コンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置
【課題】収穫貯留穀粒の排出作業の際のディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生を短時間で完了することができるフィルタ再生制御装置を提供する。
【解決手段】コンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、一連の収穫作業を行うコンバインの原動機(7)として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼を制御することにより、同エンジン(7)に備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)の排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始し、また、上記フィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の貯留量に基づくエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに貯留量が達した時点から、フィルタ(8)を再生しうる温度まで排気を昇温する事前昇温制御を行うものである。
【解決手段】コンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、一連の収穫作業を行うコンバインの原動機(7)として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼を制御することにより、同エンジン(7)に備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)の排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始し、また、上記フィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の貯留量に基づくエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに貯留量が達した時点から、フィルタ(8)を再生しうる温度まで排気を昇温する事前昇温制御を行うものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取走行から貯留籾の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインの原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼制御により、同エンジンから排出される粒子状物質を濾過除去するディーゼルパティキュレートフィルタの目詰まりを解消して濾過機能を再生するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射制御によって排気環境対策が可能なコモンレール式ディーゼルエンジンの排気管にディーゼルパティキュレートフィルタ(以後、「DPF」または単に「フィルタ」という。)を設けて排気中の粒子状物質を濾過除去し、そのDPF中に集積された粒子状物質は、高負荷運転による高温排気によって燃焼されることによりDPFの濾過機能が再生され、また、軽負荷運転時は排気温度が上がらないことから、エンジンの燃料噴射制御によってDPFの目詰まりに基づくDPF再生制御を行い、ポスト噴射による高温排気を用いてDPFを強制的に再生することができる。
【0003】
コンバインによる収穫作業においては、刈取走行の後にエンジンを安定して運転できる貯留籾の排出作業の際に、排出レバーの操作を開始条件として上記DPF再生制御を適用することにより、軽負荷運転によりDPF中に集積された粒子状物質を除去してDPFの目詰まりを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−7597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポスト噴射によってフィルタの強制再生を開始しても、DPF中に集積された粒子状物質は、排気温度が十分に上がるまでは燃焼が進まず、再生完了までに長時間を要することがあり、一方、コンバインの一連の収穫作業においては、貯留籾の排出作業の終了に続いて刈取走行作業を直ちに再開する必要から、比較的長時間を要するDPF再生の完了を待たずに、次の刈取走行作業に入らざるをえないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、コンバインの原動機として搭載したディーゼルパティキュレートフィルタ付きのコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼制御により、同フィルタの目詰まりの際に収穫貯留物の排出操作を開始条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置において、同フィルタの再生を短時間で完了することができるコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、走行部(2)、刈取部(3)、脱穀部(4)、および貯留部(5)を備えて刈取走行から収穫された貯留穀粒の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインにおいて、その原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の排気中の粒子状物質を濾過除去するために備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)からの穀粒排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備えると共に、上記ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに穀粒貯留量が達した時点から、燃焼制御によってディーゼルパティキュレートフィルタ(8)を再生しうる温度まで排気温度を昇温する事前昇温制御を行う構成としたことを特徴とするコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置とする。
