説明

コンバイン

【課題】補助送風ファン35付きの脱穀装置を有するコンバインにおいて、圃場の枕地にて方向転換するときに、三番ロスや粉塵立ちの発生を抑制する。
【解決手段】フィードチェン6と補助送風ファン35とが同じ系統の動力伝達系に属する構成にする。前記動力伝達系におけるフィードチェン6及び前記補助送風ファン35より上流側にFCクラッチ63を配置する。FCクラッチ63は、刈取前処理装置3が所定の非作業高さHaまで上昇する動作に連動して切り作動するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、刈り取られた穀稈を脱穀して、該脱穀物から精粒を選別・収集するコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンバインの走行機体には、フィードチェンにて挟持搬送される刈取穀稈を脱穀する扱胴と、当該扱胴の下方に配置された揺動選別機構及び唐箕ファンとを有する脱穀装置が搭載されている。また、脱穀物に対する風選別性能の向上を図るため、唐箕ファンより上流側に、唐箕ファンによる風選別を補助するための補助送風ファンを配置することも知られている(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
扱胴にて脱穀された脱穀物は、揺動選別機構による揺動選別と前述の両ファンによる風選別との相互作用によって、一番物(脱穀後の精粒)と二番物(枝梗付き穀粒や穂切れ粒等)と藁屑とにそれぞれ分離選別される。
【特許文献1】特開平7−274693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、補助送風ファンを備えた脱穀装置の構成では、例えば圃場の枕地(畦際)にて走行機体が方向転換するときのように、植立穀稈を刈り取らずにフィードチェンへの穀稈供給量が減る結果、揺動選別機構への脱穀物供給量が減少する時期において、藁屑以外の脱穀物を機外に放出する三番ロス(選別ロス)が増大するという問題があった。
【0005】
すなわち、揺動選別機構への脱穀物供給量が減少した場合であっても、揺動選別機構上の脱穀物が両方のファンからの選別風を受けるため、脱穀物の量に比較して送風量が多過ぎ、一番物や二番物を、脱穀装置の後部に設けられた排出口から機外に排出し易いという問題があった。また、フィードチェンへの穀稈供給量が減るため、脱穀装置(扱室)の穀稈供給口から選別風が吹き出し、粉塵立ちが発生するという問題もあった。
【0006】
そこで、本願発明は三番ロスや粉塵立ちという問題を解消したコンバインを提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明は、エンジンが搭載された走行機体に、脱穀された穀粒を揺動選別するための揺動選別機構と、当該揺動選別機構の下方に位置する風選別用の唐箕ファンとを備えており、前記唐箕ファンより上流側には、前記唐箕ファンによる風選別を補助するための補助送風ファンを有しているコンバインであって、前記補助送風ファンへの動力伝達を継断するクラッチ手段を備えており、前記走行機体の前部に昇降動可能に装着された刈取前処理装置が所定高さに上昇する動作に連動して、前記クラッチ手段が切り作動するように構成されているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載したコンバインにおいて、前記走行機体の操縦部に、前記刈取前処理装置を予め設定された設定刈高さより高い所定高さまで強制的に上昇操作する強制上昇操作手段を備えており、前記強制上昇操作手段を操作したとき、前記クラッチ手段が切り作動するように構成されているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載したコンバインにおいて、前記刈取前処理装置が予め設定された設定刈高さまで下降する動作に連動して、前記クラッチ手段が入り作動するように構成されているというものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載したコンバインにおいて、前記走行機体の操縦部に、前記刈取前処理装置を予め設定された設定刈高さまで強制的に下降操作する強制下降操作手段を備えており、前記強制下降操作手段を操作したとき、前記クラッチ手段が入り作動するように構成されているというものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載したコンバインにおいて、前記走行機体に搭載された脱穀装置に刈取穀稈を供給するフィードチェンと前記補助送風ファンとは、同じ系統の動力伝達系に属しており、前記動力伝達系における前記フィードチェン及び前記補助送風ファンより上流側に前記クラッチ手段が配置されているというものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は2の発明によると、補助送風ファンへの動力伝達を継断するクラッチ手段を、走行機体の前部に昇降動可能に装着された刈取前処理装置が所定高さに上昇する動作に連動して切り作動するように構成しているから、例えば圃場の枕地にて前記走行機体が方向転換するときに、前記刈取前処理装置を前記所定高さまで上昇させるだけで、前記補助送風ファンが停止することになる。
