説明

コンタクトレンズの移送用プローブ及び移送方法

【課題】レンズの自動生産工程において有効なレンズの移送手段を開発することを課題とするものであり、水和状態のレンズを移送するに際してこれに損傷を与えないこと、目的とする位置へ確実に移送することができるとともに、迅速な脱離を行うことのできる移送用プローブを提供すること。並びに前記移送用プローブを用いてレンズを移送する方法を提案すること。
【解決手段】レンズを第一の位置から第二の位置へ移送するプローブであって、プローブの先端がレンズの形状に対応した径と形状を有し、前記先端には負圧によりレンズを吸引する孔を備えるとともに、レンズの脱離時にプローブ先端が分割されて該プローブの一部が前進または後退することによって、レンズとプローブとの接触面積が移送時の80%以下になることを特徴とするレンズ移送用プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズを移送するためのプローブ及び移送方法に係わり、特にコンタクトレンズが含水した状態で、始めの位置からピックアップして別の位置に移送するプローブと、そのプローブを用いたコンタクトレンズの移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動化されたコンタクトレンズ製造技術の確立により、安価なコンタクトレンズ(以下単にレンズという)を供給可能とし、使い捨てのレンズが市場において優位を占めるに至っている。このようなレンズの製造は、モールドなどの成型工程、モールドを用いたレンズの成形工程、モールドからレンズを取り出す離型工程、レンズを含水させ未反応のモノマーや溶媒などを除去する水和工程、完成品の規格・形状・表面状態などを検査する品質管理工程、レンズをブリスターパッケージなどの容器に包装する工程、などから構成されている。
【0003】
本発明は、前記各工程を連結する場面においてレンズを安全、確実、迅速、効率的に移送するための改良された移送用プローブを提供せんとするものである。特にレンズは非常に薄くかつ小径であるが故に移送時の保持・脱離に際してその取り扱いは難しいが、既に、自動生産工程では幾つかの移送システムが構築されている。
【0004】
一例を挙げると、真空供給手段及び空圧供給手段に接続したプローブ先端をレンズに位置付け、ピックアップ時には真空にして所定の位置まで移送し、脱離時には空気圧を付与してパッケージ内に配置するようにした方法(特許文献1)、さらに前記方法に加えてレンズ移送の際に該レンズからパッケージへ液体が飛散することに対処をした方法(特許文献2)がある。また、同様に負圧および加圧によってレンズの保持・脱離を行うものであるが、これに加えて移送時に同伴する水を減少あるいは回避する方法(特許文献3)もある。
【0005】
これらの方法により自動化ラインにおいて、レンズを正確に保持し、所定の位置まで移送することができ、またブリスターケース等の容器に配置することが可能となっている。前記いずれの方法であってもレンズ脱離時には加圧を行うことを要件としている。これはレンズが薄いために全体として軽量であり負圧によって容易に保持することができるものの、破損防止の観点からレンズ表面に適合したプローブ先端形状とすることによって保持面積が広くなる結果、所望の位置で脱離する際には単に負圧を開放するだけでは十分でなく、積極的にレンズを放出しなければ迅速な移送の妨げになりうるからである。この要因としてはレンズが軽量であって自重による落下だけを期待できないこと。また、含水状態のレンズはプローブとの間に水層が形成され、表面張力が発生して相互に離間することが困難になるからでもある。そこで、レンズとプローブとの間に空気層を形成して迅速に離間するために加圧工程を要件としているのである。
【0006】
しかし、適度な加圧条件を設定したとしても、レンズの一部分から脱離が始まってしまえば、レンズに加えられる力が不均一になり、所望の方向に放出することが困難となってパッケージ内へ正確に配置され難いことがある。また、負圧発生源や加圧発生源は一つであって、これを幾つかのレンズ移送用プローブに分配して複数のレンズを同時に移送するのが一般的であるが、各圧源からの距離などによって一部のレンズに加わる加圧条件と他のレンズに加わる加圧条件に差異が生じることがあり、それを見越してレンズの脱離時間に幅を持たせる必要があるので、生産性を制限するおそれもあった。
【0007】