【0008】
上記構成のフィルタ再生制御装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時に貯留部(5)の貯留量に基づくコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気が昇温された後に、該ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時の貯留部(5)の排出操作を条件としてコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼を制御してポスト噴射による強制再生制御を開始することから、この強制再生制御の開始とともにディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生が開始される。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量を調節して燃焼制御をする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置とする。上記コモンレール式ディーゼルエンジン(7)の吸気の絞り量を調節することにより、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気が昇温される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によるディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時に貯留部(5)の貯留量に基づくコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生を開始しうる温度まで排気が昇温されることから、その後における貯留部(5)の排出操作による強制再生制御の開始とともにディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生に移行するので、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生が短時間で終了し、収穫貯留物の排出作業の終了とともに、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを残すことなく次の刈取走行作業に向かうことができ、コンバインの作業能率を高めることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によるフィルタ再生制御装置は、請求項1に係る発明の効果に加え、エンジン吸気の絞り量を調節してディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気を昇温することから、コンバインの稼動を続行しつつフィルタ再生の準備を進めることができ、作業能率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フィルタ再生制御装置による制御処理のフローチャート
【図2】ハイブリッド車についてのフローチャート
【図3】軽負荷時の制御処理のフローチャート
【図4】燃料噴射パターン(a〜e)
【図5】煤堆積量計測のタイミングチャート
【図6】DPFの全体構成図
【図7】緊急停止時の制御処理のフローチャート
【図8】コンバインの側面図(a)とその正面図(b)
【図9】タイミング制御のシステム構成図
【図10】タイミング制御処理のフローチャート
【図11】噴射制御例のタイミングチャート
【図12】DPF自動再生のタイミングチャート
【図13】DPFの手動再生時のコンバインの背面図
【図14】DPFの手動再生時のフローチャート
【図15】内部透視表記によるコンバインの側面図
【図16】内部透視表記によるコンバインの平面図
【図17】内部透視表記によるコンバインの背面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置の適用対象のコンバイン1は、図8に示すように、走行部2、刈取部3、脱穀部4、オーガ5aによる排出機構付きのグレンタンクによる貯留部5、および操縦部6を備えて刈取走行から貯留物の排出までの一連の収穫作業を行い、その作業動力を供給する原動機としてコモンレール式ディーゼルエンジン7を搭載し、また、同エンジン7の排気中の粒子状物質を濾過して捕集除去するディーゼルパティキュレートフィルタ8と、不図示のディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備える。
【0014】
上記フィルタ再生制御装置は、フィルタ8の目詰まり解消のためのエンジン7の燃焼制御を行うことにより、フィルタ8の目詰まりを条件として、貯留部5からの貯留物の排出操作の時点から同フィルタ8の強制再生のための後述のポスト噴射を開始する強制再生制御と、フィルタ8の目詰まりを条件として、貯留部5の満量レベルの近傍に設定した所定の基準レベルに貯留量が達した時点から、フィルタ8の再生を開始しうる温度まで排気を昇温する事前昇温制御とを行う。排出操作は、操縦部6等に配置された排出レバー等をオペレータが操作したときの操作信号によって検出し、フィルタ8の目詰まりは、その前後に設けた圧力センサの差等によって検出する。また、事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量調節等の制御による。
【0015】
上記構成のディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、事前昇温制御により、フィルタの目詰まり時に貯留部5の貯留量に基づくエンジンの燃焼制御により、貯留部の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとフィルタの再生を開始しうる温度まで排気が昇温され、その後において、強制再生制御により、フィルタの目詰まり時に貯留部の排出操作の時点からエンジンの燃焼を制御してポスト噴射を開始することから、この強制再生制御の開始とともにフィルタ再生が開始されるので、フィルタ再生が短時間で終了し、収穫貯留物の排出作業の終了とともに、フィルタの目詰まりを残すことなく次の刈取走行作業に向かうことができる。
【0016】