【0013】
このため、前記方向転換時のように、植立穀稈を刈り取らないために揺動選別機構への脱穀物供給量が減少する時期に、前記揺動選別機構上の脱穀物が前記補助送風ファンからの選別風を受けることがなくなる(前記揺動選別機構上の脱穀物への送風量が減る)。
【0014】
従って、かかる時期において、選別風に乗って持ち去られる一番物や二番物の量を確実に低減して、藁屑以外の脱穀物を機外に放出する三番ロスの発生を大幅に低減できるという効果を奏する。
【0015】
また、前記方向転換時に、前記補助送風ファンからの選別風がなくなるので、前記脱穀装置への穀稈供給量が減っても、前記脱穀装置の穀稈供給口から選別風が吹き出すことはなく、粉塵立ちの発生も防止できるという効果を奏する。
【0016】
しかも、前記方向転換時に、前記補助送風ファンからの選別風がなくなることにより、この時期に、前記脱穀装置内に戻される二番物のほとんどは、スムーズに前記揺動選別機構上に落下して、前記揺動選別機構の揺動及び前記唐箕ファンからの選別風にて確実に再選別されることになる。
【0017】
従って、再脱穀後の二番物に対する前記揺動選別機構及び前記唐箕ファンの選別精度を高い状態に維持でき、再脱穀後の精粒を藁屑と共に機外に排出してしまう選別ロスを少なくできるという効果をも奏するのである。
【0018】
請求項3又は4の発明によると、前記クラッチ手段を、前記刈取前処理装置が予め設定された設定刈高さまで下降する動作に連動して入り作動するように構成しているから、例えば圃場の枕地にて走行機体が方向転換して次の収穫位置まで移動した後は、前記刈取前処理装置を前記設定刈高さまで下降させるだけで、前記補助送風ファンの駆動が再開することになる。
【0019】
従って、次の収穫位置での作業にスムーズに移行でき、収穫作業を効率よく実行できるという効果を奏する。
【0020】
請求項5の発明によると、前記フィードチェンと前記補助送風ファンとが同じ系統の動力伝達系に属していて、前記動力伝達系における前記フィードチェン及び前記補助送風ファンより上流側に前記クラッチ手段を配置しているから、前記刈取前処理装置を前記所定高さまで上昇させれば、前記フィードチェンと前記補助送風ファンとが停止するし、前記刈取前処理装置を前記設定刈高さまで下降させれば、前記フィードチェン及び前記補助送風ファンの駆動が再開することになる。
【0021】
従って、前記刈取前処理装置の高さ位置に合わせて1つの前記クラッチ手段を的確に入り切り作動させることにより、前記フィードチェン及び前記補助送風ファンへの動力伝達を効率的に実行でき、無駄な動力の消費を防止できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面(図1〜図8)に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3は脱穀装置の側面断面図、図4は動力伝達系のスケルトン図、図5はFCクラッチの作動状態を示す説明図、図6はコントローラの機能ブロック図、図7は主変速レバーの概略斜視図、図8はオートクラッチ制御のフローチャートである。
【0023】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1〜図3を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
【0024】
実施形態における4条刈り用のコンバインは、左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取前処理装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
【0025】
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するためのグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から、例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0026】