一方、前記のような加圧手段については要件としていないものの、移送レンズの方向性、センタリングに配慮したプランジャースリーブに関する提案(特許文献4)もある。ただ、この提案は水和処理後のレンズの移送を目的としたものではなく、離型工程においてセンタリングされた状態を確実に保ちエッジング装置へ移送するためのものである。従って、レンズの脱離に関しては具体的な記述はなく、特に本発明での課題としている水和状態のレンズをいかに迅速に脱離するかについては開示されていないのである。
【特許文献1】特開平9−132205号公報
【特許文献2】特開2000−271889号公報
【特許文献3】特表2005−520714号公報
【特許文献4】特表2002−504036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コンタクトレンズの自動生産は、前記のように幾つかの工程でそれぞれ必要な処理が適切に行われ、全体を通して一つの流れを形成することで実現される。そして各工程間の製品の受け渡しは、一般の工業製品と比較してサイズ、強度、形状に特徴を有するコンタクトレンズという特殊性により未だ改善の余地を残すものである。
【0009】
本発明は、レンズの自動生産工程において有効なレンズの移送手段を開発することを課題とするものであり、特に水和状態のレンズを移送するに際してこれに損傷を与えないのは無論のこと、目的とする位置へ確実に移送することができるとともに、迅速な脱離を行うことのできる移送用プローブを提供すること。並びに前記移送用プローブを用いてレンズを移送する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的のもと、本発明のコンタクトレンズ移送用プローブは、レンズが保持されているプローブ先端から脱離し難いのは、両者間の摩擦力や両者間に水が介在する場合の表面張力の働きによるものであり、この作用をいかに簡単な機構で打ち消すことができるかという観点から着想し、本発明を見出した。
【0011】
すなわち本発明は、レンズを第一の位置から第二の位置へ移送するプローブであって、プローブの先端がレンズの形状に対応した径と形状を有し、前記先端には負圧によりレンズを吸引する孔を備えるとともに、レンズの脱離時にプローブ先端が分割されること。分割後の該プローブの一部が前進または後退することによって、レンズとプローブとの接触面積が移送時の80%以下になることを特徴とするものである。
【0012】
要するにレンズとプローブとの接触面の状態変化により、レンズに空気圧などを付加しなくてもレンズが自然に脱離するようにしたものである。このときプローブの一部が前進するとは、レンズとの接触面の一部がレンズ方向に押し出す場合をいい、後退するとはレンズとの接触面の一部がレンズの存在する方向とは逆の方向に後退する場合をいう。
【0013】
より好適には、プローブ先端が分割後その一部が前進または後退して、レンズ保持面に対して、幅0.5〜10mm程度の一つ以上の同心円状、直径方向に延びる幅0.5〜5mm程度の一つ以上の線状または前記線状部を除いた面状、径が略0.5〜5mm程度の一つ以上の小円または多角形または前記小円部または前記多角形部を除いた面状、およびこれらの組み合わせからなる群のいずれかの形状により接触する状態になることである。
【0014】
ここで、同心円状とは円筒状プローブの中心軸を同軸中心とする一つ以上の円により接触することであり、特にレンズの周辺部分には接触部を設けない(レンズ周辺から1〜2mm内側に接触する)ようにすることが望ましい。また直径方向に延びる線状とは2本であれば垂直に交差し、3本であれば60°間隔で交差するように形成することが望ましい。前記線状部を除いた面状とは、前記直径方向に延びる線状部分がレンズに対して相対的に後退して、レンズとの接触部の一つ一つが扇形状をしていることである。
【0015】
前記径が略0.5〜5mm程度の一つ以上の小円又は多角形とは、プローブ先端が分割して(レンズ吸着時より)小径又は多角形のプローブが一本または二本以上でレンズを支持することをいう。また、前記小円部又は多角形部を除いた面状とは、レンズを吸引・保持していた最初の球面状の接触部位から前記小径のプローブ部位(小円部又は多角形)が非接触領域となり、残る部位(小円部又は多角形部を除いた面状)でレンズを支持することをいう。さらにこれらの組み合わせとは、例えば同心円状と線状を組み合わせると、プローブ先端側からの正面視において、レンズの支持面が丸に十の記号として観察される形状などをいう。
【0016】