フィルタ再生制御装置による具体的な制御処理は、図1のフローチャートに示すように、DPF差圧監視の処理を行うステップ1(以下において、「S1」の如く略記する。)により、フィルタ8の前後に配置した2つの圧力センサー間の差圧を算出して監視し、その差圧からフィルタ再生が必要と判定される基準値に達するとともに、グレンタンクの籾センサが「満タン」となった時点(S2,S3)で、エンジンの吸気スロットルバルブを回転数に応じて閉じていくことによって排気温度を上昇させ(S4)、貯留部5からの貯留物の排出操作によって籾排出工程に入った時点(S5)で、すぐさまポスト噴射を開始するようにエンジンの燃焼制御を行う(S6)。上記「満タン」は、満量レベルの近傍に設定した基準レベルとして、「90%」等に定めることができる。
【0017】
上記制御処理を行うフィルタ再生制御装置は、グレンタンク5が満杯になった時点でエンジン吸気スロットルのバルブを適正位置まで閉じ、意図的に排気温度を上昇させてDPF内の温度を高温に維持することで、籾排出工程に入った時に、すぐさまポスト噴射を開始してDPF8内の煤の燃焼を行うことができる。したがって、DPF8の再生完了までの時間が短縮され、比較的短時間の籾排出工程が終わり次第、次の作業に入ることができる。
【0018】
このような自動再生に対して、手動再生でDPF8内の煤を燃焼させることによってもDPF8の詰まりを解消することができるが、実作業では、必ずしもすぐさま手動再生できる作業タイミングが訪れるとは限らず、なるべく作業を中止することなく再生を行えることがとても重要である。コンバイン作業では、籾排出行程が必ずあるので、その時に同時に再生を行えれば良いが、籾排出時間自体はそれほど長いわけでもなく、籾排出が始まってから再生制御を開始したのでは、再生終了まで長時間を要するという問題があり、上記フィルタ再生制御によってそのような問題を解決することができる。
【0019】
(ハイブリッド車)
次に、DPF8を装着した発電モータの付いたハイブリッド式コンバインの例について説明すると、DPF8に溜まった煤を短時間の籾排出時に自動再生できるように、グレンタンク5内に籾が満タンになった時から、強制的に発電をさせ、排気温度を上昇させるように再生制御を行うことにより、排気温度を上昇させるエネルギを発電によって回収することができ、効率的に再生制御を行うことができる。
【0020】
具体的には、図2のフローチャートに示すように、前述の図1の処理フローにおける吸気調節(S4)の代わりに、モータ発電を開始(S11)し、DPF強制再生が終わった時点でモータ発電を停止(S12)するように制御処理を構成する。
【0021】
(軽負荷時)
次に、路上走行時または籾排出時等の軽負荷時でDPFの前後差圧が大きく、煤溜まりが一定範囲の場合に自動再生制御を行うことにより、効率の良いDPF再生とコンバイン作業を行うことが可能となる。詳細には、図3のフローチャートに示すように、負荷が大きく排気温度の高い作業時はDPFの自動再生を行わず、負荷が小さく排気温度の低い籾排出時や路上走行時に限定してポスト噴射制御による自動再生制御を行う(S21,S22)。
【0022】
(ポスト噴射)
エンジンの燃焼制御におけるポスト噴射について説明すると、図4の多様な燃料噴射パターンに示すように、高圧噴射Cを中心に、パイロット噴射A、プレ噴射B、後噴射Dの組合せによる通常作業時の第1〜第4のパターン(a〜d)に対して、ポスト噴射Eを有する第5の燃料噴射パターン(e)は、路上走行、籾排出、手動再生時において、NOx触媒制御のためのポスト噴射Eをさらに遅れた角度位置に付加することにより、排気を昇温してDPF再生を行う。なお、高圧噴射Cは1600気圧以上で完全燃焼により粒子状物質を減少させるとともに燃費改善を図り、複数回の噴射により燃焼室の高温化を防いでNOxを低減させ、パイロット噴射A、プレ噴射Bは騒音低減、後噴射Dは粒子状物質低減として作用する。
【0023】
(堆積量計測)
DPFの煤堆積の検出について説明すると、DPFの煤堆積量計測は、詳細には、図5のタイミングチャートに示すように、籾排出モードを感知した時点で、DPFの前後差圧をセンシングすることにより行う。籾排出モードは、貯留部の籾排出の際の数分間の停車における安定負荷によってシステム挙動が安定していることから、高精度で定量的に計測することができ、貯留部の籾排出の際に正確に計測することにより、効率的なフィルタ再生運転が可能となる。
【0024】
上記計測方法により、従来方法による問題点、すなわち、運転時間や燃料噴射量積算値をベースに算出する従来方法では、運転条件や環境条件による影響が大きく、フィルタ再生のための運転が頻繁に発生して作業への制約や燃料消費の低下を招くという問題を解消することができる。
【0025】
(緊急停止)
次に、コンバインの緊急停止スイッチが押され、エンジンが急停止した場合について説明すると、DPF内の煤が着火している場合、煤の燃焼により異常に温度が上昇し、DPF内部の破損や溶着が発生する場合があることから、DPFを保護するために、コンバインの緊急停止時には、DPFの入口と出口のバルブを全閉するように制御する。
【0026】
詳細には、図6のDPFの全体構成図に示すように、DPF8の入口側のDOC前バルブ11と出口側のDPF後バルブ12とを設け、緊急停止スイッチ13の信号をECU14に受けて両バルブ11,12を全閉するように構成し、DPF8の空気遮断によって強制再生時の燃焼を抑制することにより、異常燃焼による温度上昇を防止することができる。
【0027】
具体的な制御処理は、図7のフローチャートに示すように、緊急停止スイッチ13が押された場合(S31〜S33)には、触媒前後のバルブ11,12を閉じるように制御することにより、空気を遮断して強制再生時の燃焼を抑制し、異常燃焼による温度の上昇を防止することができる。
【0028】
(DPF配置)
DPF8の配置について説明すると、図8のコンバインの側面図(a)と正面図(b)をに示すように、グレンタンク5の上部をDPFルーム21として排藁等の可燃性のものから完全分離してDPF8を配置するように構成することにより、麦や稲の藁が大量に存在する収穫機械における火災を防止することができる。
【0029】
(噴射タイミング)
走行車速調節用のHSTレバーが低速位置の場合に、負荷が軽く排気温度が低いことからDPF再生の効率が悪いという従来の問題を解決するために、図9のシステム構成図に示すように、DPF再生時には、HST31の位置によってアフター噴射およびポスト噴射のタイミングを制御するように構成する。
