ、またコンクリート表面に勾配あるいは凹凸があっても、コンクリート表面に均一に定着する。
また、本発明のコンクリート表面の洗い出し工法によれば、熟練工を必要とせず施工性が改善され、洗い出しのムラがなくなり、一度に大きな面積の施工をすることができ、しかも大掛かりな機械を用いずに簡単に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明のコンクリート硬化遅延剤について説明する。
本発明のコンクリート硬化遅延剤の製造に用いられる液状のコンクリート硬化遅延剤としては、液状物であれば特に制限されないが、液状のAE減水剤、砂糖水等の糖類溶液が好ましく、特に、コンクリートのワーカビリティーの改善、ブリーディングの減少、ポンプ圧送性の改善、経時変化の改善及び高い減水性等の観点から、液状のAE減水剤が好ましい。
該AE減水剤としては、主成分が、変性リグニンスルホン酸化合物、オキシカルボン酸、セルロースエーテル及びポリカルボン酸等の複合体からなっているものが好ましく、例えば株式会社エヌエムビー製のAE減水剤「ポゾリス78(商品名)」等の市販品を用いることができる。
また、上記砂糖水としては、濃度が10〜50質量%のものが好ましい。
【0010】
また、本発明のコンクリート硬化遅延剤の製造に用いられる人工砂としては、コンクリート工事に用いられている通常の人工砂を用いることができ、最大粒径2.5mmで、0.075mmふるい通過量が5〜15質量%、好ましくは8〜12質量%のものを用いるのが好ましい。上記人工砂の好ましい粒度分布の一例を図1に示す。
上記人工砂が0.075mmふるい通過量の少ない人工砂である場合は、該人工砂に、牡蠣の殻を乾燥させて粉体にしたものを10〜50質量%(対人工砂質量)程度混入させると良い。牡蠣の殻の紛体は、表面積が大きく、液状のコンクリート硬化遅延剤の吸収が良いからである。
【0011】
本発明のコンクリート硬化遅延剤は、上記の液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂とを混合し、加熱乾燥して粒状化したものである。
上記の液状のコンクリート硬化遅延剤(前者)と人工砂(後者)との混合割合は、好ましくは前者10〜50質量%及び後者90〜50質量%、より好ましくは前者20〜30質量%及び後者80〜70質量%である。
【0012】
液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂との混合方法は、両者を均一に混合し得る方法であれば特に制限されるものではないが、回転混合が好ましい。該混合に用いられる混合装置としては、例えば光洋機械産業株式会社製の「小型ポットミキサー可傾式(商品名)」等の市販されている通常のミキサーを用いることができる。
液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂との混合物の加熱乾燥は、例えば上記ミキサーの入り口からガスバーナー等により100〜200℃程度に加熱すればよく、該加熱乾燥により、粒状化した本発明のコンクリート硬化遅延剤が得られる。
【0013】
上記の液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂とは、回転混合させながら加熱乾燥することが好ましく、これにより、人工砂の細粒分の団粒化を防ぎ、適度な粒度分布を有する図2に示すような粒状の本発明のコンクリート硬化遅延剤が得られる。
図2は、本発明のコンクリート硬化遅延剤の粒子構造の一例を示す断面図であり、図2に示す本発明のコンクリート硬化遅延剤は、人工砂の粗粒分14(粒径0.6〜2.5mm程度)の周囲に、液状のコンクリート硬化遅延剤を吸収した人工砂の細粒分15(粒径0.3mm以下程度)が付着し乾燥した構造の粒状物である。
【0014】
次に、本発明のコンクリート硬化遅延剤を用いた本発明のコンクリート表面の洗い出し工法を、図3及び図4を参照しながら説明する。
図3は、コンクリートの洗い出しを行う一般的なコンクリート構造物の断面図であり、該図中、11は洗い出されるコンクリート表面の薄層部分、12は洗い出した後に露出する骨材である。図4は、図3に示すコンクリート構造物のまだ硬化しないコンクリート表面に本発明のコンクリート硬化遅延剤を散布した状態を示す断面図であり、該図中、13が本発明のコンクリート硬化遅延剤であり、11’は本発明のコンクリート硬化遅延剤が浸透したコンクリート表面の薄層部分(硬化遅延層)を示す。
【0015】
本発明のコンクリート表面の洗い出し工法を実施するには、図3に示すコンクリート構造物のコンクリート打設終了後、まだ硬化しないコンクリート表面に、図4に示すように、本発明のコンクリート硬化遅延剤を均一に散布する。