刈取前処理装置3とグレンタンク7との間には操縦部9が設けられている。操縦部9内には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作する操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。
【0027】
操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行うための主変速レバー13及び副変速レバー14、刈取前処理装置3への動力継断操作用の刈取クラッチレバー15、並びに、脱穀装置6への動力継断操作用の脱穀クラッチレバー16が前後傾動可能に設けられている。
【0028】
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。
【0029】
刈取前処理装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取前処理装置3の骨組を構成する刈取フレーム3aの下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム3aの上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の前端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取前処理装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈り取る。
【0030】
図1及び図2に示すように、4条分の穀稈引起装置20のうち左右両端に位置したものの裏面側には、刈取前処理装置3の対地高さ(圃場面に対する刈取前処理装置3の高さ)を検出するための超音波センサ46が、発信器の発信部(ホーン部)と受信器の受信部とを圃場面に向けた状態で取り付けられている。刈取前処理装置3の対地高さは、超音波センサ46の検出値から求められる。超音波センサ46の発信器は、後述するコントローラ100からの指令にて発信駆動回路(図示せず)を介して適宜時間間隔で超音波を発信し、被検出物等に反射された反射波が受信器にて受信される。受信器の検出信号は、受信増幅回路(図示せず)を介して後述するコントローラ100に入力される。
【0031】
また、刈取フレーム3aの基端部には、刈取前処理装置3の対機体高さ(走行機体1に対する刈取部3の相対高さ)を検出するための昇降ポジションセンサ47(図1及び図6参照)が取り付けられている。刈取前処理装置3の対機体高さは、昇降ポジションセンサ47にて検出された刈取フレーム3aの昇降回動角度から求められる。昇降ポジションセンサ47の検出信号は、A/D変換器(図示せず)を介して、後述するコントローラ100に適宜入力される。
【0032】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取り出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。刈取前処理装置3から搬送された穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され扱胴23にて脱穀される。なお、扱胴23の回転軸67(図4参照)は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている。
【0033】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
【0034】
揺動選別機構24は、扱胴23の下方に張設されたクリンプ網29、クリンプ網29の下方に配置されたフィードパン30及びチャフシーブ31、チャフシーブ31の下方に配置された網状のグレンシーブ32、チャフシーブ31の下流側(後方側)に配置されたストローラック33とを備えている。
【0035】
風選別機構25は、フィードパン30の下方に配置された唐箕ファン34と、唐箕ファン34より上流側(前方側)に配置された補助送風ファン35とを備えている。唐箕ファン34は、チャフシーブ31を下から上向きに抜け、脱穀装置5の後部に配置された排塵ファン36に向かう選別風を吹き出すように構成されている。
【0036】
補助送風ファン35は、唐箕ファン34による風選別を補助するためのものである。補助送風ファン35からの補助選別風は、フィードパン30と唐箕ファン34を囲うファンケース37との間に形成された送風通路38を通り、チャフシーブ31やグレンシーブ32に向かうように設定されている。この補助選別風がチャフシーブ31からグレンシーブ32へ落下する脱穀物中の藁屑を後方へ吹き飛ばすことによって、風選別機構25全体としての選別性能を向上させている。
【0037】