【0030】
詳細な制御処理は、図10のタイミング制御処理のフローチャートに示すように、HSTの開度(位置)を読み取って(S41〜S43)、HST31の位置によってアフター噴射およびポスト噴射のタイミングを制御し(S44,S45)、そのタイミングチャートを図11に示すように、HST31が低速位置ではアフター噴射およびポスト噴射のタイミングをリタードして排気温度を上昇する制御を行い、HSTが高速位置になるにつれてタイミングを進角するとともに噴射量を少なくすることにより、HSTが低速位置では再生効率を向上し、HSTが高速位置では燃費を向上することができる。
【0031】
(移動走行対応)
副変速レバーを「走行」位置にしてコンバインが移動走行する軽負荷状況ではDPF8に堆積された粒子状物質の燃焼ができないことから、副変速レバーを「走行」にした時に走行運転中にエンジンの吸気スロットルを絞り、DPF8の温度を上昇させてDPFの自動再生を行うことにより、手動再生の頻度を下げてユーザ負担を軽減することができる。
【0032】
詳細には、コンバインが路上走行のために副変速レバーを「走行」に入れて走行状態にあるときのみ、エンジン7の吸気スロットルを出力に影響のないレベルまで絞って排気温度を上昇させ、DPF自動再生を促進させることができる。一方、全負荷作業中に吸気スロットルを絞ると、瞬間的なレスポンスを損なうのみならず、黒煙吐煙の原因となることから、温度条件から自動再生に入りにくい走行時に限定して吸気スロットルを絞り、排気温を250℃以上にしてポスト噴射を行い、結果DPF内温度を600℃にキープすることで、走行中のDPF再生が可能となる。
【0033】
(再生制御時期)
燃料噴射装置のマルチ噴射機能によるDPF自動再生は、負荷変動が発生する運転領域ではDPF内の温度が安定せず、安定した再生制御が困難なことから、図12のDPF自動再生のタイミングチャートに示すように、車両での籾排出モードを感知した時点で自動再生モードへ移行させ、ポスト噴射制御を行う。このように、貯留部5の籾排出の際の数分間の停車により負荷が安定しており、ポスト噴射することによりDPF内での再生温度を安定して制御することができる。
【0034】
(手動再生)
DPF8の手動再生の際は、図13のコンバインの背面図に示すように、姿勢調節のために左シリンダを上げてマフラーテール41を地上から遠ざけることにより、圃場の廃わら42が高温排気による引火を回避して火災を防止することができる。詳細には、図14のフローチャートに示すように、手動再生開始時の左シリンダのアップ制御(S51,S52)と、手動再生終了時の左シリンダのダウン制御(S53)を行う。
【0035】
(DPF搭載構造)
DPF8は、図15〜図17に、内部透視によるコンバインの側面図、平面図、背面図を示すように、エンジン7とグレンタンク5の間で走行フレーム51に固定する。エンジン冷却ファン7aを機体右側方向に向けた状態で走行フレーム51に不図示の防振装置を介在させて搭載し、前方にラジエタ7bを配置する。エンジン排気口52は機体後方に延長して設け、また、DPF8と排気口52とを連結する排気パイプ53は、DPF8からエンジン7の上方に向けて突出させ、排気パイプ53と排気口52とをフレキシブルパイプ54で鉛直方向に連結する。エンジンリアカバー55の下部を後側に膨らまし、その空間部にDPF8を内装するようにしてエンジンルームを形成する。
【0036】
上記DPF8の搭載構成により、DPF8はエンジンルーム内の走行フレーム51に確実に固定され、排気パイプ53がエンジンルーム内でDPF8に連結されるので、排気温度が低下することなくDPF8に案内されることから、排気性能を安定してコンパクトにDPF8を配置することができる。
【0037】
(グレンタンク)
グレンタンク5には伝動シャフト61を設け、この伝動シャフト61はラジエタ7bの下方の空間で機体前後方向に配置し、エンジンフロントから動力を伝達し、操縦席6aの下方にギヤボックス62を配置してDPF8の機体外側にグレンタンク伝動系を構成する。このようにグレンタンク伝動系を構成することにより、グレンタンク5とエンジン7の間にDPF8を搭載してもタンク伝動が障害となることなく隙間を狭くしてグレンタンク5のタンク容量を大きくとることができる。
【0038】
グレンタンク5は、排出螺旋駆動部5bを固定構成し、この排出螺旋駆動部5bの上側に貯留部5cを着脱可能に上下分割式に構成する。また、エアクリーナ71はエンジンカバー72の上方に配置し、機体側面のラジエタカバー73の側面視投影内にDPF8とエアクリーナ71を配置し、ラジエタカバー73は機体右方にオープン可能にその下端を軸支してDPF8とエアクリーナ71を覆う。DPF8の上方には、グレンタンク5を前方のエンジン側に膨らましてエンジンカバー55とグレンタンク5の隙間をタンク増量スペースとし、グレンタンク5に対して側面視でラジエタカバー73が外側から重なるように構成する。
【0039】
上記構成により、ラジエタカバー73をオープンするだけでDPF8とエアクリーナ71が露出し、メンテナンスが容易にできる。また、グレンタンク5の増量を図りつつ、エアクリーナ71はDPF8から距離をおくことにより、同DPF8から熱せられることなく機能することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 コンバイン
2 走行部
3 刈取部
4 脱穀部
5 貯留部(グレンタンク)
5a オーガ(排出機)
7 原動機(コモンレール式ディーゼルエンジン)
8 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
A パイロット噴射
B プレ噴射
C 高圧噴射
D 後噴射
E ポスト噴射