また、本発明レンズの移送方法は、レンズを第一の位置から第二の位置へ移送する方法であって、プローブの先端にレンズの形状に対応した径と形状を有し、負圧によって吸引する孔(図1の符号2参照)を備えた該プローブにより、第一の位置のレンズを吸引保持し、レンズを保持して第二の位置に移送し、プローブ先端が分割されて該プローブの一部が前進または後退し、レンズとプローブとの接触面積を移送時の80%以下に減少して、レンズを脱離することを特徴とする。要するに前記のレンズ移送用プローブを用いてレンズを移送する方法であり、積極的に空気圧などを付加する従来技術との相違点は、レンズとの接触面積を減少させることにある。
【0017】
そして、接触面積を減少する動作に際して、接触面の周辺領域から中心領域に向けて非接触面が形成されるようにすることが望ましい。レンズの保持面の中央部を非接触状態にするよりも、周辺部に非接触面を形成する方がレンズの脱離が容易となる。これはレンズとプローブとの間に空気或いは水が進入しやすくなるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のレンズ移送用プローブは、レンズとの接触面積が保持時から脱離時に減少することにより、迅速なレンズ脱離を可能とすることができる。特に水和状態のレンズとプローブとの間には水層が形成されているので、単に吸引を停止するだけでは容易に脱離しなかったが、本発明によればレンズと接触するプローブ先端を分割して、その一部が進退することにより、レンズに対して損傷を与えず、目的とする位置に確実に移送することができる。また、脱離時に加圧流体を使用していないので、液体飛散防止装置を必要としないのである。
【0019】
また、前記レンズ移送用プローブを使用することにより、空気や水などの流体でレンズをプローブから脱離させる操作を必要とせずに、一定の工程時間内にレンズを移送できるので、レンズの自動生産ラインを滞りなく維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のレンズ移送用プローブ1は、一例として図1に示すような中空の円筒形状を有し、該中空通路が外部の負圧発生源と制御可能に連結されている。プローブの外形は図示するような円筒形にかぎらず、四角あるいは多角柱状、楕円柱状など、様々な形状が可能である。ただ一般には、プローブ先端はレンズの凹面を吸着することとなるので、吸着面3は半球面となる。そうするとプローブの外形を円筒形状に設計する方が先端部とプローブ本体部との連結がなめらかになるので好ましい。
【0021】
プローブ本体部分の径は特に制限はないが、前記のとおりプローブ先端との接続の観点から好ましくはレンズの外径と同程度である。またプローブ先端部が分割されて、その一部を進退させるためにプローブ本体部分の外周にスリーブ4を付設することが望ましい。別の例としては、プローブ先端部を図2のように分割可能として、図示するように径方向が約2.4mmで接線方向が約2mmの4つの四角形部分10により(レンズ脱離に際して)レンズを支持する構造とする。このとき四角形を除いた面11がスリーブ方向に伸びる軸12とともに後退あるいは前進し、レンズ吸着時にはプローブ先端の全面でレンズと接触し、レンズ脱離時には四角形を除いた面状部分が後退し、四角形部分(図では4つの四角形)のみでレンズと接触することとなる。このようにレンズ接触面積を減少させることによりレンズを迅速かつ一定時間で脱離することができるのである。もちろん、四角形部分を前進させて、結果としてレンズ脱離時にはレンズとの接触部位をこの四角形部分のみになるようにしても良い。
【0022】
前記の例は四角形部分が4ケ所形成されるものであるが、これが1ケ所あるいはそれ以上であっても良い。基本的にレンズを損傷させることなく脱離させることができるだけの面積があれば良いのであって、移送するレンズとプローブ先端との間の表面張力がどの程度であるかによって適宜設定すればよいのである。このときの四角形の配置については、レンズに対して均等に分散支持する状態が望ましい。これにより脱離に際して適切な方向でレンズを配置することができるからである。なお、四角形形状以外に小円、星形、楕円形、多角形など適当な変形を採用することも可能である。
【0023】
図3には、レンズ脱離に際してレンズの径よりも小さく、幅1.5mmの同心円20によって支持されるように分割されたプローブ先端が示されている。前記四角形によって支持する場合に比較してレンズを押し出す際の力がより均一に加えられるという特徴を有する。ただ、レンズとの接触面積が四角形に比較して面状に近くなるために脱離のし易さという点では劣る傾向がある。また、プローブの構造上、同心円より内側が外気圧より多少低くなり得るので、その点でも迅速な脱離を実現し難い傾向にある。それを解消するためには、同心円の一部に切れ目があるような構造にすると良い。すなわち視力検査に用いられるランドルト環のような形状である。これにより前記気圧の差異を埋めることができる。