扱胴23にて脱穀されクリンプ網29から漏れ落ちた脱穀物は、前後揺動するフィードパン30上に落下して揺動選別を受けながら、後方のチャフシーブ31に送られる。このとき、フィードパン30やチャフシーブ31上の脱穀物は唐箕ファン34及び補助送風ファン35から後ろ向きに流れる選別風を受ける。かかる揺動選別と風選別との相互作用によって、脱穀物は穀粒と藁屑とに分離される。
【0038】
精粒等の一番物は、チャフシーブ31からグレンシーブ32を通り抜けて、流穀板等に案内されながら一番受け樋27内に集められ、ここから一番受け樋27内の一番コンベヤ39及び揚穀筒40内の揚穀コンベヤ58(図4参照)を介してグレンタンク7に送られる。
【0039】
枝梗付き穀粒等の二番物は、グレンシーブ32を通り抜けできずに、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから二番受け樋28内の二番コンベヤ41及び還元筒42内の還元コンベヤ59(図4参照)を介して二番処理胴43に送られる。そして、二番物は、二番処理胴43にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれたのち、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
【0040】
フィードチェン6の後方(送り終端側)には排稈チェン44が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン44に受け継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ45にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0041】
(2).コンバインの動力伝達系
次に、図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
【0042】
エンジン17の動力は、エンジン17の左右両側に突出した出力軸51の一方から、ミッションケース18及び刈取前処理装置3と、脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17の他の動力は、出力軸51の他方から排出オーガ8に伝達される。
【0043】
ミッションケース18内には、油圧ポンプ油圧モータ式(HST式)の直進用油圧無段変速機(図示せず)と、同じくHST式の旋回用油圧無段変速機(図示せず)とを備えている。出力軸51からミッションケース18に向かう分岐動力は、直進用油圧無段変速機の直進用入力軸52に伝達され、この直進用入力軸52から旋回用油圧無段変速機の旋回用入力軸53に動力伝達される。
【0044】
そして、操縦部9に配置された操向ハンドル10の操作量に応じて、各油圧ポンプにおける回転斜板の傾斜角度を調節することにより、油圧ポンプ油圧モータ間の圧油の吐出方向及び吐出量が変更され、直進用又は旋回用出力軸(図示せず)の回転方向及び回転数、ひいては左右の走行クローラ2の駆動速度及び駆動方向が任意に調節される。
【0045】
また、直進用出力軸52に伝達された動力は、ミッションケース18から突出した刈取PTO軸54にも伝達され、次いで、一方向クラッチ55及び刈取クラッチ56を介して、刈取前処理装置3に動力伝達される。
【0046】
エンジン17の出力軸51の一方から脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ57を介して唐箕ファン34の唐箕軸58に伝達される。唐箕軸58に伝達された動力の一部は、ベルト79及びプーリ伝動により、一番コンベヤ39及び揚穀コンベヤ59、二番コンベヤ41及び還元コンベヤ60、揺動選別機構24の揺動軸61、排塵ファン36の排塵軸62、並びに排稈カッタ45に伝達される。
【0047】
また、唐箕軸58からは、クラッチ手段としてのFCクラッチ63及びフィードチェン軸64を経て、フィードチェン6の前端及び補助送風ファン35のファン軸65にも動力伝達される。すなわち、フィードチェン6と補助送風ファン35とは同じ系統(一連)の動力伝達系に属している。そして、この動力伝達系におけるフィードチェン6及び補助送風ファン35より上流側に、クラッチ手段としてのFCクラッチ63が位置している。
【0048】
更に、唐箕軸58からの動力は扱胴入力軸66にも伝達される。扱胴入力軸66に伝達された動力は、扱胴23と送塵口処理胴26との2方向に分岐して伝達される。扱胴入力軸66から扱胴23への分岐動力は、扱胴23の回転軸67及び排稈チェン44に伝達される。扱胴入力軸66から送塵口処理胴26への分岐動力は、処理胴入力軸68を経由して送塵口処理胴26の回転軸69に伝達される。処理動入力軸68からは二番処理胴43の回転軸70にも分岐動力が伝達される。