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取走行から貯留籾の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインの原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼制御により、同エンジンから排出される粒子状物質を濾過除去するディーゼルパティキュレートフィルタの目詰まりを解消して濾過機能を再生するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射制御によって排気環境対策が可能なコモンレール式ディーゼルエンジンの排気管にディーゼルパティキュレートフィルタ(以後、「DPF」または単に「フィルタ」という。)を設けて排気中の粒子状物質を濾過除去し、そのDPF中に集積された粒子状物質は、高負荷運転による高温排気によって燃焼されることによりDPFの濾過機能が再生され、また、軽負荷運転時は排気温度が上がらないことから、エンジンの燃料噴射制御によってDPFの目詰まりに基づくDPF再生制御を行い、ポスト噴射による高温排気を用いてDPFを強制的に再生することができる。
【0003】
コンバインによる収穫作業においては、刈取走行の後にエンジンを安定して運転できる貯留籾の排出作業の際に、排出レバーの操作を開始条件として上記DPF再生制御を適用することにより、軽負荷運転によりDPF中に集積された粒子状物質を除去してDPFの目詰まりを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−7597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポスト噴射によってフィルタの強制再生を開始しても、DPF中に集積された粒子状物質は、排気温度が十分に上がるまでは燃焼が進まず、再生完了までに長時間を要することがあり、一方、コンバインの一連の収穫作業においては、貯留籾の排出作業の終了に続いて刈取走行作業を直ちに再開する必要から、比較的長時間を要するDPF再生の完了を待たずに、次の刈取走行作業に入らざるをえないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、コンバインの原動機として搭載したディーゼルパティキュレートフィルタ付きのコモンレール式ディーゼルエンジンの燃焼制御により、同フィルタの目詰まりの際に収穫貯留物の排出操作を開始条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置において、同フィルタの再生を短時間で完了することができるコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、走行部(2)、刈取部(3)、脱穀部(4)、および貯留部(5)を備えて刈取走行から収穫された貯留穀粒の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインにおいて、その原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の排気中の粒子状物質を濾過除去するために備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)からの穀粒排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備えると共に、上記ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに穀粒貯留量が達した時点から、燃焼制御によってディーゼルパティキュレートフィルタ(8)を再生しうる温度まで排気温度を昇温する事前昇温制御を行う構成としたことを特徴とするコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置とする。
【0008】
上記構成のフィルタ再生制御装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時に貯留部(5)の貯留量に基づくコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気が昇温された後に、該ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時の貯留部(5)の排出操作を条件としてコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼を制御してポスト噴射による強制再生制御を開始することから、この強制再生制御の開始とともにディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生が開始される。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量を調節して燃焼制御をする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置とする。上記コモンレール式ディーゼルエンジン(7)の吸気の絞り量を調節することにより、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気が昇温される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によるディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まり時に貯留部(5)の貯留量に基づくコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の燃焼制御により、貯留部(5)の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生を開始しうる温度まで排気が昇温されることから、その後における貯留部(5)の排出操作による強制再生制御の開始とともにディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生に移行するので、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の再生が短時間で終了し、収穫貯留物の排出作業の終了とともに、ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを残すことなく次の刈取走行作業に向かうことができ、コンバインの作業能率を高めることができる。
【0011】
請求項2に係る発明によるフィルタ再生制御装置は、請求項1に係る発明の効果に加え、エンジン吸気の絞り量を調節してディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の強制再生を開始しうる温度まで排気を昇温することから、コンバインの稼動を続行しつつフィルタ再生の準備を進めることができ、作業能率を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フィルタ再生制御装置による制御処理のフローチャート