【0024】
図4には、レンズ脱離に際して幅1mmの十字30によって支持されるように分割されたプローブ先端が示されている。これが所謂、直径方向に延びる幅0.5〜5mm程度の一つ以上の線状の例である。図では2つの線を組み合わせた状態である。例では両線は直交しているが、それに限定されるものではなく、90°以下の角度で交差していても良く、また1本線あるいは3本以上の線を交差したような形状であっても良い。さらに2本線であってもこの例の様に必ずしも交差する必要はない。このような線状であるとレンズの中心部分に対して押し出しの作用を与えることができるので、前記の小円、あるいは同心円に比較して、レンズに対してさらに均一な力が加わるという特徴を有する。ただ、四角形に比較して(四角形を点とすれば)線で支持することとなるので、レンズの脱離し易さという点で劣る傾向がある。しかし、同心円に比較してプローブ本体の外周に分割部分を露出できるので、スリーブとの係合構造を容易に構成することができる。なお本例では直線であるが屈折線、曲線、途中で2分割された断線であっても良い。
【0025】
図5には、レンズ脱離に際して前記同心円と線を組み合わせた「丸に十字」の形状40に分割されたプローブ先端が示されている。各線の幅は約2mmである。これは前記図3および図4に示された例の両方の特徴を併せ持つものであり、レンズ全体に押しだす力を作用させられる点で優れたものである。なお、図には一方の線の両端41がプローブ本体外周にまで達しており、この部分をスリーブ方向に伸ばした軸42によって前進させる構造を示してある。これ以外に、線端の一方のみ、あるいは二本線の両端、または3つの端をプローブ本体外周に達するようにしても良い。またこの例では二本の線との組み合わせであるが、単線または三本以上の線と組み合わせてもよく、同心円43も複数であっても良い。
【0026】
以上の説明で示したいずれの例においても、分割対象部分が前進するもの、この部分が後退するもの、対象部分以外の部分が前進するものあるいは後退するもののいずれであっても良い。レンズに損傷を与えることなく脱離できるものであればどのような形状に分割することもできるのである。
【0027】
分割部分の前進時或いは後退時の速度は0.01〜100mm/s、好ましくは0.1〜10mm/sである。前記速度より遅いと、レンズ脱離に時間がかかるので生産ラインのタクトが長くなり、前記速度より速いと、プローブ先端の分割に際し摺動による摩擦力が大きくなってプローブ先端部の耐久性が悪くなるおそれがあるからである。
【0028】
分割部分が前進或いは後退する際に形成されるプローブ先端の段差は0.5〜10mmの範囲、好ましくは3〜5mmである。前記段差よりも小さい場合には、レンズ吸着時における接触面の形態との差が小さいために、プローブ先端からレンズが自然に脱離しなくなるおそれがある。また、前記段差よりも大きい場合には、既にレンズが脱離しているにも係わらず無用な動作を付与することになりうるからである。
【0029】
こうして形成されるプローブ先端のレンズとの接触面積は、レンズ吸着、移送時のそれよりも80%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下にされる。この接触面積の減少によって、負圧解除後でも表面張力等によりプローブ先端に残るレンズを、脱離することができる。なお、脱離時に水中で行うと接触面積の減少が少なく(例えば80%以下)ても良く、空気中で行う場合には接触面積を多め(50%以下)に減少させるように設定する傾向がある。表面張力がレンズとプローブ先端との間の水層あるいは静電気力だからである。そして本発明の有利な点は、個々のレンズ(同時に移送するレンズ間、および同じ生産ラインで生産されるレンズ間)に対して常に同じ脱離作用を与えうることである。また、下限値は特に制限されるものではないが。5%以上とすることが好ましい。5%より少ないと脱離時のレンズとの接触面積が小さすぎて、レンズを傷つける恐れがあるからである。
【0030】
従来の方法は前記の通り負圧解除後に空気などの流体により加圧してレンズ脱離を積極的に促進するものであった。従来法では、レンズを吸着保持するに際し無理な変形などを与えないようにするために孔が小さく、迅速に脱離する必要性から複数の孔を通してレンズに加圧流体を噴射していた。通常、各孔はプローブ本体内で一つの管路に集約されているので、孔の一カ所に空気が通過しやすい場所(加圧流体の噴射によりプローブからレンズが離れた状態になった所)ができると、他の孔への流体圧が低下し、レンズごとにそれぞれの方向性を与えて、一定の目標位置へ配置することが困難となり易い。また、それは同時に移送するレンズ間についても言える。一般的に負圧発生源、加圧発生源は一つの装置が複数のレンズ移送に関与する。従って一つの加圧発生源から複数のレンズ移送用プローブに圧力を供給する場合に、管路が分岐せざるを得ないが、同時移送中の一つのレンズが先に脱離してしまえば、他の未脱離状態のレンズに対する供給圧が低減してしまうのである。これは自動生産ラインにとって大きな課題となる。各ラインの処理タクトは、一定にする必要があるからである。