【0049】
エンジン17の出力軸51から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構71及び動力継断用のオーガクラッチ72を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ73及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ74に動力伝達され、次いで、受継スクリュー75を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ76に動力伝達される。
【0050】
(3).FCクラッチの構成
次に、図4及び図5を参照しながら、FCクラッチ63の構成について説明する。
【0051】
実施形態のFCクラッチ63は、唐箕軸58における二連プーリ77の一方とフィードチェン軸64のプーリ78とに巻き掛けられた動力伝達用のベルト79を緊張・弛緩させることによって、唐箕軸58からの動力を継断するベルトテンション式のものである。
【0052】
FCクラッチ63は、唐箕軸58に回動可能に取り付けられた略棒状のテンションアーム81と、テンションアーム81の一端に回転可能に取り付けられ且つベルト79の外周に当接可能なテンションプーリ82とを備えている。
【0053】
他方、走行機体1を構成する機体フレーム1aのうち脱穀装置5の前方箇所にボルト締結された取り付け架台83には、継断用アクチュエータとしてのFCクラッチモータ84が配置されている。FCクラッチモータ84は、取り付け架台83に固定されたリレーユニット等のモータ駆動回路部93を介して、後述するコントローラ100に電気的に接続されている。
【0054】
FCクラッチモータ84から突出したモータ出力軸85は正逆回転可能に構成されている。このモータ出力軸85に固着された制御アーム86に、クラッチワイヤ87の基端が連結ピン88にて枢着されている。クラッチワイヤ87の先端は、クラッチばね89を介して、テンションアーム81のうち唐箕軸58を挟んでテンションプーリ82と反対側の端部に連結されている。
【0055】
連結ピン88と取り付け架台83に固着されたL字アーム90との間には、連結ピン88をL字アーム90側に引張り付勢する引張りばね91が装架されている。なお、詳細は図示していないが、テンションアーム81は、唐箕軸58に被嵌されたばね部材にて、テンションプーリ82がベルト79から離れる回動方向(図5の矢印D方向参照)に付勢されている。
【0056】
FCクラッチモータ84のモータ出力軸85には、例えばロータリエンコーダやロータリポテンショメータ等の回動角センサ92(図6参照)が取り付けられている。回動角センサ92は、モータ出力軸85の回動角度、ひいてはFCクラッチ63の入り切り状態を検出するためのものである。回動角センサ92も、FCクラッチモータ84と同様に、後述するコントローラ100に電気的に接続されており、その検出情報はコントローラ100に適宜入力される。
【0057】
図5の一点鎖線状態のように、FCクラッチモータ84の駆動にてモータ出力軸85及び制御アーム86が矢印A方向に回動すると、クラッチワイヤ87及びクラッチばね89が引張られて、テンションアーム81を唐箕軸58回りの矢印C方向に回動させ、テンションプーリ82がベルト79を押圧する。その結果、ベルト79が緊張して動力接続状態となり、唐箕軸58からの動力がフィードチェン軸64に伝達される。
【0058】
図5の実線状態のように、FCクラッチモータ84の駆動にてモータ出力軸85及び制御アーム86が矢印B方向に回動すると、クラッチワイヤ87及びクラッチばね89が緩められ、図示しないばね部材の弾性付勢力にて、テンションアーム81が唐箕軸58回りの矢印D方向に回動し、テンションプーリ82がベルト79から離れる方向に移動する。その結果、ベルト79が弛緩して、唐箕軸58からフィードチェン軸64への動力伝達が遮断される。
【0059】
(4).コントローラの構成
次に、図6を参照しながら、オートクラッチ制御を実行する制御手段としてのコントローラ100の構成について説明する。
【0060】
詳細は図示していないが、コントローラ100は、各種演算処理を実行する中央処理装置(CPU)のほか、制御プログラムを記憶させた読み出し専用メモリ(ROM)、各種プログラムやデータ等を一次的に記憶させる随時読み書き可能メモリ(RAM)、タイマ機能としてのクロック、インターフェイス及びバス等を備えている。
【0061】