【図2】ハイブリッド車についてのフローチャート
【図3】軽負荷時の制御処理のフローチャート
【図4】燃料噴射パターン(a〜e)
【図5】煤堆積量計測のタイミングチャート
【図6】DPFの全体構成図
【図7】緊急停止時の制御処理のフローチャート
【図8】コンバインの側面図(a)とその正面図(b)
【図9】タイミング制御のシステム構成図
【図10】タイミング制御処理のフローチャート
【図11】噴射制御例のタイミングチャート
【図12】DPF自動再生のタイミングチャート
【図13】DPFの手動再生時のコンバインの背面図
【図14】DPFの手動再生時のフローチャート
【図15】内部透視表記によるコンバインの側面図
【図16】内部透視表記によるコンバインの平面図
【図17】内部透視表記によるコンバインの背面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置の適用対象のコンバイン1は、図8に示すように、走行部2、刈取部3、脱穀部4、オーガ5aによる排出機構付きのグレンタンクによる貯留部5、および操縦部6を備えて刈取走行から貯留物の排出までの一連の収穫作業を行い、その作業動力を供給する原動機としてコモンレール式ディーゼルエンジン7を搭載し、また、同エンジン7の排気中の粒子状物質を濾過して捕集除去するディーゼルパティキュレートフィルタ8と、不図示のディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備える。
【0014】
上記フィルタ再生制御装置は、フィルタ8の目詰まり解消のためのエンジン7の燃焼制御を行うことにより、フィルタ8の目詰まりを条件として、貯留部5からの貯留物の排出操作の時点から同フィルタ8の強制再生のための後述のポスト噴射を開始する強制再生制御と、フィルタ8の目詰まりを条件として、貯留部5の満量レベルの近傍に設定した所定の基準レベルに貯留量が達した時点から、フィルタ8の再生を開始しうる温度まで排気を昇温する事前昇温制御とを行う。排出操作は、操縦部6等に配置された排出レバー等をオペレータが操作したときの操作信号によって検出し、フィルタ8の目詰まりは、その前後に設けた圧力センサの差等によって検出する。また、事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量調節等の制御による。
【0015】
上記構成のディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置は、事前昇温制御により、フィルタの目詰まり時に貯留部5の貯留量に基づくエンジンの燃焼制御により、貯留部の満量位置の近傍に設定した基準量まで貯留量が増加するとフィルタの再生を開始しうる温度まで排気が昇温され、その後において、強制再生制御により、フィルタの目詰まり時に貯留部の排出操作の時点からエンジンの燃焼を制御してポスト噴射を開始することから、この強制再生制御の開始とともにフィルタ再生が開始されるので、フィルタ再生が短時間で終了し、収穫貯留物の排出作業の終了とともに、フィルタの目詰まりを残すことなく次の刈取走行作業に向かうことができる。
【0016】
フィルタ再生制御装置による具体的な制御処理は、図1のフローチャートに示すように、DPF差圧監視の処理を行うステップ1(以下において、「S1」の如く略記する。)により、フィルタ8の前後に配置した2つの圧力センサー間の差圧を算出して監視し、その差圧からフィルタ再生が必要と判定される基準値に達するとともに、グレンタンクの籾センサが「満タン」となった時点(S2,S3)で、エンジンの吸気スロットルバルブを回転数に応じて閉じていくことによって排気温度を上昇させ(S4)、貯留部5からの貯留物の排出操作によって籾排出工程に入った時点(S5)で、すぐさまポスト噴射を開始するようにエンジンの燃焼制御を行う(S6)。上記「満タン」は、満量レベルの近傍に設定した基準レベルとして、「90%」等に定めることができる。
【0017】
上記制御処理を行うフィルタ再生制御装置は、グレンタンク5が満杯になった時点でエンジン吸気スロットルのバルブを適正位置まで閉じ、意図的に排気温度を上昇させてDPF内の温度を高温に維持することで、籾排出工程に入った時に、すぐさまポスト噴射を開始してDPF8内の煤の燃焼を行うことができる。したがって、DPF8の再生完了までの時間が短縮され、比較的短時間の籾排出工程が終わり次第、次の作業に入ることができる。
【0018】
このような自動再生に対して、手動再生でDPF8内の煤を燃焼させることによってもDPF8の詰まりを解消することができるが、実作業では、必ずしもすぐさま手動再生できる作業タイミングが訪れるとは限らず、なるべく作業を中止することなく再生を行えることがとても重要である。コンバイン作業では、籾排出行程が必ずあるので、その時に同時に再生を行えれば良いが、籾排出時間自体はそれほど長いわけでもなく、籾排出が始まってから再生制御を開始したのでは、再生終了まで長時間を要するという問題があり、上記フィルタ再生制御によってそのような問題を解決することができる。
【0019】
(ハイブリッド車)
次に、DPF8を装着した発電モータの付いたハイブリッド式コンバインの例について説明すると、DPF8に溜まった煤を短時間の籾排出時に自動再生できるように、グレンタンク5内に籾が満タンになった時から、強制的に発電をさせ、排気温度を上昇させるように再生制御を行うことにより、排気温度を上昇させるエネルギを発電によって回収することができ、効率的に再生制御を行うことができる。
【0020】
具体的には、図2のフローチャートに示すように、前述の図1の処理フローにおける吸気調節(S4)の代わりに、モータ発電を開始(S11)し、DPF強制再生が終わった時点でモータ発電を停止(S12)するように制御処理を構成する。
【0021】
(軽負荷時)
次に、路上走行時または籾排出時等の軽負荷時でDPFの前後差圧が大きく、煤溜まりが一定範囲の場合に自動再生制御を行うことにより、効率の良いDPF再生とコンバイン作業を行うことが可能となる。詳細には、図3のフローチャートに示すように、負荷が大きく排気温度の高い作業時はDPFの自動再生を行わず、負荷が小さく排気温度の低い籾排出時や路上走行時に限定してポスト噴射制御による自動再生制御を行う(S21,S22)。