【0031】
本発明では、プローブ先端の分割および物理的に接触面積を変化させることにより、極力変動を抑えた一定のタクトによるレンズ脱離を実現することができるのである。
【0032】
プローブは適当な材料、例えばポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ABS、シリコーン、ウレタンなどの樹脂製で作製してもよく、ステンレスなどの金属製であってもよい。ただし、含水状態のレンズを取り扱うことを考慮して錆などに注意する必要がある。
【0033】
プローブ先端には、負圧によりレンズを吸引する孔が設けられている。孔径はレンズを吸引する際にレンズを吸い込むことがない程度、特に含水状態のソフトコンタクトレンズは柔らかく、損傷を与えないとしても吸引時の跡が付きやすいので、できるだけ小さい方が良い。そのような孔径としては0.01〜2mm程度、好ましくは0.5〜1mm程度である。前記孔径よりも小さい場合には必然的に吸引力が弱くなるため、確実なレンズ保持が困難となり、前記孔径よりも大きい場合には前記のような吸引跡がレンズに発生しやすく、これがレンズ検査において良品率を低下させる原因にもなりうるからである。
【0034】
孔径はプローブ先端全面に均等に配置されることが好ましいが、本発明ではレンズ脱離のためにプローブ先端が分割して、その一部が摺動する。従って簡易な構造とするために摺動後にレンズと接触する部分には、孔を設けない方が良い。例えば、図2のような四角形部が可動とする場合には四角形部以外の部分に、図3のような同心円部が可動とする場合には、同心円以外の領域に形成されることとなる。ただし、図1のように摺動後のレンズ接触部が孔2を有すのにゆとりのある形状であればその限りではない。孔2の開口部はプローブ先端表面に向かうに従って開口径が大きくなるテーパとされていることが望ましい。吸着時にレンズ表面に傷などを発生させないためである。
【0035】
またプローブ先端はレンズの凹面と接触して、これをピックアップするのが一般的であるため半球面に設計される。半球面の曲率はレンズの内面に近い曲率が望ましい。従って、含水性レンズの場合には、乾燥状態のレンズ移送に使用する工程では大きな曲率の、含水状態のレンズ移送に使用する工程には小さな曲率の半球面を有するプローブが用いられることになる。
【0036】
さて、以上のような形状・機能を有するプローブを用いてレンズを移送する方法について以下に説明する。
プローブは適当な機構、例えば圧縮空気式または電磁気式駆動のピストンによって制御自在に駆動される。例えば、水和工程を経たレンズをピックアップし、パッケージ内へレンズを移送する場合を考える。プローブはレンズに向かって移動し、先端がレンズに接触するとプローブ本体を支持する弾力的な構造によりレンズに対して適度な圧力で接触する。そして負圧発生源と接続されたプローブ先端の開口部を通して、レンズを吸引しつつ保持する(第一の位置)。レンズをプローブ先端に保持したまま、上下あるいは左右方向にプローブを移動させ、パッケージ開口部に配置(第二の位置)する。レンズの脱離に際しては、初めに負圧を解除してレンズとプローブとが静電的あるいは表面張力だけで保持されている状態にする。そこから、プローブ先端が分割して一部が前進する、あるいは後退することにより、レンズとの接触面積が80%以下になるように変形する。これによりプローブ先端とレンズとの間の保持力より、レンズの脱離しようとする力の方が勝る時点でレンズは自然に離れて目的とするパッケージ内に収容されることとなる。このときパッケージ内が既に保存液で満たされている場合には、該液中で分離することもできる。ここで、パッケージ内に予め少量の保存液を加えておくと、レンズと間に表面張力が生じ、レンズのプローブ先端からの脱離を容易にする。また、次のパッケージ工程において、保存液を満たす際に、レンズとパッケージの間に気泡が混入しにくいため、特に好ましい。
【0037】