コントローラ100の入力側には、サイドコラム12上に配置された刈高さ設定器101、刈取クラッチレバー56の入り切り状態を検出する刈取クラッチスイッチ102、脱穀クラッチレバー57の入り切り状態を検出する脱穀クラッチスイッチ103、主変速レバー13の握り部の側面に設けられた強制上昇操作手段としてのオートリフトスイッチ104及び強制下降操作手段としてのオートセットスイッチ105(図6及び図7参照)、同じく握り部の前面側に設けられた刈取昇降レバー106(図6及び図7参照)、超音波センサ46、昇降ポジションセンサ47、並びに、回動角センサ92等が各々接続されている。
【0062】
他方、コントローラ100の出力側には、刈取クラッチ56を入り切り作動させる刈取クラッチモータ107のモータ駆動回路部108、脱穀クラッチ57を入り切り作動させる脱穀クラッチモータ109のモータ駆動回路部110、FCクラッチモータ84のモータ駆動回路部93、油圧シリンダ4の作動を制御する電磁制御弁111の制御弁駆動回路部112等が各々接続されている。
【0063】
サイドコラム12上の刈高さ設定器101は、刈取前処理装置3の刈高さを予め設定するための可変抵抗器等からなるものである。オートリフトスイッチ104は、刈高さ設定器101にて予め設定された設定刈高さよりも高い所定の非作業高さまで刈取前処理装置3を強制的に上昇操作するためのものである。オートセットスイッチ105は、刈取前処理装置3を設定刈高さまで強制的に下降操作するためのものである。両スイッチ104,105は、各スイッチの一回の押下により一つのONパルス信号が出るいわゆるプッシュスイッチであり、ノンロック式のものである。
【0064】
刈取昇降レバー106は、刈取前処理装置3を手動にて昇降操作するためのものである。刈取昇降レバー106は、前後傾動操作可能な構成であって、手を離すと中立位置に自動復帰するように付勢されている。この場合、刈取昇降レバー106を前方向(主変速レバー13の握り部から遠ざかる方向)に傾倒操作している間は、刈取前処理装置3が下降し続け、後方向(主変速レバー13の握り部に近付く方向)に傾倒操作している間は、刈取前処理装置3が上昇し続ける。
【0065】
(5).オートクラッチ制御
次に、図8のフローチャートを参照しながら、コントローラ100によるオートクラッチ制御の一例について説明する。ここで、刈取クラッチレバー15及び脱穀クラッチレバー16は入り状態であり、また、刈取前処理装置3の設定刈高さHo及び設定刈高さHoより高い所定の非作業高さHaに関するデータは、予めRAMやROM等に記憶させているものとする。
【0066】
まず、図8に示すオートクラッチ制御のスタートに続き、オートリフトスイッチ104を入り操作したか否かを判別する(ステップS1)。オートリフトスイッチ104を入り操作したときは(S1:YES)、制御電磁弁111の駆動にて油圧シリンダ4を伸長駆動させることにより、刈取前処理装置3を非作業高さHaまで上昇動させる(ステップS2)。
【0067】
次いで、刈取前処理装置3の上昇動に連動して、刈取クラッチモータ107の駆動にて刈取クラッチ56を切り作動させ、刈取前処理装置3を停止させると共に、FCクラッチモータ84の駆動にてFCクラッチ63を切り作動させ、FCクラッチ63及び補助送風ファン35を停止させる(ステップS3)。そして、後述するステップS7へ行く。
【0068】
ステップS1において、オートリフトスイッチ104が切り状態であるときは(S1:NO)、次いで、刈取昇降レバー106を上昇操作しているか否かを判別する(ステップS4)。刈取昇降レバー106を上昇操作していなければ(S4:NO)、後述するステップS7へ行く。刈取昇降レバー106を上昇操作しているときは(S4:YES)、その操作の間、制御電磁弁111の駆動にて油圧シリンダ4を伸長駆動させることにより、刈取前処理装置3を上昇動させる(ステップS5)。
【0069】
次いで、昇降ポジションセンサ47の検出値から求めた刈取前処理装置3が非作業高さHaに到達したか否かを判別する(ステップS6)。刈取前処理装置3が非作業高さHaに到達していなければ(S6:NO)、後述するステップS7へ行く。刈取前処理装置3が非作業高さHaに到達しているときは(S6:YES)、ステップS3へ行き、刈取クラッチモータ107の駆動にて刈取クラッチ56を切り作動させ、刈取前処理装置3を停止させると共に、FCクラッチモータ84の駆動にてFCクラッチ63を切り作動させ、フィードチェン6及び補助送風ファン35を停止させる。
【0070】
すなわち、実施形態では、オートリフトスイッチ104及び刈取昇降レバー106のいずれの操作によっても、刈取前処理装置3が非作業高さHaまで上昇すれば、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35の駆動が停止するのである。そして、このように刈取前処理装置3を非作業高さHaまで上昇させた状態で、圃場の枕地(畦際)での走行機体1の方向転換は実行され、走行機体1が次の収穫位置まで移動することになる。