【0022】
(ポスト噴射)
エンジンの燃焼制御におけるポスト噴射について説明すると、図4の多様な燃料噴射パターンに示すように、高圧噴射Cを中心に、パイロット噴射A、プレ噴射B、後噴射Dの組合せによる通常作業時の第1〜第4のパターン(a〜d)に対して、ポスト噴射Eを有する第5の燃料噴射パターン(e)は、路上走行、籾排出、手動再生時において、NOx触媒制御のためのポスト噴射Eをさらに遅れた角度位置に付加することにより、排気を昇温してDPF再生を行う。なお、高圧噴射Cは1600気圧以上で完全燃焼により粒子状物質を減少させるとともに燃費改善を図り、複数回の噴射により燃焼室の高温化を防いでNOxを低減させ、パイロット噴射A、プレ噴射Bは騒音低減、後噴射Dは粒子状物質低減として作用する。
【0023】
(堆積量計測)
DPFの煤堆積の検出について説明すると、DPFの煤堆積量計測は、詳細には、図5のタイミングチャートに示すように、籾排出モードを感知した時点で、DPFの前後差圧をセンシングすることにより行う。籾排出モードは、貯留部の籾排出の際の数分間の停車における安定負荷によってシステム挙動が安定していることから、高精度で定量的に計測することができ、貯留部の籾排出の際に正確に計測することにより、効率的なフィルタ再生運転が可能となる。
【0024】
上記計測方法により、従来方法による問題点、すなわち、運転時間や燃料噴射量積算値をベースに算出する従来方法では、運転条件や環境条件による影響が大きく、フィルタ再生のための運転が頻繁に発生して作業への制約や燃料消費の低下を招くという問題を解消することができる。
【0025】
(緊急停止)
次に、コンバインの緊急停止スイッチが押され、エンジンが急停止した場合について説明すると、DPF内の煤が着火している場合、煤の燃焼により異常に温度が上昇し、DPF内部の破損や溶着が発生する場合があることから、DPFを保護するために、コンバインの緊急停止時には、DPFの入口と出口のバルブを全閉するように制御する。
【0026】
詳細には、図6のDPFの全体構成図に示すように、DPF8の入口側のDOC前バルブ11と出口側のDPF後バルブ12とを設け、緊急停止スイッチ13の信号をECU14に受けて両バルブ11,12を全閉するように構成し、DPF8の空気遮断によって強制再生時の燃焼を抑制することにより、異常燃焼による温度上昇を防止することができる。
【0027】
具体的な制御処理は、図7のフローチャートに示すように、緊急停止スイッチ13が押された場合(S31〜S33)には、触媒前後のバルブ11,12を閉じるように制御することにより、空気を遮断して強制再生時の燃焼を抑制し、異常燃焼による温度の上昇を防止することができる。
【0028】
(DPF配置)
DPF8の配置について説明すると、図8のコンバインの側面図(a)と正面図(b)をに示すように、グレンタンク5の上部をDPFルーム21として排藁等の可燃性のものから完全分離してDPF8を配置するように構成することにより、麦や稲の藁が大量に存在する収穫機械における火災を防止することができる。
【0029】
(噴射タイミング)
走行車速調節用のHSTレバーが低速位置の場合に、負荷が軽く排気温度が低いことからDPF再生の効率が悪いという従来の問題を解決するために、図9のシステム構成図に示すように、DPF再生時には、HST31の位置によってアフター噴射およびポスト噴射のタイミングを制御するように構成する。
【0030】
詳細な制御処理は、図10のタイミング制御処理のフローチャートに示すように、HSTの開度(位置)を読み取って(S41〜S43)、HST31の位置によってアフター噴射およびポスト噴射のタイミングを制御し(S44,S45)、そのタイミングチャートを図11に示すように、HST31が低速位置ではアフター噴射およびポスト噴射のタイミングをリタードして排気温度を上昇する制御を行い、HSTが高速位置になるにつれてタイミングを進角するとともに噴射量を少なくすることにより、HSTが低速位置では再生効率を向上し、HSTが高速位置では燃費を向上することができる。
【0031】
(移動走行対応)
副変速レバーを「走行」位置にしてコンバインが移動走行する軽負荷状況ではDPF8に堆積された粒子状物質の燃焼ができないことから、副変速レバーを「走行」にした時に走行運転中にエンジンの吸気スロットルを絞り、DPF8の温度を上昇させてDPFの自動再生を行うことにより、手動再生の頻度を下げてユーザ負担を軽減することができる。
【0032】
詳細には、コンバインが路上走行のために副変速レバーを「走行」に入れて走行状態にあるときのみ、エンジン7の吸気スロットルを出力に影響のないレベルまで絞って排気温度を上昇させ、DPF自動再生を促進させることができる。一方、全負荷作業中に吸気スロットルを絞ると、瞬間的なレスポンスを損なうのみならず、黒煙吐煙の原因となることから、温度条件から自動再生に入りにくい走行時に限定して吸気スロットルを絞り、排気温を250℃以上にしてポスト噴射を行い、結果DPF内温度を600℃にキープすることで、走行中のDPF再生が可能となる。
【0033】
(再生制御時期)
燃料噴射装置のマルチ噴射機能によるDPF自動再生は、負荷変動が発生する運転領域ではDPF内の温度が安定せず、安定した再生制御が困難なことから、図12のDPF自動再生のタイミングチャートに示すように、車両での籾排出モードを感知した時点で自動再生モードへ移行させ、ポスト噴射制御を行う。このように、貯留部5の籾排出の際の数分間の停車により負荷が安定しており、ポスト噴射することによりDPF内での再生温度を安定して制御することができる。
【0034】
(手動再生)
DPF8の手動再生の際は、図13のコンバインの背面図に示すように、姿勢調節のために左シリンダを上げてマフラーテール41を地上から遠ざけることにより、圃場の廃わら42が高温排気による引火を回避して火災を防止することができる。詳細には、図14のフローチャートに示すように、手動再生開始時の左シリンダのアップ制御(S51,S52)と、手動再生終了時の左シリンダのダウン制御(S53)を行う。
【0035】
(DPF搭載構造)