前記例示は、第二の位置がレンズを脱離する場合について説明したが、レンズの吸着位置と、レンズの脱離位置が同一の場合もあり得る。例えば、離型工程を経たレンズをピックアップし、水和処理容器にレンズを移送するような場合である。レンズは離型工程を経た後に、負圧によりピックアップされ(第一の位置)、続いて上方に引き上げられて、それまでレンズのあった場所に、水和処理用のケースが配置され、再びプローブが下降して前記水和処理用ケース開口部(第ニの位置)にてレンズが脱離されるような場合である。本発明では、このようにレンズの実質的な位置変換を伴わない場合を含むものである。
【0038】
前記のようなレンズ移送用プローブを用いて、レンズを移送する際の実施例について説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り何ら限定されるものではないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
図1の様なプローブ先端が曲率半径8.8mmの凸状の半球面に形成され、外径13mm、内径6.5mmの環状部と外径6.5mmの中心円部とに分割可能なプローブを準備した。この環状部には略等間隔で8個の吸引用の孔(径1mm)が、中心円部には中心軸から略2mmの位置に同孔が3カ所(正三角形の頂点を形成するように)穿たれている。プローブは環状部が後退する機構を有しプローブ先端の全面積に対する中心部の面積は22%である。
【0040】
このプローブ先端を、含水率72%、直径14.2mm、ベースカーブ8.6mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:マンスウエア(株式会社メニコン製))の凹面に向けて接触(第一の位置)させ、前記孔を通して減圧度(800hPa)で吸引し、保持させた。このとき、レンズはプローブ先端の全面を覆う状態であった。
【0041】
レンズを保持したプローブを、液体を少量加えたレンズ保存用ケースの開口部に移動させ、負圧状態を解消し、プローブ全体を下降して容器内壁とレンズを接触させ(第二の位置)、環状部を上方に約5mm後退させた。次いでプローブ全体を上昇させると、レンズケース内にはレンズが配置された状態で留まり、レンズとケースの間に気泡の混入も認められなかった。また、同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様のプローブを用いて、別途同様な操作で、レンズを保持したプローブを、液体を少量加えたレンズ保存用ケースの開口部に移動(第二の位置)させ、負圧状態を解消し、下降して容器内壁とレンズを接触させた。この後、そのままプローブを上方に引き上げたが、レンズはプローブ先端に張り付いたまま容器内には移行しなかった。また、同じ操作を5回行っても、全てレンズケース内のレンズを移行させることはできなかった。
【0043】
前記結果より、環状部を後退させてレンズ接触面積を22%に減少させることにより、レンズの脱離を容易に行うことができることが判った。また、液体を少量加えたレンズケースの中でレンズとケースとの間に気泡が混入しないことも判明した。
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様な形状のプローブを準備した。このプローブは環状部が前進する機構を有し、プローブ先端の全面積に対する環状部の面積は78%である。
【0045】
このプローブ先端を、実施例1と同様に含水率72%、直径14.2mm、ベースカーブ8.6mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:マンスウエア(株式会社メニコン製))を保持させた。次に、実施例1と同様な操作で液体を少量加えた保存用ケースの開口部まで移送して、負圧状態を解消し、プローブ先端をレンズケースの上方約5mmに停止させ、環状部を前進させて容器内壁とレンズを接触(第二の位置)させた。次いでプローブを上昇させると、レンズケース内にはレンズが配置された状態で留まり、同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0046】
(実施例3)
実施例2と同様な形状のプローブを準備した。このプローブは中心部が後退する機構を有し、プローブ先端の全面積に対する環状部の面積は78%である。
【0047】
別途同様な操作で液体を少量加えた保存用ケースの開口部まで移送して、負圧状態を解消し、プローブ全体を下降して容器内壁とレンズを接触(第二の位置)させ、中心部を上方に約5mm後退させた。次いでプローブ全体を上昇させると、レンズケース内にはレンズが配置された状態で留まり、同じ操作を5回行っても、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0048】