【0071】
ステップS7では、オートセットスイッチ105を入り操作したか否かを判別する。オートセットスイッチ105を入り操作したときは(S7:YES)、制御電磁弁111の駆動にて油圧シリンダ4を短縮駆動させることにより、刈取前処理装置3を設定刈高さHoまで下降動させる(ステップS8)。
【0072】
次いで、刈取前処理装置3の下降動に連動して、刈取クラッチモータ107の駆動にて刈取クラッチ56を入り作動させ、刈取前処理装置3の駆動を再開すると共に、FCクラッチモータ84の駆動にてFCクラッチ63を入り作動させ、FCクラッチ63及び補助送風ファン35の駆動を再開する(ステップS9)。
【0073】
ステップS7において、オートセットスイッチ105が切り状態であるときは(S7:NO)、次いで、刈取昇降レバー106を下降操作しているか否かを判別する(ステップS10)。刈取昇降レバー106を下降操作していなければ(S10:NO)、そのままリターンする。刈取昇降レバー106を下降操作しているときは(S10:YES)、その操作の間、制御電磁弁111の駆動にて油圧シリンダ4を短縮駆動させることにより、刈取前処理装置3を下降動させる(ステップS11)。
【0074】
次いで、昇降ポジションセンサ47の検出値から求めた刈取前処理装置3が設定刈高さHoに到達したか否かを判別する(ステップS12)。刈取前処理装置3が設定刈高さHoに到達していなければ(S12:NO)、そのままリターンする。刈取前処理装置3が設定刈高さHoに到達しているときは(S12:YES)、ステップS9へ行き、刈取クラッチモータ107の駆動にて刈取クラッチ56を入り作動させ、刈取前処理装置3の駆動を再開すると共に、FCクラッチモータ84の駆動にてFCクラッチ63を入り作動させ、FCクラッチ63及び補助送風ファン35の駆動を再開するのである。
【0075】
すなわち、オートセットスイッチ105及び刈取昇降レバー106のいずれの操作によっても、刈取前処理装置3が設定刈高さHoまで下降すれば、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35の駆動が再開するのである。そして、この状態で、走行機体1が次の収穫位置での作業を実行することになる。
【0076】
以上の制御によると、例えば圃場の枕地にて走行機体1が方向転換するときに、刈取前処理装置3を非作業高さHaまで上昇させるだけで、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35が停止するので、前記方向転換時のように、植立穀稈を刈り取らずにフィードチェン6への穀稈供給量が減る結果、揺動選別機構24への脱穀物供給量が減少する時期において、揺動選別機構24上の脱穀物が補助送風ファン35からの選別風を受けることがなくなる。換言すると、前記方向転換時に、揺動選別機構24上の脱穀物への送風量が減ることになる。
【0077】
従って、かかる時期において、選別風に乗って持ち去られる一番物や二番物の量を確実に低減できる。すなわち、藁屑以外の脱穀物を機外に放出する三番ロスの発生を大幅に低減できる。
【0078】
また、前記方向転換時に、補助送風ファン35からの選別風がなくなるので、フィードチェン6への穀稈供給量が減っても、脱穀装置5の穀稈供給口5a(図3参照)から選別風が吹き出すことはなく、粉塵立ちの発生も防止できる。
【0079】
しかも、前記方向転換時に、補助送風ファン35からの選別風がなくなることにより、この時期に、二番処理胴43を経由して脱穀装置5内に戻された二番物のほとんどは、スムーズに揺動選別機構24上に落下して、揺動選別機構24の揺動及び唐箕ファン34からの選別風にて確実に再選別されることになる。
【0080】
従って、再脱穀後の二番物に対する揺動選別機構24及び唐箕ファン34の選別精度を高い状態に維持でき、再脱穀後の精粒を藁屑と共に機外に排出してしまう選別ロスも少なくできるのである。
【0081】
更に、走行機体1が次の収穫位置まで移動した後は、刈取前処理装置3を設定刈高さHoまで下降させるだけで、補助送風ファン35の駆動が再開するので、次の収穫位置での作業にスムーズに移行でき、収穫作業を効率よく実行できるという利点もある。
【0082】