本発明のコンクリート硬化遅延剤の散布量は、除去するモルタルの厚さや該硬化遅延剤の種類により一概にはいえないが、凡そ300〜1500g/m2 とするとよく、好ましくは800〜1200g/m2 である。
【0016】
次いで、本発明のコンクリート硬化遅延剤を散布した状態で24時間程度放置すると、散布された本発明のコンクリート硬化遅延剤が、コンクリート表面の薄層部分(表面から深さ1〜3mm程度までの部分)に浸透し、コンクリートのブリージング水と反応することによって、図4に示すような硬化遅延層11’が形成される。
【0017】
次いで、コンクリート内部が硬化した後(通常、コンクリート硬化遅延剤の散布から12〜36時間経過後、好ましくは24時間程度経過後)、上記硬化遅延層をブラシ等により除去し、骨材の素地を露出させる。この硬化遅延層は、他の部分と比べコンクリートの硬化が極端に遅いため、水分は揮発し一見硬化しているように見えるがほとんど硬化しておらず、コンクリート表面に水を流しながらブラッシングすることにより、簡単に除去することができる。
【実施例】
【0018】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
株式会社エヌエムビー製のAE減水剤「ポゾリス78(商品名)」25質量%及び図1に示す粒度分布を有する人工砂75質量%を、光洋機械産業株式会社製の「小型ポットミキサー可傾式(商品名)」に投入し、回転混合させながら、上記ミキサーの入り口からガスバーナーにより150℃で加熱乾燥し、粒状の本発明のコンクリート硬化遅延剤を得た。
【0020】
実施例2
コンクリートブロック(300mm×300mm×50mm)のコンクリート打設終了後、まだ硬化しないコンクリート表面に、実施例1で得られた本発明のコンクリート硬化遅延剤を1000g/m2 均一に散布した。散布から24時間経過後、コンクリート表面に水を流しながらブラッシングすると、簡単にコンクリート表面の薄層部分のセメントモルタルが除去され、骨材の素地が露出した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】人工砂の好ましい粒度分布図である。
【図2】本発明のコンクリート硬化遅延剤の粒子構造の一例を示す断面図である。
【図3】コンクリートの洗い出しを行う一般的なコンクリート構造物の断面図である。
【図4】図3に示すコンクリート構造物のまだ硬化しないコンクリート表面に本発明のコンクリート硬化遅延剤を散布した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
11 コンクリート表面の薄層部分
11’硬化遅延層
12 骨材
13 粒状のコンクリート硬化遅延剤
14 人工砂の粗粒分
15 液状のコンクリート硬化遅延剤を吸収した人工砂の細粒分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状のコンクリート硬化遅延剤と人工砂とを混合し、加熱乾燥して粒状化してなる、コンクリート硬化遅延剤。
【請求項2】
前記液状のコンクリート硬化遅延剤が、液状のAE減水剤である、請求項1記載のコンクリート硬化遅延剤。
【請求項3】
前記人工砂が、最大粒径2.5mmで、0.075mmふるい通過量が5〜15質量%のものである、請求項1又は2記載のコンクリート硬化遅延剤。
【請求項4】
前記液状のコンクリート硬化遅延剤の混合割合が、10〜50質量%である、請求項1〜3の何れかに記載のコンクリート硬化遅延剤。
【請求項5】
コンクリート打設終了後、まだ硬化しないコンクリート表面に、請求項1〜4の何れかに記載のコンクリート硬化遅延剤を散布し、コンクリート表面の薄層部分の硬化を遅らせ、コンクリート内部の硬化後、まだ硬化していない薄層部分のセメントモルタルを除去し、骨材の素地を露出させる、コンクリート表面の洗い出し工法。
【請求項6】
前記コンクリート硬化遅延剤の散布量が、300〜1500g/m2 である、請求項5記載のコンクリート表面の洗い出し工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−36577(P2006−36577A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217786(P2004−217786)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(596092414)日本土石工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】