実施例2及び実施例3より、環状部を前進又は中心部を後退させてレンズ接触面積を78%に減少させることにより、レンズの脱離を容易に行うことができることが判った。
【0049】
(実施例4)
前記プローブの外形(プローブ先端が曲率半径8.8mmの凸状の半球面に形成され、外径は13.6mm)はほぼ同様であるが、プローブ先端の分割様式が異なるプローブを準備した(図2)。すなわち、プローブ先端には外周部に径方向が約2.4mmで接線方向が約2mmの四角形を4カ所等間隔に配置した分割部を有し、四角形以外の部分で外周から約3mmの位置に6個の吸引用の孔(径1mm)が形成されている。プローブ先端の全表面積に対する四角形部の合計面積は約15%である。
【0050】
このプローブ先端を、実施例1と同様に含水率72%、直径14.2mm、ベースカーブ8.6mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:マンスウエア(株式会社メニコン製))を保持させた。次に、実施例1と同様な操作で液体を少量加えた保存用ケースの開口部まで移送して、負圧状態を解消し、プローブ全体を前進させて容器内壁とレンズを接触(第二の位置)させた。次いで四角形部を除く面状を上方に約5mm後退させた。次いでプローブ全体を上昇させると、レンズケース内にはレンズが配置された状態で留まり、同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0051】
(比較例2)
実施例4と同様のプローブを用いて、別途同様な操作で、レンズを保持したプローブを、液体を少量加えたレンズ保存用ケースの開口部に移動させ、負圧状態を解消し、下降して容器内壁とレンズを接触(第二の位置)させた。この後、そのままプローブを上方に引き上げたが、レンズはプローブ先端に張り付いたまま容器内には移行しなかった。また、同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内のレンズを移行させることはできなかった。
【0052】
前記結果より、レンズ接触面積を約15%に減少させることにより、レンズの脱離を容易に行うことができることが判った。
【0053】
(実施例5)
実施例4と同様な形状のプローブ(プローブ先端が曲率半径8.8mmの凸状の半球面に形成され、外径は13.6mm)で、プローブ先端には外周部に径方向が約2.4mmで接線方向が約1mmの四角形を4カ所等間隔に配置した分割部を有し、四角形以外の部分で外周から約3mmの位置に6個の吸引用の孔(径1mm)が形成されている。プローブ先端の全表面積に対する四角形部の合計面積は約7.5%である。
【0054】
このプローブ先端を、実施例1と同様に含水率約38%、直径13.5mm、ベースカーブ8.1mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:ソフトMA(株式会社メニコン製))を保持させた。次に、レンズを保持したプローブを、レンズ保存用ケースの開口部に移動させ、負圧状態を解消し、プローブ先端をレンズケースの上方約10mmに停止させ(第二の位置)、四角形部を5mm前進させたところ、レンズがプローブ先端から離れてレンズケース内にレンズを移行させることができた。同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0055】
(実施例6)
図4のような形状のプローブ(プローブ先端が曲率半径8.8mmの凸状の半球面に形成され、外径は13mm)で、プローブ先端が幅2mmの十字によって分割される形状を有し、十字以外の部分に9個の吸引用の孔(径1mm)が形成されている。プローブ先端の全表面積に対する十字形の面積は約40.6%である。
【0056】
このプローブ先端を、実施例1と同様に含水率72%、直径14.2mm、ベースカーブ8.6mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:マンスウエア(株式会社メニコン製))を保持させた。次に、レンズを保持したプローブを、液体を少量加えたレンズ保存用ケースの開口部に移動させ、負圧状態を解消し、プローブ先端をレンズケースの上方約5mmに停止させ、十字形部を前進させて容器内壁にレンズを接触(第二の位置)させた。ついで、そのままプローブを上方に引き上げたところレンズケース内にはレンズが配置された状態で留まった。同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0057】
(実施例7)