その上、刈取前処理装置3を非作業高さHaまで上昇させれば、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35が停止し、刈取前処理装置3を設定刈高さHoまで下降させれば、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35の駆動が再開するので、刈取前処理装置3の高さ位置に応じて、的確に刈取クラッチ56及びFCクラッチ63を入り切り作動させて、刈取前処理装置3、フィードチェン6及び補助送風ファン35への動力伝達を効率的に実行でき、無駄な動力の消費を防止できる。
【0083】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明のクラッチ手段は、ベルトテンション式のものに限らず、ディスク式のものや電磁クラッチなど、他の形態のものでも構わない。フィードチェン6と補助送風ファン35との位置関係については、補助送風ファン35の方がフィードチェン6より上流側にあってもよいし、それぞれ別系統の動力伝達系に属していてもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】コンバインの左側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】脱穀装置の側面断面図である。
【図4】動力伝達系のスケルトン図である。
【図5】FCクラッチの作動状態を示す説明図である。
【図6】コントローラの機能ブロック図である。
【図7】主変速レバーの概略斜視図である。
【図8】オートクラッチ制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0085】
1 走行機体
2 走行クローラ
3 刈取前処理装置
4 油圧シリンダ
5 脱穀装置
6 フィードチェン
9 操縦部
12 サイドコラム
13 主変速レバー
17 エンジン
18 ミッションケース
23 扱胴
24 揺動選別機構
25 風選別機構
34 唐箕ファン
35 補助送風ファン
37 ファンケース
38 送風通路
46 超音波センサ
47 昇降ポジションセンサ
56 刈取クラッチ
57 脱穀クラッチ
58 唐箕軸
63 クラッチ手段としてのFCクラッチ
64 フィードチェン軸
65 ファン軸
77 二連プーリ
78 プーリ
79 ベルト
81 テンションアーム
82 テンションクラッチ
84 FCクラッチモータ
93 モータ駆動回路部
100 コントローラ
101 刈高さ設定器
102 刈取クラッチスイッチ
103 脱穀クラッチスイッチ
104 強制上昇操作手段としてのオートリフトスイッチ
105 強制下降操作手段としてのオートセットスイッチ
106 刈取昇降レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが搭載された走行機体に、脱穀された穀粒を揺動選別するための揺動選別機構と、当該揺動選別機構の下方に位置する風選別用の唐箕ファンとを備えており、前記唐箕ファンより上流側には、前記唐箕ファンによる風選別を補助するための補助送風ファンを有しているコンバインであって、
前記補助送風ファンへの動力伝達を継断するクラッチ手段を備えており、前記走行機体の前部に昇降動可能に装着された刈取前処理装置が所定高さに上昇する動作に連動して、前記クラッチ手段が切り作動するように構成されている、
コンバイン。
【請求項2】
前記走行機体の操縦部に、前記刈取前処理装置を予め設定された設定刈高さより高い所定高さまで強制的に上昇操作する強制上昇操作手段を備えており、前記強制上昇操作手段を操作したとき、前記クラッチ手段が切り作動するように構成されている、
請求項1に記載したコンバイン。
【請求項3】
前記刈取前処理装置が予め設定された設定刈高さまで下降する動作に連動して、前記クラッチ手段が入り作動するように構成されている、
請求項1又は2に記載したコンバイン。
【請求項4】
前記走行機体の操縦部に、前記刈取前処理装置を予め設定された設定刈高さまで強制的に下降操作する強制下降操作手段を備えており、前記強制下降操作手段を操作したとき、前記クラッチ手段が入り作動するように構成されている、
請求項3に記載したコンバイン。
【請求項5】
前記走行機体に搭載された脱穀装置に刈取穀稈を供給するフィードチェンと前記補助送風ファンとは、同じ系統の動力伝達系に属しており、前記動力伝達系における前記フィードチェン及び前記補助送風ファンより上流側に前記クラッチ手段が配置されている、
請求項1〜4のうちいずれかに記載したコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−182999(P2008−182999A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21784(P2007−21784)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】