DPF8は、図15〜図17に、内部透視によるコンバインの側面図、平面図、背面図を示すように、エンジン7とグレンタンク5の間で走行フレーム51に固定する。エンジン冷却ファン7aを機体右側方向に向けた状態で走行フレーム51に不図示の防振装置を介在させて搭載し、前方にラジエタ7bを配置する。エンジン排気口52は機体後方に延長して設け、また、DPF8と排気口52とを連結する排気パイプ53は、DPF8からエンジン7の上方に向けて突出させ、排気パイプ53と排気口52とをフレキシブルパイプ54で鉛直方向に連結する。エンジンリアカバー55の下部を後側に膨らまし、その空間部にDPF8を内装するようにしてエンジンルームを形成する。
【0036】
上記DPF8の搭載構成により、DPF8はエンジンルーム内の走行フレーム51に確実に固定され、排気パイプ53がエンジンルーム内でDPF8に連結されるので、排気温度が低下することなくDPF8に案内されることから、排気性能を安定してコンパクトにDPF8を配置することができる。
【0037】
(グレンタンク)
グレンタンク5には伝動シャフト61を設け、この伝動シャフト61はラジエタ7bの下方の空間で機体前後方向に配置し、エンジンフロントから動力を伝達し、操縦席6aの下方にギヤボックス62を配置してDPF8の機体外側にグレンタンク伝動系を構成する。このようにグレンタンク伝動系を構成することにより、グレンタンク5とエンジン7の間にDPF8を搭載してもタンク伝動が障害となることなく隙間を狭くしてグレンタンク5のタンク容量を大きくとることができる。
【0038】
グレンタンク5は、排出螺旋駆動部5bを固定構成し、この排出螺旋駆動部5bの上側に貯留部5cを着脱可能に上下分割式に構成する。また、エアクリーナ71はエンジンカバー72の上方に配置し、機体側面のラジエタカバー73の側面視投影内にDPF8とエアクリーナ71を配置し、ラジエタカバー73は機体右方にオープン可能にその下端を軸支してDPF8とエアクリーナ71を覆う。DPF8の上方には、グレンタンク5を前方のエンジン側に膨らましてエンジンカバー55とグレンタンク5の隙間をタンク増量スペースとし、グレンタンク5に対して側面視でラジエタカバー73が外側から重なるように構成する。
【0039】
上記構成により、ラジエタカバー73をオープンするだけでDPF8とエアクリーナ71が露出し、メンテナンスが容易にできる。また、グレンタンク5の増量を図りつつ、エアクリーナ71はDPF8から距離をおくことにより、同DPF8から熱せられることなく機能することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 コンバイン
2 走行部
3 刈取部
4 脱穀部
5 貯留部(グレンタンク)
5a オーガ(排出機)
7 原動機(コモンレール式ディーゼルエンジン)
8 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
A パイロット噴射
B プレ噴射
C 高圧噴射
D 後噴射
E ポスト噴射
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行部(2)、刈取部(3)、脱穀部(4)、および貯留部(5)を備えて刈取走行から収穫された貯留穀粒の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインにおいて、その原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の排気中の粒子状物質を濾過除去するために備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)からの穀粒排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備えると共に、
上記ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに穀粒貯留量が達した時点から、燃焼制御によってディーゼルパティキュレートフィルタ(8)を再生しうる温度まで排気温度を昇温する事前昇温制御を行う構成としたことを特徴とするコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置。
【請求項2】
前記事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量を調節して燃焼制御をする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置。
【請求項1】
走行部(2)、刈取部(3)、脱穀部(4)、および貯留部(5)を備えて刈取走行から収穫された貯留穀粒の排出までの一連の収穫作業を行うコンバインにおいて、その原動機として搭載したコモンレール式ディーゼルエンジン(7)の排気中の粒子状物質を濾過除去するために備えたディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりの際に、貯留部(5)からの穀粒排出操作を条件としてポスト噴射による強制再生制御を開始するコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置を備えると共に、
上記ディーゼルパティキュレートフィルタ(8)の目詰まりを条件として、貯留部(5)の満量レベルの近傍に設定した基準レベルに穀粒貯留量が達した時点から、燃焼制御によってディーゼルパティキュレートフィルタ(8)を再生しうる温度まで排気温度を昇温する事前昇温制御を行う構成としたことを特徴とするコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置。
【請求項2】
前記事前昇温制御は、エンジン吸気の絞り量を調節して燃焼制御をする構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインのディーゼルパティキュレートフィルタ再生制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−190738(P2011−190738A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57042(P2010−57042)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】
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