図5のような形状のプローブ(プローブ先端が曲率半径8.8mmの凸状の半球面に形成され、外径は13mm)で、分割されるプローブ先端が外形10mm、内径6mmの円形と幅2mmの十字形を組み合わせた形状(丸に十字形)を有し、残りの部分に4個の吸引用の孔(径1mm)が形成されている。プローブ先端の全表面積に対する分割される丸に十字形の面積は約59%である。
【0058】
このプローブ先端を、実施例1と同様に含水率72%、直径14.2mm、ベースカーブ8.6mmのソフトコンタクトレンズ(商品名:マンスウエア(株式会社メニコン製))を保持させた。次に、レンズを保持したプローブを、液体を少量加えたレンズ保存用ケースの開口部に移動させ、負圧状態を解消し、プローブ先端をレンズケースの上方約5mmに停止させ、「丸に十字形」部を前進させて容器内壁にレンズを接触(第二の位置)させた。ついで、そのままプローブを上方に引き上げたところレンズケース内にはレンズが配置された状態で留まった。同じ操作を5回行ったが、全てレンズケース内にレンズを移行させることができた。
【0059】
実施例5〜7の結果より、プローブの様々な分割形状や接触面積率においてレンズの移動と脱離を容易に行うことが出来ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、自動化されたコンタクトレンズ製造技術に利用され、モールドなどの成形工程、モールドを用いたレンズの成形工程、モールドからレンズを取り出す離型工程、レンズを含水させ未反応のモノマーや溶媒などを除去する水和工程、完成品の規格・形状・表面状態などを検査する品質管理工程、レンズをブリスターパッケージなどの容器に包装する工程など、前記各工程を連結する場面においてレンズを安全、確実、迅速、効率的に移送するための移送用プローブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は本発明のプローブ全体の一例を示す模式図である。
【図2】図2は本発明のプローブの他の例として分割動作を示す模式図である。
【図3】図3は本発明のプローブの他の例として分割動作を示す模式図である。
【図4】図4は本発明のプローブの他の例として分割動作を示す模式図である。
【図5】図5は本発明のプローブの他の例として分割動作を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 レンズ移送用プローブ
2 孔
3 吸着面
4 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを第一の位置から第二の位置へ移送するプローブであって、
プローブの先端がコンタクトレンズの形状に対応した径と形状を有し、
前記先端には負圧によりコンタクトレンズを吸引する孔を備えるとともに、
コンタクトレンズの脱離時にプローブ先端が分割されて
該プローブの一部が前進または後退することによって、コンタクトレンズとプローブとの接触面積が移送時の80%以下になることを特徴とするコンタクトレンズ移送用プローブ。
【請求項2】
プローブ先端の分割後の形状が、
コンタクトレンズ保持面に対して、幅0.5〜10mm程度の一つ以上の同心円状、直径方向に延びる幅0.5〜5mm程度の一つ以上の線状または前記線状部を除いた面状、径が略0.5〜5mm程度の一つ以上の小円または多角形または前記小円部または前記多角形部を除いた面状、およびこれらの組み合わせからなる群のいずれかの形状により接触することを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ移送用プローブ。
【請求項3】
コンタクトレンズを第一の位置から第二の位置へ移送する方法であって、
プローブの先端にコンタクトレンズの形状に対応した径と形状を有し、負圧によって吸引する孔を備えた該プローブにより、第一の位置のコンタクトレンズを吸引保持し、
コンタクトレンズを保持して第二の位置に移送し、
プローブ先端が分割されて該プローブの一部が前進または後退し、
コンタクトレンズとプローブとの接触面積を移送時の80%以下に減少して、コンタクトレンズを脱離することを特徴とするコンタクトレンズの移送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115743(P2010−115743A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290415(P2008−290415)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000222473)株式会社トーメー (20)
【Fターム(参考)】